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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第80話


「挑戦に非ず」  この戦いは、挑戦ではない。
 衛宮士郎がこの世界に辿りついてから得てしまった安穏を、甘えを捨てきれなければタカミチが勝つだろう。
 この世界で、最も衛宮士郎を理解しているのはタカミチだから。
 彼を止める為に、どれだけの覚悟と、力と、願いが必要なのか。それを、良く知っている。

 だから。

「やぁ士郎。いい夜だね」

 士郎は答えない。油断なくタカミチを観察しながら、構えをとった。

「意外だな。あれ程私を止めると言っていた癖に、不意打ちの一つもなしとは」
「………………」

 それに対して、タカミチは黙して語らない。
 ただ、ポケットに手を突っ込んだ、あの独特の構えを見せるだけだ。

 しかし、それはおかしい。士郎はすぐにそれと気づく。
 タカミチは既に魔術を得た。しかしその代償に今までの戦闘スタイルを捨てざるを得なかった。
 それが現実で、故に今更過去の構えをとったところで意味はない。
 或いはそこに何らかの意味が込められているのかと士郎は考えを巡らせたが、答えには辿りつけなかった。

 士郎には、それなりにタカミチの事を理解しているという自負がある。
 それはタカミチも同じなのだろう。お互いその理解に基づき行動しているはずだ。
 故に、タカミチのこの行動にも何かしらの意味はあるはず。
 或いは、タカミチのこれは士郎が気づいてくれる事を見越した行動なのかもしれない。
 だから士郎はその意味を考える事をやめるわけにはいかなかった。
 友だから。友達と、そう呼んでくれる男が相手なら、当然のように。

「……おい。なんとか言ったらどうなんだ?」

 しかし幾ら考えを巡らせても分からない焦燥から、士郎はタカミチからヒントを得ようとした。
 直接に問えないのだから仕方ない。しかしそれにも答えず黙すのならば、さすがに士郎も異変に気づく。
 これはあまりにタカミチらしくない。で、あるならば異変の原因は……。

「極而、双頭」

 声は、天から降ってきた。
 その瞬間、異変の原因とタカミチの狙いを士郎は悟る。

 これは不意打ちだ。士郎が行ったモノと全く同じ。
 身代わりを正面に据え、それに対する敵の背中を撃ちぬく。
 初歩的ながら、見破られさえしなければやられた事さえ気づかれない。
 しかも、残る敵がタカミチのみとなった時点で仕掛けてくる辺りが嫌らしい。
 エヴァンジェリンならば不意打ちなど性格的に出来ないだろうという判断から、士郎は現在眼に見えない敵に対しての注意が散漫になっていた。
 それよりも目の前の敵に注力すべきだと。相手が、下手を打てば一つのミスで呆気無く敗北しかねない実力者だと分かっているからこそ。
 不意打ちはない、と。その行動がタカミチらしいからこそ、士郎でさえ引っ掛かる。
 ただ。同じ策でも、士郎とタカミチの違いは。

「なっ!?」

 上空を滑空しながら、士郎も知らない技を発動させようとするタカミチと。
 囮であるはずの式神の、“爆弾を投げる”という単純動作。
 その、一人で出来る挟撃は、流石に士郎でも捌ききれるものではなかった。

 轟音。そして、上方からのタカミチの一撃、否二撃は、タカミチの式神ごと地盤をくり抜いた。
 元々地下にも空間が広がっている場所である。ちょうど先ほど士郎が攻めた管制室と地表がつながった形だ。
 これで制御系統は完全に使い物にならなくなってしまうだろう。タカミチの立場からしてみれば、思い切った行動だ。

「出てこい士郎。これぐらいで死にはしないだろう?」
「ああ勿論。尤も、直撃していれば死んでいたかもしれんがな」

 埃で煤けた士郎は、すぐに姿を現す。
 明確な傷はないが、まったくダメージを受けていないというわけではない。
 タカミチの攻撃は挟撃と言うには少しばかりタイミングがズレていた。普段爆発物など扱わないから当然だろう。
 士郎はタカミチの攻撃を優先的に避けた上で、崩落した穴に自分から飛び込む事で爆発を逃れた。
 だがそれでも、余波だけで十分な威力。直撃したら、というのはあながち冗談ではなかった。

