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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第51話


「尊敬と壁」  朝というより夜の方が近いかもしれない早朝。まだ日も昇っていない時間に、士郎は小太郎をたたき起こした。
「んにゃ……なんやぁ?」
「ほら、しゃんとしろ、小太郎。勝負するんだろ?」
「ああ、そやな……勝負や勝負……むにゃ」
 小太郎はうっすら目を開けてこそいるものの、全然覚醒してくれない。いや、別に士郎としてはこのまま寝ててもらっても問題ないのだが、それでは起きた時にうるさいだろう。
 仕方なしに、無理やり布団を剥ぎ取った。必然、小太郎は地球の重力に引かれてベッドから転げ落ちる。
「あたた……何するんや!」
「お前が起きないからだ。全く、昨夜しつこく言っていたのは小太郎だっただろうに」
「ん? ああ、そうやった。スマン」
 まだ寝ぼけ眼だったが、一応ちゃんと目は覚めたようだ。獣っぽい感じで伸びをした小太郎は士郎に向き直る。
「けど、どうしてこんなに早くするねん。お昼とかでええやん」
「あのな、昼は店を開けるし、何よりそれでは本気で戦えないだろう? それとも小太郎は結界が得意だったりするのか?」
「いや、どっちかって言うと苦手やな」
「だろう? それに、朝なら一石二鳥だしな」
「なんや、一石二鳥て」
「それは、降りてくれば分かる。早く着替えて来い」
 そう言って、士郎は先に店の方に降りて行った。





「おはようございます、士郎さん」
「今日もよろしくお願いしますね」
「ああ、こんな早くに済まないな、二人とも」
 高音と愛衣の二人だった。トレーニングウェア姿である。
 かねてより一緒に修行をしようと誘われていた士郎は、これ幸いとばかりにこの早朝の勝負に二人を誘った。
 士郎と小太郎の戦いを見るのは二人にとってもいい刺激になるかと考えたのもあるし、最近は士郎もなかなか忙しいのでこんな時間でないと付き合えないという問題もあった。
 ちなみに、前回こうして朝早くから修行を始めた時は流石にもう少し遅かったのだが、今回は小太郎との勝負に修行の相手とスケジュールが詰まっているので一時間ほど早い。
 だが、今日は日曜だから学校も休みだ。二人はこの後ゆっくり眠る事もできるので、あまりに早い時間の修行でも文句はなかった。
 むしろ、修行の後普通に店を開けるつもりの士郎に驚いているぐらいである。
「それで、その犬上君はまだなんですか?」
「ああ、先程叩き起したばかりだからな。まぁ、昨日までに色々あったから疲れもあったんだろう」
「下宿……でしたか?」
「それが一番近い表現だろうな。一応監視も兼ねているが、必要ないだろう」
 高音や愛衣は、西だの東だのという話には疎い。本人たちがそういった確執を深く知らないと言うのもあるし、やはり大戦の時代を知らないからだろう。
 特段西の人間である小太郎を士郎が引き受ける事について感想もないようだ。この件で士郎の立場がどのように変化するのか、それを聞けば言いたい事もできるかもしれないが、生憎と彼女たちは知らない。
 だいたい小太郎の存在だって、知っているのは魔法先生ぐらいだろう。それも書類が回された程度で、顔合わせも設置されない程度のものだ。
 だから、彼女たちにとって小太郎とは士郎が預かる事になった少年でしかなく、それ以上でも以下でもない。
 その実力については、些か見当違いな予想を抱いているかもしれなかったが。
「着替えてきたでー。って、なんや姉ちゃんたち」
「高音・D・グッドマンです。よろしく」
「佐倉愛衣です。よろしくお願いします」
「ああ、俺は犬上小太郎。よろしゅう」
 きょとんとした小太郎に、二人は自己紹介をした。高音は比較的高圧的だったが、愛衣が柔らかい笑顔だったせいか、小太郎も素直に返す。
「小太郎、彼女たちは観戦だ。私が時々修行を見てやっているから、ついでにな。お前との勝負が終わったら、彼女たちの相手をする予定だ」
「――へぇ。つまり、俺と戦ってもそれぐらい余裕やって事か?」
「そうだな。違うというのなら力で証明してみせろ。その時は素直に謝ろう」
「それ、忘れるんやないで」









