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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第79話


「その背中に挑む」

 時間だけがただ過ぎていく事に、魔法先生たちは苛立っていた。
 相手は衛宮士郎だ、という事実と、既に上位の力を持った三人が撃破されているのは重い。
 士郎の足取りは相変わらず掴めなかった。
 最後に確認されてから、もう半日以上が経過している。
 向こうが休んでいるのならまだいいが、その間学園側に気づかれないように活動していたのなら、と不安になるのだ。

「でも、本当に来るのかな……?」

 一縷、まだ望みを残している者たちもいた。
 瀬流彦もその一人だ。彼は士郎擁護派の一人でもある。
 修学旅行の折、士郎には幾らか助けられていたし、何より士郎がどれほど身を削って生徒たちを守っていたのか、それを知っていたから。
 この反逆も、きっと何か理由があるのだろうと思っていた。
 手段が間違っているのだとしても、その先に見据える未来は間違っていないはずだ、と。

 士郎の事をよく知っているわけでもないのに、瀬流彦は盲目的な信用を寄せる。
 ただ、それでも手段が間違っているのならば止めなければならないとも考えているのだ。
 事、この段に至っては。今更自分一人が庇い立てしたところで結果は何も変わらない。
 ならば己の、この麻帆良の正義に基づき捕まえた方がまだマシだろうと。
 そんな思考をつらつらと重ねていた。

 それは酷く身勝手なもので、どちらかと言えばガンドルフィーニの方が遥かに強固な信念を有していたと言えるだろう。
 それでも、瀬流彦だって間違ってはいない。否、間違いがあるとすれば。
 それは、挑戦者の精神で、などという、謙虚ではなく甘ったれた覚悟が基板になっていた事。
 それだけが、間違いだった。
 だから。

「え?」

 あまりに無防備に、悠々と歩いて来るその姿を確認した時、思わず呆けてしまったのだ。
 相手が自分よりも上だという認識が常にあるが故に、自分でも勝ててしまえそうな隙だらけの状況に、正常な判断ができなくなる。
 けれど、彼とて麻帆良が誇る魔法先生の一人。経験は少ないかもしれないが、実力がないわけじゃない。
 しかしその実力が、衛宮士郎を前にした時どれほど心許ないものなのか、それもよく理解している。

 もしも彼が士郎排斥派だったのなら、そして功名心があったのなら、迷わず突っ込んで行っただろう。
 否、行ってしまっていただろう。
 彼我の実力差など意識から消して。それくらい、士郎の姿は無防備だったから。
 けれども瀬流彦は臆病だった。
 自分の実力を理解している、と言えば聞こえはいいが、最終的に彼は自分から向かって行く事ができない。
 怖いというわけではなくとも、無理だと最初から決めつけてしまう。
 己の判断でさえも、実力差という便利な言葉で否定する。

「衛宮士郎を発見しました。無防備に歩いています。指示を」

 結局、瀬流彦は本部に連絡し指示を仰いだ。
 それは当然、当たり前の行動ではある。
 だが、そんな動作が士郎に察知されないはずもないのだ。
 気付かれずに何かを出来るのなら、それは一度きりのチャンス。
 それを、瀬流彦は連絡に使った。頼みとするのは自分の力ではなく、麻帆良の総力。
 それは間違いじゃない。絶対的に正しい。この行動以外は非難されて然るべきだろう。
 けれど、このチャンスを逃した事は、結果的にこの戦いの趨勢を決定する事になった。





◇ ◆ ◇ ◆







 瀬流彦の報告から、ほとんどの魔法使いたちは一点に集められた。
 勿論高音にも同じような命令が下っている。けれど。

「お姉さま、本当にいいんですか?」
「ええ。命令違反であっても。これは私が決めた事です」

 高音と愛衣の二人は戦力が集中しつつあるポイントを避け、今はシステムの維持管理施設付近に待機していた。
 結界システムその他の維持管理、その集中制御室はこの施設の地下にある。
 出入口は一つだけ。防備を固めるには都合がいい構造になっていた。
 その出入口に近づく者は全て把握できる位置に隠れている。
 一応は命令違反だから、堂々としているわけにもいかない。

