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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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英雄は彼方へ消える S7


「魔術の代償」



「タカミチでは詠春には勝てない」

 己が裡で荒れ狂う魔力を制御しながら、エヴァンジェリンが掠れた声で告げる。
 単に体調不良が原因なのだろうが、その声には若干心配の色さえ感じ取れた。

 親友の父親と憧れの人。
 その死闘の観客となる明日菜は、エヴァンジェリンを抱きとめながら、彼女の呟きに何も返せなかった。
 二人は相対し、口を開かない。
 問答など無用だと、そんな意志表示さえ垣間見える。

 今の明日菜は観客でしかない。
 応援する、できるような立場ではないし、そもそも既にこの場はそんな舞台ではなくなってしまっている。
 明日菜だけではなく、最近魔法を知ったばかりの生徒は、誰もが放心してその空気に呑まれていた。
 麻痺していた、と言ってもいい。

 ここに、確かな役割を秘めて集った彼女たちは、気がつけば全員場外に押し出されていた。
 首謀者であった木乃香の意識はなく。
 共犯者であった刹那は動けない。
 
 誰もが動けず、また、動く理由も持たなかった。
 アルビレオも、エヴァンジェリンも、この戦いに介入するつもりはない。
 その空気の中で、ただ一人。

 明日菜だけは、この戦いに強い焦燥感を得ていた。
 取り返しのつかなくなるポイントオブノーリターン。
 アスナの直感だけが、その瞬間を感じ取っていた。 





◇ ◆ ◇ ◆






 まだ、勝てない。
 そんな事は百も承知だった。

 近衛詠春、世界最高の剣士。
 赤き翼の一員であり、今では西の長、日本を二分する魔法組織のトップだ。
 対するタカミチは一教員。
 一つだけ好材料となるのは、タカミチがまだ現役であり、詠春は久しく実戦の場に出ていないという事くらいか。

 長なんて仕事は、結局は管理職。
 薄皮一枚で刃を避ける緊張感も、唐突に命の選択を迫られる非日常も、そこにはない。
 魔法使いの管理職がデスクワークばかりでないとは言え、現役に叶うものではない。

 一般論で言えば、その理屈は通る。
 相手が救世の英雄、伝説の一翼でなければ。
 そして、向けられた刀が、刀匠・衛宮の作品でないのならば、まだ。

「極而法、無極」

 それでも、邪魔されるわけにはいかない。
 士郎の過去を、暴かせるわけにはいかない。
 何よりも、明日菜のために。

 対する詠春は、無言で構えを取った。
 まだ士郎作の愛刀・暮星は抜かれていない。
 つまり、待ち受けるのは居合。
 
 ならば必然、一瞬で決着となる。タカミチも最初から最大の一撃に懸ける必要があった。
 無言でタカミチはギアを上げる。魔術回路が上げる悲鳴は全て無視した。
 思考が分割され、魔力流の速さに応じて思考も加速していく。

 弐式・双頭。ここまでなら、タカミチは己の技能を完全に統制できる。
 参式以降は、今のタカミチでは限度を超える。少なくないリスクを払う事になるのだ。
 故に、装填する概念は二つまで。総合的に、最大の能力を発揮すべく集中を重ねる。

 右方は加速。左方は強化。
 身体強化のみで術を編む。

 タカミチから漏れだす圧に呼応するように、詠春の静かな気も密度を増していく。
 タカミチの威圧が、今にも氾濫しそうな激流のようなものだとしたら。
 詠春のそれは、固く、重く、氷のように冷たい。

 周囲で見守るギャラリーも固唾を呑んだ。
 アルビレオでさえ手は出せない。
 生徒たちの安全のため、距離を置く事が必要だと分かっていても、この緊張感の中で大きな動作を起こせない。
 結果。気休め程度に結界を張るだけに留まる。

