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屈折領域・裏鏡


一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第81話


「最後の敵」



 その名を、「心映の箱庭」。
 そう強大な能力があるわけじゃない。
 自分と、指定した相手だけを封じ込めるためのもの。

 分類としては結界宝具に分類されるだろう。
 エヴァンジェリンが持つ別荘と似たようなものだ。
 外と内で時間の流れが違うという事はないが、そう大きな差はない。
 ただ、エヴァンジェリンの別荘が魔力の充溢している空間だとしたら。

「なんだ、これは……」

 この世界は、魔力が枯渇しているという事。
 魔力は完全に存在せず、故に精霊も存在しない。
 外の世界との繋がりは一時的に遮断され、よって魔法を使う事など出来はしない。

 在るのは無限に続く乾いた大地。
 果てなどなく、真っ赤に染まった空と同じく血に濡れたような色の地面は、眺めているだけで陰鬱な気分になる。
 ここは、既に滅んだ世界だ。人も、動物も、植物も、あらゆる生き物が死に絶えた世界は、きっとこんなものなのだろうと。
 そんな予想を立ててしまうくらいには。その光景は、あまりにも寂しく生々しかった。

「このアーティファクトは、所有者の心を映すそうだ。魔法球と違って実体があるわけじゃない。かと言って幻想でもない。
 ここは一つの異界だ。このアーティファクトは、この世界を己の心で埋める管理権限を与えるもの。
 確かに、私には向いているアーティファクトだったよ。実戦で使用するのは初めてだが」

 ここに剣はない。故に、固有結界『無限の剣製』とは違う。
 心象風景とはまた異なったものではあるのだろう。或いは、これがこちらの世界における固有結界に近い技術なのかもしれない。
 故に、だからこそ。才能、資質、適性という面で、このアーティファクトに適合するのは衛宮士郎以外にいない。
 いっそ、衛宮士郎の才能がそのまま具現化したのではないかと思われる程に。

「前に、タカミチが言っていた事がようやく理解出来た気がするな。
 成程、確かに貴様は英雄で、なのに私に似通っているのだろう。羨ましいと思う反面、酷く恐ろしい」

 似たようなスタートがあったはずなのに。似たようなバケモノになったはずなのに。
 行き着いた先は、こんなにも違うと。エヴァンジェリンは少しだけ嘆く。
 正義になりたかったわけじゃない。自分の生き方が間違っていたと、悪の道に誇りなどなかったとは言わない。
 けれどそれが、楽な道への逃げだったのではないかと。この光景は、そう思わせるのに十分だった。
 衛宮士郎は壊れている。そう確信して尚、それでもそんな生き方を貫き通せるのなら。
 憧れがないとは、言い切れなかった。

「なぁ、衛宮士郎。どうすればそこまで壊れる事が出来る。これが貴様の心の在り様だと言うのなら、どうしてここまで滅んでいて、尚貴様は立っていられるのだ」

 それが羨ましくて。

「何故、ここまで……強く在れる」

 それが、怖い。
 エヴァンジェリンにとって正義とは恐ろしい存在だ。正義という概念は、悪より容易く命を奪う。
 それが悪であるならば、悪など滅ぶべきだと殺し。
 それが正義であるならば、無条件に敬う。
 そこに平等などない。正義が上で、悪が下。
 正義も悪も、時代によりその形が変わろうともそれだけは変わらない。
 負けた方が悪で、勝った方が正義になる。何が正しくて、何が間違っているかなんて、意味のない問答だ。

 ただ、強い者が正義となるのなら。否、正義になりたいのなら強くなるしかない。
 己の意志で、信念で世界を塗り替えようという気迫がなければ。
 この世界は、それを表している。そして、強さを求めた者の末路は、より強い者から受ける蹂躙以外に有り得ない。
 そうして滅んで、その心が滅びきっているのに、まだ強さを、正義を求める事が出来るというのは。
 あまりに悲しい事ではないのか。

 エヴァンジェリンは、その運命に抗えなかった。バケモノとして始まってしまった人生を、覆そうだなんて思えなかった。
 己がバケモノとして迫害される世界を、塗り替えようだなんて思えなかった。
 その先にある結果が、こんな滅んだ世界であるのなら、エヴァンジェリンの選択も間違いではない。
 ない、けれど。

