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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第28話


「焦りの代償」




 式神を使った近衛木乃香奪取に失敗した天ヶ崎千草は、油断を突いて再度計画を実行する為に仲間たち……いや、この場合は共犯者を集めていた。
「ウチの逃走ルートはこれや。ウチが呼んだら救援を頼むで。フェイトはんには人払いの結界を、小太郎はんには待機してもらう」
「いや。今回は僕も出るよ」
「フェイトはん?」
「衛宮士郎が、近衛木乃香の護衛についているみたいだ」
「なんやて!?」
 千草も、単身で麻帆良学園都市の戦力を圧倒したという衛宮士郎の話は聞き及んでいる。
 その人物が、関西の長・近衛詠春との親交を持ち関西に強力な武装を売り渡している事も。
 一度、仲間に引き込まないか考えた事さえあるぐらいだ。
 尤も、親東派である長の側に立っている人間を引きこめるはずもなく、接触のリスクが大き過ぎた為にご破算になったのだが。
「彼についての情報はまだ多くない。ただ、少なくとも近衛詠春クラスの力量はあるはずだ。出し抜く為には、囮が必要になる」
「でも、そんな化け物の相手が務まる奴なんて……」
「僕が行きます」
「……ええんか?」
「任せて下さい」
 無機質ながらも確信を持って、フェイトと呼ばれた白髪の少年は頷いた。
「よっしゃ、なら結界は小太郎はんに任せて、後は計画通りに」
 赤く染まった月を背に、彼女らは動きだした。
