 さて、士郎たちが主に修行用に使っているのはいつも楓が鍛錬に使っていた山なのだが、前回のように朝早くから始める時は帰りを考慮して更に近い山を利用する事にしていた。
 なら何故いつもはそこを利用しないのかと言うと、食材を現地調達出来ない為楓が嫌がるのが理由だった。
 けれど、今回は楓に知らせていない。小太郎と楓の因縁を知っていれば、あるいは顔合わせの意味もこめて呼んだかもしれないが。
 ともあれ、人気がなく多少クレーターができても大丈夫な場所さえあれば良かった。
 山には様々な環境が在る。川原、木々、斜面、岩地、あらゆる要素を上手く活用する、環境を自分の利とする戦い方の為こういった自然を選んでいるわけだ。
 だが、いざ勝負という状況でこのセレクトはまずかったかもしれない。
 士郎は今までの経験上、山だろうが平地だろうが船の上だろうが、どのような場所であっても自分の最善を引き出す戦闘理論を既に確立している。
 対して小太郎はまだ幼い。いくら経験を積んだところで、士郎に敵うはずがないのだ。
 勿論、そういった経験もまた実力の内ではあるが、フェアを追求するなら平地で行うのが好ましい。
 だからこそ、士郎は小太郎に問いかけた。
「ここでいいのか?」
「どこでも構へん。さっさと始めようや」
 小太郎は構えた。場所は小石が詰まった川原だ。足場が悪い為、更に小太郎には不利だろう。
 高音と愛衣の二人は、邪魔にならない程度に離れた高台で見学している。
 士郎と小太郎の距離は十歩といったところか。
「ならば合図はいらない。いつでもかかって来い」
 士郎は構えらしき構えをとらなかった。武器の投影もない。ただ自然体で立ち尽くすのみだ。
 それを余裕と取った小太郎は、一瞬で気を練り突撃する。
「行くで!」
 瞬動。砂利の敷き詰められた川原では、瞬動は難しい。足場が不安定な場合、むしろ虚空瞬動の方が楽な場合があるほどだ。
 だと言うのに、小太郎の瞬動は完璧だった。まだ縮地と呼ぶに足るレベルでこそないものの、“入り”は十分に静かで察知が難しい。
 なのに。
「なっ」
 士郎は、半歩体をずらしただけでその突撃に対応した。御丁寧に着地点に足払いまで仕掛けて。
 つまり、小太郎の瞬動は完全に見切られていたのだ。その初動から軌道、着地点と着地のタイミングに至るまで余す所なく。
 小太郎にも、小手調べという感覚があった。まずは様子見、と。京都での戦いは一瞬で、小太郎自身も詳細に覚えているわけではなかったから、士郎の戦闘スタイルを把握しようとしたのだろう。
 だが甘い。そんな事では、戦場では死に至る。
 前のめりになって転ぶ小太郎に、士郎は抑揚のない声で現実を突きつけた。
「これで一回。俺がその気だったら、お前は死んでいるぞ」
 土の味がした。またも一瞬で決まってしまった敗北に、小太郎は愕然とする。
「どうした、もう終わりか? 俺の余裕を削ぐんだろう?」
「上等や! こっからが本番やからな!」
 気合を入れ直し、今度こそ士郎に自分の力を認めさせるために、小太郎は突撃した。