「戦うんですね、士郎さんと」
「ええ。でも、貴女はあちらに行ってもいいのですよ」
「いいえ。私も、士郎さんが現れるのならこちらだと思います。
 どういう方法を取るかはわかりませんが、あちらは罠だと思います。士郎さんなら、きっとそうする」
「でしょうね。けれど、命令通りあちらに行けば、きっと戦わなくてもいい。戦うことすらなく負ける。
 きっとそれは楽な道です。でも、それも一つの選択だと私は思うのです、メイ。
 正直なところ、それでもいいか、と思っている自分もいます」
「お姉さま……」

 それが士郎の願いで、目的ならば、と。そんな風に。
 少女としての高音はそうしてしまいたいという欲求を持っている。
 そんな楽な道に逃げこんで、これは士郎の為なのだと自分を騙し、気づかないフリをしてしまいたいと。
 でも、戦士としての、マギステル・マギを志す者としての矜持がそれを許さない。
 
「でもね。これはチャンスだとも思うのです」
「……え?」
「まほら武道会でメイは結果的に負けてしまったけれど、確り成長を見せていました。
 けれど、私は……桜咲刹那に負けた。全力を出して尚、疲れ果てていた彼女に負けた。
 そんな無様しか、あの人に見せてない。だから」

 だから、これはチャンスなのだと。
 そう言った高音の瞳は輝いていた。ただ嬉しいのだと、そう読み取れるくらいに。
 力が滾っていた。
 成果を見せなければ、と気負っていた武道会とも違う。
 これが最後になるという、唐突過ぎる終わりに対して、ジタバタ格好悪い真似はしたくなかったから。
 ここは通過点ではなく終点になるかもしれない。その恐怖があるからこそ。

 高音も愛衣も、別に士郎を止めたいと心から思っているわけじゃない。
 その行動が正しいのなら、例え麻帆良が間違っているわけではないとしても……それでいいと思う。
 ただ、結局は力が、その信念が強い方が勝つ。
 今まで積み重ねてきた想いが強い方が。
 そう思って、信じていた。それがどれ程純粋で無垢な考えかも知らずに。

 その結果負けるのならば仕方がないし、その後に築かれる未来も悪いものではないはずだから。
 無責任かもしれないが、本来彼女たちはまだそこまでの責を受ける立場にない。
 士郎の味方をするわけにはいかない立場ではあるけれど、失敗した事が責任になるわけじゃない。
 だから何をしてもいいというわけではないと分かってはいるけれど、それよりも優先したい事はあった。
 だから待ち受ける。士郎がここまで来るのを。
 覚悟もない。決意もない。けれど弟子として。
 自然体で、待ち続けた。





◇ ◆ ◇ ◆








 衛宮士郎発見の報から、魔法先生たちの行動は迅速だった。
 魔法生徒を含めた半数以上の戦力が、一分と待たずに集結する。
 その数は、最初の夜で士郎が相手にしたよりも多い。
 尤も、練度の低い魔法生徒の割合を考えれば、あの時よりも難易度が高いというわけではないだろう。
 タカミチと学園長のトップ2を除いた上で戦力の中核を担っていた三人は、既に昨夜敗れている。
 個々人の能力で言えば、その総合値であったとしてもあの夜に及ばない。

 及ばない、それは事実。
 しかし戦力とは単純な力の足し算ではない。
 時には足を引っ張り合うし、逆に爆発的に増大する事もある。
 今回の戦において、この数は有効だった。
 今まで衛宮士郎を観察した結果、明石が主導で作成した衛宮士郎対策。
 それを全員が頭に叩き込んで、連携を取るのなら。
 “殺さない”という呪いがある士郎では、この戦いは苦しいものになる。

