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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第75話


「宣戦布告」





 高音と愛衣はガンドルフィーニからの依頼、という名の命令で、引き続き士郎の監視を行っていた。
 刀子から引き継いだ形だ。
 武道会の後休息を取らせてもらい、復帰後は告白阻止の仕事に戻るはずの二人だったのだが、特に文句もなく。
 告白阻止も気持ち程度にやりながら、士郎の監視も行え、などと無茶もいいところだと愛衣は思ったが、高音がやる気だったので口には出さない。

 高音にしても愛衣にしても、士郎が麻帆良を去るというのは……あり得る話だと考えていた。
 その事を、全く自分たちが知らなかった為に否定したい気持ちもあったが。
 何となく、士郎がいなくなる時は、まるで猫のように気づいたらいないのだろうと、そんな予感を持っていたのかもしれない。

 超と協力して世界に魔法をバラす、というのも。
 士郎ならそうおかしい事ではないのだと再確認していた。
 士郎は味方ではなく、ただ個人的に、高音の頼みで世話を焼いてもらっていたに過ぎない。
 それが寂しくないなんて強がりでも言えないけれど、不思議な納得はあった。
 或いは信頼か。それがどんなに悪い事に見えたとしても、それはきっとどこかの誰かの為の行動なのだと。

 だからこそ、素直になればいいのに、と愛衣は思う。思うだけだが。
 愛衣からすれば、高音が士郎に纏わるあれこれは、全て色恋沙汰に変換されていた。
 事実そういう一面もあったのかもしれないが、そしていずれはそんな感情に成長していたのかもしれないが、少なくとも今は違う。
 武道会を通じて高音が再確認した感情は、別に恋愛感情などではなかった。

 近いかもしれない。その先には、結局恋愛感情があるのかもしれない。
 けれど今は、少なくとも違う、とハッキリ断言できていた。

 だから、そんな任務を嬉々として、或いは義務感に突き動かされるように引き受けた事が、そもそも運命的だったのかもしれない。
 必然で。必要だったのかもしれない。

 或いは、当事者であるアキラと士郎よりも余程。
 その一瞬に与えられた影響は、きっと誰よりも大きかった。

 遠く、手も声も届かない先で行われた一部始終。
 本当に一瞬だったハズのそれが、きっとまだ自覚しない方が幸せだった感情を、ハッキリと認めさせるに至ったのだから。





◇ ◆ ◇ ◆






 衛宮士郎は、仮契約の魔法陣を知っている。
 知っている以上に、自分で書く事も出来た。
 それが何故か、というのはここで語るべき事ではない。
 ただ一つの事実として、可能だったという事。この時はそれだけが問題だった。

 世界樹の魔力により突き動かされていると言っても、知らぬ知識までもを使用する事は出来ない。
 だから、士郎がそうして魔法陣を書けたのは、何ら不思議な事ではなかった。
 なかった、が。

 迂闊ではあったのだろう。油断だった。
 士郎が学園側との関係性を変化させる為、敢えて距離を取っていた事が災いしたと言える。
 士郎はタカミチからの伝聞で、世界樹の魔力が一種のギアスのように働く事は知っていた。
 が、その細かな条件、及び効果範囲までは知らなかった。

 それを調べないのがそもそも迂闊ではあるのだが、士郎は誤解していたのだ。
 いかな世界樹の魔力とは言え、聖骸布の守りがあれば問題ないはずだ、と。
 試してもいないのに、勝手に決めつけた。

 まぁ、士郎の常識で考えれば、それも致し方ない事ではある。
 魔力溜りが、聖杯のように願いを叶える。
 何ら生贄も必要としない、自然発生する魔力溜りのレベルで、対魔力を持たない一般人だけでなく魔法使いまでも侵すギアスが発動するなど、誰が信じられるものか。
 それが世界樹だと言えばそれまでだが、だからこそ。
 図書館島で得た知識を元に、そして己の常識を元に下した判断は、結果的には甘かった。
 うっかり、の一言で括られると士郎としても反論したくなるだろうが、結果的に見れば……彼の尊敬する魔術師と同じように、うっかりではあった。

 ただ、真相を知らないアキラには、士郎が己の意思でアキラをパートナーにしたとしか見えない。
 真逆、だろう。それが操られていた行動だなんて考えたくもないし、そんな発想が出てくるようではそれこそ不憫だ。

「くっ……」
「あ、ああ、あわわわわわっ」

 幸か不幸か。
 士郎が世界樹の魔力から自意識を取り戻すと同時、ファーストキスのショックで茫然自失していたアキラも再起動する。
 瞬間、真っ赤に沸騰したアキラは混乱の極みに達し、結果的に逃走した。

「くっ、まっ……」

 それも、士郎から見ても速いと思えるスピードで。
 止める声も遅く、伸ばした手は空を掴んだ。

「はぁ……」

 やってしまった事は、朧気ながらも覚えている。
 何より、残されたアキラの姿が浮かび上がるカードと魔法陣を見れば一目瞭然。
 パスも通じているのが分かる。決定的だった。

「俺も遠坂の門弟……だからか?」

 苦笑する事しか出来ない。
 結果だけを見れば、アキラと仮契約する事が必ずしも彼女を危険に晒す事にはならないだろう。
 アキラが戦いとは無縁の世界で生きていく限り。
 或いは、危険から守りやすくもなる。
 契約を解析され士郎の身が危うくなる可能性も、大元のカードが士郎の手元にある以上無視できるレベルだ。

 ただ、そんな事は問題として扱う類のものじゃない。
 士郎が一番気にしているのは、同意も得ずにキスしてしまった事。
 告白されたのだからいいじゃないか、なんて言い訳は、アキラの年齢と士郎の人格が許さない。

