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屈折領域・裏鏡


一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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エピローグ


「夢破れし英雄」





 超鈴音の願いは叶った。しかし、使命は果たされる事なく、誰も予測していなかった未来が訪れる。







「……そんなに入り浸っていていいのか、二人とも」

 喫茶アルトリアの店内、少ないカウンター席を占領するように座っているのは、刹那と木乃香だった。
 ちなみに、隣に相坂さよの姿も見える。

「ええんよ。クラスもまだ、お葬式みたいな雰囲気やし」

 そう答える木乃香に、まぁ仕方ないかと士郎は頷く。
 3-Aは、クラスの半分程の人間が行方不明になっていた。
 しかも担任であるネギまで同じく、という状況のせいで、今は臨時で一般教師が担任を務めている。
 実は士郎を再び教職に、という話もあったのだが、流石にあれだけの事をしでかしたのだ。誰も認めなかった。

 だと言うのに、まだ麻帆良に留まっているのには、幾つか理由がある。
 一つは、今の士郎はエヴァンジェリンと同じように麻帆良に繋がれているという事。
 学園長との合意の結果だ。今回起こした事件の責任を彼が取る代わり、士郎が麻帆良を守り続けると。
 尤も、エヴァンジェリンと違って外に出れないわけじゃない。
 それが麻帆良を守るために必要だと判断されたのなら、外には出れるようになっている。
 割と拡大解釈が可能で、士郎も特に不便はなかった。
 その気になれば契約破りも出来た事だし。

「そう、ですね。私自身、まだ……」

 そういう刹那は暗い。折角仲良くなった明日菜たちが、ネギと一緒に消えてしまったからだろう。
 超の罠により、ネギたちは未来に飛ばされた。
 一週間後には現れるはずだ、との話だったのに、一月以上経過した今も彼らは行方不明のままだ。
 それが意味するのは、つまり。

「何だ貴様ら。辛気臭い顔をしているな」
「エヴァンジェリンさん……」

 茶々丸も連れずにやってきたエヴァンジェリンは、刹那の隣に座りケーキセット、と短く注文する。

「茶々丸は?」
「定期メンテだ。葉加瀬に預けている」

 手持ち無沙汰なのか、頬杖をついて刹那と木乃香に視線を向ける。

「貴様らも沈んでいるんじゃ、この店に来る意味もないだろうが。シャキっとしろ」
「そうは言っても、エヴァンジェリンさん。中々……」
「諦めろ。私はそう言ったはずだ。超が一週間と言ったのだ。それが嘘であれ事故であれ、私たちは時間に手出しは出来ん」

 嘘ではないと士郎は考えている。
 そして、ネギたちが姿を見せない決定的な理由を、士郎だけは感づいていた。
 それを、誰かに告げる事はできなかったが。

「私たちに出来るのは待つ事だけ、なんですね」
「まぁ、私は奴らのことなど早く忘れて先に進むべきだと思うがな」
「そんな言い方ないんとちゃう!?」
「フン、事実だ。そうだろう、士郎」

 その呼び捨てにそろそろ慣れていた士郎は、困ったような顔をしながらも頷く。

「待つ事を止めはしないが、私も正直可能性は薄いと思う」
「そんな……」
「それに、ネギや明日菜たちが帰って来た時、お前たちが全く成長していなければどうする? ただ沈んでいる事を、待つとは言わないぞ」

 無茶で無謀な力任せの論理でも、二人には効果があったらしい。
 少しだけ、目に生気が灯る。

「お優しい事だな、正義の味方」
「そういう君もな、闇の福音」

 辛辣な言葉ではあるけれど、わざわざ茶々丸を置いてまで店に足を運んだのはこの二人を見守るためだと言う事くらい、士郎には分かっていた。
 エヴァンジェリンが昼間に現れるのは、二人が居るときだけなのだから分かるなという方が難しい。
 彼女個人として用がある時は、以前の魔法先生たちのように閉店後に訪れるのだから。

「では、私たちはそろそろ」
「また来るえ」

 カランカラン。会計を済ませて店を出て行く二人を、士郎とエヴァンジェリンが眺める。
 そしてその背が見えなくなると、エヴァンジェリンは士郎に向き直った。
 けれど、無言。珍しく沈黙に耐え切れなくなったのか、士郎は言葉を選んで口を開く。