「士郎さん。今ならまだ、投降すれば事を内密に処理できます。どうか……」

 発見者である瀬流彦が、士郎に投降を促した。
 戦わずに済むのならそれが一番いい。
 勿論、そうした言葉を続けながら、包囲は着々と狭まっているし、攻撃の準備も整えられている。
 けれど。
 それは、あまりにも唐突に。

「こんな事はやめ……え?」

 疑問は一瞬。
 瀬流彦の通告にも、少なからず苦しい状況であるはずの現状に対しても、何ら表情を変える事なく。
 まるで機械のように、普段の彼らしからぬギクシャクとした動きで、瀬流彦を指さした、その時だった。
 指差した事、それがトリガーであるかのように、瀬流彦が球体に包まれる。
 一見すると重力魔法のようにも見える、ある種の結界であろうそれは、瀬流彦を飲み込むとあっと言う間に消滅させた。

「なんだ、今のは?」
「分かりません。あんなのはデータにない……!」

 万全の対策を敷いた。
 それは錯覚でしかない。衛宮士郎の手の内全てを暴かなければ、完全な対策など取りようがない。
 故に、彼らが知らない新技の一つや二つ、あってもおかしくはないのだ。
 それは学園側も良く分かっている。
 そして、そういうイレギュラーに対した場合、取りうる行動は。

「散開!」

 一網打尽にされないこと。倒されるとしても、士郎の技の解明を残った者に託せるように。
 それが最低限必要な事だった。だからこそ数の優位が活かせる。
 だが、それを嘲笑うかのように、士郎は次々と指差しターゲットをロックしていった。
 そして一瞬遅れて、指差された者は確実に闇に飲み込まれていく。

「くっ、対物・対魔だけではダメだ! 特殊属性障壁の準備を!」
「そんなの、突然言われても……!」

 そうこうしている間にも、次々と消されていく。
 その様に焦りながらも、弐集院が遂に活路を見出す。

「違う、これは……狙撃だ! 衛宮士郎の攻撃じゃない!」

 士郎はただ、シングルアクションで指示しているだけで、狙撃手は別にいる。
 士郎はこれまで一歩も動かず、ただ指示していただけなのだ。
 衛宮士郎はとにかく恐れられている。
 それを逆手に取り、士郎自身の力は温存した上で、真名による狙撃で敵戦力を削る。
 学園長との戦闘で疲弊してしまった士郎は少しでも魔力体力を温存しておく必要がある。
 故の作戦。一撃必殺の手段があり、間違っても士郎自身は相手を殺す事が出来ないからこその。

「5時方向からの狙撃だ! 物陰に避難するんだ」

 弐集院は、そう叫んで建物の影に隠れる。士郎からは丸見えだったが、それで問題はないはずだった。
 しかし。

「ちょうだ……っ!」

 跳弾。遠方からの狙撃において、それだけの技量を有するとは。
 魔法先生たちのレベルからすれば、神業としか思えない。
 否、実際に実力には大きな差がある。
 士郎を排除したところで、この狙撃手を倒せなければ意味はない。
 敵は、衛宮士郎だけではなかった。そう認識したところで、もう遅い。

 けれど、どんなに遅くとも、残った者たちはその犠牲を無駄にはしない。
 敗れていった者たちの散り様から学び、対抗策を考える。
 しかし、跳弾さえも届かない場所に引っ込めば、それは停滞を意味する。
 やられなくても、攻撃する事は出来ない。
 膠着状態だった。だが。

「くそ、このままじゃ……」

 狙撃手から身を隠さなければいけない。
 しかし、今まで一歩も動いていなかった士郎が、遂に動き出す。

 万事休す、だった。
 狙撃手から身を隠す為には動けない。しかし動かなければ、いずれ士郎にやられる。
 たった二人に、あれだけいた魔法先生と魔法生徒が、あっと言う間に蹂躙されていく。
 いつかのあの夜の再来。今回は相手が二人だなんて、そんなの慰めにもならなかった。

