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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第43話


「禁呪・記憶破壊」


「あ、いや……すまない、桜咲か」
「え、ええ」
 名前を呼ばれて、刹那はようやく再起動した。
 ただし、呼び方がいつもとは違う。まだ修学旅行に来る前、木乃香護衛を依頼した時に頼んだ呼び捨てではない。
 刹那自身、思いの外刹那と呼ばれる事に慣れていたのか、士郎から“桜咲”と呼ばれると激しい違和感を感じる。
 その違和感のせいか、とても悪い予感がした。
「あの、士郎さん。お加減はどうですか?」
「いや……そもそも私は何故こんな所に寝ている? 記憶が定かではないのだが……ここはどこだ?」
「ここは、関西呪術協会の客間です。その、最後に思い出せる出来事とかはないですか?」
「関西……そうか、少し待ってくれ」
 士郎は、一度起き上がってから黙考を始める。時間にして約一分と言ったところか。
 長い沈黙に刹那が押しつぶされそうになる直前、ようやく士郎は口を開いた。
「4月15日、エヴァンジェリンと衝突した事ぐらいか。少なくとも、最後に桜咲に会ったのはあの夜助けてもらった時だけだと記憶しているが……どうやら、私の記憶は数日間飛んでいるようだな」
「ええ。今は4月25日、修学旅行の4日目の朝で、士郎さんがここにいるのは私がお嬢様の護衛を依頼したからです」
 刹那は、すらすらと現状を述べる事ができた自分を褒めてやりたかった。
 この10日間、修学旅行での戦いの日々や、起こった色々な出来事が無になってしまっている。
 それは、刹那にとってこの戦いで受けたどんな傷よりも痛いものだった。
 士郎の部屋の風呂を借りた事や。
 月詠に斬られた腕の傷を、肩代わりしてもらった事。
 月詠との戦いの後、バイクで迎えに来てくれた事と。
 石化の魔法を庇ってくれた事。
 そして、偶然にも仮契約をしてしまった事も。
 すべて、無かった事になっている。それが、とても悲しかった。素直に、そう思う。
 しかしその反芻も、一瞬の間しか許されない。
「刹那さんっ!!?」
 障子よ砕けよとばかりの勢いで明日菜が飛び込んで来る。
「あ、アスナさん?」
「どこ、行くの?」
 息を整える間さえ惜しいと、明日菜は矢継ぎ早に詰問する。
 明日菜は、しっかりと覚えていた。刹那が戦いの最中口にした別れの言葉を。その表情を。
 それは本来そこまで確信が抱ける程の要素ではなかったかもしれない。けれど、今の明日菜はあれが別れの言葉だったのだと思い込んでいたし、刹那を逃さないという確固たる決意もあった。
 だからこそ、士郎との事で心が揺さぶられていた分、刹那は動揺が大きかった。
「なんの、事でしょう……?」
「ねぇ刹那さん。刹那さんが私たちの事なんて嫌いで、どこか別のところに行きたいっていうんなら、止めない。止められない。でももし、掟がどうとか、禁忌がどうとか、そんな理由で逃げるなら……」
 許さない。明日菜は、そうはっきりと口にした。
「明日菜さん……」
「答えてよ、刹那さん。どこに行くの? どうして行くの?」
 刹那は答えられない。答えられるわけがない。
 そんな蛇足には耐えられないし、なによりそれは刹那にとって致死の毒だ。
 身動きがとれずに、死んでしまう。今までの桜咲刹那が、死んでしまう。
「……アスナさんの言うとおりですよ。掟なのです。人と化け物は共存できない。裏で、闇で生きるしかないのですから。闇が光に近づきすぎれば身を焼かれます。双方の住み分けは、双方の幸せの為に必要なことなのです」
「じゃあ今まで、ずっと私の、このかのクラスメイトだった刹那さんは何なのよっ?!」
「…………っ」
「嘘だったの? 全然楽しくなくて、嬉しくなくて、これからきっともっと楽しくなるはずの事、ちっとも欲しいと思わないのっ? そんな、簡単に捨てられるようなものだったの……?」
「……ない」
「え?」
「捨てられるわけがないっ! アスナさんに私の何が分かるというのですか! 人間の貴女に、ハーフの私が理解できるはずがないっ!」
 刹那は叫んだ。堪え切れず、耐え切るはずだったものから逃げ出して。溜め込んでいた毒を、吐き出した。
 もしかしたら、無意識の内に、この結果を予想していたのかもしれない。
 だから、顔も見せずに逃げ出そうとしたのかもしれない。
 それも致し方ないことではあるだろう。刹那の言うとおり、その境遇をアスナが理解できるはずもない。理解できている、などと、口が裂けても言ってはならないことだ。
 でもそれは、何も刹那と明日菜の、混血と人間の立場の違いが生み出すものではないのだ。
 その差異は、誰にでもある。誰もが、相手の全てを理解できるはずがない。
 都合のいい解釈をすることもあるだろうし、勘違いで傷つくこともあるだろう。でもそれは、血の、生まれの違いがもたらすものではない。
 その差異、谷の深さは違うかもしれないけれど。それは、誰にでもあるものなのだから。
 だから、刹那の言葉は結局逃げだ。掟と友、烏族と人間を天秤にかけて、前者を選んでしまった自分への。
 そして同時に、明日菜も傲慢ではあった。そこにどんな思いがあったとしても、その言葉は結果的に刹那を追い詰めてしまったのだから。
 自分の想いがいくら強くて、それが真実だと信じても。考えが違うのなら、それは幸福の押し付けでしかない。
 そんな事にも気づけない程に、明日菜はまだ幼い。明日菜の想いは、身を削ってでも成し遂げたい信念には昇華していなかった。
「分かるのですか、アスナさん。翼が白いというだけで迫害される気持ちが。翼があるというだけで恐れられる気持ちが! 無理なんです、アスナさん。貴女たちは受け入れてくれるかもしれない。でも、他の人たちは? 魔法も何も知らないクラスメイトは?」
 人は、“違うもの”を排斥しようとする。いや、排斥して築き上げられたのが今の社会であり、現実だ。
 弱いもの、小さいもの、少ないもの。それらが生き残るためには、闇に紛れるしかなかったのも一つの真実だろう。それは、歴史が語っている。
 明日菜は気圧された。その過去に、どんな闇が存在していたとしても、今の彼女にその記憶はない。ただの、少しばかり勘違いしている女子中学生に過ぎない。
「で、でも、それってネギが魔法使いだって隠してるのと同じでしょう? ネギだってできてるのに……」
「違います。ネギ先生は、仮に魔法使いである事がバレたとしても強制送還されるだけです。逃げる場所が、帰る場所がある。でも、私にはそんな場所はない。人でも化け物でもない、中途半端な存在に、帰る場所などないのです」
 刹那は俯く。明日菜も、何も言い返すことはできなかった。
 沈黙が、重い。重力が増したかのように、二人は体も心も重くなる。
 そこに、士郎がいつもと変わらぬ調子で問いかけた。
「桜咲。本当に、帰る場所などないと思っているのか」
 刹那が、起き上がった士郎に振り向く。明日菜も視線だけ士郎に向けた。
「いつか帰ると誓う先は、場所などではない。人の輪だ。桜咲、お前が帰る所は京でも麻帆良でもない。近衛の、明日菜の隣だろう。お前が大切に思える人の隣こそが、帰る場所であるはずだ」
 何もかも。帰るべき人の輪を、全て失ってしまったわけではないのだから。
 縋るのは、思い出ではなく人そのもの。混血だろうと何だろうと、それが人間として生きる者の在り方だと、そう士郎は語る。
 刹那も明日菜も、その言葉で少し冷静になれた。勢いに任せた言動ではなく、年長者としての意見に、耳を傾けた。
 どんなに背伸びをしたところで、彼女らが中学生、士郎の半分程度しか生きていないという事実は変わらないのだから。
 例え今、この10日間の記憶を失っているとしても、それは変わらない。
「しかし、士郎さん。私の存在は、いつかお嬢様や明日菜さんに迷惑をかける事になります。そんな事になるぐらいなら、私は……」
「友とは、互いに補い合うことができるものだ。桜咲、お前は近衛や明日菜の為に命を懸けられるだろう。同じように、近衛や明日菜もお前の為に頑張ることができる。時にはな、迷惑が嬉しいこともあるものさ」
「そうよ、刹那さん! でも、恩を返そうなんて考えなくていいんだよ。士郎さんも言ってるように、友達ってそういうものなんだから」
 士郎はいつもの無愛想な表情のままに。明日菜は花咲くように笑って。
 刹那は、いいのだろうかと自問する。迷い、答えることができない。
「桜咲。答えが出ないのなら、無理に今出す必要はない。ただ、今は友の隣で悩んだらどうだ。自分一人では出ない答えも、仲間と一緒ならば見えてくる事もある」
「そうなのかも、しれません」
 悩み、その答えは未だ出ず、まだまだ迷い続けるのだろうけれど。
 刹那は、確かに一度、頷いた。






