「どうにかならないものかな」
「無理だな。こればかりは時間が必要だ。お前にだって経験はあるだろう?」
「さてな。忘れてしまったよ、昔の事は」

 ただ一つ、忘れられない事もある。この世で士郎一人だけ、覚えている事実は。忘れてはいけないものだ。

「フン。……美味かった。また来るぞ」
「ああ。また、な」

 その背を見送って、最近はバイトを雇う必要もなくなった店内を眺める。
 もうバイトもいない。明日菜も、時折手伝ってくれた■■■もいない。
 がらんとした店内に溜息をついて、士郎は看板をクローズにして後片付けを始めた。

 まだ閉めるには早い時間ではある。けれども、今日は彼女がやって来る日だった。





◇ ◆ ◇ ◆






「ニーハオ、には遅いカナ?」
「そうだな。夜は食べて来たのか?」
「ここに来るのにそんな馬鹿な真似はしないヨ。最近は五月の肉まんも食べれないからネ」

 一月に一回程度だが、超はアルトリアを訪れる。
 麻帆良を離れられない士郎の為の経過報告と。士郎から強制的に結ばされた“契約”のために。

「世界の経過は順調ヨ。今のところはネ」
「そろそろ君が予言していた大崩壊の時期だろう?」
「アスナ姫がこの時間軸から消えたからネ。彼らも計画を実行に移せないみたいヨ。ただ、諦めたわけじゃない。
 このまま計画を停止していても、魔法世界の消失は免れないからネ」
「明日菜抜きでの実行は不可能だ。だが、僅かでも代替物として使用できる可能性があるのは……」
「そう。世界を侵す――衛宮士郎だけ」
「しかし私の能力は不完全だ。とても一つの世界全てを塗り替える事は出来ない。だから失敗する……のだろう?」
「マァ、私の知る歴史とは既に何もかもが違い過ぎるからネ。どちらにせよ、崩壊を阻止する手はない。なら……」
「分かっている。対価は払うさ。私の一生と君の一生。完璧な等価交換だろう?」

 超は答えない。
 衛宮士郎の人生と、超鈴音の人生。
 その一生のどちらが重いのか、価値があるのかなど、全てを見通せる存在がいたとしても、容易に決められないだろう。
 ただ、単純にこれから費やす時間を考えれば、超の方が重いのかもしれない。
 そんな不利を他人に押し付けてまで、今の士郎には叶えたい願いがある。
 否。叶えなければならない責任が、ある。

「……何度も言っているけどネ。アレの製作者は私じゃないから、成功するかは分からない。私の体内に埋めこまれている擬似魔術回路では、」
「分かっている。私とて、成功率は低いさ。不可能と言ってもいい。だがどちらも、我々でなければ出来ない事だ」
「分かっているヨ。分かっている。約束は守る……ネ」

 辛そうに、超は俯く。
 責任という意味では、士郎よりも超の方が強かった。
 ■■■がこの時間軸から消失してしまったのは、超が放った銃弾が原因だ。
 その事実を、超は覚えていなかった。だが、優秀なその頭脳は、何が起こったのかを正確に推察していたのだ。

 ネギや、明日菜たちがこの時間軸に辿りつけなかった理由。
 それは、あの銃弾が士郎に当たっていても同じ事ではあっただろうが、その場合はほとんどの問題が片付くのだからまだ納得出来る。
 ネギや明日菜たちの存在がこれから先の未来に存在しないという事は、超の消失を示す。
 つまり自殺覚悟で。自分がこの後生まれてこなくても、それでも超は撃ったのだ。世界にとってはちっぽけな平和のために。

 そして失敗してしまったから。
 ネギたちは消え、今後超が生まれる事はない。
 なのに存在しているという矛盾を、世界が許している理由は。今ここに、衛宮士郎が存在する理由と、きっと同じもの。

「悪いな。貧乏くじを引かせて」
「慣れてるヨ。……でも、まぁ。正直、生きる理由があるのは楽かもしれないネ」

 それからは、黙々と食事を口に運ぶ。
 美味しいはずのそれは、何故かまったく味を感じられなかった。





◇ ◆ ◇ ◆








 滅びは必定。あらかじめ予言されていたそれの時期が早まったところで、特に何が変わるわけではなかった。
 ああ、ただ。どうせなら、もう少し遅くなってくれれば刹那たちの卒業式に間に合ったのにな、と。
 そんな他愛のない事を考えて、本来なら■■■も一緒に卒業していたのだろうな、などと考え一人気落ちする。