 殺気に慣れていないのどかなどは、この緊張感にすぐにでも倒れそうだった。
 誰にとっても長い時間。実際は数分程度の出来事だったろう。
 硬直を破る合図は、誰にとっても分かり易いものになった。

「んんっ」

 タカミチによって気絶していた木乃香が、目を覚ましたその瞬間。

 同時。動き出した二人は、あまりに対照的だった。
 タカミチは暴風のように猛々しく、その魔力を解き放つ。
 昂った魔力は空気を焦がし、極而法による魔力流はさながら大炎。

 膨れ上がる炎に対し、詠春はのんびりとしたものだった。
 誰の目にも、そう、一般人レベルの夕映やのどかにも追える程度の動き、だというのに。
 何故か、その一刀はタカミチを圧倒する。
 まるで、タカミチの動きの方がスローになったかのようだった。
 残像が軌跡の如く連なる一閃。
 だがその一撃は、水面に揺れる波紋のように、極而法の魔力流に流され揺れた。

 ドスッ。
 重い、肉が。落ちる音がした。

 鍛えぬかれた片腕は、肩口からバッサリと斬られている。
 いっそ鮮やかな斬り口が見えたのは、腕が地面に落ちるまで。
 その音が合図になったかのうように、傷口からは鮮血が吹き出す。

 僅かな交差の中で、タカミチの一撃は腕ごと斬り伏せられていた。
 誰が見ても、詠春の完勝だ。タカミチの極而法による絶対防御は、衛宮の刀に破られた。
 タカミチは力及ばず、一撃を入れる事さえできずに敗北した。

 詠春でさえも、勝利を確認していた。
 そこで彼が残心を忘れなかったのは、もはや本能のようなものだっただろう。
 意味はないし、意図もない。
 ただ、その習性が明暗を分けた。

「双頭、否――“顎”」

 ニヤリと、タカミチが口端を歪める。
 それはとても腕を斬り落とされた人間の表情ではなかった。
 
 タカミチの傷口から吹き出した鮮血が、まるで生き物のように収束していく。
 それが魔力流による現象である事は、詠春にも想像がついた。
 だが、それはあまりにも、悍ましい。
 動きが、体温が、息遣いが。
 本当に、意志ある生物かの如く、詠春に襲いかかる。

 瞬動での退避は間に合わない。
 技後硬直と言うには短いその隙に、タカミチの技は完成している。
 瞬間、人一人飲み込める程に肥大化した一撃は直撃した。

 粉塵が舞う。轟音は、遅れてやってきた。
 着弾と共に、爆発のような衝撃波が発生していた。

「お父様っ!?」

 目を覚ました木乃香が、父を案じて声を上げた。
 駆け寄ろうとして倒れこむ。気絶から復帰したとはいえ、まだ身体が自由に動く程ではなかった。
 近くに居た楓がそんな木乃香を支える。刹那は、まだ動けなかった。

 土煙はタカミチの魔力流によって強制的に晴れる。
 姿を現した詠春は、分かりやすく死に体だった。
 おそらくは刀を盾にしたのだろう。添えた左腕はどうみても折れており、力なく垂れている。
 左肩の付け根は抉れ、腕は辛うじて付いている有様。
 なのに。

「魔力を……斬り落とすとはっ」

 驚愕しているのはタカミチだった。
 詠春の半身は確かに酷い有様だったが、本来ならばその程度で済む攻撃ではない。
 まさしく竜に噛み付かれるが如き一撃の、言うなれば片顎を、詠春は切り落としていたのだ。
 極而法の魔力流は、単なる魔力弾とは訳が違う。それは正しく水を斬るような所業なのだ。

 故に神業。彼ならば、雷さえも斬れるだろう。
 威力を半減され、それでも尚障壁を貫通し致命的なダメージを与えたタカミチの技も、十分に化け物じみたものだ。
 だが、タカミチの技はカウンターであり、片腕を代償に発現する切り札のようなもの。
 それを、技でもない一振りで斬り落とされたという事実が、何よりタカミチにとってショックだった。