 未だ残っているシャークティは臍を噛む。
 この状況は想定されて然るべきだったのだ。敵が士郎だけなのだと誰が決めた。
 結局強すぎる先入観が、士郎以外に対する警戒心を曇らせていた。
 士郎さえ倒せばいいのだと。それさえクリアすれば、後は些末な問題なのだと。
 それが、どうしようもない勘違いだったと気づいても後の祭り。
 シャークティに狙撃クラスの遠距離魔法はないし、そもそも狙撃の打ち合いで勝てるとは思えない。
 近接では士郎に勝てない己の実力も、良く理解していた。

 このまま待ってもジリ貧。狙撃手ならば近接で勝利を得る事が出来るかもしれない。
 ならば、やはり最優先攻撃対象は衛宮士郎だ。
 そう決断し、十字架を構えて飛び出した、その直上で。

「退きなさい」

 黒い、ぞっとするような威圧感があった。
 思わず瞬動でバックステップを踏む。

「極大! 雷鳴剣!」

 斬撃。しかしそれは、どちらかと言えば雷撃としての機能が勝る。
 そのまま建物ごと破壊しかねない一撃は、相手の生命など全く考慮に入れていない一撃だった。
 雷が晴れた先にはクレーター。士郎の姿は見えない。あれを避けたのか、と周囲を索敵するが見つからなかった。

「ハァ、ハァ、くっ」
「大丈夫ですか?」

 肩で息をする刀子をシャークティが支える。
 確かに先ほどの一撃は凄まじいものだったが、コレほどの疲弊は刀子らしくない。
 万全とは程遠い体調なのだ、とシャークティは悟る。

「シスターシャークティ。アレは式神です。あの男は、まだ戦場に出てきていない」
「なッ……」
「私たちはまんまと嵌められた、という事ですよ……」

 ふう、と刀子はため息をつく。もう呼吸は落ち着いていた。
 疲労が大きい。昨夜の傷は塞がっていても、体力は然程回復していなかった。
 士郎に“消されて”しまった刀の代わりを求めて外まで出ていたからだ。
 おかげで禄に休んでいない。
 ガンドルフィーニは学園長に眠らされたが、刀子は学園長が来る前に病室を抜けだしていた。
 だからこそこうして戦場に戻る事ができたのだ。
 尤も、その分万全には程遠い。大して役には立たないだろうと彼女自身も分かっていたのだが、大人しく寝ているつもりは毛頭なかった。

「本人を探しましょう。衛宮士郎は西との関わりが深いとは言え、式神の扱いに慣れてはいないはず。
 必ず近くにいます」
「分かりました。――ええ、そうです明石教授。索敵エリアの算出を最優先で」

 念話で報告を開始したシャークティから視線を外し、凛と立ち上がった刀子は神経を研ぎ澄ます。
 必ず近くに居る。それは確信であったはずなのに、今は何故かそうとは思えなかった。
 つい先ほどまで確かに、根拠こそあれど確実にこの場に居ると思っていたのに。
 何故か今はそれを盲目に信じる事を、無意識が警鐘を鳴らしている。
 そう、思い出せ。
 昨夜の戦いで、士郎は……

「そうか、転移符……シスター!」

 通常、熟練の魔法使いならば念話ぐらいにリソースを割いたぐらいで動きは変わらない。
 周囲への警戒も、この戦闘状態において怠るなんて愚を犯すはずもない。
 だから、それでも尚気づけなかったというのなら、それは射手の腕が次元違いだと言う事。
 そういう意味では、これが二度目とは言え、その狙撃に気づく事ができた刀子もまた優秀だった。
 そして気づけただけでなく防ぐ事も出来たのは、その疲弊した身体では奇跡のような幸運だったろう。
 実力も当然だが、この場合は運が良かった。

