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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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英雄は彼方へ消える A4


「もう戻れない日常」



 魔術回路。それは後天的に得る事の出来ないものだ。
 しかしそれでも尚、後天的に得ようとするのなら。その代償は如何ほどのものか。

 実質的な生まれ変わり。一度死んで蘇生する程の狭間を抜けて。
 死に瀕して魔と同化し、尚個を失わず帰還する。
 それだけの奇跡を経てようやく、凡百に並ぶ程度の力しか得られない。

 だから、大河内アキラのそれはズルだ。
 それが聖杯であるとは言え。それが世界の認めた奇跡の果てにあるとは言え。
 それだけの奇跡の代償には、何を求められるのか。それを知らず、ただ契約したのは愚かだったろう。

『今アキラに存在する魔術回路は、アキラの肉体を私の延長線上であると拡大解釈した結果よ。
 私の魔術回路で侵食した。命の共有みたいなもの。私が折れればアキラに移植された魔術回路は暴走して命を奪う。
 タカミチが言っていた事は正解よ。アキラはまず何よりも優先して、体内の魔術回路を御する方法を得る必要がある。
 でもね、例えアキラの身体に在るとしても、その魔術回路はあくまで私のものなの。聖杯に最適化された魔術回路は常人には扱えない。
 だから、魔術回路をアキラ自身のものとして、上書きする必要があるわ』
『上書きするって……具体的にはどうすればいいの?』
『さぁ?』
「いや、さぁって」

 無責任な話である。アキラも思わず声で返してしまった。

『私にとっては産まれた時から当たり前の事だったからね。制御方法なんて意識するまでもない。
 それに、魔術回路を運用するイメージは個々人の特性に左右されるわ。アキラの精神性において、何が合致するかまでは私も解析できないし……。
 だから、アキラが自分の力で得るしかない。それが出来なければ死ぬだけよ』
『死ぬ……』

 アキラにとっては実感が湧かない言葉だった。イメージできない。
 けれど漠然とした不安はあった。恐怖は。身近に感じた事がないなりに、恐ろしいとは思っている。
 そう。エヴァンジェリンに襲われたあの時も、怖いとは感じていても死の危険までは想像出来ていなかった。
 思っていても、考えていても、理解しようとしていても。
 それでも、どうしようもなく甘かった。
 エヴァンジェリンに襲われた時のように、士郎が助けに来てくれる事などもうないのだと。
 そんな簡単な事を、まだ体感出来ていなかったのだ。

『脅すだけ脅したけど、別に挑む必要はないわ。勿論クリアするにこした事はない条件だけど、無理をする必要はない。
 私の力が必要な状況では、私がアキラの肉体を使って事を成せばいい。
 士郎を助けるだけならそれで十分だわ。その後の、アキラの人生がどうなるかなんて知らないけど』

 今、アキラに存在している魔術回路は、常時イリヤが制御している。
 そして士郎を助ける事が叶えば、当然のようにイリヤは士郎に返却される。
 その時、己のものではない器官が存在するアキラが生き残れるかどうかは、今試すよりも危険なのは確実だった。

 今ならまだ、最後の一線を踏み越える前にイリヤが強制的に制御を奪い取れば死ぬ事はない。
 保険がある。しかしイリヤを失ってしまったら、その保険はもう二度と使えない。
 一発勝負で、何の意味もなくただ自分の命を懸ける事になる。

 イリヤの利を追求するのなら、こんな事は伝えずアキラの肉体を操るだけに留めればいい。
 それで全て解決する。士郎を助けたら後はポイ。それで目的は達成されるだろう。
 実に魔術師らしい考え方だろう。今イリヤがやっている事は、単なる甘さでしかない。
 それでもその甘さを切り捨てる事は、選択肢にさえ挙がっていなかった。
 魔術師殺し・衛宮士郎と旅してきたイリヤなのだから。今ではもう、そういう甘さにも心地良ささえ感じていた。

