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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第40話


「反撃の狼煙」



「ゆえっち、あんた逃げろ。逃げて、逃げたら士郎さんに電話するんだ」
 夕映は、突き飛ばされると同時に放り投げられた携帯をキャッチした。
 言われた通りに逃げるのも数分、何だかよく分からないままに震える指先で、慣れない人の携帯を使う。
 士郎の番号はすぐ見つかった。履歴に存在したからだ。
 すぐにボタンを押す。呼び出し音を聞きながら、夕映は少しでも乱れた呼吸を整えようとするが、全く効果はない。
 何かが壊れてしまったかのようだった。
 いや、ある意味壊れている。こんな状況は、日常が、現実が壊れてしまったとしか思えなかった。
 だが、嘆いていても、怖がっていても、ましてや震えているだけでは助かる事は出来ない。
 何故和美が士郎に電話しろ、などと言ったのかは分からないけれど、それでも夕映が今縋れるのはその指示だけだった。
「そんなっ……!」
 しかし、繋がらない。士郎への電話は、繋がらない。
 それも当然、士郎がこの旅行で持参した二つの携帯の内、夕映がかけているプライベート用は士郎は部屋に置かれたままになっていた。
 タイミングが、悪い。或いはもっと遅ければ、その電話は士郎に繋がったかもしれないのに。
 士郎が責められるべき事ではないが、夕映はパニックになる。
 何度も、何度もかけ直す。
 けれど、帰ってくるのは無情なコール音。そして電源が切れている事を示すアナウンス。
 どうすればいい? 誰に助けを求めればいい?
 思考は乱れ、空回りするほどに不安は蓄積していく。
 だが、少しの間を置いて夕映は冷静さを取り戻した。それは、常人には望めない精神力だろう。
 彼女の性質、精神性が幸いしたという他ない。
 とにかく、彼女は呼吸を整え、若干の冷静さを取り戻した。
 取り戻して、考えた。誰に助けを求めるべきか。
 夕映は知っている。日常の中にあって、自分の携帯電話の電話帳にも名前が存在している、非日常の如き力を示す人たち。
 夕映は今度こそ、迷うことなくその相手をコールした。


























 群がるは、鬼。
 大から小まで揃えたりは百体以上。
 その圧倒的威容を以って、術師たる天ヶ崎千草は勝ち誇る。
「あんたらにはその鬼どもと遊んでてもらいまっせ。ほな」
 待て、と叫ぶ刹那の声も、遠い。
 数とは最も単純で、効率的な暴力だ。一つ一つの力がどんなに弱くても、軍を為した時の力は恐ろしい。
 あの小さき蟻でさえ、群がれば百倍千倍以上の巨大な相手を殺してしまう。
 今ネギたちが相手にしようとしているのも、同じ事。ただし、相手は小さき蟻ではなく、そもそもが強大な鬼であるという、絶望的な状況。
 普通に考えれば、策などない。準備が足りず、僅か3人、それも素人が混じっている戦力なんて比較にならない。
「せ、刹那さん……こ、こんなの私っ」
「大丈夫です、落ち着いて」
 そう言う刹那の額にも汗が浮かんでいる。
 震える明日菜は自然な反応だろう。つい最近まで魔法など知らず、戦いも知らなかった女子には想像もできない。それが当たり前。
 だが、そんな言い訳が通じる程甘くはない。殺しはしないという命令も、どこまで信用できるものか。
「風化旋風・風障壁!」
 ネギが時間稼ぎの為の障壁を展開した。維持時間は数分という所。
 たったそれだけの時間で、三人は状況を打破する為の策と準備を完成させなければならない。