「今のは!」
「衛宮士郎の狙撃です! 高威力かつ貫通性があります。物陰に隠れるのは自殺行為です」
「分かりました。障壁で対応、ですね」

 刀子とシャークティは背中合わせに警戒する。
 転移符の存在が確定的になった以上、どの方角から狙撃が来てもおかしくないし、逆にこの場に現れる可能性だってある。
 むしろ、刀子としてはこの場に現れて欲しかった。
 昨日の雪辱を晴らすにはそれしかない。この状況では遠隔攻撃技能に乏しい二人では防戦一方だからだ。

 尤も、だからこそ士郎がこの場に現れる可能性は低い。
 この距離ならば一方的な攻撃が可能なのだ。
 遠距離攻撃を得意とする神多羅木はいないし、保護対象がその場にいるわけでもない。
 故に、刀子が士郎と戦うのならこの距離を走破しなければならないのだ。
 圧倒的に不利。しかし、神鳴流には飛び道具など通じない。
 このまま根競べを続けては、勝てない。
 覚悟を決め、刀子がシャークティに提案しようとした、その時。第二射が迫った。

「くっ、相変わらずなんて威力」

 逸らすのが精一杯だった。昨夜よりも更に威力が高い。
 もう少し威力が高ければ、またも剣は折れてしまいそうな程に。
 神鳴流に飛び道具は効かぬというのも、これではもう名乗れなくなってしまいそうだった。

 第二射は、二本同時に飛来している。刀子とシャークティを狙ったもの。
 刀子がこれではシャークティは危うい。事実、シャークティの障壁は突破されそうになっていた。
 実際のところ、シャークティへ向けられたそれは、刀子を狙った矢よりも遥かに威力が低いものではあったのだが、突破されれば昨夜の神多羅木のように大ダメージを受けるのは必至。
 一瞬の判断で、刀子は逸らした矢をシャークティの障壁によって止まっている矢にぶつけ、相殺した。
 それは士郎の狙撃と同等の神業だろう。一歩間違えればシャークティが死んでもおかしくない暴挙。
 しかし刀子はそれを成した。奇跡のような偶然ではなく、執念が通した閃きで。

 だが。それだけの綱渡りに成功したからこそ。
 その難易度が高ければ高い程に、状況が終了したと思えば息を吐く。
 それは油断。それは弛緩。
 二人は忘れるべきではなかったのだ。
 二人を狙うのは衛宮士郎だけではなく。姿も分からぬ魔弾の射手がいたことを。

「なっ」
「まさか……くそっ、えみ」

 刀子が手を伸ばす。その先に士郎がまだいるのか、それは分からない。
 特に意味があっての行動ではなかった。自分でも理由は分からない。
 衛宮、と。その後に、何と続けようとしたのかも。
 その思考の先に到達する前に、プツリと、刀子とシャークティはこの時間から姿を消した。




◇ ◆ ◇ ◆








「くそっ、これでほぼ全滅か……! 夏目君、射撃地点の割り出しを最優先で」
「了解です!」

 全面に映しだされた麻帆良のマップ。先ほどまで密集していた青点は、既に疎らに数を残すのみだった。
 赤点……士郎の位置は未だ知れない。
 あの魔弾を使用する狙撃手の位置は大体の範囲が絞れている。
 が、そこまで確保に行ける人材がいない。
 今もかの狙撃手によって着々と数は減らされている。
 外で活動している全員が倒されるまで、そう時間はかかりそうになかった。