 それに。これから麻帆良を去り、消えるつもりの男が、前途ある少女の一生に影を落とす事になってしまったら。
 後悔してもしきれない。

「やぁ」

 タカミチだった。タイミングがいいのか悪いのか。
 既に士郎とタカミチは間接的に敵対関係にある。
 その事を、もうお互いに分かっているはずなのに、いつもと変わらぬ空気だった。
 或いは。この場で戦うつもりはないと、そう宣言しているのかもしれない。

「今の世界樹の発光は、君が?」
「…………ああ。してやられた、というのも筋違いか。油断していたよ」
「だから言っただろ? 集会にはちゃんと出ろってさ」

 まるで笑い話のように。
 このタイミングなら、先ほどの場面をその目で見ていてもおかしくないだろうに……タカミチは気にした風もない。
 今さら、この程度の事を知られたのかどうかなど探りを入れる事はないが、士郎としても居心地が悪かった。

「で、どうした? 世間話をしに来たんじゃないだろう?」
「そうだね。世間話というより愚痴かもしれない。どうも、君が相談相手としては一番適切みたいでね。アルから逃げて来たんだ」

 煙草を取り出しを火を付ける。
 ライターではなかった。指先に灯るのは、確かに魔術の炎。弱々しくて、とても攻撃に使えるものではないが。

「慣れてきたな」
「ん? ああ、まぁね。ライターもあるんだけど、未だに嬉しくてね。誰も見てない時にはついこっちを使ってしまう」
「そうか」

 まぁ確かに、日頃から慣らしておく必要はある。
 魔術回路のコントロールという意味では、これもまた鍛錬には違いない。

「俺にも一本頼む」
「珍しいね。吸わないんじゃなかったのかい?」
「そういう気分になる時もあるさ。お前もそうだろう?」
「そうだね。はい」

 士郎が受け取り咥えると、タカミチがライターの火を翳す。
 魔術を使うのが照れくさかったのかもしれない。

「ふぅ」
「ほとんど吸ってないじゃないか」
「煙を眺めるのは嫌いじゃないが、味が好きなわけでもない」

 ゆるゆると揺れる紫煙を眺めながら、士郎は広場の柵に体重を委ねる。
 遠い目をしていた。タカミチが話すのを待つ体勢だ。

「煙草……昔は吸ってなかったんだ」
「へぇ」
「僕の師匠がヘビースモーカーでね。僕は何度も師匠に辞めるよう言ってたくらいさ。煙草なんて百害あって一利なし、とね」
「その割には、お前も立派にヘビースモーカーじゃないか」
「うん。明日菜君が、煙草の匂いが落ち着くって言ってね。いつの間にか、辞められなくなってた」

 もう、明日菜君は忘れてしまっているけどね――と。
 寂しそうに、呟く。

「お前の相談事というのも、明日菜絡みか」
「うん。告白されてしまった」

 煙草を口から離し、溜息をつくように煙を吐きながらタカミチが言った。
 淡々と、何かを諦めてしまったかのように。

「ああ……成程。それは確かに適任かもしれないな」
「だろう?」

 奇しくも似たような境遇に立たされてしまった。
 いや、士郎の方が数段タチが悪いか。

「それで? お前の事だ、断ったのだろう?」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」
「…………………………」
「おいおい。……ああ、まぁ世界樹の魔力のせいなら仕方がないか」

 むしろ、今こうして正気を取り戻せているのが凄いのかもね、と。
 何ら慰めにならない事をタカミチは付け足す。

 タカミチは確り断っているのに対して、士郎の方は断った直後にキスだ。
 どちらを信じればいいのか分からないし、そもそもアキラが仮契約の手段としてキスを捉えているかも分からない。
 しかも最悪な事に、それだけやって捨てるように去っていくのだから始末が悪いにも程がある。

「というか、君も告白されていたのか? だとすると、君は今も大河内君に惚れているはずだけど」
「いや、アキラには確かに告白されてしまったが……その要望は、付き合って欲しいではなくパートナーにしてくれ、だったからな」

 好き、と伝えるだけでは、世界樹の祈願成就は発動しなかったという事だ。
 付き合って下さい、という願いまで明確にして初めて機能する。
 それは推論でしかないが、有り得ない話ではないだろう。
 或いは、まだ二日目だからかもしれない。
 最終日になれば、具体的な要望がなくてもおおまかに決定して成就させてしまうのかもしれない。

 それも勝手な憶測ではあるが、最大の要素はやはり、士郎の聖骸布にあるはずだ。
 好きだ、と言った時点で呪い級の祈願成就が発動していても、そのレベルであれば聖骸布で防げていたのかもしれない。

「それで?」
「それで、とは?」
「今後の事だよ。大河内君のアフターフォロー。君の管轄なんだから、確りしてもらわないと」

 記憶を消す。今となっては、それが最良の解決法なのかもしれない。
 最良で、そして最悪の。
 士郎としても、出来れば記憶消去は避けたいところだ。
 だが、これから麻帆良を去ろうという士郎に何が出来る?

 残された時間、超の計画に参加する以上はアキラに割ける時間はこれが最後。
 思いつく選択肢は二つ。
 このまま何もせず、アキラが士郎を追うなんて無謀な事をしないと信じて姿を消すか。
 今日の事も、学園祭の約束も、そもそも衛宮士郎なんて男と出会ってしまった記憶ごと消してしまうか。
 魔術なら、後者も出来る。
 記憶消去ではなく記憶改竄。与える情報はそう必要ないだろう。後は、アキラ自身が勝手に記憶を補完する。

「どうするべきなんだろうな」

 思わず、と言った感じで言葉が漏れる。

「応えてあげればいいじゃないか。そして、そのまま麻帆良に定住すればいい」
「無茶を言う。ならばお前は、明日菜の気持ちに応じたのか?」
「……いいや。僕は、人に愛される資格なんてないからね」
「なら、私も同じ事だ。いや、私はお前よりも余程……」
「そうだね。確かに、君とは比較されたくないな」