「しかしお前も性格が悪くなったものだな。今のは俺のものだろう?」
「そう。君の工房に置いてあったものだよ。この街では、すぐに爆発物なんて手に入らないからね。知識もないし」
「お前に結界破りを教えたのは間違いだったようだな」

 実際のところ、工房に張ってある結界は、士郎の技量的にそう大したものじゃない。
 タカミチでもあと数年経験を積めば張れるだろうし、力任せに解除することは可能。
 ただし、どうにもこちらの世界の魔法使いたちは、魔術的な世界の区切りを感知する事が難しいようだ。
 タカミチは魔術回路を持っていたからか、最初からその方面には秀でた才能を持っていたようだが。

「いや、感謝しているよ。君の工房にある数々の武具について、説明してくれた事もね」

 喫茶アルトリアの地下に存在する工房……そこには、士郎が投影した刀剣類やら片手間に作成した武具、依頼を受けて作成した品々の試作品などで溢れている。
 その有用性は、関西が士郎の武器に高い値を付けている事からも明らか。
 それは、士郎自身でさえ滅ぼす事が可能な程の。

「成程。手加減はなし、否、手段は選ばないという事か」
「ああ。そう言っただろう? そして、以前の君ならばこういった裏切りにも対策は施していたはずだ」

 タカミチは告げる。
 この世界でも、衛宮士郎は理解される事はない。
 一部の個人が彼を受け入れる事はあっても、結局衛宮士郎の在り方はこの世界でも、魔法使いのみで構成された社会であっても受け入れられない。
 そんな事は、士郎自身良く分かっている。分かっていた。けれど、それでも、本人が思っている以上に。

「君は希望を抱いてる。魔法の在り方の違うこの世界なら、君が続けてきたやり方でなくても救えるかもしれない。
 口ではどんな事を言っていても。肝心なところでキッチリ手を下していても。思考が甘い方に流れている。
 それじゃあ、君は遠からず死ぬ。敗れる。負ける。敗走する。君は異常だから強いんだ。普通に戦うのなら、意味なんてない」

 この世界の、魔法使いたちにとっての常識的な生き方じゃ。
 衛宮士郎の真価は発揮できない。それでも確かに強いだろう。けれどそれは普通の強さだ。

「言いたい放題言ってくれるな」
「言うさ。これでも僕は、君の友達だからね」

 士郎が、普通の生き方を選ぶというのなら、それはそれで構わなかった。
 己と、己の持つ全てを犠牲にしてまで他者を助けるその在り様を放棄し、平凡に平穏に生きていくというのなら。
 戦うなとは言わない。守るなとも、命をかけるなとも言わない。
 それが士郎自身のためならば。或いは、刹那のためでも木乃香のためでも、他の誰かであったとしても、それが唯一人ならいい。
 いや、二人、三人と増えていっても構わない。
 顔も名前も知らない誰かの為に、その生命を投げ出すよりは。
 顔も名前も知らない誰かの為に、誰かに犠牲を強いるよりは。

「刹那君との試合、聞いたよ。君、本当に刹那君の選択次第では生き方を変えていたのかな?」
「……そのつもりだったが」
「それならね、士郎。僕は別に良かった。その道を刹那君が選んでいたら、そして彼女が結局超君に協力して、同じように君が麻帆良の敵になっていてもね。
 それなら、君を止めようなんて思わなかったさ。その先にある未来なら、僕はまだ希望を持てたから」

 でも。

「君は甘くなった。自覚していてもいなくても、もう手遅れだろう。
 家族でもなく、特別に親しいわけでもない人たちから、君は好意を受け過ぎた。
 『問題は』。それでも君は、以前のように決断を下せてしまう事だ。
 どんなに迷い、惑い、苦しんでも、君は同じ結論に至る」
「それは……哀れみか?」

 結局同じところに行き着いてしまうなら。元の、昔の、壊れたままでいた方が余程いい。その方が、数という形で犠牲も減る。
 この戦いを経て、士郎がこの世界で得る事ができた甘さを捨てきれるのならそのまま進んでもいいだろう。
 でもできれば、その甘さを持ったまま、この街に留まって欲しい。

