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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第33話


「明け方のアクシデント」



 士郎が本山へと向かった最大の理由は明日菜についての情報を得る為だが、左腕の完治を早める目的もあった。
 木乃香護衛に避ける人員がなかったとしても、後方支援の治癒術師くらいはいるはず。
 仮に専門ではないにしても、ネギに頼むよりは効果が期待できる。
 士郎は左腕の完治に30時間と言ったが、それは常に鞘を制御して魔力を必要分供給し続ける事が条件となる。
 昼間、木乃香周辺の監視を行っていた間は治療に集中などできなかった。警戒を怠って致命のミスを犯せば本末転倒。そんな初歩の愚を見せるような経験を、士郎は積んでいない。
 詠春に話があったのも事実だが、士郎は刹那に心配させない為に敢えて左腕の治療に関しては隠した。
 受けるだけで返せない恩義というものの重さを、士郎も良く知っていたから。




 一応、士郎も本山への立ち入りのみならば顔パスだ。この優遇は長である詠春との友誼から成り立っている為、あまり乱用すれば角が立つ。
 今回は娘の為と思って諦めて貰う事にした。部下の統制も仕事の内なのだし。
 まだ仕事で忙しかった詠春には挨拶そこそこ、取りあえず治療を受けさせてもらう事にした。
「不思議な、傷ですね」
 手の空いていた治癒術師は、術を使いながら呟いた。
「分かるのか」
「ええ。と言っても、普通ではないという違和感ぐらいですけれど」
 確かに普通ではない。それは本質的には傷ではなく、“そうでなければならない”という修正力によって発現した必然だからだ。
 と、言っても現象自体は普通の傷と変わらないから治癒魔法で十分効果がある。
「終わりました。しかし、貴方ほどの人が腕を斬られるなんて、相手は誰だったのですか?」
「……私の風評はどうなっているのかな?」
「京では有名人ですよ。貴方が初めてここを訪れた時にしでかした事を正しく認識すれば、大凡予測は付くと思いますが」
 優しそうな笑顔なのに、その声には聞きとれるほどの棘が混じっていた。
 士郎が初めて京の本山を訪れた時、長である詠春と決闘紛いの試合を行った。その結果を考えれば、京において士郎の能力がどのような評価をされているのか察するのは容易だ。
 もっとも、高い評価以上に負の感情が大きく、いくら友好的であっても士郎にとって本山はアウェーと同じ。
 目の前の女性がどんなに優しげな微笑みを見せているからと言って、油断すればどんな不利に追い込まれるか分からない。
 何せ、士郎の行動、介入は関西にとって侵犯モノなのだ。嫌われて当然とも言える。もちろん、全ての人間がそうだとは言わないし、直接的な攻撃を行わない分別ぐらいはある。
 しかしながら、士郎には他に手段があるのに本山で休むなんて事はしない。監視には慣れていても、疲れるのに変わりはないからだ。
「術は助かった。感謝する」
「いえ、これも仕事ですから。それに、貴方がどんな存在であれ、木乃香お嬢様の助けとなるのならば協力は惜しみません」
 愛されているのだな、と士郎は嬉しく思った。木乃香が京を離れてから数年経った今でも、ここはちゃんと彼女の家なのだと。
 人員の問題、組織としての体面など様々な事柄で手が出せずとも、助けになりたいという意思が本物ならばそれが最良だろう。意思なき剣より意思ある包帯の方がよき救いとなる。
 だが、士郎は治癒術師の言葉を無視するようにその場を後にした。
 百の言葉を連ねるよりも、一の行動で示す。その信条を貫く為に。







 結局、詠春と話す機会が設けられたのは治療を受けて小一時間経った頃だった。
 何がそんなに忙しかったのか、士郎が聞くことはない。一昨日に比べて本山の人が減っているから、地方で大きな事件でも起きたのだろうと、簡単に予測する程度だ。
 今重要なのは、神楽坂明日菜について。
 その暴走の危険性と、なにより……どう守るべきか。それを士郎が判断する為には情報が必要だった。

