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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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英雄は彼方へ消える S8


「EMIYA Ⅰ」


 そこは地獄だった。それは地獄だった。これは地獄だった。

 赤髪の少年が一人、歩いている。
 ただ、歩いているだけ。それだけが、この場では奇跡。

 少年は既に死に体だった。
 服は破れ、出血に染まり、それさえも灼熱に焦げている。
 炎に炙られ、瞳は渇き濁っていた。

 それでも、まだ倒れていない。
 何かに急き立てられるように、少年は歩いていた。

 否。彼を急き立てるモノなど、始めから解っていた。


「助けて」「熱い」「お母さん」「水をくれ」「この子だけでも」「誰か」「嫌だ」「ママ」「死にたくない」「殺してくれ」「痛い」「なんで」「足が」「喉が」「ねぇ」「誰か」「たすけて」


 悲鳴。怒号。懇願。
 「誰か」に向けられた、まだ生きているモノたちの声。


「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
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「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」

 いっそ耳も潰れていればよかったのかもしれない。
 誰も助けてくれないと恨む怨嗟の声。
 そこに、颯爽と現れる正義の味方なんて存在しなかった。
 ヒーローなんて存在せず、ただただ、何も分からないまま燃えていく命があるだけ。

 少年には、勿論彼らを助ける事なんてできない。
 何故彼が生きているのか、まだ死んでいないのかも分からないのに、そんな余分はない。
 耳を塞ぐ余裕さえないだろうに、それでも歩みだけは止めなかった。
 その声から逃れようと、必死に足は動いていた。

 それでも、声はやまない。
 いや、とっくに声は止んでいたのだろう。
 もう辺りに動いているモノはない。生きている命はない。
 彼だけが生きている。彼だけが動いている。

 ネギも、明日菜も、木乃香も、刹那も、夕映ものどかもハルナも古菲も楓も。
 耳を塞いでいるのに、もう聞こえない叫びが耳朶を打つ。
 エヴァンジェリンでさえ、血の気が失せている。

 ただ見ているだけの彼らでさえそうだったのだから、実際に体験している少年の心中は想像さえできなかった。

 似ていると、ネギは思った。
 これは、父が助けに来てくれないあの夜だ。
 いや。仮にそうだとしても、これはあまりに違い過ぎる。

 石化は、まだ可能性がある。可能性がないのだとしても、視覚的なショックは少ない。
 目の前で割れたとしても、肉が、血が飛び散る事はない。
 だが、これは何だ。
 生きたまま焼かれる人たち。村の皆のように、僅かでも魔法で対抗できるわけでもない。
 何が起こったのかさせ判然とせず、ただ死だけを強制される。
 悪魔という明確な敵がない代わり、決定的な破壊のみが存在する。

 何から守ればいいのか。何から助ければいいのか。
 いや、それ以上に。
 何をやっても死が決まっている彼らに、果たしてネギは何をする事が出来るというのか。
 山と積まれる死体。
 河のように流れる血潮。
 天を焦がすように燃え上る炎。
 黒く染まった空。


 耐えられないと思った。
 この光景が発生してしまった時点で、致命的。
 ここから覆せる未来などない。ここからスタートしてしまった時点で、どんなハッピーエンドも存在しないのだと。

 ここに魔法は存在しない。
 奇跡のような救世主は存在しない。全てを助ける正義の味方なんて、決して。

 故に、ネギは覚悟する。
 この光景の再現だけは、決して許さないと。
 目の前で人が死んでいく恐ろしさ。そして、その中で何の力にもなれない自分。
 吐きそうで、逃げ出したいと強く願う中で、だからこそ恐怖感が、ネギに覚悟を刻み込んだ。


 そして、記憶の中の少年が、遂に倒れる。
 雨が降り始めた。
 一面の焼け野原、轟々と燃え盛る炎も、やがては落ち着くだろう。

 けれど。だからこそ、少年の命の灯火もまた、消えようとしていた。
 誰にも助けられないまま。他の多くの命と同様に。都合のいい救いなど存在せず。

 一言も泣き事を漏らさなかった少年は、ぼんやりと空を見上げ、何かを掴もうとするように手を空へ伸ばした。 
 どこにそんな力が残っていたのか。
 伸ばした手は、虚空を彷徨う。

