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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第1話


「そうして彼は現れた」  麻帆良学園の学園長として、関東魔法協会のトップとして、やらねばならない事というものがある。
 その中でも最も大切な事は、学園の、つまりは生徒達の安全の確保だ。
 故に、絶対的に安全が確保されている状況以外では、近衛近右衛門という男は遊ばない。
 勘違いされ易いのだが、それでも彼が遊び好きだと思われるのは単純に器が広いだけの話だ。
 だから、まったくもって正体不明の、それでいて明らかに危険な匂いのする男をこの学園に留めるなどという選択はあり得なかった。

 それが例え監視であったとしても、だ。
 ただ、今回ばかりは少々即決することができなかった。
 結界を破って突如出現した赤い男は、全身血塗れで、死の瀬戸際にいたのだから。
 それを見つけたのが一般生徒だったというのもまた困りものだった。
 その男を普通の病院に運んでしまったからだ。
 取り合えず死んでもらうわけにもいかない。
 治癒呪文の得意な魔法先生にその男を診てもらい、監視を付けた上で入院させる。

 それが麻帆良学園学園長としての決断であり、世の為人の為働く魔法使いとしての妥協点でもある。
 だが、事態は予想外の展開を見せた。
 治癒の呪文を使うまでもなく、人間としてありえないスピードで傷が修復されていったのだ。
 つまりは人外。こちら側の住人であるという事は確定、というわけだ。

 だが問題は、この学園結界をどうやって破り、どうやって転移したのか、という事になる。
 この学園の結界を破って転移するなど、最高位の悪魔であろうとも不可能であるはず。
 とはいえ、万全なシステムなど有り得ない。
 いくら魔法使い側が絶対の自信を持つ結界であっても、結界に特化した技能を持つ者ならば、或いは可能であるかもしれなかった。
 最も可能性が高いのは、この男が人の皮を被った悪魔であるというもの。

 だが勿論、そうでない可能性だってある。
 『人を助ける』のが仕事の魔法使いが、人外の可能性が高いというだけで見捨てるなんてことはできない。

「とりあえず感知結界だけは仕掛けておいてくれんかの。何かあったら直ぐに報告するように」

 溜息をつくように、学園長は命令を下した。







 ◇








 謎の男が学園に現れてから、一月が経過した。
 謎の男は相変わらずの意識不明。
 一応肉体的損傷は完全に回復しており、医師によればいつ意識が回復してもおかしくないとのこと。

「しかし、何者なんじゃろうな」
「少なくとも、かなり強いということだけは確かですね」

 高畑・T・タカミチはそう断じる。

「やっぱりそう思うかの。彼が身につけていた防具もかなりのものだったしの」

 そう、関東最強の魔法使いである近衛近右衛門をして、最高クラスだと断定できる防具。
 特に赤い外套は、封印処理さえレジストする考えられないような魔力抵抗を持っていた。

「学園長。何故彼をこの学園に留めているんです? ここでなくても、とりあえず学園外で様子を見て、目覚めてから尋問という手もあるはずですが」
「いや、最初はこれ程長く目覚めんとは思っておらんかったんじゃよ。何しろ吸血鬼並みの回復速度だったんでな。しかし、このような状況になってくると確かにタカミチ君の言うようにするべきなんじゃろうが……」

 そこで学園長は言葉を渋った。タカミチは黙って先を促す。

「魔法でも科学でもどういう状況なのか分からない体じゃ。移送中に目覚めるリスクを犯すよりは、手元においてワシが動ける状態の方がいいと思ったんじゃよ」
「しかし、彼は吸血鬼でもない正体不明の存在だ。もしかすると学園長や僕よりも……」

