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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第50話


「衛宮士郎更生計画その1」


 朝というには幾らか遅く、昼というにはまだ早い、そんな時間帯。
 女子中等部は当然授業中であり、廊下を歩く者はいない。そんな中、士郎は一人学園長室に呼び出されていた。
「何の用だ、近衛翁。わざわざ女子中等部に呼び出しなど。いい加減学園長室を移転させたらどうだ」
「そんな予定はないぞい。だいたい、衛宮くんも数ヶ月前までは教師として勤めていたわけじゃし、そう気張る事もないじゃろ?」
「数ヶ月前で、数ヶ月間だったからな。私の事を覚えている生徒もあまりいない。私はほとんど授業もしなかったしな」
「だが、衛宮くんも少しは目の保養になって良かったんじゃないかの。ほら、君はあんまり女性の噂も聞かん事じゃし、どうじゃねウチの木乃香など――」
 ガシュ、と。学園長の立派な机に亀裂が入っていた。
「じょーくじゃよ、じょーく。衛宮くんは冗談が通じんのう」
「悪いが、老人の繰り言に付き合っている暇はない。さっさと用件に入ってもらおうか」
 ほとんど恒例になりつつある挨拶を済ませた後、ようやく学園長は本題に入った。
「犬上小太郎くん。知っとるかね?」
「詠春が言っていた、逃亡犯だろう。西と東の親善留学生という名目で身受けすると聞いたが」
「ま、概ねその通りじゃ。それでな、ワシとしては彼にはネギくんの近くに居て欲しいと思っておるのじゃよ」
「ネギの?」
「左様。あの子の周りは年上ばかりじゃからのぅ。できれば、歳が近い友達がいた方が良いと思うんじゃ」
 士郎は一瞬だけ目を細めて学園長を見る。
 しかし、いくら視線で脅したところでこの狸っぽい妖怪爺が尻尾を出すわけもない。だが、士郎とて目には自信があった。
 眼力や殺気という意味ではなく、観察眼という意味で。
 人の心の内、何を考えているのかなど、Cランクとは言え千里眼を持つ士郎にも読めるものではないが、何か隠しているかぐらいは……まぁ、学園長相手だとそれも難しいのだが。
 というより、この底の知れない老人は、常に士郎に対して何かを隠している。
 隠している内容は同じものでなく、話題の一つ一つの中で、全く統一性など感じられないランダムな隠し方だ。
 つまり、油断がならないのだ。現時点における麻帆良の最大戦力。色々と条件が加わるとそのポジションも変動するものではあるが、トップクラスであるのは間違いのない男に対して策略を用いて制御しようとする。
 真っ当と言えば真っ当だ。力で敵わないなら頭を使う。自然な事ではある。
 だが。近衛近右衛門に限って言えば、力はあるはずだった。
 例え士郎の実力を未だ測りかねていて、単体での戦闘で圧倒できる自信がないにしても。
 彼には権力がある。それを、簡単に成しえてしまえるだけのコネが。
 けれど彼は使わない。ただ、己の知略のみで士郎を扱う。
 それを、士郎は好ましいとは思っていた。正直うざったいという気持ちもあるのだが、人間扱いしてくれているような気がするからだ。
 個に対するは個。決して軍団ではない。軍団を蹴散らす個というのも存在するが、互いに同じ規模の力を持っているのなら、やはり一対一というのが正々堂々というものだろう。
 尤も、だからと言って恒例になってしまった見合いの誘いには辟易している士郎なのだが。
「いいんじゃないか。確かにネギには気心の知れた相手、というのがいないようだしな。周りは年上の異性ばかりでは息も詰まるだろう。男友達の一人くらいいないようでは将来が心配だ」
 とんでもない女たらしになりそうだ、などと、士郎は自分の事は棚に上げてそんな事を考える。
「だが、何故そんな話をする? 私と関係があるとは思えないのだが」
 士郎が先程警戒したのもそれが理由だった。
 犬上小太郎と衛宮士郎に接点はない。少なくとも士郎の記憶の上ではそうだ。
 しかし一応小太郎と士郎は修学旅行の際に拳を交えており、割と一方的に尊敬の念の抱かれているフシがある。
