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屈折領域・裏鏡


一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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英雄は彼方へ消える S1


「手紙/S」

 木乃香を士郎に攫われた刹那は、ボロボロな身体で夜の空を飛ぶ。
 翼を広げる余裕もない。単純な脚力だけで、跳んでいる。
 だが当然、その動きに精彩はない。士郎から受けた傷はどれも致命傷からは程遠く、明らかに手加減が伺える。
 だからこそ刹那は動けた。裏目、ではあったろう。
 一撃で意識を奪っていれば、傷が悪化する事もなかったし、危険に身を晒す事もなかった。

 木乃香を連れ去ったのは、何も保身だけが目的だったわけではないにせよ……裏目も裏目。
 士郎にとっては、マイナスにしかならなかった。
 が、だからこそ逆に、刹那にとっては貴重な時間でもある。

 事が終わり、その時を振り返る度に刹那は思う。
 言葉通り、身も心もボロボロになって得た時間は、間違いなく掛け替えの無いものだった。
 たった数時間。何をしたというわけでもなく、ただそこに居たというだけの事で。
 けれども、刹那にとっては忘れられない記憶になった。
 いや。士郎にとっても、もしかしたら。

 この、最後の夜が明けるまでの一時は。




◇ ◆ ◇ ◆






『刹那か』
「……士郎さん」

 その着信に気づけたのはラッキーだったのだろう。
 その時の刹那の精神状態から考えると、とてもじゃないが電話の着信に気づく余裕などなかったのだから。
 ちょっとした間。体力の限界から思考が冷めていき、感情から闇雲に飛び回るのではなく宛てを探すようになる転換点に。
 その電話は、かかってきた。

「お嬢様は、」
『木乃香を……主を大切に想うのならば、刹那。アルトリアに一人で来い。誰にも知らせず、誰にも悟られないようにな』

 言うだけ言って、士郎は通話を切った。一方的な最後通牒。
 だが解せない事もある。
 何故アルトリアなのか。しかも、携帯電話などという、機械的にさえ盗聴が可能な手段を使って、だ。

 前者は、確かに灯台下暗し、意表をついた選択ではあるだろう。
 学園地下に張り巡らされた水路なんて刹那には分からないし、本当に刹那を呼び込む意図があるならば適さないという理由もある。
 ただ、これが罠だった場合が深刻だ。
 公共の電波を使う携帯電話で、あえて盗聴させる事が目的なのだとしたら。
 ホイホイと釣られて来た魔法先生たちを一網打尽にする事は、不可能ではないだろう。

 士郎自身、傷ついているはずだとしても。罠に本人は必要ない。
 むしろ、士郎自身が痛手を受けたからこそ木乃香を攫ったのだと考えるならば、罠である可能性が高い。
 ……いや。罠だとしか考えられない程、条件が揃っている。
 普通に頭を働かせたらなら、その答えに行き着く。

 だが、だからこそ。衛宮士郎に対する調査レポート。その存在が、魔法先生たちの二の足を踏ませる。
 こんな簡単な解答でいいのか。罠に偽装されているだけで、これは最初で最後のチャンスなのではないか。
 迷い、惑うからこそ行動には結びつかない。
 結局は、士郎にやられ、低下した戦力をこれ以上低下させては最後の防衛線さえ張れなくなる。
 そんな逃げ道で可能性を塞いでしまう。

 しかしそんな事は刹那には関係ない。
 そこが罠であろうと、死地であろうと、木乃香が捉えられている以上、刹那はどんな卑怯にも対さなければならない。
 それが存在理由だ。故に、刹那は迷う事はなかった。

 いや、それでも。こんなにも決定的に敵対されてしまったのにも関わらず、刹那は士郎の事を信じていた。
 それが例え利用する為であったとしても――――決して、士郎が木乃香を傷つける事はない。
 だから、こんなにも急いでいるのはただ木乃香を早く迎えに行きたいからであって。
 肌で感じてしまう嫌な予感を振り払うためのものでは、ない。

