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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第46話


「衛宮士郎調査レポート」


 世界樹広場。告白スポットとして有名で、学園生たちの憩いの場として活用されている。
 だが、深夜ともなれば人影はない。近くの店は全部閉まっているし、この時期この時間に世界樹広場に用がある人間はいないだろう。逢引き場所として昼間は重宝されていても、夜間この辺は不便でしかない。
 そんな中で、広場の一番高いところに陣取る少女の姿は異質に映った。
「いい夜だな、エヴァンジェリン」
「貴様か。お前も見学に来たのか?」
「ああ。一応、ネギの姉からは色々と頼まれている立場なのでね。成長具合を確認しておこうと思ってな」
 俺に修学旅行時の記憶があれば、ネギの実力もある程度把握できていたのだろうが。
 実戦を経験して、エヴァンジェリンとの戦いからどれ程成長しているかは楽しみではある。
 それに、そろそろネカネへの手紙に書く事がなくなってきた。ネギの話題を仕入れる為にも、確認はしておきたい。
「フン、そんなに気になるなら貴様が弟子に取れば良かろう。貴様ならその実力があるはずだ」
「ほう? それでいいのか、エヴァンジェリン」
 エヴァンジェリンが苛立ちを露わにして睨みつけてくる。
「どういう意味だ?」
「お前にとっても、スプリングフィールドの血を身内に入れる事は重要なはずだ。鍛え上げれば、その封印を解く事も或いは可能かもしれないしな」
「ハ、遠大過ぎる計画だな、それは。ぼーやを鍛えるよりは、別の手段を模索した方が遥かに早いわ」
 確かに。今のネギなどひよっこに毛が生えた程度だ。膨大な魔力があろうとも技術がなければ宝の持ち腐れ。
 しかも、ネギ自身の気性は力任せに物事を解決するタイプではなく、悩んで悩んで、答えを出したつもりになってもどこか自分自身に自信を持てないタイプだ。
 精神鍛練だけでも、荒療治なしでは10年かかる。単純な戦闘能力に関しては、まだまだ未知数ではあるが。
 今日の結果で、ある程度の目星は付くだろう。
「それに貴様。弟子など取るつもりはなかろう?」
「これでも弟子は多いぞ」
 広義的な意味でなら、だが。
 タカミチには確かに魔術を教えているが、弟子というよりはやはり友だ。
 桜咲とは最近剣を合せていない。弟子というよりは、修行仲間か。剣の稽古には、俺としても丁度いい相手だった。
 高音や佐倉も、弟子だと言うほど思い入れはない。いざとなれば、俺はあっさり放り出してしまうだろう。その宣言もしているし、二人に覚悟あるかは別として最後まで面倒を見るつもりなど更々なかった。
 だから、タカミチがその師匠を想うような……そんな弟子は、俺にはいない。持ってもいけないと思っている。
 俺は、本来人に何かを教えられるほど健全な生き方をしてこなかった。伝えられる事など何もないし、伝えていい事でもない。
 そういう意味では、やはりタカミチは特別だ。あいつは、俺と同じ魔術使い。それだけで、この世界のあらゆる存在よりも、俺と近しい場所に居る。或いは、数多の魔術師たちよりも近い場所に。
「英雄の息子だからな。中途半端をすれば黙っていない連中も多いだろうさ」
「そうだな。ならばエヴァンジェリン、君は本気というわけだ」
 嫌そうに顔を歪めて、けれどもエヴァンジェリンは首肯した。
「まぁな。やるからには徹底的に、だ」
 ただ問題は。エヴァンジェリンが付け加える。
「ぼーやにその覚悟あるのか、だな。才能も――何より覚悟が。中途半端と言えば、そちらを心配すべきだよ、衛宮士郎」
「それは、そうかもしれないな」
 どんなに早熟していたとしても、実体は10歳の子供だ。
 子供でも男だ。と、いくら本人が考え、それに見合うだけの力があったとしても。
 大人にとって、子供とは無条件で子供である事に違いはない。守るべき対象なのだ。いくら力があろうとも、その精神は守らなければならない。導かねばならない。それが周囲にいる大人の責務だろう。
「だがエヴァンジェリン。君はあまり心配していないようだな」
 鋭い眼光でありながら、それでも隠しきれない高揚感が伝わってくる。英雄の息子の才能に興味があるのか。惚れた男の息子を、自分の手で育て上げる事に固執しているのか。
 尤も、ネギがエヴァンジェリンの期待値に届かなければ、彼女は呆気なくネギを捨て去るだろう。その才能に興味を失い、その人格を軽んじて。
「ええ。面倒だと言いながら、マスターは最近ネギ先生の事ばかり口にされます」
「こらっ! 茶々丸、嘘を言うな嘘を! ああっ、衛宮士郎! 貴様何を笑っている!」
「それは笑うだろうさ。くく、成程。素直になれないお年頃か」
「ふざけんな! 何がお年頃だ」
 見た目はそんな感じではあるんだけどな。