 幻覚が見えているのかもしれない。
 その小さな手は、まるで迎えに来た「なにか」に伸ばされているように見えて。
 
 知らず、この記憶を見ている少女たちは悲鳴を上げた。
 直感的に。その手から力が抜けたら最後だと悟る。
 みんな、少年にばかり集中していたから、彼に近づく影を認識できていなかった。

 その腕が、力なく墜ちる刹那に。
 力強く、掴み留めた男がいた。

 けれど、少女たちはそれを見ても、まだ救われたと安心はできなかった。
 その黒装束は、まるで死神。とてもではないが、マトモな人間には見えない。
 この最悪の地獄を塗り替えてくれる正義の味方には見えなかった。

 少年の手を、男は頬ずりするように抱え込んだ。
 少女たちの視点では、男の表情は見えない。
 それでも、やっと少女たちも、この男が救い主なのだと理解する。

 あまりに遅すぎて、もう何もかも終わってしまったけれど。
 たった一つの、ちっぽけな命だけは。こうしてここに、繋ぎ留められた。
   

 






◇ ◆ ◇ ◆





 そして、少女たちは現実に復帰した。
 皆一様に、顔色が悪い。
 彼女たちの名誉にかけて誰とは明言しないものの、嘔吐してしまう者もいた。

 尤も、タカミチでさえ最初に見た時は嘔吐しているのだから仕方ない。
 ただ、タカミチの名誉にかけて言えば、タカミチが吐き気を催したのは何も死体が原因ではなかった。
 あの、黒い太陽が、その呪いの醜悪さこそが、彼にもそれだけの異常を与えたのである。

 今回は一応アルビレオの配慮があったのだろう。
 五感の内、視覚と聴覚だけのイメージだった。
 タカミチが体験した、肉の焼ける悪臭も、肌を焼く熱も、そこにはない。

 それでも、あの光景はショッキングに過ぎた。
 特に、今まで何不自由なく平和に過ごしてきた女子中学生にとっては。

「これが、衛宮士郎が生まれた時の出来事です。彼は、この事件以前の記憶がありません。
 本人が忘れている幼少期の出来事さえ完全に再現する私のイノチノシヘンでさえ、これ以上過去を辿る事はできませんでした。
 故に、これが衛宮士郎が誕生した瞬間です。かつて士郎と呼ばれていたモノはここで死んだのです。
 生みの親も、友達も、それまでに彼が得ていた全ては消え失せ、残ったのは命と士郎という名前だけ。
 歳の頃は、ちょうど今のネギ君と同じでしょうか。それさえ定かではありませんが」

 誰も、二の句を継げない。
 アルビレオの言を、正確に把握できているのは詠春とエヴァンジェリンくらいのものだった。

「この災害において、中心地で生き残ったのは士郎だけです。
 周辺地域には僅かに生存者も確認されており、この火災における孤児は数十人に上ります。
 確かに規模の大きい災害でしょう。全国的に、連日ニュースになるレベルだ。だが、それだけです」

 それだけ、と言い切ったアルビレオの口調は固く、厳しいものだった。
 どこか、責めるような色があったからか、茫然自失していた少女たちは顔をあげる。

「勘違いして欲しくないのですが、この程度の悲劇は今でも世界中で発生しています。
 特段珍しいものじゃない。この光景より惨たらしい被災地はある。戦争などその最たるものだ。
 私はこれが悲劇だとは思いますが、衛宮士郎がこの世で最も不幸な人間だとは思いません。
 致命的に遅かったとは言え、確かに彼は救われたのですから」

 ネギ君と同じように、とアルビレオは言う。
 だが、ネギはそれには頷けない。とても同じだとは思えなかった。
 それには、ネギの過去を同様に知っている明日菜たちも同意見。
 
 決定的な差は、ネカネの存在だろう。
 何もかも失った士郎と。姉が残っていたネギ。
 一人と二人の違い。それは、あまりに大きい。

 けれど、殊更反論できる程強い思いではなかった。
 感情論を排し、一面だけを見れば、確かにアルビレオの言うことも事実。
 超も言っていたように。どこにでもある、ありふれた悲劇なのだろう。

 ただそれは、当事者にとっては違う。
 それが客観的に見てどのような意味があろうとも関係ない。
 いつだって、行動に繋がるのは主観的な事実だ。そうであるべきだし、そうでないなら壊れている。