「明かりは……ないか」

 少し息を切らし、刹那はアルトリアの室内を伺う。
 特に変化は見られなかった。いや、最近刹那はアルトリアを訪れることもなかったから、細かな変化は感じる。
 しかし、人の気配が感じられない。
 少なくとも店側、窓から覗ける範囲には誰もいない。鍵も閉まっていた。

 刹那は裏口に周り、ノックを4回。タン、タタン、タンと。
 まるで予め取り決めでもあったように鳴らした。勿論そんな事実はなかったが、念の為である。
 もしも刹那が遠見の魔法なりで監視されていた場合、この場に魔法先生たちが乗り込んでくる可能性がある。
 そしてその時、木乃香の安全が保証されるかは微妙だ。
 どれだけ士郎の事を信じていても、魔法先生たちが人質を傷つけるような選択をしないと分かっていても。
 刹那が士郎と内通している。先程のあれはただの演技で、だからこそ士郎は刹那に決定打を与えなかった。
 そう、邪推されるように。

 けれど、返事はない。だがそれが逆に、刹那に行動を促した。
 少なくとも、これが何らかの罠である可能性は大幅に減った。
 罠にかけようとするのなら、誘い込もうとする意志が存在するはずだからだ。
 それに、そもそも。士郎ならば、多少傷ついていても同じようにボロボロな刹那を打倒するのは難しくない。
 故に刹那が警戒している罠とは、士郎は設置したものではなく……。

「超の罠もない、ようだな……」

 超鈴音のもの。電話越しの声ぐらい、彼女なら簡単に合成出来るだろう。
 刹那は機械は苦手だが、それくらいの事は分かる。
 魔法に科学で対抗しているのだ。それはつまり、“魔法のような科学”である事を示す。
 出来る出来ないの判断は、そもそも付けない事にしていた。

 ギシッと床の軋む音がする。この辺りのプライベートスペースに、刹那は足を踏み入れた事はない。
 それは、刹那が個人としての士郎を訪れた事がないからだ。
 裏の世界の住人に対して。時折は、喫茶店のマスターに対して。
 そこにどんな感情があったのだとしても、その関係性に変わりはない。
 知らない間取りに、今更ながら刹那はそんな事を寂しく思う。
 アルトリアでバイトしている明日菜も、時折手伝っていた木乃香も、この辺りぐらいまでなら入った事があったろうに。

「おい、刹那」
「しろ……」

 呼ばれ、声のした方に向き直ると同時に刹那は口を噤む。

「だから言っただろう。主人を想うならば、とな」

 木乃香が眠っていた。士郎の胸の中で。
 その体勢は、恋人同士の睦言、といった連想をさせる。
 思わず刹那の思考は停止した。

「泣き疲れて眠ってしまってね。どうにも、起こすのが可哀想だった」

 嘘だ――というのは、何となく分かった。
 だいたい、そうだと言うのなら刹那を呼んだって解決になんかならない。
 ただ、近づいて見えた、暗がりに浮かぶ涙は……確かに、胸を締め付けるものがある。

 月明かりが、今は逆に忌々しかった。
 嫉妬すればいいのか。したいのか。そしてその対象は誰?

「……目的を。私を呼んだ、目的を教えて下さい」

 そして、また刹那は逃げた。それだけ言うのが精一杯だった事も、ある。

「さて。何故だろうな」
「士郎さん……!」
「待て。木乃香を引き取って貰いたいというのは嘘じゃない。俺は麻帆良に敵対した。その意味は分かるだろう?」

 分からないはずがない。
 近衛木乃香は、学園長の孫なのだ。
 それが学園を裏切り士郎と一緒に居るというのはいかにも体裁が悪い。
 木乃香だけではなく、刹那だけではなく。
 西の実家にも問題は波及するかもしれないし、そうでなくとも悪い刹那の立場など簡単に吹き飛ぶだろう。

