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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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英雄は彼方へ消える S2


「雷喰/白天」
「やっとか」

 刹那がエヴァンジェリンを訪ねた時、既にエヴァンジェリンは不機嫌だった。
 気怠そうなのに眼光が鋭いという離れ業を成し遂げている。ある意味、不気味だった。

「あの、やっと、とは?」
「貴様が来るのが、だ。衛宮の刀を取りに来たのだろうが」
「そうですが……」

 それで何故エヴァンジェリンがこんなにもイライラしているのかの理由にはなっていない。
 が、それを面と向かって聞ける程刹那も強くなかった。

「しかし何故その事を?」
「阿呆か貴様。私が預っているのだから、誰に渡すかぐらいは聞いている」

 それはそうだ。馬鹿な事を聞いたと反省する。
 浮かれた気分のままダッシュでここまで来てしまった為、まだまだ舞い上がっていた。
 流石に機嫌が悪いエヴァンジェリンの前ではそんな気分にはなれないが。急速冷凍である。

「それで、その。士郎さんの刀はどこですか?」

 遅すぎるという程準備万端で待ち構えていたのなら、すぐに渡して貰えるだろうと刹那は信じて疑わなかった。
 エヴァンジェリンの細い瞳が、平時のそれと同じく冷めていたからだ。
 怒りを表していようとも、楽しむ色が混ざらない限りエヴァンジェリンという女は無害である。

 と言うと、それはそれは多くの人から反論されそうではあるが、しかしそれが真実だった。
 明確に、彼女の敵とならない限りは、だが。
 味方である必要すらない。敵でさえなければ、どれだけ口では厳しい事を言っていても結局恐れる必要はないのだ。

「……刹那」

 重い声が、ゆっくりと浸透する。
 その余韻を待つ余裕はなかった。

「……!?」

 気づけば。茶々丸が、刹那の背後からナイフを突きつけている。

「どういう、おつもりで?」

 冷や汗をかく。ここまで追い詰められた気分になったのは久しぶりだった。
 エヴァンジェリンの目は相変わらず変わっていない。
 いつもの、人を玩具にして遊ぶ時のニヤニヤとした笑顔じゃない。
 だからこそ焦る。刹那はこんなエヴァンジェリンを知らない。
 故に、その結果もまた、未知のものとなり得る。

「いや、なに。お前があまりに幸せそうだったからな」
「幸せ、ですか……?」

 心当たりは、あり過ぎる。
 あの、麻帆良武道会での戦い。その中での問答。
 幸せを捨てて剣を取った。

 エヴァンジェリンがあの試合を見ていたのなら、当然その問答も聞こえていただろう。
 だから、なのか。
 この行動の意味は。

 この行動が、どちらに対するものなのかは、刹那には分からない。
 剣を選んだと言いつつ、結局幸せそうに日々に緩んでいる刹那に対するものなのか。
 それとも、剣を受け取ることさえ幸せだというその矛盾に対するものなのか。

「不幸の様は皆違う。質も、量も、長さも。私のそれがお前のそれより酷く苦しいものだったとは言わないし、そんな事は誰にも……そう、神でさえも決められん事だ。
 ただ、な。あの時、私はお前が羨ましかった」

 桜咲刹那と衛宮士郎の試合。
 否、人生の、その行く道を決定付ける闘いだった。
 けれどその本質は、士郎から刹那へのプレゼントとも言える。

 強力無比な剣などよりも。どれほど高価な宝石などよりも。余程、刹那の役に立つものだった。
 明確に選択出来た、その機会を与えられたというのは、度が過ぎる不幸に見舞われた人間にとっては救いに等しい。

 もう過ぎてしまった過去は決して変えられない。
 何を成して来たのかは消えずに残り、誰もが忘れたとしても自分自身は覚えている。
 それは道が決められているという事だ。最早変わる事などできない。
 そういう生き方のレールに嵌っている。

 不幸な人間ほど、その度合いが強い程に、傾向は顕著になる。
 それが苦しい程に、それが悲しい程に、それが永い程に。
 仕方ないという逃げ道さえ、自分では選び取ることなど出来なくなる。

