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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第49話


「芽生える不信(後)」

 指示があったわけでもなく自発的に士郎の後をついて来ていたアキラだったが、流石に毛布一枚という状況は色々と危うい。
 とは言えもう服を買えるような所は開いていないだろうし、裸に毛布を巻いているだけ、しかも男と一緒に店に入る度胸などアキラにはなかった。
「あの、士郎さん」
「ん、ああ、すまない。気が回ってなかったな。しかしどうしたものか……」
 自分が連れ回しているという自覚があったのか、士郎は考え込む。しかし士郎としては取りあえずタカミチと合流する為歩き出していたので、付いて来たアキラを少々を持てあましていた。
 かと言って、付いて来るなと言うわけにもいかず、さてどうしたものかと悩むハメになる。
「仕方ない、取りあえず私の家に来てくれないか。何か服を貸そう」
「でも、そんなの悪いですし……」
「悪いと言えば、君をそんな格好で連れまわす方が心臓に悪いな。こんな時間に女子生徒を連れ帰りたくはないが、事情が事情だ。それとも今からでも戻るかね?」
「イジワルです、士郎さん」
 怒っているのか呆れているのか、アキラは少しだけ語気が荒い。
「それと、そうだな。これを持っていてくれ」
 士郎が差し出したのは、アキラの知らない文字で書かれたお札だった。文字がまるで模様のように並べられ、アキラは直感的にそれが魔法の品であるのだと悟る。
「……これは?」
「人払いの札だ。視線を逸らせて認識させないようにする効果がある。持っていれば、取りあえず一般人に見られる事はないだろう」
「じゃあ、士郎さんからは見えるんですね……」
「いや、私は見ないぞ。勿論。何なら目隠しして歩いてもいい」
「そちらの方が怪しいです。……分かりました。服を借りてもいいですか?」
 そんな会話の後、二人は『アルトリア』に帰ってきた。アキラ的には訪れた、だが。
 ちなみに、わざわざ士郎の家であるところの『アルトリア』に来たのは、単純に寮よりは格段に近かったからだ。
 そもそも、アキラを付いて来させてしまった事こそが士郎の失態とも言える。直前に、らしくない説教をしてしまったからだろうか。
「あの、あまり見ないで下さい」
「いやすまない。しかし弁明させて貰うと、私の視点からだと君の姿はほとんど見えないぞ」
 今、士郎とアキラはテーブルに向かい合っている形だ。
 ちなみにアキラは、士郎に貸して貰った黒いシャツの上から大きめのタオルケットをマントのようにかけている。
 シャワーも借りた後だから、髪はまだ乾ききっておらず、その姿は中学生とは言え扇情的と言えた。
 だからこそのタオルケットであり、これで一応シルエットでさえもアキラの姿は隠されているわけだが、士郎が気を利かせて薄くした照明が何とも怪しげな雰囲気を醸し出していた。
 そんな中で、アキラは士郎の言い分を全面的に信じ込んだわけではないのだろうが、取りあえず納得はしてくれたようだ。
 こくんと小さく頷いて、軽く一呼吸。何かを決意したような眼で士郎を見た。
「一つだけ、聞いてもいいですか?」
 士郎は無言で肯定し、先を促す。アキラはおずおずと言った感じで続けた。
「何で、あの悪魔、を……その、殺したんですか?」
「正当防衛、などという言葉では納得してくれないのだろうな」
 当然です、とアキラが相槌を打つ。
 その表情は真剣そのものだったけれど、何かを恐れているようでもあった。
 士郎の答えが怖いのだ、という事は、アキラ自身気づいてはいるのかどうか。自分を助けてくれた人が、生き物を殺す事に何の躊躇いも持たない人間であったなら。
 それを認めてしまう事が。或いは、そういった危険性があると知識としては知っていたはずの魔法という世界について、改めて実感してしまったからか。
 殺されるかもしれないと考える事はあっても、殺すかもしれないなどと考えた事はなかった。
 そんな思考は許されるものではないし、士郎から与えられた情報だけでそんな思考に至ってしまったらそれこそ異常だ。
 アキラは正常に強かった。正義を扱うに足る精神を持っていた。
 けれど、それはあくまで日常の範囲での事。光の当たる世界でのみ適用される話で、暗く深い闇の底で通用するものではない。
「アキラ。君は、人の言葉を話す別の生き物をどう思う?」
「どう思う、と言われても……」