「私は正義などではない。むしろ君に近い側だろうな。少なくとも私は、自身が正義であるなどと思ってはいない」

 ただ。正義を目指していただけ。
 それだけが行き過ぎて、それだけが歪み過ぎていた。
 その終着点が、ここ。こんな壊れた世界。

 嗚呼、これは憧れなんかじゃない。同情でもない。そんな綺麗な感情じゃあ、ない。
 共感と畏れだ。バケモノの共感と。ニンゲンの畏れ。
 バケモノとしては、こうなりたかった。
 ニンゲンとしては、こうなりたくはない。
 エヴァンジェリンの胸中は複雑に揺れる。

「ただ……誰にも泣いて欲しくなかった。笑っていて欲しかっただけだ」
「寂しいな。そして、随分と素直だ」
「ここは私の心で塗り固められた世界だからな」

 この世界で、士郎は嘘をつく事が出来ない。何も偽る事は出来ない。
 この世界が、彼の心を映した世界だからだ。その中に偽りが混じりこめば、そこは弱くなる。
 やがて、この異界の崩壊に繋がりかけない程決定的に。

「ならば、そうだな。私も素直になった方がいいのだろう。でなければ不公平だからな」

 酷く落ち着いた声音で、穏やかな表情でエヴァンジェリンは一歩、士郎に向かう。
 そしてふっと息を吸って。

「衛宮士郎。貴様は、私のモノになれ」
「………………は?」

 呆けたように、否、あんぐりと間抜け面を晒して士郎はその言葉の意味を咀嚼する。
 その前に、エヴァンジェリンは続けた。

「お前はもう何も考えなくていい。お前自身がここまで心を犠牲にする価値が、お前の守っている者たちにあるのか?
 私と共に来い。そうすれば、この世界をもう少し居心地が良いものに変えてやる。
 バケモノとしてもニンゲンとしても中途半端な私のように。共に、永遠を生きようではないか」

 そう、自分のように。楽しむ事だけを考えて生きればいい。一人でそれが出来ないのなら手伝ってやる。
 何が楽しいのかを思い出させてやる。徹底的に怠惰な生活を送らせてやる。快楽さえあればいい。そんな生活を保証してやる。
 だから。つまり、エヴァンジェリンは。
 仲間が欲しかったのかもしれない。同じぐらいに壊れていて、同じぐらいに中途半端な存在が。

 そして二人なら出来ると確信していた。
 一人では無理だった事も。その意欲さえ浮かばなかった思いも。
 対等で、似たような奴がいるのなら、共に乗り越えられると。

 ただ、エヴァンジェリンは知らないだろうが、かつての衛宮士郎は完璧だった。完璧に化物だった。
 中途半端になってしまったのは、麻帆良に来てから。ほんの少しは、エヴァンジェリンも関与しているかもしれない変化。
 それを知っているのはタカミチとアルだけではあるが。

「……私の不死性に気づいていたのか?」
「何だ、貴様も不死なのか?」
「いや。殺されれば死ぬ。少しばかり普通ではないだけだ」
「私が吸血鬼で、貴様は……剣か。名前もないバケモノ。似合いではあるんだろうさ。
 連れ添って生きるわけじゃない。馴れ合うわけじゃない。ただお互いがお互いを見ているだけで救われるものもある」
「それは、経験談か?」
「そうかもな。敵か味方かなど、些細な問題だ。私の共が嫌だと言うのなら、今まで通りでもいい。
 お前が私の呪いを解いて、私もお前に対価を差し出す。それでもいいから……それまでは、ここに残れ」

 その言葉で、士郎は納得した。エヴァンジェリンらしくない妥協案に。
 呪いという分かりやすい理由があったからこそ、こうして士郎を繋ぎとめようとしているんだって。
 分かりやすくて、だからこそ士郎はエヴァンジェリンの真意を読みきれない。

 呪いだけなら、別にこんな事を言い出す必要はない。
 エヴァンジェリンがあまりに士郎の事を理解し、その上で同情していたから。
 士郎は気づかれたくなかった部分から目を背けた。