 高台、と言ってもかなり大きめの段差という程度。だから高音と愛衣は、眼前の戦場からそう離れているわけではない。
 だから、その戦闘の様子はよく見て取れた。
「……なかなかやりますね、あの子」
 高音が呟いた。
 実際、士郎と小太郎の戦いは、最初こそケチがついたものの、基本小太郎優勢で進んでいる。
 それは士郎が武器を使わず、無手で相手しているのが最大の要因だが、だからと言って高音たちも同様に士郎と戦えるか、というと自信はなかった。
 小太郎は強い。だが、士郎はあえてその力を封じる方向で戦っている。
 傍から見れば、いや、士郎の組み手……戦った事のある人間からしてみれば、今の小太郎は十分に善戦しているのだ。
 あるいは、無手での戦いならば士郎よりも実力はあるかもしれない。飛び道具、気弾なども含めれば十分に士郎を倒せるだけの素質が小太郎にはある。
 なのに、戦闘を優位に進めているというのに、決定打に届かないのは。
 小太郎は遊ばれていると思っているのかもしれないが、それは単純に士郎に有効打がないからだ。
 小太郎の気による防御は、堅い。まだ大したレベルではないが、それ以上に士郎は無手で大した攻撃力を持たないから、痛いと思わせる程度には殴れても意識を絶つような重い一撃は不可能。
 故に、本来ならば戦うことさえ難しいはずなのだ。表面的なスペックで言えば、士郎は小太郎にさえ劣っている。
 いや、気を用いない純粋な肉体の性能で言えば、士郎に敵う者はそういない。いるとしても、それは魔法の力により劣化しない筋肉を得ているからこその、いわばズルみたいなものだ。
 しかし現実において、士郎の敵と成り得る存在は気や魔力により自身を強化している。
 今のところ干將・莫邪で十分その守りは突破できているが……結局、士郎は武器がなければこの世界で有効な攻撃手段を持たないのだ。
 だからこそ、今のような拮抗状態が生まれるというものだが。
「でも、士郎さん本気を出していないんでしょうか?」
「どういう意味です、メイ」
「いや、だって……確かにあの子は強いですけど、士郎さんってもっと無茶苦茶強いじゃないですか」
「メイ……もうちょっと言いたい事を整理してから口になさい」
 とは言え、高音にも言いたい事は分かった。
 実際に対峙するのと、傍から見ているのとでは難易度の感じ方が違うという事だろう。
 それは、今俯瞰した視点を持っているから楽に感じるのだ。士郎と対峙している時は余裕がなく気付けなかった事が、観戦する立場になった事で様々な可能性を考える余裕ができている。
 例えば、今小太郎は狗神を用いて攻撃したが、高音なら影で包囲網を敷く、というように。