 学園長はうむ、と頷いて続けた。

「確かに、その可能性はある。じゃがの、敵がどれほど強かろうとも、この学園ぐらいは守ってみせるぞい」

 その声に慢心はなく、ただ頑とした決意があるだけだ。

「分かりました。もしもの時は、僕も同じ覚悟で戦います」

 学園長とタカミチは、同志の笑みを浮かべた。










 ◇










「ここは…」

 目が覚めたら、知らない天井だった。
 意識がうまく纏まらない。ぼんやりとしながらも、体が覚えているように俺は紡いだ。

「同調、開始<トレース・オン>」

 肉体損傷無し。
 魔術回路二七本正常稼働。
 全て遠き理想郷、出力20%。
 無限の剣製正常封印。
 己の肉体を解析し、特に何の異常もないことが分かった。
 ゆっくりと体を起こし、周囲の状況を確認してみる。

「病院か。しかし何故結界が張ってある?」

 白以外の色が見当たらない病室の中、その理由を考えようとしてふと気づく。

「いや、そもそも何で俺は病院なんかに…」

 いやいやそれよりもまず、『俺』とは誰だ?
 名前は? 年齢は? 家族は? 友人は?
 何も思い浮かばない。記憶の全ては対岸の奥にある。
 焦り、頭痛を堪えながらも対岸の記憶を手繰り寄せようとした時、

「目が覚めたようじゃの」

 人外じみた外見の老人が現れた。
 俺は咄嗟に警戒して、ベッドから跳ね起きる。
 体はだるかったが、動けないほどではない。最悪この窓から脱出して――

「さて、寝起きの所悪いんじゃがな」

 朗々と、およそ外見とは裏腹の強固な意思が籠った声が投げかけられる。

「――君、何者じゃ?」

 その鋭い眼光、例えるのなら虎のごとし。
 その目を直視した瞬間、俺は逃げの選択肢を諦めた。
 この老人に背を向けてはならない。その選択肢の先、生き延びることができたとしても未来はない。
 あるとすれば、打倒して道を開く他ないだろう。
 そして、俺は覚悟を決めた。いつでも戦闘ができるように魔術回路を起動させる。

「何者、と問われてもな。それは私が知りたいぐらいだ」

 これは正直な感想。せめて記憶がハッキリとしていれば、対処も即断できるというものだが。

「ふむ。記憶喪失という奴かね?」
「おそらく、そうなのだろうな。自分の名前も思い出せん」
「その割には、ずいぶんと好戦的じゃのう」

 ニヤリ、と老人は笑った。その笑いで、俺はこの老人を少しだけ理解する。

「元来そういう性質なのだろう。それよりも、私から質問してもよろしいか?」
「構わんぞい」
「では。ここは病院のようだが、私は何故こんな所で寝ていたのだろうか」
「それは当然、君が怪我人であったからじゃ。4か月前、君は瀕死の状態で見つかった。君の発見者がそのまま病院に運んだのじゃが、怪我が治った後も君は目覚めることはなかった。そして今日、目覚める兆候が見られたというから、ワシが様子を見にきたんじゃよ」
「貴方が発見者なのか?」
「いや、ワシはこの学園の学園長じゃ。同時に関東魔法協会の理事も務めておる」

 俺は、あえて後者の魔法という単語には触れずに返す。

「学園?」
「そう。麻帆良学園。聞いたことぐらいあるじゃろ?」
「いや、生憎と記憶があやふやだ。記憶が戻れば知っているのかもしれない」

 学園長と名乗った老人は、顎に手をあて溜息をつく。

「なんだか煙に巻かれているような気がしてきたわい。君、本当に記憶喪失なんじゃろうな?」
「そこは信じてもらう他ないな。それより、学園長という役職に就く者が、何故私なんぞに会いに来たんだ?」
「君が不法侵入者だからじゃよ。これでもこの学園は表からも裏からも厳重な警備が施されておる」
「つまり、私が怪しいので何者か探りに来た、ということか」
「理解が早くて助かるの。じゃが、記憶喪失とあっては困りものじゃなぁ」