 まぁ、確かに600歳ともなれば肉体に縛られた精神であろうとも、老成しているだろう。或いは、一周して幼くなってるのかもしれないが。
 しかし、さっきまでのシリアスな空気がぶち壊しだな。
「そう言えば。明日菜は試験が難しいようだと言っていたが、どんなもの何だ?」
「私と戦い、一撃を入れる事です」
 むくれて視線を合わせようとしないエヴァンジェリンに代わって、茶々丸が答えた。
「しかしそれでは、そう難しくないだろう」
 一撃だけなら、魔法の矢一斉掃射であっさり片が付く。開始位置によっては呪文を封じられる可能性もあるが、条件が分かっているなら対策も打てるはずだ。
 茶々丸に、何か俺の知らない防御系の武装があるなら別だが。
「いえ、現在ネギ先生は古菲さんにカンフーを習っており、それに嫉妬したマスターが、ならばカンフーで私に一撃入れて見せろと」
「いちいち何を余計な事を言っている、このポンコツが! 何だ、いきなり反抗期か!」
 エヴァンジェリンが喚いていて煩いが、成程事情は分かった。
 確かにそれは難しい。ネギに格闘センスがあるのかどうかは知らないが、素人の付け焼刃では達人には敵わない。
 俺も、茶々丸の実力がどれ程のものなのか、正確なところは分かっていない。ただし、下限だけは、前回の戦闘で理解している。
 そこから推測するに、茶々丸はロボットの癖に中々の腕前を誇っている。魔力で身体能力を底上げして、スピードとパワーが追い付いたとしても、ネギに勝ち目はないだろう。いや、そもそもそれらスペックさえ追いつけるかどうか。
 俺の知らない修学旅行で、どれ程の成長を遂げていたとしても。やはりネギに、勝ち目はない。
 茶々丸が手加減しない限りは。
「最近おかしい茶々丸に対するお仕置きはまた後にするとして。いいか茶々丸。決してぼーやに手加減するなよ。一撃当てれば合格など、本来破格の条件だ。これでダメならぼーやが悪い」
 エヴァンジェリンは、中々大きな期待をネギに寄せているようだ。
 確かに、エヴァンジェリンが期待するレベルになろうとするなら、それぐらいの試練は乗り越えてしかるべきだろう。予想の範囲内に収まる程度では、まだ甘い。それでは届かない。限界を超えた先にこそ、輝くものはあるのだから。
 とは言え、実際のところ、やはりエヴァンジェリンとしてもネギを弟子に取れないと困った事になるだろう。
 スプリングフィールド、英雄の血を味方につけるというのは、この学園での鬼札を手に入れると同義。
 少なくとも、最も影響を与える存在になる事は、この学園に縛り付けられ退屈を持て余している彼女には中々有意義なものだろう。
 俺に対する牽制もある。ネカネに頼まれたというのもあるが、実際俺がネギに手を上げてしまえばもうこの学園に居場所はない。俺に圧倒的な義があれば学園長の援護が期待できるが、それも状況次第だ。
 この前、エヴァンジェリンとネギの決闘に横槍を入れた事もある。エヴァンジェリンが、俺に対する防護策の一つとしてネギを使うのは、中々上手い手ではあった。
 タカミチも敵に回ってしまうしな。それは避けたい。
「もうすぐ時間か……衛宮士郎。貴様、余計な手を出すなよ」
「ああ。出す意味も、メリットもないからな」
 これは本当。ネギの将来を考えるなら、闇とは言え最強の魔法使いに教授を受けられるのは確実にプラスになるだろう。
 別に文句はない。ネカネには報告できないな、とは思ってしまうが。
 そして同様に、ネギがこの試験に落ちても文句はない。
 英雄の息子が、必ずしも強くなる必要はないだろう。本人がそれを望んでいるとしても、だ。
 それに、ネギは些か急ぎ過ぎている。俺と比較するのもおかしいだろうが、俺が10歳の頃など戦いなんて全く分かっていなかった。ただ漠然と、テレビの中のヒーローに憧れていた程度である。幼いころから力を得るなんて、碌な事にならないだろう。
「エヴァンジェリンさん! ネギ・スプリングフィールド、弟子入りテストを受けに来ました」
 時間がきた。ネギが、観衆を引き連れてやってくる。
「あれ? 士郎さんも来てたの?」
「ああ」
 明日菜が俺に声をかける。そのままクラスメイトたちも全員明日菜に従い、俺の方にぞろぞろと歩いて来た。
「その後どうですか、士郎さん」
「いや、変わりない」
 桜咲が尋ねてくる。俺は、小声で返答した。明日菜たちには記憶喪失がどうの、という話はしていない。
 下手に心配されても面倒なだけだ。知ってるのは桜咲だけでいい。
「その割には、色々と不穏な噂を耳にします」
「そちらは問題ない。いずれ片がつくさ」
 桜咲は納得していない様子だったが、その場で追及してくる事はなかった。ネギと茶々丸は既に向かい合っている。桜咲もネギの試験の行方を見守るつもりなのだろう。
 他の生徒たちも、みな戦いの始まりを待っている。唯一アキラだけは、俺の方をちらちらと横目で確認していたが、やがて他の者と同じようにネギに声援をかける。
 試験が、始まる。