 その感情は愛情に近いかもしれない。同情、憐憫、保護欲。
 およそエヴァンジェリンには似つかわしくないそれらの感情。
 けれど確かに、素直に抱いてしまったのだ。

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが、衛宮士郎に。
 この、心が剥き出しになった世界だからこそ、素直に。
 それが一時の気の迷いなのか、それは本人にも分からない。
 いや、エヴァンジェリン本人は、自分自身バカな事をやっているという自覚はあった。
 普段の自分なら、どんな不利な状況だろうが力でこの場を突破して、無理やり支配下に置く。
 この世界では無理でも、学園結界が停止している今なら出来る。
 麻帆良最強、衛宮士郎を下僕にする事が。

 ただ。それが、勿体無いと思った事も事実だ。
 アキラに頼まれた、というのもある。下僕に、エヴァンジェリンの人形になった衛宮士郎などアキラの望むものではないだろう。
 それに、まぁ、一番の理由は。
 数百年の時を生きた吸血鬼よりも壊れていて、なのに人間らしさも残っているなんて逸材には、この先幾つ時を刻もうと会えるか分からないから。
 そう、別荘に幾つも保管されているコレクションのようなものだ。
 こういうレア物は、見つけた時に手に入れてしまわないと。

 なんて。無理やり軽い思考で照れを隠して。

「ならば力づくで手に入れるんだな。ここに魔力はない。魔法も使えない。そんな世界で、キミがどう戦うと?」
「なに、大気中に魔力が存在せずとも、魔力結合が解除されるわけじゃない。既に結合している魔素は使えるからな。
 条件は五分だろう。なぁ――魔術師」
「いいだろう。私を倒せばこの世界も閉じる。そして私は時間さえ稼げば勝利だ」

 士郎が干将・莫耶を構える。今投影したものではなく、アーティファクトを発動させる前に投影していたものだ。
 この世界で、士郎が投影を使えないわけではないが……負荷もまた大きかった。

「この剣を恐れぬのなら、掛かって来い!」









◇ ◆ ◇ ◆








 経験の差、というのが如実に表れるのは、実は適応力だ。
 未知の状況へ遭遇した際、その対応方法を少しでも似通っている過去の経験を引っばり出す。
 衛宮士郎の戦闘経験は、確かに計り知れないものではあったが、数百年の時を生きたエヴァンジェリンには敵わない。
 十分に有利な地理的特性を用意しても、それは五分五分の状況に持っていったに過ぎない。

 結果。

「まさか……負けるとはな」

 力なく士郎が呟く。
 油断はなかった。明確な実力の差なんてなかった。
 例え偽物でも、心眼を持ちうる彼ならば、どんなに小さい勝機でも拾う事が出来たはずなのに。

「はは、どうだ。私の、勝ちだ」

 いつか、もう随分前のようにも感じる武道会のように、エヴァンジェリンが勝ち誇る。
 士郎は勿論、エヴァンジェリンだってボロボロだった。
 立っているのが不思議なくらいだった。けど、それでも脇腹を抉られ、肩を裂かれた士郎程じゃない。

 結局、最後に勝敗を決したのは呪いだった。
 殺すな、という呪い。それが、士郎を敗北させた。

「いや……どうかな。確かに私は負けた。だが……“私たち”は、勝利する」

 士郎が、その呪いを解かずにいた理由。
 現状の戦力バランスで、近右衛門の解放は痛い。対抗できる人間がいないからだ。
 故に、解呪は即ち計画の失敗を意味していた。ならば、士郎の、士郎たちの勝利条件は。

 世界樹の輝きが増していく。もう残り数分と待たず、儀式は完遂されるだろう。
 魔法は、世界の誰もが知る技術になる。

「フン。時間稼ぎ成功、か。まぁ私は儀式の成否など知らん。お前さえいれば全ては些事だ。
 手を抜かれたのは腹立たしいが、私もお前たちも勝ちでハッピーエンド、大いに結構。約束通り、力づくで頂こう」