「学園長にも連絡がつかない……よもや既に?」

 最悪の可能性を考える。しかし、有り得ない話ではないと明石は考えた。
 或いは、その“準備”が完了したからこそ攻め入った可能性もある。

「大変です、教授! 割り出した狙撃地点は……ここの直上です!」
「なんだって!?」

 驚き、学園長の所在に対する考えを放棄した明石は、対抗策を打ち出すべく自らコンソールに向かう。
 が、

「残念だったな、明石。君は三手ばかり遅かった」

 突きつけられたのは、銃口。そして、引鉄は一瞬の躊躇もなく引かれた。
 明石だけでなく、管理室に居た全ての人間を時間跳躍弾で飛ばし、士郎は葉加瀬に一報を入れる。

「衛宮だ。管理室を奪取した。予定通り頼む」

 返答も待たず、士郎は急ぎ足で外に出る。これからタカミチとの戦いが控えているのだ。
 少しでも地の利を取る為、あらかじめ場を整えてある世界樹広場まで出向かなくてはならない。
 しかし、士郎にとっての計算外が、思わぬところで立ちふさがった。

「……高音か」
「はい。待っていました。貴方を」

 高音は、本当に立っているだけだった。
 普段の彼女にある自信満々の仁王立ちではなく。どこか所在なさげなのに、力強く士郎を見据える。
 何故ここにいるのか。それが分からなくても、士郎と高音の立場はハッキリしている。

「では、戦おうか。なに、気に病む事はない。お前の立場ならば当然の行為だ。
 お前の正義を貫くならば、見事私に打ち勝てばいい。力なき者は、正義を語れないのだから」
「そうですね……でも、これから私が貴方に見せるのは、正義じゃない。
 私の成長です。貴方の弟子として修行し、どれだけ強くなれたのか。
 私はまだ、貴方には遠く及ばないけれど。いつか、貴方まで辿りついて見せる。
 その軌跡を、今貴方に刻みます」

 高音が黒衣の夜想曲を纏う。完全な臨戦態勢だ。魔力の密度が増し、かつてない程の威圧感を放つ。

「よかろう。ならば、いざ尋常に」
「勝負!」

 先に動いたのは士郎。
 今まで鍛錬の相手という名目で幾度と無く戦ってきた士郎と高音だが、その際には全て士郎が受けに回っていた。
 今まで士郎の方から仕掛けたのは一度だけ。
 吸血鬼の夜、一撃で高音を気絶させた時だけである。

 故に。その攻撃には、これが鍛錬ではないという意味も含まれていたのかもしれない。
 これは実戦で、遠慮もなく慈悲もない、純然たる実力だけが頼りの世界なのだと。
 だが、だからこそ。
 高音はその攻撃を読んでいた。士郎ならば、あの夜と同じように瞬動で攻めて来る、と。
 その攻撃に含められた意図も全て読み込んで、高音は行動で示す。
 あの夜とは違う、と。

「っ!」

 痛烈なカウンター。ハリセンボンのように鋭く尖った影槍が前面に配置される。
 しかし、瞬動は一度動き出したら止まれない。士郎に残された手は、それらを高音への攻撃の代わりに一振りで一掃するのみ。
 故に、一手、これで高音が先じる。

「影よ」

 三体の使い魔が士郎を包囲するように出現する。
 それらが同時に影手を伸ばした。

「疾ッ」

 一振りでなぎ払い、一閃を掠めつつも避け、一打を受け止める。
 残り二体。だが、二体も残っていれば高音には十分。

「影牢」

 捕縛結界。残った二体の影人形と、高音を結ぶ三角形を影に染める。
 本来は視界封じの結界だが、これは特別製だった。

「転、殺界」

 圧縮して、押し潰す。
 これは本来、同種の術者が数人がかりで行う儀式魔法だった。
 儀式魔法で結界と言えば、それは封印が一般的だ。
 攻性の術は数える程しかないだろう。高音がアレンジしたこの術も、元々は封印系の術ではある。
 それを攻撃にアレンジしたに過ぎず、術式としてはまだ未完成。
 そして、本当ならば数人分の魔力を用いて広範囲に発動する結界である為、どうしても不完全なシロモノにしかならない。
 高音には、常人の数倍となる魔力などないのだから。

