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屈折領域・裏鏡


一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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英雄は彼方へ消える S6


「ある契約」  密約。あるいは裏切り。
 否、それはある契約だった。
 互いが互いの生き様を認めたからこそ、その尊重の結果として交わしたもの。

 士郎は己の記憶、魔術というものの知識を。
 タカミチは己の立場、その半生で築きあげてきたものを。

 お互いに懸けたモノは小さくない。
 ならば、その契約を反故にした時の罰則までが契約に含まれていて然るべきだった。
 しかし、二人の契約にはそれがない。

 理由は単純明白だった。士郎が歪んだ短剣を持っている限り、契約の強制力にはそれ程の価値がないからだ。
 この契約の締結当初、タカミチはその事を知らなかったが、士郎の過去を紐解いていけば当然知られてしまうこと。
 だから、二人のこの契約に拘束力はない。
 
 意味はある。価値もある。けれど、守る必要はなかった。
 士郎も、タカミチがこの契約を守り通すなどとは考えていないだろう。
 だから、既に士郎が麻帆良を去った以上、タカミチは契約を守る必要はない。
 ない、が。それでも。

 友情か。それとももっと打算的な理由なのかはともかく。
 タカミチは、それを譲らないと決めていた。

 そう。
 その約束を侵す者が現れたなら。
 例え誰が相手だとしても、その全力を以って排除する、と。





◇ ◆ ◇ ◆






 吹き荒れる暴風。否、魔力。
 それは世界最強の魔法使いの渾名に相応しい暴力だった。

 禍々しく、凶々しく、全てを引き込む闇のような威圧感。
 生理的に受け付け難いその感覚に、ネギは踏ん張ることしか出来なかった。

 自分が今まで認識していた“差”。あの吸血鬼事件の時に感じた実力。
 それが、今では夢幻の如く感じられる。
 
 止めなければ、と理性は考えている。
 これは明らかな暴走だ。
 原因があるとすれば、解呪方法だろう。
 本来、呪いをかけるよりも呪いを解く方が何倍も繊細な術式を必要とするし、難易度も上だ。
 幾ら術者本人とはいえ、力任せに解呪すれば呪受者にどれだけの負担があるか。
 その結果がこれだ。際限なく高まっていく魔力。オーバーロードが恒常的に発生している。
 これでは幾らエヴァンジェリンと言えども数分持つまい。

 だから。そこにどれだけの差があろうとも、残魔力が怪しい苦境であろうとも。
 挑む以外に、ネギに選択肢はなかった。

「ラステル――」

 しかし呪文は何を選択するべきか。
 ここは地下だ。先程のナギとの戦いではマトモに呪文詠唱している余裕がなかった為問題なかったが、この状況になるとこの地形がネックになってくる。
 威力が強すぎると崩落の危険性があるためだ。
 しかし生半可な攻撃でアレが止まるとも思えなかった。
 ひとまず、エヴァンジェリンの周囲に集積している魔力を吹き飛ばさない事には、彼女自身で制御する事ができない。

 その見極めに迷ったのは一瞬の事だった。
 しかし、その一瞬で全ては事足りる。
 何も、この場にいるのはネギだけではない。
 サウザンドマスターの盟友であり、ナギに身体を貸していた為最も近くに居た人物。

 重力魔法の利点は、効果範囲を限定する事ができる点にある。
 それはデメリットにも成りうる特性だったが、今この時に限ってはこれ以上に適した魔法もない。

 コマ送りのように、その魔法は唐突に発現した。あまりに早い魔法発動。
 前兆のない超圧がエヴァンジェリンを押しつぶす。
 それは巻き上げる魔力ごと押さえつけ、エヴァンジェリンを地に張り付けた。

 しかし、重力魔法で出来るのはそこまでだった。
 このままずっと抑えておけばいずれはエヴァンジェリンも落ち着くかもしれないが、その分負担も増して行く。
 このような状況を打破するスキルを保持している人間も、彼のアーティファクトには登録されていたが、魔法を維持しながら変身することはできなかった。

