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屈折領域・裏鏡


一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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英雄は彼方へ消える A3


「変わった日常」



 日常が一変するという事の意味は、士郎さんのお陰で想像出来ていたのだと思う。
 正直に言えば……拍子抜け、という言葉が一番近かった。
 まぁ、基本的に私にしか聞こえない声で喋る剣があって、それを常に手の届く距離に置いておく、というのは。
 周りから多少奇異の目で見られるとしても、そこまで騒がれることじゃないのも確かだと思う。私が常と変わらずある限り。

「アキラって、剣道でも始めたの?」
「え、うん。そんなとこ」
「ふーん。アスナも最近刹那さんに習ってるって言ってたし、流行ってるの?」
「私には剣道が流行る状況ってあんまり想像できないけど」
「それは流石に刹那さんに失礼じゃない?」

 裕奈はそう言うけど、実際のところはどうなんだろう?
 やっぱり、剣道と剣術、特に実際の戦闘がどうこうっていうのは違うと思うし。
 ……というのも、素人考えではあるんだろうけど。

『そうね。素人考えというよりは、ちょっと斜に構えたい子供の発想かな。嬉しいのは分かったから少しは落ち着いたら?』

 そんな事はない、と言いたいけれども、言い返せるだけの根拠もなかった。

『実際ね、自覚しておいた方がいい。ここ最近、私を手に入れるまでの過程において、アキラはかなり好戦的になっている。
 その原因があの夢だろうと、私からの影響であろうと変わらない。私を扱うのなら、常に冷静でなければいけないわ』

 いつもの小悪魔スマイルじゃなく、真面目な表情でイリヤスフィールは告げる。
 この、脳裏に浮かび上がる表情や風景にも大分慣れてきた。
 イリヤスフィールが言うには、これも訓練、だそうだけど。

『それと。そのイリヤスフィールって言い難くない? 一時的とは言え私の使い手なんだから、イリヤでいいよ』

 ……なんだかいきなり砕けた調子になったね?

『ま、ね。アキラが固いんだもん。こっちが譲歩しなくちゃ、面倒事が増えそうだから』

 面倒事?

『そ、例えば今みたいな』

 と、気がつけば。とっくに授業は始まっていて、どうやら出席の確認をしていたみたいで。
 いつまでも返事をしない私を、皆が何事かと注視している。

「あっ、ハイ!」
「大丈夫ですか、アキラさん。やっぱりまだ具合が悪いんじゃ……」
「大丈夫です」

 きっぱり言い切って、なんとか誤魔化す。ネギ先生は尚も心配そうな視線を向けてくるも、流石にずっとそのままというわけにもいかない。
 根負けするような形で、次に行った。

『ほら』

 教えてくれてもいいじゃないか。

『別に私はアキラの私生活がどうなろうと知った事じゃないわ。ただ、あんまり弄ると士郎が怒るから少しは協力してあげる。
 でも協力しようにも、今みたいに私にだけ意識を集中しないと意思疎通できない現状は困りものよ。
 この原因は心の距離。アキラが私に心を開こうとしないから、私を上手く扱えない。
 ま、詳しい話は後にしてあげる。あまり時間はないけれど、とりあえず放課後までは黙っていてあげるわ』

 その後、イリヤスフィール……イリヤは、本当に静かになった。
 尤も、だからと言って私が授業に集中できたかと言うと、そういうわけではなかったんだけど。




◇ ◆ ◇ ◆







『で?』

 で、って言われてもね。

『話があると私が言っているんだから、すぐに帰宅して準備するのが筋じゃない?』
「その前に、やる事はやっておかないと」

 とと、いけない。つい声に出してしまった。

『士郎の喫茶店の掃除なんて、別にいいでしょうに。むしろ埃だらけになってた方が士郎ってば喜ぶんじゃないかしら。
 掃除のしがいがありそうだとか言って』

 流石にそれは無理があると思う。

『そうでもないわよ。愚痴愚痴言いながら手を動かしている時が一番楽しそうなんだから。まったく』

 愚痴愚痴言っているのはイリヤだと思うけど。
 まぁでも、確かにこれは私の自己満足で、ありがた迷惑なのかもしれない。

『あ、じゃあ折角だし紅茶を持って行きましょう。士郎の店だからいいのが揃ってるわよ』
「ダメだよ。それじゃ泥棒じゃないか」
『いいじゃない。士郎のモノは私のモノよ』
「だいたい、剣がどうやってお茶を飲むんだよ」

