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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第74話


「告白」




 地下で発見した鬼神などに関する報告を、明日菜と愛衣に任せたネギは超と連絡を取ろうとしていた。

「……ダメだ。やっぱり繋がらない」
「超か。まぁ確かにやりかねんよなぁ」
「小太郎くん、何か知ってるの?」

 いや、と否定した上で小太郎は口を開く。

「ほら、この前まで士郎兄ちゃんの手伝いで超包子で働いとったろ。
 それで少し話した事があるんやけど……凄い奴やと思うで、実際。
 こっちで戦ったら負ける気はせーへんけどな。頭がいいっていうのも強さやって実感したわ」

 パシンと自分の拳を掌に打ちつけて、小太郎は遠い目で思い返す。
 頭を使って戦うというのは、士郎や愛衣も同じ事なのかと考えながら。

「そっか……」
「しっかし、ホンマに超が犯人やったらノコノコ出てくるわけないやろ」
「でも、何か用事があるだけかもしれないし」
「確かに確定やあらへんけどな。こういう場合、真っ黒やろ。お前も戦う覚悟はしておかんと」

 確かに、その心構えは必要なのかもしれない。
 ネギは覚悟こそ出来ないなりに、その現状を認めた。
 客観的に見て、超が何らかの企みを持っているのは間違いがない。
 なら、それを認めた上でどう動いていくのかを考える必要がある。

「それより俺には、アスナの方が問題に見えるんやけどな」
「アスナさん?」

 何故? とネギが目で問う。
 小太郎は幾分真剣さを増して答えた。

「俺らがお前らん所に着いた時……アスナの戦いぶりは凄かったで。正直、助けなんていらんと思った。
 鬼気迫るっちゅうか……とても素人とは思えん動きしとった」
「それって、試合の時よりもって事?」
「試合の……最後、あの剣を出した時と似たような感じやったな」
「…………」

 ネギは押し黙る。
 その状態の明日菜に覚えがあるからだ。
 修学旅行、刹那の腕が切り落とされた時の、あの時。
 意識さえなかったあの時とは違うのだろうけれど、そこまで言われると不安になる。
 単に明日菜が自分の力をコントロールできるようになった、というだけならばいい。
 けれどこれが嵐の前の静けさ、何らかの予兆であったとしたら……。

「でも、ならどうすればいいのかな? 強くなってるってだけなら悪い事じゃないし」
「俺にも上手く言えんのやけどな。あれは悪い力やと思う。使っちゃいけない類のもんや。
 例えば俺の獣化も、使い過ぎれば体に負担が残る。それと同じか、もっとヤバイもんや。
 やから、お前が見といてやらなアカン。パートナーや言うても、女は男が守らなアカンからな」

 旧い考え方だ……などと、ネギは思わなかった。
 修学旅行以降、実戦を重ねる毎にその思いは強くなっていたからだ。
 明日菜に限らず、仮契約したパートナーたちは全て。ネギが守らなければならない相手だと思っている。

 だからこそ小太郎の言葉はネギに突き刺さった。
 事実、ネギは明日菜の変質に気づいていなかったのだから。
 それは注意不足だけで片付けられる問題ではなく、まだネギに明日菜を守れるだけの力がない事を意味している。
 ネギがもっと強ければ、明日菜が力を振るう必要などないのだから。

「うん……その為に、もっと強くならなきゃね」
「おう。修行なら付き合うで。俺もあの別荘使って修行したいしな」
「なら、これから別荘に向かおうか。魔力を回復させないとカシオペアも使えないし」
「なんや、今日はまだ予定があるんかいな」
「何言ってるのさ。小太郎くんもライブに誘われたでしょ?」
「ああー……あれな」

 本当に忘れていたらしい小太郎は、どうもあまりノリ気ではないようだった。
 小太郎としては、今は遊ぶより少しでも鍛えたいのだろう。
 ネギにしても、その気持ちはある。
 二人とも、大きな敗北を得て、大きな戦いを見て、触発されるものはあった。
 受け取ったものはそれぞれ違っても、もっと強くなりたい、ならなければという思いは同じである。
 燻った感情は行動でしか消化できない。その意味でも、取り敢えず別荘へ、という選択は間違いではないだろう。