「そうだな。では質問を変えよう。人に似ていながらも、決定的に人より強く、上位に位置する存在だ。君は彼らを同族であると認める事ができるかね?」
「それは……」
 アキラは、エヴァンジェリンを思い出す。今でこそ、同じ教室で授業を受けるのにも慣れてきたが、あの事件の直後は彼女がひたすらに恐ろしかったものだ。
 人の言葉を話し、或いは人以上の知性を持ち、人など足元にも及ばぬほど強固な存在で、何より死なず寿命もない者。
 そんな彼女を、人として認める事ができるのかどうか。そんな、身近になってしまった問いに対してアキラの表情は苦しそうに歪む。
「でき、ます」
 声は小さかった。けれど、確かに己の意思で、アキラは答えた。
 恐怖は覚えている。あの春の夜感じた全てはまだ色濃くアキラの中に残っていたし、忘れようと思っても忘れることなど出来はしない。
 けれど、二年間もクラスメイトとして一緒に過ごしてきた彼女を、化物だなんて呼びたくなかった。
 そこまで仲がいいわけじゃない。彼女が正真正銘、化物と呼ばれるに足る力を持っている事もその目で見ている。
 けれど、それでも。エヴァンジェリンが、実はそれほど悪い人ではないのではないかと……そんな事を考えていたアキラにとっては、決して否と答えるわけにはいかなかった。
「強いな、アキラは。だが、そう考えない者もいる。化物は滅ぼすべきだと唱える人間もいるし、逆に人間など滅ぼしてしまえという魔物だっている。それは事実だ」
「でも、友達になれるような人……魔族さんだっているんじゃないでしょうか。それを、悪だって決めつけて殺すなんて……」
「そうだな。その通りだ」
 士郎の答えに、アキラは不満そうに黙り込む。
「そもそもな。単純に力で区切るのならば、同族である魔法使いたちだってそう変わるものではない。魔族より余程強大な力を振るう人間だっている。魔法使いたちが自分たちの存在を公表しないのは、少なからず迫害を恐れている面もあるだろうしな。魔族も人も、究極的には大した違いはない」
 そこで、士郎は一息ついた。
 自分自身の存在を省みているのかもしれない。人よりも圧倒的で、魔族さえも討ち滅ぼし、この世界において最大のイレギュラーとなり得る衛宮士郎。
 人間という枠組みからは、とうに逸脱していた。世界を救い、契約し、英雄となる資格を得てしまってから。
 その事に後悔などなく、むしろかつて共に戦った彼女に近づけた事が純粋に嬉しくもある。
 けれど、士郎がアキラのような戦う力を持たない者たちから恐怖されるほどの力を持っている事は、一つの事実だ。
 それどころか、魔族であろうと魔法使いであろうと、一部のトップクラスを除けば士郎は常に警戒され恐れられている。
 この平和な麻帆良学園においてさえ。魔法世界に行っても変わらない。この世界でも、かつていた世界でも大した違いはなかった。
 結局。そうやって、既に己が人ではないと切って捨ててしまえる事こそが、何よりも士郎の怪物性を示していたのだけれど。
「だが、人の中に善悪があるように、魔族の中に善悪があるとしても。互いは互いを真に理解する事など出来はしない。そこには人種の違い以上の隔絶が、確かに存在する。人語を話せるから人だ、というのが既に人間側からの一方的な押し付けに過ぎないし、お互い不干渉を貫くのが最も幸福な選択だ」
 どこまで行っても互いが理解し合うことなど出来ないし、まして手と手を取り合い対等の関係で協力することなど不可能だ。契約、ただそれのみで繋がる関係が現状であり、そしてこの関係は決して深まる事はない。
 そもそも、人間同士さえ理解し合うことなど出来ないのだ。いつの世も争いは消えず、戦争で消える命は星の煌めきのよう。
 だと言うのに、根本的に存在方式が違う者たちと共に歩む事はできない。
 羊とライオンは友達になれない。結局は、それが現実であり、また変えてもいけない世界のバランスでもある。
「でも。だからと言って、殺していい理由にはならないと思います」
 アキラは、毅然として言い放った。
 殺す。相手が人でなかったとしても、知性を持ち心を持つ者の生を、そこで終わらせるという事。それは、生物が生きる為に獲物を狩るのとは根本的に性質が違うものだ。
 少なくとも、同族でなければ殺していい、なんて理屈を人間の社会は許していないのだから。
 人間の倫理観など、所詮は教育で塗り固められるものだ。
 例えば士郎の世界の埋葬機関にとって、人であろうとなかろうと異端は全て抹殺の対象であり、それこそが彼らにとっての絶対正義である。
 宗教的な観念を持ち出すまでもなく、この問題は各々の感情と感覚、属する社会への適合から判断されるもので、絶対的な正解など存在しない。