 実力的に、ネギでは茶々丸に敵わない。
 それは最初から分かっていた事だ。故に、どのようにして茶々丸に一撃入れるのか、となった際に最も効果的なのはカウンターである。
 と、ネギは考えたようだ。
 それは間違った考えではない。パワーやスピード、そもそも実力というものを構成する要素において大敗している相手に、尚も勝利を掴もうとするのなら、それしかない。
 が、それはあくまで経験に基づくもの。素人では成功率があまりにも低い。俺のように、剣から経験を引き出せるような、そんな反則があれば別だが。
 いや、ネギの才能は反則というレベルだろう。本当にたった数日の修行でここまで至ったのかと、ただただ驚嘆するばかりだ。俺などとは比べモノにならない才能。正直羨ましいほどだ。
 だが、それでも俺は今のネギに脅威など感じない。同じように、ネギ決死のカウンターは、それを読みきっていた茶々丸に軽く避けられる。
 ネギの攻撃は、素直過ぎた。眼を見れば狙いが分かるし、筋肉の使い方、強張り方でタイミングや手段まで読める。
 これは性格だろう。騙す事に長けていない。だがそれは、決して悪いことではなかった。騙す事ができなくても、騙されなければ問題ない。正面から立ち向かう才覚を持っているというのだから、時間をかければやがて経験が追い付く。
 ここで諦めさえしなければ。勝ち目がないと分かっていても、全てを出し尽くして、納得できるまで足掻けるのなら。
 ネギは、諦めないという点においてエヴァンジェリンが危惧していた覚悟を示している。エヴァンジェリンが、この試験の結果に厳密に拘るか、温情をかけるかは分からない。
 だが、これだけ根性があるのなら、例えエヴァンジェリンが弟子にとらなかったとしても、何とか俺の方で師匠を紹介したいとは思える程だった。最悪の場合、性悪な司書をエヴァンジェリンには内緒で紹介するか。
「あの、士郎さん。ネギ先生を止めてあげないんですか?」
 おどおどと、心配でたまらないといった表情でアキラが俺の袖を引っ張った。俺は一人離れて見ていたから、その声は俺にしか聞こえなかっただろう。それだけ小さな声だった。
「ああ。及ばないにしても、納得できるまでやらせてやるべきだ。死ななければ、傷は治る」
「そんな……死ななければいいなんて、本気で思ってるんですか?」
「ああ。茶々丸は上手いからな。本気でやっているのは確かだが、致命的なダメージが残らないように考えて攻撃している。そんなに心配する事はないさ。それに、ネギも今更口では止まらん。止めるなら、ネギを気絶させるつもりで攻撃しなければな」
 それはつまり、今茶々丸が繰り出している以上の攻撃で意識を断つという事だ。それでは、本末転倒だろう。
 まぁ、これ以上傷が増えないというのはあるかもしれないが、今言ったとおり茶々丸の攻撃は計算されたものだ。薬にもよるが、全治に1週間もかかるまい。今は腫れあがって痛々しく見えるが、腫れさえ引けば大した傷ではないのだ。
 それでもアキラは納得していないようだったが、続けて抗議の声を上げる事はなかった。明日菜たちがそれ以上に騒ぎだしたからだ。
「もう見てらんない。止めてくる!」
 まぁ。明日菜の気持ちも、分からないではない。
 明日菜にとって、ネギは可愛い弟なのだろうし、保護者としての立場であるなら止めたい、これ以上傷つかないで欲しいと思うのは自然な感情だろう。
 だが、ここで明日菜に止められてはネギが可哀想だ。俺は明日菜を止めようと一歩踏み出す。けれど、その行動は未遂に終わる。
「ダメっ、アスナ! 止めちゃダメー!」
 佐々木が両手を広げて、明日菜の行く手を阻む。