 部外者であり、あくまで余所者でしかない士郎だからこそ、裏切りという選択肢はあり得る。
 だが木乃香にしろ刹那にしろ、そんなリスクを抱えて良いことなど何もない。
 例え、欲しいものが学園の外にあるのだとしても。
 どうせ、あと数年もすれば巣立ちの時は来るのだから。

「ただ……」
「ただ?」

 これはリスクだ。ただ、どうとでも乗り越えられる程度の。
 もしかしたら傷になるかもしれない今。
 こんな時間などなければ良かったと後々後悔するかもしれない、そんな選択。

「あんな別れ方では少々寂しいと思っただけだ」
「ふぇっ?」

 ぶっきらぼうに言い放つ。そこに、若干の照れのようなものを感じて、刹那は一瞬で舞い上がった。
 まぁ。それも仕方ない。
 信じてここまで来て良かったという気持ちと。
 別れそのものについてはともかく、あんな最悪の印象であった事を惜しんでくれた事に対する喜び。

 この、何よりも他人を気遣う男が、“迷惑がかかるかもしれないのに”呼んでくれた理由が。
 寂しい、なんて、そんな。俗っぽい理由だったからこそ、刹那は嬉しくなる。
 
「刹那には世話になっていたからな。せめて謝罪だけでもしておきたかった」

 謝罪を望むという事は。それは、嫌われたくないという事の裏返しだ。
 それが単なる自己満足の、自己防衛の成れの果てなのだとしても、刹那は嬉しかった。
 士郎がそう思ってくれた事にも、そしてこの機会を得られた事にも。
 おあつらえ向きに、木乃香も眠っている。
 言いたい事を言うのなら、今だと思った。
 修学旅行から今まで。ずっと悩んで、貯め続けたものが、舞い上がった精神で爆発した。

「な、ならっ。私も、士郎さんに謝りたい事があります」
「謝りたい事?」
「はい」

 刹那の謝りたい事、とは修学旅行のこと。
 士郎が失ってしまった記憶の中で、場合によっては致命的な隙になったかもしれない一つの契約を、意図的に隠していた事。

「これです」

 仮契約。パートナーの証。
 ……だったもの、だ。
 士郎が京都から帰還する時、念のためと使用した契約破りで破戒されたキズナ。

 契約とは即ち繋がりである。上位かつ専門的な術者であれば、その繋がりを辿り相手の情報を読み取る事も可能だ。
 高音のアレはまた特殊かつ限定的な事例だが、それでもそれが致命的な傷跡になる可能性はあった。
 悪用すれば、いくらでも害を成せる。
 その存在を、気恥ずかしさが理由とは言え隠し続けていた事は、立派な背信行為だ。
 少なくとも刹那はそう感じていた。
 一度ついた嘘を隠すための嘘をついてしまうように、一度隠してしまった事はなかなか打ち明け難いものだ。

 その後悔は今までずっと刹那を苛んでいた。
 嫌われるのではないか。怒られるのではないか。
 最悪の想像として。見切りをつけられ、失望されるのではないか。

 でも、まぁ。

「おいおい刹那。それは何の冗談なんだ?」
「冗談、って……」
「そうだろう? 謝るべきは私の方だろうさ。そんな大切なものを忘れてしまっていたのなら」
「でも、それは敵の攻撃で」
「そこも含めてな。そんな無様を晒した事こそが、そもそも謝らねばならない。いや、謝罪は済んでいたかな?」
「いえ、えと」


 意外な反応。だけど、刹那にとっては望外の反応でもある。
 舞い上がったまま落ちてこないくらいには。
 ドクドクと。ドキドキなんて擬音が霞むくらい、病的なまでに心臓が波打っている。