 いつも脳裏にイリヤの顔があるから何だか私もイリヤが剣だっていう意識がなくなってきているけど、イリヤは間違いなく剣なのだ。
 例え、元々人間だったのだとしても。

『アキラが飲めば私にも分かるわよ。ね、いいじゃない別に。士郎だってそれぐらいじゃ怒らないし、私のせいにすればいいんだから』
「ダメなものはダメだ」
『ケチ』

 掃除と言っても、つい先日も丹念にやってしまったばかりだし、実際のところそうする事もない。
 どちらかと言えば、確認の意味が強かった。
 イリヤと出会った、あの地下室が今どうなっているのか。
 そして刹那さんが訪れて、何か変化がないか、とか。

『まぁ、いいか。ある意味、あそこ以上に邪魔なく話が出来る場所ってのもないものね』

 それは、確かにそうだと思う。
 あの喫茶店は郊外にあって、大声で叫んだところで誰にも聞こえないだろう。ましてや地下室なら特に。
 うっかりイリヤへの返事を声に出して、通行人の訝しげな視線に耐える必要もなくなる。

 そして到着。掃除の前に、地下室を確認しようと足を向ける。

「……何これ」

 そこは見るも無残な有様だった。大穴、と言っていい。
 地下室への扉と階段は、まるでそこから地獄へと続く崖にでもなっているように抉り取られている。

『タカミチの仕業よ』
「高畑先生の?」
『そう。結界が破れないからって力任せ。まぁ、力任せで破れるってだけでもアレも中々凄いんだけどね』

 そりゃ、この破壊痕を見れば凄いのは一目瞭然だ。
 だいたい、そんな爆発みたいな攻撃をしておいて、この家が崩れていないというのも凄い。

『どう? 降りる?』
「近づくと崩れそうだよね……」

 諦めるしかなさそうだった。だいたい降りても上がってこれそうにないし。

『これぐらいはぴょんと跳べるようになって貰うけどね』
「出来るの?」
『なるの。まぁアキラは素養ありそうだし、そんなに時間かからないんじゃないかな』

 本当にそうなら嬉しいけど、もう試合には出れなくなるね。

『気にしなくてもいいんじゃない? トップアスリートは割と自然に気を使えている人間もいるはずよ』
「でもやっぱり、それはズルだと思うよ。……別に、泳げなくなるわけじゃないし。それぐらいは、感傷にして捨てられる」

 少なくとも。士郎さんを助けられる力の方が、ずっと大事だ。

『じゃあ、アキラが乙女行為してた士郎の部屋にでも行きましょう』
「ちょ、ちょっとイリヤ!」
『ふふ、アキラってば照れてるー! 可愛いわね』

 もうっ。心の中で怒鳴って、けれども結局私たちは士郎さんの部屋に来た。
 爆破跡のように抉られていた一階とは違い、二階は特に変わりない。

『じゃ、まずはこれからの方針を伝えておくわ。士郎を助ける為に必要な事を』
『うん』
『一つは、さっきも言ったようにアキラが私を上手く扱えるようになる必要がある。しかもそれは早ければ早い程いい』

 それは、そう。私も出来るだけ早く役に立ちたいと思うし。

『そしてもう一つは、アキラ自身が自分の身を守れるようになる事。魔法世界に行く必要があるからね』
「魔法世界に?」
『そう。あっちはそれなりに危険が多いから、一学生程度じゃ士郎を助ける前に死んでしまうわ。士郎の状況次第だけど、残された時間で出来る限り強くなってもらいたいの』
「なれるのかな……私が」
『ああもうっ。うじうじうじうじ暗いわね! そんなところまでサクラと似てなくてもいいの!』
「サクラ?」
『その辺はアキラがコツを掴んだら教えてあげる。ご褒美代わりに、私と士郎の過去を教えてあげるから』
「ホント!?」

 高畑先生が士郎さんの過去の断片を語る度、何となく羨ましく感じていた。
 多分それは刹那さんも同じで、私と彼女は似たような立ち位置にいるんだと思う。
 何も知らないけれど、士郎さんの役には立ちたい。
 ただ、私と刹那さんで違う点があるとすれば、刹那さんには力があるって事だ。
 試合の上での事でも。士郎さんに勝つ事が出来るだけの力を、刹那さんは持っているんだから。