 だが、戦闘の上で言えばイーブン。これでお互いに片腕を失った状態だ。
 いや、力が入らず邪魔にしかならないという意味で、詠春の方がダメージは大きい。
 詠春の剣技は基本的に一刀の技。大太刀であるからこそ、片腕の喪失は致命的になる。

 いくらショックを受けていても、それで技が鈍る程タカミチも甘くはない。
 だからこそ、勝敗は決した、とさえ言える程の状況だ。
 傍目からはそう見える。
 だと言うのに、苦悶の表情を浮かべているのはタカミチで、詠春の方がむしろ勝者然とした余裕があった。

「どうやら、まだ早かったようだね」
「………………」

 タカミチの技に、不備はなかった。完全に制御されていたし、威力も申し分ない。
 問題は、片腕がなくなった状態での、魔術回路が不完全な状態での制御を試す事が、タカミチにとって初めてだったこと。
 腕は、タカミチの極而法によって、重要なキーの役目を果たす。

 魔法で言う所の始動キー。魔術でいうところの一工程詠唱。
 意味合いで言うなら魔術に近い。魔術回路を起動し、動作で開始させるのが極而法だ。
 型を変える動作、分割思考数の増減にも、腕を起点として術に組み込んでいる。
 既に発動状態となったからと言って、腕を失った状態での制御が初めての経験である以上、それが暴走してしまうのは仕方ない事と言えた。

 ただし、その暴走の仕方は少々特殊だ。
 単に制御が効かなくなったのではない。
 言うなれば、ブレーキが効かなくなっただけのこと。
 ただ、走り続ける事に支障があるわけではなかった。

「……まだだ」

 ダメージで言えば詠春の方が上。
 このまま続ければ、タカミチにも勝機はある。
 継戦を選択した理由は、実のところかなりシンプルなものだった。

 既にブレーキは壊れてしまっている。どうせ止まれはしない。
 なら。

「灰化、開始」

 限界までアクセルを踏み込むのみ――!

「なっ」

 速かった。刀と拳が交わり火花が散る。
 単純なスペック強化。速さも威力も一回り上。
 ただそれだけならば、詠春もここまで驚きはしなかっただろう。
 詠春が何より驚いたのは。

「士郎の刀に、傷が入るだと……!」

 驚いている間にも攻防は続く。
 連打につぐ連打。
 奔り、穿ち、爆発し、激打する。
 一閃に対し四撃は固い。明らかにタカミチのスピードは、詠春を超えていた。
 曲がる瞬動で縦横無尽に動くタカミチに対し、詠春も居合いを捨て高速戦闘に移行するしかない。

 タカミチが詠春の頭上に躍り出て、竜巻のような一撃を放つ。
 ――受けきれない。
 それを悟った詠春は、瞬動で回避する。
 音もなく、詠春の居た地点には穴が空く。

 否。そこは、地面があったはずのその地点は、灰になっていた。
 灰。塵。燃え滓。燃焼したというただの結果だけが、そこには残る。

 強打。回避。
 強打。回避。
 強打。回避。
 
 タカミチの猛攻は止まらない。
 原理は不明だが、タカミチの攻撃は障壁での防御が可能であるものの、直撃を受ければ“灰になる”。
 まさしく一撃必殺だ。士郎作の刀に傷が入ったのも、おそらくは一部が灰化し、そこから衝撃が伝わったためだろう。

 だが、どんなにその攻撃が強く、防ぐ事ができなかったとしても、当たらなければ意味はない。
 どんなに強くても、テレフォンパンチでは意味が無いのだ。
 詠春は止まらない。タカミチも止まらない。
 ならば、その結末は、どちらが早く限界を迎えるか。
 
 ピシリ、と。

 回避のためにタカミチの視線を読んだ詠春は、一瞬目を見張る。
 タカミチの顔面に罅が入っていた。
 石化……否、灰化か。暴走状態故か、その圧倒的な力の対価は、タカミチ自身さえ蝕んでいる。