 部下から彼、衛宮士郎の容体を報告された詠春はため息をついた。
「厄介だな。まぁ、この一週間程度に限定されただけマシという程度か」
 士郎の記憶は、封印されていたのではない。“破壊”されていたのだ。
 記憶封印は解くことができるが、破壊された記憶を修復する術はない。
 ではなぜ、魔法使いたちが一般人に対して記憶操作を行う時に、記憶破壊を使わないのかと言うと、理由は簡単だ。
 記憶破壊は、脳にダメージを与える。下手をすれば、記憶を消すだけではなく廃人にしてしまう可能性があるのだ。
 故に禁呪に指定されていて、その使い手はほとんど存在しない。
 だからこそ、使い手は特定しやすいというものだが、今回ばかりは勝手が違った。
「フェイト・アーウェルンクス……完全なる世界の一員ならば、不可能というわけではないだろうが……」
 そもそも、完全なる世界というものは世界中枢に根を張り暗躍してきた組織だ。
 壊滅したと思われていた現代においても、その存在が不透明であることに変わりはない。
 禁呪の一つや二つ、会得していない方が不思議な連中ではあった。
「とりあえず麻帆良に連絡を。衛宮士郎の現状と、回復するまでこちらに逗留させる旨をね」
「ハッ」
 部下は機敏に命令をこなす。その姿を見送って、詠春はもう一度ため息をついた。