『でも覚悟しなさい。私たちの過去は、重いらしいから。自覚はないけどね』

 その時、朧げに。遠い情景が浮かんだような気がした。
 一瞬で、それが何か理解する前に途切れてしまった。
 あるいはそれはただの感情で、景色なんてない幻だったのかもしれない。
 それがイリヤから漏れ出したものであることは明白だった。そして、確かに重いのだろうと理解する。
 断片を垣間見ただけで、酷く心が重くなる。
 イリヤと出会う前夜に見た夢よりも、尚薄ら寒い。ホラー映画を見た後のような寒気がした。

『あら、やるじゃないアキラ。今、私に踏み込んだわね?』

 踏み込んだというよりは、流れこんで来たって感じだったけど。

『それでいいのよ。アキラが私に近づく程、私とアキラの境界線が薄れる程、アキラが私を扱えてるって事なんだから』

 なら、と思う。
 私がイリヤに近づく程に、今の重苦しい絶望感を味わうのなら。
 それが、日常になってしまうのなら。それは。

『そうね。今朝、アキラは変化した日常なんて大したことないって思ったけど。
 これがこの世界に由来する魔法なら、私に選ばれたわけじゃなかったら、それは真実だったかもしれない。
 でもアナタは選ばれた。アナタは選んだの。アナタ自身の意志で。日常を捨てる決定的な選択を。
 甘い考えは捨てなさい。甘い日常は忘れなさい。これから先にあるのは、』

 と、続けようとしたイリヤの声を遮って。

「ううん。捨てない。忘れない。これから先にあるものは、私が決めるよ」
『そ。サクラに似てると思ってたけど、そうでもなかったみたいね』
「怒らないの?」
『別に。何もかもいいなりになる人形なんて面白くないもの。少しは反抗的じゃないとね』

 なんて、そんな事を言うイリヤの声は、少しだけ優しい。
 そしてこんな時だけ彼女の表情が脳裏に浮かばないんだから、或いはこれは照れ隠しなのかも。

『ち、違うわよっ!? そんなんじゃないんだからね!』

 うわぁ。

『アキラ……基本的に、アナタの考えてる事は私に全部筒抜けなんだからね……?』

 分かってる? と今度は純度100%の怒りに満ち満ちた声でイリヤは囁いた。
 怖い。身体の芯に震えが走る。

「って、イタっ」

 気がつけば、私の手が私をビンタしていた。

「うぅ、イリヤぁ……」
『ふん、自業自得よ。この辺でキッチリ上下関係植えつけとかないとね』

 まぁ、でも、ちょっぴり。
 私たちは、仲良くなったのだった。




◇ ◆ ◇ ◆






 で。修行、らしい。

『修行なんて言うとバカっぽく聞こえるかもしれないけど、アキラには絶対的に時間が足りないから。
 かなりスパルタでアニメみたいな訓練を施すわ』

 そこはかとなく、ううん、決定的に不安になるんだけど。

『なるようになるんじゃない? どちらにせよ、時間は足りないわ。まずはあの吸血鬼のところへ行きましょう』
「吸血鬼って、エヴァンジェリンさん?」
『そ。ムカつく女だけど、背に腹は代えられないからね』

 目的はあの別荘らしい。
 確かに、一時間が一日になるなんて夢のようなマジックアイテムだと思う。
 えーと、24時間丸々篭ってたらそれだけで3週間ちょっと。
 一週間も過ごせば半年近い年月になる。

『まぁ、体感時間で一年も過ごせば何とかなると思う』
「い、一年っ?」
『そうよ。何を驚いているの? アキラが挑もうとしているのは常人が一生懸けても辿りつけるか分からない境地よ。
 外法とチートを使いまくって近道するんだから、文句言わないの』
「そっか……じゃあ、私、皆より年上になっちゃうんだね」
『いいじゃない。アキラの周りにも似たようなのいるんだし。龍宮真名とかアレ絶対生体としての経過時間は15年じゃないわよ』
「ははは……」

 まぁ、確かに。龍宮さんも魔法関係者っぽいし、そういう事もあり得るのかもしれない。
 うう、でも私だって背が高い方だし皆と比較すると年上に見られる方だし、更に一年の差は大きいかもな……。

『それに、士郎に惚れてるなら都合がいいんじゃないの? いくつ年齢差あると思ってるのよ』
「そ、その、それはそのというかえーと愛に年齢は関係ないというか……士郎さんて、実年齢いくつ?」
『さぁね。士郎自身も知らなかったりするんじゃない? アキラの倍は固いけど』
「知らない?」