 止めなければならない。何よりもタカミチのために。
 詠春はリスクを覚悟で足を止める。

 それは、居合いの構えではなかった。
 切っ先は胸先に。剣道でお互いが対峙しているかのように。

 一瞬の空白。
 それを感じていたのは、或いは明日菜だけだったかもしれない。
 戦いの直前から続く、ジリジリとした焦燥。
 取り返しがつかなくなるという予感が、明日菜を、思い出せと刺激する。

 詠春の一刀がスローになる。
 姿勢を低く突撃してくるタカミチの表情さえ、ハッキリと見えた。

 その罅の入った顔が、表情が、記憶の中の“誰か”と重なり――。

「ダメッ」

 気づけば、明日菜は、否、アスナは、タカミチと詠春に割って入っていた。
 詠春の一刀より速く。
 タカミチの瞬動よりも速く。
 両手を広げて、タカミチを制止する。

 それに気づいたのは双方同時。
 しかし、二人は最早止まれなかった。
 意識は全力で制動をかける。しかし間に合わない。
 
 間に合わない間に合わない間に合わない間に合わない。
 間に合わないのが、タカミチの限界だった。
 魔力はただ加速していくのみ。加速する事しか出来なかったから……タカミチは、己の時間を引き伸ばした。


 限界を超えるのは容易い事だった。魔術使いであるからこそ、それが出来る。
 それを教えてくれたのは、果たして士郎だっただろうか。
 しかしそれは、壊れたブレーキを放置してアクセルを踏むよりも危険な事。
 タカミチは、士郎ほどに便利な身体を持っていない。
 踏み超えた代償は、ただの暴走とは比較にならないだろう。

 それでも、覚悟を決めるのは一瞬だった。
 そもそもこの戦いを始めた本当の理由は。
 この少女を、守るためでもあったのだから。



 心臓に、二本目の釘を穿つ。
 それがタカミチのイメージだった。
 眠っていた魔術回路が目を覚ます。こじ開けられた門から溢れる力が、新たな歯車を動かした。

 停止では間に合わない。
 前進するこのエネルギーさえ焼き切り灰に還す。
 魔力を以って“再現”する魔術とは程遠い奇跡。 
 その時、タカミチは確かにそこにはないモノを引き寄せた。



 停止する。
 気がつけば。フィルムを何枚か飛ばしたかのように、タカミチは唐突にアスナの腕の中で停まっている。

 対して。
 止まれなかった詠春の刃は、そんな二人をまとめて両断した。








◇ ◆ ◇ ◆





 神鳴流には、二の太刀という技術がある。
 その極意は、“斬る対象を選別すること”。否、“斬るべきものを斬ること”だ。
 
 例えば、手前の人間を斬らず、後ろの魔を斬る。
 例えば、手前の魔法障壁を斬らず、後ろの人間を斬る。

 宗家にしか伝えられぬ、正しく一子相伝たる神鳴流の秘奥。
 詠春は確かにタカミチとアスナを両断した。少なくとも、観客にはそう見えた。

 しかし、実体は違った。
 詠春とは言え、あの一瞬で二の太刀に切り替える事はできない。
 構えの段階から、二の太刀を使用するつもりだったからこそできた曲芸だった。

 詠春が、タカミチの“何”を斬ろうとしたのか、或いは斬ったのかは定かではない。
 結果的に、タカミチは代償を払いながらも自力で止まった。

 だから、この時、何よりも重要だったのは。
 刹那が、この技を余すところ無く視ていたことだった。





◇ ◆ ◇ ◆






「……敗けた、か」

 ところどころ灰化し、片腕を失い、明日菜に抱きとめられている状態で、タカミチは溜息を漏らす。

 もしも、明日菜の乱入がなく、あのまま最後の交錯が成っていたら。
 そのIFを考えても仕方ない。
 結果は変わらなかったかもしれないし、或いは二の太刀でさえ止まらなかったかもしれない。
 タカミチにはその自信があった……というのも、詮ない話だろう。