「今のはいい術だった。発動のタイミングも、速度も、発動状況も及第点だ。だが少しばかり脆かったな」

 士郎は特に苦労した風もなく結界を切り裂いて抜け出した。
 士郎に言わせれば、今の結界は構造が脆い。
 発動にかかるコストを極限まで絞り込んだ分だけ、破砕点だらけに見えるのだ。
 尤も、士郎以外ならば世界の異質を感じ取ってピンポイントで破壊するなんて真似は不可能なのだから、十分に実戦で使える術ではある。
 若干、威力が高すぎるが。

「まだ、これからです」
「いやいや、正直驚いている。君が修行で手を抜いていたはずもないが、目を見張る成長だろうよ。
 まほら武道会のおかげかな。準優勝は伊達ではない」
「伊達ですよ。今はまだ」

 高音は一度健在である二体の使い魔を消し、更に大きな人形を一体だけ出現させる。
 全ての魔力を集中させた形だ。
 さっきの術で不意打ちは打ち止め。もう高音は士郎が知っている技しか持っていない。
 ならばせめて、密度を上げなければ対抗さえ出来ないだろう。

「正直に言えばな。君がここまでやるとは思っていなかった。舐めていたと言っていい。
 誇りだの礼儀だの、戦いにおいてそんなものには欠片の興味も抱かないが……君の成長を讃えて、敵として相手をしよう」

 高音は無言。内心は喜んでいたかもしれない。
 やっとここまでは来れたと。
 明確に思い描いていたのはここまで。ここからは、想像さえ及んでいない領域だ。
 どうやってという手段さえ思いついていなかった。
 ただ、もう奇策などない以上、地道に高音が身につけている技能を元に戦うしかない。

 そう、決意した矢先。

「ッ!」

 無造作に士郎は双剣の片方、干将を投擲した。
 魔法を“切り裂く”名剣だ。触れれば何があるか分かったものではないし、高音の絶対防御もこの剣には通じない。
 故に、防御するでもなく避けるのは当然の行動だった。
 その後、士郎が取るであろう行動を幾通りか考えながら。

 接近して肉弾戦を挑んでくるだろうか?
 いや、いつかのように背後に回りこんで気絶させるつもりかも。
 或いは武器を持ち替えて更に距離を取り遠距離戦なんて可能性もある。
 最悪の可能性として、さっきの言動は口だけの出任せで、高音なんて相手をしている時間などないと逃げてしまう、とか。

 それぞれに対して考えを巡らせ、それぞれに対して何が起きてもいいように対抗策を閃く。
 悩んでいる暇なんてない。閃きがなかったらそこで終わりだ。

 正解は、武器を持ち替えて遠距離戦。
 ただ、イレギュラーがあるとするなら。
 士郎の手にあったのは、弓ではなくいかつい拳銃だったこと。

「さらばだ」

 撃鉄が落ちる。その様を、酷くスローモーションで高音は見ていた。
 別に、普通の銃弾など怖くはない。
 その程度なら黒衣の夜想曲による絶対防御の対応範囲だ。
 それが魔法銃であっても変わらないし、何ら問題はない。
 士郎のその口ぶりが思わせるような危険性は何ら見出せない。

 けれど、それでも避けなければと思った。
 受け止めてはいけない。絶対防御を貫通するぐらいは平気でするだろう、士郎は。
 だから確りと銃口の向きを確認して、タイミングを合わせて避けた。
 それは成功したのだ。その程度なら失敗などするわけがない。

「後ろ!?」

 先ほど避けた干将が、戻って来ていた。
 高音はこの双剣の特性を知っている。最初の夜、タカミチとの戦いで使用されたそれを、剣牢の中で見ていたからだ。
 そして、戻ってきている事が分かったのなら避ける以外に手はない。
 それしか対処法を知らない以上、そしてその剣の威力を知っているが故に、高音は避けるしかない。
 どれだけ体勢が崩れようとも、士郎に背を向ける事になったとしても。