「な、ならっ」

 過呼吸気味で。とてもじゃないが締まらない。
 恥ずかしくも声は上ずっていて、きっと思い出す度赤面するような惨状だったけれど。

「ま、また! 私を、パートナーにしてくれますか……?」

 ピクリと。士郎の意識が、視線が、刹那に映る。
 木乃香を起こさないようにと、刹那と会話しながらもどこか木乃香を意識していた部分が完全に。

 一応は、告白だった。その意味が、ちゃんと告白として士郎に伝わった。
 仮契約を行うにはキスをする。他にも方法があるにはあっても、キスより余程進んだ事をするわけで。
 つまりは。刹那の言はまたキスをしたいという願いとイコールであり。
 その消え入りそうな態度を見れば、流石の士郎も気づく。
 何より。この夜、この告白をされるのは、士郎にとって二回目だったのだから。

「刹那」

 呼ばれて、刹那はビクンと反応する。
 その反応に、士郎も続ける言葉を失った。

 この夜、一度やらかしている記憶があるせいで……その反省が、士郎を留める。
 結果は変わらないだろう。好意では衛宮士郎は止まらない。
 その程度で止められるのなら、今ここに衛宮士郎は存在しない。
 けれど、その別れ方を考えさせる程度には、この寄り道は士郎を変えていた。
 アキラにしても刹那にしても。麻帆良で過ごした寄り道の中で、多く関わった事に変わりない。
 
 何が誠実か、など。意味のない思索でしかない。
 たった一つに応えられない以上、どんな言葉も空虚だ。
 しかし答える事なく消えるのは違う。違うと思ったから。

「それはきっとお前の為にならない。そして俺にも足枷となるだろう。お前を一人前の剣士と認めた上で、俺にはお前が必要ない」

 不思議とショックは少なかった。ああ、やっぱりか、と。
 そんな諦観が鉛のように沈んでいく。淀み、沈み、固まる。
 だから痛くはなかった。辛かったのかは、分からない。
 ただ、苦しい。苦しかった。何が、という事さえ分からない程に、まだ刹那は幼かった。

「だが……」

 自嘲的な色が、士郎の声に交じる。
 キッパリと切り捨てられない一欠片の弱さ。
 遠い過去に忘れてしまったそんな青臭さが、滲むように浮かび上がる。

「そう想われたのは、嬉しかったと思う。ありがとう」

 一瞬だけ、刹那は呆然とその言葉を噛み締める。
 いっそ幼く見えるくらい、士郎の笑顔は透き通っていた。
 もしかしたら。これが初めてかもしれない。
 刹那が、士郎の笑顔を見るのは。
 否、もしかしたら。
 士郎が純粋に笑みを見せる事そのものが、初めてだったかもしれない。
 
「あ、う……」

 刹那は照れた。もう盛大に。
 告白する事よりも、その微笑みを見ている事の方が気恥ずかしかったのだ。
 ただ、その結果として士郎の胸に飛び込んだのは、もう色々と暴走したとしか言い様がなかったけれど。

「お、おい」

 焦ったような士郎の声。
 それは果たして、今の密着具合によるものなのか。単に木乃香が起きてしまう事を恐れたのか。

「私、諦めませんから」
「なに?」

 大きな胸板に顔を押し付けて、眠っている木乃香に覆いかぶさるような体勢で、刹那は言った。

「その先に、私のシアワセなんてないかもしれない。お嬢様に、迷惑をかけるだけかもしれない。
 ――でも。お嬢様には迷惑をかけられなくても、このちゃんにならいい。このちゃんとなら、辛さを分け合えるから。
 私はアナタを追いかけていたい。このちゃんも、向きは違えども同じような想いを抱いているはずです。
 だから」

 やりたいようにやる。
 願うままに、祈るままに。
 相手の意志なんて関係ないのだ。嫌なら嫌だと逃げ回ればいい。
 今は届かないだろう。捕まえられないだろう。
 けど、いつか。捕まえて、縛り上げて、逃さない。
 