「二手に分かれる。これしかありません。私がここに残り鬼を引きつけます。その間に、お二人はお嬢様を取り返して下さい」
 本音を語るならば。刹那とて己の手で、いや、己の手でこそ木乃香を助けたい。
 その役目は己のものであると。誰にも譲らないと、つい先日誓った刹那の想い。
 だが、だが。その役目を今、刹那は果たせるのか。それが、最も成功率が高いのか。
 それが――今まで、この旅行の間、協力してくれた仲間への返礼なのか。
 神鳴流は元々が退魔調伏の為の技法、鬼の相手をするには適している。何より、刹那が一番この場に残った時の生存率が高いだろう。
 殺さない、なんていう敵の言葉を信じる事は愚かだし、それを期待してこの中で最も弱い人間を残していくわけにはいかない。
 それが、この件に巻き込んでしまった刹那の責務。
 いや、或いはこの期に及んで尚、禁忌を禁忌として恐れているのかもしれない。
 僅か数日で育まれた友情を惜しむ無意識が、その思考に至らせなかった。本当に大切なものを、見失わせていた。
「じゃ、じゃあ私も一緒に残る!」
「ア、アスナさんっ! ダメです、危険過ぎます!」
「でもっ、こんな所に刹那さん一人置いていけないよっ」
 その友情は、そんな意図などなかったろうに、あまりに自然にその願いに応えた。
 惜しむらくは、その幸運に刹那が気付けなかったこと。そして、その安堵が許される状況ではなかった事か。
「いや、待てよ。こりゃ案外いい手かもしれねぇぜ。姉さんのハリセンはあの鬼たちには最適だ」
 召喚された存在を、一撃で送り返す。その特性は、確かにこれ以上ない程にこの状況向けの武器だと言える。
 それに、ネギには杖がある。飛んで行ければ木乃香まで辿り着く事は容易だし、ヒットアンドウェイも成功率が高い。
「鬼は二人が引きつけて、兄貴が一撃離脱でこのか姉さんを奪取。その後、全力で逃げて援軍を待つ。これしかねぇぜ!」
「いえ、それではまだ足りません」
 刹那の容赦のない指摘が入る。何故か、指摘した刹那の頬は朱に染まっている。
「カードの機能を使えば、もっと効率的に戦力を使えるはずです」
「そうか! カードの召喚機能を使えば一撃離脱時、撤退時に二人で時間稼ぎができる。兄貴さえ離脱できれば後は二人も召喚で呼び戻せるから、リスクを格段に減るっつーわけか!」
「ええ」
「でも、つーことは」
「…………」
「刹那の姉さんも、兄貴と仮契約するって事か」
「ええっ」
「今は非常事態です。仕方有りません。それに、私は初めてというわけでもありませんし」
「そうだよなー、なんてたって士郎の旦那と――」
「いいから早く魔法陣描いて下さい!」
 あたふたと状況についてこない二人を尻目に、カモと刹那だけで話を進める。
「す、すいませんネギ先生」
「あ、いえこちらこそ……」
 光の中で、刹那がネギの唇を奪った。
 接触は一瞬。けれど、傍で見ている明日菜には長く感じられる。
「ネギ先生、アスナさんの事は任せて下さい。貴方の代わりに、私が守ります。だから……このかお嬢様を、頼みます」
「……ハイっ」
 風の障壁が、消える。すなわち、準備時間はもう終わりだ。
 ネギが攻撃呪文を唱え始める。少しでも明日菜と刹那の負担が軽くなるように。
 そして、ネギ自身が飛び立つ隙を作るため。
「雷の暴風!」
 巻き込む嵐は、一撃を以って敵を蹴散らす。20体程を倒し、ネギは飛び立った。








 
 



 加速に次ぐ加速。魔力の温存なぞ考えず、とにかく急ぐ。
 そして、ようやくそれは見えた。
「あの強力な魔力は……!? ヤバイ、ありゃ儀式召喚魔法だぜ! 奴ら、何かデケェもん喚び出す気だ!」
 それでも、見えれば何とかなる。