 タカミチは士郎の過去を知っている。
 この世界において、士郎から齎された魔術知識の管理権を持っていると言っても過言ではない。
 そういう契約を交わしている。

 だからこそ。己の半生が、決して楽なものではなく、罪深いモノだとは思っているけれど。
 そうして自省できるからこそ、衛宮士郎という人間の生き方には畏怖しか覚えない。
 最近では、大分丸くなっているけれど。

「俺たちは、自信がないだけだ。自分では彼女を幸せに出来ない。それはきっと、逃げでしかないんだろう」
「士郎……」
「捨ててしまった後悔の末に、俺たちは結局同じ道しか選べない。ならば、答えは決まっているだろう。
 迷い、歩みを止めるのは弱さでしかない」
「ああ、確かに君はそう言い切れるだろうね。でも、それは幸せな事じゃないよ。
 僕や、君自身にとっても、周りの人間にとっても、きっとね」

 そんな強さに切り捨てられる者達は。
 憎むだろう。恨むだろう。
 そして何より、悲しみ、泣くだろう。

 それが分かっているのに選べるのは、迷わず捨ててしまえるのは、愛着がないからじゃない。
 幸せが分からないからだ。幸福が、羨ましいものに思えないからだ。
 だから、慣れてしまう。捨てられた者たちの想いを考えて、それでも尚。
 決断する事に、慣れていってしまうのだ。それが逃げだと、分かっているのに。

「なら、お前が止めるのか?」
「君が麻帆良を去り、あちらの世界で繰り返して来た事を、こちらでも繰り返すというのなら、確かに止めたい。
 けど僕じゃ、まだ君に敵わない。君が宝具を使った時、僕には対抗する手段がない。
 それに……魔法を世界にバラす。その目的に、君が賛同する気持ちも分かるからね」
「超が喋ったか」
「うん。君の関与も知ってる。立場上、戦わないというわけにはいかないだろうね」

 それでも。士郎を止めるのかと言えば。その実、タカミチは迷っていた。
 止めて聞くような奴じゃない事も知っているし、士郎が本気になった時タカミチでは敵わない事も理解している。
 互いが互いの手札を全て知っているのなら、より切り札を持っている方が勝つ。
 それに、タカミチは士郎が過去使った事がある宝具については、幾つかその機能を理解しているが、無限の剣製に登録された全ての宝具を知っているわけでもない。
 戦えば、最悪タカミチは死ぬだろう。タカミチが本気で戦うのならば。士郎を追い詰める程に、タカミチの危険も増す事になる。
 それだけのリスクを承知で、それでも止めるだけの意味が、価値が、信念があるのか。
 それが、タカミチにはまだ決めきれない。

「見逃してくれるのなら、上手い具合に無力化するぞ。俺も無駄な魔力は消費したくはない」
「無駄、か」

 いや、タカミチは戦う理由を探していた。
 敵わない。そんな事は承知している。だが、だからこそ。
 力試しなんかじゃない。挑戦と言うと、少し違うかもしれない。
 決して勝ち得ない相手だとしても、衛宮士郎は勝ってきた。だから、自分も、と。

 断じて、認めてもらいたいわけじゃない。
 あくまで友として、張り合える対等な立場にありたいだけだ。
 けれど今、士郎はタカミチを見下した。対等ではなく格下だと。
 慢心などない、出来る立場ではない筈の彼が。油断している。
 アキラの事にしてもそうだ。油断し、慢心している。

 ならば。

「士郎、君はいつからそんなに微温くなったんだ?」
「なに?」
「僕は今無防備だ。確かに戦う雰囲気ではなかったけど、昔の君なら容赦などしなかった筈だ。
 例え友人でも。僕と敵対するのは分かりきっているのだから、最小の魔力で倒せる今が好機。
 それを逃すような君が……あちらの世界のように、動けるとは思えない」

 心は、鈍化する。
 情けや容赦は、付け入る隙になる。
 それはいつか士郎だけでなく、感化された周囲をも崩壊させるだろう。
 それに何より。衛宮士郎に、中途半端な理想を追って欲しくはない。
 だから。

「宣戦布告だ、士郎。僕は君に勝つ。少なくとも、今の君には決して敗けない」

 タカミチは士郎に背を向ける。
 理由は出来た。だから、もう語る事もない。
 去っていくその背を士郎は無言で眺め……随分と短くなった煙草を咥える。

「不味い、な」

 その呟きを聞いた者は、誰もいなかった。
 





◇ ◆ ◇ ◆







 一方、逃げ出したアキラはと言えば。
 冷静になれずに居た。舞い上がっていると言ってもいい。
 ふわふわと夢見心地で、飛ぶように走る。
 それは明日菜に匹敵するスピードであり、十分にパートナーとしての素質を感じさせるものだが、しかしその事に気づけるはずもない。

 走って走って、とぼとぼと歩いていた明日菜と衝突した。
 二人とも前なんて見ていなかったから、当然と言えば当然だが、しかしその邂逅は運が良かったのか悪かったのか。

「あの、すいませんちょっと混乱してて……って、明日菜?」
「アキラ……」

 明日菜は泣いていた。少なくともアキラにはそう見えた。
 沈んだ声、充血した目、少し汚れてしまっているオシャレな服。
 そのどれもが、アキラには何があったのかを予想させるモノだった。
 
「何かあったの?」
「……うん……ま、ね」

 尋ねてから、アキラはしまったと後悔する。けれど口に出した言葉は取り消せない。
 答える声に元気はなかった。いつものハツラツとした、元気が最大の取り柄と言える彼女が、萎れたように。

「アキラこそ……泣いてたの?」
「え?」

 ハッとして頬に触れると、確かに涙の跡があった。
 それはあの、告白の返事を貰う直前に零してしまった涙なのか。
 それとも、知らず知らずの内に泣いていたのだろうか。あのキスの後、こうして走っていた間に。