 ペロリ、大人の姿で舌なめずりをして。
 一歩、踏み出したその瞬間に、油断がなかったとは言えない。
 極度の集中が得た勝利。陶酔。元より不死者のエヴァンジェリンは防御が苦手だ。
 長年染み付いた、攻撃を受けてから圧倒的な力で反撃するスタイルは、極限状態だからこそ是正できない。
 故に。

「あ?」

 時間跳躍弾は、いとも容易くエヴァンジェリンを飲み込む。
 抵抗さえ許さぬ内に、反応を返す暇さえ与えずに、彼女は3時間後に転送された。
 或いは。超は自信があったらしい時間跳躍弾でも、エヴァンジェリンは抜け出せたかもしれない。
 その効力と特性は既に知っていたのだから。一対一なら当たる愚も犯さないだろう。
 その力が万全ならば。士郎との戦いで疲弊していなければ。士郎のようなイレギュラーではなく、正真正銘の実力で。

 だが現実にやり直しのチャンスなどない。本来は。
 その禁忌を破って過去を塗り替えようとしている超は――――銃口を下ろし、能面のような無表情で歩み寄る。

「期待通りだヨ、衛宮士郎」
「な、に?」
「エヴァンジェリンが力を取り戻し、貴方と戦えばこの結果は見えていた。どちらも無事では済まない。それは史実」

 淡々と告げる。
 悲しいのか。嬉しいのか。辛いのか。楽なのか。嫌そうなのに、決意は鈍らず。

「お前は、」
「儀式は成功スル。貴方がエヴァンジェリンを留めてくれた一時間のおかげで、準備は全て完了した。
 後は、私の合図さえ必要ない。誰にも止める事は出来ないネ」
「お前も! ……この戦いには参加しない事に同意したはずだ」

 超は頷く。しかし直後に首を振った。

「イヤイヤ。私自身、本意ではないんだヨ。けれど、あの未来を回避する方法は二つの条件がある。
 一つは魔法の存在を世界にバラし、“下地”を作るコト。
 二つ目は……衛宮士郎の存在を抹消し、イレギュラーを正すコト」
「俺の、存在を?」

 イレギュラー。衛宮士郎という男に対して、何度も使われてきた単語だ。
 突然現れ、特異な能力を持ち、過去のない不審な男。
 そしてそれ以上に。この世界で数人しか知らない事実がある。
 聞かされても信じられないような、眉唾な真実。

「並行世界からの来訪者……その存在もさることながら、全く非常識にも程があるネ」
「時間移動を実現させたお前が言う事じゃないだろう」
「それもそうカ。ウム、まぁ似たようなものかもしれないネ。確かに私の存在もイレギュラーではあるヨ」

 何故、士郎がどこから来たのか、という来歴について知っているのか、それをわざわざ士郎は問わなかった。
 意味がない。超は未来人なのだから、未来でそれはバレているという事だ。

「しかし私と貴方は違ウ。私は未来、この世界に生まれ落ちる者ネ。でも貴方はその存在の始点がこの世界にはない。
 全てにとって、貴方はイレギュラーであり異端者ヨ。それ故に歴史は歪んでしまった」

 有り得ない事ではない。むしろ当たり前に、当然のように。衛宮士郎が存在する事の影響は、大きかった。
 彼が存在しないだけで、歴史の流れは大きく変化するだろう。
 それだけの力と、そして思想があった。

「……個人的には、ネ。貴方の存在に救われた事もある。貴方に存在していて欲しいと思ウ。しかしこのままでは、貴方は失敗する」

 そして。魔法を否定する、と超は語った。

「次善の策であった事は誰もが認める。あれだけの犠牲者で済んだのは、貴方がこれから行う捨て身の策のおかげネ。
 ……でも。結果、魔法は消えた。貴方が消した。魔法の使い手は消え、人類は科学のみに頼り進まなければならなくなった」

 具体的にどういう過程で、士郎がその選択肢を進んだのか、超は語らない。
 語るには時間が足りないというのもあるのだろう。
 こんな、計画の終わりになってようやく語り出すのは、その行動に意味があるからだ。
 超は士郎が知っているべきだと考えている。士郎に超の行動を邪魔する事ができない程傷めつけられた現状だからこそ。