『どうする? 私を扱う為の訓練を省いて、身体能力向上とある程度の戦闘経験獲得を目的とした方が、目的の成功率は上がるかもしれない』
『なら、私は……』
『ああでも、自分の身がどうなってもいい、なんて気持ちで近道を選ぶのは止めなさい。
 ねぇ、例えば士郎がアキラを助けてくれて、それが原因で士郎が死んでしまったら。助けてもらえないよりも、ずっと苦しいでしょう?』

 それは考えうる限り最悪の結末だ。
 ただ、それは逆に。別の世界で、アキラが士郎にした事でもある。
 死ぬよりも尚、残酷な方法で。

『なら、どうしろって言うの?』
『それはアキラが考える事よ。でも、確かに判断するには情報が足りないかもしれない。アキラは自分の事をもっと良く知るべきね』

 今、アキラが置かれている現状。
 そして元からあった資質。可能性。
 正しい判断を下す為には情報は必要不可欠なものだ。

『それに、私もアキラの事を知っておきたいわね。特に、士郎と契約した事で得たアーティファクト、とか』
『うーん……見せた方が早いか』

 来たれ、という短い呪文でアーティファクトが召喚される。
 そこにあるのは水だった。水。魔法のアイテムなんかじゃなく、何の変哲もない水が、宙に浮かんでいた。
 そう、浮いている。いかなる作用か、アーティファクトとしての特性はそれだけなのだろう。
 物理現象を無視して自由に動かせる。ただ、それだけ。

『“万能の水<アクアラ>”、ね。やはり……』
『やっぱり?』
『ううん。ただ、やっぱりアキラの起源はかなり水に近しいモノなんだって確信しただけよ』
『水って?』
『水は水よ。ゲームなんかでも属性としてあるでしょう? 西洋における四大属性、東洋における五行。
 どちらにも存在する世界最大の構成要素よ。そしてアキラは完全に水属性。
 仮に魔術、魔法が使えるとしても水属性の魔法しか使えないだろうってくらいに特化してるわ。
 士郎の“剣”ほど特殊じゃない割に、親和性が高すぎる。これは異常よ』
『何か困るの? それって』
『そうねぇ……状況次第だけど、基本的に親和性が高いだけなら問題はないわ。
 そのアーティファクトだって、上達すればもっと色々出来ると思うしね。水って、元々汎用性は高いのよ』

 水とは万物の基礎となるものだ。
 流れ続け、一時たりとも同じ形を許容しない。不定形であり、清濁全てを受け入れる。
 逆に言えば染まりやすく、属性としては扱いにくい部類に入るのは確かだ。

 マキリの魔術がそうであるように、水という属性は汎用性こそあるものの直接的に世界に訴えかける事が難しい。
 水系統の魔術はまず、媒介を必要とする場合が多いのだ。
 水そのものに働きかけたところで、それだけでは意味を持たない。
 例えばこれが火や風ならば意味がなくもないのだが、水は現象として固定された概念ではないのだ。
 あくまで物質である。だがだからこそ、アキラのアーティファクトは意味を持つのだ。

 水の属性を持つ者が、世界に対し何らかの干渉を行おうとする場合、まず水を生成する必要がある。
 或いは、既に存在する水に対して己の親和性を高めるか、水を己の“色”に染める。
 その準備段階を経ても、出来る事と言ったら水の汎用性を活かした操作しかない。
 硬度、純度、密度、温度、形態、体積。様々な特性、パラメータを弄り変質させ、強化や変化の魔術を使ってようやく使えるレベルに到達する。

 その面倒な工程を、このアーティファクトは代用しているに過ぎない。
 大河内アキラというパーソナルに最適化された媒体としての水だ。
 魔術師にとっては大いに有用なものだが、しかしアキラにとってはそうでもないだろう。
 ただ動かせるという特性が付与されているにしろ、それだけでは力足りえない。修練は必要だった。

 しかしそれでも攻撃や防御に使えるものではない。水に特化した魔術師であろうとも、別の方法を模索した方が手っ取り早いくらいだ。
 だが、その不利を覆してしまいかねない程に、アキラの親和性は高い。
 それはこのアーティファクトも証明している。アーティファクトとは本人の才能、生まれ、在り方などが顕著に現れるからだ。
 その格はマスター側の契約者に依存する部分も大きいため、士郎相手の仮契約では大した物は出ないだろうに、だ。