 魔力感知が苦手な士郎は、その鷹の眼を用いて周囲の警戒にあたっていた。
 この行為は、考え得る限り最も過激な部類に入る襲撃が行われた場合の対処であり、隠密な行動に対するものではない。
 一番近くで守るのは明日菜、魔力感知はネギが担当し、刹那が館内を見回りながら警戒にあたる。
 隙がない、わけはない。所詮この少人数では限界があるのだ。
 士郎が女子生徒が泊まっているエリアに張り込むには常に認識阻害の札を使わなければならない。
 そこまでするよりは、こうして周囲の警戒に徹する方がいくらかマシだと士郎は判断した。
 また、屋外を監視していれば必然、近衛を連れ去る影を見つける確率も高くなる。
 転移を使えばまた別だが、それでは痕跡が残る。逆探知を防ぐにはある程度転移を重ねなければならない。
 それを為し得る敵であるのなら厄介だが、詠春によるとそのレベルの人間はほとんど外の仕事で出払っているらしい。
 となると、容疑者は自然に炙り出され、本山の協力の元事件は解決するだろう。上位者ならば、それが分からぬはずがない。
 連続転移ができない術者でも魔法符を使えば代用は可能だが、一枚八十万もする術符を何枚も使い捨てにできるとは思えない。
 だからこそ、士郎は春の夜の寒さに耐えながらその眼を開き続ける。
「士郎さん」
「ん? ああ、ちびせつなか」
 ぷかぷか浮かぶ刹那の簡易式神『ちびせつな』が、身の丈に合わぬ缶コーヒーを持って現れた。
「本体からの差し入れです」
「そうか。では、ありがたく頂こう」
 まだ温かいそれを片手で受取り、プルタブを起こして一口含んだ。じわりと温かさが沁み渡る。
 缶コーヒーを飲む時だけは、自分が淹れるコーヒーも悪くはないな、と士郎は思う。缶コーヒーがマズイわけではないのだが。
「ああ、ところで。ちびせつなと刹那は同期しているのか?」
「ええ、そうですよ。完全自律型もありますが、本体が意識を割かない分思考が遅いので」
「と、言う事は今意識を分身に割いているわけか。何割くらいだ?」
「2割……いえ、3割程度です」
「1割に留めろ。完全自律型でもいい。今は、近衛の方に集中しておいてくれ」
 士郎自身、少し強い言い方だとは思ったが、木乃香の為を考えるならば仕方無かった。
 刹那の精神が不安定である事が分かっていても、話を聞いている時間を敵が与えてくれるとは限らない。
 明確に木乃香を狙う行動を示した以上、もう油断はできないのだ。
 仮にその緩みが原因で木乃香が強奪されてしまったら、きっと刹那は立ち直れない。
 ひと先ずは、明日。奈良が安全とは思えないが、昼間は手を回し難いはずだ。相談に乗ってやるのなら、その時でいい。
 その判断もまた、間違いだったのかもしれないが。
「分かりました。では、自律型に切り替えます。何かあったらもう一度繋げますので、外の監視はお任せします」
「ああ」
 一瞬、ちびせつなが淡く光る。今までぷかぷか浮かんでいたちびせつなはゆっくりと士郎の膝の上に降りた。
 会話はない。必要ないからだ。
 いや、実際はちびせつなが何とか話しかけようと話題を探していたのだが、虚空を見つめる士郎の視線に尻込みしていた。
 士郎が時折コーヒーを啜る音だけが、闇の中に響く。
 恐ろしく静かなのは、騒ぎの中心である3-Aの面々が撃沈しているのも関係しているのだろう。
 その中で、ちびせつなは士郎の背面の監視を行う事にしたらしく、極力士郎の注意を引かないようにちょこちょこ屋根の上を歩き、縮尺が間違っている背中合わせを実現した時。
「!! 士郎さん、お嬢様が連れ去られました!」
 本体との同期を強めたちびせつなが叫ぶ。士郎もまた大声で問い返した。
「状況は!?」
「まだ何も分かっていません。上からは何か見えませんか?」
 士郎は視界の中にある動く物を探す。すると、まだ近くを走る大きな猿を見つけた。後姿ではあったが、木乃香らしき姿も確認できる。
「見つけた。渡月橋の方向に走っている。先行するぞ!」
 士郎はちびせつなを掴み、一歩の跳躍で旅館の敷地外へ着地する。
 単純な速度ならば士郎に分があった。あの着ぐるみは強化服のようなものなのだろうが、見た目に反せず動きは鈍重だ。
 その分パワーはあるのか、ジャンプ力はなかなか。だがそれも、士郎にとっては脅威ではない。
「近衛木乃香は返して貰うぞ!」
「はんっ! やってみい!」
 既に距離は十数メートル程度。木乃香さえいなかったら投擲で決着がつくのだが、この状況ではとりあえず追いついて木乃香を奪い返さなければならない。
 周囲の状況を確認し、瞬動で回りこもうとした士郎の視界にネギが見える。士郎はこれをチャンスと考え、ネギに向かって叫んだ。
「ネギ、挟撃するぞ! 退路を塞げ!」
 声を受けたネギは、その声で初めて状況に気づいたようだ。明らかに混乱しており、咄嗟に魔法を使う事もできず、杖を取り出すのが精一杯だった。
 千草が通過してからようやく詠唱を始めるも、式神に邪魔される。
 その場に追いついた士郎は、ネギに纏わりついた式神を排除しようとはしなかった。
 そんな暇はない。そうしている間に逃げられたらお終いだ。
 ちびせつなを連れて来ているので、このまま見失わなければ後続の刹那たちが追跡できる。
 今度こそ瞬動で一気に接近しようと足に力を籠めたところで。
 その、異質な少年に気がついた。
「任せましたえ」
 誘拐犯が少年に声をかけている事から、士郎は即座に敵だと認識した。
 橋の中央、こちらの追跡を邪魔する位置に立っている少年を無視する事はできない。
 排除する必要がある。瞬時に使い慣れた双剣を投影し、構えた。
「ちびせつな、本体がここに来るまであと何秒だ」
「30秒もあれば!」
「よし。ならば借りていくぞ」
「うわぁっ」
 士郎はちびせつなをポケットに押し込んだ。もぞもぞと動くちびせつなを意に介さず、士郎は駆ける。
 高速で接近、そのままの勢いで斬りかかる士郎の一撃を、少年は動く事もなく余裕で対処しようとして、
「!!」
 数多張り巡らせていた障壁を破られ、慌てて飛び退いた。
 体勢を立て直す隙を与えず、士郎は攻める。だが、今度は少年も本気だった。剣が障壁を破るのに必要とする僅かなタイムラグを使って反撃に転じる。
 攻防は、士郎がやや不利。
 しかし、彼らは戦いながらも移動しており、その方向は千草が逃げていった方向だ。
 士郎は焦る事無く、誘拐犯を視界に収めながら戦場を移した。



