 ただ、今まで越えられなかった限界を超える要因が、誰かに勝つ為ではなく、誰かを傷つけないためだった事が。
 タカミチにとっては、何より誇らしい。
 溜息も、そんな安堵が漏らしたものだったのかもしれない。

「あまり、勝ったという気分でもありませんが」

 詠春も腰を下ろして息を吐く。
 そこに木乃香が駆け寄り、アーティファクトによる完全治癒を施した。
 同様に、タカミチの腕も繋ぎあわせた上で、治療を施す。
 だが、疲労を感じさせるも完全回復した詠春とは裏腹に、タカミチは起き上がる事はできないままだった。

「なんで……傷は癒えてるのに……」

 木乃香の呟きに答えられるのはタカミチだけだ。
 完全治癒呪文でも、魔術回路の修復まではできないという事だろう。
 それも当然。本来魔術回路とは霊的な器官なのだから。肉体を修復するのとは同列に扱えない。

「いや、いいんだよ。こればかりは魔法ではどうしようもない。
 それより済まなかったね、木乃香君。生徒に手をあげるなんて、教師失格だ」

 そう謝罪して、謝罪できた事に安堵するように、タカミチは安らいだ表情を見せる。

「ええんです。それよりも」

 木乃香を気絶させた事に何か言いたそうな刹那を制して、木乃香は促す。
 タカミチと詠春、二人の戦いは、何かを懸けたものではなかったが……結果的に、タカミチは無力化された。
 つまり、木乃香たちが士郎の過去を知る為の障害は、もう存在しない事になる。

「ああ。好きにすればいいさ。ただ、士郎の過去を知りたいのなら、覚悟してくれ。
 知ってしまえば、もう引き返せない。どういう意味で戻れなくなるのかは、その人次第だけどね」

 戻れない――そんな地点なんて、とうに過ぎている。
 士郎が姿を消した時点で、木乃香の、刹那の覚悟なんてとっくに決まっていたのだ。

「覚悟なら、ここに」

 刹那が白天を胸元に抱き寄せる。
 その様を、木乃香は羨ましそうに眺める。

 その刀の由来を、勿論木乃香は聞いていた。知っている。
 だからこそ羨ましい。
 士郎は刹那に、この世に一本しかない刀を残して行ったというのに……木乃香には、手紙一つ残してくれないのだから。

「高畑先生。その人次第とはどういう意味でしょうか。正直、私も彼の過去は興味がある。
 タダで知れるチャンスがあるなら活用したい。そのリスクは、具体的にどんなものなんだ?」

 金になる、とでも思っているのか、真名が質問する。
 実際、懸賞金付きの指名手配犯なのだ。
 能力、実力、経歴からして一切不明扱いされているのが衛宮士郎という男である。
 その過去となれば、情報屋がいくらの値をつけることか。

「そうだな……君に、世界を捨てる覚悟があるのなら。残って話を聞くといい」
「世界、ね……」

 その意味深な答えに、真名は苦笑いを浮かべた。
 踵を返す。リスクを考える、なんて次元にない事がよく分かったからだ。
 此処から先は、資格が必要なのだろう。
 立場か、願いか、想いか、使命か。
 衛宮士郎に繋がる、何らかの明確な縁がなければ、この先を知るには重すぎる。
 
「なら、私は仕事も終わったし帰るとするよ。カモくん、依頼料は後ほど請求する」
「お、おう……」

 勝手に真名を雇っていたカモが青くなるが、ネギもそれには気づかない。
 いや、ネギに限らず、その場の皆がタカミチの言葉の意味を考えていた。

 思うところは、ある。
 衛宮士郎という男は、このクラスの人間にとって、大なり小なり関係があった。
 短い期間ではあったが、副担任として教鞭を取った事もあったし、彼の経営する喫茶店の常連だった者も多い。