「あ」

 パン、と乾いた音がした。
 それが、銃声だと気づいたのは黒衣に着弾の感触があったから。
 重たい音と共に、結界に包まれるのを感じる。
 そして、これで敗北なのだとも悟った。士郎たちがどのように麻帆良の戦力を刈り取ったのかは見ていたから。
 士郎が本気で敵として動いてからは、呆気無い幕切れだ。
 それが現時点での差。遠いな、と、近づく程に思う。

 けれど高音は笑っていた。確かな目標を見据えて、挑んだ、その結果だから。
 自覚した想いに揺さぶられる事なく、目的は完遂できたから。
 ああでも、少しだけ心残りがあるとすれば。

「私は――」
 
 そして消える。プツンと、テレビが消えるように呆気無く。
 余韻さえ残らず、後に残るのは銃を下ろした士郎と二人の戦いを見守っていた愛衣だけだ。

「愛衣。お前もか?」

 声をかけられた愛衣は、アーティファクトである箒をぎゅっと握りしめて答える。

「そうですね。あの時は、私は戦うことさえ出来ませんでした。でも、今度こそ」
「分かった。だが、お前は意外と抜け目がないからな。早々に消えて貰おう」
「あは。嬉しいような悲しいような。では」

 愛衣は、負けると分かっている戦いに挑んだ。遠い遠いその背中に。





◇ ◆ ◇ ◆








 結局。高音と愛衣が、命令違反まで犯して行った待ち伏せは、士郎に傷一つつけなかった。
 本人たちはそれなりに満足していたものの、戦果としては撃墜が二つ増えただけ。
 士郎は予め投影していた干将・莫耶と十分に蓄えがある、この日でしか使えない時間跳躍弾しか使っていない。
 使ったとすれば、多少の魔力ぐらい。それも疲労と感じる程でもない些細なもの。
 刀子とシャークティに放った矢の方が余程魔力を使っていた。
 意味はないように見える。価値などないように思われる。
 二人の行動はただの自己満足で、学園側の戦力の大半でさえあまりに簡単に無力化された。
 

 だが、それでも。
 時間稼ぎにはなった。
 これで、学園結界が解除されればエヴァンジェリンは絶大な魔力で暴れる事になる。
 そして。

「やぁ士郎。いい夜だね」

 それは宿命か、それともただの因縁か。
 この世界での初めて出来た友との戦いが、始まる。






・NG
士郎「早々に消えて貰おう」
愛衣「やや、これは光栄です。……で、いいんでしょうか?」
士郎「お前の成長は、その図太さだな……。一体どこで間違えたのか」
愛衣「それは勿論、人気投票で一位になった時です♪」

(拍手)
 
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あとがき

遅くなり申し訳ありません。最近の色々については、次の雑記で。

次回はかなーり前から温めていたタカミチ戦です。
実のところ半分ぐらいは書き終わってますけど、スランプというか調子悪いんでどれぐらい時間かかるかは不明。
出来れば、今月中に目次にタイトル載せてる分は更新したいんですけどねー。

2011.03.17 | URL | 作者 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

更新乙
次が山場ですね

2011.03.17 | URL | とろみ #- [ 編集 ]

Re: とろみさん

そうです。頑張ります。

2011.03.17 | URL | 作者 #- [ 編集 ]

どうも、面白そうなSSがあると聞いて一晩で全て読んでしまいました。
まず、一言。ウメェ…いや、これすでに書籍化レベルじゃねぇの?
と思ってしまいました。
次回がタカミチ戦で、ドキドキが止まりません。
これからも頑張ってくださいね!!

2011.03.20 | URL | りゅー #wgQcaDnY [ 編集 ]

Re: りゅーさん

そこまで褒められるとなにやらむず痒いですがw
書籍のレベルにはまだまだ遠いんじゃないかな。ケータイ小説はともかくラノベは。
次回のタカミチ戦、盛り上がれるように頑張ります。意外な締め方をするかもしれませんが。

2011.03.21 | URL | 作者 #- [ 編集 ]


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