 目に涙さえ浮かべて、彼女もまた心配でないわけではないのだろう。止めたいと思っているのだろう。けれど。
「でも、あいつがあそこまでボロボロになるような事じゃないよ!」
「違う、違うよ……ここで止める方がネギくんには酷いっ。ネギくんあんなに頑張ってきたじゃん! その頑張りを無駄にする方が、ずっと辛いよっ」
「あんなの、子供のワガママじゃん! そんな意地より体の方が大切でしょっ」
「違うよっ。子供の意地っ張りじゃあんなに頑張れない。ネギくんは、大人だよ」
 そこで、佐々木は大きく息を吸った。
「ネギくんには覚悟があって、目的があるんだと思う。あんなに殴られても諦められないぐらい、強い目的があって……頑張ってるんだもん。止められないよ」
 正論。この場合、エゴを振りかざしているのは明日菜の方だ。
 それに気づいたのか、明日菜も語気を弱めて佐々木を見つめる。
 ふとエヴァンジェリンの方を見ると、顔を赤くして照れていた。今の場面の一体どこに、彼女が照れるような場面があったのか理解できないが、その姿は常時より5割増で外見年齢相応に見える。
 と、その時。
「あ、オイ茶々丸!」
 エヴァンジェリンの叫びで茶々丸の方に視線を戻すと、流し目で佐々木と明日菜のやり取りを確認していた茶々丸の不意をついて、ネギが拳を振りかぶっているところだった。
 普段の茶々丸ならば、その程度見えていなくても回避が可能だっただろう。しかし、茶々丸は動かなかった。それとも、完全に佐々木の話に意識を集中させていて、動けなかったのか。
 どちらにせよ、結果が全て。
 倒れこむように、否、倒れこみながらのパンチは、確実に茶々丸の頬に触れた。一撃は、入った。
 どさっと倒れこむと同時、見学していた者たちが歓声を上げる。
「やったー!」
「コラー、茶々丸ーッ!」
 更に同時に、エヴァンジェリンの茶々丸を叱咤する声も連なる。生徒たちがネギを取り囲むように駆けよる中、俺はエヴァンジェリンに近づいていった。
「良かったな、エヴァンジェリン」
「フン、何がいいものか。全く茶々丸、気が緩み過ぎだぞ」
「申し訳ありません、マスター」
 茶々丸は、ロボなのに本当に悲しそうな声音で俯いた。この技術力は本当に凄いと感心する。
「まぁ、終わった事は仕方ないがな……はぁ、弟子か」
「溜息の割に嬉しそうだぞ、エヴァンジェリン」
「どこがだ! 全く、茶々丸への悪影響はお前が原因ではないだろうな」
「さぁな。ロボは門外漢だ」
 実際の所。こうしてネギが弟子入り試験に合格した事で、俺達の自由度は減る。
 というのは、別荘使用についての問題だ。俺とタカミチの修行、特に魔術に関する事はネギに見せるわけにはいかない。
 情報漏洩を防ぐという意味合いもあるが、何より魔術は毒のようなものだ。ネギのように健全で正統な魔法使いには必要がないどころか、害悪にしかならない。
 だから、例えエヴァンジェリンがあらかじめ条件を出していなかったとしても、俺達は自主的にスケジュールをずらしただろう。
「茶々丸。修行の予定は、私の携帯に送ってくれ」
「分かりました」
 もうこの場にいる理由もない。まだネギは目覚めていないが、じきに目を覚ますだろう。
「明日菜。今日と明日のバイトは休んでいいぞ」
「え? でも……」
「ネギの手当をしてやれ。最近客も少ないからな。一人でも回るさ」
 実際、バイト代は喫茶店以外の仕事で賄っているし。現状でバイトがいらないのもまた事実。
「ごめん、この埋め合わせは必ずするから」
「ああ。まぁ、あんまり気にするなよ」
 さて。帰って開店の準備をしなければな。