 ただ、その程度の繋がりならば。
 タカミチが“ここまで”して止めようとした過去を知る事は躊躇われた。

「私は当然残るぞ。奴には因縁もあるしな」

 そんな中で、エヴァンジェリンが凛と答える。
 明日菜という安全弁を失って若干苦しそうだが、復活したエヴァンジェリンが参加を表明する事は、ギャラリーにとっては安堵をもたらすものだった。
 実際は何も変わっていないのに、空気が変わる。

 大人びて見えても、彼女たちは中学生だった。
 場の雰囲気に流されるし、判断を他人に委ねる事だって多い。

「僕も……知りたいです。知る必要がある気がするんです」

 ネギの表明も、その空気を後押しした。
 刹那と木乃香は言うまでもなく、明日菜も既に覚悟はできていた。
 ネギではないが、知る必要がある気がしたのだ。

 真名は帰ったが、他に動く者はいなかった。
 楓も、古菲も、夕映も、のどかも、ハルナも、和美も、当然だが茶々丸も。
 動こうとはしなかった。

 或いは。詠春が、士郎の過去を事前に知っていたのなら、そもそもタカミチの前に立ち塞がる事もなかっただろう。
 士郎の過去を知る事のリスクと、その凄絶さを知っていたのなら。
 知らなかったから、詠春もいい機会だと流れを見守る。

 けれど、止める者はいなかった。
 言うだけ言って、タカミチも限界だったのだろう。
 憑き物が落ちたように安らかな顔で、眠ってしまう。

「では、タカミチ君も気絶したところで、彼の過去を開示する事にしましょうか」

 アルビレオが、嫌らしい笑みを浮かべて本を取り出す。
 彼のアーティファクト。人の半生を記録するイノチノシヘン。
 くるくると回る本の中から、特に分厚い一冊がアルビレオの前で開かれた。

「そう、まずは通過儀礼です。衛宮士郎が生まれた瞬間から始めましょうか」

 そして。
 誘われた夢の先は、生まれた瞬間なんて祝福のイメージからは程遠い景色。
 紛れも無い地獄が、眼前に広がった。








木乃香「……やっぱりせっちゃんずるい」(拍手)
 
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コウシンキター!
お待ちしておりました。忙しいでしょうが頑張ってください。

2013.08.07 | URL | ポンコツ #- [ 編集 ]

コノシユンカンヲマッテイタンダー

忙しい中、更新お疲れ様です。毎度楽しみにしております。
ネギまのメインメンバーが士郎の記憶に触れるシーンは
作者のセンスの表れる所。クロス作品ではいつもワクワクします。
今回はいつにも増して次回が待ち遠しいです。
猛暑が続きますが、お体に気をつけて。

2013.08.08 | URL | NoName #CjlWd7YA [ 編集 ]

来てた!!っがまたいい所で終わりか……

難しいだろうけど早めの更新期待してます。

2013.08.10 | URL | NoName #- [ 編集 ]

ふと思い出してきてみたら更新来てた。
いやあ続きが楽しみですね。
この面子だと、ネギがどう反応するかが一番気になるかな?

2013.08.11 | URL | NoName #UNdPgs3A [ 編集 ]

やっと続きが!でも良い所でw
個人的にはアキラの方も気になりますが。(あと、千鶴と貴音も)

2013.08.17 | URL | NoName #- [ 編集 ]

何度目かわからないけどまた一気読みしてしまいました、最高です。
続き、楽しみにしてます!

2013.08.21 | URL | NoName #- [ 編集 ]

一気読みしました!とても面白かったです!
更新楽しみにしてます!

ps別件ですが一気読みしててfacebookの広告が邪魔すぎでした。ポップアップブロック?でいいのかやっても次話読むごとに出てきて……orz

2013.10.28 | URL | パル #- [ 編集 ]

更新楽しみに待ってます頑張って下さい!

2014.02.12 | URL | さくら #- [ 編集 ]


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