 士郎に自身の状況、今後の身の振り方について説明があったのは、ネギたちが修学旅行に戻り半日の時間が必要だった。
 士郎の肉体はそこまで大げさなダメージを負ってはおらず、小さな傷は治癒術師によって既に消されている。
 そんな状況で、寝ておけと言われて大人しく寝ている士郎ではないが、しかし現在関西呪術協会は現在忙殺の最中にあった。
 猫の手も借りたいぐらいではあるが、外部の者に見せることができないものなど多々ある。邪魔者は与えられた部屋に押し込められて軟禁状態だった。
「どうですか、調子は?」
「そうだな、今の私の敵は退屈と言ったところだ」
「すみません、今回最大の功労者に」
「今の私にその記憶がない事ぐらい、報告は受けているだろう」
「ええ。おかげで、要らない苦労を背負うことになりそうです。全く君は、英雄であり疫病神でもあるな」
 まるでナギのようだ、という言葉に士郎が思わず顔を顰める。
 口調がどんどん長としてのそれから詠春としてのそれに変わっていっている。よくない話なのだろうな、と士郎は身構えた。
「少々、厄介な事になった」
「私が記憶を失ったからか?」
 士郎は自身が得た少ない情報から、自分の記憶を消された理由についていくつかの考察を終えていた。
 また、衛宮士郎の記憶が失われることで、一体何が起こるのか、という事についても。
「そういう事になる。我々は君の記憶がおそらくどのような魔法によって消されたのかなど、症状についても詳しく関東に報告した。様子を見て、回復したようならば送り返すともね」
「それで、何か問題があるのか?」
「それにはまず、君に施された魔法、記憶破壊について説明しなければならない」
 詠春が記憶破壊について語りだす。
 記憶の復元が可能なのか否か。完全破壊による副作用など。
 語り終えたタイミングで、士郎は尋ねる。
「それで、今の私は脳に傷を負っている状態ということなのか?」
「いや、発見された時点ではそのような痕跡が見つけられなかった。君の記憶が消えているという報告を刹那君から受けて検査した結果ようやく分かったぐらいなんだ」
 士郎は検査と言って飲まされた数々の薬品を思い出す。魔術師が作る秘薬に比べればまだ飲めるものではあったが、好んで味わいたいとは思えない代物だった。
 ただ、士郎にとってはその味も然ることながら、無理やりそれらの薬品を飲ませようとする、何度も世話になった治癒術師の表情の方が怖かったのだが。
「封印解除で全く効果がなく、兆候も見られないのなら、はじめから封印などされていないと考える他ないからな」
 もっとも、脳を傷つけず狙いの記憶だけを破壊するなんて事は理論上不可能なんだがな――と、詠春は付け加える。
 おそらく、士郎の脳は傷つけられなかったわけではない。ただ、倒れて検査を受けるまでの間に再生したというだけだろう。
 全て遠き理想郷。聖剣の鞘は、所持者に人外の再生力を与える。
 詠春の口ぶりを信じるのなら、それでも術者の技量は驚く程高いものであるという事が分かる。
 だが、記憶が封印されているのではなく、破壊されているからと言って、何の問題があるのかが分からない。
 士郎本人としては、特に重大な問題だとは感じていなかったのだ。
 記憶は、そもそも磨耗している。おぼろげにさえ思い出せない忘却など、10歳の頃既に経験していた。
 限界を超えて廃人になりかけたことなど数えたくない程ある。その繰り返しは、確実に士郎から鮮明な記憶を奪っていた。
 だから、慣れている、と言えば慣れている。
 それに、自信もあるのだ。記憶があろうとなかろうと、それが衛宮士郎であるのなら、成すべき事を間違えたりなんてしないだろう、という。
 それさえ違えてしまったら、それはもう衛宮士郎という生き物ではない。例え姿形が同一であっても、だ。
 だから、士郎はこの記憶の欠如に対して、過敏に反応したりしなかった。勿論復元できるのならばそれに越したことはないが、何よりも優先すべき事柄ではないも事実。
 ただ、問題があるとすれば。その失われた記憶に、大きな価値がある場合。
「いや、実際のところ、あの夜の君がそこまで重大な秘密に気づいた可能性はそう高くないと思う。まして、君ならば気づいたところでそれを悟らせないだろう?」
「どうだろうな。気づいたという、その内容次第だ。私にとっても重大な事だったのならば、反応から真偽を確かめるぐらいの事はするかもしれない」
「ん……」
 詠春が思案顔になる。だが、それもそう長くは続かなかった。
「いや、もう戻らない記憶について考えるのは後でもできる。問題は、現状の対処だ」
「私はまだその問題とやらを教えてもらっていないのだが」
「ふむ。端的に言えば、我々関西呪術協会が衛宮士郎を洗脳したのではないか――という疑惑が出ているらしい」
 随分と物騒な発想だ。
 確かに、西と東の仲は悪い。その中でも、衛宮士郎というのは両者の拮抗を崩しうる人材であり、トリガーにもなり得る危険物だ。
 今現在麻帆良に所属している士郎が、関西によって洗脳されて麻帆良で暴れた場合、その被害は考えたくないものになるであろう事は誰にでも予想できる事。
 初回のみとは言え、士郎は既に麻帆良学園に存在する大半の戦力を単騎で無効化している。
 それも、一人の死者さえ出さずに、だ。
 それがどれほどの事なのか、東も西も明確に理解しているのだ。
 だからこそ、衛宮士郎という存在を己が手にすることで、西が東に攻め入ろうとしているのではないか。
 そんな疑惑が生まれているということだ。
「洗脳と記憶破壊、その痕跡は似通っているという事か」
「いや、どちらかと言えば、洗脳は混乱や記憶封印に近いものがある。だが、一度壊した記憶の上に、都合のいい記憶を書き込む事は可能だ」
 それは、表層的な記憶である必要はない。
 壊れた部分だからこそ、潜在的なプログラムが隠しやすい。要するに催眠だ。ある特定の状況で発動するようにトリガーを設定しておけば、それまで普通に日常に埋没していた者がある日突然殺戮者へと変わる。
 それを、麻帆良側は危惧しているのだ。
 これは別に、東が西を快く思ってないから、というような話ではない。
 西が洗脳を施していなかったとしても、襲撃者が、フェイトが既に催眠因子を植えつけている可能性は否定できないのだ。
 つまり、そんな危険物を大切な生徒の通う学園に入れるわけにはいかない。そちらで安全を確認できるまでは様子を見て欲しい。そういうことだ。
「と、言うことだ。君には悪いが、しばらくはここに留まって貰う」
「それは、構わないが」
 10日間分の記憶が消えているので定かではないが、士郎には一つ不安があった。
「なぁ、こちらから誰かに連絡を取ることは許されているのか?」
「特に取り決めはないから、してはいけないという事はないが……控えた方がいいだろう。君も、無用な疑惑は生みたくないだろう?」
「いや、別に魔法関係者に連絡するわけじゃない。もう少し店を閉めていることになるなら、張り紙ぐらいしておいてもらおうと思っただけさ」
 この状況で呑気なものだと、詠春は軽く息を吐いた。






