 それも、今日で最後になりそうだった。
 魔法世界との連絡途絶。続いて起こった世界樹大発光。そして眼前に広がる、天に地ある異様な光景。

「さて、ア■■。君ならこれから私が行う事を、どう思うのだろうな」

 士郎は一歩宙に踏み出した。陣が広がり足場が形成される。
 光陣の階段。天に、或いは地へと。否、どこにも繋がらない、目的地のない階段だ。
 それを、登る。いつかの誰かと同じように。いつかの誰かと、同じ目的のために。

「待て、衛宮士郎」
「エヴァンジェリン……」

 その背に声を掛けたのは、大人の姿をしたエヴァンジェリンだった。
 士郎が足場として展開している魔法陣を無視して陽炎のように浮かぶ彼女は、目を伏せて呟く。

「行くのか」
「ああ」
「大河内アキラのために?」

 士郎が目を見開く。それは失われた名前だ。エヴァンジェリンが知るはずのないもの。

「私も覚えているのは名前だけだ。悪魔の契約という奴はな、そいつが勝手に消えたぐらいで失われるものじゃない。
 契約者の名前くらいは憶えているさ。その契約の内容も、名前以外の何もかもを忘れていてもな」
「……カマかけか」
「そうだよ。こうまであっさり引っ掛かるとは、余程大切な相手だったようだな」
「さてな。私も覚えていない。名前だって、覚えていたわけじゃない」

 士郎が取り出すのは一枚のカードだ。
 それがいつ、どういった過程で手の内にあったのかは分からない。
 だがあの日、彼女が消え去って以降、気がつけばそれはそこにあった。
 衛宮士郎と、大河内アキラとの繋がりを示す唯一の残骸。その存在が確かにあったのだと、名と姿を示す手掛かりだ。

「成程。貴様もまた、契約による繋がりがあったか。まぁ……覚えていなかったとしても、仮契約をする程度の仲ではあったわけだ」

 それはそうだ。
 仮契約の一般的な儀式はキス……ということは、どんな経緯があったにせよ、それを許す程度には縁が深かったのだろう。
 でなければ、どんな契約でも士郎には一方的に破棄できる反則があるのだから。
 わざわざ残していたという事は、つまり。

「そうだな……だから、私は行く」
「大河内アキラのために世界を救うと?」
「いいや。アキラを迎えに行くだけさ」

 アキラのために世界を救うんじゃない。
 アキラの、あまりに唐突過ぎたその犠牲を受け止めて、その世界を守るつもりはなかった。
 なかった事にする事なんか、どんなに願ったところで出来ないし、出来たとしてもそれだけは許せなかった。
 なら、士郎が逃げ込める先は、一つしかない。
 正義の味方と。そんな、負けたはずの在り方にしか縋れない。
 正義の味方として世界を救い。そして、アキラの存在を取り戻せるかもしれないたった一つの方法。

「チッ……死にに行くのなら止めるつもりだったんだがな」

 結果としては、似たような事になる。
 少なくとも、もう二度と会う事はないだろう。

「女を迎えに行くというのなら、止められん。あのバカと違って、ちゃんと迎えに行くならな」

 エヴァンジェリンを、いや、それだけではなく世界に多くの人々を残して消えたナギとそう変わらない。
 或いは彼も、誰か一人のために世界を見捨てたのかもしれないのだから。
 でも、それでも、その理由を前にエヴァンジェリンは士郎を止める事は出来ない。
 未だ封印された身では実力行使も叶わないだろう。
 今の、こうして魔力が充溢した状態だからこそ、学園祭と同程度の魔力が回復しているにしても。

「礼を言うべきなのかな、これは」
「フン。さっさと行け」

 怒りながら、しかし照れたように視線を逸らして、エヴァンジェリンはしっしと士郎を追い払う。
 呼び止めておいて酷い言い草だが、ある意味彼女らしくて士郎も安心する。

「ああ、ではな」

 返答はない。
 士郎も振り返らなかった。エヴァンジェリン以外の視線も感じたが、歩みを止める事はない。
 一歩一歩、むしろ何かに急かされるように。

 やがて声も届かない高さへと届く。刹那の翼くらいしか届きそうもない、二つの世界の狭間となった領域。
 どちらの世界でもなく、どちらの世界とも繋がっている虚無に近い属性を持つ場だ。
 ここならば、二つの世界を塗り替える――そんな荒業も、多少はやりやすいはずだった。

「――――体は、剣で出来ている」

 もう進む必要もない。ここは、両の世界から最も離れた、二つの世界の中心だ。

「血潮は鉄で、心は硝子」

 魔法世界崩壊の原因は、魔法力の枯渇にある。
 魔法世界を維持している方法は非効率かつ無理が有り過ぎた。
 ならば、より効率が良く、魔法力が枯渇しない……少なくとも、現状維持を実現できる術があるとすれば。