 後は作戦通り、極力敵に感知されないように接敵、後一撃離脱だ。
 ――だが。視認ができれば攻撃可能というのは、ネギに限った話ではない。
「狗神っ!」
 犬神小太郎の技が、ネギに追いすがる。後方からの攻撃に、気付くのが一瞬遅れたネギは風盾を展開するのが精一杯だった。
 杖ごと吹き飛ばされたネギは、地表に叩きつけられないように風の魔法で衝撃を減衰する。が、既に小太郎は目前に迫っていた。
「嬉しいぜ。こんなに早く再戦の機会が訪れるたぁな」
 小太郎は、光の柱を背に通行止めを宣言する。
「ほな、いくでぇっ」
 小太郎がネギに飛びかかり、交戦が開始された。
 ネギが接近戦を苦手とする理由の一つに、その魔力消費がある。
 接近戦を学んでこなかったネギは、格闘戦での魔力運用は効率が悪すぎる。それは、現状少しでも魔力を温存しなければならないネギにとっては最も避けたい行為だ。
 だが、ここで小太郎を倒さねばどこまで追ってくるだろうし、小太郎も含めた残り三人を同時に相手しては木乃香を奪い返しての即時離脱など不可能。
 選択肢は二つある。
 このまま小太郎を打倒し、木乃香の奪還に向かうか。
 カードの機能を使い、二人を召喚した上で足止めを行うか。
 ネギは迷う。それも当然だろう。
 ここで二人の助力を頼めば、確かにこの場は切り抜けられる。しかしこれは、正しくネギにとって切り札だ。
 この距離では、再度の召喚にそう意味はない。走っても一分と経たずに小太郎は追い付いてくるだろう。
 まだ最も恐ろしい敵、フェイトが控えている状態で、二人の足止めを期待するのは下策。
 それに、下手をすれば鬼の大軍もが追いつき、状況は最悪となるだろう。
 迷い、その上でネギは決めた。
「コタロー君…………君が退かないっていうんなら。僕は、友達の為に君を倒す!」
「そうや! それでこそ男やで、ネギっ!」
 気を高めていく小太郎に対して、ネギは呪文を唱え始める。
 選択するのは、魔法の矢。光の29矢。
 存分に気を滾らせた小太郎は、我慢が出来なくなったようにネギに突っ込む。
 それに対し、ネギは地面、小太郎の足元を狙って矢を放った。
「なっ!?」
 罠だ。
 敢えて勝負に乗るような事を言っておいて、小太郎が正面から突っ込むように誘導する。
 その上で、視界封じと足場崩しの二段構えで小太郎を足止めする。
 得られる時間はそう多くないだろう。上手くいけばこれで小太郎を倒せるかもしれなかったが、ネギはそんな希望的観測は考えなかった。
 まず間違いなく追ってくる。
 それでも、ここは逃げて、その上で二人を召喚した方が勝率が高い。そう、ネギは判断した。
 しかし、そもそも小太郎から逃れるのには十分な時間が必要だ。
 一瞬でいい。どこに向かうのはかどうせ知られているのだから、こちらが止まらない限り絶対に追いつけない時間的猶予させあれば良かった。
 タイミングはシビア。そして、これは賭けだ。
 しかし、我を忘れてここで正面から戦い魔力を消費するよりは、余程いい。
 そう、それは評価に値する決断だった。
「待てやぁっ、ネギ! そりゃあないやろ!」
 数秒で、既にネギとの距離は絶望的。それでもネギを追おうとした小太郎を、一つの声が阻む。
「あのまま戦うのなら止めようと思っていたが……存外大人でござったな、ネギ坊主は。さて少年、ここから先は拙者が相手になろう」
「邪魔すんなや、デカイ姉ちゃん。俺は女を殴るんは趣味とちゃうんやで……?」
 先ほどとは逆に、小太郎が通行止めを宣言される。
 正直、ネギの裏切りとも取れる行動に、この邪魔立て。小太郎はキレていた。
 そう、例え女でも、殴る事を厭わないぐらいには。
「ネギ坊主を好敵手と見定めるのは、なかなかいい目をしているでござる。だが、今は主義を捨てよ」