「……明日菜君、か」
 今までの経緯を話した上での質問に、詠春は言葉を濁す。
「どこの馬の骨とも知れん者には語れないか?」
「いや、そういうわけではないのだが……彼女についてはタカミチ君に聞くのが一番早いはずだぞ」
「アイツは今出張中だ。どこに行っているのかは知らないが、少なくとも電波は届かないようだな」
「新世界か……となると、帰還には数週間かかってしまうな。だから私という事か」
「ああ。千の刃は所在が知れないし、アルビレオ・イマは地下から出れない。今最も近いのはお前だからな」
「アルの所在を知っているのか!?」
「ああ。近衛翁も知っている様子だったが」
 アルから口止めされていた士郎だが、詠春には故意にバラした。そちらの方が何かと都合が良かったし、かつての仲間に知られて困るという事もないだろう。あるとすればそれはアルの遊びであり、そんなものを士郎が考慮する必要はなかった。
「……そうか。死んでいるわけはないと思っていたが。アルとはどこまで話を?」
「その件は長くなるからまた後にするとしよう。とりあえず、神楽坂明日菜については何も聞いていない」
 詠春は少しだけ黙考してから口を開く。
「正直、私も詳しく知っているという程じゃない。あの子についてはナギが主導していたし、ガトウが死んだ後は全てタカミチ君に任せていたから」
 そう前置きを述べた後、詠春は本題を語り出した。
 紅き翼が大戦で大きく関わったウェスペルタティア王国。その王家の血脈“黄昏の姫御子”アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア。
 それは、紅き翼の戦いの根幹に在ったものだった。
 詠春が全てを語っていないという事を、士郎は理解した上で考える。
 この問題が、自分の手に負えるものかどうか。神楽坂明日菜、いやアスナ・ウェスペリーナを守るのならば、士郎が取るべきスタンスは何なのか。
 ここで、アスナを『どうやって切り捨てるか』という思考に至らないだけ、きっと士郎も変わっている。
 実際、アスナの問題を根底から解決することなどできない。強大な権力、関東魔法協会、その長たる実力者に保護されてこそ、今の彼女の生活は存在しているのだ。
 非常に危ういバランスに、士郎ができる事など多くはない。
 今回の、修学旅行における近衛木乃香の護衛。この任務における明日菜の扱いで最適なものは決まっていた。
 戦場、戦いから少しでも遠ざけ、様子を見る。
 明日菜の暴走が、かつての環境に近づく事で記憶が甦りつつある弊害だとしたら、その要因を排除するのは当然の考えだ。
 しかし、それでは根本的な解決にはならない。
 切っ掛けはおそらく、ネギとの仮契約だったはずだ。ならばもう手遅れであるのかも知れないし、タカミチだっていつかは消した過去について明日菜に語るつもりだったのだろう。
 もしもこのまま遠ざけて、日常的な場面で記憶が復活してしまったらジリ貧だ。
 ならばいっそ、このまま現状を維持すべく動く、という手もある。どうせタカミチに相談せずに決める事ができる問題ではない。
 明日菜に疑われないように、極力自然に振舞いながら修学旅行を終わらせ、タカミチが帰ってくるのを待つしかないだろう。
「士郎。君は、明日菜君をどうするつもりなんだ?」
「あまり、自分から積極的に動くつもりはない」
「それは、木乃香を優先するという意味なのか?」
「さて、どんな答えがお望みだ?」
 質問に質問で返した士郎に、詠春は含みのある笑みで答えた。
「そうだな……ならば、二人ともと答えておこう」
 堂々と。詠春は、木乃香の親として、明日菜も同等に守って欲しいと言った。
「無理しなくていいんだぞ?」
「無理などではないさ。明日菜君も木乃香の大切な友達だ。どちらが欠けても、二人が悲しむ事になる。それに……君ならば、それができるだろう?」
「買いかぶられたものだ……が」
 そう言いつつも、士郎は嬉しそうだった。
 そうまで言われたら、男として、友として、やり遂げなければならない。衛宮士郎という男が、その信頼に見合う者であるという証の為に。そして何より、二人を揃って守れないようならば、士郎が京都まで来た意味がないのだから。
「その信頼、全霊で応えよう」
 詠春の笑みに応じるように、士郎もまた笑みを見せた。