「魔法があれば、救える命も多かった。魔術があれば、叶った願いもあった。魔法があれば、戦う事もなかった」

 苦しそうに。過去を、否未来を思い出しているのだろう。
 士郎は、魔法があれば戦う事がなかったと、その一言に驚愕していた。
 魔術にせよ、魔法にせよ。それらは、争いの元になると士郎は考えていた。

 士郎自身が全てを失ったのも魔術という存在が遠因ではあるし、この世界でさえ魔法にまつわる争いなど星の数程ある。
 確かに自然災害など、魔法でしか救えないものも、争いと同じだけあるはずだ。故に士郎は魔法を肯定する。
 しかし……それが結局隠されたものでしかなく、そんな体制を気にして力を制限するような世界では、魔法が存在する意味もない。
 そう考える。だからこそ超の計画に賛同している。

 魔法が存在する意義は、人災ではなく天災に対抗する為。
 そう考えるからこそ、魔法さえあれば戦う必要もなかったという超の言には首を傾げるしかない。
 いや、それはおそらく人的なものなのだろう。世界がどうこうという話ではなく、酷く個人的な。
 超と、その周りだけに限った話。彼女たちにとって、魔法は救いだったというだけの話。

「だから、私を殺すか」
「……そうネ。そう、命令されていた。衛宮士郎をこの特殊弾で時間的特異点に放り出す。それによる時間軸の再修正。
 貴方が世界に与えた影響をリセットする事。その上で、魔法を世界に開示したという結果が残れば、私の目的は完遂される」

 超の背で、世界樹がその輪郭さえ霞む程の発光を見せた。
 儀式が完了したのだ。瞬間、その光は天に集まり世界に散らばる。
 明日の朝、目が覚めれば誰もが魔法を信じている。そんな世界は確定した。

 しかし、超が言うような世界の修正が行われるかどうかは、賭けだ。
 勿論ある程度の実証はしているのだろう。並行世界への移動ではなく、時間軸の移動によってもたらされる矛盾に関して、士郎は何も知らない。
 ただ、世界が異物を嫌うのは事実だ。
 世界は英雄を生む。ならば、今の超こそが英雄として機能しているのだと、それを否定する事を誰が出来るのか。
 真偽の程は確かめようがない。

 ならば、と。それが事実で、衛宮士郎という存在が消える事で全て丸く収まるというのなら。
 少なくとも、それで超が救われるのなら。
 既に一度は死んだ命。どうせもう身体は動かないのだから、くれてやるのに後悔はない。

「よかろう。私には似合いの末路だ。エヴァンジェリンには悪いが、この生命でいいならくれてやる」
「…………!」

 嫌がってくれればいい。死にたくないと懇願してくれればいい。
 そうすれば、引鉄にかけられた指が震える事もなかっただろう。
 その罪さえ消えてしまうけれど、超自身も消えてしまうかもしれないけれど、最後の瞬間まで己の罪として覚えていられる。

 でも、そんな風に受け入れられたら。罪悪感は、底抜けに溜まっていく。
 未来、過去に転移するまでは、話に聞かされた人物像に憧れながらも、それは必要な事だと納得していた。
 仕方ないのだと。一抹の寂しさを覚えても、こんな風に躊躇う事なんて想像もしていなかった。
 けれど今、超は迷っている。論理的じゃない、超らしくない思考で埋め尽くされている。

 銃口は定まらず、超は泣きそうな顔で左手を添える。
 銃弾は一発しかない。未来でも現在でも、造れたのはこれ一つだけ。
 だから、この一発を外してしまえば、超は士郎を消す必要なんかなくなる――。

 でも。でも。でも。でも。しかし、だって、けど。
 ここで失敗してしまったら、超が過去にやってきてまで叶えたかった願いは、変えたかった結末は。

「待てっ!」

 迷う超を遮るように、二人の頭上から声が響いた。
 刹那だ。木乃香を抱え、頭上から一閃。超はカシオペアを使って回避する。特殊弾も無事だった。
 その事に、超は一瞬ほっとする。

「お嬢様は急ぎ治療を! ここは私が食い止めます!」

 夕凪は鞘に収め、刹那はアーティファクトを呼び出す。
 時間跳躍弾に対するには刀では不利だ。同じく遠距離兵装での相討ちだけが有用な手段となる。
 迷いを抱えた超は、凛と立つ刹那を苛立たしげに睨む。その迷いのない綺麗な瞳が、決意の炎が、恨めしかった。