「事情は聞かないけどさ。のんびり出来るトコ、知ってるんだ。良かったら一緒に行く?」
「……うん。そうしようかな」

 なし崩し、特に理由もなく二人は別荘へと向かった。
 互いが、互いの事を放っておけないと考えながら。
 




◇ ◆ ◇ ◆







 超が退学する。
 その情報は、木乃香からネギへと伝えられたものだった。

 あの後、二人で話がしたいという木乃香の意を汲み、ネギと小太郎は別荘で休んだ後生徒が関わるイベントに足を運んでいた。
 そのイベント回りの最中、色々と困った事態も発生したが、カシオペアにより回避している。
 そうして、2日目の予定を全て消化した頃。
 木乃香から連絡が入ったのだ。

「どうして……! 超さんっ」

 ネギは走っていた。既にメールで超は呼び出してある。
 応じてくれるかは分からない。返信もなかった。けれど、来てくれる。そう信じた。
 そうして一人走っている中、ネギの携帯が鳴り響く。
 超からの返信か、と期待しながら番号を見る。

「違う……でも、これって魔法先生の! ハイ、ネギです」
『ああ、ネギくん。緊急事態だ。今すぐ来てくれ』
「すいません、今用事があって……! 僕は欠席します」
『そういうわけにもいかないよ。君の生徒、超鈴音についてなんだ』
「超さんの!?」

 聞けば、超の目的は魔法を世界にバラす事。
 その為にタカミチを監禁していた、と。
 間違いではなくタカミチ本人の証言として、犯人は超なのだと。そう、告げた。

『だから至急対策を……』
「僕は今、超さんと待ち合わせしてるんです。退学の事を訊く為に」
『超と? 分かった。なら君はそちらに向かって、可能なら説得してくれ』
「わかりました!」

 約束の時間まではまだ十分にある。けれど、ネギは更に飛ばした。
 そして。






「待たせたかな、ネギ坊主」
「超さん!」

 のんびりと、ネギと同じようなローブで身を隠し、超はネギに近づいてきた。
 気負いなどない。いつも教室で顔を合わせる時のような気楽さで。
 その態度が理解できなかったから、ネギは圧されながら質問した。

「超さんが、タカミチを監禁し、魔法を世界にバラそうとしていると聞きました」
「…………」

超は答えない。ただ悠然と、不敵な視線を向けてくる。

「僕はまだ信じていません。超さんが違うと言ってくれれば、僕も無罪を証明するのに協力します。だから、」
「いいや。嘘はつけないネ。私の目的は世界に魔法をバラす事に相違ナイ。マァ、ネギ坊主を味方に出来ないというのは残念だがネ」

 大袈裟に手を広げ、夜空を仰ぎ超は答えた。ネギの言葉を遮って。
 まるで、そんな問答には意味がないと……そんな事をしに来たわけじゃない、とでも言うように。

「……どうして、ですか。何故、そんな事を……?」
「理由は言えない……と言たら?」

 決意は、あった。覚悟は、足りないかもしれない。
 けれど。少なくとも、このまま超がしようとしている事を見逃すという選択肢はない。
 生徒だから、という理由で守る事はあっても。
 生徒だから、という理由で許す事はいけないと思うから。

「力づくでも、聞き出します」
「とても教師の言葉とは思えないが……イイネ。それでいこうカ」

 ネギがぐっと身構える。だが超は動かなかった。構えもない。
 何かを待っている風でもある。
 しかし、ネギは自分から手を出すつもりはなかった。
 最後には武力で解決するのだとしても、出来うる限り話し合いで解決したい。
 その方法を、諦めたくはなかったのだ。

「ネギ坊主。今こうして私と向かい合っているお前は、自分を正義だと思てるカ?」
「どういう意味ですか」
「そのままの意味だヨ。このまま私が負ければ、私の願いは踏み躙られ潰える。
 ならば、私から見れば悪でしかない。私の願いが、目的が、ネギ坊主にしてみれば“悪いコト”であるのと同じようにネ」

 一歩、超が踏み出した。同時に、世界樹の輝きが増す。
 ライトアップされているかのように、美しく、そして強く。
 この場所が世界樹の効果範囲でない事を思い返しながら、ネギはけれども動かない。
 まだ、諦めない。

「前に……士郎さんにも、似たような事を言われました」
「フ、あの人は確かに悪だからネ。誰からも悪であり、平等で、そして故にこれ以上ない程正義の味方ダ」
「正義の……味方? 士郎さんがですか?」
「そう。私はあの人以上に正義を目指した人を知らない。悲しい程に」

 理解できずに混乱する。
 けれど、士郎が悪であるというのは……素直に納得する。
 いつぞやの問答も。それならば納得できると。

 何故なら、ネギにとって悪とはエヴァンジェリンを指す。
 彼女を、彼女程度を、悪であると認識している。
 悪という言葉と、かつてネギに降りかかったあの災厄を結びつけられていれば、まだしも理解できたかもしれないが。

「正義の味方というのは、味方した者しか助けられない。例えばサウザンドマスターは多くの味方となり、多くを救た。
 けれど、全ての味方だたわけではない。全ての味方をするという事は……全てを裏切るという事だから、ネ」

 例えば。あの夜、ヘルマンをネギが見逃そうとした、その行為は。
 誰かにとっては、裏切りだったかもしれない。
 いや、ネカネも、アーニャも、石にされてしまった村人たちも、口を揃えてネギを詰るかもしれない。

 憎いと思わないのか、と。
 アレは、村を滅ぼした張本人なのだぞ、と。
 黒幕がいる、命令した者がいる、それは確かにそうかもしれなくて、そう考えたからこそネギは見逃そうとした。
 けれど、そんな理由など気にならない憎悪というものは、ある。