「幾たびの戦場を越えて不敗」

 それはそうだろう。無限に続く荒野と、命溢れる美しい世界。
 どちらが大量の魔力を使うのか。どちらが大きな魔法力を必要とするのか。

「ただの一度も敗走はなく、ただの一度も理解されない」

 それは理解される方法じゃないだろう。少なくともベストなんかじゃなくて、時間稼ぎにしかならないベターな選択だ。
 僅かを犠牲にして多くを救う事さえ出来ず。
 ありもしない可能性に縋り、確実とも言えない方法を試そうとしている。
 試算は試算だ。超の計算に士郎は自信があったが……それでも。あらゆる意味で、無謀な賭けには違いない。

「彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う」

 他に方法がないのか、と言えば。
 こんな、一歩間違えれば両方の世界が消えてしまいかねない賭けではなく、合理的な正義の味方らしい、犠牲を容認する方法をとれば良かった。
 魔法世界を切り捨てれば、少なくとも旧世界に危険はない。
 勝手に作って勝手に消す是非など問う必要などない。
 それが一番確実で、それが“らしい”選択だったはずだ。

 けれど。

「故に、生涯に意味はなく」

 ああ、本当に意味がない。
 彼女を見送り、この道に、この理想に間違いなどないと信じていた。
 幾つもの絶望を知り、その理想を諦めてしまっても、それでも間違っているなんて思わなかった。
 結局この生き方しかないと戻ろうとしたのに、その結果がこれ。

 やり直したいなんて願いは間違っている。
 なかった事にしたいという望みは間違っていると、強く思う。
 だが、けれど。
 今まで助けてきた人々も。助けてくれた人々も、全てを裏切って。
 それでも、消し去りたいと。初めて、士郎は願ってしまった。

 自己の喪失。
 そもそもが余生のようなものだった。遠坂凛に殺されているはずだった衛宮士郎が、こんな温かい世界に流れ着いた事が。
 そもそもの間違いで、数奇過ぎる運命だ。

「この身は――」 

 だから、というのは言い訳にしかならないけれど。
 消えてしまった想いを取り戻す為になら、士郎は動く。
 やり直しの否定は、そこに消えてしまう想いがあるからだ。

 願いも絶望も、そこに人の生きた軌跡があるからだ。
 しかしそれが消えてしまって、そうして消えてしまったモノを取り戻す方法が、おなじく何かを、誰かを消さなければ成せないのならば。
 それは、等価交換になる。

 理想に生きた結果、自分から理想を壊す。
 この結果は衛宮士郎への罰だろう。その罰は甘んじて受ける。
 けれど、アキラは。アキラだけは、せめて何を犠牲にしても取り戻さないと。

 理想も。願いも。人も。世界も、何もかも。
 犠牲にして、消してしまって、それでも取り戻す。
 その手段を実現する時間を稼ぐ為に、士郎は命を投げ出すのだ。

「――夢破れし、英雄だった」

 無限の剣が、世界に楔を打ち込んだ。





◇ ◆ ◇ ◆







 空に見えるのは墓標だと教えられていた。
 麻帆良学園都市は、既に解体されて久しい。
 何が起こるか分からない、世界一危険な場所だ。学園など、如何な聖地とは言え残せるはずがない。
 魔法使いたちによる監視機関以外には、朽ち始めたかつての都市が残っているだけだ。

 そこに、エヴァンジェリンは変わらず居を構えていた。
 学園がなくなった事で呪いもまた消えた。エヴァンジェリンの力をもってすれば、この地を離れる事は難しい事じゃない。
 結界で雁字搦めになるこの地に留まるメリットなど何もなかったはずなのに、けれど彼女は茶々丸と共にここにいる。

「老けたな、超」
「そうね。アナタは全く変わらないけれど」

 あれから、麻帆良の空が荒野になってしまってから、二十年の月日が流れていた。
 しかし、二十年という月日に反して、対する超の姿は老婆と言っていい。
 流れた時間が違うのは、目に見えて分かる。
 或いは、見た目以上の体感時間があったのかもしれない。

「で、この地に何か用か……というのは愚問だな」
「ハイ。約束を果たしに」
「奴を救うつもりか」
「それが救いだと思うのは、きっと士郎サンだけだとは思うけれど」
「衛宮士郎か……懐かしい名だ」