 タカミチが士郎を止めるのは、魔法協会の為ではないし、麻帆良の為でもない。
 彼を慕う幾人かの生徒、教師たちの為でもないし、タカミチ自身の為でも、勿論ない。
 ただ、この友人が行き着く先に、少しでも幸せがあって欲しいと。
 或いは他の全てを裏切って、タカミチは今ここにいる。
 士郎が、破滅への道を歩いて行く前に。その全霊を以て、止めるために。

 だからそれは、或いは哀れみなのかもしれない。
 でも、敢えて名前を付けるなら。

「いいや。友情だよ」

 恥ずかしげもなく、タカミチはそう言った。言い切った。
 その言葉に、少し士郎も救われる。
 思えば、友人には恵まれない半生だったからだろう。
 同じ力を持って。同じ願いを持って。
 友人はいたかもしれないが、同志は。あの世界のどこにも、存在しなかった。
 並び立ってくれる人がいても。それは、友情ではなかったから。

「正直嬉しい。だがタカミチ。今更だろう、そんな事は」
「……っ!」

 分かっている。分かっていて、それでもいいと諦めている。
 だからこそ。

「ああそうだろうさ。君はそういう奴だ。だから僕は……!」

 怒っているのだとアピールしつつ、タカミチは極而双頭を披露した。
 極而無極が、右から左、左から右と常時変動する極を持つ型だとするのなら、こちらは一定の極を持つ。
 二対と言ってもいいだろう。
 右腕、手のひらから肩まで。
 左腕、手のひらから肩まで。
 拳から放出された魔力は、渦を巻き循環し続ける。ある意味、収束点を腕全体に固定した形だ。
 魔術回路の負担が増える代わりに、瞬発力に富んだ型。

「成程な。弱点を克服できないのなら、利点を追求するか」

 士郎の指摘通り、この型は攻撃特化だ。胴体の防御も、足の速さも全て犠牲にして。
 固定砲台としての機能のみを追求した弐式。
 攻撃こそ最大の防御、を体現する為の型。

 無極では、士郎は切り替えのタイミングを正確に読んで攻撃してくる。
 或いは無風地帯である拳を的確に。
 結局弱点を晒すのならば、それが広く大きくなろうとも、対抗する為の武器を得ようと。
 その試行錯誤の結果がこれだ。
 そして、そのシミュレーションの相手は、士郎の基本スタイルである干将・莫耶。

「成程、考えたな」
「ああ、いつも考えていたさ! 君を打ち破る方法を!」

 競り合いになれば、タカミチに有利になる。その為の型だ。
 士郎の太刀筋に合わせられる限りにおいて、タカミチは有利になる。
 タカミチのそれは、全身を覆っていたときと比べて格段に魔力密度を増していた。
 干将・莫耶を、その肉に到達する前に弾き返せる程に。

 弾き返すとまではいかなくとも、その軌道を逸らすだけでも大いに意味がある。
 或いはこれが基本的に動かない胴体であったなら、逸らされたとしてもその事実を前提に士郎は修正を施すだろう。
 狙い通りのポイントに斬りつける事が出来る。
 だがこれが腕であるなら。流石に対応しきれない上に。

「二条大槍収束拳!」

 その双腕から放たれる高密度の魔力を核とした拳圧は、かつての無音拳に劣らない。
 スピードや保護効果など、細部ではまだ及ばないものの、総合的な戦闘力では魔術も含め向上しているだろう。
 全体として能力が向上している必要はない。その攻撃の瞬間のみ、限界を超えられれば。

 間合いから避けきれぬと判断した士郎は、双剣を投擲する。
 そして発動の瞬間爆発させた。その爆風で直撃は避け、ダメージは受けるものの距離を取る。

「それだけの処理能力……分割思考か」

 無極において、タカミチは放出点と収束点は一対のみであり、故に流れるベクトルは一つだけ処理していれば良かった。
 しかし、双頭からは極の数に応じて思考を分割していく必要がある。
 それは右を見ながら左を見るような動きだからだ。
 タカミチの能力では、それらを処理しきれなかった。
 故の分割思考。右腕と左腕、タカミチはそれぞれを独立的に動かしている。