「でも、即戦力にはならないよね」
『それでいいのよ。分を超えた力は、人を変える。そしてやがて己を滅ぼすの。それが己に由来しない力なら尚の事ね』

 アーティファクトは確かに便利だ。
 だが、簡単に手に入り過ぎる。対価もないに等しい。けれど便利に使えるのだ。
 或いは、あらゆる逆境をそれ一つで乗り越えてしまえる程に。

 だからこそ。それを己の力だと勘違いしてはならない。
 力があるからと言って、自分自身が強くなったと錯覚されては困る。
 また、力を使う方が楽だと考えるようになるのも困りものだ。
 特に今回の目的は士郎の救出。いいや、アキラの役目はイリヤを士郎の元へ届けるだけ。
 ならば、必要なのは戦う力ではなく逃げる手段だ。そもそも見つからない事が前提となる。
 戦った方が楽だ、なんて英雄的思考は邪魔でしかなかった。

「イリヤは……私に力をつけて欲しいの? それとも、」
『別に、どっちだっていいわ。それは私の本心。確かに力と、それを制御する心も成長する余裕があるならいいけどね。
 それは博打だわ。なら、せめて士郎が望む方でもいいかなとは思うわよ。
 幸いアーティファクトならリスクゼロなんだし、アクアラはこのままじゃ使いものにならない。
 極める頃にはちゃんと心構えも出来てるでしょう』

 使えるレベルになるだけの努力があるならば、それは真実己の力だ。
 アクアラは確かにアキラにとって便利な代物ではあるが、魔法や魔術で代用できるものに過ぎない。
 アーティファクトがなくなったとしても、手順さえ踏めば似たようなものが精製できるようになるだろう。
 尤も、その為にはイリヤを失った後も魔術回路を使用できるように、自分で制御出来るようになる必要がある。
 魔術回路を持つ者は、この世界の魔法システムからは弾かれてしまうからだ。

「少し……考えさせてくれないかな」
『分かったわ。私はしばらく眠るから、必要になったら私の名前を強く念じなさい』








 ……考える。無い知恵は絞れないから、自分がどうしたいのか、それだけを。
 考えて、考えて、様々な可能性を、思いつくだけ考えて。
 アキラは確信した。それが最善だと。
 元より、答えが変わるわけもないのだ。
 正直な話、色々な情報を一度に与えられたせいでアキラは混乱していた。

 士郎の意志を優先させるなら、アキラは無理して力をつけるべきじゃない。
 あくまで日常に帰れるレベルで。世間に溶け込めるレベルの。軸を、日常に置いた感覚を残すべきだ。
 それで目的が達成できるのかは疑問が残るが、イリヤが大丈夫だと言う以上は大丈夫なのだろう。
 イリヤがアキラの身体を操る事で解決するのなら、アキラとしても身体ぐらい貸してあげる程度の覚悟はある。

 しかし、それでは将来アキラの身に爆弾を潜ませる事になるのだ。
 何かしら突発的に、心と身体のリミッターを外してしまった時。足りない分を、アキラの肉体は魔術回路を使用する事で補うだろう。
 その結果、その場は何とかなっても魔術回路を閉じる事が出来なければ数時間後には死亡だ。
 そもそもそのリスクを取り除けないのなら、結局は同じ事。

 メリットとデメリット。
 なら、アキラにとって何が大事なのか。その優先順位を決めただけの話。
 日が落ちるまでの長い時間を、プールに浮かび空を見ながら考えた結果。
 