 故に、膠着状態となる。
 ネギも封印術に類するスキルは持っていないため、この状況からでは打つ手がない。
 そこに、

「今です!」
「りょう、かいっ!」

 飛び込んできたのは、刹那と明日菜だった。
 文字通り、明日菜を抱えた刹那が飛んで入る。

 重力魔法に囚われた対象に接触するには、横から入るのは下策に過ぎる。
 明日菜の魔法無効化がどのように働くか分からないからだ。
 重力魔法そのものが解除されてしまってはエヴァンジェリンも解放される。
 重力魔法が無効化された時、最短でエヴァンジェリンに到達するためには頭上からの一点突破しかない。
 刹那の翼は明日菜の無効化の対象外であるため、一緒に飛び込むのにこれほど最適な人材もいなかった。

 その特攻は、これ以上はない成果を見せた。
 重力魔法を完全に解除し、集まりつつあった闇を払い、空間に静けさが戻る。

「……すまん。世話をかけたな」
「いいって別に。こんな事でもないと、エヴァちゃんに頼られる機会なんてないし」

 珍しい謝罪に、明日菜は一瞬きょとんとした表情を見せた。そして、笑ってぽんぽんと背中を叩く。
 それが、子供をあやすようで、エヴァンジェリンとしても本来なら氷漬けにしてやるところなのだが、今はそれも叶わない。
 暴走が解けたとは言え、その反動はエヴァンジェリンに肉体の自由を奪う程度には大きかった。

「……こうなりましたか」
「うるさい、殺すぞ」

 暴走は止まった。否、止まったように見えた。
 しかしナギの強引な解呪で乱されたエヴァンジェリンの魔力は、暴走する端から止められているだけに過ぎず、明日菜が手を話せば元通り。
 ただ、暴走しないというだけでも余力は生まれる。エヴァンジェリン自身が暴走を鎮めるまでこうして手を握っていてもらえればいい話。
 では、あるのだが。

「ネギ先生っ」
「あれ? エヴァちゃん可愛いわね」

 明日菜と刹那に遅れて、わらわらと集まってきたクラスメイトを見て、エヴァンジェリンは益々機嫌が悪くなる。

「それより、そろそろ今日のサブイベントを始めろ」
「いえ、メインイベントですよ、エヴァンジェリンさん」

 苛立ち紛れに先を促したエヴァンジェリンに答えたのは刹那だった。
 傍らには、いつの間にか木乃香の姿もある。

「いや、それより! 木乃香も、刹那さんも、何で相談してくれなかったの?」
「そういう約束でしたので」
「アスナ顔にでるし」

 キッパリと言い切られ、どんより落ち込む明日菜に、からからとエヴァンジェリンは笑う。

「それに、“報酬”が何より必要だったのです。私達には」
「お金?」
「いえ、私達の協力に対する報酬は……」

「衛宮士郎の過去、ですよ」

 ふっとクウネル……アルビレオ・イマが出現する。

「今やお尋ね者、高額懸賞金がかかっている衛宮士郎の、過去。それを対価に彼女たちは協力してくれたんですよ」
「お尋ね者!? 懸賞金? どういうこと?」
「元々士郎さんは危険視されていたんですよ。あの人が最初に麻帆良に現れた時、瀕死の重体でした。
 それが数ヶ月後に目を覚まし、その日に麻帆良の戦力を半ば制圧してしまった。
 数ヶ月寝たきりだった人間が、リハビリも装備もなしにそのまま、ですよ?
 それだけの力を持ちながら、どこの組織にも属さず目的、経歴、その他の一切が不明。
 使う魔法さえ判然としない士郎さんは、学園長が保護していなければすぐにでもお尋ね者になっていてもおかしくなかったんです」