「本気を出すかどうかは、俺が決める……っ」
 小太郎が拳を握る。
「ふむ、ならば――これでやる気になるでござるか?」
 分身の術。全く差異の見当たらない17人の楓は、笑みを顔に張り付けたまま宣言した。
「甲賀中忍、長瀬楓。参る!!」
「上、等ォ!」
 二人の戦いが、始まった。
























 鬼の数は、半数にまで減っていた。
 刹那の技の冴えもさることながら、やはり明日菜のハマノツルギの威力が功を為している。
「大丈夫ですかっ、明日菜さん」
「うん! もう敵も半分以下だよ」
「あまり無理はしないで下さい」
「大丈夫、まだまだいけるよ。後はネギがこのかを取り返してくれれば……」
 戦いの最中、お互い背を合せて呼吸を整える。
 が、その束の間の休息も、すぐに破られた。
「きゃっ」
「明日菜さんっ?!」
 唐突に接近したのは烏族だった。今までの力押しで攻めてきた鬼たちと違い、この烏族は技巧派だった。
 古めかしい剣を使い明日菜のハマノツルギを無効化する。
 急ぎ救援に向かおうとした刹那も、大型の鬼に阻まれ駆けつける事はできない。
 半数を削ることに成功したとは言え、逆に今もなお残っているのはどれも腕利き揃い。
 それを二体同時に相手するとなれば、流石の刹那も自分だけで手が塞がる。
 しかも、最悪な事に。
「さて、刹那センパイ……再戦、ですえ」
 月詠だった。刹那が昼につけた傷は既に癒えている。
 が、今の月詠は一刀のみ。相変わらず衛宮作の刀を携えている。
 それだけなら、むしろ昼よりも御しやすいはず。確かに現状その他大勢の敵が周りを囲み、状況は悪い。
 たが月詠単体を考えた時、その力は昼よりも劣っているのが自然のはずだ。
 なのに、今の月詠は昼とは比べモノにならない威圧感をもっていた。
 鬼気迫る、とは正にこの事。ゆらりと振るったその剣は、刹那が闘っていた鬼たちを後から細切れにする。
「なっ!?」
「邪魔やなぁ。邪魔や。ウチ、一人で楽しみたいんですえ」
 刹那が苦戦していた鬼を、いくら後から、しかも味方として不意打ちするなんていう方法だとは言え、二体を一瞬で討ち倒したという事実に思わず身震いする。
 強い。この月詠は、確実に強い。
 何が彼女をそこまで追い詰めているのか。それは分からない。
 けれど、今の刹那にとって最大の敵である事は間違いない。
「なっ!」
 一瞬の交錯。月詠の瞬動に対応しきれなかった刹那は、軽々と夕凪を砕かれる。
「立って。まだ、あるやろ? 同じ衛宮の刀で、殺し合いたいんや」
 ニタァと。感情が振り切れているのか、もはや月詠の表情は笑みというには不気味過ぎる。
 が、今月詠に背を向ければ死ぬ。それを肌で感じた刹那は、月詠の言葉に従う他なかった。
 だが、転んでもただで起きる気はない。
 月詠がそれ程に強いというのなら、刹那も相応の戦力を揃えるだけである。
「――へぇ。二刀、ですか」
 白結と宵闇。昼間の戦闘時、刹那が拿捕した衛宮印の短刀である。
 月詠の刀も小太刀だからこれでも戦う事はできるはずだ。いや、同じ衛宮の刀で互角となれば、手数で勝る刹那が有利。
 しかし。
「でも、そんなの関係あらへんナァ」
「ぐっ」
 再び、神速の踏み込みから繰り出される一撃を、刹那を両刀を交差して辛うじて防ぐ。
「ほらぁ、こんなもんじゃありまへんよ!」
 連撃は、絶えまなく繰り出される。
 手数が多い刹那が防戦に回り、ようやく互角。
 お互いが本来のスタイルでない以上、技術面においても互角であるはずなのに、尚。
「はは、ははははははははっ。楽しい、楽しいですえ、センパイ! もっと! もっと楽しみましょう!」」