 その思考は、実際に戦っている時にはなかなか難しい。特に、士郎を相手にしている時は。
 士郎はわざと隙を見せる。そちらに進めば楽だ、という道をあえて提示する。
 それは奈落の底に繋がっているのだが、まだ高音も愛衣も戦闘中にそれに気付ける程のレベルには達していないのだ。
 基本的には、あえて理想的な攻撃手段を誘導するように隙を作るのだが、それだって最後の最後では防いでしまうわけで。
 踊らされているという自覚もないまま、気付けばどうしようもないところまで追い詰められている。
 それで尚、未だ戦い続ける事ができている小太郎は、つまり相当な実力者だと言う事だ。
 その力に経験と戦闘理論が加われば、もう士郎を圧倒できるかもしれない。あくまで宝具がなかったら、だが。
「そうね。でも逆に、あの子が強いのかもしれないわ」
「お姉さまよりも、ですか?」
「……まぁ、私にはちょっと及ばないけれど」
 実際は、互角がいいところだろうが。妹の手前、高音は自覚しながらも見栄を張る。
「さすがお姉さまです! 私じゃあの子には勝てそうにないですもん」
 キラキラした瞳で尊敬の眼差しを向ける愛衣に、高音はそうでしょうと言いながらも視線を合わせられない。
 まぁ実際、高音ならともかく、愛衣では小太郎の相手にならないだろう。
 スペックが違う。スピード、パワー、そして経験。何もかも、戦闘で重要になってくる要素の大半において、小太郎は大きく差をつけて勝っているのだ。
 だからと言って愛衣が弱いというわけではない。一般的な魔法使いとしては、十分に上位に位置できる実力がある。
 例えその素質が戦闘に向いているものではなかったとしても、彼女が秀才であるのは事実。
 努力した分だけ伸びるタイプだった。尤も、士郎に言わせれば“向いてない”のだが。
「でもメイ、士郎さんはおそらく、私たちを相手にしている時よりも本気ですよ」
「え? でもいつもの武器使ってないですよ」
「それは……おそらく、長瀬さんの分でしょうね」
 長瀬楓。正真正銘忍者であり、単純な戦闘能力で言うのなら、自分よりも上だと高音も認める人間だった。
 そして、士郎との修行の時には確実に顔を見せてもいる。
 いつもは、士郎一人対高音たち+楓で組み手という名の実戦をしている為、小太郎との勝負よりも力を出すのは当然の事だ。
 だが、別に士郎が小太郎との勝負に本気で挑んでいないわけではない。ただ己の力に制限をかけているだけだ。
 剣を使わせてみろ、と。
「あっ……!」
 その漏れた息は、果たして高音のものだったか、愛衣のものだったか。
 彼女らが驚くその直前、二人の勝負は動いた。