 その事を詠春は勿論、学園長も知っていた。だからこそ勝手に士郎に丸投げすると決めており、詠春は士郎の説得により諦めたが、学園長がその程度で引き下がるはずもない。
「いやのう、婿殿から話はあったと思うが、この小太郎くんには身よりがない。よって通常なら寮に入れるだけで済むのじゃが、彼の場合は保護責任者が必要なのじゃよ」
「だから、どうして私にそんな面倒事を押しつける! 貴方も分かっているだろう、私の学園での立場というものを」
「勿論、知っておるつもりじゃ。じゃがのう、誰も西側の子を受け入れようとはせんからの」
「確かに私は詠春とも懇意にしている。だが、だからと言ってそう安直に結び付けてもらっては困るぞ。保護責任者ならば貴方がすればいいだろう。私の知るところではない」
「薄情じゃの~、衛宮くんは」
 と、言いつつも、西側の子の受け入れを正面から拒む者はいないだろう。学園長が強く命令すれば、いや命令しなかったとしても、葛葉あたりは引き受けるはずだ。
 そう、元西側の人間だから、なんていう理由でどうこうなる事なんてないのだ。麻帆良に来る以上、学園長が認めた者であり、その人柄には保証書がついているようなもの。
 皆、大して警戒するわけでもない。まぁ、士郎のように学園長から紹介された、なんて出会いではなく最初から敵対者として出会えばまた話は違ってくるが。
 小太郎は、確かに修学旅行で敵対者としてネギたちに襲いかかったが、そんな情報は隠しておけばいいだけの事だ。無理に公表する必要はないし、公表するにしても色を付けてやればいい。
 真実ではないけれど、確かに事実ではある事だけを。小太郎には情状酌量の余地はあったし、どうとでもできるはずだ。
 それなのに、わざわざ士郎を使おうとする理由。
 それは、この麻帆良に士郎を縫いとめておく為なのではないか。そう、士郎は考えていた。
 麻帆良学園都市の長は、まだまだ士郎を使うつもりでいる。
 いざと言う時の切り札。敵に回すわけにはいかない相手。
 士郎が推測できるのはその程度だ。学園長の思惑には、確かにそういう側面もある。
 だが、決定的に方向性が違った。この老人の本音は、そんなところにはない。
 士郎は想い至っていないだけなのだ。結局近衛近右衛門というのは、この世界なりの『正義の味方』、その長であるという事を。
「じゃがのう、悪いが今回ばかりは衛宮くん以外に適任はおらん。犬上小太郎を衛宮士郎の監督下に置く。これは決定事項じゃ」
「何故だ? そんな事をしたところで貴方に益があるとは思えないがな」
「利益の問題なんぞじゃないわい。理由は言えんのじゃが……引き受けてくれんかの。この通りじゃ!」
 学園長は頭を下げた。それこそ、机に額がつくんじゃないかという勢いで。
「……頭を上げてくれ。それほど軽いものでもないだろう」
「なに。必要な時に頭も下げられんのでは、人の上には立てんのじゃよ」
 尚も頭は下げたまま、学園長はそんな事を言った。
 士郎は溜息をつく。ここまでされて、嫌だとは言えない。この程度の問題ならば、まだ。
「分かったよ、一応貴方も恩人だからな。顔を立てる事にしよう。ただし、こんな無茶苦茶を聞くのはこれで最後だ。これでもう貸し借りは考えないぞ」
「うむ。ワシはそもそも衛宮くんに貸しなんて作った覚えはないがの」
 あっけらかんと笑う学園長に、士郎はげんなりした。
 それも一瞬で、覚悟を決めた士郎は立ち直るのが速い。面倒な事を引き受けてしまったが、決まってしまったのなら色々準備もある。
「用件はそれだけだろう? 帰らせてもらうぞ。犬上小太郎はいつから預かればいい」
「できれば今日にでも引き取ってもらいたいのう。今は彼を拾った女子生徒の部屋に泊めてもらっておるようじゃし」
「やれやれ。分かった。では、その女子生徒は?」
「君も知っとる生徒じゃよ。3-A、那波千鶴」
「那波か……よくよく拾い者に縁がある子だな」
 自分も拾われた事を思い出したのか、士郎に軽く笑みが浮かぶ。そしてそのまま退室して行った。
 残された学園長は、静かになった部屋で一人、ぽつりと呟く。
「やはり……危ういのう、彼も」
 犬上小太郎との生活を通して、少しはこの街に根を下ろし、自分の幸福も考えて欲しいものだと、近右衛門は願った。