 狂ったように叫び、けれど攻撃は冷徹なまでに正確。
 しかし、正確ではあれど、月詠の太刀筋には昼にはない雑さが見え隠れしていた。
 だがそれは些細な問題である。絶対的に運動量で勝る相手の虚を突くのに、その隙は小さ過ぎた。
「くうっ」
 骨が軋む。先程フェイトに攻撃された腹に痛みが走った。
 無理やり鍔迫り合いに持ち込んで、蹴りで突き放す。
 その少しの余裕で辺りを見回し……そして、もう既に状況が詰んでいる事を理解した。
 明日菜は既に敵の手の中。殺さないというルールは守られているようで、宙吊りにされたまま呻いている。
 だが、鬼の絶対数は変わらない。唯一の救いは、残り数十体の鬼は観戦に徹している事か。
 先ほど月詠に主格の鬼が一瞬で倒されたから、単に月詠を恐れているのかもしれない。
 そして、儀式の光は輝きを増すばかり。ネギが間に合った様子もなく、二人をカードで召喚する気配もない。
 万事、手詰まり。もうどうしようもないと理性で理解して、ようやく刹那はその可能性に思考が及んだ。
 すなわち、もう、己の本性に頼るしか手はない、と。
 刹那にとって、それは禁忌中の禁忌だ。他の全てを度外視しても、使いたくなかった力。
 それでもそんな、忌み嫌われた、刹那にとって吐き気がする程抵抗感のある力でも。
 何かを守る為に。明日菜を、ネギを、刹那を行かせる為に犠牲になった士郎の為に。
 そして何より、それが木乃香を守る事に繋がるのなら。
 その封を解く事に、自分の未来を捨てる事に、何の躊躇いがあるだろう。
「…………?」
 ゆらり、刹那は二刀を握ったまま両手を交差させる。
 それは剣の構えではない。その意味するところに気づいた月詠が、目を輝かせてその力の解放を待つ事にした、その時。

 流星が、降った。

 その光景を、刹那は忘れる事がないだろう。
 まるで大瀑布のように、幾条もの光が夜空を照らし出す。
 時間にして、それは10秒もなかった。しかし、その場の誰もが眼を奪われた。
 その流星が、鬼たちを悉く打ち抜いていく、嘘のような光景に。
 狙いが外れる事はない。逃げても、防いだとしても結果は同じ。
 流星は、全てを貫通して鬼を滅ぼす。
 残ったのは荒野のように荒れ果てた大地と、その上に燃え広がる炎だけ。
 その景色が、幻想的なのかどうかさえ、最早刹那には判断がつかない。
 ただ、確信があった。
 こんな事ができる人間は。あの時足を斬りおとせと命じたのは。
 この、あまりにも圧倒的な助力の為なのだ、と。
 だが、期待を裏切り聞こえた声は、聞き慣れたルームメイトのものだった。
「やれやれ。珍しく苦戦してるみたいじゃないか、刹那」
「た、龍宮っ!?」
「今回の仕事料はいらないぞ。鬼の掃討分は、既に士郎さんから貰っているからな」
 まるで今の攻撃が自分のものであるような物言いだが、刹那にはそれがブラフである事が分かった。
 衛宮士郎という人間は、徹底的に己の技能を隠す傾向にあると聞いた事がある。
 恐らくは、今回もその一環。先程の流星群は、龍宮真名による攻撃だと、そういう事にした。
 たったそれだけの為に、龍宮真名という腕利きを使う辺り、感覚が麻痺しているとしか思えないが、それぐらい有り得ない事だからこそ人を騙せる。誤魔化せる。
「もっ、もしかして、今の龍宮さんが!?」
「神楽坂、無事で何よりだな」
 真名は積極的に肯定する事はなかったが、その笑みに込められた意味は言わずとも伝わる。
 これで、明日菜という証人が出来て、刹那と真名、加えてまだ後に控えている古菲は喋らない以上真相が伝わる事はない。
「今の……今の邪魔、あんはんどすか?」
 俯いた月詠が、ぼそぼそと口を開く。
「そうだ、と言ったら?」