 大して困ってそうな素振りも見せないのに、声だけは残念そうだ。

「どうやら私が不法侵入したのは事実のようだ。その件に関しては謝罪しよう。だが、記憶が戻らないのでは身の振りようもない。できれば、今のままもう少し監視を続けてくれると助かるのだが」
「ほう。監視はしてもいいのかね?」
「現状の私に信頼など寄せられるわけもなかろう? 監視は当然の選択肢だと思ったのだがね」

 最後に一度だけ学園長を名乗る老人の眼が鋭くなる。
 俺は、動じることなくそれを眺めた。

「よかろう。記憶が戻ったらすぐに報告するのが条件じゃ。よいかの?」
「ああ、構わない。記憶が戻ったら即報告すると約束しよう」

 会談は短く、簡潔に終了した。













 朝の、面妖な老人との面会の後、俺はずっと睡眠をとっているフリをして、己の世界の中で記憶を拾い集めていた。
 だが全ては埋まらない。そもそもが、記憶の欠片は殆どがひび割れている。
 それでも、これからの方針を決められるぐらいには己の事を思い出すことができた。

 まず、俺の名は衛宮士郎。
 フリーランスの魔術師であり、魔術師殺しの異名を持つ剣製の反英雄。
 世界との契約を交わし、それにより得た力でもって己の夢を体現しようともがいていた。
 そしてたどり着いた先が、これ。
 俺の知らぬ土地。
 俺の知らぬ魔術体系。
 明らかに濃密なマナ。

 病室からただ眺めることしかできなかったが、それだけでも分かることはある。
 まず、この病室に設置されている監視の結界。
 これは明らかに俺の知らない魔術だ。
 術式を知らないだけならそう珍しいことでもない。
 だが、この術式には大きな違和感を感じる。何か、根っこから違うモノを見せつけられているような気分になるのだ。

 そして何より。
 関東魔法協会という単語。
 魔術協会ではなく魔法協会。しかも関東といった。
 少なくとも、俺の知識の中にそんな組織は存在しないし、地名がつくほどの大きな組織の名前を知らないなんて考えられない。

 この地が特別なのか、魔法さえ発動できそうな濃いマナも気になる。
 おかげで体の、魔術回路の調子はすこぶる良い。
 だが。一つ問題はある。
 世界との契約を感じられないのだ。
 世界からの魔力供給はなく、あるのは肥大化した器だけ。
 あまりにも不可解すぎる。全ての現象が、だ。

 ならば推論は一つ。
 ここは……並行世界ではないのか? それも、俺の知る位相からは遥か彼方へと離れた、最早別世界とさえ言える程の。
 考えてもみれば、意識の最後の記憶として朧げに残っているのは遠坂と宝石剣をぶっ放し合った事であり。
 宝石剣とは、第二魔法の、並行世界の運営という奇跡を扱う限定魔術礼装。
 宝石剣単体では並行世界に渉ることはできない。精々が観測の為の穴を開けるぐらいの効果しかないはずだ。
 しかし最期の地は中々の霊地だったし、俺の不完全<イレギュラー>な宝石剣と遠坂の宝石剣が共鳴して、本来ならば起こりえない現象を引き起こした可能性はある。

 ありえない、とは思う。そんな事はただの推論で、まるで現実味がない絵空事だと。
 だが、この推論ならば今自分が感じている違和感すべてに説明ができてしまうというのもまた事実。
 ともあれ。情報収集はせねばなるまい。
 学園長と名乗る老人との約束もある。
 いざ動こうとしたその時、病室のドアがゆっくりと動いた。

「ああ良かった。もう起き上がれるんですね」
「君は?」

 大学生くらいの女性が、柔らかい笑みと共に声をかけてきた。

「私は那波千鶴と言います。もう結構前になるんですけど、世界樹広場で傷だらけの貴方を見つけたんですよ」
「そうか……ありがとう。君が命の恩人なのか。何か礼ができればいいのだが、見ての通り先立つ物がないのでね。許してくれ」
「そんな。元気になってくれたのならそれで結構ですよ。あんな大怪我初めて見ましたから心配してたんです」
「それは悪いことをしたな。いずれきちんとした礼をしたい。連絡先を教えてくれないか」