「……あれ? このかさんだ」

 別荘……エヴァンジェリンの家の前には、意外な人物が待っていた。
 疲れているのか、柵にもたれかかっている木乃香は、ネギを見ると嬉しそうに駆け寄ってくる。

「ネギくん待っとったんよ。携帯も通じんし……」
「すいません、任務中だったもので。何か御用ですか?」
「うん。カシオペアを使わせて欲しいんよ」
「カシオペアを?」

 ここにいるのは木乃香一人。刹那や明日菜と一緒だと言うのなら解り易いが、一人だけとなると珍しい。
 そもそも木乃香が誰かと一緒でない状態というのを……ネギはほとんど見た事がなかった。
 家事やら何やら、一人で活動している事は決して少なくないはずなのに。
 印象に残らないと言った方がいいのか。
 いつもニコニコと笑っている木乃香が、一人の時にはどんな表情をしているのか予想が付かない。
 ふと、ネギはそんな事を考えた。

「うん。どうしても確かめたい事があるんよ」
「それは構いませんけど、僕もあまり魔力が残ってなくて。少し休まないと使えそうにないんです」
「なら、ウチの魔力を使ってええよ。どうせ使う機会もないやろうし」

 仮契約において、主から従者へ魔力を渡す事は難しくない。
 が、逆に従者から主へと魔力を供給するのは特殊な術式が必要になる。
 木乃香を主としてもう一組仮契約すればいいのだが、カモがいない今はそれも不可能。
 幸いにして、そういう面倒な術式はネギの得意分野だ。
 基礎の応用においてネギの右に出るものはそういない。
 可能か否かで問えば可能だった。
 木乃香が精密な魔力コントロールを身につけているならカシオペアを直接使用する事も出来たのだろうが。
 まだ木乃香はその段階に至っていない。

「でも、一つだけ教えて下さい。何を確かめに行くんですか?」

 それは責任だ。先生としての。
 生徒が何の為に自分を頼っているのか。自分に所属する力を行使する上で、その目的を問う。
 今まで怠っていたけれど、それは必要な事だとネギは考え始めていた。
 何か問題があった時、力を貸した以上先生として責任に問われるのはネギだからだ。
 それではネギも生徒を庇う事は出来ない。一緒に怒られる側にいては、守れるものも守れなくなる。

「あー、それはな……」

 木乃香は小首を傾げ、ふっと視線を逸らし何事か思案する。
 それは一秒にも満たなかったが、何故かネギは木乃香の笑顔が怖くなった。

「超りんに、会いに行くんよ」

 爆弾が、投下された。






◇ ◆ ◇ ◆






 デート。誰がどう見てもデートである。
 相手にその気がないという事が分かっていても、緊張してしまうのは当然の事だとアキラは主張したかった。
 てくてくと隣を歩く士郎の装いも、いつもとは違う。
 見慣れた喫茶店のエプロンではなく、コスプレか何かと見紛う戦闘服だ。
 アキラの清楚なイメージとはちぐはぐで、正直見た目お似合いには見えなかった。

「それで、どこに案内してくれるんだ?」
「へっ?」
「おいおい。君が学祭を案内してくれるんじゃなかったのか? そういう約束だったと記憶しているが」
「あ、はい。そうです、けど。私自身学祭の全てを知っているわけじゃないので」
「まぁ、こうして歩いているだけでも物珍しいがな、この街は」

 学園祭の間は尚更に。遠くまで出歩かなくても、少し歩けば何かしらのイベントにぶつかる。
 アキラもノープランというわけではなかったけれど、士郎の格好と誰かに見つかるかもしれないという予感から計画を考え直す必要が出てきた。
 見つかったからと言ってどうなるというわけではないけれど。
 やっぱり恥ずかしいし、何より刹那には見つかりたくなかった。
 その理由は……まぁ、彼女も何となく理解している。
 特に、士郎と刹那の試合を見てからは。

「士郎さんは、どこか行きたい所はないんですか?」
「行きたいところ、ね。普段は店に引き篭っているからな。
 麻帆良で知っている場所なんて、女子中等部と商店街、後は図書館島ぐらいだよ」
「図書館島?」
「ああ。ここに来たばかりの頃、調べ物にな」