 士郎さんがちびせつなを持って行ってくれたおかげで、敵方の逃走ルートはだいたい予想できていた。
 私は、麻帆良へお嬢様の護衛の為に赴いてから、京都へ帰った事はない。
 京都は道が複雑なわけではないから、地の利が向こうにあるとてそこまで不利になる事はないだろうが、視認できる距離までは追い詰めなければ拙い。
 最悪の予想、もしもこのまま電車を使って逃げられた場合追いつくのは難しくなる。
 ネギ先生とは合流する事が出来たが、橋の上で戦闘を開始した士郎さんと白髪の少年の姿は、もうない。
「士郎さんは自分から場所を移したみたいでした。サルのお姉さんが逃げた方向に行きましたから」
 とはネギ先生の証言だ。
 私たちも士郎さんを追うように橋を渡り駆ける。
 ネギ先生と神楽坂さんの足は、もちろん一般人に比べれば速いけれど、やはり私たちと比べられるものではない。
 だが、敵の呪符使いはその大勢がそうであるように、身体能力はそう高くないようだ。
 現に、駅よりも前、逃げられる前に上手く追いつく事ができた。これも、足止め役を士郎さんが引き付けてくれたおかげだろう。
 だが、誘拐犯を視認できるまでに迫ったというのに、士郎さんの姿も戦闘の気配も周辺には感じられない。
「チッ、電車で逃げるつもりか……士郎さんの救援は待てません。ネギ先生、神楽坂さん! 行きます!」
「うん、でもあのデカザルは何!? 着ぐるみなの?」
「見てくれで判断しないで下さい。おそらく式神の一種です」
「式神って、あんなのもあるんですか?」
「強化服のようなものだと思ってください。術で作り出されたものに変わりはありません。気をつけて」
 私たちは敵を追って駅の構内へ、改札を飛び越えて侵入する。
 人払いの呪符を確認した私は二人に注意を促し、呪符使いを追って同じ電車に駆け込んだ。
「ネギ先生、前の車両に追い詰めますよ!」
 私は夕凪を携え先行した。
 その行動に、焦りがあった事は、否めない。
 電車という逃げ場のない空間、本来ならばもっと慎重に追い詰めるべきだったのだろう。
 人払いの呪符を見るに完全に計画された犯行なのだから、この電車に仕掛けが施されている事も考えるべきだった。
 もしくはこのように、こちらの動きを封じる手段を持っているのだろうという予想だけは、最低限必要な事項だったはずなのに。
「くっ」
「わーっ!?」
「な、なによこの水!?」
 敵は、電車内を満たす程の水量を瞬時に発生させた。
 転移系の術か、精霊契約による発生魔法か。いずれにせよ、水の中では剣は振るえず、呪文など到底詠唱できるわけもない。
 敵ながら、上手い。だがその上手さも、私が確りとしていれば回避できたはずのもの。
 ネギ先生がいるのだから、範囲指定の障壁を用いた接近も可能だった。
 それをしなかったのは、思いつかなかったのは、焦っていたから。そして今も焦り続けている。
 『せっちゃん助け――』
 最悪の未来予想が、このままお嬢様を奪われてしまった時の現実が、私の脳裏を瞬く間に過ぎる。
 そうだ。
 水の中で剣は振るえぬ、などと、誰が決めた。今未熟でも、一秒後に成し遂げていればいい。
 限界など気にしない。慢心せず躊躇せず、自分の全力など忘れ去り気を放出する。
 肺に残った少ない空気を音にならない声で吐き出し、放出した気を剣にのせ、固まったかのように動かない腕を無理やり振るった。
『斬空閃!』
 水を押し流した気は、そのままの勢いで電車のドアを打ち破る。
 未だ増え続ける水は隣の車両にも流れ込み、お互いの動きを封じる結果になった。
 気を大放出した反動でまだこちらの動きもままならないが、重い着ぐるみにとって水は私たち以上に厄介な枷となっているようだ。
 その膠着状態に、歯噛みする。結局、お嬢様に近づけない状況に変わりはない。
 士郎さんなら。士郎さんなら、この状況をどう好転させるだろうか。
 そんな事を考えながら必死に息を整える私は、最後まで策を思いつく事ができずに、終点までを無為に過ごしてしまった。
 ドアが開かれると共に、大量の水は排出される。
「嫌がらせは諦めて大人しくお嬢様を返せ」
「ふ、ふん。なかなかやりますな。しかし、ここで諦めるんやったら初めから動かんというもの。お嬢様は返しまへんえ」
 そして、再び追走劇が始まった。

