 静観していた真名も口を挟む。

「先日協会が正式に指名手配する前から、敵対組織からは賞金がかかっていたぞ。
 高畑先生と違って、彼は協会に属しているわけではなかったからな」
「つまり……賞金首になってしまったから、士郎さんは麻帆良を去ったという事ですか?」
「いいや違う。ヤツが逃げたから懸賞がついた、というのが正しいのさ。
 協会に限らず、ヤツの技術……アーティファクトの製造技術を欲しがっている連中は多い。
 衛宮士郎はな、別に悪事を働いたから指名手配されたわけじゃない。その能力が危険だと判断されたから追われているのだ」

 私のようにな、と付け加えるエヴァンジェリンの表情には、諦めにも似た同情があった。
 
「士郎の場合は悪事は悪事でこなしていますから、自業自得と言えばそうです。
 尤も、超鈴音がお咎め無しだったことを考えれば、所詮それも口実に過ぎないのでしょうが」

 この解説で、明日菜たち裏社会との関わりがない面子もおおよその経緯を理解する。
 つまり刹那と木乃香は、士郎を追っているのだ、と。
 しかし解せない点もある。

「でもなんで、士郎さんの過去なの? 今の事を聞けばいいじゃない」
「それは……」

 確かに、刹那たちとて、今の士郎の居場所が分かるならそれに越したことはない。
 しかし、今の情報だとしてもそれは遅いのだ。
 士郎だって移動する、つまりは逃げようとするのだから。
 なら、追うのに必要な諸情報こそ価値がある。

 ……というのは、勿論建前で。

「ハ。惚れた相手の過去なら知りたいと思うものだろう?」

 楽しそうに、エヴァンジェリンが暴露した。
 漫画でもかくや、という勢いで刹那は赤くなる。対照的に、木乃香は動じた様子はなかった。

「ちょ、エヴァンジェリンさん!?」
「今更隠し立てするな。明かせないのならその程度の想いだったという事だ」

 違うだろう? と問われれば、刹那には答えられない。
 
「で、でもですね、その、私としては木乃香お嬢様のために……」
「あーだいたい分かったわ」

 明日菜がため息をついて頭を押さえる。
 他の面々も大体同じような様子で、あっという間に刹那の想いは秘めたものではなくなった。

「ううう……」
「まぁまぁせっちゃん。そう気を落とさんと。……それにな、明日菜。ちゃんと士郎さんの過去を聞くのにも理由があるんよ」
「理由?」

 うん、と頷いて、木乃香は簡単に理由を明かす。

 実際問題、士郎がどこで何をしているか、という情報を得たとして、それではイタチごっこだ。
 追ったところで士郎も逃げるわけで、いつまでも追いつけない。
 なら、先回りするか、偶然に期待するくらいしか手はない。
 偶然の出会いに期待したとしても、準備もなしに捕まえる事が出来るとも思えない。先回り以外に選択肢はないのだ。

 しかし、先回りしようとするのなら、衛宮士郎という男の事を深く理解している必要がある。
 その行動原理。何を感じ、何を思い、何を選んできたのか。
 それを解析するためには、過去の情報が必要になる。
 そこまで理解できなくても、何らかのヒントにはなるだろう。

 というのが、木乃香の語った理由だった。

「尤も、私も士郎が今どこで何をしているかなど、全く知らないのですがね」

 言いつつ、アルビレオが一冊の本を取り出す。
 彼のアーティファクト、「イノチノシヘン」だ。

「ネギ君には既に見せましたが、私は他人の半生を一冊の本にして管理する事ができます。
 そして登録した人間の肉体、思考、技術を再現することも。登録した時点の人格を、私という肉体を媒介に完全再現する事も。
 これが我がイノチノシヘンの能力ですが、勿論ただの歴史書として使用する事も出来る。
 記憶の再生――夢見の魔法を用いて、よりリアルなイメージを再生して見せる事もね」