 倍、というところにも少なからずショックを受けたけど、でもそれより知らないっていうのはおかしい。
 それが事実だとするのなら。何となく、嫌な想像がつきまとう。

『その辺はご褒美にね。それより急ぎなさい。遅くなると会えなくなるわ』

 そうだった。あんまり遅くなると迷惑になるだろうし急がないと。
 というより、こんな道端で私以外には聞こえない声と会話していたくはない。
 それに。エヴァンジェリンさんもイリヤも、怒らせると怖いしね。

 走る程ではないけれど、心持ち急いで士郎さんの家からエヴァンジェリンさんの家へ向かった。
 アルトリアとエヴァンジェリンさんの家はそう離れていないから、もう目と鼻の先だ。
 玄関まで来てから、私は緊張を解す為に深呼吸する。
 今でもやっぱり、エヴァンジェリンさんと正面から会うのは緊張するからだ。
 ベルを押そうと手を伸ばす。と、ぴったりなタイミングで扉が開いた。

「うわぁっ」

 驚く私に冷たい視線を向けて現れたのは刹那さんだった。
 そういえば、しばらく会っていない。助けてくれたのは彼女らしいから、お礼を言っておかないと。

「あの、刹那さん、」
「失礼。今急いでいるんです。後日にして貰えませんか」
「あ、ごめん……それと、ありがとう」
「何がですか」
「私を助けてくれたの、刹那さんだって聞いた」
「ええ。気絶した貴女を運ぶのは二度目でしたね」

 機嫌悪そうに刹那さんは呟く。
 何か悪いことをしているような気になって、それ以上会話は続かなかった。

「では。貴女も関わるのなら、足手まといにはならないで下さいね」

 私を、ううんイリヤを一瞥して刹那さんは歩き出す。

『あの子、持ってるわね』
「……何を?」
『士郎の剣。宝具クラスの……純正品』

 純正品? と疑問を持ったのもつかの間、開いたままの玄関からエヴァンジェリンさんが顔を出す。

「何だ、お前か」
「あ、その、こんにちは」
「そろそろこんにちはという時間ではないな。私の時間だ」

 確かにそろそろ日も暮れ、吸血鬼の時間がやってくるだろう。
 エヴァンジェリンさんは胡乱気な表情で私を部屋の中に促した。

「私もな、今夜はイベントがある。特等席で見たいのでな、長い話か?」
「数時間程、大丈夫ですか?」
「……別荘がいいか」
「お願いします」
「うむ。良い態度だ」

『ちょっと。私と随分態度が違うんじゃない?』
『自業自得だろ』

 心の中で会話して、彼女の後に続く。
 別荘は相変わらずの晴天。加えて、カラッとした暑さが心地良かった。

「で、要件は何だ。契約の事か?」
「それも気になるけど……今はこの子の事です」
「この子?」

 私は分かるようにイリヤを掲げる。
 改めて見ると、美しい剣だった。うっすらと放たれる光は神秘的で、眺めているだけでも退屈しない。

「その剣……衛宮の作か」
「分かるんですか?」
「奴の剣は気配が違うからな。しかし、貴様も刀剣マニアだったのか?」
「え? いえ、そんなことないですけど」
「この子、なんて言い方をするような奴は全員マニアなんだよ。自覚しろ」
「いえ、そうじゃなくて。この剣、士郎さんのお姉さんなんです」
「は?」

 説明した。色々と。
 私にとって、エヴァンジェリンさんというのは特段信用のおける相手じゃない。
 でも、契約という縛りの中では厳格だ。私は、前の記憶でそれを知ってる。
 それに、何となく身内に甘いのも分かってた。
 最初の、気難しいクラスメイトとしてのイメージとも。
 あの夜の、吸血鬼としてのイメージとも実体は違って。
 信用も信頼もしていないつもりなのに、何故か口は軽くなる。

 私も本当は、この人の事を信じたいのかもしれない。
 でも彼女には、怖い一面も確かに存在して。
 無条件に、無用心に信じる事は私だけじゃなく周囲をも危険に晒すかもしれない。
 だから。距離は取らなきゃいけない。

 大体の事は喋ったけど、一つだけ。
 イリヤの能力。あらゆる願いを叶える万能の器。
 きっとそれは、誰もが欲しがるものだから。士郎さんを助けるまでは、決して失っちゃいけないものだ。
 だから喋らない。士郎さんを助けようとする同志以外には。