 故に。ネギやアキラが、感覚的に人ではない魔族を殺す事が悪い事だと感じたのなら、それはそれで正しいのだ。
 ただし、この人間の社会において、人を殺し得る存在を擁護するというのがどういう事か……それを知らねばならない。
「私がネギに説明した内容を聞いていたか?」
「はい、大体の所は」
 即ちそれは、殺さない覚悟だ。
 人間という社会において、その存在を脅かすもの。それら、悪と断じて良い者たちを“見逃す”という行為は、真っ当な人間には受け入れられるものではない。
 もしも、ネギがヘルマンを見逃した事で、後にヘルマンに傷つけられる人たちがいたとする。
 ネギはヘルマンに傷つけられた人たちに糾弾されるだろう。或いは、第二の復讐の対象にさえなってしまうかもしれない。
 それら、見逃した事で、殺さなかった事で発生するあらゆる責任を受け入れなければならない。それが、力ある者の責務だ。
 少なくとも、正義を謳うのならば。力で正義を成すのならば、最低限必要な覚悟だろう。
 だが、安直に殺せばいいかと言うとそうでもない。
 殺したのならば、殺した責任が付きまとう。同族殺し、同族の間で法による裁きを受けられるケースは、この場合除外しよう。
 魔族にも家族はあるし、愛する者だっているだろう。そうした遺族に恨まれる覚悟が必要だ。殺すのならば。それが、その生を断ち切り、己の安全を買うのに払う代償だ。
 魔族の社会において、例え召喚先で殺された事が恥であり、まして復讐など以ての外だと考えられていたとしても、それは変わらない。
 結局、殺しても殺さなくても、周囲にかける迷惑はそう変わらないという事だ。どちらを選んでも、復讐の対象となる可能性はあるのだから。
 けれど、それは己にのみ降りかかる災厄だ。殺す事で守れる人たちはいるかもしれない。
 その魔族が改心して以後人を殺すどころか、戦いの場にさえ現れないという事も、確かに可能性としてはある。
 それを信じるのは崇高だろう。聖者の行いだ。だが、極め付けの愚か者でもある。
 それで、そんな理由で、魔族に殺された者が納得できるわけがない。その遺族の悲しみが癒える事はない。
 だから最終的には、どちらを選ぶかだ。己の安寧か、名も知らぬ顔も知らぬ誰かの為の罪か。
「納得はできないかもしれないが、今回の事は正当防衛だよ。攻めてきたのは向こうであり、あの場で消さねば麻帆良に居られなくなるだろうからな」
 アキラの表情に驚きが混じる。反論しようと少しだけ開いていた口が閉じた。
 正当防衛という言葉に納得したわけではない。殺すのはいくら何でも過剰防衛だ、という言い分も間違ったものではない。
 アキラを揺さぶったのは、士郎が麻帆良から居なくなる、という点だ。それが、反論を忘れさせてしまうくらい、胸に響く。
「その、何でですか?」
「説明すると長くなるから省略するが、私の立場は中々危ういものがあってな。私に関連して問題が起こると、迷惑がかかる者も少なからず居る。私以外にも不利益が被るというのに、感情的な問題で手を止めるわけにはいかない」
 士郎は少しばかり言い辛そうに誤魔化した。
 具体的な事は何一つ説明していないし、微妙に本心とは異なっている。士郎は、タカミチや学園長に多少の迷惑が掛かっても、今回の事件程度の重要度ならば己の正義を追求する。
 例え破れ、既に諦めてしまった夢ではあっても、全てを救おうと行動してしまうのは半ば本能のようなものだ。衛宮士郎というニンゲンは、もうそれ以外の生き方など覚えていない。
 それに、タカミチは同じ側に立つ者だ。お互いに何かを守るため、救うために迷惑をかけられる事で怒ったりはしない。むしろ喜ぶぐらいだ。
 だから、士郎があの時ヘルマンにトドメを刺したのは、もっと別の理由だ。殺していいとか悪いとか、そういう土俵にもない精神論。
 戦いの場において、戦士にしか共感できぬ覚悟がある。殺し、殺される事を許容する覚悟。
 また、それとは別に魔族ならではの感情も、士郎はある程度理解できていた。永い時を生き、退屈でしょうがない彼らの感覚を。
 士郎は不死でもないし、遅いとは言え老いもする。エヴァンジェリンなどと比べればレベルが違うし、魔族と比べたところで、いまだ人間レベルの生しか知らない士郎とはかけ離れている。
 だが、それでも士郎が最早人間と呼べる枠に収まっていない事も事実だ。
 負けたのならば、潔く殺して欲しい。既にどうしようもない程に手遅れならば、既にセイギノミカタなど不要ならば、後腐れなく消して欲しい。