 たった半年の事ではあるが、士郎は既に図書館島の大部分の地理を覚えている。
 普通は見つけられないような隠し部屋も、解析の魔術を使えば簡単に見つかる為、あのようなダンジョンは士郎にとってそう苦にならないのだ。
 まぁ、あんなダンジョンに乗り込むのは士郎とて初めての経験だったが。

「私はあんまり図書館島って詳しくないんですよね。本を読むのは嫌いじゃないんですけど」

 図書館島は有名でこそあるものの、図書館探検部ぐらいしか足を踏み入れる場所ではない。
 アキラは部活に入っているし、仲のいい友達も文化系より体育会系だ。
 図書館探検部が、下手な体育会系の部活よりもよっぽどハードだというのは知っているけれど、中々足を踏み入れる機会はなかった。
 身近にある観光名所に足を運ばないのと同じようなものだ。
 一度は行った事があるけれど……だからといって詳しいわけでもない。

「ふむ……じゃあ行ってみるか?」
「行ってみるって……図書館島にですか?」
「ああ。元々はアキラに案内を頼むという話だったが、私が案内しても構わないだろうさ」
「それは嬉しいですけど、夜までに帰ってこれますか」
「勿論、遅くならない内に帰すつもりだが」
「あの、そうじゃなくって。ナイトパレードがあるんです。一緒に見ようと思って」
「……まぁ、大丈夫だろう。最深部まで潜らなければ」

 と、いうわけで。
 デートに図書館とはあまりに味気ないスポットだとは思ったけれど、そもそもこれデートじゃないし……と軽く落ち込みながら、アキラは士郎に連れられるままに図書館島へと向かった。






◇ ◆ ◇ ◆







「図書館島か……」
『ええ。如何いたしますか?』
「特に対策は必要ないだろう。タカミチ君の情報が確かならば、おそらく彼は陽動だろうからね」
『しかし彼が何らかの準備を行おうとしている可能性もありますが』
「それがないとは言い切れないけれど、僕は可能性として低いと思っているよ。
 彼の挙動が怪しくなったのは最近の事だ。つまり、それまでは計画に参加していなかったんだろう。
 なら、彼に重要な準備を行うことは出来ないと私は考える。
 確かに彼は強いし頭も回るけれど、専門的な知識に秀でているというわけではないからね」
『その根拠は?』
「ないよ。強いているなら彼に出会ってから観察し続けてきた結果だけれど。
 専門知識があるのなら、もっと簡単な解決方法がある事態は幾つもあった。
 なのに敢えて面倒な方法を選択しているのなら、推論は当然の帰結を迎える」

 そんな面倒な方法でしか解決できなかったから。
 もしも士郎が全てを見通し、この状況を予測した上で敢えてそんな行動を取っていたというならどうしようもない。
 そんな相手には、何をしてもどうせ勝てないだろう。
 ならば、せめて勝てる状況を作り出す必要がある。
 勝てる可能性が最も大きい条件を絞り込む。
 なにせ、相手はたった一人でこの麻帆良学園の戦力を制圧しかけた男なのだから。

『今更彼について考察するのは無意味。教授の持論でしたね』
「論なんて大げさなものじゃないよ。ただ、僕らはきっと既に彼の罠にかかっている。
 だから、信じる以外に対抗策なんてないんだよ」

 疑惑という罠。
 疑い惑ってしまうなら、ひたすらに信じるしかない。

 一律した行動理論を。一様の行動様式を。一概の目的を。
 意思を統一し、その上で信じる。
 関東魔法協会という組織の力を。自分たちは勝てるのだと言う思い込みを。
 どうしても疑ってしまうのなら、それでイーブンだ。

 個の集団で挑めば負ける。それは半年前に誰もが痛感した事だ。
 今はそれなりに対策もある。あの時と同じようにはいかないだろう。
 だが。それでも、絶対に勝てると慢心など出来ないから。
 組織として纏まれば勝てると。そう、信じこむ必要があるのだ。