 しかし、と、アルは続ける。

「しかし、覚悟して下さい。この記憶は、少しばかり刺激的ですよ」

 覚悟など。
 そんなものは、とうにとっくに固まっている。
 いいから早く――と、刹那が『衛宮士郎の半生』を要求しようとした時、彼女らの背後で爆音が轟いた。


「……いいや。覚悟なんて必要ないよ」

 爆音に、突然の声に、アルビレオ以外の全員が振り向く。
 見れば。
 カモ達が策を練り一時的にドラゴンを無力化する事で通った門を。
 ドラゴンを倒し、悠々と歩み寄るタカミチの姿があった。

 いつものスーツ姿である。
 しかし、その姿が、完全に戦闘モードである事は、ほぼ一般人であるのどか達にも分かる事だった。
 そしてその敵意が、自分たち生徒に向けられている事も。

「君たちに、士郎の過去を見せる気はない」
「……この件に、高畑先生は関係ないかと思いますが」
「いいやあるのさ。士郎の過去には、この世に三人……いや、四人しか使い手のいない“魔術”と密接に関わっている。
 誰であれ、これは明かせるものじゃない。国家機密クラスの情報なんだよ」
「それで、私達が引き下がるとでも?」
「別に、君たちの想いが軽いなんて思ってはいないよ。でも、僕は教師だ。生徒の安全と未来のために動く義務がある」

 視線は鋭い。少なくとも刹那には、タカミチのその敵意が、自分たち生徒の事を純粋に願ったものではないと感じる。
 それも当然。今にも戦いが始まりそうなこの剣呑な空気の中で、それを向けられている時点で、そんな事は信じられなかった。

「未来というのなら。それは、私達の自由であっていいはずです!」
「…………」

 その叫びを、タカミチは無視するように身体の向きを変える。
 向いた先は、アルビレオだった。

「アル。これは契約違反ですよ」
「……士郎はもういない。守る相手もいませんよ」
「それでも、僕に相談してくれてもいいでしょう?」
「君に相談したところで、結果は分かりきっていますからね。なら、邪魔されないよう秘密にするのも当然でしょう?」

 にこりともせず、確かに、と呟くタカミチの背中に、木乃香が声をかける。

「高畑先生。退いて頂けませんか?」
「それはできないよ。僕は士郎の友達だからね」
「私達の行動が、あの人の意志に反している事は分かっています。それでも、私達に退く気はありません」
「……僕を実力で排除する、とでも?」
「それが、必要な事なら」
「そうか」

 パンっと。まるで、風船が割れるような音が響く。
 紛れもなく攻撃だった。臨戦態勢にあった刹那でも、避けるのが難しいほど静かな一撃。
 しかしそれは、刹那とはまるで見当違いな場所を狙っていた。

「いったいどこを狙って……」
「木乃香!」

 タカミチを前に、視線を逸らす事ができなかった刹那は、その呼びかけに思わず振り返る。
 見れば。
 そこには、気絶した木乃香が、ハルナに抱き抱えられている姿があった。

 まるで見当違いな方向を攻撃したタカミチ。
 それは、つまり――。
 キッと睨みつける刹那に、タカミチは冷めた視線を返す。

「回復役を真っ先に潰すのは当然のことだと思うがね」
「貴様ァ!」

 激昂のままに飛びかかる。抜いた刀は夕凪。咄嗟だったからなのか、扱い慣れた方を選択した。
 そして、それが命運を分ける。

「――帰結。万物は灰へ朽ちる

 手甲の如き革手袋を纏うタカミチの手が、夕凪を受け止める。
 そして、掴まれた夕凪が、“燃えた”。灰になる。
 溶かされるわけでもなく、燃やされたのだ。

「なっ――がふっ」

 驚きは大きな隙になった。そのまま腹部へ容赦のない一撃を受けて、そのまま刹那は倒れこむ。
 トドメの追撃を、タカミチが容赦する理由はなかった。
 再び振り上げられた拳を遮るように、真名が麻痺弾を打ち込む。
 それをタカミチは全て触れずに叩き落としたが、その隙に刹那は離脱を成功させた。