 埒が明かぬ。このままでは体力気力共に底を尽き、戦えなくなるのは明白だった。
 小太郎はその分焦るが、士郎はどこ吹く風と全く疲れた様子を見せない。息さえ切らさず、まるでのんびりと散歩でもしているような自然体。
 それは勿論、無駄な動きが多い小太郎と違い、基本的に待ち受け迎撃する必要最低限の動きだけで士郎が戦っているからだ。
 小太郎は猪突猛進と言える。多少は考えて様々な技を試しているようだが、それは連携でこそあれ戦術ではない。馬鹿正直に戦っているだけだ。
 それが悪い事だとは言わないが、しかし士郎を相手にするのならば相性が悪すぎるのは事実。
 故に、小太郎が十数分の全力戦闘で疲弊しきったとしても、士郎はこの後高音と愛衣の二人と戦える程度に余力がある。
 つまり現状において、もはやスペックにおいての優位は小太郎に存在しない。いや正確には、二人の身体能力には気による強化を含めてもそこまでの違いはないのだが、防御力という点においては大きな差が未だ存在していた。
 気による強化を解かない限り、防御力に大した違いはない。疲弊する事で多少は落ちていたが、それでも士郎の蹴りで障壁を抜けるわけではない。
 だが、このまま疲弊しきってしまえば、その守りも消え失せる。そうすれば、その時点で敗北するなんて事は考えるまでもない事だった。
 だから、小太郎は決着を急がなければならない。まだ戦える内に、全力中の全力で。
「おおおおぉっ!」
 髪は腰あたりまで伸び、白く染まる。牙が目に見える程の大きさに生えてきて、更に爪は刃のように鋭くなった。
 学生服は肉体の膨張に耐えきれず弾け飛び、かろうじて糸のように繋がっているだけ。
 獣化だ。獣人……その血が流れている者たちは、やはり獣の特性を備える。
 だが、それらは人間の社会で生きていく分には不要なものであり、むしろ疎ましいものでさえある。人とは違う器官、容姿、それらは人からの迫害を助長させた。
 特に小太郎の場合はハーフだ。人にも獣にも受け入れてもらえぬ、生まれながらの性質。
 ある種、忌み嫌われた力でもある。事実、そういう見方で差別する魔法使いだっていないことはない。
 だが、基本的に獣というのは人間が捨て去った身体機能を有する。人が知恵の代償として捨てていったものだ。
 獣人は獣と人間、その両方の特性を持つが故に強い。確かに平均的に頭は悪いという印象を持たれやすい彼らではあるが、その分突出した能力を発揮できる。
 つまり、獣化とはより獣の特性を強く引き出した状態であり、単純な能力の倍加である。
 しかし、普段はそれを抑えているわけで、いきなりそういった強い力を使えば当然肉体にも負荷がかかる。
 が、小太郎はそんな事気にも留めなかった。
 仮に後で寝込む事になろうとも、今ここで戦えなくなってしまうよりはずっといい。
 既に一度、いや今日で二度。仕切り直した勝負までも一瞬で決着が付いている。今のコレは修行のようなものであり、小太郎の我が儘だ。
 だからこそ、小太郎は全力を出したいと思う。せめて士郎のあの余裕ぶった皮肉な微笑を崩したい。
 その為に寝込むのならば、むしろ本望だと。
「行くでぇっ」
「む」
 今まで一番の高まりを見せる気に、流石の士郎も身構えた。
 どんなに強い力でも、受け流してやれば意味はない。合気柔術に代表される技術でならば、放出されない力は意味を持たないのだ。
 格闘技、戦闘における技術には無節操に手を出している士郎には、100年もの研鑽を積んだエヴァンジェリンほどではないにせよ、小太郎の直線的な動きぐらいならば受け流し、逆に痛打を打ち込む事ができる。
 しかし、それにも限りはあった。この世界の肉体強化というものは、咸卦法は特殊例としても、基本的に体外に力を纏うタイプのものだ。
 これは攻守ともに優れている以上に、士郎にとっては厄介なものだ。実体のないエネルギーであろうとも、触れればダメージを受けかねない。
 物理的手段、技術では受け流す事はできないのに、確かに作用してしまう。
 要するに、合気では受け流せないという事だ。勿論、本体は同様投げ飛ばす事もできるし、基本的に気単体でダメージを受けるほど士郎の肉体は軟弱ではない。