「それより君はいいのかい?」
『どういう意味ですか?』

 刀子はいつもの冷静なトーンのまま念話で答える。

「いや、君は士郎君に肩入れしている……というか、意識しているように見えたからね」
『な!? ななななんなぁっ』

 冷静さなんて一瞬で崩れ落ちた。ここまで狼狽してしまえば今更取り繕ったところで意味はない。

「いや、すまない。そこまで驚くと思ってなかったんだ」

 刀子の狼狽っぷりに驚いた明石は素直に謝罪する。
 というか、ここまでのガチ反応だと申し訳なくなってくる程だ。

『………………あの。ちなみにいつ頃からでしょうか?』

 怖ず怖ずと。躊躇いが伝わってくる。
 顔が見えない念話だと言うのに、否だからこそか。

「ここ一月ぐらいかな。君がアルトリアに通う頻度が上がっていると神多羅木君が言っていたから」
『神多羅木ですか……よりにもよって』

 絶望したような沈んだ声色だった。
 これは珍しいというより異常事態である。
 こんな些細な事でコンディションが変化されても困るのだ。
 まぁ、本人としては些細な事などではないのだろうが。

『あのですね、意識といっても異性に対するそれというのではなく、単純に要注意危険人物に対するそれであって……』

 と、長々と言い訳をし始める刀子。
 そんな事を許している暇は正直ないのだが、しかし聞かなければ困った事態になる可能性も否定できず、明石は仕事をこなしながらも刀子の念話に耳を傾け続けた。




「ふぅ、ようやく開放されたか……」

 ため息をつく。あれから十分は経っていた。
 たかが10分と言えどもこの非常時には惜しい時間だ。

「どうかしたのか?」
「ああ、神多羅木君……葛葉先生がね」

 思わず明石は愚痴るように先ほどの出来事を伝える。
 元々神多羅木からの情報が発端なのだから教えても何が変わるというわけでもない。

「ああ葛葉は……先月恋人に振られたというか振ったというか。まぁ色々あったようだな。
 で、アルトリアに愚痴りに行っていたようだ。衛宮の話では衛宮も少なからず関係しているらしいが」
「彼が?」
「詳しいところまでは知らない。少なくとも今回の件には関係ないだろう。あくまでプライベートだ」
「プライベートね。彼女は仕事と私情を厳格に分けているイメージだったんだけどね」
「今回は特別なのだろう。まぁ、あまり深入りしてやらないのが優しさだと思う」

 まぁ、実際異常事態だ。
 葛葉刀子が感情を顕にする場面など明石は初めて見たし、彼女を知っている大半の人間がイメージも出来ない状況だろう。
 故に、異常事態だ。或いは、士郎の意図不明の行動よりは、よほど注意しなければいけない程の。

「僕じゃフォローは難しそうだね。神多羅木君、頼めるかい?」
「無茶を言わないで欲しいな。それに、フォローなど要らない。しても悪化するだけだ」
「それもそうか」

 一応、士郎の監視任務からは外す方が賢明ではあるのだろうが、それを明石が指示すれば先ほどの念話を意識させるだけの結果になるだろう。
 触らぬ神に祟りなし。出来る事と言ったら、これが悪手にならないよう祈るだけである。

「それよりも超鈴音の動きだが……」
「発見されたのか?」
「いや。だが痕跡は発見した。先の報告が事実ならば……」


 そして。士郎の行動は軽視され、超への対策は着々と練られていく。
 同様に、葛葉の動転っぷりも、やがては忙しさの中で忘れられていった。

 その後、士郎をロストしたという報告を受けてもそれは変わらない。
 感づかれた事を察知した士郎が疑惑を広げる為に行った悪あがきだろうと。
 明石でさえそう判断した。そう判断できるだけの情報は、既にタカミチがもたらしている。

 けれどその上で、この士郎の行動を疑い通した者はいた。
 ガンドルフィーニ。
 彼は明石たち他の魔法先生たちにも内密に、あくまで麻帆良を守るためだけに。
 高音と愛衣に、命令を下した。



 

◇ ◆ ◇ ◆






 図書館島である。と、言っても士郎が案内したのはその裏手だった。
 人気が無さ過ぎて女子を連れ込むには不向きというか、いっそ前時代的な呼び出しにでも使われそうな感じだった。
 まぁ、相手が士郎ではアキラとしても不安もなければ期待もない。
 ただ、多少無理やりでも素直に学祭見物しておけば良かったかな、と軽く後悔するくらいである。