 不幸な人間は、自分から変わる事は出来ない。
 もしも仮に、誰もが認める程に“不幸な”過去を持つ者が、周りの要因などなく己の力で選べたのなら。
 本人にとって、それは不幸などではないのだ。
 己で選び出した答えに、幸不幸など関係あるはずもない。

 選べないからこそ不幸。
 例えばそれは、出生なのかもしれない。
 或いはそれは、特性なのかもしれない。
 憎む相手がいようといまいと、一度歩き始めてしまえば同じだ。

 極楽から下がる蜘蛛の糸のような。
 そんな、救いの手が差し伸べられない限り、“不幸”は纏わりつく。

「分かるか刹那。あの男は、お前に幸せになってもいい、と言ったのだ。
 半人半魔、人からも魔からも疎まれてきたお前が。あの男だけは疎まないと、そう手を差し伸べたのだ」

 それを、刹那は受け取らなかった。
 けれど確かに救われた。
 差し伸べられた手を掴むのか、それは自由だ。

 ただ、そこに選択があるからこそ意味がある。
 その道を往き続けるのか、それとも与えられた日々に満足するのか。

 エヴァンジェリンは……掴んだ。
 緩やかな停滞を続けていたその道から、ほんの少しだけ逸れた。
 この麻帆良で封印された事。
 それそのものは忌々しいと思っていても、その結果に至った選択に後悔はない。
 ほんの少しの、日常。緩々と続いていく日々。安寧。
 そこに大切な何かが欠けていると気づいていても、それさえいつしか忘れ、幸せに慣れる。
 そして慣れてしまっていてさえも。それが、幸せであると感じる事は出来るのだ。

「別にお前の選択を非難しているわけじゃない。お前は強く、正しかった。
 私のように、微かな日々に安寧を、幸福を見出す惰弱に至らなかった。
 だが、ならば、」

 茶々丸が軽く動いた。エヴァンジェリンの語気は少しずつ荒くなる。
 主の昂ぶりに比して、刃は少し刹那に近づいた。
 軽く一突き。刹那が何かのアクションを起こした瞬間に、心臓を破れるくらいに。布一枚肌一枚の距離感。

「何故そんなにもお前は浮かれている。それは弱い。弱すぎる。
 そんな中途半端な今のお前に、ヤツから預かった剣は渡せない。アレは強者の手にあるのが相応しい逸品だ」

 また少し、茶々丸の持つナイフが食い込む。
 既に制服には突き刺さり、血が出ていないのが不思議な位置だった。

「それは、士郎さんの意志ですか?」
「いいや。むしろ奴はきっと、そんなお前の為にアレを作り上げた。選んだ癖に、中途半端な貴様の為にな。
 中途半端な心構えでも尚、強くなれるように。貴様の選んだ道に相応しいように。
 だが今の貴様はその道に相応しくない。決定的にな」
「だから渡さない、と?」
「保管料だ。既にヤツからも貰っているが、刹那。力を欲するのなら、相応のものを私に示せ。
 貴様がその中途半端な状態を選ぶというのならそれも構わん。だが、その時衛宮の刀は私のものだ」

 そうして初めて。エヴァンジェリンは楽しむように、ニヤリと笑った。








 結果として。塔の屋上で向かい合う事になる。
 刹那が手にしているのは士郎の投影品である夕凪だ。
 そして珍しい事に、エヴァンジェリン自身もまた刀を持っていた。いや、刀らしきものか。

 それは血のように赤い布で隠されている。が、見るからに刀の長さだった。
 神鳴流が扱う刀にしては些か短い、一般的な長さの刀。
 赤布が解かれない限りはその詳細は判断がつかないが、思わず刹那は喉を鳴らす。
 あれが、と。士郎が“刹那のために”残してくれた、力。
 その事実だけで、刹那にとっては十分だった。期待が天井知らずに膨れ上がる。
 思えば、コレほどまでに何かを欲しいと思ったのは、初めての経験だったかもしれない。
 何かが大切だと思えるのとはまるで違う感情だ。或いはそれが、手の届くところにあるからだろうか。