    ◇          ◇





 で、やはり女子寮は男子禁制なわけで。
「ああ、すまないな。うん、いるだろう? 彼を連れて表まで出てきてくれないか。じゃ、よろしく頼む」
 しかし、士郎は千鶴の電話番号を個人的に入手していた。
 士郎がこの麻帆良にやってきて初めて出会った人間は彼女であり、直接的に最も恩があるのも那波千鶴という少女? である。
 村上と一緒に店にやって来た時には地味にサービスしているのだが、それでは士郎の気が治まらない。とは言え、過剰な恩返しを好むような子でもないというのは理解していた為、これまで大して接触して来なかった。
 勿論、必要以上に関わり過ぎればアキラのようになってしまう可能性もあると、気をつけた結果でもある。
 だが、そんな士郎の考慮も結局意味がなかったらしい。犬上小太郎を拾い、手当てし、ヘルマンに立ち向かうなど……強いという事は、時に不幸であるのかもしれなかった。
 だからこそ、関係者である小太郎を早めに引き取ろうという気にもなったのだが。
 そう、別に学園長が頭など下げずとも、千鶴が関わっているのなら士郎は動くしかない。もしかしたら、それが分かっていて学園長は頭を下げたのかもしれないが。
 やがて、小太郎を引き連れ千鶴が姿を現した。村上も一緒だ。ちなみに二人はまだ制服である。時間的には放課後になってすぐだから、それも仕方のない事だろう。
 一応、士郎は事前に千鶴にメールを打った後、小太郎の為に軽く準備をしていた。まぁ、大した事はしていないが、おかげで本日も『アルトリア』は閉店状態だ。
「お久しぶりです、士郎さん。最近お店が開いてなかったので心配してたんですよ」
「すまないな。色々と立てこんでいた」
 実際、最近『アルトリア』は半分も開いてない。しかも、昼だけとか夜だけとか、かなり変則的に開店している事もあり、事前情報なしでは中々店に入れない状態だった。
 そんな事では、そりゃ客足も遠のくというものだろう。逆に、コアなファンもいる事はいるのだが。
「衛宮、士郎……」
「ふむ。君が犬上小太郎か」
「ああ、そうや。つか、京都でも戦りあったやろ! 忘れたんか!」
「生憎と記憶にないな」
「……ちっ」
 舌打ちする小太郎だが、その反応の割には機嫌が悪そうには見えなかった。むしろ、楽しそうにさえ見える。
「もう、ダメでしょ小太郎くん。失礼じゃない」
「あ痛っ」
 夏美が小太郎に拳骨を落とす。女子の拳なんて大して痛くもないだろうに、小太郎は必要以上に痛がって見せた。楽しそうに。
「村上、そう怒ってやるな。私は気にしてない」
 だから、士郎としても少しばかり小太郎をこの二人から引き離すのが可哀想に思えてしまった。
 小太郎の出自など概要は書類でおおよそ知っている士郎だから、たった二日でここまで懐いている小太郎への認識を改めると共に、案外このまま女子寮で暮らすのもアリなのではと一瞬思ってしまった。
 まぁ、それはやっぱり一瞬で、女子寮に置いておくのは許容できなかったのだが。正直に言えば、士郎的にネギも女子寮にはいて欲しくないと思っている。
 ネギのためにも、女子生徒たちのためにも。しかし残念ながらその権限は学園長の領分だ。提言した事はあるが、現状を見るに何か考えがあるのだろうと予想するくらいである。
「それより二人とも、これから小太郎の歓迎も兼ねて軽く祝いの席を設けようかと思っていたんだ。一緒に祝ってくれないか。ご馳走しよう」
「え、いいんですか?」
 夏美の眼が輝いた。夏美も、那波と一緒に『アルトリア』に訪れる事が多かったから、その味も知っているから、当然の反応だったのかもしれない。
 対して、千鶴の反応は見た目通り大人なものだった。
「嬉しいですけれど、いいんですか? この前もご馳走になりましたし……」
「構わないどころか、断られる方が困ってしまうな。犬上くんと二人だけでは間が持ちそうにない」
「あらあら。これから一緒に暮らすのに、それではいけませんよ。……でも、そういう事でしたら断る理由はありませんね」
 にこっと笑う千鶴は、やはり中学生には見えなかった。