 ただ、内界防御を基本とする魔術師にとって、この違いは戦闘に大きなハンディキャップをつける。
 しかも、獣化によって肉体のスペックにおいても士郎に近づいた小太郎ならばどうだろうか?
「グォォゥッ!」
 唸り声と共に、小太郎は数多の狗神を呼び出す。包囲戦だ。これまでと同じ手段ではあるものの、もはや士郎に余裕はない。
 人間が一度に対応できるのは基本的に一面だけだ。全方位に対応する為には、敵の動きを視覚以外で把握した上で、4倍以上の速さが必要となる。
 狗神のスペックは変わっていなかったが、しかし本体の小太郎が厄介だった。
 今までで一番苛烈な攻め、ダメージを厭わない特攻じみた攻撃に、流石の士郎も限界を迎える。
 そして。
「投影、開始」
 その、たった一言で。小太郎の攻めは、全て無効化された。
 虚空から剣が降り注ぐ。かつて、たった一人で麻帆良を制圧したあの時よりは遥かに少ないし、剣の格も落ちるが、それでも全ての狗神を滅ぼし小太郎の首に剣を添えるぐらいの事はできた。
「ちく、しょう……!」
 やはり、最後の力だったのだろう。これで終わりだと理解した小太郎は、ぐったりと倒れ込んだ。徐々に獣化は解け、服は破れていたが人間の姿を取り戻す。
「よくやったな、小太郎」
「慰めなんて、いらん」
 泣きそうな顔で、けれど決して泣かないという想いが透けて見えるほどに、小太郎の顔は悔しさで歪んでいた。あと一押し、誰もいなかったのならば、泣いてしまったかもしれないぐらいに。
「俺はこの勝負で剣を使うつもりはなかった。なのに剣を使わせたのだから、お前の勝ちと言ってもいいさ」
「勝ちなわけあるか。勝ちやったら、何でこんなに悔しいねん」
 少しだけ目元が光る小太郎に背を向けて士郎は語る。
「剣とは、殺し合いの道具だ。騎士道なんて俺には理解できないが……確かに真剣で尋常の勝負を行う場合もあるだろう。スポーツとはかけ離れた、互いに命を取るつもりの勝負。そこで命が失われる事を、結果として認めている戦いだ。お前は、俺にそんな意味の勝負を挑んだのか?」
「それは……」
 命の取り合いなんて、そこまでの事は考えていなかった。
 考えているとしたら、それは全力の戦いを、という事だけだ。
「違うというのなら、やはりお前の勝ちだよ小太郎。無手のお前に俺は武器を使ったんだ。フェアじゃあないだろう?」
「そんなん、屁理屈や……」
 小太郎は武器を用いた戦いが得意ではないし、武器ありという同じ土俵で戦ったのなら確実に士郎が強い。百回やっても今のままでは勝てないなんて、そんな事は分かりきっている。
 だから屁理屈だ。そして慰めでもある。
 そんな事は小太郎でも分かっていたけれど……でも少しだけ、嬉しいという想いもあった。
 こんなに強いヤツに、武器なしという土俵でなら互角に戦えるのだと。自分の全力は、確かに士郎の余裕を崩し得たのだと。
 そんな、取るに足らない満足感。それは決して悔しさを覆い隠すものではなかったけれど……多少なりとは、小太郎の救いになったのかもしれない。
「それにな。俺がお前ぐらいの歳だった頃は何もできなかったさ。戦うどころか、同じ子ども同士の喧嘩でさえ苦戦していた」
「はぁ?」
「言っておくが、嘘ではないぞ。魔術もほとんど独学で……高校に入ってある人に師事するまでは、成功率も悪かったしな。今の小太郎の足元にも及ばなかった」
「それやのに……そんなに強いんか?」
「そうだな。だからこそ、小太郎もまだまだ強くなる。十年後に俺より強くなってればいいんだ」
 それは結局、士郎を超えるにはそれだけの時間が必要だと遠まわしに言ってるわけだが、小太郎は気付かなかった。
 戦士にとって大切なのは出会った時の強さであり、過去も未来も関係ない。現在だけが意味を持つ。
 けれど、小太郎ぐらい血気盛んならばこんな考えもいいだろう。死に急ぐような無鉄砲さを少しでも緩和できるなら。
「まぁ、今は休め。また勝負は受けてやるからな」
 ひょいと小太郎の体を抱きかかえ、士郎は言った。