「さて、刹那。これがお前の求める衛宮の刀、雷喰<らいじき>だ」
「雷喰……」
「その名の通り、こいつは雷を“喰う”。お前たち神鳴流の天敵だよ」
「は?」

 神鳴流の技には、雷を用いたものが多い。
 否、純粋に気を用いた技の中で唯一属性を持つ攻撃手段が雷のそれだと言ってもいいだろう。
 古代、雷とは神鳴りだった。それは神の怒りであり、以って人智の及ばない領域の力そのものだったのだ。
 故にこそ、魔を滅する神鳴流にとって雷ほど相性のいい属性はない。
 
 と、いうのは得てして後付の設定ではあるのだろう。
 実際に神鳴流がどのような軌跡を辿り、今の形に落ち着いたのかは刹那の知るところではない。
 当時、人智を超えた技を用い魔を滅ぼした人間が開いた流派なのかもしれない。
 或いは、誰かが目指した先こそが、「神鳴」だったのかもしれない。

 ともあれ。現在の神鳴流は、決して雷鳴剣などの雷属性の技のみ秀でているわけではない。
 むしろ現在ではその技の広がりから、雷の技は全体の中の少数でしかない。
 だとしても、雷が神鳴流の象徴なのは変わらない。

 そして、それらを封ずる為の剣、というのは。

「条件をつけるぞ刹那。お前は雷鳴剣、雷を使う技のみで戦え。通常の斬る刺すなんてのも禁止だ。
 ま、私もいくら別荘の中とは言え並の魔法使い程度の状態だからな。それで対等だろう?」
「……分かりました。勝てばいいのですね」
「ああそうさ」
「……勝敗条件は?」
「ギブアップにしておいてやろう。お前が負けを認めない限り、可能性はある。ああ、気絶してもギブアップ扱いだぞ」
「分かりました。……いざ」
「尋常に、というヤツか?」

 言いながら、ようやくエヴァンジェリンが封を解く。シュルリ、と布擦れの音がやけに大きく感じられた。
 雷喰。美しいというよりは禍々しい刀身が顕になる。
 見慣れない紋様が浮かんでいた。まるで、血が垂れているかのような。今にも脈打ちそうな禍々しさ。
 その刀とは直接刃を合わせないようにして、刹那は雷鳴剣を放つ。

「うむ。なかなかの気迫だ。だが」

 それはそうだ。
 相手は“衛宮”の剣。通常の刀剣類では歯が立たない。
 尋常ならざる強力さこそが、最も衛宮士郎が危険視される理由でもある。
 刹那の夕凪も、二度折られているのだ。直接打ち合うなどという愚は犯せない。
 士郎の刀が欲しいのはそれとして、夕凪だって詠春から託された大切な品なのだ。そう何度も折られるわけにはいかない。
 雷鳴剣ならそれが出来る。攻撃のメインは剣筋ではなく雷撃だ。
 まずは様子見。「雷を喰う」というその効果が、果たしてどのように発現するのか。

「なっ……!?」
「見込みが甘いな」

 雷撃は確かに消えた。雷喰に吸い込まれるように……まさしく、喰われるように。
 だが問題はそこからだった。
 エヴァンジェリンの魔力が急激に増大する。
 それを感知したのも束の間、それが雷撃となって刹那を襲った。

 技後硬直。避けられるタイミングではなかった。
 威力こそ大した事はなく、刹那の雷鳴剣の半分もなかっただろう。気による防御も間に合っていた。
 とは言え直撃。それなりのダメージはある。

「っ……今のは」
「予想はつくんじゃないか?」

 一つの仮説。
 例えば、雷喰の特質とは、雷の無効化なのではなくむしろその逆。
 魔力を流す事で雷を放てるという性質こそが、雷喰の本質なのではいかと。
 それが本当なら、確かに神鳴流に相応しい業物だろう。
 決して雷で傷つく事なく、雷を司るというのなら。秘宝、後に伝説にもなれるクラスの一品と言える。