   ◇               ◇












「呼び出して悪かったね」
「いえ。それより、衛宮士郎についてとの事でしたが?」
 そこは、明石の研究室だった。今は研究生たちはいない。部屋の中にいるのは、明石とガンドルフィーニの二人だけである。
「うん。僕の方でいくつか手に入れた情報を纏めてみたんだ。君の判断も聞きたくてね」
「これは……流石ですね。よくぞここまで集めたものです」
 そのレポートは、確かに現状最も衛宮士郎についての情報を網羅していると言えるだけの代物だった。
 士郎が麻帆良に現れるまでの空白についての考察、彼の戦闘技術で確定しているもの、所有武器、実際の行動、武装や能力の使用状況など。
 修学旅行での戦いも含まれた、現在分かる限りの範囲で纏めてある。
 その中には、噂として千の刃、ジャック・ラカンに勝利した、などという眉唾ものの話も存在する。
 そしてそれぞれの噂や情報について、明石の詳細な考察がなされていた。
 ガンドルフィーニは無言で読み進め、読み終わったタイミングを見計らって明石が口を開いた。
「僕の考えはそのレポートに書いた通りだ。君はどう思う?」
「脅威を再確認した、というところですね」
 ガンドルフィーニが着目したのは士郎の超遠距離射撃についてだ。その精密性と、威力。主に修学旅行の際のデータだが、それは世界最高クラスの魔法使いであると考えてさえ、特殊と言わざるを得ないものだ。
 特に、威力だけではなくその精密性。加えて、追尾性能などの付加要素。
 確定しているだけで射程1キロの大威力狙撃だ。遮蔽物の多い市街地戦であるからこそ、それは脅威となる。
「しかし明石教授。貴方はそこまで危険視していないようですね」
「いや、僕も彼の存在は危険だと思う。でも、御せると思うだけだよ」
 現状、問題らしい問題はないのだ。あるとすれば、それは魔法先生たちの側にある。
 衛宮士郎のような、過去も全く分からないような男は信用できない。麻帆良学園に置いておくべきではない。
 そう騒ぎたてる事だけが、現状の問題だった。
 特に士郎が誰かを襲ったという事実があるわけでも、魔法バレに対する対処能力が著しく欠けているわけでもない。積極的にコミュニケーションを取ろうとしないという所はあるが、許容範囲だ。
 つまり、明石の目的は、衛宮士郎を危険視する集団の根絶。せめて、中立側に来てもらう為の説得にあった。
 それが一番リスクが少なく、確実で、メリットが大きいと判断したのだ。明石個人としてではなく、麻帆良学園として。
 明石は、士郎が京都から麻帆良に帰ってくる時検査を強く推すなど、一方的に受け入れるわけではないという中立のスタンスを誇張する為の行動を取っている。
 それは意図的なものであり、中立という立場はこの説得工作に必要不可欠なものだった。
 ただでさえ、容認派は魔法生徒の層が大きい。言いくるめ易い者たちを騙しているのではないか、なんていう疑いもかけられている士郎だ。慎重を期すのは必要な事だった。
「しかし彼は、あの闇の福音と関わりがある」
「それは、むしろプラスになる事だと僕は考えているんだ。いいかい、これは闇の福音本人に確認を取った事なんだけど……」
 明石は士郎とエヴァンジェリンの敵対関係を明かした。
 と言っても、一度明確に敵対した事があるという事実、そしてその際に行われた戦闘。
 それだけでは、エヴァンジェリンよりも士郎の方が強いという結果に終わってしまう。けれど、修学旅行の事まで含めると、実力は逆であるという結論が出てくるのだ。
 衛宮士郎では倒しきれなかった相手を、エヴァンジェリンは軽く打倒している。そこに士郎の疲弊などは関係ない。実際にぶつかり合えばどちらが勝つという問題でもなかった。
 その威力を、士郎が恐れているという事実。エヴァンジェリンが封印を解こうとすれば、士郎も妨害に動くという行動原理。
 つまり、エヴァンジェリンを上手く使うことで士郎に対する抑止力になるし、士郎をエヴァンジェリンに対する抑止力としても使える、という事だ。
 また、士郎がエヴァンジェリンに恐れを抱くのなら、学園長でも士郎を止められる可能性を示唆している。
 実際に戦えばどうなるかは分からないが……少なくとも、抑止力としては十分な戦力ではあるのだろう。
 学園長の実力というのも、戦った姿を見た事がない魔法先生たちからすれば衛宮士郎以上に闇の中なのだが、それでも今この学園のトップという地位についている事が何よりも雄弁に語っている。
 エヴァンジェリンを、封印されているとは言えこの学園に置いておけるのは、有事の際には何とかできるだけの力を持っているからだ、とも噂されているのだし。