「イリヤ」

 敢えて声に出した。決意が鈍らないように。

『合格、かしらね』
「合格?」
『そ。長すぎず短すぎず。ちゃんと考えてる』
「ううん。正直、あんまり考えてはいないよ。でも、こうするべきだとは思うんだ」

 その先に何があるのか、具体的なイメージはない。
 けれど、これが最善だという予感だけはある。

『……そう。なら、アキラは、』
「うん。イリヤを、使いこなしてみせる」
『なら、今すぐに。覚悟を決めなさい』

 直後。アキラの身体は、アキラのモノではなかった。それはほんの一瞬の事だったろう。
 アキラの意志から切り離された肉体は、超人的な脚力で跳躍した。山をも越えんばかりの勢いで。
 その初動が既に致命的。この別荘は、高い高い塔の頂上に居住区を置いてある。当然アキラが居たのも最上階の屋外だ。
 着地点など、なかった。初動だけ与えられてすぐに身体の制御を取り戻したとしても、どうしようもない。
 空中に居る人間は無力だ。翼がないのだから。飛ぶための力などない。
 空中での挙動を実現させた者は、飛翔を可能にする存在は、人間という枠から離れる。
 現在でこそ、人は空を飛ぶ技術を手に入れた。しかしほんの百年前までは、それは人と人以外を分ける明確な境界線だったのだ。

 故に。

「――――ぁ」

 声も出ない。地面など見えない。底などない。いや、ある。底は、タイムリミットは目前に迫っている。
 死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。
 無理だった。高いところから落ちれば死ぬ。当たり前の、幼稚園児でも分かってる事。
 それを、アキラはあまりにも鮮明に確信した。
 この落下の末に待つ自分の死体。グチャグチャで、そう、トマトを落としてしまったような。
 そこまでイメージして、初めてアキラは後悔した。

 覚悟はあるつもりだった。覚悟覚悟覚悟。並べ立てた言葉なんかに意味はない。
 走馬灯でも見ているかのように、アキラの思考は加速していく。

 超に銃で撃たれた瞬間の、呆然としたような士郎の顔。
 仮契約した時の、肩に残った掌の熱。
 一緒に見たパレード。
 図書館島での落下。ああでも、あれはそんなに怖くなかった。死ぬかもなんて、欠片も意識していなかった日常。
 アルトリアに通いつめた事。
 木乃香とブッキングして、張り合うように仕事を手伝った事。
 修学旅行で感じた胸騒ぎ。
 渡されたアクセサリー。
 そして。

『ああ、俺は――魔法使いなんだ』

 多分、最初で最後の、俺っていう一人称。
 本当の意味で、アキラが士郎と出会った瞬間。

 ああ、本当にバカみたいだ、と。
 アキラは目前に迫る地面を視界に入れつつ思う。
 覚悟だとか、意識だとか。甘さだとか、そんなもの。考えるものじゃないし、口に出すものじゃない。
 結果が全て。
 今この場でアキラが死んだら、そこで終わり。もう先はない。
 痛くて苦しくて、もう会えない。たったそれだけの、シンプルな答えだ。
 なら。何が大事なのか、選びたいものはなんなのか。それさえ確信出来ていれば、いい。

「聖杯よ<イリヤっ>!」

 加速する。そこで、アキラの意識は固まらなかった。
 あらゆる可能性に思考は流れる。決意などない。水は定まった形を持たず、ころころと姿を変える。
 けれど、流れ着く先は決まっている。それが、アキラの在り方だった。

 そうして、己の中の最適を探し続ける。無形故に、今現在求められている形に、彼女は成れる。
 過去、己に埋没している可能性を。
 未来、己に現れる可能性を。
 探して探して掘り起こして、遂に一つの蛇口に辿りつく。

 心の奥底。海みたいに深い底の底に、それはある。

 スイッチだ。自己を変革する為の。
 迷わず捻れば、力が湧き出てくる、魔法の泉。
 回す。回して回して、やがて手を離しても回り続けるようになる。

 なんて事はない。それは蛇口などではなく――。

「願いを<私を>――」

 水車、だった。
 泉から湧き出るのは水じゃない。
 今、ここに居る海が。今まで安穏と過ごしてきたこの日常こそが。
 アキラにとって最もシアワセな水の中。これこそが力の源であり、魔力だった。
 水車から流れていく。命が、心が、日常が。
 崩壊していく世界を対価に、水車は回る。周り続けてエネルギーを生む。