 と、まぁ。そんな刹那の予想はさておき。
 雷を喰うと謳う雷喰だが、その実体は避雷針と変換機の組み合わせのようなものだった。
 その刀身を通った雷気は、魔力に変換され持ち主に還る。
 ある意味で、魔力が不足しているエヴァンジェリンにとっては願ってもない武装と言えよう。
 相性という意味で言うのなら、雷喰は刹那ではなくエヴァンジェリンにこそ似合っている。
 
「どうした? 何をそんなに怒っている?」
「別、にっ」

 瞬動。エヴァンジェリンの死角に周り、再びの雷鳴剣。
 が、それも。

「なんでもありません」

 当然のように、鋒を向けられただけで掻き消える。
 ただ、今回は刹那もすぐに距離を取ったせいか、雷撃による追撃はなかった。
 
「例え一時でも、奴が残した刀を他の女が使うのは気に食わんか?」
「っ……」

 ふっと短く息を吐く。
 そんな揺さぶりに動じているようでは、エヴァンジェリンが認める“強者”にはなれない。
 
「いい目だ」

 刹那は自分の残存体力を計算する。
 魔力と違い、気は体力勝負だ。故に、オーバーワークによる気絶は起きにくい。
 動けなくなる事はあっても、気絶という状態は中々珍しいのだ。勿論気絶したいくらいに眠くなるが、気合いで誤魔化せる。
 しかし大量に気を消費する雷鳴剣などの技しか使用を許されないのならば、少々特殊な運用をしなければすぐに気は尽きてしまう。
 気絶するまで、という長丁場を連想させるルール設定だが、そもそもこのルールでは根本的にそんな拮抗は有り得ない。

 故に短期決戦。そして問題は、雷喰の適用範囲だった。
 今の刹那ならば、通常の雷鳴剣ならば二三十発は打てる程度に気力が充実している。
 しかし、雷喰の性能を考えれば無駄は打てない。

 第一に、雷喰の許容量を探る事が必須だ。どれだけ規格外な性能であっても限界はあるはず。
 “喰い漏らし”が発生するのはどこからか。そして、その場合にどういった現象が起こるのか、である。
 最悪なパターンは、喰い漏らしが発生したとしても、エヴァンジェリンには直接のダメージがない場合だ。
 雷喰が空間的に雷を吸収していた場合にはあり得る。
 その場合、刹那が雷喰の許容値を上回る雷鳴剣を使ったとしても意味はない。
 逆に最も楽なパターンは許容値を超えた場合に暴発するパターンだ。
 ただしこの場合にもデメリットはある。刀そのものが破壊されてしまう可能性だ。
 欲しいものを、自分の手で壊してしまうのでは本末転倒。間抜けとしかいいようがないだろう。

 だが、それを調べる為には少なくとも先程放った雷鳴剣よりも大きな気を消費する。
 しかも気の消費は雷鳴剣だけに使うわけじゃない。移動、防御、ただ対峙しているだけでも、戦闘状態に在れば消費し続けていくものだ。
 そう考えるのならば一発勝負。刹那の最大・最強の一撃で以って対するしか手はない。

「行きます」

 呼吸を整えた刹那は再び瞬動で距離を詰める。
 最大の一撃を叩きこむためではなかった。
 まだもう一つ、確認すべき事はある。

「ハァッ!」

 死角に回っての雷鳴剣。
 ただ、以前と違ったのは。

「二連!」
「むっ」

 雷鳴剣の連続使用。一発一発は威力を落とす事になったとしても、雷喰の性能についてもう一つ確認する事が出来る。
 即ち、連続使用の耐久度。何度でも喰い続ける事が出来るのかどうか。
 そして、