 生きているのに疲れる、という感覚。士郎に騎士道精神や戦いを楽しむ心など備わってはいないが、何かに挑み、その結果として果てるのならば本望という感情は理解できる。
 だから、トドメを刺した。実際にヘルマンを倒したネギではなく、士郎が奪うような形では甚だ不本意ではあったろうが、それでも。
 まぁ、その他様々な打算と配慮が入り乱れた結果に下した判断ではあるが、士郎は後悔していなかった。
 例えそれで麻帆良を追放される事になったとしても、だ。
「本当ですか?」
「何?」
 思わず質問に疑問符で返してしまうほどに、士郎は驚いた。表情にこそ出さなかったものの、嘘をついている……いや、本音を隠しているという事を悟られたと思ったからだ。
 だが、アキラの思惑は違った。
「本当に、何処かへ行ってしまうんですか?」
 そうだとは言い難い程、アキラの声音は真剣だった。
 実際、そう簡単には麻帆良を追い出されるような事もないだろう。少なくとも、士郎が麻帆良に残ろうと努力する限りにおいて、多少なりとも力技でどうにかしてしまう事はできる。
 だが、正直今の士郎にそこまでの熱意があるのかと言うと……そうでもない。
 刹那の刀を作り終えるまで、命の、様々な便宜への恩を返したら、またかつてのように旅に出ようと思っていた。
 タカミチのようにどこかの組織に所属するという事はないだろうが、このまま平穏の中で生きていくのに苦痛を感じ始めていた頃でもある。
 だから、アキラや刹那、明日菜たちが中学を卒業するまで。その辺りを区切りにしようと、漠然とながら考えていたのだ。
 そんな士郎の考えを、アキラは敏感に感じ取ったのかもしれない。
「……そんなの。そんなの、無責任じゃないですか!?」
 士郎が答えを返す前に、アキラはややヒステリックな金切り声で叫ぶ。
 立ち上がった反動で肩からかけていたタオルケットがずり落ち、アキラを見上げるような形になった士郎にそのシルエットを見せつける。
「士郎さんが麻帆良からいなくなってしまったら……私はどうやって……」
 自分の思いを貫けばいいのか。最後の最後、及ばない力を誰に借りればいいのか。
 結局、アキラは士郎に依存してしまっている。
 アキラの友達を守りたいという思いは本物だし、その為に人の力を頼るのも間違いではない。それに彼女は自分の手に余る事態に直面した時初めて士郎に頼るわけで、そもそもそれを指示したのは他ならぬ士郎でもある。
 だから、士郎にはアキラの糾弾を受け止める義務があった。無責任の誹りも間違いではない。
 だが。
「アキラ。しかし、私とていつまでも君の傍にいられるわけではない。君も卒業し、高校、大学……必ずしも麻帆良を出ていくとは限らないが、君の道を歩んでいく事になるだろう。そしてその道に、魔法など登場はしない」
 なら。ずっと一緒に居て下さい。私も連れて行って下さい。
    なんて。そんな事は言えなかった。
 今のアキラにとって、その思いがどれだけ真実でも、それは賢い選択ではないし気の迷いというやつだ。
 約束を思い出すまでもなく、それでは本末転倒なのだから。彼女が魔法を知りつつも、そこから逃げ出さなかった最大の理由を放棄する事になる。
 それでは意味がない。いや、最初からその理由が紛い物だったとしたらどうだろう?
 大河内アキラが魔法を受け入れたのは、友達を助ける為。友達と安全なところまで逃げ出す為。
 その前提に隠された、本人さえ自覚していない感情があったなら。
 いいや。それはきっと、一月前の春休みにはまだ存在しなかった感情だ。だから前提は間違っていないし、今ようやく表に出て来始めただけなのかもしれない。
 魔法という存在を知ってからの一月半。その期間に育っていた感情に、名前を付けることなどまだ誰にも出来はしないだろう。
 けれど、一つだけ言える事は、アキラの魔法に対するスタンスに、新たな項目が一つ付け加えられたという事だ。
「そう、ですよね。すみません、ワガママを……」
 しゅん、と座り込むアキラ。そのアキラに、士郎はかける言葉を探している様子だ。
「でも、もしもどこか遠くへ行ってしまうのなら……もう会えなくなってしまうのなら、ちゃんと教えて下さい」
「ああ……それは約束しよう」
 士郎がこの街を去る時は、この街での清算を終えた時。だから必然的に、別れも済ませるだろう。
 ただ、このワガママな押し付け、依存は、士郎にアキラという存在を強く意識させた。
 守らなければならない、と。
 ただ単純に、魔法を知られたから。その責任があるから。短い間とは言え、教え子であったのだから。そして何より、彼女はその他大勢と同じ、士郎が笑顔を守るべき存在だから。