「おおっ、なんやコレウマいっ! ちづる姉ちゃんのメシも美味かったけど、こっちもウマいわ」
「ええ、本当に。どうすればこんな味が出せるのかしら?」
「なに、材料がいいだけだよ」
 ばくばくとテーブルに並んだ料理を平らげていく小太郎と、控え目に食事を続ける千鶴と夏美の二人を士郎は厨房で料理を供給しながら眺める。
 特に小太郎の食べっぷりは久しぶりに見ていて気持ちのいいものだった。
 コレでトラにまで進化されると手が付けられないのだが、子供なら微笑ましいで済む。まぁ、小太郎なら進化しても狼なのだろうが。
 ちなみに、士郎の料理の腕は確かに高いが、『アルトリア』で出される料理の評判が良いのは材料のおかげ、というのは間違ってはいない。
 普通の喫茶店で出すレベルのものではないし、ましてや家庭料理と比べれば美味しいのも当然である。
 一応はプロなのだ。しかし、何度食べても飽きないような家庭の味という点で言えば、もしかしたら千鶴の方が上かもしれなかった。
 その辺オールマイティにこなすのが五月であるが、この場では関係ないか。
「そう言えば」
 士郎が料理を運んできて、そのまま席についたタイミングで、思い出したように夏美は言った。
「何で士郎さんが小太郎くんを引き取るんですか?」
 一瞬で士郎と小太郎のアイコンタクトが完成する。というか、小太郎の口は料理で塞がっていたのでそれしかなかった。
 つまるところ。どこまで話していいのか、という確認だ。
 小太郎は既に孤児を匂わせる事を二人に伝えていたので、あまり適当に親戚なのだ、などと言うと不審に思われるかもしれない。
 結局、アイコンタクトの結果として全ては士郎に委ねられた。
「京都の知人に頼まれたのだよ。引き取るというよりは下宿という感じだな。部屋を貸すぐらいのものだ」
「あれ? でも小太郎くんの保護者って士郎さんになるんですよね?」
「書類上はな。責任は取るつもりだが、彼に干渉するつもりはないよ。尤も、彼が望むのならば話は別だが」
 ちらり。士郎の視線の先には咀嚼を終えた小太郎の顔がある。
「それでええんとちゃう? 仲よーなるんやったら、自然とそうなるやろ」
「確かに、それもそうだな」
 子供の考えではあるが、子供であるが故に安直に信じることができる。
 士郎は少ない間の会話だけではあるが、小太郎が単純である事を看破していた。
 しかし、シンプルな構造である程耐久度は高いモノだ。
 ネギとは違った方向性で、将来が楽しみだと士郎は感じた。
 尤も、そうであるからこそ士郎は干渉すべきではない、と考えている。
 士郎にとって、正直ネギや小太郎は眩しいから。近くにいるのは、少し辛かった。