 ここに来るに当たって、別に学祭期間中である必要は全くない。
 探検ツアーの方に参加するわけでもないのなら、それは確かに特別なものかもしれないけれど、しかし今である必要はないのだ。
 敢えて言うのなら。今の、学園祭の見物なんていう遠まわしな理由がないと、誘えないというだけ。
 勇気を振り絞れば、いつかは叶うかもしれない事。

 でも。この、学園祭の終わりと同時に、衛宮士郎がこの都市から消えるという事を知っていたのなら……アキラも、不満を感じる事はなかっただろう。
 けれど今、アキラはそれを知らない。
 だから、脳天気に、深く考える事もなく。
 緊張も解れ、のんびりとした歩調で、誘われるままに扉を開いた。

「うわ……」

 呟いた声が、延々と続く螺旋階段へと消えていく。
 底は闇に覆われどれだけ続いているのかなど分からない。
 圧巻。麻帆良の地下にこんな場所があるなんて、とここに足を踏み入れた者は誰しも思う。
 驚愕なんて通り越して呆れてしまうくらいに。
 何故今まで気付かなかったのか、とか。こんなもの、本気で作ってしまおうと思う事が、そもそも馬鹿らしいと。

「これ、どれだけ続いてるんですか?」
「さて、測った事はないな。まぁ、普通の人間の足では往復するのに一時間はかかるだろう」
「落ちたら死にますよね」
「その時は助けるから安心してくれ。竜に出会わなければ面倒な脅威はないからな」
「竜、ですか?」

 などと。
 注意を逸らしのほほんと、士郎を振り返ったりなどしながら後ろ向きに歩いたのがいけなかったのか。
 注意深く歩いていたところで、それは回避できないトラップだったのかもしれないけれど。

「ひゃっ!?」

 底が抜けた。否、床が崩落した。
 螺旋階段の最初の一歩、まぁそもそも後ろ向きに階段を降りようとするのが危険ではあるのだが、まさかこんなトラップがあるとは思いもしないアキラは何が起こったのかは分からない。
 そもそもトラップなどではなく、単に老朽化の末の出来事だったのかもしれないが、そんな事は何の関係もないだろう。

 ただ、落下しているという現状があるだけだ。
 それも、分からないなりに今の自分が危険な状態にある事だけは本能的に理解している程度。
 ここは危ないから、安全な所に帰ろうと、一緒に落下している足元の瓦礫を土台にして飛び上がろう。
 と、そんな事を考えた瞬間に、アキラは士郎に抱き抱えられていた。
 直前までやろうとしていた事、考えていた事など綺麗さっぱり忘れて緊張に体を固くする。

「大丈夫か?」

 アキラはこくこくと頷く。
 まだ落下中だったから声は出せなかった。ピクリとも動かず、借りてきた猫のように丸まってしまう。

「よし、ならこのまま降りるから舌を噛むなよ」

 さながらジェットコースターだ。
 人間がジェットコースターと同等のスピードを出せるというのは、あの試合を観て理解していたつもりではあったけれど、やはり体感するのは違う。
 百聞は一見にしかず。一見は一感に及ばず、だろうか。
 当たり前の事ではあるけれど、しかしその運動が安全を約束されている機械でもなく、不安定な他人の手によって成されているというのは恐怖だ。

 まぁ、ジェットコースターと同じく、この疾走感も慣れてしまえば怖いというより楽しく感じてくるものではあった。
 どれぐらいの間隔なのかアキラには分からないが、士郎は減速の為か時折螺旋階段に着地してはまた飛び降りる。
 その際に、普通に考えれば骨ぐらい折れてもおかしくない衝撃があるはずなのに、それがないというのはつまり魔法なのだろう。
 もしかしたら、落下しているのではなく飛んでいるのかもしれない。
 
 ともあれ。アキラの不安やら恐怖やらは、あっさりと魔法への憧れで上塗りされた。
 元より運動神経も優れているアキラだ。速さに対する恐怖心が薄れるのも早かったのだろう。

 まぁ。そんな風に安心出来たというのはつまり、この現状のおかげかもしれない。
 お姫様抱っこ。
 背負われるのとはまた違って、顔が近い分余計に恥ずかしい。
 だからついっと視線を外へ逸らして、けれどそれで胸板の厚さが、その感触が消えるわけでもなくて。
 一番下に着くまで、アキラの体感ではそれ程時間はかからなかった。