 その感情に従い、超は銃弾をばらまいた。
 士郎を治癒されてしまったら、超に勝ち目はない。時間跳躍弾も士郎相手に効力は薄いのだ。
 仕留める手がないわけではないけれど、それを実行して成功出来るとはとても思えない。
 故に。迷っている現状を維持する為にも、超は二人を排除しなければならなかった。

「させるかっ」
「邪魔ネ!」

 ばらまかれた銃弾を全て撃ち落とした刹那は、次弾を防ぐためにアーティファクトの再呼び出しを行う。
 超はその隙をカシオペアを用いて突き、逆に接近戦をしかけた。
 電撃からの強打。痺れ飛ばされた先に跳躍弾を打ち込まれ、相殺させる事が出来なかった刹那はそのまま呑まれる。

「せっちゃんっ」
「君もだヨ」

 次いで、士郎の治療を終える前に木乃香も呑まれた。
 木乃香は既に何人もの相手に完全治癒呪文をかけつづけている。幾らアーティファクトがあるからと言って疲労がないわけではない。
 その疲労が生んだタイムラグが明暗を分ける事になった。
 再び周囲に静寂が戻る。

「なぁ」
「……今頃命乞いカナ?」
「いや……いや、似たようなものかもな。二人の姿を見たら、心残りが出来た」

 そう言いつつ、士郎は動こうとはしない。
 動けないだけかもしれないが、その意志がないようだった。

「私が消えれば、その痕跡も記憶も、全て消えるのだな?」
「……おそらく。起こった事実は変わらず、原因だけが書き換えられるはずネ。けど誰も貴方を覚えていられない。
 誰もが違和感を感じながらも、それに気づかず生きていく」
「そう、か……なら、いい」

 自分が消えても悲しむ者がいないのなら。悲しむ事さえ出来ないのは寂しい事ではあるけれど、まだマシだ。
 心残りがあるとすれば。

 タカミチの力を奪ってしまった責任として、最後まで魔術を教えてやれなかった事。
 刹那の行く末を見守れない事。
 木乃香の護衛を果たせなかった事。
 高音と愛衣に中途半端な事しか出来なかった事。
 アキラに、告白の返事をしていない事。

 全部捨てて麻帆良を離れようと思っていたのに、いざそのチャンスが完全に失われるとなると、寂しく感じた。
 やり残した事。先など見えぬ人の身では、後悔ばかりが積もっていく。
 それでも、そんな「ああすれば良かった」を、士郎は全部飲み込んで。

「すまなかった……そして、ありがとう」
「なにを」
「遺言、だよ。意味はないが、この世界の全てに」

 慈しむように虚空へ手を伸ばし、士郎は何かを掴んだ。そして目を閉じる。
 その動作に意味はない。けどきっと、それが超に決断させた。
 遺言と。そこまで急かされて躊躇うようでは、逆に士郎に失礼だ。

 今度こそ、震えはなかった。迷いはある。こんな事はしたくないと思う。
 後悔する事も出来ないだろう。けど、どちらを選んでも後悔する自信があった。
 だから、ならせめて。その目的を完遂する。

「私は忘れないヨ、士郎サン。私は、私だけは、きっと……」

 一筋涙が伝う。
 卑怯な自己満足だと分かっていたけれど、超も目を閉じた。
 照準は自動補足だから、相手が動かなければ外れる事はない。

 音はなかった。その発射音を理解したくないだけだったのかもしれないが。
 だからそれに気付かなかった。超も、士郎も二人とも。

「そん、な……」

 いつまでも訪れない衝撃に目を開いた士郎は、目の前の光景に絶句した。
 そこにあるのは白い結界領域。時間跳躍弾による転移と似ているようで、決定的に違う。
 そしてその中に、士郎の代わりに飲み込まれていたのは。