「ところで」
 もうほとんど傷痕も消えている士郎の左腕に視線を向けて、詠春は尋ねる。
「その腕の顛末は聞いてもいいのか?」
「まあ、構わないが」
 士郎は刹那が腕を斬られた経緯、それを自分に移し替えた事を説明する。
「済まない。私たちが君の刀を盗まれたばかりに……」
「謝罪なんて必要ない。私は私の責任を全うしただけだ。作った者、盗まれた者。責は等分だ。どうしてもと言うのなら、刹那に労いの言葉でもかけてやるんだな」
「しかしそれでは、」
「神鳴流にとって、腕を斬られるというのはそれ程に軽いものなのか?」
「…………」
 士郎は自分ではなく、刹那を出して詠春を黙らせた。
「知らぬふりをして、木乃香の護衛だけ労えばいいだろう。それが一番、双方に優しい」
「……ああ」
 嫌な沈黙が流れる。
 詠春は士郎の予想以上に責任を感じていた。
 力とは、在る事が罪なのではなく使い方が問題になる。究極的には下手人である月詠の罪だが、詠春はとりわけ自責の念は強い方だった。
 そういう意味で、士郎と詠春は似ているのかもしれない。
 士郎に指摘された通り、刹那にこの件について謝罪するのは彼女の心を傷付ける可能性がある。かといって、士郎も言外に謝罪などいらないと言っている。
 だから詠春は汚名返上の機会、少しでも士郎たちの助力になれる事はないか、と考えた。
 しかし、そもそも現状士郎がやっている事と言えば、形式的に刹那の依頼という事になっていても実質的には詠春の個人的な頼みに近い。
 それに対する支援は援助ではないし、そんな事では詠春の感情は治まらなかった。
 が、今何かを為せるわけではない。詠春は借りを一つ、胸に刻んだ。
「詠春。もしも敵方が近衛の力を使って反乱を起こそうとするなら、何を狙う?」
 士郎が今後、最悪の道筋を辿った場合の戦略予想を尋ねる。相手の目的を知ることは、戦いにおいて重要だからだ。
 具体的にどういう行動を取るのか、予測する事ができれば裏もかけるし大半の局面も有利に進める事が出来る。
 もっとも、その予想が正しい場合にのみの話であり、先手を取って間違えたら被害はより甚大なものとなる危険性もある。
「……ここには伝承に残る鬼神や妖魔の封印には事欠かないが、その中でもリョウメンスクナは別格。木乃香の魔力があれば制御も可能になる。しかし逆に言えば、スクナの制御で精一杯だろうな」
「と言う事は、いずれ本山に攻め入る事になると見るべきか?」
「それはないだろう。敵は少数戦力のようだし、木乃香の魔力だけでは本山の結界を超える事は出来ない」
「ならば奴等の目的は脅迫か? 何れにせよ関西を支配しなければ関東に喧嘩を売る事もできないはずだが」
「さて……長期的に考えるのなら、木乃香の奪取に成功したのなら一旦地下に潜るだろう。そしてそれが一番厄介だ」
 もしも、木乃香の防衛に失敗して、敵がそのまま逃亡したら。
 おそらく、今までの近衛木乃香には、もう会えなくなってしまう。
 親として詠春は決してそんな結末を認めるわけにはいかないし、士郎とて依頼主である刹那を思えばどんな手段を使ってでもそんな未来は消しさるつもりだ。
「最悪の場合……奴らを京から逃がさない手立ては?」
「難しいな。現状では、人が少なすぎる。少なくとも関東には逃げないだろうし、国外へ出ようとするのならすぐに分かるが」
「一度逃がしたら、短期での包囲は無理か」
「そうなる。つまり、」
「失敗は許されない、か」
 防衛とは、つまり完全に後手に回らざるを得ない状況を指す。
 故に、同数で対抗するのならば最低でも砦のような利が必要だ。そうでなければ数的有利。
 なのに、今回双方の戦力はほぼ等価と言える。
 士郎と戦い、足止めする事ができる人間が敵にいる以上、個の突出した戦力は役に立たない。もちろん士郎とて前回のように止められてやるつもりはないが、月詠というイレギュラーもある。刹那の敗北もあるし、状況は不利と言う他ないものだ。
「二つ、許可が欲しい」
 詠春は、無言で士郎に先を促した。
「一つは、次に敵の襲撃があった場合、本山へ逃げ込む事」
「それは勿論構わない。むしろ、そうしてくれた方がありがたいぐらいだ。大義名分が出来るし、何より守り易い」
「ああ。そして二つ目は、近衛木乃香に自分の立場を含めた魔法に関する全てを告げる事」
 詠春は押し黙った。
 今まで、詠春は木乃香に普通の女の子として生きて欲しいと願い、そして木乃香はおおよそその願い通りに生きてきた。
 だが、一度知ってしまえばもう戻る事は出来ない。
 勿論、反乱分子に奪われるぐらいならば、全てを知って魔法使いとして生きてくれた方がいい。親が願っているのは、ただ子供の幸せだけだ。
 辛い道のりでも、幸せを掴む事は出来るだろう。その機会を奪われなければ。
 そう、分かっていても悩んでしまう。
 衛宮士郎ならば、そんな枷さえ破らずに守り通してくれるのではないか、と。
 半ば願望に近い考えが、詠春の脳裏を過る。力だけでは守れないものなど幾つもあるという事は、かつて戦いの中で学んでいたというのに。
「認められないか?」
「いや……これ以上の押し付けは、親のエゴだろう。条件を付けるが、いいか?」
「聞こう」
「敵の襲撃があるまでは、魔法に関して話さないでくれ。ただ、狙われているという事が分かれば十分だろう?」
「分かった。私も極力告げずに済むよう善処する。だからそう気を落とすな」
「済まない。長失格だな、私は」
「だが、父親としては真っ当だろう。そちらの方が好ましいと、私は思うがね」
 慰めるような士郎の言葉に、詠春は力なく、少しだけ笑った。