「叶え給え<浮かせて>――――!」

 ドクンと鼓動が脈打つ。自分の身体の外に、もう一つ心臓が出来たみたいだった。
 世界が震え、意識が広く薄くなる。大河内アキラという精神が無理やり拡大され、空いた隙間に異物が詰め込まれていく。
 そして、再び圧縮。

「ァ、■■■■、――――ィァ――――――!」

 喉から漏れるのは、もう声じゃない。叫びではなく、システムが起動する音のようだった。
 まさしく、生まれ変わる感覚をアキラは経験する。
 自分の存在を知覚できない程に細分化され、再構成された。
 イリヤと契約した時に感じた、肉体の変革ではない。これは、精神の変革だ。
 魔術回路は既に在る。故に、必要なのはそれを操る魔性なのだから。

「――――――ぁ。…………痛い、ね」

 不意に自分を取り戻し、アキラはそう呟いた。どこが痛いのかも分からないというのに。
 水が氷に変化してしまったような瞳で世界を見つめる。
 そして、現状を認識した。その変革の対価に、得た結果を。

 アキラが願った浮遊を、イリヤは重力を軽減した後反転させるという方法で実現させた。
 いや、アキラが実現させたと言うべきか。
 その具体的な方法は、アキラもイリヤも指定していない。
 迫る死、つまりは恐怖の源。それを排除する為に、与えられた魔力の中で最適解を実現する。
 もしもアキラがイリヤに与える魔力が少な過ぎたら、今頃はアキラがイメージした通りの姿になっていただろう。

 とは言え、別にイリヤだってアキラという契約者を簡単に失うわけにはいかなかった。少なくとも、士郎を救出するまでは。
 だから、いざとなればアキラの身体の制御権を乗っ取るつもりだった。
 そして先程の状況は、そのいざという状況でもあったのだ。
 だから、何度かやっているように強引に、アキラの肉体を支配しようとした。

 だが、それは失敗したのだ。その寸前で、アキラから流れた大量の魔力がイリヤの意識を塗り潰した。
 イリヤには確かに意識がある。魂がある。だが、それだけだ。
 その肉体は剣であり、それは聖杯としての機能が発現しただけのもの。
 例えイリヤがアキラの肉体を操れるとしても、アキラが聖杯に願うのなら、イリヤスフィールという機能はそちらを優先させてしまう。
 優位はアキラにある。アキラが主で、あくまでイリヤは使われる側だ。

「はぁ、何だか疲れたな……」

 ふっと火が消えるように、アキラは膝をつく。
 上昇が終わり、無事塔の最上部まで登った上での事だから良かったが、上昇中に気を失ってしまっては危ないところだった。
 未だイリヤはアキラに“使われて”いたから、アキラの肉体の制御権は奪えないのだから。
 カランとその手からイリヤが転がり落ちる。けれど、イリヤはアキラの事が感じ取れていた。
 ここまで密接に繋がってしまえば、多少の距離など関係ない。
 触れずとも念話程度簡単だろうし、お互いがお互いを“使う”ことだって、条件付きで出来るだろう。

 無言のイリヤは、ひしひしと恐怖を感じていた。
 自分が塗りつぶされる感覚に。本当に、アキラと同化しつつあった先程の自分に。己の機能に。
 だから騙す。主導を握るのはイリヤでなければならない。そうでなければならない理由がある。

 そう。士郎が決して、イリヤスフィールを使わなかった理由。
 素人が使った程度なら問題ないと考えていたその問題が、早くも顕在化しようとしていた。
 
 むくりとアキラが起き上がる。
 その目は、その表情は、もうアキラのものではない。
 十五の少女では出せない貫禄と重みがあった。

「急がなきゃならないわね……」

 冷たい溜息がアキラの口から漏れる。
 そして、その夜。

 聖杯剣、今やこの世界で最も魔術の深奥に近いイリヤスフィールと。
 闇の福音、この世界で最も恐れられる魔法使いが。

 盟約を、結んだ。




◇ ◆ ◇ ◆






「ええ、そうです。衛宮士郎が受け負っていた案件は全て私が……ええ。
 いえ、大河内アキラとは別件で……エヴァンジェリンが? 分かりました。そちらも私が対応します。ええ、では失礼します」