「この事件から十年程、大きなイベントはありません。
 士郎を火災から救った男、衛宮切嗣は士郎を養子に迎え、復興が始まった冬木の街で暮らしました」

 これでハッピーエンド。そう言いたいのか、アルビレオはそこで口を閉ざす。
 いくら待っても、その続きを語ろうとはしなかった。

 だが、それはおかしい。
 ただ悲劇的な体験だけで、人は強くなれない。
 精神論ではないのだ。どんな才能、どんな精神の在り方があったとしても、越えるには切っ掛けが必要だ。
 そして、麻帆良で見た衛宮士郎は、その切っ掛けなしで到れる次元にいなかった。

「それで? 問題はそこからだろうが」

 エヴァンジェリンが先を促す。
 対して、アルビレオは首を横に振った。

「その前に、今一度確認しておきましょう。この先を見る覚悟は、知る覚悟はありますか?」

 押し黙る。ネギも含めて、子どもたちに答える気力はない。
 それ程にショッキングだった。
 後悔している、と言っていい。
 拙い想いで垣間見ていい始まりではなかった。
 軽い気持ちで覗きこんではいけない深淵だった。

「あの光景にショックを受けたのならば、君たちはここで帰った方がいい。
 彼が英雄に至るまでの道程には、この光景を上回る悲劇があります。
 何の力も持っていないただの被害者が、英雄へと堕するまでの道のりは、君たちの想像が及ぶものではありません」

 英雄に、堕する。
 その表現に、ネギは噛み付かざるをえない。
 だって、それじゃ、まるで。

「英雄に堕するって……それじゃ、英雄が悪い人みたいじゃないですか」
「ネギ君。英雄とは、誰からも肯定される存在じゃありません。
 我ら赤き翼が英雄と呼ばれるようになったのは、ただ時代の意志に沿っていただけの話です。
 全く同じ行動をとっても、悪とされる人だっている。それがどんなに正しい行為でも、法によっては罪となる」
「でもっ」
「別に、英雄が悪であるとも、悪いものだとも言っていません。
 ただ、英雄とは本人が幸せになれない存在だ。
 世界を救う事はできても、決して自分自身を救う事はできないのだから」

 それを言えば。自分自身を救うことなど、誰にもできない。
 世界を救う程の力をもった人物といえども、それは同じだということだ。
 己自身は救えない。ただ、自立し成長するだけだ。
 それは救いではない。幸福とも程遠い。
 幸せとは、孤独の中には存在しないのだから。

「そういう意味でも、特にここから先は彼のプライベートな部分です。
 『知る』という事は、きっと君たちが考えているよりずっと重い。
 “知識”は、選択肢を広げ、世界を広げるでしょう。
 しかし、“記憶”は違う。誰かの想いと、願いと、夢に名前を付けた時、理解を得た時。
 君たちには責任が生まれる。その責任を放棄する事は罪であり、その罪悪感はきっと君たちを縛り付ける」

 友達ができたら。その人を守りたいと思うのは当然で。
 だから、放棄する事はできない。それは罪悪感へ繋がってしまう。
 それが、全くの赤の他人であったとしても。
 例えば一つの真実を知ってしまえば、それを見て見ぬふりはできなくなる。
 
 知ることで、関係性が増える。
 しかしそれは一方的なもので、友達のように助け合えるものではない。
 知った真実を裏切る事は自分を裏切る事に繋がるが、かと言って大抵の人間は知っているだけの相手に対して何かを懸けられる程に強くはない。

 だから。彼ら彼女らが英雄ではないのなら。
 その絆に、覚悟がないのなら。
 ここから先に踏み込むべきではない。

「ネギ先生。帰りましょう」

 呟いくような声で促したのは夕映だった。
 彼女は、ここから先に踏み込む危険性を、きっとこの場の少年少女の中で誰よりも理解していた。
 そして、その理解を自身に課す事ができる程強くもなかった。

「……分かりました」

 ネギは、後ろ髪を引かれるような思いで頷いた。本当は残って聞いてみたい。
 そこに、今後の自分の、何らかの指標になりうるものがあるのではないかという、根拠のない直感からだ。
 でも、ネギは士郎のために行動することはできない。
 悪い言い方をすれば、そのつもりがない。
 ネギは生徒を守ることで精一杯だし、何より父を探すという目的もある。
 興味本位で他人と関わるだけならばともかく、その半生全てを覗き見するような行為が、正しいことだとは思えなかった。
 衛宮士郎の過去を見ようとした決意が、単なるその場の流れで、興味本位だったからこそ。
 それだけの人間は、この場で去るべきだ。