 それをネギは自覚していないが、けれども確かに存在している。
 ネギ自身の中に。
 だから、超の言葉は重かった。苦しい程に。

 そう、こうして超と相対すネギは、現時点で超の味方をする事は出来ない。
 超の味方をすれば、学園長やタカミチ、多くの人間を裏切る事になる。
 例え今超が理由を語り、それがどんなに共感できるもので、どんなに正しいと思えても。
 それは、裏切りなのだ。

「なら……僕はやっぱり、皆を裏切れません。超さんがどんなに正しくても、誰かを裏切る方法は間違っているんだと思います」
「それは何も間違えた事のない者の甘えネ。世界には、どうにもならない事など無数に存在する。
 それでも諦めきれないから……どうにかする力があるのなら。
 私は、彼のように世界全ての敵になったとしても、願いを果たす。
 ネギ坊主が裏切れない“みんな”がいるように。私にも、裏切れない“願い”があるからネ」

 ここに至り、ようやく超も構えた。
 もう語る事はない。そういう事だろう。
 残念だと思う反面、ネギはこの現在を予想していたのかもしれない。
 驚く程動揺はなかった。小太郎に言われて、戦う覚悟だけは出来ていたのか。
 それが、結局力で解決しようとしていた自分を認めるようで、内心落ち込む。

 だが、落ち込んでばかりもいられない。
 超は古よりも弱いだろうとは言え、油断できる相手ではないのだ。
 それに、目的は倒すのではなく捕縛。
 それも出来うる限り傷つけずに、だ。
 単純に倒すよりも遥かに難しい。けれど、ネギには自信があった。

 瞬動。背後に回り、風の戒め。
 風属性の捕縛魔法は優秀だ。光属性には劣るものの、捕縛完了までの発動が早く強固だ。
 術式として固定してしまえば魔力が続く限り持続する上に、単純に魔力で破壊することが難しい。
 エヴァンジェリンでさえ捕獲する事が可能なのだ。当ててしまえばそれで終わる。

 故に。

「成程成程。まほら武道会を経て、更に成長しているようネ」

 超の、崩れない余裕が不可思議だった。

「……理由を、聞かせて貰えますか」
「フム。ネギ坊主、その前に一つだけ忠告しておこう。敵の意識がある内に、勝ったと思うは間違いネ」
「なっ――がっ!」

 瞬間。正しく瞬間だった。
 一瞬にして捕縛から逃れた超が、ネギの後ろに回りこみ必殺の一撃を繰り出す。
 油断していたか、と問われれば、していたと答える他ない。
 だが、目の前から忽然と姿を消されて、動揺しない方がおかしい。

 瞬動だとしたら、超の実力はネギでは計り知れないものだと言う事になる。
 それぐらい気配がなかった。
 そもそも、捕縛魔法は破られていない。
 だと言うのに、超は抜けている。不可解というより不可能だ。有り得ない。

「雷撃……麻痺、ですか」
「達人でもしばらくは動けないハズなのだが……頑張るネ」

 話し合いも出来ず、武力行使でも止める事が出来ないでは、先生として意味がない。
 超が悪い人だとは未だに思えなかったけれど、やろうとしている事が悪い事である以上、止めなければいけない。
 先生として。友人として。何より、マギステル・マギとして。

「残念だが、眠っておいてもらおう。仲間にならないのなら、ネギ坊主とて敵でしかない」

 もう一撃喰らえば、意識を手放す事になるだろう。
 そうなっては超を止められない。それだけを燃料に、必死に超の攻撃を避けようとして。

「待て」

 不意に、落ち着いた声が響いた。

「チッ」

 その声を合図に、超が飛び退る。直後、魔法の矢がネギの目前を通過した。
 援軍。そんな言葉が頭を過る。

 超を取り囲むようにして姿を現したのは、神多羅木、ガンドルフィーニ、刀子の三人。
 魔法先生の中でも上位の実力者達だ。

「成程、保険を用意していたカ。中々周到だなネギ坊主」

 その冷めた視線に、ネギは違うと叫びたかった。
 何故か、超を裏切ってしまったような気分になる。
 自分が説得できなかったら、或いは負けてしまったら、有無を言わさず捕まえるつもりだった。
 そんな風に思われるのが、たまらなく罪悪感を駆り立てる。

「ネギ先生」
「刹那さん、楓さん……」

 いつの間にか、ネギを介抱しようと二人が隣に駆け寄る。
 それも、何故だかネギを惨めにさせた。

「さて、超鈴音。投降の意思はあるかな?」
「私を追い詰めたつもりなら、まだ早いネ」
「なに?」

 問う声は遅い。
 飛来するのは音速を突破する“剣”だ。
 何の魔力も、能力も宿っていないただの剣だとしても、その質量がそれだけの速度を持てば威力は計り知れない。

 それを、刀子はなんとか躱したが、ガンドルフィーニと神多羅木は防御しようと魔法障壁に魔力を籠めようとして。
 遅かった。逸らす事も出来ずに直撃を食らう。

「狙撃……衛宮ですか」

 残った刀子は慌てず騒がず、予測していたように壁際に身を隠しつつ超と狙撃方向に注意を払う。
 その後、僅かに出来た余裕を使い二人の安否を確認した。
 一応、死んではいない。
 障壁突破は仕方ないにしても、衛宮が作成した剣特有の、あの切れ味はなかったらしい。
 受けたのは衝撃だけで、刺さってはいないようだった。