 いいですよ、と頷いて、彼女はさらさらと紙片にペンを走らせる。
 そして手渡されたそれを見て、

「麻帆良中学…女子寮? 中学生?」
「ええ、そうですよ。何か?」

 笑顔が怖い。というか、この見た目で中学生とは。この世界は、肉体年齢と外見的な年齢が一致しないのが普通なのかもしれない。
 先ほど会った学園長にしても、見た目仙人と言われた方がしっくり来る程だったし。
 詐欺というか人類の神秘というか。何かが決定的に間違っている気がする。

「いやなに。大変美しい女性だったので、この目が潰されていたようだ。失礼した」
「あらあら、随分とお上手ですね?」
「気に障ったのなら許して欲しいな。……しかし、女子寮となると近寄りがたい。おそらくこの電話番号に連絡することになると思うが、構わないかな?」
「ええ、もちろんです」

 それから、しばし談笑して過ごす。
 見た目だけでなく中身もそれに見合った精神を有しているようだ。
 本当に、中学生なんてのはデタラメなんじゃないかと疑わざるを得ない。
 若しくは、中学生という言葉が指し示す意味さえ異なるのだろうか。

「そろそろ日も暮れる。女性は早めに帰宅することをお勧めするよ」
「ええ。では、そうさせてもらいます。楽しい時間をありがとうございました」
「いや、こちらこそ。病院というのは退屈なのでね。とてもありがたかった」
「私でよければいつでも来ますよ?」
「どうせここに長居することもなさそうだし、君は君の時間を大切に使いたまえ。そうしてくれなければ、心苦しくて別の病にかかってしまう」

 最後まで笑顔で女性、いやさ女子であるところの那波千鶴は病室を去った。
 さて、予想外に穏やかな時間を過ごしてしまったせいか、どうにも緊張感が薄れてしまった。
 しかし約束は約束。少し遅れてしまったが、学園長とやらを探しに行くとするか。








 ◇








 記憶喪失だと言う侵入者との面会から十数時間後。
 日は暮れ、謎の侵入者も特に怪しい素振りを見せず夜となる。
 近右衛門は人払いの結界を張って学園の魔法先生・魔法生徒を集めていた。
 目的は記憶喪失の男に対する警戒と監視を促すためだ。今のところ監視の者からは物騒な連絡は受けていないが、念には念を押す必要があると、近右衛門は考えていた。

 今回の事はタカミチにしか話していない。
 そもそもが、対抗できるだけの力を持つ魔法使いがそれだけだというのもある。
 だが、彼が目覚めた以上、注意は促さなければならない。
 今朝の立ち回りを見るだけで、彼が相当の実力者であることは伺い知れる。
 今日欠席している者にも後でいい含めないといけないだろう。

「さて、今日集まってもらった理由じゃが――」
「!? 誰かが見ています」

 魔法生徒の一人、高音・D・グッドマンが注意を促す。
 すかさず魔法先生の一人、神多羅木が風の切断を無詠唱で放った。
 そしてその先には、今回の議題の男が悠然と歩んできている。
 どこで手に入れたのか、ジーンズにシャツ。
 共に黒で闇に溶け込むように接近してきていた。
 軽く半歩ずれることで魔法を回避する。その振る舞いだけで、明らかな格の違いというものを見せつけるように。

「学園長」
「いや、タカミチ君はとりあえず待機じゃ。彼の目的が知りたい」
「分かりました」

 神多羅木が詠唱に入った。その中で葛葉刀子は瞬動で一気に接近する。
 一閃。鋭い一撃を阻んだのはどこから取り出したのか、美しい双剣だった。
 絶え間ない連続攻撃が繰り出される。だがそれは、全て黒白の双剣にて防がれた。
 しかしその攻防は二秒と持たず、刀子の敗北という形で決着がつく。