 エヴァンジェリンは遠い目をした。エヴァンジェリンもまた別荘で過ごす事が多くなっていたから、相応の時間は流れている。

「なにやら作っていたようだな」
「ええ。彼に頼まれたものを。この二十年……いや、もう六十年程研究してきた。やっと完成したよ」
「そうか」
「ついては、果ての荒野に立ち入る許可を頂きたいのです」
「私が許可を出せる立場だと思っているのか?」
「いいえ。でも、アナタがその気になれば、監視局の戦力などものの数ではないでしょう?」

 それは事実だろう。今のエヴァンジェリンには、旧学園結界を無効化する手段を有していた。
 麻帆良の外にも出れるのだから簡単な事ではある。
 そうでなくても二十年。それだけあれば、対抗手段ぐらい編み出せてもおかしくはなかった。

「手伝え、という事か」
「そこまでは。ただ、睨んでいてくれればいいのです」
「まぁ、乗りかかった船だ。奴には私も色々借りがあったしな。協力してやらんこともない」
「相変わらず素直じゃないね。ふふ、本当に変わらない」

 そう言って笑う超は、面影こそ残っていても随分と変わった。
 口調も、雰囲気も。何かも捨てた世捨て人の空気を纏っている。 

「死ぬつもりだな」
「勿論……私のような異物が今まで生きながらえたのは、約束があったから。死ねるものなら、いつでも死にたかった」
「自殺の手伝いなんぞするつもりはないぞ」
「ふふ、それは悪い。でも、付き合ってもらうよ」

 一生をかけた約束だ。エヴァンジェリンが止めたところで、止まるものではないだろうし、断られる事も可能性としては考慮しているだろう。
 何故死にたいと思うのか、そんなところまで踏み込むつもりはなかった。
 協力するのは義理。それ以上は必要ないとして、エヴァンジェリンは力だけを貸す事にする。

「しかし策はあるのか? その体であの世界を抜けられるとでも?」

 固有結界は、自動迎撃の機能を備えていた。
 それが士郎による意志なのか、半ば本能的なものなのかは分からない。
 呪文を変えたところで、やり直しを認め、心の在り様を変えたことで、固有結界はもう無限の剣製ではなくなっていた。
 剣は武器としての機能を捨て墓標となった。代わりに、塵で出来た嵐があらゆるものを拒む。
 まず呼吸が苦しいし、常に最大級の防壁を纏わなければ進めない。エヴァンジェリンでも苦しい空間だ。

「ないね」
「おいおい」

 呆れ返るエヴァンジェリンだが、超はやんわりと笑みを浮かべた。

「大丈夫だよ。確信がある。そうでなければならないんだ」

 あの世界が衛宮士郎であるならば。その悲願を叶える存在を、受け入れないはずがない。








 そして事実――。
 超がエヴァンジェリンの助力を得てその世界に降り立つと、今まで全ての存在を拒絶してきた世界は簡単に静まった。
 理路整然と並ぶ剣が、まるで道を形作るかのように一定の空間を空ける。
 まるで、王の元へと続く紅い絨毯のようだと、超は思った。

「やはり、コントロール出来るようになっていたのだね」

 二十年という時間。
 いくら大気中に尋常ではない量の魔力が存在していたからと言って、奇跡と呼ぶに相応しいものだろう。
 明らかに人間の許容値を越えている。回復は決して消耗に追いつかない。
 衛宮士郎という存在はただの人間で、真祖や神、精霊ではないのだ。

 故に。その奇跡には、代償が存在する。

「世界との契約……少なくとも、世界が異界を維持している。衛宮士郎という駒を使って」

 この世界に、英霊のシステムが存在しているのかどうか、超には分からない。
 今まであった自然災害が実はその発現であったのかもしれないが、真偽の確認など出来る者はいないだろう。
 ただ。
 死後さえあるかどうか分からないこの狭間で、永遠に世界に使い続けられるというのは。
 あまりに、救われない結末だと思った。

 未だ士郎の影も見えぬ道を、その中枢へと歩を進めながら超は独り進む。
 士郎から頼まれたモノは、あの日士郎を消すために用意したはずの銃弾。
 超の記憶では、それは外れたという認識だったが、士郎が言うには違うらしい。
 事実仮契約のカードがあり、外れるはずのない銃弾だったという事を考えれば、それが真実であると考えるのは当然だった。