「何だ、お前が確認役なのか」
「何だい? 僕じゃ拙かったのか?」
「いや、むしろお前で助かった、言うべきだろうな」
 衛宮士郎が危険か否か。洗脳の有無は。
 それを確認する役目として派遣されてきたのは、タカミチだった。
「しかし、いいのか? 俺とお前の関係を知らない者はいないだろうに」
「まぁ、結局学園長はそこまで気にしていないという事だよ。ガンドルフィーニ先生と……後は、明石教授の意見を尊重して、形式だけでも調査という形にしただけだ」
 それに、普段の君との差異という意味でなら、僕が一番適任だろうしね。
 そう続けるタカミチは、どこか疲れが残っているように見えた。
 まぁ、無理もないだろう。タカミチは今回の件について、自分から志願した。しかし、それは出張から帰還してすぐのことで、この件に関する準備その他で更に働きづめ。
 休む間もないとはまさにこの事、という程に不休で活動していた。多少の疲れが見えてくるのも当然と言える。
 逆に、タカミチにとって士郎はそれだけの労力を払うだけの価値がある、必要としているという事になるのだが。
「ガンドルフィーニはともかくとして、明石もか?」
「うん。危険要素があるのなら、安全を保障してからの方がいいだろうってね。もとよりあの人のスタンスは君寄りというわけじゃなくて、中立だからね。まぁ、今回の事に関して言えばガンドルフィーニ先生を納得させるためだったのかもしれないけど」
 士郎は最初に明石に会った時の事を思い出す。正確には初日の夜に会っているが、今士郎が思い出しているのは彼が『アルトリア』へ訪れていたときの事だ。
 抜け目なく、それでいて温和に。決して敵対するというわけでもなく、信用し過ぎる事もなく。
 自分なりの落とし所を見つけて帰っていった、聡明な魔法使い。
 だが、だからこそ、士郎は明石に対して信頼を置いてはいなかった。
 そこにある関係はあくまで仕事上の、麻帆良に属する裏の世界の住人としてのもので、プライベートとはまた違う。
 互いが互いを警戒しているようで、知れば知るほど大丈夫だと理性が囁いている。なのに、むしろ不安は増していく。
 そんな、何とも不思議な関係だった。
 故に、士郎は明石の発言に関して、深く考える事はしない。
 自分勝手に思い込んで足元を掬われたなら、それが致命になる可能性もあるからだ。
 判断は、麻帆良に帰り、実際にその空気を感じてからでいい。その方が的確な対処になると、士郎は経験で知っていた。
「さて、僕の方もそろそろ新しい魔術を教えてもらいたいしね。貴重な有給を使っているし、できる限り早めに終わらせよう。コレ、飲んでくれ」
「コレは、まさか……」
「ん? ああそうか、こちらでも一度検査はしたんだったね。二度手間にはなるけど、一応こちらが用意したもので再検査しないと意味がないし。少し不味いいけど、我慢してくれ。良薬は口に苦しだな」
「いやいや、この場合効果が出てはいけないのだろう? 結果が出ないわけだから、ただ不味いだけじゃないか」
「まぁそうか。普通、これを使うときは記憶が戻ったショックで味のことなんて忘れてしまうからね。でも仕方ないよ、覚悟してくれ」
「まぁ、こんな事で時間を浪費するのも勿体無いな……」
 意を決して、士郎は薬を飲み込む。
「ん? そこまでキツイ味じゃないな」
「あれ? そうなのかい? なら良かったじゃないか。特に兆候もないようだし、後の対策は麻帆良に帰ってからで十分だろう」
「ふむ。対策は、別荘で考えるとするか」
「いいね。こちらの成果も見てもらいたいし」
「やれやれ。忙しくなりそうだな」
 そう言って、二人は笑い合った。