「だから、今は。別れの言葉なんて、嫌です……」

 いつか必ず追いつくのだから。別れなんて、その後でいい。
 それが何年先の事でも。
 再会する時は敵同士かもしれないけれど。
 それでも今は、さよならが嫌だった。

「やれやれ、恐ろしいな」

 ゆっくりと、刹那の瞼が重くなる。
 元々満身創痍だった。今の今まで動き続けられただけでも見上げた根性だろう。
 ただ、できればあともう少しだけ。

「そうだな。それなら俺は……」

 もう少しだけ頑張れば、彼が何を言い残したのか。
 ぽんっと添えられた手の感触と、刹那に託されたモノの意味を。
 最後まで覚えていられただろうに。





◇ ◆ ◇ ◆






「ていっ」
「あたっ」

 デコピン一発。幸せ過ぎた微睡みは、軽い痛みで終わる。

「このちゃん……」

 犯人は木乃香。そこには別段驚く事もなく、刹那は部屋の中を見回した。

「士郎さんならもう出たえ」
「そう、ですか……」

 そんな気はしていた。目が覚めたらもういないのだろうな、とは。
 ただ、あれが夢ではなく現実であると刹那は確信している。

「お嬢様……そのニヤニヤやめてもらえませんか」

 それは、木乃香が嫌になるくらいイイ笑顔だったからだ。
 聞かずとも分かる。
 つまりは先程の恥ずかしい一連の告白を、全部聞かれていたという事だろう。
 狸寝入りが上手すぎる。というか何故気づかなかった。
 怪我とか体力とか色々理由はあれど、やはり一番大きい理由はつまり舞い上がっていたからという結論に至り、赤面する余裕もない刹那である。

「で。いつから見ていたんですか?」
「んー? ううん。別にウチは何も聞いとらんし、何も見とらんよ」
「そんなバレバレの嘘やめてください」
「ホンマやって。ウチが起きた時にはもう士郎さん居らんかったし」
「はぁ。そうですか」

 まぁ、狸寝入りだったにしろ、本当に寝ていたにしろ、そのニヤニヤ顔に腹が立つのは変わらない。
 それはもう、一瞬主人であるとか忘れそうになるくらいだった。

「お別れ、できたん?」
「いいえ。でも、必要な事は」
「そっか。うん、良かった」

 その時木乃香が見せた笑顔は、惚れ惚れするぐらいに邪気がなかった。
 だから、刹那も息が詰まる。気恥ずかしさなど忘れてしまった。

 まずは。この笑顔を守る事が、刹那の使命である。
 それさえ果たせず士郎を追えるものか。大切なものは全て拾い上げて、その上で捕まえて見せる。
 それが覚悟。桜咲刹那の生き方だと、ハッキリ認識した。
 今夜は、それを決めた記念すべき日、になるのかもしれない。

「なぁ、せっちゃん。ウチも士郎さんのこと好きやー言ったら、どうする?」
「どうにも」
「身を引いたりせーへんの?」
「それで、このちゃんは喜ぶん?」

 くすりと二人は笑みを零す。きっと二人とも、似たような心情なんだと共感し合った。

「ライバルやね」
「うん」

 木乃香は今まで、一歩引いていた。
 刹那が常に木乃香を立てようとするから、だからこそ木乃香は強く出れない。
 強みは心が弱みに変える。弱さをズルイと感じてしまう事も、また。
 立場の違い。生まれの違い。才能の、性格の、違いなど挙げればキリがなくて。
 でも木乃香にとって一番欲しかったものは、対等な友情だった。
 お姫様扱いされたいわけじゃなくて。主従という形の前に、お互いが一人の人間として対等でありたかった。

 その目的は今日、果たされたと言えるだろう。
 あの武闘会で果たされた刹那の決心ではまだ足りない。
 刹那自身が願いを持って、それを木乃香にも譲れないと欲してくれない限りは、木乃香もそれに手を伸ばせなかった。
 対等に、なれなかった。

 まぁ、それでも木乃香と刹那の関係に大きな変化はないだろう。
 これからも木乃香は刹那の主だろうし、刹那は木乃香の従者として生きていく。
 ただ、それは役割に過ぎない。
 主従があっても、立場が違っても、生まれが違っても、才能が違っても。
 二人は、親友なのだから。