「ならばっ」

 士郎は努めて高速かつ連続的な攻撃を行った。
 分割思考を教えたのは最近の事だ。別荘もあるから既にマスターしている可能性もあるが、普段よりも疲労は溜まるはず。
 思考の疲労は判断ミスを生む。その回転が速くなる程に、その率も増していく。

「くっ」

 だから、積み上げた年月は銀のように光るのだ。強すぎず、けれど決して鈍らずに。
 久しく忘れていた感覚だ。タカミチは、ずっとその経験と、努力で積み上げてきたものを頼りに戦っていた。
 その技術の、積み上げてきた幾星霜が崩れ去り、こうしてかつての頂きまで登ってきても。
 一度失ってしまった事実は変わらず、そして急ぎ過ぎた代償がこんなところで伸し掛る。

 ああ、もどかしい。もっと力があれば。もっと上手ければ。もっと時間があれば。
 かつては得ていた万能感が、今は遠い。
 同じ程度の強さを手にしたのに。こんなにも、遠い。

「タカミチ。お前は、今の社会が正しいと思っているのか?」

 魔法使いの社会は、一見理路整然と調和が保たれ、実力主義ではあっても志高い理想的なものだ。
 麻帆良にいると、特にそう感じてしまう。表面的に見える理想は、確かに誰しもが善と見なすだろう。
 弱きを助け、悪しきを挫く。その悪が、どれだけ強大であろうとも。
 だが。それだけが、魔法使いたちの造る社会ではない。

「だから、魔法を世界にバラすのか?」
「それで終わり、というわけではないがな」
「その先の混乱を、君が分からないはずないだろう」
「超のシステムは良く出来ているさ。それが万全だとは俺も言わない。いつかは破綻するし、万事上手くいくことなど有り得ない。
 だが。希望の欠片を残す事は出来る」

 連撃は続く。一秒毎に過激に、一回り毎に荒々しく。

「ああまったく! 君は正しいんだろうさ。どうしようもなく、憎たらしいくらいにね。そして、正しすぎて、綺麗じゃない」
「綺麗なら正義か? 醜悪ならば悪か? そうじゃないだろう」
「なら! そこに笑顔がなくてもいいのか。正しければ!」

 会話もヒートアップしていった。戦闘の苛烈さに応じて。
 取り繕うこともなく、本心をさらけ出していく。

「美しさを求めて犠牲を生むよりはマシだ!」
「違う違う違う違う! 違うだろう! 君が、僕が憧れたのは正しかったからじゃない。彼らが――――」

 綺麗だったから。美しいと、そう思ったから。
 その在り方が。その願いが。その、誰かを助けられたと安堵を零す表情が。
 だからそうなりたいと、憧れたんじゃなかったのか。

「――――っ、それでも俺は!」
「このわからず屋が!」

 隙間なく埋め尽くされていた連撃の応酬はピタリとやんだ。
 一瞬の静けさは、次なる一撃の補充時間でしかない。

 士郎は双剣を捨て、かの狂戦士が用いた石斧を投影した。
 タカミチは、弐式から次なる参式へと型を変えた。

 士郎には学園長から受けたダメージがある。この戦いでの疲労もあった。その技を用いるには、身体は万全には程遠い。
 タカミチの参式は未だ完成には程遠かった。分割思考も三つには至っていない。頭脳も魔術回路も、限界を超える。

「是<ナインライブス>」
「極而三目」

 右腕が壊れてもいい、という覚悟で士郎は魔力を注ぎこむ。
 頭が割れてもいい、とばかりにタカミチは力ずくで抑えこむ。

 そして。

「――射殺す百頭<ブレイドワークス>」
「――千鳥三叉戟」

 九と三が、ぶつかった。






◇ ◆ ◇ ◆





 一人、街を見下ろした。
 光り輝く世界樹の上。明るすぎて、星空は見えない。

 この場にいるのは彼女のエゴだった。
 アキラが戦場に行ったところで、何もできない。邪魔にしかならないだろう。
 だから。せめて、この戦いの結末を見守りたいと。そう願った。
 それはただのお願いでしかなく、契約の範疇ではなかったろう。だからエヴァンジェリンがその願いを叶えたのは、きっと気まぐれ。
 サービスだ、と笑う彼女の真意をアキラは知らない。
 知らないが、感謝はしていた。