「状況は理解した。まったく、衛宮士郎も罪な男だ」

 はぁ、と溜息をつくエヴァンジェリンさんに、私は顔が熱くなる。
 いや、まぁ確かにそういう動機ではあるんだけど。

「で、修行のためにこの別荘を使いたいわけか。それは別に構わんがな……」

 正直、抵抗がないとは言えない。
 修行そのものじゃなくって、ネギ先生たちと一緒に修行というのは……何だか違う気がした。
 私は、ネギ先生たちの事情には踏み込む気はないし、踏み込んでいいものでもないと思う。
 そして同じように、ネギ先生たちにもこちらの事情を知られたくはない。
 知られたら、きっと反対されるし。されなかったとしても、やはり、温度差はあると思うのだ。
 お気楽ではいられない。それは、つい先程の短い共感でさえ理解できる事だった。

 けど、ここが最も効率的に時間を使える場所なのは確かだ。
 なら、それを有効利用しない手はない。今こうしている間にも、士郎さんは苦しんでいるかもしれないのだから。

「一つ、聞いていいですか?」
「なんだ」
「エヴァンジェリンさんは、どうして私を手伝ってくれるんですか? 私みたいな小娘相手に、義理もないでしょう?」

 この世界、というか。
 “今回”は、私とエヴァンジェリンさんの間に契約はなかった。
 よくよく考えて見れは、私はエヴァンジェリンさんに協力を要請する前に、高畑先生たちに助けを求めている。
 不思議な感じだけど、それが事実だ。

「そうだな。義理などない。このまま捨ておいても構わんな。だが、今更一人二人増えたところで然程変わらん。
 それに、奴には借りがある。短い因縁ではあるが、決着を付ける機会が得られるのなら、暇つぶし程度に時間を使うのも余興だろうよ」

 まぁ、理由は何であれ協力してくれるのならありがたいことだ。

「ああ、それと。そこの剣にも、興味があるな」

 じとり、と。絡みつくような視線を、イリヤに向ける。
 取られてしまいそうな気がして、ばっと飛び退いた。

「あ、あの、じゃあ早速使わせてもらいますね!」

 脱兎の如く逃げる。これからもここを利用するなら、いずれは話さなきゃいけないだろうけど。
 この辺りの事は、ずっと黙っていたイリヤと相談してからの方がいいだろう。
 




◇ ◆ ◇ ◆






 アキラが脱兎の如く逃げていくのを、エヴァンジェリンはのんびりと見送った。
 そこには突然逃げられた不満などない。そんな事などどうでもいいとばかりに思索にふける。

 考えるのは、衛宮士郎の事。
 学園祭での結末は、彼女にとっても不本意なものだった。
 アキラとの契約がなかったにしろ、エヴァンジェリンはタカミチから依頼を受けている。
 契約破りの剣の存在を餌に、だが。
 そしてそれなりに動いていたのも事実だが、しかし結局は姿さえ見る事さえ叶わず逃げられた。
 消えた、という表現の方が正しいにしても、エヴァンジェリンにとっては逃げられたのと同じ事。

 ナギとは違う、と思っても。似たような感傷が在ることは事実で。
 会えたら、まぁ一発ぐらいは殴ってやろうと、そんな事を考える程度には、不本意だった。

 しかしそれ以上に。士郎を見つける事は、エヴァンジェリンにとって封印解呪の為に必要な事でもある。
 ネギの血を使う気がなくなった以上、もう彼女には士郎の剣ぐらいしか光明は残されていない。
 そして、イリヤと紹介された剣からは十分な威圧感と魔力を感じた。
 白天……刹那に士郎が贈った刀よりも、尚強大な。
 あの白銀の剣こそが解呪の能力を秘めていると説明されても、エヴァンジェリンは納得できるだろう。

 既に麻帆良に士郎の剣は残っていない。タカミチが何処かへ封印処理してしまった。
 エヴァンジェリンが剣を手に入れる方法はない。
 しかし本当に士郎の姉の記憶なりがあの剣に宿っているのならば、解呪の方法、或いはその剣の製法さえ分かる可能性がある。
 恩を売っておいて損はないし、別荘の使用くらい許可するのに問題はなかった。
 
 それに、隙がなかった士郎たちとは違い、色々と素人なアキラからならば魔術の情報も容易く引き出せるだろう。
 それだけでも十分過ぎる価値があった。
 まぁ、そちらは趣味としての色合いが濃いものではあるが。