「三連っ!」

 『雷を放出しようとしている時に、雷を喰う事が出来るのか』

 バチリという電気の音が、轟音クラスの破壊音となって二人を襲う。
 粉塵が舞い、二人を覆い隠した。

「……考えたな」
「負けるわけにはいきませんから」

 そして実際、刹那の考えは隙を突いた。
 ただし、それが分かったところで相討ちが限度ではある。
 むしろ、初撃、二撃分の魔力を変換された分、刹那の方がダメージは大きい。
 それに、どちらか片方が避ける事に成功した場合、その時点で勝負は決まる。
 雷撃の最大特性は麻痺効果にあるからだ。動けない無防備な状態で攻撃を受ければ、どうしようもない。

 ただ。エヴァンジェリンは、現在の状況では刹那の雷鳴剣を最低一回は吸収しない限り、まともな攻勢に出る事が出来ない。
 勿論、雷撃以外を使ってくるのなら話は別であり、刹那もその可能性は考慮している。
 が、予想としては雷喰以外で攻撃してくる事はないと刹那は考えていた。
 それはプライドであり、この闘いの意義でもある。
 刹那に雷鳴剣のみの使用を強要しておいて、自分だけが多種多様な技を使ってくるとは思えなかった。

「だが、私も同じ轍は踏まない。以後、こちらから攻撃しなければいいだけの事だ。私はのんびり、お前の気絶を待つ事にしよう」

 その通り。この戦法に対する対処法はあまりに簡単だ。
 刹那が力尽きるのを待つ事。それだけで事足りる。
 同じ手は二度と通用しない。
 少なくとも、二回程度の連続吸収は、雷喰にとって何の苦もない事は確認できた。
 回数を増やして確認してみるか、それとも残った気を全て使い切り最後の賭けに出るか。

「どうした、来い。あまり私を失望させるなよ」
「……っ」

 意を決して、刹那はエヴァンジェリンの懐に飛び込んだ。



 



◇ ◆ ◇ ◆







 その頃。
 士郎からの手紙を受け取った人間は、他にも居た。
 大河内アキラ、桜咲刹那の二人は確かに士郎と関わりが深かったが、同じくらい関わりが深い人間は他にもいたし、実際のところその手紙はかなり広範囲に出されていた。

 例えば、高音・D・グッドマンと佐倉愛衣。
 自称士郎の弟子である二人には、士郎と確かな別れの機会さえ得られなかった。
 この時間軸において、士郎が最終決戦に姿を現さなかった以上、麻帆良側の厳戒態勢に参加していた二人は麻帆良武道会以後士郎を見てさえいない。

「こんな手紙だけで別れを済ますなんて……酷いと思いませんか、お姉さま!」
「……そうね。確かにそう思うけど」

 憤慨する愛衣に対して、高音は逆に冷静だった。
 士郎が麻帆良を裏切った。
 その時点で、こうなる事は予想がついていたからだ。
 こんな手紙を送る事さえ、士郎にとってはリスクが大きかったはず。
 にも関わらず、気にかけてくれた。それだけで彼女は嬉しかったのだ。

「それよりも、私は士郎さんが何故麻帆良を裏切ったのか知りたいと思います。
 彼だって正義を志す人。その信念の理由が知りたい」
「それは……確かに気になりますけど」
「そもそもどうして士郎さんは麻帆良にやってきたのか。士郎さんの調査レポートにも、それは記されていませんでした。
 しかしあのレポートを作った明石教授なら、何か知っているかもしれません」
「それを、調べるんですか」
「ええ。愛衣も手伝ってくれますか?」

 今後の指針は必要だった。
 もう高音も愛衣も、ただ闇雲にマギステル・マギを目指すだけではいけないと理解している。
 問題は、マギステル・マギになって何を成すかなのだから。

「ハイ、勿論です!」
「それに、もっと強くならないと。あの人と再会出来た時に、今度こそ認めてもらえるように……」

 憂いを帯びた表情で、しかし声は力強く。
 高音は決意し、そして愛衣もまた、己が行くべき道を考える。
 士郎の事について調べるのは、愛衣にとって興味本位でしかない。そして、高音の手伝いでしかない。
 自分がやりたい事、やらなければならないと思える事を探す。
 見つかるまでは高音を手伝おうと、愛衣は隠れて気合を入れた。