 少なくとも突然にこの街を去ることになれば、アキラが取り乱すというイメージが士郎に植え付けられた。
 尤も、アキラ一人の存在だけで士郎が自身で決めた事をどうこうできるわけではない。だが、少なくとも麻帆良を出て行きづらくなったのは確かだった。
「あー、それで、この後どうする? 女子寮までなら送るが……」
 結局今夜の結末について、明確な答えが出る前に有耶無耶になってしまったが、今更あの話題を蒸し返すわけにもいかなかったのだろう。士郎は盛大に話題を逸らした。
 アキラはアキラで直前までの話題を忘れてしまったのか、彼女もまた蒸し返すのが億劫になっていたのか。その話題逸らしに便乗する。
「でも、流石にこの格好で外に出るわけには」
 未だシャツ一枚、中は下着もないような格好だ。いくら視線逸らしの術符があるといってもそれは勘弁してもらいたい。大体、ルームメイトに何て説明すればいいのか。
「しかしな……私の服は貸しても大きすぎるわけだし」
 アキラは女子中学生という規格で見るのなら十分長身だが、人類的に見ても長身の部類に入る士郎の服がぶかぶかになってしまうのは仕方のない事だ。
 おかげで現状、裸ワイシャツなんていうフィクションだけの単語だと思っていた言葉が実在しているわけで。
「朝倉か、明日菜あたりを呼びつけるか」
「それもちょっと、申し訳ないような」
「だが、それ以外に方法はないぞ? その格好で帰るか、友達に着替えを持ってきてもらうかだ」
「一応、コンビニで買い揃えるという手も……あ、勿論お金は払いますから」
「そういう問題じゃない。君は、私に女性用下着を買ってこいと言うのか?」
 脳裏にかつての記憶が再生されているのか、士郎は苦々しげに呟く。下着売り場に付き合うだけでも十分致死量だったのに、一人で買いに行けなどどんな拷問だと。
 ぶっちゃけ、そんな事を頼まれるぐらいだったら今すぐ麻帆良を出立した方がマシだと思うくらいだ。しないけれども。
「あ、いや、それは……私も恥ずかしいです」
 そりゃそうだろう。男慣れしていない女子校の生徒なわけだし、士郎だって気にされたいわけではないが気にしてもらわなければ困る。
「ふむ、やはり明日菜でも……あ、いや待てよ。そう言えば明日菜のがあったか。よしアキラ、少し待っていてくれ」
 そんな事を言って、士郎は店の方へ出て行った。
 店の方とは言っても、正確には居住スペースだ。主に明日菜や時折手伝ってくれる木乃香が休憩を取ったり、賄いを食べたりするのに使われている。
 要するにバイトの控室であり、そこにはウェイトレス用の服というものがあるわけで。
 ちなみに、明日菜用のロッカーというものは設置していない。単純にスペースの問題でそんなものを置く場所がなかったからだが、今は少しだけ感謝すべきだろう。
 一応この店の主とは言え、個人用に用意したロッカーなら開けるわけにもいかない。けれど、目当てのものはハンガーにかかっているだけだから、特に気にする必要もないだろう。
 そして、そのウェイトレスの制服を持ってアキラのもとへ向かった士郎だったが。
「コレ……着るんですか……?」
「………………やっぱりないか」
 まぁ、Yシャツだろうとウェイトレスだろうと、奇異であるのに変わりはない。一応、ウェイトレスの方がまだマシかなー? という程度であって、差はあるけど大差はないという感じだ。
「まぁ、この格好よりは……でも……」
 何やら葛藤しているアキラ。こういう時、下手に口を挟むと矛先が自分に向くと知っている士郎は口をつぐむ。
「ふぅ、もう諦める事にします。でも、した   
「言うな。そして気にするな。幸い明日菜のバイトはもう少し先だ。土曜までに……いや、返すのはいつでもいいからそのまま着てくれ」
 士郎的に、こんな事でエヴァンジェリンに借りを作りたくはない。服一着と刀一振りでは割に合わなさすぎる。
 新たに制服を調達するのは諦めて、明日菜には休みを取らせればいいだろう。
 そもそも現状のアルトリアはそこまでお客さんが多いわけでもない。流石に休み過ぎたようだ。悲しい事だが。
 だから休日であってもバイトを雇う必要はないのだが、一度雇ってしまうと解雇するのも難しく、そのままずるずるときているのが現状だった。
 それに、今からだとクリーニングに出す関係上どうせ間に合わない。なら、遠慮なく使ってもらった方がいいというものだ。
「では、着替えが終わったら呼んでくれ」
 士郎は店の方に退散する。反論を許さない、見事な逃げっぷりだった。
「コレ……どうやって着るんだろう?」
 一人残されたアキラは半ば呆然としたように呟いた。