 パキンッ。
 双剣のうち黒の一振りが、刀子の得物を両断していたからだ。
 その隙を、上段の回し蹴りが襲う。
 刀子は吹き飛ばされ、だがそれ故に神多羅木の呪文に障害はなくなった。
 巻き起こる暴風は確かに男を襲う。いや、襲うはずだった。狙いは正確、かつ、威力も申し分なく。
 いきなり大威力魔法を使用したのは、彼が敵対する男の存在の脅威を感じたからであろう。
 そしてそれは正しいと言えた。
 何故なら詠唱後の隙を突かれて、彼は気絶してしまうから。

「瞬動!?」

 佐倉愛衣が驚きの声をあげる。士郎は知る由もなかったが、それは間違いだ。
 それは瞬動などではなく単純な移動。ただそれが瞬動と見紛う程に速く、神多羅木の魔法を隠れ蓑とした接近がより隠密性をもたらし、速さを錯覚させたのだった。

「中々に手荒い歓迎だな、学園長。私はただ約を違えぬ為に来ただけだと言うのに」

 その言葉で、近右衛門は彼の記憶が戻っているということが分かった。
 分かったのだが……

「もう許しませんよ! この場に単身乗り込んできたこと、後悔させて差し上げます!」

 高音はもう頭に血が昇っているようで、影の人形を操り突撃してくる。
 だがそれも結局手刀の一閃で意識を刈り取られ、すぐに大人しくなってしまった。

「さて。話を邪魔されても敵わんな」

 そう呟くと、パチンと指を鳴らした。
 そして次の瞬間、信じられない光景が展開される。
 ガンガンガンガスガンッ。
 剣が、雨のように降ってきていた。
 そしてそれらの剣群は人を傷つけることなく降り注ぎ、檻としての機能を果たす。

「やれやれ。これで静かに話ができると思ったのだが」

 二人、先ほどの剣の雨を逃れた人間がいた。
 高畑・T・タカミチと桜咲刹那である。学園長はもとより攻撃の対象にはされていない。

「何が目的だ! 侵入者っ」

 桜咲刹那が激昂した声を上げる。構えた刀に気を漲らせ、戦意も十分。

「侵入者であることを否定はしないがね。先に攻撃してきたのは君たちの方だ」
「黙れ!」

 夕凪を振りぬく速度もよし、気も申し分なく、彼女自身も最高の一撃だと自負できるであろうそれは、しかし甲高い鉄の音に阻まれた。
 だが刹那の追撃は止まらない。一つでダメならば二つ三つ四つ。
 それでも駄目ならばより上位の技を繰り出すまでである。

「神鳴流奥義・雷鳴剣!」

 雷を纏ったそれを、男は距離をとり回避した。その表情には若干の驚きが含まれており、今の一撃に驚異を感じていることを物語っている。
 それを刹那は好機ととった。男の一挙一動を見逃すことなく距離を詰める。
 そして、風に乗ってその単語が聞こえた。

「強化、開始<トレース・オン>」

 始動キーとしてもあまりに短すぎるソレが世界に響くと、すぐに変化は現れた。
 男の持つ双剣が、メキメキという擬音が似合う変貌を遂げたのだ。刃渡りは倍に。感じる魔力は比べようもなく。
 今度は刹那が脅威を感じる番だった。
 だが、刹那は止まらない。何故なら己の持つ剣に自信があるからだ。
 かつて、旧世界のサムライマスターと呼ばれた近衛詠春が愛刀・夕凪。
 それを神鳴流の剣士が気で強化している。相手の剣が如何ほどの業物であろうとも、敗れる道理がなかった。