 その先を。おそらくは、否定された、夢破れた英雄の末路というものに、深い興味を抱いていても。
 ネギは、先生だったから、皆を連れて帰るという選択肢しかなかった。














 夢。それは、ある意味刹那と木乃香が最も欲していた情報だった。
 衛宮士郎の行動原理。何を成したいと願っているのか。
 それを知る事は、彼を追う上で大きなヒントになるだろう。

 それが、どんなに重くても。
 否、責任なんて言葉を使われては、逆に二人は退く事なんて出来ない。
 救われた自覚があり、支える覚悟があると自負するが故に。決して、二人は退く事はできない。

「私は、残ります」
「ウチも、残るよ」

 その宣言に、この場を去ろうとしたクラスメイトの歩みが止まる。
 大衆とは追従するものだ。
 この場の彼女たちの価値観では、残ると言った二人の方が美しく見える。
 それが辛い選択だからこそ。強く見えるし憧れる。
 だからこそ迷いが生まれた。
 本当に、このまま去って後悔しないのかと。
 あれほどショックを受けた癖に、すぐそんなことを考えられる程度には、彼女たちも強かだった。

「坊や」

 その迷いを断ち切る声は、短く、けれど明瞭な呼びかけだった。

「子供たちをつれて帰れ。ここから先は18禁指定だ。……まぁ、奴のベッドシーンでも覗きたいなら話は別だが」
「えぇっ!??」

 大きな反応を示したのは呼びかけられたネギたちではなく、刹那だった。
 赤面し狼狽する様は普段の彼女のクールな眼差しを全く感じさせない、年相応なもの。
 まぁ、仕方ない。あんなことを言われれば、まるで二人はソレ目当てで残ると言い出したように見える。

 だが、衛宮士郎とていい年した男性だ。
 青春時代もあれば、戦士としての数多の経験を積んでいた期間もあるはずだ。
 その中でラブロマンスぐらいあってもおかしくない。
 英雄色を好むとも言うし、言うのだし、士郎だってそんな経験が……。

 とか、詳細を想像してしまった刹那はパニック状態だし、こっそり木乃香も頬を染めている。
 空気は一変した。
 ここに残るということの意味が、変わった。
 逆にクラスメイトたちは、邪魔をしてはならないとばかりにニヤニヤしながらネギを連れて歩き出す。

「あれ? 明日菜?」
 
 と、ここで慌てたのは明日菜だ。
 明日菜は未だにエヴァンジェリンの暴走する魔力を抑えるため、彼女を抱き抱えている。
 それに、迷いもあった。
 タカミチを止めるために間に入った時から、明日菜の中で何かが外れかかっているような感覚がある。
 それが、士郎の過去に関わりがあるのかはわからない。
 ただ、迷いがあった。ここで逃げてもいいのかと。
 ここで逃げれば、何か決定的なものを逃してしまうのではないかと。

 けれど、知るのも怖い。それも事実だった。いや、恐怖の方が迷いよりも大きかっただろう。
 相反する感情が、明日菜を縛り付けていた。

「……おい、神楽坂明日菜。今おまえに動かれると困る。もう少しつき合え」

 その要請に免罪符を得たように、明日菜は覚悟を決めた。
 
「……タカミチ君は怒りそうですが。確かに、私としても明日菜君には知っていて欲しい」

 きっと君にはその義務がある、と。
 なにかに堪えるように、アルビレオは言った。
 何故か、詠春も訳知り顔で頷いている。

「その前に、木乃香、刹那君。君たちの決意は変わらないんだね?」
「うん」
「はい、長」

 義務感に駆られて、詠春は二人に確認した。
 本当にいいのか。迷いはある。衛宮士郎に関わる事の意味は、あの日、学園祭終了日より大きく変化していた。
 冗談交じりに木乃香の婿に、などとはもう言えない。
 世話になったし、感謝もある。恩が、ある。
 だがそれでも、西の長である詠春は、士郎のために行動する余地がない。助けにはなれない。
 それを、娘に託したい、とは思わないけれど。