 立夏を迎えたとは言え、まだまだ夜は肌寒い。深夜、人気のない道を歩いているから余計にそう感じるのかもしれなかった。
「士郎さん、一つ聞いてもいいですか?」
「ああ」
「もしも麻帆良に居られなくなったら……どこに行くんですか?」
「そうだな。どこ、と明確には答えられない。きっと、どこかの戦場を渡り歩くだろう」
「戦場……」
「そうだ。まぁ、麻帆良に定住する事はなくなっても、ちょくちょく訪れるだろうが」
「そうなんですか?」
「麻帆良にはタカミチがいるし、色々と動きやすいからな。追放されたとしても隠れて侵入するぐらいなら可能だし、長期滞在しなければ会いに来る事はできるだろう」
 タカミチだけでなく、アキラに会いに来る事も。
 また、アキラだけでなく、麻帆良で親しくなった人たちに顔を見せるぐらいの事は可能だろう。そして実際、友であるタカミチが居る以上、年に一回ぐらいならば麻帆良に訪れる可能性は高かった。
「だから、仮に私が麻帆良を出て行ったとしても気にするな。問題があればタカミチ……高畑先生を頼ればいいし、どうしても私に連絡を取りたいなら高畑先生経由で繋がるだろう」
 だから、心配しなくてもいい。
 ぽんっと、士郎はアキラの頭に手を載せる。なでるという程でもなく、その接触も一瞬だったが、アキラは耳まで赤くなった。
「ん? どうした?」
「い、いえっ。何でもないです」
 屈んでアキラの顔を覗き込もうとする士郎に、アキラはさらに俯いてバタバタと手を振り顔を隠す。
 普段は   特に士郎に見せる表情は、毅然としたものが多いアキラにしては珍しい反応だった。
 だから、士郎も新鮮に感じてしまう。少しだけ、イリヤにしていた扱いを思い出してしまったのかもしれない。
「それじゃあ、ここまででいいです」
 見上げれば、もう女子寮はすぐ近くだった。本当ならば、せめて玄関までは送り届けるのが務めというものだろうが、この時間に女子寮に近づくのは社会的に危険過ぎる。
 一応視線逸らしが機能しているとは言え、それが効かない人間もここには多いわけだし。後、愛衣あたりに見つかるとそれはそれで面倒だった。主に高音方面で。
 だから、士郎としてはその申し出はありがたい。
「そうか」
 短く士郎は答える。だが、その場からは動こうとしない。
「あの、帰らないんですか」
「うん? ああ、一応アキラが寮に入るまではな。私としても、送り届ける以上は責任を持ちたい」
「でも、見られているとちょっと……その、こんな格好ですし」
「なかなか似合っているぞ?」
「もう、茶化さないで下さい! 恥ずかしいんですから」
 はは、と軽く笑い声を出しながら士郎は背を向けた。正面から士郎の顔を見れたなら、アキラはそのニヤニヤとした表情に怒っていただろう。
「ではな」
 今度こそ本当に、士郎は去った。いや、もしかしたらまだ遠くから見ているのかもしれないが、少なくともアキラには分からない。
 アキラは士郎の人間離れした視力の事も知らないのだから、気にしようもないのだが。
「はぁ。それにしても、何だか良く分からなくなっちゃったな……」
 独り言は闇に溶けた。月は出ていない。明かりは街灯だけで、もう寮には明かりがついている部屋もなかった。
 正直に言えば。
 アキラは衛宮士郎という人間が分からなくなった。今まで色んな顔を見てきて、助けてもらって、少しだけ憧れて。
 兄がいればこんな感じなのかな、なんて。具体的に言葉にしたわけではなかったけれど、そんな感情を抱いていた。
 けれど今夜、人のカタチをした者に、躊躇いなく剣を振り下ろす姿を見て分からなくなった。
 理由は、分かる。納得できるかは別として、アキラにもその考えは理解できた。
 でも、心の奥底で、やはりあの行為は受け入れられるものではなかった。
 士郎本人の人柄は疑うべきものではなくて、信じられる人間だとは思う。けれど、相容れない側面もまたあるのだと知ってしまった。
 理想なんて、存在しない。どこまで行っても、完全で完璧である事なんてなくて、結局現実なんて“そんなもの”だと。
 夢は決して叶わない、とでも悟ってしまったのかのような寂しさがあった。
 衛宮士郎という男もまた、アキラの願望通りの人間ではなく、恐ろしい面もあれば愉快な面もある。
 どんな非日常を体験したところで、その人の事が分かるわけはない。だからこそ知ろうとするのだし、だからこそ価値がある。
 そんな、当たり前のようで大多数の人間が気づかなくてもいいような事を。
 この夜、アキラは知ったのだった。