 故に。
 刹那は、葛葉刀子と同じミスで敗れることになる。
 キィンという甲高い音は、どこまでも無機質で重さがなかった。
 夕凪が折れた事よりも、愛刀を譲ってくれた長の信頼の証が失われたことに対する絶望が、あまりにも大きい。
 中段の蹴りを、刹那は自分から後ろに飛ぶことでダメージを軽減したが、それは体に染みついた反射であり理性の元で制御された行動ではない。
 つまり。その場にいた魔法使い達は、タカミチと学園長を残して全員が敗れ去ったことになる。

「ふう。これでようやく話ができる…というわけでもなさそうだな」
「そうだね。君は、少しやりすぎた。話をしたいのなら、まず武器を置くのが礼儀だろう」
「正論ではある。だが、それで数えきれないほど裏切られてきたのでね。可能であるのなら、無力化してからの方が安心できる」

 お互いに相手から視線を外さない。
 緊張感だけが加速度的に増加していき、裂帛の気迫が軋みをあげる。
 先に動いたのはタカミチだった。
 まずは様子見。居合拳による神速の一撃だ。
 それを士郎は、避けるどころかガードすることすら敵わなかった。
 心眼のスキルにより後ろに飛んでダメージを軽減するも、魔力障壁なんて便利なものを持たない士郎は吹き飛ばされるしかない。

 対して、攻撃した方のタカミチもその異様な手応えに疑問を覚えていた。
 後ろに跳んだのは、いい。そう簡単にできる芸当ではないが、歴戦の猛者ならば当然の反応。
 だが、疑問なのは、その感触だ。まるで、鉄の塊を殴ったような重い手応えなのに、魔法障壁を展開している様子もない。
 あまりに不可思議かつ異様だった。

 もしや、彼は魔法使いではないのか。だとするのなら一体何者なのか。
 そんな思考が脳裏を掠めた瞬間、士郎は吹き飛ばされた地点に双剣を突き刺し、同じ剣を取り出す。
 同じものを複数所持していることに驚く暇もなく、彼はソレを投擲した。
 避ける、という選択肢は初めからなかった。なぜなら、タカミチの後ろには気絶している高音がいる。
 故に弾き落とさなければならないが、飛んでくる剣は葛葉の刀さえ両断してしまう業物だ。
 直に触れないように注意しながら居合拳で弾き飛ばす。

 だが、その一瞬の対処行動の隙に、彼は変形した双剣の間合いまで接近してきていた。
 迷う余裕さえなく、タカミチは瞬動で右に避ける。
 それを、瞬動でもないのに凄まじいスピードで士郎は追って来た。
 迎え討つ形で居合拳を放つが、交差した双剣で防がれる。

 強い。それ以外にタカミチから感想が出ないほど、彼の戦闘技術は洗練されていた。
 理に適った行動。素早い判断。そして、その場にあるものは全て利用する冷酷な覚悟。
 いずれも、戦士のそれだ。
 ただ疑問なのは、明らかに強大な魔力を帯びているにも関わらず、カードも出さなければ障壁も展開しない。
 その戦い方は、これまで彼が戦ってきたいかなる相手とも違う。
 だから対処に困る。決定打が見いだせない。
 その焦りから、居合拳を連続して、計5回。そしてその隙間を縫うようにして放たれた斬撃を避けた回数も同じだ。
 そして、決着の時は来た。

 いや、そもそも決着など、初めからついていたのだ。タカミチは彼の罠に嵌っており、それに気付くことさえできていなかった。
 突然彼は上に跳ぶ。
 その姿を視線が追うよりも先に、前方から迫りくる双剣に気付いた。
 撃ち落とす余裕はない。タカミチには避ける以外の選択肢が残されていなかった。
 そして。彼は瞬動の着地地点さえも読み切って、僕の首筋に黒い剣を添えたまま宣言した。

「さて、いい加減大人しくしてくれないかな。私は平和的解決を望んでいる」

 ここまで暴れておいて、それはないだろう。と、その時のタカミチは思った。










タカミチ「あ、いや僕だって咸卦法を使っていれば……」(拍手)



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