「大河内さん」
「あ、茶々丸さん」

 ジェットを噴かせて茶々丸が飛んでくる。

「あの、なんで?」
「護衛です。マスターには、ついて来るなと言われてしまいました」

 二人になって、また街を見下ろす。
 一つの戦いに幕が降りた事を、アキラは肌で感じる。
 そしてまた。最後の戦いも始まろうとしていた。





◇ ◆ ◇ ◆








 天から白い羽根が舞い落ちる。それが刹那のものだと気づいて、士郎は一瞬呆けてしまった。
 刹那は木乃香を抱えている。今の、士郎とタカミチの戦いを上空で観察していたのだろう。
 どちらが傷ついても、すぐに癒せるように。

 タカミチの極而三目は、まだ未完成だった。
 出力そのものは足りていたのだろう。両掌と眼前虚空に収束点を作り、それぞれが拡散型の魔力弾を放つ。
 だが。それでも、大石斧を押し返すには至らなかった。

 倒れ伏すタカミチは、右腕と両足が寸断されている。
 本当ならバラバラになっていてもおかしくないのに、これだけの傷で済んでいるのはタカミチの技によるものだ。
 全てを押し返す事はできなくても、その攻撃の何筋かは破壊した。

 ただ。実際のところ、タカミチが生きながらえている最大の要因は、学園長が士郎にかけた呪いにある。
 今の士郎は何も殺せない。故に、士郎自身が致死性を持つと理解している攻撃は出せない。
 急所を狙う事は出来ないのだ。
 それがタカミチにとっても、士郎にとっても救いだった。

「今すぐ治癒します」

 既にアーティファクトを行使し始めている木乃香を背に、刹那は士郎に向かった。
 木乃香の代わりに治療開始を宣言して。同時に、追い打ちも許さないと油断無く。
 それが任ではあったけれど、刹那もまだ少女だ。士郎に対して何かを言いたそうな雰囲気を見せるものの、結局引っ込めた。
 木乃香の治療が完了するまでの数秒。ただ見つめ合う。

「終わったえ」

 タカミチの四肢はちゃんとくっついていたし、顔色は悪かったが命に別状がないのは見て取れた。
 それで満足したのだろう。士郎はタカミチと、二人に背を向ける。
 木乃香も刹那も、士郎に何も言わなかった。

「士郎」

 だから。声をかけたのは、青い顔をしたタカミチだ。

「僕は負けたから、もう何も言わない。強い君が、強いまま進むならそれもいいだろう。でも……」

 完全治癒呪文とは言え、体力まで即座に回復するわけじゃない。
 タカミチはもう戦えるだけの力は残っていないだろう。
 だが、それでも何も出来ないわけじゃない。こうして喋れるのなら、まだ抵抗の可能性は残っている。
 士郎はもう一度振り返った。今度こそ、止めを。
 呪いがあるから殺せない。それは士郎にとっても救いで、そして都合よく時間跳躍弾なんてものがある。

「“僕達”は。まだ、負けてないよ」

 パン。乾いた音が響く。
 満足そうな顔をしたタカミチは、そのまま闇に飲み込まれた。
 彼が最後に残した言葉を吟味しながら、今度こそ歩き出す。
 その背を、木乃香と刹那が寂しそうに見送った。






◇ ◆ ◇ ◆






 タカミチの発言の意図はすぐに知れた。
 緊急で葉加瀬から連絡が入っていたからだ。

「やっと繋がった……! 士郎さん、大変です」
「すまない。状況を手短に頼む」
「はい。当初の作戦通り、学園結界を落とした後、鬼神兵を使って儀式を進行させました。
 その際、超さんのロボット軍団総数二千体を用いて残るエヴァンジェリンさんの確保と儀式ポイントの制圧を行おうとしたのですが……」