    ◇            ◇









 そろそろ、夜が明けようとしていた。
 空は薄らと明るくなり、名前は分からないが鳥も飛んでいる。じきに星は見えなくなるだろう。
 あと1時間もすれば、この広場にも人が見えるようになる。だが、今はネギただ一人だった。
 口を開ける事はない。ただ、ぼーと空を見ている。
 けれど、いつもよりは遥かに回転が悪かったけれど、確かにネギの頭は動いていた。士郎に言われた言葉を、ヘルマンとの戦いを考えていた。
 そして、結論として。自分はまだまだ子供で、知らない事が多すぎるのだと。そう、痛い程に感じてしまった。
 あの悪魔は、ネギの仇だ。それは事実で、だからこそネギはトドメを刺さなかった。
 本当に、ネギにはあの悪魔が悪しき存在だとは思えなかった。ただ命令を受けただけで、やりたくてやったのではないとしたら……例え許す事ができなくても、復讐したいとまでは思えない。
 ネギは被害者であり、復讐者だ。だからこそ、自分が復讐したい相手は、怒りをぶつけたい相手はこの人ではないと感じたからこそ、見逃すという選択に至ったのだ。
 憎み、復讐する権利があるとしたら、その対象を己で決めるのもまた権利だ。理屈ではなく、ネギにはそうしたルールが存在したのだ。
 けれど、士郎に言われたように視点を変えてみたらどうか。
 例えば。今のネギと同じような境遇の人が居て。どこかであのヘルマンが、ネギの村を襲う前に倒されていたとしたら。
 結果は変わらなかったろう。村の襲撃という大事が起こったのは変えようがない。いくら爵位級とは言え、一体欠けたくらいで大勢が変わるような規模じゃなかった。
 けれど。ヘルマンがあの時いなかったら、スタンは石化から逃れていたかもしれない。ネカネも足を失う事がなかったかもしれない。
 そう考えた時、果たして自分は耐えられるのだろうか。
 ちっぽけな自己満足で悪魔を見逃した、今のネギと同じ誰かを認める事ができるだろうか。
 そんな事を考えて、ネギは沈んでいた。許せない、と結論が出てしまうからだ。
 理性的には、それほど変化がないと分かっているのだ。ヘルマンがいなくとも、別の悪魔が二人を害していたかもしれない。
 そんなIFの世界なんて、誰にも分からない。だがしかし、ネギとネカネ以外に誰かが助かる可能性があったのなら……その可能性を潰した人間がいたとするのなら……きっとネギは許せない。
 そしてその、可能性を潰した人間というのは他ならぬネギになるところだったのだ。
 いつか有り得るかもしれない未来において。もしかしたら、ネギと同じ境遇を強いられる者が出てくるかもしれない。
 もしもその原因が、ネギが見逃した者だったのならと思うと、ただ苦しかった。
 考えが至らなかった。子供だった。何も知らなかった。知らずに戦っていた。分かった気になっていた。
 それは、ネギが被害者であるからこその傲慢であったのかもしれない。
 復讐者の目的は、ただその恨みを晴らす事だけだ。他の余分な物は、全て暗色に塗りつぶされてしまう。
 だから、本来ならば周りの迷惑など気に掛けない。守るべき存在なんて作ろうとしない。
 その衝動は理性ではないのだ。ただ思うが侭に事を成すだけである。
 だが、ネギの場合は違った。
 理性がある。守りたい人もいる。大切なものがある。叶えたい夢がある。追いつきたい背中がある。
 それがどんなに上辺のもので、その心の奥底にどんな感情が沈殿していたとしても。