「今のは何だ」

 息も絶え絶えな刹那に代わり、真名が質問した。
 通常、炎の魔法を使って鉄が溶ける事はあれど、燃える事なんてない。
 だが事実、刹那の夕凪は半ばまで灰化していた。
 そのまま宙に溶けるように消えたが、これは士郎の投影品であるが故。
 灰になった理由にはならない。

「これが魔術さ。精霊を介さずにこの世界に干渉する技法。魔術が引き起こす事象は然程大きくないが、一点突破は得意でね」

 事象の説明にはなってないが、真名にはその危険性は理解できた。
 精霊を介さずにこの世界に干渉する。
 それは、実は有り触れた現象だ。
 自分自身の気のみを糧とし、“呪文を唱えずに”行使される魔法的現象は全て分類される。

 だが、それはほとんどの場合破壊的な現象には結びつかない。
 何故なら、自分自身の気をそのまま操作する事では自分自身にしか作用できないからだ。
 或いは、自分の身体の延長線上。直接触れる武器、服、防具など。
 
 この点において、東洋魔術、呪符という文化は優れている。
 術式が刻まれている、精霊との伝達手段は別媒体で保持されており、直接触れて魔力を注ぎ込めば発動できるからだ。
 つまるところ、呪文詠唱できないタカミチであっても使用する事ができる。

 それに対し、魔術とは自分以外の存在に対し、己自身を事象の変換器とする事で作用させる技法なのだろうと真名は推測した。
 それならば一点突破は得意という言も理解できる。
 精霊との契約術式は、呪文詠唱による魔法というものは、自分と精霊との間で必ず魔力のロスが発生する。
 魔力を受け渡す時、精霊の力を引き出し現象として形作る時。
 そのロスが、魔術にはないのだとしたら?
 少ない魔力で大きな効果を期待できるだろうし、何より術式の構成速度は比較にならないはずだ。

「だが、それだけではないだろう?」

 そう、それだけならば。
 こんな真似をしてまで、タカミチが出張る必要がない。
 もっと大きな秘密が隠されていない限りは。
 魔法にはできない、世界のパワーバランスさえ変わってしまいかねない“何か”が存在するはずだった。

「魔術の講義をするつもりはないよ。それよりそろそろ決めたまえ。ここから去るか、このまま戦うか」

 一瞬、紫電が奔る。
 過度な魔力が空気を焼く。
 それは、まだまだタカミチが本気でないことの証。

 この一連の流れを静観していた楓は、勝てない事を痛感していた。
 何より今のタカミチには、士郎に感じていたような恐ろしさがある。
 それが魔術だとするのなら、あまりに分が悪い。士郎を良く知るが故に、楓は動けない。

 真名は、己の全能を発揮すれば互角程度には戦える自信があった。
 だが、今はその時ではない。あまりにリスクが高すぎる。
 この場であの姿を見せることにも、全力を出して尚敗れてしまった場合にも。
 タカミチの実力は未知数だった。弱体化したというのは噂だが、それは事実だとも思っていた。
 だが、“魔術”というものがあまりに未知数で、総合値としての強さなど推し量れない。
 もしもあれが、全ての防御をすり抜けられる類のものであれば、流石に分が悪い。
 近接戦に持ち込まれた時点でアウトの可能性があるのでは、この戦場はあまりにタカミチに有利過ぎる。

 刹那は既に戦える状況にない。
 楓と真名。二人の実力者は、冷静に撤退するべきだと決定を下す。
 唯一、対抗できるかもしれない明日菜は心情的にタカミチとは戦えなかった。