「あ、きら」
「なんで」

 士郎と超が呆然と見つめる。一度発動してしまえば、もう解除の手立てはなかった。
 フラガラックも間に合わない。

 その、絶望が浮かんだ士郎にアキラは叫ぶ。
 自分の状況も、きっと分かってないだろう。死ぬより酷い事になると言う事なんて、分かるわけがない。
 きっと思わず飛び出してしまっただけ。当たり前のように、銃弾から死に体の士郎を庇っただけだろう。
 でも、士郎の表情から、何か言わなければならないという事だけは悟った。
 気にしないで、と。これは当たり前の事だから、と。
 何も知らないのに、アキラは純粋な善意と不純な好意で叫ぶ。

「私、スキだから! だから、後悔なんてない――」
「待て! 待ってくれ……!」

 士郎は起き上がり手を伸ばす。ギシギシと限界を超えた音がした。
 けれども躊躇せずに飛び込んだ。
 そして、その一瞬前に。

 ぷつり、と。

 あまりに呆気無く。


「あ、あ、ぁぁああああああああああああああっ」


 その絶叫だけが、世界に残った真実。
 大河内アキラは、過去未来現在の全てにおいて。

 世界から、消えた。









































 その変化は、そう大きなものじゃなかった。
 人一人が残せる結果なんてのは、その実そう大した事はない。
 歴史に名を残すような偉人だったとしても、実際にそれを成すまで無名なら、影響があるのは未来だけだ。

 大河内アキラという女学生が世界に与えた影響は、少なくとも2003年の現在においてその程度。
 誰も覚えていない。誰も知らない。

 3-Aに空いている席が二つある事に疑問を感じる人間もいない。
 水泳部のロッカーに空きがある事を不思議に思う人間もいない。
 ルームメイトがやたら部屋を広く感じても、何も気づかない。
 喫茶店の常連が一人減ったって、分かるわけがない。
 
 何故作ったのかも分からないアクセサリーが手元にあっても、それが何故か分からない。
 酷い違和感を感じていても。その笑顔をデジャヴとして感じる事があっても。
 決して真相には辿りつけない。

 銃弾はたまたま外れた事になって。
 後悔さえも。その世界には、残らなかった。
(拍手)
 
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後書き

今回は、本当に土下座しなきゃならんぐらいですね。
3月中とか言っておきながら、もう既に4月半ば。本当に申し訳ありません。
最終話、と言いつつあとエピローグを残しています。
展開的には超展開過ぎだろ、どこがハッピーエンド至上主義なんだ、と言われてもおかしくないものになっていますが、まぁ残りを読んで頂ければ納得して貰えるかな、と。
その残りのエピローグも時間かかってしまうかもしれませんが。
早い内に一区切りつけたいものです。ではまた。

2011.04.17 | URL | 作者 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

更新お疲れ様でした。
エピローグも楽しみにしております。
無理をなさらないように、適度に執筆していただければと思います。

2011.04.17 | URL | Reva #- [ 編集 ]

Re:

うす。まぁ今日の残りで書けるだけ書いて、後は会社に居る内に妄想して新規連載のネタでも考えておきます。

2011.04.17 | URL | 作者 #- [ 編集 ]

ハッピーエンド至上主義かぁ・・・今回はどんな活躍をするんだろうなぁ・・・(読み始め)
おぉ、二人の葛藤が生々しくていいなぁ、エヴァのこれ告白か?・・・(エヴァ戦)
超ぉぉおお!!お前ここで乱入かぃ!!ナンテコッタイ!!(エヴァ転移)
うわっ、重っ!!これガチで重い!!相当未来への影響あったのかよ!!(士郎と超の対峙)
ああぁあ!!エミヤんがピチュっちゃう!!誰か・・・ってアキラさん!?何やって・・・ぎゃあああ飲み込まれた!!(ラスト)

えぇ展開の急激さに鳥肌モノでしたよ、泣いちゃいましたよ!!
次がラスト・・・作者様のあと数年と言った言葉を信じて、次回を待とうじゃありませんか!!
あ、お体には気をつけてくださいね。

2011.04.17 | URL | りゅーしん #wgQcaDnY [ 編集 ]

実は結構以前から拝見させていただいていたのですが、初コメです。

おもしろい!
この一言につきます。
ラストまで楽しみたく思います。

無理なさらない範囲で執筆して下さい。
応援してます。

2011.04.17 | URL | のめ #ktm8iB1w [ 編集 ]

なんかもう衝撃的な結末をむかえてしまった
まさかのアキラ消滅ですかエピローグがどんな風になるか気になりまくりです!