 そういう意味では、士郎とエヴァンジェリンが結託する事こそが最も恐ろしかった。今の士郎とエヴァンジェリンの表面的な付き合いを見れば、それは結託していると取られてもおかしくはないが、明石は確りと裏を取っている。
 結託しているのなら、仲間が不利になるような情報を漏らしたりはしないだろう。エヴァンジェリンはエヴァンジェリンで、士郎と学園の仲が悪くなるように仕向けたいという思惑があるのだ。
 ただでさえ、タカミチと士郎のタッグは現状確実に学園最強なのだから。
 タカミチが、学園を裏切って士郎に付く事はあり得ない。タカミチと士郎の距離を離そうとするのなら、士郎に学園との不仲になってもらうしかない、というのがエヴァンジェリンの判断だ。
 そう思い、修学旅行中に突然明石が来訪した時も、学園にとって脅威となるような話を選んで話している。自分がやられた、などという、普段ならプライドが許さないような情報までも。
 しかしそのエヴァンジェリンの思惑とは裏腹に、明石は士郎とエヴァンジェリンの複雑な関係こそが、双方に手綱を付けるための方法だと考えた。
 それが、今ガンドルフィーニが読んでいたレポートの主題でもある。
「しかし、そう上手くいくとは思えない。私たちは、何度も衛宮士郎に虚を突かれてきたでしょう」
 気がつけば、反対する間も与えられないまま麻帆良の中枢と対等な関係にあった。形式的な権限がないに等しいとしても、学園長に直接話をつけられるというだけで実質的な権限は推して知るべしだ。
 それを、士郎がほとんど使った事がない、という事実があったとしても。
 やはり、それらの疑心暗鬼には最初のイメージがある。あまりに圧倒的だったのに、憧れるには泥臭過ぎる。
 結局は、そんなものなのかもしれなかった。
「それに、エヴァンジェリン本人からの証言など信用できません。これからの指針とするには不確定要素が大きすぎる」
 一度疑心暗鬼に陥れば、疑うところなどそれこそ無限に存在する。
 どんなに綺麗な姿を見せたとしても、それさえブラフなのではないかと疑うようになればどうしようもない。
 それに、ガンドルフィーニにとってエヴァンジェリンという名は大きすぎるものだった。子供のころから恐怖の対象として教えられてきた、伝説的な存在だ。
 それを策に組み込もうなど、正気の沙汰とは思えない、というのが彼の正直な感想である。
 彼からしてみれば、早く衛宮士郎なんていう危険要素は排斥してしまえば全てが解決すると思えるのだ。
 結局、士郎が野放しになっている状態と、この学園に縛り付けてある状態どちらが恐ろしいか、という価値観の違いになってくる。
 まだ野放しの方がいいとするガンドルフィーニは、狭視的であるわけではない。外への派遣でも問題を出していないのだから、フリーとしてならどこにも責任が掛からず問題がないと考えているだけなのだから。
 ならば何故学園内ではダメなのかと言うと、自分たちの責任が云々というよりも、組織としての枠組みが問題になる。
 士郎は、孤独を好む性質だ。周りとの協調性が皆無とは言わないが、少なくとも今までの対応を考えると優れているとは言えない。組織とは相いれない存在なのだと。だからこそ、組織の切り札として保有する事は危険過ぎる――というのが、ガンドルフィーニの意見だ。
 明石にしても、ガンドルフィーニにしても、その意見はどちらとも的を射ており、どちらも矛盾を抱えていた。
 それは仕方のない事だ。士郎自身が未だ迷い、矛盾を捨てきれずにいるのだから。
 唯一、漠然とした理解を示しているのがタカミチだけではどうしようもない。明石もガンドルフィーニも、いや、この学園のタカミチ以外の全ての人間が、根本的に士郎を勘違いしているのだ。
 それも、自然な事ではあったのだけれど。
「では、ガンドルフィーニ君は意見を変えるつもりはない、と」
「ええ」
 正直、明石は少しばかり脱力していたが、これも予想の範囲内ではあった。そう上手く事が運ぶとは思っていない。
 ただ、士郎について良く知っておくことが重要なのだ。
 仮に、万が一。明石の努力が実らず、士郎が敵に回ってしまった場合。
 少しでも対抗できるように。このレポートは、その為の準備でもある。
「うん、ではこのレポート、他の先生方にも見せておいてくれないかな。学園長先生には、まだ内密で」
「何故ですか?」
「学園長先生から、衛宮くんに伝わる可能性もあるからね。それに、勿論タカミチくんにも秘密だ」
「それはそうでしょうね。少なくとも、今は現状維持に努めるべきだ。対策を立てるのはともかく、それを彼に気取られて関係を悪化させるのはマズい」
「そうだ。では、よろしく頼んだよ、ガンドルフィーニくん」
「ええ。今日は話し合えて良かったですよ」