「ほら、着いたぞ」

 そう言って士郎はアキラをゆっくりと降ろした。
 何となく、名残惜しく感じる。いや、理由なんて分かりきっているか。
 そもそも、アキラが士郎を意識し始めた原因は。
 あの月の夜、背負われて帰った思い出なのだから。

「わぁ……」

 少しだけよろめいて、けれど士郎に体重を預けないよう気を付けて、ようやく周りの景色を眺めたアキラは感嘆の声をあげる。
 正直、予想以上だった。
 士郎が連れて行ってくれる場所、というのに何の期待もしていなかったアキラとしては、嬉しい誤算だ。
 学園祭とは何ら関わりがないけれど、それでもいいと思えてしまうくらいには。

 どんなリゾート地でも、この光景には敵わないだろうとさえ思う。
 地下だと言うのに柔らかな日差しがあり、水は透き通っている。
 緑に溢れ、まるで遺跡のように本棚が埋まっている光景が、どこか神秘的でさえあった。

「地下にこんな場所があったなんて……」
「魔法使いの遺跡だよ。世界樹と図書館島、この二つがあったからこそ麻帆良学園が出来たとも言える」

 そうなのか、と感心しながらきょろきょろと景色を眺める。

「少し歩くか?」
「そうですね。奥まで観てみたいです」

 二人はのんびりとした歩調で歩き出した。
 取り敢えず目指すのは、奥に見える大きめの扉。
 アキラはいつもより心なし士郎の近くを歩く。

「あの、何で図書館島に詳しいんですか?」

 アキラが知っているのは副担任として着任した以降の士郎だが、何となくこれまでの会話から士郎も長年この麻帆良に居たわけではないという事は分かっていた。
 むしろ、麻帆良に居を構えたのはここ最近であると言っていいくらいだと。
 だからこそ学祭見物の案内なんて便利な口実が使えたわけだ。
 しかし、となると、何故現地住人でさえ知らないような場所を熟知しているのか、という疑問へ行き着く。

「何故と言われてもな。半年程眠っていたおかげで情報が足りなかった。調べ物に活用している内に、自然とな」
「半年程……眠っていた?」
「ああ。色々と訳ありでね。手傷を負い麻帆良に逃げこみ、学園長に保護された。
 麻帆良に拠点を置いたのも、その恩を返す為というのが大きい」

 アキラにとっては初めて聞く話だった。
 そもそもアキラは士郎について詳しいわけじゃない。
 士郎が属する裏の世界の事を、士郎経由以外で知らないのだから当然だ。
 あまり昔の、特に自分の過去を語るタイプの人でもないし。
 だから、その内容はともかく、それが割と最近の事なのだろうと分かっていても、士郎の過去話を聞けてアキラは嬉しかった。

「半年も寝こんでいたなら、大怪我だったんですよね……」
「まぁ、そうなる。一般人なら死んでいる程度ではあったが……私は特別だからな」
「特別?」

 聞き返すも、士郎は頑としてその内容までは喋らなかった。
 いや、これだけでも普段の士郎からすると饒舌な方だろう。
 必要なくて、意味のない会話は今まであまりなかった。
 もしかしたらこのデートもどきで、幾許かでも開放的になってくれているのか、なんて。
 そんな期待をしてしまう。

「それよりアキラ、君は麻帆良に結構詳しいようだが、ここでの生活は長いのかな?」
「えと……初等部からだから、それなりに長いですね」

 士郎が、アキラについて質問する。
 家庭環境から好きなもの、仲のいい友達まで根掘り葉掘り。
 何故そんな事を、と思うものも多かったが、アキラは正直に答えていく。

 嬉しかったのだ。
 士郎が自分に興味があるのだと、そう実感する事が出来たから。
 アキラが照れてしどろもどろになったり、逆に士郎が意表を突かれて話題を変えたり。
 大河内アキラについて、という話題で二人は盛り上がった。