 フェイトの拳と、士郎の夫婦剣が交差する。
 建物を縦横無尽に飛び交いながらの攻防は、互いに決定打がないままここまで進んでいた。
 士郎は、ちびせつなから本体である刹那の位置を聞き出し、線路沿いに進路を取っている。
 だが、そのスピードは少年の攻撃によって大きく遅れていた。
 埒が明かぬと士郎は判断し、一旦足を止めて迎え撃つ。
「なかなかの使い手だな。名は?」
「名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀だと思うけどね」
「ふん、私の事などとうに調べがついているだろう。でなければ、こうして私の足止めが出てくるわけがない」
「流石は魔剣使い。お見通しというわけか」
 魔剣使いという名称は、魔法世界における士郎の俗称だった。それを知るこの少年は、少なくとも魔法世界との繋がりがある、という事になる。
「……やはり貴様は、関西の者ではないな。今一度問うぞ。名は何だ?」
「フェイト。それ以上は、貴方が知る必要はない」
 それが偽名であったとしても、自らが名乗った名前を知ることができたのは、意味がある。
 士郎はその時点でこの交戦の価値はあったものとし、離脱を決意した。
 刹那たちの位置はちびせつなを通じて分かるのだから、線路沿いの最短距離を放棄してでも、フェイトを撒いた方が利になる。
 呪符使いだけならば刹那だけでも対応できるだろうが、増援があった場合あの三人では心許ない。
 急ぎ合流する必要があったし、何よりこの少年ほどの手練を連れたまま戦場に向かうのは、あまりに危険だった。
 士郎は、先ほどと同じように線路沿いを追走するとみせかけて、両手の夫婦剣をフェイトに投擲、“壊れた幻想”により爆破した。
 士郎はフェイトの魔力障壁の強固さを数度の打ち合いで理解していた為、この攻撃によるダメージは期待していない。
 だが、視界が塞がれば十分だった。
 気配を殺し音を殺し、即座に場を離脱するのはまるで蛇のよう。
 士郎はフェイトが自分を見失ったのを確認した後に、暗殺者のように闇に溶け込んだ。

 そうして、刹那たちが降りたはずの京都駅まで逃げてきたというのに。
「悪いけど。ここから先は、通行止めなんだ」
 フェイトは、涼しげに士郎を迎えた。
「転移魔法、か」
 フェイトが千草の味方である以上、その逃走経路に先回りする事は不可能ではない。
 だが、士郎は京都駅までの最短ルートを自動車など軽く追い越すスピードで辿っている。
 少なくとも、軽々しく転移魔法を行使できるレベルの術者である事は間違いなかった。
「じゃあ、第二ラウンドだね」
「チィ……!」
 再び、拳と剣が交わった。
 
 
 
 


