 大河内アキラが消えてしまった世界で、更に衛宮士郎を消しても意味がない。
 ここは、大河内アキラという少女が生まれなかった世界なのだから。
 たかだか数年の歴史が書き換わったところで、既に彼女は消えた後。
 干渉するなら彼女が生まれる以前でなければならないが、どのような方法を用いれば彼女が生まれてくるかなんて分かるわけがない。
 少なくとも、かつてあったはずの歴史に戻す事は、時間移動では不可能だった。

 ならばどうするか。士郎に残された希望は、己が彼女の存在を覚えているという事だ。
 それは世界の上書きを示す。或いは別の平行世界における記憶でも植えつけられたか。
 確実ではないが、その存在を覚えている存在が消えてしまう事は、僅かな矛盾を生む。
 本来なら誰も覚えているはずのない事。しかし契約の事実が残るのならば、或いは士郎が消える事で生まれる矛盾は世界を修正するかもしれない。

 正直な話、そんな事は有り得ないと超は思っている。
 士郎だって、それが成功するとは思っていなかっただろう。ただ、何もしないという事は出来なかっただけだ。
 どちらにせよ、魔法世界を本当の意味で救うには、神楽坂明日菜の存在は必要不可欠。
 大河内アキラの消失が原因で彼女らもまたこの時間軸へ再帰できなくなったということは、新たな平行世界へ分岐した可能性はあるわけだ。

 つまりは、規定の行動。
 ここでこうして、超が一生を費やして衛宮士郎の存在を消す事も。
 士郎が、ありもしない希望に縋って世界と契約し、世界を救い続ける事も。
 それが可能性を生む。その一生があったからこそ生まれるはずの世界がある。
 その世界でなら、神楽坂明日菜は存在し、大河内アキラも存在しているだろう。

 ただ。士郎はその輪に加われない。少なくとも、彼が立てた計画では。

「でもそんなのはあんまりだ。この数十年、それだけを考えてきた。どうすれば貴方が救われるのか。
 どうすれば、私も、貴方も、大河内アキラも、世界さえも、誰もが幸せになれるハッピーエンドを迎えられるのかって」

 そして、やがてたどり着く。
 世界の中心とは、すなわち士郎の墓標だ。
 それは剣の集まりだった。最早人の形は保っていない。剣で出来た人形。それが、一番近い表現だろう。
 衛宮士郎であったものは既に、歪で、何の益も生まず、ただ世界を崩壊一歩手前で押し留めるだけの機能しか残っていない。
 
「とても上手くいくとは思えなかった。貴方が数十年、固有結界を維持できるとも思えなかったし、私が師匠の銃弾を完成させられるとも思っていなかった。
 それでも、既に失敗し、意味も価値もなくなった私に、役目と使命を与えてくれた事には感謝している。
 産まれてくるはずのない、もはや存在意義もない私に、それがどれだけ苦しい道であったとしても、生きる理由を与えてくれたのは……ネ」

 懺悔するように。ぽつぽつと、士郎だったものの前で超は語る。
 士郎は何の反応も示さない。既にそこに意志が宿っているのかも定かではなかった。

「だから、貴方との約束を破ろうとも、やっぱり私はやり直したい。
 貴方がやり直したいあの銃弾の行き先ではなく、それよりも前に。この計画そのものを、やり直したい」

 銃を構える。自動照準なんてこの銃にはついていない。
 着弾すれば、対象など関係なくその場に居た者全てを消す。
 だからエヴァンジェリンには留守番してもらったし、この場にいるのは超だけだ。

「バイバイ、士郎サン」

 懐刀でも突き刺せる位置で、士郎から生えた剣が刺さりそうな距離で、超は銃弾を発射する。
 そしてあの白い結界領域が展開された。

 ああ、やっと終わりだと、超は息を吐く。
 走馬灯を見ていたから間違いはない。
 振り返れば長い人生だった。苦しいものだったし、報われた事なんてない。
 そんな人生でも終わるとなれば、消えるとなれば寂しいものだと微かに自嘲して、士郎を見上げる。
 と、そこには。

「お疲れ様だ、超」

 動くはずのない腕を動かして、どこまでも穏やかな表情で。
 士郎は、超の頭を撫でようとした。
 正直、痛い。刃は刺さるし、いやそれ以上に。

「は、ハハ……恨むよ。でも、ありがとう……」

 報われたなんて錯覚だ。彼女の人生は酷いものだったし、結局一点の救いもなく終わる。
 でも。
 この最期の瞬間に、穏やかな笑みを浮かべられたのなら。
 最悪よりは、少しだけマシだったのかもしれない。