 楽しい時間ほど、過ぎるのは早い。
 士郎とぶらぶら歩きながら他愛もない話を続けていたアキラだったが、それもいつまでも続くものではなかった。

 ナイトパレードの時間が迫っている。
 この図書館島の風景と同じく観て楽しむ事ぐらいしかできないが、それでもアキラは楽しみにしていた。
 学祭のパレードはそれなりに有名だ。
 パレードそのものも綺麗なのだが、それ以上に丁度いいタイミングで発光する世界樹が見物である。
 これだけは二人で、と決めていたのだ。気合いも入る。

 ついでに補足すると、時間節約の為に再び士郎はアキラを抱えて地上に戻った。
 今度はそんなに怖さも感じず、アキラはむしろその爽快感を楽しんでさえいた。
 浮かれていたのかもしれない。浮かれては、いたのだろう。

 段々とパレードの本筋から離れ人気が少ない方へと歩き出した事も。
 いつの間にか、意識するまでもなくアキラと士郎の隙間が狭まって、それに気づいたアキラが赤面した事も。
 条件は、揃っていた。

 気付かなかったのは、士郎の油断。
 思い切ったのは、アキラの勇気。
 
「好きです」

 言ってから、しまったとアキラは思った。
 でもそれ以上に、あっさりと言ってしまえた自分に驚いた。

 そう、条件は揃っていたのだ。
 恋に恋する年頃の女子が、魔法なんてワクワクする世界の住人と関わり、助けられ、こうして隣を歩いている。
 恋をしたって、おかしくない。
 ちっとも不思議じゃない、むしろそうでなければならないような必然だった。

 それは年上への憧れみたいなものかもしれないし、愛なんて言葉には程遠い、幼稚すぎる感情だ。
 それでも嘘じゃない。本当に、心からアキラは断言できる。
 大河内アキラが衛宮士郎を好きになったのは、確かに魔法という要素が関わっているけれど。
 好きになったのは魔法ではなく、この喫茶店の店主なのだと。
 誰よりも強く、厳しく、そしてこっそりと優しい。
 その裏側を知っているから。知れる立場にいたから。

 好きになった。好きになれた。
 胸に秘めて、気づく事にさえ臆病で、けれどずっと前から理解っていた。
 別に進展なんてなくてもいい。このままの距離感で、このままの関係で。
 ずっと続いていく事が、アキラの願いだった。

 だから、告白なんてするつもりはない。なかった。
 口にしてしまったのは、勇気以上に雰囲気だろう。
 もしかしたら、別のナニカが要因なのかもしれないけれど、気持ちに嘘がないのならば構わない。

「……………………」

 沈黙が、冷たい風のように肌を突き刺す。
 目を合わせる事はできなかった。
 揺れる前髪の隙間から覗く士郎の足が、かすかに動く。

「それは……LoveとLike、どちらの意味なのだろうか?」

 酷い質問だと思った。何故こんな人を好きになってしまったんだろう、と思うくらい。

「さ、察して下さい」

 アキラはやっぱり顔を上げられず、俯いたままに、瞳まで閉じる。
 耳まで赤くなっているのが分かり、耳まで隠れる長髪で良かったなんて、的外れな事を考える。
 そして、何故か。
 答えも聞いていないのに、涙が零れた。

「君を、そういう対象として見る事は出来ない」

 ほら、と。こんなの分かりきっていたのに。
 いざ答えを返されると、直前の勇気など消し飛び後悔しか残らない。
 何故告白なんてしてしまったのか。こんな結果になるのなら、学祭デートになんか誘わなければ良かったのに。

「理由を……理由を、訊いてもいいですか?」

 それでも口から出てきたのは、そんな質問だった。
 頑張れば。努力すれば、士郎の気持ちを動かせるなら。
 またこうして隣を歩いてもいいのなら。何だって出来る。

 とでも、思ったのだろうか。
 アキラ自身、既に自分の感情も、願いもコントロールなんて出来ていない。
 何を考えていたのかなんて、振り返っても思い出せない。
 ぐちゃぐちゃとした思考の中で、藁に縋るように顔を上げた。