「やれやれ。だから護衛を付けろと言っておいたはずだがね」
「フ、これも信頼の証ネ」

 士郎の声は、突拍子もない地点から聞こえてきた。
 正確には、つい先ほどまで刀子たち三人が潜んでいた場所でもある。

「転移符ですか」
「ああ。神鳴流に飛び道具は効かない……ならば、直接手を下すしかあるまい?」

 至極尤も、と頷いて、刀子は構える。
 そこに、待ったをかける声があった。

「待って下さい! 士郎さん、これはどういう事ですか?」
「どうもこうもあるまい。私は超の側に付く。とうに知れている事だと思っていたがな」

 刹那は刀子に視線を向けた。
 沈黙の肯定。長くはなくとも、それなりに師事していた相手だ。何となく、分かってしまった。

「刹那。その男は裏切り者……我々の敵です」
「士郎さんが……敵?」

 呆然としたように、刹那は呟く。
 まだ、数時間しか経っていないのだ。
 あの問答から。あの挑戦から。あの決断から。

 だと言うのに、こんなにも状況は違う。
 数時間前まで、守ると言ってくれていた男が、今では敵になっている。
 そんなもの、受け入れられるはずがなかった。

「戦えないのなら下がりなさい、刹那。足手まといです」

 一度は負けた相手だ。使えない人間は切り捨てなければ勝てるものも勝てない。
 同じ理由で、神多羅木もガンドルフィーニも放っているのだ。

「もう一人の、貴女」
「拙者でござるか?」
「ええ。ネギ先生を連れてお逃げなさい。可能ならば、あちらの二人も」
「しかし……」
「これは命令です。私が敗れれば、負傷者の命は彼に委ねられる事になりますから」
「了解、でござる」

 渋々と言った体ではあるが、楓は了承した。
 せざるを得なかった。
 この場に残り、士郎の真意を問い質したいという想いはあったが、それが許される空気ではなかった。
 それに、ネギたちを避難させるのが先決、というのも事実だ。
 忍者は合理的に動く。主がいないのならば、当然のように。

「刹那」

 楓が声をかけると、刹那はビクっと肩を揺らした。
 やがてぐっと拳を握り締め、震える声で答える。

「私はここに残る。楓は先に行ってくれ」
「刹那、」
「分かっている。分かっているが……それでも。頼む」

 士郎を睨むように、縋るように見つめ動かない刹那に、楓が折れた。
 或いは切り捨てたのかもしれない。今は、取り敢えずネギの安全を優先する。

「楓さん、僕も、」
「その傷では無理でござるよ」

 刹那と同じように残ろうとしたネギを、楓は有無を言わさず抱え込む。
 そして消えていく手際は、流石忍者と言うところか。
 士郎も邪魔をする事なく見逃した。

「余裕ですか?」
「いいや、逆だよ。二兎追う者は一兎も得ず。私は君を過小評価していない」

 油断なくにらみ合いながら、士郎は一度も刹那に視線を向けなかった。
 それを、少しだけ嬉しく思いながら、刀子は重心をずらす。

「超。お前を守る余裕はない。龍宮たちと合流してくれ。場所は第三廃校舎だ」
「了解ネ。武運を祈る」
「ああ。見事期待に応えて見せよう」

 そんな伝達の間も、士郎と刀子は睨み合ったまま動かない。
 刀子が少しずつ重心をずらし、気を溜めている事など士郎も分かっていた。
 しかし士郎は、超の姿が消えてしまうまで待つ。
 そして完全に消えてしまってから、距離を詰めるでもなく構えを解くでもなく、口を開いた。

「やれやれ。退いてくれ、と言っても無駄なのだろうな」
「当然です。馬鹿にしているのですか」
「そんなわけがないのだろう。私は、魔法先生の中で最も厄介なのは君だと思っている」
「高畑先生よりも……ですか?」
「ああ。あいつの技は知っているからな」

 その評価に嬉しくなる。なるが、精神力を総動員して堪えた。
 後ろに弟子である刹那もいるし。何より、この男にそんな事を気取られたくなどない。

「さて、そろそろいいですね。そちらが時間稼ぎする必要などないでしょう」
「そうだな。死合うとしよう」

 この瞬間を、この半年幾度もシミュレートしていた。
 剣士の魂である刀を折られてしまってから、ずっと。
 目の前の男に勝つための手段を暇さえあれば考えて、その為に修業も重ねた。
 だからこそ今は。その他全てを頭から追いだして、勝利にのみ集中する。

「ハァッ」

 刀子の斬撃を、士郎は物干し竿で迎撃する。
 双剣による迎撃を予想していた刀子としてはアテが外された形だった。
 だがそれでも、その刀は衛宮士郎の刀。
 であるならば、かつてのように一刀の下に刀を折られる可能性は十分に考えられる事だった。

 刀子の刀は士郎による複製だ。
 士郎作のものとは言え、その切れ味も強度もかつてと変わらない。
 ならば、武器破壊に注意するのは当然の事だった。

「どうした? 戦いにくそうだな?」
「……お構い無く。そういう貴方が野太刀とは珍しいですね」

 刀子の武器破壊対策は、かつて刹那が選択したものと同じ。
 気で強化していない刀で刃毀れを避けるように丁寧に、柳の如く受け流す。
 だがそれは、今の士郎と似たような剣筋でもある。

「いやなに。似たような刀を扱う者同士、どちらの剣が優れているのか試してみたくなっただけだ」
「双剣ではなく、その野太刀こそが貴方の専門だと?」
「いいや。これは私が知る限り、最も剣を極めた男の刀だ。魔力も能力もない、ただ丈夫で少々切れ味がいいだけの刀。
 君の刀となんら変わる事のない。いや、気で強化されているだけ君の方が遥かに強い刀だろう」

 それが事実なら、刀子の戦法は無駄になる。
 何度も考え、シミュレートしてきたその行為は全て無駄になる。

「私の力では彼の剣技を満足に再現する事は出来ないが……代わりに、この国が誇る剣豪の技をお見せしよう!」

 いつだったか、刹那にも見せた多種の技。
 それぞれが必殺に足る、剣豪たちの剣筋。
 その再現は、例え本物に遠く及ばないとしても、剣士として計り知れない価値があるものだろう。