「なら、いいだろう。あの始まりを見て、それでも知ることを選べるのなら、それでもいい。
 ただし、木乃香。これだけは覚えておきなさい。
 お前は、近衛の人間だ。そして、魔法使いとしての道を歩むと決めた。
 そして今日、士郎の過去を見る事で、また選択を迫られるだろう」

 木乃香は、詠春に反対されると思っていた。
 だから、正直に言えばこの言葉は拍子抜け。皆がこの場を去っていく中で、どう説得しようか考えていたというのに。
 けれど、続く言葉に、木乃香も刹那も絶句した。

「その時、その選択の結果。“近衛を捨てる”のならば、相談しなさい」

 近衛の一族。
 それは、ほぼ日本の魔法界を支配する一族といっても過言ではない。
 それを、捨てる。否、捨てなければ選べない道。
 
 そして、それ以上に。
 木乃香が近衛を捨てるという事の意味は。
 家族の縁を切る、という事だ。

「……分かりました」

 娘を溺愛している詠春からのそんな通告。
 だからこそ、木乃香も重く受け止め、娘としてではなく、近衛の家の一人として返した。

「そろそろいいか?」

 エヴァンジェリンの声に、詠春は頷く。
 そして、未だ横たわるタカミチを式で宙吊りにすると、全員に宣言するように言った。

「タカミチ君をベッドに寝かせてきましょう。私は、おおよそ知っていますから、先に始めておいて下さい」

 結局残ったのは刹那、木乃香、明日菜、エヴァンジェリン、それとこっそり待機していた茶々丸に、主の復活を察知して駆けつけたチャチャゼロ。
 エヴァンジェリンが、生徒たちの姿が完全に消えているのを確認してから、結界を張った。盗聴防止目的だ。

「さて、アル。そもそも、だ。衛宮士郎の過去を語る前に、前提を教えろ。奴の使う“魔術”とは何だ?」
「……さすがエヴァンジェリンですね。知っていたのですか?」
「奴とタカミチがどこで修行していたと思っている。ふすまに耳あり障子に目あり、だ」
「なるほど。士郎も迂闊……ではなく、これも思惑の一つなのでしょうが」
「だろうな。忌々しいが、奴は戦術家としても、戦略家としても一流だ」

 そして、アルビレオは語り始める。
 『魔術』
 その単語は、別に特別なものでも何でもない。
 よく『魔法』という単語が使われるが、これは西洋魔術と東洋魔術の総称という意味合いが強い。
 魔法と魔術に明確な区別、ルールがあるわけではないのだ。
 強いて言えば、ニュアンスが違う程度か。
 魔法という単語は、総称故の曖昧さと煩雑さを持つ。
 魔術という単語は、確立された技術だ。誰が、どうやって、何のために使用するのか。明確になっている。

 だから、刹那にしても、最近魔法の勉強を進めている木乃香にしても、エヴァンジェリンの言いたい事は分からなかった。
 当然明日菜も分からない……はずだった。

 ふと、浮かんでくる単語がある。
 『投影魔術』『世界卵』『完全なる世界』『黄昏の……』
 それは記憶と結びつかないが、かつて自分が知っていた知識だと確信できた。
 だが、それを口に出す事はない。明日菜は聞きに徹していた。
 そうして、次の話を聞いていく間に、浮かんできた単語は泡のように消える。

「魔術が何か、という説明は難しい。よって、今求められている解答を出しましょう。
 衛宮士郎の使う魔術とは、完全に個人の資質に基づいた超能力染みたものです。
 剣という枠に嵌められた神秘を尽く再現する剣製の魔術使い。
 我々の知る魔法知識とは根源からして異なるスキル。異なる技術体系から派生した、ある種の極み。
 ――つまり、彼は、今まで誰も観測した事のない異世界からの来訪者なのですよ」

 その説明にピンと来たのはエヴァンジェリンだけだった。
 解答を与えられれば、成程、と納得できる。
 だが、予備知識のない子どもたちはただただ困惑するだけだった。

「異世界人……とかってやつ?」
「異世界、というと微妙に異なります。厳密には並行世界。数多ある可能性世界の一つ。
 歴史において、もしも誰かが産まれていなかったら。必然のイベントが発生していなければ。
 そんなIFの世界の事ですよ。といっても、我々の世界との分岐点は、遥か彼方、誰も記憶していないかつてまで遡る事になりそうですが」