 月詠は無言で動いた。
 真名の銃では、どんなに強化を施しても月詠の刀には勝てない。受け止める事ができない上に銃弾も効かないのなら、真名は避ける以外に選択肢はなくなってしまう。
 それを阻止する為、刹那は両刀を以って割って入った。
「センパイ、センパイは後や。 今はあの女を……!」
 月詠の瞳は狂気に染まっている。これはもう、尋常なものとは思えない。治療に特殊な薬でも使ったのか、時間の経過と共に更に酷い事になっている。
 だが、狂気に苛まれた剣は強かった。技ではなく、単純純粋な力押し。鍔迫り合いでは刹那に分はない。
 先ほどの蹴りが二度通じる程甘い相手でもなく、ギリギリと刹那は追い詰められていく。
 見かねた真名が援護射撃の為に立ち位置を変えた、その時。
『刹那、上に跳べ』
 刹那の脳裏に、直接響く声があった。
 一も二も無く刹那は跳び上がる。考えるまでもなく、体は勝手に動いていた。
 瞬間。閃光が月詠に駆ける。
 今度は刹那にもソレが見えた。剣だ。如何にして放たれたのか、膨大な運動量を秘めて飛来した剣は、月詠の剣を押し戻すどころか体ごと吹き飛ばす。
「衛宮、士郎っ」
「いかにも」
 ゆっくりと、士郎は炎の中から姿を現した。
 まだ走る事はできないのか、その歩みはいつもの彼と比べても遅い。
「お前が私の刀を盗んだ者だな。今すぐ返すというのならこの場は見逃すが、どうするかね?」
「知れた事。消えるのは、あんはんの方や!」
「そうか」
 士郎と月詠の間はまだ遠い。それでも、瞬動を使えばそう時間のかかる距離ではなかった。
 月詠は速い。対して、士郎は未だに無手のまま。剣を構えねばやられる。誰もがそう確信し、声を上げそうになった。
 なのに。
「“壊れた幻想”」
 異変は唐突だった。残像さえ残す速さで駆ける月詠が、士郎が何事かを唱えた途端爆発したのだ。
 いや、正確にはその刀が。
 爆発そのものはそう大きいものではなかった。月詠が高速移動していた事もあって、炎に焼かれる事はなかっただろう。
「ひっ」
「ナント……」
 それでも、その惨状は明日菜と古菲が眼を逸らしてしまう程のもの。
 両腕が、無かった。両手首は炭化して崩れ去り、肘から先はもう使い物にならないだろう。
 当然失速した月詠は、士郎に辿り着く前に地面に叩きつけられる。
「ぐっ、がぁあっ」
 月詠は起き上がろうともがく。これ程の状況でまだ戦おうというのか、うつ伏せの状態から何とか仰向けに体勢を変える。
 士郎がゆっくりと、月詠に近づいていく。それを確認して、月詠ももがくのをやめた。
 理解したのだろう。最早、自分はトドメを刺されるだけの存在なのだと。
 今起きた不可解な現象に疑問を挟むでもなく、先ほどまでの狂気もすっかり鳴りを潜めた。
 士郎が月詠の元まで来る頃には、静かに目を閉じている程に諦めている。
 だと、言うのに。
「……は?」
 士郎は、月詠など初めから存在しなかったかのように通り過ぎる。
「刹那、何を呆けている。まだ近衛は取り返していないんだぞ」
「何や、ソレ」
 月詠が呻いた。瞳には涙さえ浮かべていた。
「ウチにはトドメを刺す価値もない、そういう事なんか!」
 悲痛なその叫びにも、士郎は答える事はない。ただ、時間が惜しいとばかりに歩を進める。
「許さん……っ。許さんからなぁ……。あんはんは、あんただけは、絶対に……」
 その場に月詠だけが取り残されても、彼女の嗚咽は止まらない。
 拭う手のない涙は、ぽつぽつと星空に溶けていった。






月詠「あ、危ないドラッグなんて使ってへんからね?」
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