 エヴァンジェリンは揺蕩うように思考に没頭する。
 今夜は、もう一つイベントもあった。そちらもある意味では、衛宮士郎絡み。
 面白い人間だとは思う。おそらく、生涯忘れない程度には。

 そう。それは、ナギでも成し得ないであろう一つの奇跡。
 永劫を約束された、世界で最悪の呪いを受けた彼女を唯一解き放つ方法。
 不死の吸血鬼を殺せる可能性を持った男は、生かしておかなければならない。
 それは保険だ。何も士郎本人が生きている必要はない。
 その技術さえ残してくれれば。それも、エヴァンジェリンしか知りえない技術として保存するのがベストだ。

 で、あるのならアキラは隔離しておく必要がある。念のため、だ。
 衛宮士郎が残したモノを使って力を得るというのなら、ネギたちの為にもその方が良いと判断した。
 いろんな意味で。覚悟も何もない者が触れるべきものではないと、それだけは直感していたからだ。

「とは言え、それも今日までの話か」

 明日には、衛宮士郎に対する疑念、興味はあらかた消えているかもしれない。
 どう転ぶかは分からないが、決定的な分岐になるであろう重要なイベントがある。
 エヴァンジェリンにとっても、刹那にとっても、そしてネギにとっても。

「行くか」

 そろそろいい頃合いだった。十分に休んだし、そろそろ24時間経つ。
 帰って観客席へと赴こうと腰を上げると、広場にはアキラが立っていた。
 待ち受けるように。士郎の剣、つまりは強力無比な武器、イリヤスフィールを構えて。

「初めまして、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル」

 その様は。その雰囲気は。その魔力は。
 決して、大河内アキラと合致するものではない。
 まるでエヴァンジェリンが操っている、吸血鬼化しているかのような空気。
 或いは、何か悪霊にでも取り憑かれているかのような。

「貴様、何者だ?」
「なに? アキラの話を聞いてなかったのかしら?
 私はイリヤスフィール。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
「衛宮士郎の姉、だったか」
「ふふ、血の繋がりはないけどね」
「その姉が、私に何の用だ。わざわざそんな娘に取り憑いて」

 アキラ、否イリヤスフィールが笑う。
 怖気が立つ程に神秘的で、聖女のような微笑みだった。
 美しい事が、時には毒になる事があるように。
 或いはソレが大河内アキラの肉体を使っていたから、その不完全故か。
 その様が、酷く気持ち悪いとエヴァンジェリンには思えた。

 神秘的で欠片程の醜悪さもなく、残酷なまでに純粋で。
 世の正義も悪も、闇も光も清廉も醜悪も例外なく、白と決めつけてしまえるような。
 エヴァンジェリンでさえも、“そんな程度は可愛いものだ”などと見下しているような視線。
 だと言うのに、そこに美しさを見出してしまう自分に、エヴァンジェリンは困惑する。

 そこには未知への興味よりも、怪異への忌避感がある。
 己を棚に上げて、エヴァンジェリンは動揺していたのだ。
 見下されていながらも、まず怒りを覚えなかった自分自身と、そんなものを超越した相手に。

「取引しましょう、エヴァンジェリン。アキラとアナタではなく、イリヤスフィールとエヴァンジェリンで」

 第一印象で、既にエヴァンジェリンの敗北は決定していた。
 その取引を敗北とするのなら、だが。










イリヤ「まぁ、士郎の半分はロリコンで出来てるんだから、成長しすぎると相手にされなくなるかもね……」
アキラ「!?」
刹那「?!」
(拍手)
 
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更新乙
面白くなってきやがったぜ・・・

2011.07.10 | URL | とろみ #- [ 編集 ]

相変わらずの高クオリティに脱帽。
イリヤの妖しさがよく出てると思います。

次回の更新も楽しみにしてます。

2011.07.10 | URL | saitou #pvNGy96Y [ 編集 ]

更新お疲れさまです。

しかし、よかったのかイリヤ、ホイホイ過去を教えるなんて言って。

一中学生には耐えられないだろうに。いくら想っていて理解しようとしても相手を理解出来るはずはない。出来るなんて言ってはいけない。人間だもの。
自分自身でさえわからないのだから。
だが、その想いは決して間違いなんかじゃな(ry

長々と戯れ言をすいません。これからも楽しみにしてます!

2011.07.10 | URL | 白栗 #- [ 編集 ]


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