 京都駅の名物にもなっている大階段。そこが、決戦の地となった。
「よーここまで追って来ましたな。せやけどここが終点や。三枚目のお札ちゃんをいかせてもらいますえ」
「させるかっ!」
 私は瞬動で接近、居合いで発動前に札を切り裂こうとする。
 が、間に合わない。圧倒的な熱量の炎が、大階段を壁となって塞いだ。
「桜咲さん!」
 あと一歩で炎の中に飛び込むという所で、神楽坂さんが帯を掴んで私を引き戻してくれる。正直、助かった。
「ホホホ、並の術者じゃその炎は超えられへん。ほな、さいなら」
 敵はお嬢様を担ぎなおし、悠々と背を向けた。
 憤り、焦った。全身の火傷など厭わず、耐火の術を使ってこの炎に突っ込むべきか。
 その判断を、激情が選びそうになった時、ネギ先生の詠唱が聞こえた。
「吹け、一陣の風。風花・風塵乱舞!」
 強烈な風が、一方的な嵐として顕現する。炎はその勢いを強める猶予さえ与えらず、掻き消された。
「逃がしませんよ! このかさんは僕の大事な生徒で、友達です!」
 ネギ先生はカードを掲げて契約執行を完遂する。
 神楽坂さんが魔力を纏い、強気の視線で猿女を睨んだ。
 私は、これならば大丈夫だと判断した。神楽坂さんを覆う魔力はなかなか強大だ。
 式神程度なら、ダメージを与える事は難しいだろう。
「神楽坂さん、いきます!」
 先陣を切った。同時攻撃ができるように、神楽坂さんのスピードに合わせた上で、気を夕凪に乗せる。
「くっ」
 呻きをあげて、猿女は二枚の札を取り出した。こちらの攻撃の直前、盾となるように二匹の式神が立ちはだかる。
 が、神楽坂さんのハリセンが式神に触れた途端、それは霧散するように送り還された。
「な、何かよく分かんないけどいけそうよ! そのクマは任せて!」
「すみません!」
 神楽坂さんのハリセンの効力かは分からないが、とりあえず心配はなさそうだ。
 ならば私は、お嬢様をお助けする事に専念しなければ。
 集中する。そう、お嬢様しか目に入らない程に。
 『近衛だけを見ていることだ』
 不意に、士郎さんの声が聞こえた気がした。
 私は、その言葉通りに、真っ直ぐお嬢様を目指す。
 そう、私がお救いするのだ。士郎さんではなく、私が。
 もしかしたら、その時の私は喜んでいたのかもしれない。不思議な高揚感が、私に冷静さを忘れさせる。
 だから、なのか。上方からのその一太刀に、気づくのが遅れてしまった。
 キィィンという刃の接触音が響き、私は仕方なしに後退する。衝撃を殺しきれなかったのだ。
 しかし、マズイ。あの太刀筋は、紛う事なき神鳴流。まさか神鳴流剣士がこのような謀反紛いの仕事に護衛として付いているとは。
「どうも~、神鳴流です~。おはつに~」
 だが、現れたのは緊張感を殺ぐ、とても神鳴流には見えない服装の少女だった。
 小太刀と短刀の二刀揃え。武器を選ばない神鳴流だが、基本は野太刀だ。少女の見た目も相まって、それは異質に見えた。
 月詠と名乗った少女は、おそらく自分よりも若い。私が知らないのだから、門下入りしたのも最近なのだろう。
「こんなのが神鳴流とは、時代も変わったな」
「ふふ、見たところ神鳴流の先輩みたいですけど、お手柔らかに――」
 その言葉が消えぬ内に、月詠は仕掛けてきた。
 単純な、けれど神鳴流である事を思わせる太刀筋。それそのものは、大きな脅威というわけではなかった。
 士郎さんとの稽古で、二刀の相手も慣れている。
 そして、月詠からは強者を相手取る時に感じられる圧力が感じなれなかった。
 だから、私は油断した。
 いや、正確にはお嬢様しか見えていなかったのだ。
 一刻も早くお嬢様を助ける為に、早く目の前の相手を倒してしまわなければ、という思考に占領されて、逸る気持ちを抑えず打ち合いに臨む。
「――――え?」
 パリン。そんな、ガラスが割れるような音が、聞こえた。
 私は、自分の口から漏れた間抜けな声にも気づけない。
 その私の太刀筋は、決して雑であったわけでもなく、漲る気力も十分だった。
 だと、言うのに。
 手にした夕凪は、かつて彼と戦った時のように砕け散り、地に落ちる前に霧散して。
 どさっ、と。
 月詠の刃は、私の左腕を切り落とした。
 


 







ちびせつな「は、激しっ……」(戦闘中inポケット)
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