 で。
 やっぱりというか何と言うか、士郎の余力はちっとも削れていなかった。本当に、体力面からいったら化物である。
「あの姉ちゃんたちも、まぁまぁ強いんやな……」
 修行の邪魔というか、流れ弾に当たらないようにという配慮で先程高音たちが観戦していた場所に寝かされている小太郎は眼下の戦いを見物しながらそう評した。
 武器を使わせたと士郎は言うが、結局体力は全然削れていないように思えて小太郎は軽く落ち込む。
 それぐらいに士郎の動きは落ちていない。軽く景色が変わるぐらいの戦いの後で、のうのうと魔法使い二人を相手にしている。
 しかも小太郎としては腹立たしいのが、士郎が剣を使っている事だ。確かに当たっても死にはしない竹刀ではあるものの、自分との戦いでは使わなかったのに、という想いが大きい。
 まぁ、愛衣の方はアーティファクトとして箒を持ち出しているからそれに対する為、なのかもしれないが。
 実際のところ、式神のような半実体ならば殴る事ができるから武器など要らないのだが、魔法の純エネルギー体は殴っただけで士郎が怪我をしてしまう。対魔力が低い士郎ならば尚の事。
 加えて、いつもなら一緒に加わる楓は普通に手裏剣その他の武器を使うので、それに合わせて多種の武器を使うのがこの修業の常だった。
 故に、士郎としてもいつもの感覚で武器を使っていたのだが、そんな背景を知らない小太郎は納得できない。
 多少良くなっていた機嫌も再び急降下だ。
「でも……上から見とるとそんなに強くないんやな」
 と、先程の高音たちと同じような感想を抱く。
 あまり頭は良くない小太郎でも、このカラクリは理解できる。だからこそ、小太郎は絶望的な力の差を感じてしまうのだが。
 どれだけ力があっても当たらなければ意味がない。となれば、当てる為の方法が必要だが、上から俯瞰した視点を得た事で逆に小太郎はその方法が全く分からなくなってしまった。
 範囲攻撃……絨毯爆撃のような、数的有利を作り出す戦法は、たった今通じなかった。出力を上げているという手もあるが、それは結局小太郎自身が強くなっていくという事とイコールだ。
 そういう、自身がスペックとして強くなるという事が、果たして衛宮士郎に通じるのか。それが小太郎には分からなかった。
 不安であるとも言える。たった一度……いや、京都での戦いも含めれば二度か。その戦いで、小太郎の中の士郎は難攻不落の要塞のように位置づけられてしまっていた。
 士郎に攻撃を当てる事ができる自分、というものをイメージできない。
 これはどうだ? と自信満々でふっと士郎の顔を見上げてみると、そこにはやっぱり皮肉げな笑みがあって、あっさりとこちらの攻撃を無効化してしまう。
 そんなイメージが小太郎の中に植え付けられていた。士郎との勝負は、あまり小太郎にとってプラスには働かなかったかもしれない。小太郎自身はこの勝負を後悔していなかったが。
「士郎と修行か……」
 高音や愛衣、そして楓との修行に小太郎も混じらないか、とは誘われている。
 それは有意義だと思うし、強くなる為の近道だろう。士郎から盗める技術は全部盗んでやればいい。
 けれど、それで果たして士郎を超える事ができるのか。
 盗んだものを使うだけでオリジナルを越えられるわけがない。如何に真に迫ろうと、コピーだけでは意味がないのだ。
 既に小太郎の中で、士郎は今まで以上に越えるべき目標だった。どれだけ時間をかけようとも、絶対に達成したい到達点。ネギに負けたくないという感情と同じくらい、小太郎は強く願う。
 だからこそ。小太郎はここで決断しなければいけなかった。
 このまま士郎の下で修行するのか。一人、もしくは別の相手を見つけて修行するのか。
「まぁ、考えるまでもないか」
 士郎と一緒に修行しよう、と。色々考えはしたものの、結局最後は感性で決めた。
 実際、最終的に士郎を倒す為の方策は彼の下で研究した方が早いだろうし、相手を探すにしても彼のところは環境が良かった。
 他の手段を探すまでの間だけでもいいのだ。難しく考える必要はない。
「それに……」
 修行とか、そんな事は置いておいて。
 士郎とこのまま家族のように気安い関係を築くのもいいかと思い始めていた。
 小太郎は、確かに強い力を持っているし、生まれも育ちも特殊だ。
 だがしかし、そんな彼もまた普通の子供としての面も持っている。寂しいと感じ、誰かに甘えたい、頼りたいと……それを本人が認める事はなかったとしても、やはり心の奥底では思っているのだ。
 甘えるのは千鶴に、頼るのは士郎に。
 小太郎自身も自覚しないまま、そんな分類が確立しつつあった。