 ささやかな祝宴の後、日も暮れてくれば当然二人を送っていく事になる。
 小太郎に任せてしまっても良かったのだが、一応は保護者という事になるのだし、最初ぐらいはと士郎も付いていく。
 道中は、ほとんど三人の会話だった。士郎は特に口も挟まない。
 たった二日とは思えないほど小太郎は千鶴と夏美に懐いていた。良い事だとは、士郎も思う。小太郎の、親もおらず同族もいないという境遇から考えれば、二人にはこのまま小太郎の姉代わりとして接して欲しかった。
 けれど。それが危険を呼ぶこともある。
 もしも小太郎が、他の何を捨てても彼女たちを守るというのなら……その覚悟があるなら、そしてその力があるのなら。
 それはそれで歪かもしれないが、士郎は認めるだろう。憧れさえするかもしれない。それは、決して士郎には選べない生き方だから。
 でも、中途半端に力を得て、何もかもを手に入れようとしたのなら、それは容認できない。
 ならば士郎自身が教え導いてやればいいのだろうが、逆に悪影響を与えてしまうのではないかという不安もある。
 結局、今の士郎にできるのは見守る事だけだ。
 それに、ただの友達程度の間柄ならば、そこまで問題じゃない。よほど深い関係にならない限りは、魔法関係のトラブルに巻き込まれるのは交通事故に遭うようなものだろう。
 そう、深入りさえしなければ。このまま、微笑ましい関係のままならば、ただ見守っていれば良い。
 どうしようもなくなったのならば、士郎はいつものように無言で処理する。
 できればそんな事態にならない事を祈りながら、士郎は姉弟のような三人の会話を眺める。
 やがて、女子寮に到着した。千鶴も夏美も、それぞれに小太郎に声をかける。
「いつでも遊びに来ていいのよ? 待ってるからね」
「そーそー。士郎さんのご飯も美味しいけど、ちづ姉だって負けてないんだから。ご飯食べにおいでよ」
 夏美は、一応私たち姉弟設定だしね、と笑いながら付け加える。
「せやな。うん、遊びに行くわ」
 小太郎の楽しそうに頷き返す。
「では二人とも、付き合わせて悪かったな。これからも彼には良くしてやってくれ」
「なんや、ホンマに親みたいな事言うんやな。……ほなまた!」
 それが気恥ずかしかったのか、小太郎は二人に挨拶して駆けて行った。まぁ、帰り道ぐらいは分かるだろうと士郎も放置する。
「士郎さん」
「ん、何だ?」
 士郎もまた小太郎を追いかけて帰ろうとした時、千鶴がその背に声を掛けた。
「小太郎くんの事、よろしくお願いします。あの子を泣かせないで下さい。そうでないと……」
 真剣で、そして真摯で。千鶴はやはり、とても中学生には見えない。
 その迫力に驚きながらも、士郎は千鶴の言葉を待った。
「そうでないと、貴方の事を許せなくなってしまいそうです」
 半ば睨みつけるような視線だった。
 この二人の記憶処理は既に済んでいるはずだが、何かしら残るものはあったのかもしれない。そして、士郎もまた裏側の世界に存在する者だと、第六感で察知したのか。
 おそらく千鶴に明確な根拠はないのだろう。ただ漠然と、士郎が小太郎を引き取る、という状況に疑問を抱いているだけ。それは良くない事なんじゃないか、そんな不安が口から出ただけなのだ。
 勘が鋭いというよりは、母性本能に近いものなのかもしれない。
「随分入れ込んでいるんだな」
「ええ、そうかもしれません」
 士郎は驚きこそしたものの、それを表情に出すような事はなかった。ただ、小太郎を千鶴から引き離すのは正解だったと確信するだけである。
「だが生憎、それは約束できない。泣けないよりは、泣けた方がいいだろう」
 流す涙も枯れてしまうよりは。感動に、悲しみに、素直に泣ける方が何倍もいい。
 それは千鶴の言いたい事からは外れていると理解しながらも、士郎はそんな事を口に出していた。
 だが、千鶴には士郎なりの決意や覚悟を感じ取ったのか、一応は納得したようだ。
「じゃあ、最後に一つだけ。これから一緒に暮すなら、せめて名前で呼んであげて下さい。いつまでも『君』とか『彼』じゃ可哀想です」
「そうだな。善処するよ」
 そうして、今度こそ士郎も帰路につく。千鶴と、少しだけおろおろしていた夏美は、その背が見えなくなるまで見守っていた。