 ただし。ネギだけは、複雑な感情を持て余していた。
 初めて見るタカミチの本気は想像以上だったのだ。
 武闘会で戦った時の事がお遊びに思える戦場の雰囲気に、ネギは取り込まれてしまっている。

 だが、ネギとてもっとアルビレオには父の事を聞かねばならない。
 士郎の事について然程の興味はないネギだが、これが原因で父のことまで聞けなくなってしまうなど御免だった。
 しかし、ネギには静観しておく選択肢もあった。
 タカミチの目的が魔術の隠蔽ならば、同席してもらった上で父の事を聞くのを止めるはずがないからだ。
 このまま今日は一旦撤退して、後からタカミチに頼み込めばいい。それで自分の目的は達成できる。

 だが。

 視線の先には、気絶しハルナに抱えられている木乃香がいる。
 蹲り、激情のまま気を高め、再び戦おうとしている刹那がいる。

 このままでいいのか。
 この状況を、自分の目的のために静観して、それで本当に自分は彼女たちの先生だと誇れるのか。

「君には、理由はないはずだよ、ネギ君」

 気づけば、立ち上がっていた。魔力は残り少ない。正直に言えば、立っているのがやっとだ。

「僕は……みんなの先生だから」
「ネギ君。先生というのは、願いを叶えてあげる存在じゃない」
「でも、こんな……! こんなのは、違うと思うんだ」

 駄々っ子のようなネギの叫びに、タカミチは冷めた視線を向ける。

「なら、君も力で対抗するのかい?」
「みんなを守れるなら、それでいいよ」
「この子たちが引けば傷つく事もないさ」

 極而法。魔力は渦を巻き絶対防御が発現する。
 それは最後通告なのだろう。
 このまま戦うのなら、全員気絶させてでも止める、と。

 ごくりと息を呑む。武闘会での激闘が脳裏に蘇る。
 あの時は届かなかった。そして、今回も届かないだろう。
 それでも、と完全に意地だけで最後の魔力を集めていく。

 そして、奇跡的に、ネギは閃いた。悟ったと言えるかもしれない。或いはそれも必然だったのか。
 疲労の度合いと、魔力の残量、最高の戦いの後に残る余韻、何一つ欠けても辿り着けなかった。
 逆に言えば。同じ状況さえ再現すれば、ネギは必ず辿りつく。

 一瞬、集めた魔力が形作る直前のみの全能感。
 その時、確かにネギは“何か”に手が届いた。己が触れたものが何なのか、それを理解はしていない。
 ただ、『対抗できる』という確信がネギを動かした。

 否。動かそうとして、失敗した。
 それより先に動いた者がいたからだ。

 ネギが掴みかけたモノは呆気無く指を通りぬけ、すぐに掴みかけた事さえ忘却する。
 不快と言えない程度のわだかまりを胸に残し、先に動いた“誰か"を確認して、今度こそ驚愕で塗り潰される。

 そこに居たのは。

「さて、タカミチ君。娘に手を上げたからには……分かっているだろうね?」

 かつて、世界最強を誇った剣士だった。 


 
 



「近衛詠春は地下に向かった。これが歴史の境目だったというわけか。
 もしも彼が地下ではなく、空に向かっていたのなら、世界を彩る運命は大きく異なっていた。
 彼が近衛木乃香に宛てた手紙。あれがこの結果を生んだというのも、皮肉なものだね」
(拍手)
 
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後書き

3ヶ月も待たせて申し訳無い!
何か中途半端な引きになってしまったけど、次か次の次からは本題の合流√に入ります。
何とか年内には合流√に入りたいところ。
では、待て次回!

2012.11.18 | URL | 作者 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

待ってたぜ兄貴!

2012.11.24 | URL | こしを #F4mscU5. [ 編集 ]

面白かった。
続き楽しみにしています

2013.03.05 | URL | TTT #K5rVWbaE [ 編集 ]

続きが気になる・・・

2013.04.18 | URL | NoName #LkZag.iM [ 編集 ]


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