◇ ◆ ◇ ◆




 そして、犬上小太郎。
 短い間とは言え同居人だったのだ。アキラや刹那に届いていた手紙なら、当然彼にも届いている。

「で、それ?」

 夏美と千鶴が、小太郎の手にある手紙を注視する。
 特に千鶴は、のほほんとした表情ながら、目が据わっていた。
 内心ビビリまくりの夏美と小太郎である。

「でも、たった一ヶ月で放り出すなんて。いくら何でも非常識だわ」
「そんな怒らんといてや、千鶴姉ちゃん。俺は別に怒っとらんし」

 まぁ、口には絶対に出さないが、小太郎も寂しさは感じていた。
 ご飯も美味かったし。何より、あんなに距離感が近くなった年上なんて初めてだったから。
 
「でも……」
「ええんや」

 実際のところ。こうして士郎が消えてくれた事を、ありがたいと感じている部分もあった。
 いつまでも目標と一緒に鍛錬では超えられるものも超えられない。
 いつか必ず追い越す為に。今はこれでいいと、心から思える。

「一人には慣れとるしな」
「もうっ、一人じゃないでしょ?」
「……ありがとな」

 夏美が少し怒ったように言って、照れたように小太郎も返す。
 そんな微笑ましいやりとりを見ながら、千鶴は何も言わない。
 ただ、その瞳は何かを決意したかのようでもあった。
 小太郎が士郎に引き取られる時に言った事。
 例え小太郎が気にしていないのだとしても……やる事は、変わらなかった。





◇ ◆ ◇ ◆





 そして、神楽坂明日菜。

「アスナには手紙来とるのに……」

 手紙を受け取った明日菜の横で、ずーんと沈んでいるのは木乃香だ。
 彼女には手紙が届いていない。
 自分の方が、少なくとも明日菜よりは士郎と親しいと思っていただけにショックも大きかった。

「いや、でもほら、業務連絡みたいなものじゃない。気にする事ないって」

 と、慰めつつ、もしかして木乃香って士郎さんの事好きだったのかな、とか今更ながらに気づく明日菜だった。

「でも……」

 明日菜と目さえ合わせず、木乃香は落ち込んだままだ。
 まぁ仕方ないだろう。ある意味失恋よりもショックだったのだから。

 ちなみに、明日菜への手紙の内容はまさしく業務報告だった。
 忘れがちだが、明日菜は喫茶アルトリア唯一のバイトである。
 木乃香やアキラが手伝う事も多かったとは言え、正式に賃金を貰ってバイトしていたのは明日菜だけだ。
 かなり時給も良かった為、明日菜としては収入の大部分をアルトリアでのバイトに頼っていた。
 不定期開店だったとは言え、新聞配達の三倍以上の時給だと機会は少なくても対して問題はなかったのだ。
 そのバイト先が、店主から直接の連絡もなく期限なしの閉店になったとあれば一大事である。
 手紙の内容は、その事に対する侘びと、フォローとして退職金を用意した、というものだった。

「バイトに退職金なんてヘンな話よね。士郎さんらしいっちゃらしいけど」

 一ヶ月分のバイト代に相当する額だ。
 ちなみに、手紙では退職金なんて単語は使われていない。
 ただ、もしまた店を開く事があったらバイトを頼む、とだけ書かれていた。
 その手付金、という事らしい。

 バイトを通して、かなり士郎からは良くして貰っていた明日菜だから、正直このお金を受け取るのには抵抗がある。
 けれど、これを受け取らなかったら、きっと再会した時士郎が不器用そうに凹むという事は分かっていた。
 その程度には付き合いもあったし、何故か明日菜は士郎に対して気を許しているフシがある。
 理由がないお金というわけでもなし、有り難く明日菜は退職金を受け取る事にした。
 勿論、士郎が帰ってきたらまたバイトするつもりで。


 