「佐々木小次郎」
「くっ」

 首を落とさんとする一薙ぎを、刀子は刀を盾とし力任せに弾く。

「柳生宗矩」

 苦戦は必至だ。一振り交える度に癖が変わる。
 しかもそれぞれの一筋が、必殺の太刀筋。

「吉岡清十郎」

 即座に対応など出来るはずもない。なまじ半年間シミュレートしてきた分だけ、対応は遅れる。

「宮本武蔵」

 場当たり的な対応では、その必殺に勝てる道理もなかった。
 刹那との鍛錬とは違う。士郎は殺すつもりで剣豪たちの技を使っている。
 故に。
 刀子の士郎対策が十分過ぎる程に完璧だったからこそ、刀子は敗北する。

「さて、まだ続けるかね?」

 突き付けられた野太刀に、ごくりと喉をならす。
 斬られているのは薄皮一枚、ダメージという程でもなかったが、しかしこのまま続けて勝てるとも思えなかった。
 対策など思いつかなかったし、何よりショックが大きい。

 あれだけの準備を、この半年をこの一戦の為に用意してきたというのに、その殆どを使う事もなかった。
 その上、戦いそのものも短い。初戦よりは遥かに長い戦いではあったが、そんな事で満足出来るはずもない。

「意識ある限り、私は……!」

 突き付けられた刀を力任せに振り払い、策もなく斬りかかる。
 ただ全力で。神鳴流の奥義、最も使い慣れたその技を。

「ならば、刈取るしかないな」
「え……? ――ッ」

 繰り出す事は、出来なかった。
 渾身の力を籠めたハズのそれは、今の今まで掌にあった事が信じられないくらいの唐突さで消失する。
 破壊されたのではなく、消失。
 その事実を理解する間など与えられず、士郎の一撃は容赦なく刀子の意識を刈取る。
 崩れ落ちた刀子を抱き留めて、士郎はゆっくりと地面に横たえた。
 その動作だけ見れば、とても今まで戦っていた敵だとは思えない。

「さて、刹那。何の為に残った?」
「私、は……」

 刹那もまた、混乱していた。
 何故刀子の刀が消えたのか。士郎が何かをしたとしか考えられない。
 あの刀は、士郎が用意したものなのだから。何らかの仕掛けが施されていても、おかしくはない。
 だが、ならば。刹那の夕凪もまた、同じ仕掛けが施されているという事ではないのか。

 だと、したら。それは。
 初めから、敵対する事を想定されていたという事に、なる。

「あの時……」
「ん?」
「あの試合で与えてくれた選択は、偽りだったのでしょうか。私が幸せを選ぶなら守ってくれると言った言葉は、嘘だったのですか?」

 それが、それだけが。不安だった。

「お前は剣を選んだろう」
「それは、そうですが。でも、ならばあの時私が幸せを選んでいたら、超さんを裏切ってくれていたんですか?」

 酷い質問だとは思う。
 論点が違うし、本当はそんな事が訊きたいのではなかった。
 けれどそんな問いしか浮かばない。混乱は、まだ続いている。

「ああ。お前がそれを望むのならば、お前が幸せである為に、それが必要ならば超とも敵対していただろう」

 そして、混乱していても。それが嘘であるかもしれない、なんて可能性が頭を過ぎっても。
 嬉しかったのは事実だ。

「では、何故?」
「超の目的は、私の夢に近い。私の目的を達成する為に利があった。麻帆良に居ても私の目的は叶わないからな」

 理由としては当然で、これ以上ない程解り易い。
 けれど感情が認められるかというのは別問題だ。

「なら士郎さんは……私の為に、その目的を放棄しようとしたのですか」

 それは問いというより独白に近い。
 もしも嘘でも何でもなく、麻帆良を、魔法社会全てを敵に回してでも達成したい目的があったとして。
 その目的を失ってでも、刹那に幸せになって欲しいと、そう思っていたのなら。

「当然だろう。あの選択は、お前の生涯を左右する。ならば、私もこの半生ぐらいは懸けなければな」

 刹那は、思わず赤面する。
 その言葉だけは、嘘だと思えなかった。或いは信じたかったのかもしれない。
 それだけは嘘であってくれるなと。
 きっとそれが、最終防衛ラインだった。

「分かりました。ならば私は戦えます」

 今度は力強く。不安など何もないと言った声で、刹那は士郎に剣を向ける。
 勝てないという事ぐらい分かっていた。
 試合で勝てたのはルールがあったからだ。刃のついた武器の使用禁止など、士郎から戦闘技術の大半を奪うようなもの。
 
 そんな状況での勝利に意味はない。
 今刹那の手に愛刀があったとしても、士郎の手には変幻自在、様々な剣豪の技を引き出す数多の刀がある。
 勝てるとは思っていない。事実、勝てなかった。

 傷めつけられただけだ。頑なに、少しでも長く戦おうと。
 我武者羅で、惨めで、得るものなんて何も無い。
 ただ残るものがあるとすれば、それはちっぽけな自己満足くらいなものだろう。

 これが己の、桜咲刹那の剣であると。
 これが私の選んだ道なのだと。
 あの選択を突き付けられた刹那だから、それを示すのは義務だと思った。
 先ほどの言葉が嘘ではなく、あの選択が目の前の男の人生を左右したというのなら。

「ハァ、はぁ、ぐ、ん……」

 刀を地面に突き刺し、体重を支える。
 刹那はもう限界だった。
 ネギとは違い、武道会の疲労もダメージも残る体でよくやったと、士郎も手放しで褒められるくらいに。

「私も……気絶させますか?」
「ああ」
「また会えるでしょうか」
「どうかな」
「なら、いつか探しに行きます」
「そうか」

 簡素な受け答えでも、刹那は嬉しそうに微笑む。
 疲労感が程良く眠気を誘った。もう士郎が手を下さなくても、そのまま力尽きるだろう。
 でも、その前に。あと一つだけ、伝えたい事がある。