「……行こう。このちゃん」

 安心感からか。嬉しかったからか。
 木乃香の涙の痕が残る顔にもう一筋、雫が伝う。

 刹那はそれに気づき、けれど何も言わなかった。
 その理由は刹那に察せるものではなかったし、精一杯空気を読んだ結果でもある。
 木乃香はそんな刹那に気づき、まだまだだと笑った。
 刹那も、木乃香自身も、まだまだだと。

「あーあ」

 もうじき夜も明ける。
 正直まだまだ寝足りない、疲れ果てた一日だった。
 裏口から森を抜け、少し開けた道に出ると、朝焼けに染まった空が見える。
 明けの明星が、うっすらと輝いていた。

「ねぇ、このちゃん」
「なぁん?」
「明日は……星が見えるかな」
「晴れるよ。きっと。次に会う時も……なっ」

 希望を篭めて、木乃香は笑った。






◇ ◆ ◇ ◆





 その夜の後、衛宮士郎は忽然と姿を消した。
 学園祭、超の計画に参加する事もなく。
 『別の世界の記憶がある』なんて、眉唾な話を信じた刹那たちは無駄足を踏んだ。
 まぁ、信じなかったからと言って結果が変わっていたわけではないだろうけれど。

 ともあれ。
 時間は過ぎる。士郎が居ない麻帆良にも、すぐに慣れてしまう。
 だってそうだろう。元々、衛宮士郎という男が麻帆良に滞在していたのは、それ程長い時間じゃない。
 半分程の時間を、士郎は意識さえなく病室のベッドで過ごしている。
 そして、タカミチの代わりに仕事に出る事も多かった士郎は、それなりに多忙だ。
 刹那は確かに別荘での修行で、それなりに長い時間を共に過ごしている。
 でも、それだけ。

 どんなに強い感情でも、時間は洗い流して行く。
 それを保ち続けられるとしたら、それはもう壊れているということだ。
 だから、どんな思いの丈であっても風化する。
 ましてやそれが、短い時間、束の間に焼き付いた印象なら尚の事。

 顔も。声も。姿も。
 初めて見た笑顔も。共に剣を握った時間も。その背に守られた一夜も。
 どれもこれも、形がない、朧げなものだ。

 だから。だから、その想いを保ち続けたいのなら、形がいる。
 彼女たちは弱い。まだ幼い。子供だったのだ。
 どんなに力が強くて、どんなに才能があって、どんなに運が良くても。
 子供であるという事は変わらないから……それは、明確である必要があった。

 その切っ掛けは、一通の手紙。
 手紙というにはあまりに短い。走り書きのメモと言った方が近いだろう。
 こんなものを貰って嬉しい女の子なんていやしないし、そして例外なく刹那も怒った。
 


『白き翼へ かつての謝罪と、今までの礼を篭めて贈る。エヴァンジェリンから受け取って欲しい。 』



 とは言え、その内容に対して怒ったわけじゃないという辺り、やはり刹那は刹那だったのだけれど。









刹那「もうっ! 何でエヴァンジェリンさんなんかに預けるんですか!」
(拍手)
 
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お詫び

とにかくもう謝る事しか出来ませんが。
次回、「雷切/白天」お楽しみに。

2011.11.11 | URL | 作者 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

お疲れ様です。

更新お疲れ様です。
何度読んでもおもしろいのがこの小説です。

大変だとは思いますが、無理はなさらず、次回を執筆してください。
楽しみにしています!

2011.11.12 | URL | パロ #R2QvZy2g [ 編集 ]

ようやくここまで来ましたか
感慨深いものがありますね

次回は一月以内に読みたいなー(チラッ

2011.11.13 | URL | とろみ #- [ 編集 ]

更新お疲れ様でした!!
毎回読んでいて感動させられます。
次回も無理しないで執筆してくださいね!!
・・・実はあなたに憧れて自分もSS書き始めました(ボソッ

2011.11.13 | URL | りゅーしん #wgQcaDnY [ 編集 ]


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