 そんな飾りを身につけてしまっているのが、ネギ・スプリングフィールドという少年なのだ。
 だからこそ歪である。士郎が全てを失ってしまったのに対して、ネギには残るものがあったからこそ。
 プラスもマイナスも中途半端だ。それは決して相殺してゼロになるものではない。
 むしろ、士郎のように完全に完璧に、他の追随を許さぬ程に異質であったのなら、邪道なれどたどり着けたかもしれない。
 けれど、ネギには資質があった。正道を歩めるだけの血が、彼には流れていた。
 そして今、ネギは正しい道を歩いている。その本質に関わらず。その歪みに関わらず。
 それはいつか、ネギ自身を裏切る事になるだろう。ネギ自身が、その想いを裏切ってしまう事になるだろう。
 けれど、今のネギにはそこまでの事は分かっていないのだ。
 彼はまだ子供。良くも悪くも可能性がある。流され易く、他人の意見に左右され易い。
 士郎の言葉だけが絶対的なものではないと、ネギの選択も、貫くのならばまた間違いではないのだと、それを教えてくれる人間は誰もいなかった。彼の側には、誰も。
 教えてやる事が、できなかったのだ。
 










刹那「……………………私、ヒロイ……いえ、何でもありません……」(拍手)
 
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1話から読み続けちゃいました^^
面白かったです、これからも執筆がんばってください。

2009.12.05 | URL | 羊羽 #- [ 編集 ]

何を言われずとも士郎の後を追いかけていくアキラの姿を、その他の面々はどういう目で見てたんでしょうね。学校で顔をあわせた時の反応が楽しみですw

2009.12.05 | URL | さぼてん #- [ 編集 ]

Re: タイトルなし

ありがとうございます。これからペースは落ちてしまうと思いますが、長い目で完結までお付き合い頂ければ幸いです。

2009.12.05 | URL | 夢前黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

Re: タイトルなし

> 何を言われずとも士郎の後を追いかけていくアキラの姿を~
うーむ、言われてみればその辺書くのも面白そうな……書くなら番外編かなぁ。
でも、魔法関係者はおおっぴらに聞くわけにもいかないでしょうしね。使うなら朝倉、かな。

2009.12.05 | URL | 夢前黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

アキラが自分の弱さを他人に押し付け
その上、助けて貰った恩人に対して否定的意見し
且つ、無責任と罵倒する態度は気持ち悪い。
現実に身近にこういう人物がいたら、近づきたくないな。

2010.12.19 | URL | okaman #qE.xeqmQ [ 編集 ]

Re;okamanさん

感想ありがとうございます。
ただ、私が伝えたかった事は上手く伝わっていないようで……次こそは伝わるように表現できるよう頑張ります。

2010.12.19 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


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