「何だ、待っていてくれたのか」
 女子寮からの帰り道、丁度女子寮からは見えなくなる曲がり角に、小太郎は佇んでいた。
「なぁ。なんでアンタ、敵やった俺を受け入れてくれるんや」
「まだ完全に受け入れているつもりもないがな。それにそもそも、私には君が敵だった記憶などない」
「はぁ? なんや、俺なんて覚える価値もなかった、そう言いたいんか!」
 激昂する小太郎に、士郎は努めて平静な声で諌める。
「違う。事実として、私は修学旅行に同伴した京都での戦いの記憶を抹消されている」
「……どういう事や」
「フェイト・アーウェルンクスとかいう少年との戦いに敗れ、私はその少年に記憶を消されたらしい。ちなみに記憶の復元は不可能だった。だから、申し訳ないが私にとって君は今日で初対面なんだ」
 小太郎はその事実をどう受け止めていいのか扱いかねているようだった。
 小太郎にとって、京都での戦いで出会った衛宮士郎という男は、脅威であり目標でもある。
 彼自身、ネギとの戦いの後で疲弊していたとは言え、あまりに大きな力の差を感じてしまった相手。小太郎は認めないだろうが、恐ろしくもあった。
 たった一瞬の邂逅では分からない、衛宮士郎の日常とはどのようなものなのか。何か、強さの秘密みたいなものが垣間見れるのではないだろうかと。
 衛宮士郎に引き取られると聞いた時は、喜びもしたのだ。尤も、その期待はたった半日で裏切られてしまったのだが。
 よもやエプロンが似合うとは予想できるはずもない。そしてそんなのが強さの秘訣であるわけもない。というか、もしもそうだったら立ち直れそうになかった。
 ともあれ。小太郎にとって、士郎という存在はなかなか大きな存在として根づいていた。ライバルとしての意味合いならネギの方が同年代という事もあって適していたが、目標としては士郎が適役だったのかもしれない。
 いずれ追い越す相手として。同じ意味で、楓もまた小太郎の目標ではあったのだが、女よりは男を目標とした方が小太郎の精神衛生上良かったのだろう。
 目標としたキッカケは、士郎にとってしてみれば些細なものであったかもしれない。けれど、忘れられている――その事実さえ消されているのは、正直堪えた。
「……そか」
 元気なく、小太郎は俯く。その、あまりに落ち込んだ姿に士郎も少しだけ狼狽した。顔には出さないが。
「よし!」
 しかし、小太郎は士郎が声をかける前に自力で復活してしまった。自分の頬をパチンと叩いて気合を入れる。
「なら勝負や! もう一度戦ってやり直せば問題ない!」
「そういう問題か……」
 呆れる士郎だったが、小太郎がそれで気が済むのならばまぁいいか、とも思う。
 思うが……。
「今日は部屋の準備もあるからな。明日にしよう」
「気勢削ぐような事言わんといてや」
 結局ぐったりとする小太郎。別段、部屋の用意なんて苦になるものでもないだろうに。余程今すぐ決着を付けたかったのかもしれない。
「さて、では帰ろうか。小太郎」
 視線も合わせず、小太郎よりも一歩分前に出て、士郎は言った。『小太郎』と。
 それにびっくりしたのか、小太郎は動きを止めた。士郎との間隔が二歩三歩と伸びていく。
「どうした? 帰るぞ。これからは君の家でもあるんだ」
「へへっ。そやな、士郎兄ちゃん!」
 そう言って、小太郎は士郎に並び、笑った。









 






夏美「ちづ姉、まさか……」
千鶴「なに? 夏美ちゃん」
夏美「ショタ?」
あやか「ま、まさか同士でしたの!?」
千鶴「………………二人とも。そこに正座しなさい」
夏美・あやか「ひいぃっ! 本気で怒ってる(ますわ)っ?!」


・NG
コタ「へへっ。そやな、士郎兄ちゃん!」
士郎「ぶっ! に、兄ちゃん?」
コタ「ん? なんやおかしいか?」
士郎「い、いや……むず痒いような、懐かしいような。そんな歳でもないのだが……まぁ、いいか」
士郎(どうせならお兄ちゃんの方が……いやいや、何を考えているんだ、俺は)
(拍手)

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久しぶりにあとがきでも

結局小出しにすることにしました。次は少し時間かかるかもね。
まぁ、一応現時点で51話が3割ぐらいは出来てるんですが。
あと、一部反転すると良いことあるかも。バカなネタです。

2009.12.10 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

刹那をだしてくれ~~

2009.12.19 | URL | ggf #- [ 編集 ]

Re: タイトルなし

学祭準備に入ったらちょっとだけ出すよ。ちょっとだけ。
後は、学祭に入ったら本格的に人気投票の影響を受けて刹那とアキラがメインになるから安心して下さい。
刹那はメインヒロイン的イベント、アキラはサブヒロイン的イベントだから。

2009.12.19 | URL | 夢前黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

そうですか
楽しみにまってます。^^

2009.12.19 | URL | ggf #- [ 編集 ]


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