 そうして、秘密裏に行われた会合は、幕を閉じた。









エヴァ「うーん、まずはどんなメニューを組むべきか……基礎固めは必須として、魔力量強化に無詠唱の習得を……いや、先に近接の基礎を叩きこんだ方が……」
茶々丸「(マスター、やはり楽しそうです)」
(拍手)
 
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すみません、ケータイから今回の移動されてから書かれた46話を読ませていただきました。しかしながら前のサイトと文表示の仕方が違うためか、ガンドルフィーニと明石の会話途中、《 ――と言うのがガンドルフィーニの意見だ 》と言う場所から切れて下に書かれた文が読めなくなっているです。私が使ってるのが今年春のケータイなので古すぎるためではないと思います…よろしければ、確認、改善のほどよろしくお願いします。

2009.09.17 | URL | クラウディ #Sf5s1ELA [ 編集 ]

携帯利用者へ

すみません、ぶっちゃけ私は携帯の事はよく分からないのですよ。
ただ、おそらく原因は1万字を超えてしまったからでしょうね。その辺が丁度20kbぐらいなので。
gooで書いていた頃は確実に1万字以内だったから問題はなかったんでしょうけど……。
ちなみに私の携帯も春に変えた古めの携帯ですが、確認したところ最後まで見る事ができました。
そこで色々調べてみたのですが、ファイルシークというサイトから屈折領域を検索してもらい入り直せば最後まで読む事ができるかもしれません。
私は普通に入って大丈夫でしたので確実とは言えませんが、ファイルシークで閲覧するとページを分割するようです。字数制限が問題なのなら、これでおそらく解決します。
URLは、 http://fileseek.net/ です。
これでダメなら正直分かりませんが……報告してもらえれば、対応できる可能性はあります。
クラウディさん、今回は報告ありがとうございました。

2009.09.17 | URL | 夢前黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

m(。_。)m感謝します!

確認できました。少し読みにくくはなってしまいましたが、改善方法を教えてくださった事に感謝します。これからも頑張って下さい。

2009.09.18 | URL | クラウディ #Sf5s1ELA [ 編集 ]

Re: m(。_。)m感謝します!

ブツ切りになるから確かに読みにくいですよね……設定を弄る事で多少マシになると説明されていましたが。

2009.09.18 | URL | 夢前黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

面白かったです。
地道にコツコツ頑張って下さい。

2009.09.19 | URL | プロント #dD8VL6vk [ 編集 ]


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