 途方もない話になってきた、と誰もが思った。
 アルビレオが、覚悟を試すような人払いを行ったのにも理解できる。
 これは、世界を揺るがす秘密だ。
 衛宮士郎は、この世界にとって唯一の検体である。
 その価値は図り知れず、だからこそ士郎も麻帆良を去ったのだろう。

「ここから先は、先程のようにイメージで追っていった方が速いでしょう。覚悟はよろしいですか?」

 アルビレオが、刹那と木乃香、明日菜の顔を順番に確かめる。
 三人の顔には、それぞれ緊張があったものの、確りと頷いた。

「では、再開しましょう。英雄エミヤの半生の記録を」

 そして、アルビレオがイノチノシヘンを掲げる。
 魔力が廻り、魔法が発動する、その直前に。

「待ってくれ」

 そこに、割って入った姿があった。

「俺にも、兄ちゃんの記憶……見せてくれ」

 そして、今日この日を転機として。
 彼の運命もまた、動き出した。










小太郎「魔法世界編では大暴れやで!」(拍手)
 
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初めてのコメントになりますが、毎回楽しく拝見させてもらっております。
またしても、続きが気になる展開ですね。
次回の更新が楽しみです。

2014.04.02 | URL | renny426 #- [ 編集 ]

前回帰ったはずの真名が居る件

2014.04.02 | URL | NoName #- [ 編集 ]

結局残ったのが、刹那、木乃香、明日菜、エヴァンジェリン、茶々丸、チャチャゼロなら
帰るのを促した夕映に同意するのは、前回帰ったはずの真名じゃなくて詠春の方が良くないですか?
これじゃ詠春がどういう反応したのが不明ですし。

2014.04.03 | URL | さんせい #UNdPgs3A [ 編集 ]

痛恨のミス!

やっちまったすみません!

修正加筆完了しました。
ついでに、少しばかり次の次辺りで出す予定だった詠春との会話とか追加。
他、細かい点と誤字修正を行ってます。

2014.04.06 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

更新頑張って下さい!
出来れば更新速度もう少し上げてほしい

2014.04.08 | URL | サクラ #- [ 編集 ]

加筆修正お疲れ様です。
加筆によって詠春は残ることになりましたか。

2014.04.20 | URL | NoName #- [ 編集 ]

久し振りの更新!色々忘れてるからまた読み返してきます。更新楽しみにしております。

2014.04.20 | URL | NoName #- [ 編集 ]

やっぱり面白いなこの作品!
ただまた最初からじゃないと話がつながらない… いや面白いから苦にはならないからいいんだけどね。
無理せず頑張ってください。

2014.05.11 | URL | NoName #- [ 編集 ]

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2014.05.16 | | # [ 編集 ]

まってました

次回も楽しみにしてます!
頑張ってください!

2014.05.16 | URL | ぱろ #- [ 編集 ]

無粋な指摘とは思いますが、一応。
よく勘違いされがちですが、衛宮士郎はあの災害で記憶を失っていません。
無論、本編の頃には殆んど覚えていない事は確かです。
士郎は切嗣の養子となった後、他人を見捨てて自分だけ助かった事への罪悪感から家族や暮らしていた近辺などの幸せな思い出に関わる事を意識的かは曖昧ですが避ける様に生きていました。
そうやって封じ込めていく内に思い出せなくなってしまいました。
実は本編の頃でも災害の際の自分を置いて逃げる様に言い含める母と士郎に逃げる様に言い含めて母を助けに戻った父とのやり取りは覚えていたりします。

批判のつもりではないのですが、両作の設定に非常に気を使われている作品だったのでコメントさせていただきました。
不快な気持ちにさせてしまったら申し訳ありません。

2014.05.24 | URL | NoName #- [ 編集 ]

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2014.11.04 | | # [ 編集 ]

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2015.01.26 | | # [ 編集 ]

おおおおおおおおおおおおおおおおおおいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい

2015.09.17 | URL | NoName #- [ 編集 ]

まだあああああああああああああああああああああ

2015.09.28 | URL | NoName #- [ 編集 ]

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2015.10.15 | | # [ 編集 ]

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2015.12.10 | | # [ 編集 ]

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2016.01.07 | | # [ 編集 ]

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2016.06.22 | | # [ 編集 ]


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