2011.04.17 | URL | たか #- [ 編集 ]

Re

なんかもう色々バレまくりですが。最後までお付き合い下されば、という事でコメント返信。

・りゅーしんさん
ちょっと詰め込み過ぎたかな、と反省してます。
最後のエヴァ戦は本来の予定にはなかったし、アキラ消滅なんて一週間前に思いついたネタだし。
この展開で大丈夫か考察するのに一週間もかかってしまったわけですが。
元々は超ではなくアキラこそラスボスだったんですけどねー。そのためのアーティファクトだったんだけど。別の用途を思いついてしまったのでこんな感じに。

・のめさん
ありがとうございます。出来るだけ早く更新できれば、とは思いますけど、お言葉に甘えて睡眠時間はがっちり取る事にします。

・たかさん
これをハッピーエンドとか虚淵じゃねーんだぞ、とか言われそうな気もしますが、まぁそもそも後書きに罠が仕込まれてるんで。
そういう意味で色々考えていると待っている間も楽しいかも?

2011.04.17 | URL | 作者 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

まさにハッピーエンドになると思っていたのか?……です。
まさかのアキラ消滅……何という展開!全く予想できぬ!……です。
これはもう黙って、続きを待つしかない。

2011.04.18 | URL | ブロリー……です #- [ 編集 ]

コメント返信

ううう、ごめんなさい。無駄に壮大にしようとして失敗した感がなくはない。
まぁ、実際消失するのがアキラである必要があったのか、と言われると……衛宮士郎以外なら誰でも良かったのは事実。理論的には。
まぁ最終的にはハッピーエンドになるはずなので、少々お待ちを。

2011.04.18 | URL | 作者 #- [ 編集 ]

読んでて鳥肌が立ちました。

まさかここでアキラが…。

普段はコメント書かないんですが、
思わず書きこんでしまいました。

エピローグも楽しみにしてます。

2011.04.18 | URL | sat #- [ 編集 ]

コメ返信

いい意味でも悪い意味でも、ネギまSSで人死にやそれに類する状況は出てきませんからね。珍しい部類なので、衝撃も強かったのかな。
エピローグで更に驚いて貰えるといいんですが。

2011.04.18 | URL | 作者 #- [ 編集 ]

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2011.04.18 | | # [ 編集 ]

屈折してやがる

サイト移動前の一話から読んでました。
アキラがここで好きになり最近、扱いが向上されうれしかった。
ハッピーエンドがあると思ってました。
作者様にソンナコトナカッタ(笑)ってされた。
今回が最終回だとかで絶望しました。
昔、何故『屈折領域』なのか疑問でした。
こういう意味で屈折した領域だったとは…。
作者様は好きでしたが、今は揺らめきつつある。
あぁ…魔法界編読みたかった。(泣)

2011.04.22 | URL | クラウテマ #Pg4gQZGg [ 編集 ]

ようやく、関東でまどかマギカ最終回放映されましたが……これは、あの御方にしては、ハッピーエンド……なのだろうか?
最終回を見たら、こちらの最終話を彷彿させられたのでついつい、寝ずに最初から読み返してしまいました。
読み返してみると改めて続きが気になってきたのでエピローグ楽しみにしてます。

2011.04.22 | URL | NoName #- [ 編集 ]

返信

・クラウテマさん
……すいません、としか言えないな。悪ふざけが過ぎました。ちゃんと魔法世界編は魔法世界編で始まるんでお待ち下さい。
とりあえずは、何故一旦区切らなければならなかったのか、エピローグで判明する予定です。

・Noname
まだ見てねー。つか飲み会オールだったから帰って来たの朝6時、で3時間ぐらい寝てこうして返信書いてるわけで。
とりあえず、まどかの影響でこっちがこうなったわけじゃない、とだけは言っておきましょう。

2011.04.23 | URL | 作者 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

ルールブレイカー使えよ

2014.01.09 | URL | NoName #- [ 編集 ]


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