        ◇        ◇









 薄暗闇の中、モニターの明かりだけが輪郭を示していた。
 二人の少女だ。しかし、格好がそれらしくない。彼女たちを見て、中学生だと思う者はあまりいないだろう。
 顔立ちが、という意味ではない。研究者の白衣と、それを着こなす彼女らの雰囲気が、どうしても同年代よりも浮いてしまうのだ。
「計画をCプランに移行する……本気ですか?」
「勿論。それが一番成功率が高いと判断シタ。ハカセも分かってるハズネ」
「いいえ分かりません! もし彼の勧誘に失敗したら、その場で計画が頓挫する可能性だって高いんです。未知数とは言え麻帆良最強。侮れる相手ではないでしょう」
 大げさな手振りで葉加瀬は否定した。モニタの前でそれを聞く超に動揺は見られない。
「侮ってなどいないヨ。それに、敵対するとしても遅いか早いかの違いになる。ならば、魔法先生の一団と争う前に個別撃破した方が成功率は高い……違うカ?」
「それはっ、そうでしょうけど……」
 葉加瀬は言い淀む。
 確かに、機械的に考えるのならば彼、衛宮士郎と敵対するのならば早い方がいい。
 衛宮士郎とタカミチ・T・高畑のタッグは凶悪に過ぎる。この二人が組んだ場合、正真正銘止められるのは封印が解けたエヴァンジェリンぐらいしかいないだろうと、先日の戦闘をモニターしていた二人は判断を下していた。
 だが感情はそう簡単な問題ではない。Cプランは、成功率も高いがリスクも大きすぎる。衛宮士郎以外にも問題は多々あるのだ。
 ネギや魔法先生、魔法生徒、腕利きならば幾らでもいる。
 それらに対応するのにカシオペアなしという苦難を強いるCプランは、どうしても受け入れがたいものだった。
「まぁいいじゃないか。まだ士郎さんが仲間にならないとも限らないだろう?」
 そう言って闇から現れたのは、龍宮真名。凄腕のスナイパーであり、今回の計画において超が雇った兵隊でもある。
「確かに、彼が仲間になってくれれば対魔法先生の戦闘に不安はなくなりますが……」
 葉加瀬の言う事はもっともだ。何せ、士郎は一度実際に過半数以上の魔法先生を一度に制圧している。戦術さえ用意しておけば、その再現はそう難しいものではないだろう。
 しかし、だからこそ敵に回った時怖い人物でもあった。
 しかも対人戦闘に特化しているというわけでもなく、京都では鬼神に有効打を与えたというデータもある。
 彼女たちの計画の要たる鬼神たちは、京のスクナに比べて弱い。彼が敵に回ったら呆気無く無効化されてしまう可能性もあるのだ。
「それに、だ。仮に敵対する事になった場合、私ではどうにもならんぞ。説明のあった時間跳躍弾があったとしてもな」
「それほど、ですか?」
「ああ。射程と速度が違い過ぎる。私の銃弾は強化を施しても、基本的に銃の速度だと言う事に変わりはないし、射程も同様だ。けれど、士郎さんは自然体から瞬時に1キロ越の狙撃をして見せるんだ。しかも弓でだぞ。敵うわけがない」
 狙撃というのは基本的にどれだけ我慢できるか、動かないでいられるかというのが重要になる。
 士郎とて移動しながらキロ越の狙撃は不可能だが、それでも真名と違い、いつどんな場所からも狙撃ができるという利点は大きすぎた。
 その利点は、同時に狙撃に対する迎撃にも作用する。スナイパーであるからこそ、真名は士郎を狙撃で仕留めるのがどれ程難しいか理解していた。
「彼を無力化できる可能性があるとすれば、時間攻撃しかない。擬似時間停止とやらが可能なら、流石の士郎さんでもどうしようもないだろう」
 俗に言うタイムマシン。時間航行技術をもってすれば、擬似時間停止や瞬間移動などが可能だ。
 これに抗う為には、同じ技術を利用する他ないだろう。
 別時間体からの奇襲でさえ可能なのだ。如何なる体術、魔法を駆使すればこれに対応できるというのか。
 ……と、彼女らは考える。実際には、そんな規格外にさえ更なる規格外で対応してしまうのが、衛宮士郎というイレギュラーなのだが。
「とにかく、これは決定ダヨ。私の望む未来をなし得る為には、これ以外に方法はナイ」
 触れれば凍るような、冷たい眼差しで超は告げる。
「そう。カレには学園祭の最終日を迎える前に退場してもらう。これは必要事項ダヨ」
 士郎を中心とした動きは、水面下で大きなうねりを見せようとしていた。






 ひょいと小太郎の体を抱きかかえ~
高音「な……! うらやま……」
愛衣「でもオトコノコがお姫様抱っこってどうなんでしょうかね」

楓「……拙者も呼んで欲しかったでござる……」
(拍手)
 
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2009.12.26 | | # [ 編集 ]

>だが、今日は日曜だから学校も休みだ。
>今回のように朝早くから平日に始める時は
む・・・?
日曜なのか、平日なのか・・・?
もし自分の見当違いでしたらすみません。

2009.12.28 | URL | bio #Ik3TjJOs [ 編集 ]

Re: タイトルなし

今回→前回の誤字でした。
まぁ平日削ってもいいんですが。余裕がある時に書きなおします。

2009.12.29 | URL | 夢前黒人 #- [ 編集 ]


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