菜畑「結局、私は名前どころか中途半端なまま出番ナシですか……いや、いいんですけどね。仕返しはしましたし」
(拍手)
 
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疑問

 アルと交友がある士郎であれば、記憶をなくしてもいちいち人に聞かず人生録(アーティファクトとしてではなく)を作って見せてもらえばいいのでは?アーティファクトでないのなら何度でも作れるでしょう。
 本人は見れないというわけでもないでしょうし、記憶が有る無しは関係ないですしね。

2009.11.07 | URL | 檻 #- [ 編集 ]

Re: 疑問

人生録もアーティファクトの一部だと考えています。ただし、完全再現を行わずともその中身を読む事は可能なんじゃないかな、と。
その過程が正しいとして、問題は人生録の更新が可能かどうかというところですが……一応、私の中では可能という事にしています。
で、何故士郎が記憶を失った時にアルの力を借りなかったかと言うと、それに見合う対価を士郎側が用意できなかった、するわけにはいかなかったからです。
士郎とアルの関係は完全なギブアンドテイクで成り立っており、それを崩すわけにはいかず。かと言って、適当に投影で誤魔化すみたいな事はしたくなかった。
実際初期プロットでは記憶消去に対する手段としてアルのアーティファクトは第一候補になっていました。その為に前準備をしていたというのもあります。
しかし、先の展開を考えるに、ここでアルとの関係を密にするのは危ないと気付きまして。どう危ないのかは続きをお楽しみに。
あ、ちなみにちゃんと書いてますよ。今週中の更新が目標。でも再来週ちょっと熊本行かなきゃならないからどうなるかな……。

2009.11.08 | URL | 夢前黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


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