◇ ◆ ◇ ◆






「くっ、……ハァ……ふぅ」
「どうした……息が、荒いぞ。刹那……」
「そちらこそ、立っているのも……キツそうではないですか」

 息も絶え絶えの二人は、疲れ果てた体で未だに向き合っていた。
 別荘内の時間で6時間が経過しようとしている。
 その間の、刹那がとっていた戦法はこうだ。

 微弱な雷を剣に纏わせ、その刃を以って通常戦闘を行なっていたのである。
 喰われるなら喰われるで構わない。かなり消極的戦法だったが、ルール違反ではない。
 しかしこれは有効だった。
 封印状態のエヴァンジェリンが相手なら、幾ら別荘の中とは言え刹那が上だ。
 体力的な問題ならば、天と地の差と言える。
 魔力が補給されない状態で、長時間の戦闘にエヴァンジェリンは耐えられない。
 故に、消耗させ抑えれば、長期戦で有利になるのは刹那である。
 それを避ける為の、雷系の技のみの使用だったわけだが、完全に裏をかかれた形だった。

「それにしても、これほどの剣技を持っているとは……驚きました」
「フン。従者に出来る事がマスターに出来ぬわけがなかろう。私はドールマスターだぞ?」

 エヴァンジェリンの初代従者、チャチャゼロは好んで剣を使う。
 おそらくは過去、まだ彼女がドールマスターの異名を得ていなかった頃には自立稼働ではなく直接動かしていたはずだ。
 ならば、その剣技の大元がエヴァンジェリンにあるのは当然である。
 
「しかし、そろそろこの戦いにも飽いたな。どうした、そろそろギブアップしてもいいのだぞ?」
「ご冗談を。貴女こそ、そろそろ大人しく私に刀を渡して楽になったらどうですか?」

 ふふふふふふと暗い笑みを浮かべる二人。
 戦っている最中、割りと当初の目的を忘れつつあった。
 いや、刹那は士郎の刀を受け取るという目的が、「エヴァンジェリンから奪う」となっただけで。
 エヴァンジェリンは、刹那を試すとか矯正するとかいった目的から「刀を渡さない」となっただけではあるのだが。

「しかし、確かにお互い限界が近い。次で決めるとしましょう」
「ほう、大した自信だな」
「ええ。私には出来る。こんな所で躓いている暇はない」

 根拠もない、見栄を張るかのような威勢だった。
 本当に、あと一発雷鳴剣を放つので精一杯、打てばそのまま気絶してしまうだろう。
 体力的なところもさることながら、その精神力が尽きかけていた。
 だがだからこそ、自分を鼓舞するように刹那は口にする。
 自信を。強さを。選んだ道に相応しい、自分の姿を。

「いざ」

 息を吸う。最後の気力を振り絞り刃に乗せる。
 出来ると信じ、白翼を広げる。
 エヴァンジェリンを相手に出し惜しみなどない。
 人間として戦うなんて詰まらない矜持など捨てる。
 強くなれるのなら。それで守れるものがあるのなら。
 受け入れてくれる人たちは確かに存在するのだから、臆する事はない。
 
 刹那は天に舞い上がった。
 今まで見せなかった高速機動。しかも平面の攻撃ではなく上方からの三次元攻撃。
 そも、剣技とは上空に対する攻撃など考慮されていない。
 あくまで“前”を攻撃するだけのものなのだ。
 それは飛んでいる刹那も同じ事だが、落下攻撃となれば話は別。

 先手を取られた事で、エヴァンジェリンは地上で刹那を迎え撃つしか手がなくなった。
 封印状態のエヴァンジェリンとて飛ぶ事は可能だが、刹那程速く飛ぶ事は不可能。

「極大っ!」

 だがそれでも問題はないはずだった。
 雷とは本来天から地へと奔るもの。
 故にその攻撃力は、勿論上から下に撃った方が大きいが、逆にそれは雷喰にとって好ましい。
 喰える量が増える、という事に他ならないからだ。
 そして、剣の強度、切れ味においても雷喰の方が夕凪よりも上。
 何一つ、不利な要素などない。
 ない、はずだったのに。