 旅館に戻った士郎は、昨日と同じように夜間周囲の警戒に当たり、早朝目を覚ました刹那からの連絡で入れ替わるように睡眠を取った。
 精神の解体清掃。自己睡眠によって意識を解体し、ストレスを吹き飛ばす荒療治だが、極短時間の睡眠で肉体疲労まで回復できるこの手段は効率的だ。
 士郎は、今回こそ刹那という協力者がいたから使用したが、この術をあまり使った事はなかった。
 まだ彼の姉が隣に居た頃にはこの術を知らなかったし、覚える頃には一人になっていたというのが、理由として挙げられる。
 この術は、睡眠中に肉体が完全に無防備になるのだ。故に、士郎はこの術が好きではない。かつてから敵が多かった士郎は、睡眠中に襲われた事など数えきれないからだ。
 だから、この術を使うのは信頼できる誰かが側に居てくれる時に限定される。もしくは、そのリスクを負ってでも回復が必要な場合だけだ。
 今回は、その両方の条件が揃っていた。襲撃をかけてくるであろう今日、極力万全な状態でなければならないし、今回は刹那がいる。
 刹那に関してはその強さも実直さも知っているし、何より木乃香への忠誠から士郎を害する危険性を考える必要がない。
 そう、安心しきって士郎は眠りについた。