◇ ◆ ◇ ◆








 音もなく、感慨も何もかも、全ての感情を置き去りにして。
 誰にも知られる事なく、世界は書き換えられる。







◇ ◆ ◇ ◆










 その日の放課後は、バイトの時間だった。
 麻帆良の郊外に位置する、隠れた名店のような扱いをされている小さなお店。
 人はいいけれど職人気質で融通の効かないマスターだったから、いつも席は半分も埋まらない。
 でも味は本物なので、道楽のように働くマスターは満足しているようだった。

 私もこの店を見つけたのは最近の事だったりする。
 あの時なんであの道を通ったのか、目的地がどこだったのか、さっぱり思い出せないのだけれど、偶然というよりは運命的な出会いだった。
 たまたま見つけた店に、たまたま喉が渇いていた私は入って、確かにお茶もケーキも美味しかったのだけれど、それより何よりお店の雰囲気に一目惚れして。
 気がつけば、バイトとして雇ってくれ、なんて。
 普段の私からは想像もつかない積極性で頼み込んでいた。

 見た感じバイトが必要な程忙しくはない。実際働いてみても、必要だとは思わなかった。
 だから、最初は渋っていたマスターが最後には頷いてくれたのは、私の熱意勝ちだったんだろう。
 その分給料はお世辞にも高い方じゃないけれど、社会勉強していると思えば安いものかもしれない。

「いらっしゃいませ」
「あ、大河内さん」
「刹那さん。来てくれたんだ」
「ええ。すみません、今しか時間取れなくて」
「お願いしたのはこっちだし。ありがと」

 マスターに目配せすると、皿を拭きながらコクリと一回頷いた。どうやら角の席を使ってもいいらしい。
 刹那さんを案内して、一応注文を取る。

「あ、じゃあ……ケーキセットで」
「あれ? 甘いの好きだったっけ?」
「いや、そうでもないのですが。なんだか無性に食べたくなって」

 何となく分かる気がした。まぁ、ここの紅茶もケーキも美味しいし。
 ……カロリーが気になって夜走りだすぐらいに。

「それで、カードでしたか」
「うん。これなんだけど」
「!」

 いつから持っていたのか、自分でも定かでははないそれを、私はいつからかお守り代わりに持ち歩いていた。
 表面に印刷されているのは男性の後ろ姿で、顔も見えずコスプレのような格好が分かるだけ。
 名前と思しき“EMIYA SHIROU”の単語も知らなかった。
 ただ。これを見ていると、胸が苦しくなるのは確かで。

「これは……パクティオーカードです」
「パク……?」
「そう。魔法使いとその従者が互いに助けあう契約を交わす時に作るものです。私も詳しいわけではありませんが……」
「何でそんなものを私が持ってるのかな?」
「普通、落としたりするものでもありませんが、拾ったという可能性がないわけではありません。けど、覚えていないというのは不可思議ですね」

 そして、何故それをこんなにも大切なものだと思ってしまうのか。

「すみません、私ではこれ以上力にはなれそうにないです。でも、持っているだけで害がある類のアイテムではありませんから、手放したくないのなら持っていても大丈夫だと思いますよ」

 私もエミヤシロウなる人物について調べてみる、と刹那さん。
 本当に助かる。ネギ先生は……なんだか忙しそうだし。

「相談に乗ってくれてありがとう。ゆっくりしていってね」

 言って、私は仕事に戻った。
 



 結局。私なりにネットで調べたり、刹那さんに調べてもらったりしても。
 このカードに映っている人については、何も分からなかった。
 分からない事に恐怖はあったけれど、いつしかその感覚も薄れていく。
 魔法が認知されているこの世界で、これくらいの不思議は日常茶飯事だ。
 別に困るわけでもないのなら、このままでもいいじゃないか。
 そんな風に考えて、日々漫然と過ごしていたある日。

「いらっしゃいませ」
「初めまして。貴女が大河内アキラさんね?」

 カードに描かれている男性を思い起こすような色合いのジャケット。
 艶やかな黒髪と、笑っているようで厳しい凛とした瞳。
 悪いとは思ったけれど、一目見て分かった。
 この女性は……

「エミヤシロウのカード、回収しに来たわ」

 敵、なのだと。








 世界渡航者が衛宮士郎・大河内アキラ両名の存在を観測しました。
 分岐世界が解放されます。
 観測者は2003年6月21日へ転移して下さい。

 (拍手)
関連記事

謝罪

取り敢えず、長い間放置していた事を謝罪します。
後書きは、ちょっと長くなりそうなので次回雑記に回します。
その他連絡もありますので、できるだけ早く雑記の方も更新したいと思いますが、諸都合のため今日中には無理です。
平日も時間が取れるか分からない為、来週になってしまうかもしれませんが。
出来れば、もうしばらくお付き合い下さい。