「雷鳴剣!」

 刹那の、気力を振り絞った一撃の前に、雷喰は砕けた。
 決定的な亀裂。
 それは別に、刹那が雷喰の許容値を越える雷撃を放てたというわけじゃない。
 禄に刀を魔力で強化せずに、長時間戦闘していたからだった。
 いくら衛宮の刀が丈夫で強いとは言え、手入れも要らず決して折れないなんて不条理はない。
 いつかは壊れるものだ。
 それを呼び込んだのは、刹那が選んだ長期戦の結果だった。

 けれど、雷喰は完全に折れる前に、その殆どを喰らった。
 そうでなければ、エヴァンジェリンは消し炭になっていただろう。
 それでも、エヴァンジェリンを昏倒させるには十分な威力ではある。

 そして、刹那もまた、意識を失う。
 限界ギリギリまで気を使い、勝てたという実感が緊張の糸を切ったのだ。

「お疲れ様でした、お二人とも」

 倒れ伏している両者を、ずっと観戦していた茶々丸は抱きあげると、治療の為に部屋に戻っていく。
 かくして決着はついた。
 微妙だが、一応は刹那の勝利。
 とは言え、肝心要の士郎の刀、雷喰は折れ、既に霞と消えてしまっていたのだが。







◇ ◆ ◇ ◆







「あああああああああ……」

 目覚めてすぐに、刹那は奇声を上げて項垂れた。
 まぁ、無理もない。その刀を手に入れる為の勝負に熱が入りすぎ、結果的に欲しかったモノを自分の手で壊してしまったのだ。
 己の馬鹿さ加減に死にたくなる。

「うだうだと五月蝿い奴め。ほら、顔を上げろ」
「うう」

 エヴァンジェリンがタオルを差し出す。

「悪かった。謝るからもう泣きやめ。おい茶々丸」
「もう用意してあります」

 茶々丸が持ってきたものは、細長い棒。
 否、勿論この場面で持ってくるものなのだから、その正体は決まっている。

「え?」

 茫然自失の体で、刹那はするすると赤布の封印を解かれていくそれを見つめた。
 それは、野太刀だ。神鳴流が使う、刹那が使う、夕凪と同じ長さの。

「銘は“白天”。精々大事に使うのだな」
「え? え?」

 未だ混乱の抜け切れない刹那に、茶々丸が解説を入れる。

「刹那さんが破壊した刀、雷喰はマスターが士郎さんとの取引の末に手に入れたものです。
 雷喰は白天の影打……つまりは模造品ですね。格で言うのなら、白天の方が上ですよ」
「忌々しい事だがな。刹那、貴様の最後の一撃程度ではヒビも入らんぞ、コレは」

 白天。
 その様は、丁度雷喰を反転させたかのような雰囲気だった。
 禍々しさの正反対。ただし、それは神秘的ではあっても神聖なものではない。
 敢えて言うのなら無色。まだ何の色もついていない、無垢な白だ。

「本当に……意地悪です、エヴァンジェリンさん」
「フン。私の刀を折ったのでチャラだ、チャラ」

 そっぽを向いたエヴァンジェリンの表情は伺えない。

「そうですよ、刹那さん。マスターも刹那さんが起きるまではそれは酷い落ち込み様で……」
「だーっ、茶々丸いい加減にしろ! 反抗期か? 反抗期なのか!?」

 二人の騒がしい掛け合いに、思わず刹那も頬が緩む。
 手には名刀。
 いや、きっとこの刀は、これから名刀になっていくのだ。

 桜咲刹那という主を得て。一つの伝説を形作る。
 その血と共に受け継がれていく伝説の、これが最初の戦いとなった。








 手元には一通の手紙。
 尤も、彼にはそんなものは必要なかった。
 中身を見るまでもない。必要な事は、もう思い出していた。

「どうやら私も……動く必要がありそうですね」

 関西呪術協会が長、近衛詠春は立つ。 
 その手に、衛宮の刀を携えて。
(拍手)
 
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あとがき

最後になってしまいましたが、今回を11月分という事で。
12月もちゃんと更新できるとイイんですけど。

しかし、書いてて思ったけど刹那√の方が人が出てくるから盛り上がるね。

2011.11.30 | URL | 作者 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


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