 言いにくそうに、葉加瀬は一旦言葉を詰まらせる。

「その二千体総てが、エヴァンジェリンさんに乗っ取られました」
「なに……!」

 エヴァンジェリンの持つ二つ名は数多い。
 闇の福音が最も有名だとしても、童姿の闇の魔王、禍音の使徒、不死の魔法使い……そして、人形使い。
 ドールマスターとしての能力は、まほら武道会でも見せている。
 弱体化して尚効果を発揮する程のスキル。それが、元の力を取り戻したのなら。

「いえ、正確には彼女が操っているのは三百体程度です。ですが、こちらの戦力はほぼ彼女一人に敗れました。
 鬼神兵は一体損傷。既に復元も始まっており、儀式遂行に若干の遅れは生じるものの、継続できます。だから、問題は」

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
 真祖にして魔王にして伝説の……吸血鬼、ただ一人。

「分かった。彼女はこちらで止める。この先の対応は君に任せるぞ、葉加瀬」
「了解です」

 タカミチとの戦いが終わり、冷静になってみれば。
 エヴァンジェリンがどこにいるのかなんて、すぐに分かる。
 一度感じた事のある魔力だったし、何よりこれだけ強大な魔力は他に類を見ない。
 だから、士郎が向かうまでもなく、その強大な魔力が近づいて来ている事など分かりきっていた。
 一応、戦いやすい場所として世界樹広場を選び、待ち構える。

「出迎えご苦労だな、衛宮士郎」

 エヴァンジェリンは、葉加瀬の情報通り超のロボット軍団を従えていた。
 しかも、茶々丸タイプばかりを厳選して。
 それは正しく軍団と言えた。たった一人の意思に統率され、並び構える姿は誰が見ても壮観だと答えるだろう。
 その銃口が、自分に向けられていなければ。

「また、随分と大人げない真似ではないか? 闇の福音<ダーク・エヴァンジェル>」
「なに。貴様は連戦に次ぐ連戦で疲れ果て、こちらは貴様らの戦力を奪い充溢している。
 確かに大人げないが、貴様はこの光景に値するということだ。英雄よ」

 逆境。数とはそれだけで強大な暴力となる。
 一匹ではあまりに弱い虫が、集まり束となり数百倍は大きい動物を仕留めてしまうように。
 エヴァンジェリン一人相手でも勝てる希望は微かにしか残らないのに、加えてこの数は。
 正直に言って、士郎でも勝てる気はしなかった。
 どうしようもない。逆境というよりは絶望。
 衛宮士郎の能力では、少なくとも殺さずの呪いがある状態では、決して勝つ事は出来ない。

「正直な。この状況には心苦しいものはあるのだ。私は既にお前に負けている。全力で戦って尚、な。
 こんな恥の上塗りなどやりたくはないが……契約してしまったのでな」

 エヴァンジェリンがふっと笑う。
 楽しげに、或いは微かな悲しみを帯びて。

「戦いの前に、一つだけ告げておこう。私は大河内アキラとの契約により、命を共有している。
 私が死ねば大河内アキラも死ぬ。それだけは覚えておけ」
「……ここに来て安全策とはらしくないな」
「だから言ったろう。本意ではないんだよ。これは大河内アキラの意思だ。良かったじゃないか、お前は愛されているぞ」

 くっくと笑うエヴァンジェリンに、士郎は顔を顰める。
 盛大な嫌がらせだとしか思えなかったからだ。大体、それがアキラの意思だとして、エヴァンジェリンが断っていれば何も問題などなかったのだから。

「何故それで愛されているなんて話になる?」
「…………これでは大河内も浮かばれんな。というか殺意を覚えるぞ、その反応には」

 士郎が疑問符を浮かべていると、エヴァンジェリンは会話は終わり、とばかりに浮かび上がる。

「さて、では始めようか。貴様は私を殺せない。私も貴様を殺さない。勝敗の決まった出来レースをな」
「ああ……確かに勝敗は決まっているだろう。だが疑問に思わなかったのか? エヴァンジェリン。
 私がここで、何の準備もなく待っていた事を」
「なにを、」
「切り札とは。常に一つは、隠し持っておくという話だ!」