 刹那は、士郎と入れ替わりで哨戒に入る際、昨夜の出来事を伝えておくつもりだった。
 ネギの正体が朝倉にバレた件と、ネギに新たな仮契約者ができた事。
 だが、士郎は貴重な時間を無駄にしたくなかったのか、あっという間に寝入ってしまい、報告は起きた時にする事になる。
 まだ日も昇っていない時間帯では、起きているのは旅館の従業員ぐらいのものだ。
 出歩いても人目につくし、刹那は5班の部屋で木乃香の寝顔を眺めながら待機している事にした。侵入者があれば結界から知れるし、士郎も寝ている今、木乃香の近くに居る事が何より重要だったからだ。
 考えるべき事はたくさんあるはずなのに、こういう時に限って刹那の思考は先に進まない。
 木乃香の事。明日菜の事。士郎の事。
 これから自分はどう動くべきなのか。自分はどうしたいのか。
 考える事が多すぎて混乱する。だから、後回しに出来ることは忘れる事にした。少なくとも、今だけは。
 敵、月詠の事。
 士郎が相手をすると言っても、状況が許してくれない事もあるだろう。となれば、彼女に対抗できるのは刹那だけだった。
 ならばどう戦うべきか。思考は空転して結論は出ない。
 何度頭の中で月詠との戦いをシミュレートしても、結果は変わらなかった。受ける事もできない刀を相手に、どう戦えばいいというのか。
 刀を打ち合わせずに飛び道具で戦う方法がないわけではないが、少なくとも月詠はそんな手段で敗れてくれる相手ではない。
 単純な二刀流が相手なのならば、刹那はそれ程苦にしない。双剣使いと二刀流というのは大きな違いがあるが、刹那にとってはどちらも同程度厄介なものだ。
 士郎との鍛練の時間は、確実に刹那を強くしている。刀が同等ならば、神鳴流本来の戦い方ができるのなら、負けない自信が刹那にはある。
 だからこそ口惜しい。今までの鍛練が、装備一つに否定されたようで。
 そうして悔しがっている内に、ふと刹那は一つの戦い方を思いついた。自分に可能なのかどうかも分からない、ぶっつけ本番でこなすには難しすぎる危険な戦い方。
 しかし、刹那にだって腕を斬られた恨みもあるし、このまま黙って引き下がれるわけがない。
 状況によっては勿論木乃香を優先するとして……余裕があるのならば。
 刹那は密かに、再戦の闘志を燃やした。











 刹那は、起こしてくれ、と士郎に言われたわけではなかったが、起きると宣言された時間から一分と違わず士郎の部屋に来た。
 鍵は開いている。代わりに結界が張ってあり、一般人は入ってこれないようになっていた。
 刹那がこの部屋にやって来たのは昨夜の事を説明する為だ。朝食の時間なども迫っていたせいで、あまり時間はなかった。
 軽くノックしてから躊躇いがちにドアを開いた。こんなところを誰かに、特に木乃香に見られたら困るから、細心の注意を払って。
「士郎さん……?」
 士郎はまだ寝ているようだった。が、その様子がおかしい。
 血色が悪く、胸も上下していない。
 刹那は一瞬で血の気が引いた。刹那の目に、士郎が死んでいるように見えたからだ。
 慌てて駆け寄って首筋に手をあてて脈を確認する。ゆっくりとした鼓動を感じ安心して、一応呼吸を確認する為に顔を近づけた。
 口元に耳を近づけて、呼吸音を確認。微かに耳に生暖かい息を感じて、安堵の後に顔を上げようとした一瞬に。
 幸か不幸か、それは分からない。少なくとも士郎にとって幸せなタイミングではなかった事は確実だった。その瞬間に士郎は目を覚まし、スッキリとした頭のまま起き上がろうとしてしまったのだから。
 驚いた刹那は先に顔を上げればよかったのに、そのまま士郎の方を目で確認しようとする。
 結果。あまりにも確実に、長々と唇が触れあってしまった二人は。
 光り輝き静かに畳に落ちるカードの存在に気づく事も無く、互いに硬直した。
 








凛「…………ペドね。救いようがないわ」
士郎「ちがぁあうっ!」
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