2011.05.08 | URL | 作者 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

一言で泣けた(TヘT)
…やはり未来は不変でしたか。だが、それを認めたくない者たちの力が新たな可能性を生み出す結果になったわけですね。
そんな新たな可能性世界の生まれを観測した『彼女』がどんな関係をし、新たに生み出された彼らの活躍に期待してます。

2011.05.08 | URL | クラウテマ #ety68uN. [ 編集 ]

よかった、作者様生きてた・・・正直失踪したのk(強制終了)
アキラが消えても残った契約・・・そしてシロウの使った固有結界
超の行為による歴史の再分岐・・・
ここまで練りこまれていると、感動必死でした!!
それに、前の文章も変わっていったことも、徐々に変化が現れはじめた証拠でしたしね・・・
ただ・・・まあ自分の脳が悪いんでしょうけど、今回はちょっと読み辛かった感があった気がします。
飲み込みきれないという感じが正しいのでしょうか?まああまり気にしないでください。
そして最後に現れた、どう見てもあの人!! 個人的には一番好きなキャラだから活躍してほしいです(チラッ

というわけでまずは一区切り、お疲れ様でした!!

2011.05.08 | URL | りゅーしん #wgQcaDnY [ 編集 ]

返信

・クラウテマさん
そういう風に言うと美談のように聞こえるけれど、結局セイバールートのテーマをぶち壊しちゃってる部分もあるので正直悩んだ結末でした。
「彼女」は、個人的にはどんな局面でも登場させさえすれば事態が好転する切り札のように考えているので、使いどころが難しいです。

・りゅーしんさん
うん、まぁその辺は次の雑記で詳しいところは語るとして。
今回読みづらく感じたのは正しいですよ。執筆期間が長くなりすぎたせいで纏まりがなくなってしまいましたから。結末から単語の使い方までかなり没出してるけど、これ以上引き伸ばすわけにはいかないと思って仕方なく、という感じでしたから。

2011.05.08 | URL | 作者 #- [ 編集 ]

ここまで完走したことはもちろん、ありがちな(だった)ネギま×Fateという設定の作品に於いて、否、他の作品と比較してもなおよく作りこまれていたと思います。
毎日更新を楽しみにここに通いつめていた日々に終わりが、あるいは始まりが来てしまったことは悲しくもあり嬉しくもありますが、兎にも角にも完結おめでとうございます。
まだ、少しだけ続きそう(?)ですが、とりあえず区切りということで。

最後の最後でシュタゲ臭薫る感じになりましたが、むしろいい。
時間移動とか世界のループとか平行世界とか……本当に大好きです。


これまで本当に楽しませていただきました。本当にありがとうございました。

2011.05.08 | URL | TG09 #- [ 編集 ]

はじめまして。
二年くらい前かな?それくらい前から愛読させてもらっています。
今回もまさかまさかの展開で驚きと感動が入り交じっています。マジで!!これから先どうなるのか全くわかりませんが是非期待して次回作を楽しみに待っています。

2011.05.08 | URL | 春ノ風 #- [ 編集 ]

第76話のラストの報告が増えているというまさかの仕掛け。
しかも、そこから更に続きがあるとは……。
所謂、タイムマシンやタイムパラドックスを利用した特性が上手く活用されていて、とても面白かったです。
この特性を活かしてる作品は最近だとシュタゲ、古いものだとドラゴンボールやドラえもん、バックトゥザフューチャーなどがありますが、いずれもタイムマシン関連の話は複雑だけど面白い話になっているので、此処からどう展開していくか楽しみです。

2011.05.09 | URL | プッチ神父もある意味タイムパラドックスを有効 しているのでしょうか……? #- [ 編集 ]

いつもながらよく練られた設定に脱帽。wktkが止まらないっ!!

最後に出てきたあの人はやっぱアノ人なんでしょうね~最初の話のフラグがここで……夢前黒人、恐ろしい人っ!!



>悪いとは思ったけれど、一目見て分かった。
 この女性は……
「エミヤシロウのカード、回収しに来たわ」
 敵、なのだと。

アキラさんの女の感が警報を鳴らしている。
修羅場っ♪修羅場っ♪

2011.05.24 | URL | desert #- [ 編集 ]


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