「だから、士郎さん。絶対に死なないで下さい。ちゃんと逃げ延びて、夢を叶えて下さい」
「――……ああ、了解した」

 そして士郎は刹那に手を伸ばす。
 剣はもうない。霧骨なその手で、失神の魔術でも使おうとしたのか。
 それとも。意味などなく、ただ褒めるように……頭を撫でようとでもしていたのか。

 ともあれ。そこに、静止の声がかかった。

「待ちい!」

 木乃香だ。速くはないが、けれども彼女としては精一杯の速度で刹那に駆け寄る。
 庇うように手を広げて、士郎を睨んだ。

「これ、どういう事なん?」
「見たままだが」

 冷たい声だった。刹那でもそう思った。わざと突き放そうとしているような。
 詰問する木乃香の声が竦んでしまうくらいに、無感情。
 つい先ほどまであったどこか優しい空気も、いつの間にか凍り付いている。

「ウチらの、味方やなかったん?」
「そう言った覚えはないな。私は乞われたから力を貸しただけだ。
 誰の味方でもないし、誰の敵でもない。いや……私は、誰もの味方であって、誰もの敵だ」

 刹那は、何となくその意味を理解していた。納得と言ってもいい。
 この人は、誰かに縛られるような人ではないと。
 けれども木乃香は納得なんて出来なかった。頭で理解することも放棄して、ただ感情的に否定する。

「やからって、せっちゃんを……」
「敵と味方に別れれば、これは必然だ。木乃香、お前がこれから身を置く世界はこんなところだよ。
 臆したのなら去るといい。誰も責めはしないし刹那が守ってくれる。お前が望んだ安穏な世界は、そら、案外近くにあるようだぞ?」

 木乃香は泣きそうだった。
 辛辣な言葉が目に痛い。だからきっと、こんなにも目が潤むに違いないのだ。
 ただ。木乃香が泣きそうだ、と。そんな状況になれば、刹那は黙っていられない。
 黙っていられないから、もう動かない体を無理やり動かして、せめて抗議の声をあげようとして、

「――――え?」

 出てきたのは、呆然とした声。
 否、剣だった。短剣、ナイフと言ってもいい。ナイフにしては少しばかり刃渡りが長いそれが、深々と。
 衛宮士郎の脇腹から、突き抜けていた。

「き、さ――」

 士郎が振り返る。その隙間から、木乃香と刹那にも犯人が見えた。
 ガンドルフィーニ。
 士郎の先制攻撃でダウンしていたはずの彼は、暗殺者のように忍び寄り隙を突いたのだろう。

 虚空から剣が射出される。今度は吹き飛ばされるだけでなく、その剣は深々と刺さった。
 そのまま気絶してもおかしくないだろう痛みだろうに、彼はうっすらと笑い呟いた。

「着火<イグニス>」

 瞬間、士郎は炎に包まれた。












刀子「…………まぁ、衛宮に勝つために修行していたせいで、彼氏とデートする暇がなかったんですけどね」

(拍手)
 
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後書き

まず最初に謝ります。バガボンド厨ですすいません。いやだって日本史不得意やねん。世界史ならそこそこ覚えてるんだけど……。
と、言うわけで後半刹那がヒロインとして返り咲いた75話でした。
色々伏線に気を使い過ぎて、大事な何かを忘れている気もするので、後でこっそり修正するかもしれません。
今回もかなりカットしたけど今までで三番目に長いです。しかし次は更に長くなる予定なので、カットせずに分割するかもしれません。
ので、次がいつになるかは分かりませんが、卒論の現実逃避で思いの外筆は進むので案外早めかも。ではでは。

2011.01.21 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

更新乙
おもしろいわ

2011.01.21 | URL | とろみ #- [ 編集 ]

Re: とろみさん

ども。次は間が空きそうなのでがんばりました。
若干描写が手抜きですが。

2011.01.21 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

ネギまアンチには欠かせないガンドル先生が漸く一矢を報いた……のかな?
数々のSSで頭が固い正義の魔法使いの代表でKY、しかも見せしめとしてボコされる(涙)なガンドル先生ですが、本来ならエヴァにしても士郎にしても彼くらい警戒するのが当たり前なんですよね。
そんなガンドル先生に幸あれ(出番的な意味で)

2011.01.22 | URL | サザエさんヘアー #- [ 編集 ]

Re: サザエさんヘアーさん

本当にね、彼は現実的に麻帆良を守っている人間だと思います。
まぁ、ウチは最初っから過半数の魔法先生をボコってるんで、今回士郎はその時の借りを返されてしまった、と。
ただ、彼って別に頭が固いってわけでもないと思うんですよ。
ネギによる超迎撃作戦においては、特に意義を唱えるわけでもなく柔軟な思考をしていたと思うし。
単に、信用できるか否かってのを現実的に見つめているだけで。
実際、この話においては士郎を擁護していた側の方は裏切られ、結果的には間違いだったという事になるのですし。
まぁしかし出番はどうなるかな……もっと強ければいろいろやりようもあるんだけど、現実的な判断が出来る人だからデカイ事させられないんですよね……。

2011.01.22 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

グラヒゲの素晴らしき指パッチンが見たかった(笑)
けど、聖骸布で無効化か軽減されてさほどダメージを与えられずにやられていたかな?
ガンドルフィーニは、リアリスト過ぎるが故に頭が固いと思われてしまいウィキペディアにも書かれてしまっているようですね。
まぁ、そんなことよりもそろそろ原作でもあった瀬流彦唯一の活躍シーンまでどーなるのか楽しみにして待ってます。

2011.01.22 | URL | 市川官房長官 #- [ 編集 ]

Re: 市川官房長官さん

私はそもそもベルセルクのセルピコ好きなんで、そりゃもう結果は推して知るべし。とか言うと自分の首を締める事になるか。
まぁガンドルさんが頭固いというより他の連中の頭が緩すぎる気がしないでもない。
そして実はグラヒゲは楓が回収しているので最終決戦にも参加見込み。過労で倒れないといいけどね。

2011.01.22 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


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