 携帯を耳から離し、タカミチは溜息をつく。
 ようやく、士郎関係の雑事が片付くところだった。

 まぁ、それについて文句があるわけではない。いや、本人を前にすれば言いたい事は山ほどあるが、今はそれどころではなかった。
 『衛宮士郎死亡報告書』。これの存在である。

「士郎が死んだという証拠が長々と。まったく、そんなに士郎に死んでもらいたいのかね」

 表向きには、士郎は既に死亡が認定されている。わざわざ協会本部からお達しがあったのだ。
 確かに士郎は失踪していたが、あまりに唐突過ぎるその対応に、麻帆良学園の魔法先生だけでなくこの業界の大部分の人間が不審に思っている。
 きな臭い、と。カンの良い者なら気づいており、だからこそこの件はタブーになりつつあった。

 だがタカミチまでそうするわけにはいかない。
 現実には、まだ希望は残っているのだから。タカミチの手元にも、アキラの手元にも。
 衛宮士郎が投影した数々の刀剣。それが虚ろに消えず未だ残っているのなら、可能性はあった。
 勿論、士郎が死んだ後にもこれらの刀剣が現世に残るという事もあるだろう。
 死後にこそ効力を発揮する魔術も存在する。だが。

「アキラ君と士郎の契約は続いている……なら生きているはずだ。ナギさんと同じように。
 そしてもし、あの場に士郎が存在していたのなら……」

 決意を固める。
 タカミチは決断を下した。大きな分岐路。世界さえ左右する一つの選択。
 それが多くの人を救う事になると、タカミチは信じている。
 情に流されたわけではない。友情など捨てた合理的判断だ。

「アーチャー……アナタを殺してでも、俺は」

 だが。或いはその決断は、誰かの不幸を呼びこむ事になるのかもしれない。
 たった一つ、タカミチが皆に秘密にしている事。強力過ぎる逆転の一手。
 『破戒すべき全ての符』が、そこにはあった。







アキラ「ところでさ、刹那さん」
刹那「なんです?」
アキラ「その剣、イリヤとどっちが凄いのかな?」
刹那「私の白天の方が凄いです」
アキラ「む。じゃあどっちが強いか試してみようよ」
刹那「いいでしょう。私こそがメインヒロインだと証明してみせます」

イリヤ「やややややめなさいアキラ! 私は剣の形してるだけで聖杯なんだから強度は……ってあわわわわ」
(拍手)
 
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一ヶ月ぶりか……

というわけで、長さの割に長らくおまたせしてしまいましたアキラ編の4話でございます。
魔術系の話は独自設定強すぎるのでちょっとアレですが。山場は越えた感があるので、あと数話で一旦刹那sideに移るでしょう。
アキラ側は端折らないと宣言しましたが、修行描写延々続いても退屈でしょうし(書いてる私も)短く纏めて刹那と合流してから幾つかイベントを増やす事にします。早く士郎の方も書いてやりたいし……。
というわけで、次はまた来月になっちゃうかもしれませんが、のんびりとお待ち下さい。

2011.08.06 | URL | 作者 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

わたっしまーつーわ
いつまでもまーつーわ

2011.08.06 | URL | とろみ #- [ 編集 ]

久しぶりに来てまとめ読みしたら、アキラのヒロインレベルの高さに戦慄した。

刹那とアキラは果たしてどっちがメインヒロインなのか。

2011.08.09 | URL | シャコ #- [ 編集 ]

Re: タイトルなし

最近私にも分からなくなってきました。

2011.08.10 | URL | 作者 #- [ 編集 ]

そーいえば、イリヤがリライト喰らったらどーなるんだろう?
魔法世界人(人形?or幻?)ではないから大丈夫なのかな?

2011.08.10 | URL | NoName #aIcUnOeo [ 編集 ]

Re: タイトルなし

一応、独自設定的には大丈夫。イリヤが消滅するのはある条件を満たした時だけ。

2011.08.11 | URL | 作者 #- [ 編集 ]


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