 目に映ったのは、アキラ自身。
 涙目で、それはもう酷い顔だった。こんな顔じゃ、告白が成功するわけない、なんて他人事のように考えて。

「君が、日の当る世界に生きているからだ。私のような、日陰者に付き合う必要などない。
 君は真っ当に真っ当な場所で輝ける。私は、その輝きを失わせたくないのだよ」

 綺麗過ぎて、いっそ憎らしい解答。
 そんな綺麗な答えを返されるぐらいなら、年齢でも容姿でも、どうにもならない理由を付けて欲しかった。

 確かに、考えは浅いのだろう。それはアキラも認める。
 だってアキラは表側にいる。裏側が見える端っこだとしても、確かに。
 だから分からないと言われても仕方がないし、想像で語る以上はどうしようもない。
 表を捨てて裏側に踏み込む事が、どれだけ恐ろしく苦しい事なのかなんて分からない。

 でも、それでも。どんなに考えなしだと怒られても、少なくとも今この時は。
 アキラは、それでも士郎と一緒にいたいと思った。
 だから告白しているし、だから理由を訊いている。
 アキラの為を思うなら、想いに応えてくれる事が何より嬉しいというのに。

「ぃや、嫌だっ。そんな理由は認めたくない! そんなのとっくに分かってるんだ!
 それでも私は貴方の隣で……パートナーとして、歩んでいきたいっ」

 髪を振り胸に手をあて、心の限り叫ぶ。

 憧れは、あった。
 ネギと明日菜の。木乃香の。刹那の。
 仮契約というカタチに対する憧れが。
 隣を歩く資格を、アキラはパートナーというカタチに求めた。求めてしまった。

 それは明確な願いだった。大河内アキラから、衛宮士郎に願う行動。
 やがて、士郎の背にある世界樹が輝き出す。
 パレードの喧騒から切り離され、今はただ世界樹の光だけが祝福しているように。

「………………ぁあ、分かった。アキラを、私の従者と認めよう」
「……え?」

 その肯定に、アキラはたっぷり30秒、思考停止。
 強引に引き寄せられて、彼女はファーストキスを体験した。







・蛇足

 嘘だ、と思った。そんなわけない、と喚きたかった。
 けれど目に映るソレは現実で。

 告白と、それを断った彼に浮かれていた心などあっさり凍りつく。
 つうっと、頬を温かいモノが伝った。
 それが涙だと、自分が彼に好意を抱いていたのだと。
 そんな事にさえ気付けないまま、私はただ呆然とその光景を眺めていた。

(拍手)
 
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長らくお待たせしました

難産だった。それだけ。次はもうちょっと早く更新したいものですが、半分以上シーン削ってこれだから期待はしないで下さい。

2011.01.12 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

更新乙
ラストシーンはかなり意外だった

こういう話も作れるなんてすごいですね

2011.01.12 | URL | とろみ #- [ 編集 ]

Re: とろみさん

ども。あんまり意外性ばかりを追い求めるのもどうかとは思うんですが。
楽しんで頂けたのなら幸いです。

2011.01.12 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

更新お疲れです。
ラストシーンの大河内の想いを見て、なんだか泣けました。
とても素晴らしかったです。

2011.01.13 | URL | 高尾神 #- [ 編集 ]

Re: 高尾神さん

感想ありがとうございます。ラストシーンはともかく、途中のデートはもっと詳しく書きたかったんですが……。

2011.01.13 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

アキラの精一杯の気持ちを吐きだすが切なすぎて
ラストシーン直前の世界樹が怖い未来を感じさせて不安になってきました。

2011.01.14 | URL | NoName #mQop/nM. [ 編集 ]

Re:

さて、その不安が払拭されるか否かは75話で……というか、もうその辺りまでは書き終わっていたり。

2011.01.14 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

初めて感想を出しますdesertといいます。

熱いバトルに深い人物構成と、いつも楽しませてもらってます。
ラブい空気もニヤニヤさせてもらってましたがまさかこんなラブイベントまで練りこんでくるとは……

最後のシーンの目撃者は一体誰なんでしょうか?木乃香?刹那?今話フラグ立てた刀子先生??
修羅場になれば誰が相手でもドロっとしそう。

イイゾモットヤレ

2011.01.16 | URL | desert #e6y2/1VM [ 編集 ]

Re: desertさん

初めまして。拍手導入の目撃者は次話の冒頭で語られます。その部分はもう書いてるので。
修羅場は……書けるかなぁ。忘れた頃に発生するかも。多分意外な人物との絡みの末に。

2011.01.16 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


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