 宣言し。士郎は懐から一枚のカードを取り出した。
 それは呪符なのか。或いは式神か。それとも……アーティファクトカードか。
 どれであっても切り札であるのなら、エヴァンジェリンには止める以外の選択はない。
 しかし遅かった。その慢心があったからこそ、士郎は悠々と勝ち誇るように宣言できているのだから。
 間に合うはずが、ない。


「来れ<アデアット>!」


 そう。衛宮士郎は決して勝てない。
 だが――負けない事は、可能だった。






タカミチ「……本当はね。僕と士郎の戦闘、この三倍はあったはずなんだ。あったはずなんだ……」

(拍手)
 
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あとがき

またもやお待たせしてしまって申し訳ない。
残る二話、果たして今月中に書ききれるのか……今回のタカミチ戦も、かなーりイベント省略してしまいました。
時間がなかったというのもあるけれど、何かくどくなりそうだったので。
半分以上書いてたタカミチ戦は全部書き直しな上に戦闘内容そのものもかなり削ってます。
その分テンポがよくなっているといいんですが。
またもオリ設定を好き放題出しているので反応が怖いです。
では、待て次回。

2011.03.27 | URL | 作者 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

タカミチ戦のテンポが良くてあっという間に読み切ってしまいました。
将来的には如何かとしても、さすがに今のタカミチでは時間が足りな過ぎるから短めでも逆にスッキリとしました。
それにしても、ここ数話は特にですが、ラストの数行が劇場版ではっちゃけ過ぎた某アニメのCパートみたいで次話への期待が高まります。

2011.03.28 | URL | アホターレ #- [ 編集 ]

Re: アホターレさん

将来的~の部分を魔法世界編で出せるといいのですが。流石に原作には追いつきそうにないけど。
タカミチ戦はもっと魔術も使わせてやるつもりだったのですが、どうやってもグダグダになるので泣く泣く切りました。まぁ結果的には良かったんですかね。
某劇場版がどれを指しているのか分かりませんが、個人的に意表をつトンデモ展開で目指してるのはコードギアス。最近はラストの引きを考えて話を区切ってるので長さがバラバラなんですよね……。

2011.03.28 | URL | 作者 #- [ 編集 ]

更新乙
こういう切り札の見せ合いって熱くなりますね

2011.03.28 | URL | とろみ #- [ 編集 ]

Re: とろみさん

見せ合うまでもなく不意打ちで発動させた方が士郎らしいかなと思っていましたが、考えて見ればアーチャーだってカッコつけなんだからこれぐらい別にいいよね! と開き直る事にしました。

2011.03.28 | URL | 作者 #- [ 編集 ]

最後の「来たれ」で誰を呼んだのか?
選択肢的には契約してる相手が少ないので何となく予想はできるんですが……
描写なしで実は仮契約していた、なんて思わぬ展開もありそうなので次話を楽しみにしてます。

2011.03.28 | URL | 一方通報 #- [ 編集 ]

Re: 一方通報さん

……え? いや、アデアットってアーティファクトの……。
ぶっちゃけ、それこそラカンでも連れてこないとエヴァには勝てないと思う。

2011.03.28 | URL | 作者 #- [ 編集 ]

お久しぶりです。

ここにきてアーティファクトですか!
魅せますねー、このエミヤ。
最後のとこ私的にはペルソナ3の召還シーンみたいなイメージで思い浮かんでます^^

思えば負けない戦いって士郎得意ですよね。
ランサー兄貴の時然り。
命を奪わない戦いだって、本来奪わなくていい命なら決して無用に殺したりしないですし。
だからこの話の士郎に課せられてる手枷は実は今までの士郎の在り方とあんま変わらないのかなとか思いました。

次も期待してます。

2011.03.30 | URL | 白 #- [ 編集 ]

Re: タイトルなし

お久しぶりです。まだ読んでくれていたようで嬉しいですよ。
確かに、あの呪いで一番救われてるのはきっと士郎です。その辺士郎は自覚していませんが。
次もなんとか、明日中に更新できるといいんですけどね。

2011.03.30 | URL | 作者 #- [ 編集 ]


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