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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第71話


「決勝戦 妬心乱心」



 楓の自爆でまたも破壊された舞台ではあったが、一応は直前に補強されていた事もあり修理には然程の時間は掛からない、という事だった。
 まぁ柵などを度外視すればもっと早く準備は整うのだろうが、決勝戦であるという事もあり修理部隊も気合が入っているようだ。
 また待つのかと嫌そうに顔を顰める観客もいるが、大半は先程の、そして今までの試合による興奮を抑えられていない。
 次の決勝戦ではどんな戦いが繰り広げられるのか、期待の眼差しで修復されていく舞台を見つめている。

「高音さん」

 刹那だ。木乃香も士郎も見当たらず、ネギも明日菜も地下に潜っている為知り合いがいない彼女は、同じく一人で佇む高音に声をかけた。

「……あの、すみませんでした。本来なら、既に私も救援に行っていたハズなのに」
「謝る必要はないでしょう。実力かどうかはともあれ、貴女は士郎さんに勝った。勝てたのなら、それは当然の事です。
 それに、救援なら愛衣に頼みました。あの子も疲れているはずですから、力にはなれないかもしれませんが」

 うっと刹那は怯む。
 間接的に、仕方ないから怪我人まで動員した、と言われているような気がしたからだ。

「ともあれ……心配する必要はありません。私も次の試合は全力で向かうつもりです。お互い全力を尽くしましょう」

 一見すると友好的に、高音は刹那に手を差し出した。握手を求めているのだろう。左手だ。
 刹那は一瞬右手を返そうとして止まり、左手の握手の意味を思い出しながら握手に応じる。
 確か……左手の握手は戦いの握手、だったか。どこの文化のものかなど知らないが、そんな話を聞いたことがあった。

「ッ……!」
「…………」

 ぎゅっと、よく見れば魔力による強化済みで、高音は刹那の掌を握り締めていた。
 表情が全く変わっていない辺り、刹那もただ力んだだけなのか、故意に力を入れているのか判別しかねる。
 が、痛いのも嫌であるし、相応に刹那も力を籠めた。

「私は、貴女よりも強い。それを、証明してみせます」

 宣誓。そこまで言われなくては、その真意に確信が抱けないという事実に、刹那は多少打ちひしがれる。
 未熟であり、未達である自分への、漠然とした怒り。
 つい先程“答え”を出して、一点の曇りもなかった未来展望は、あっという間に暗雲立ち込める荒野になった。

 なんともまぁ、落差が激しいものだ。
 だが、その方が“らしい”と刹那は思う。それだけの覚悟を持って選んだ先なのだから。
 立ち止まる事はなく、ましてや振り返る事もなく、ひたすらに突き進むべきだと。

「斬れば分かる事です。試合、楽しみにしています」

 右手に武器を携え、刹那は高音を置いて一足先に舞台へと向かう事にした。
 この試合は士郎も見ているだろう。いや、見ていなくてもやる事は変わらない。
 剣を選んだ。その第一歩を、これから魅せつけていなければならないのだから。





◇ ◆ ◇ ◆






 正直なところ。高音は、刹那の事を恐れていた。
 士郎との試合を観戦して、明確な実力差に気づいてしまったのだ。

 高音の現在成し得る対人戦闘の極地。
 その致命的な弱点を突くのに、神鳴流の剣士というのはいかにも最適だった。
 相性が悪い。そして何より、運動性能が段違いだ。
 戦闘経験でも及ぶまい。戦うという事に関して、あちらは例え見習いであったとしてもプロであり、対する高音は副業のようなものでしかない。

 故に。総合的に判断して、次の試合で己が勝てる可能性は、ほぼないに等しいだろう――と。
 そういう判断を下している。否、下してしまっていた。
 そしてそれが、高音には何より許せない。

 プライドがあった。
 魔法生徒として成績優秀、品行方正、教師陣からの信頼も厚い。
 そんな立場から生ずるプライドではなく。
 同じく、衛宮士郎という男に師事した者として。

 一歩先を行かれたと焦っている、というのが正解で、現状だろう。
 事実刹那は区切りを付けた。自分の問題に。自分の願いに。自分の未来に。
 なら、自分はどうかと高音は考える。
 そもそも、高音自身大きな問題を抱えてなどいない。
 成長に行き詰まりを感じているわけでもなく、順調そのものではあるのだ。

 けれど、先の試合を観戦した高音は、もう自分が成長出来ているなどと思う事は出来なかった。
 どうしようもなく置いて行かれたという事実だけは認識している。
 むしろ、あの試合の直前までは、自分こそ抜きん出ていると思っていたのに。
 それが、あっさり覆されてしまったから。
 焦る。焦って、焦って、己を鼓舞するように、こんな虚勢を吐いた。

「私は、貴女よりも強い。それを、証明してみせます」

 或いは、願望に過ぎない。そう信じこむ事で、本当にそうなるのだと。
 目標を現実へと、刹那が先の一戦で成し遂げた成長を、今度は自分が成し遂げてみせると。
 そんな、期待にも似た宣誓を告げた。

「斬れば分かる事です。試合、楽しみにしています」

 心中は、未だに焦り続けている。心臓はバクバクと不愉快に鳴り響き、舞台へと向かう一歩さえ重い。
 刹那の、つい半刻前とは違う、自信に溢れた表情が堪らなくイラついた。
 それが嫉妬だと気づく事もない。それも当然、今まで高音は嫉妬など感じたことがないのだから。
 他人を羨ましいと思った事などない。いや、厳密に言えば愛衣を羨ましいと思った事はある。
 そうなりたい。そういう感情ならば覚えはあった。

 けれど、成り代わりたいと思ったのは、これが初めて。
 何故そこで、自信満々で笑っているのが自分ではないのか。
 そのチャンスを与えられたのが彼女で、何故自分ではないのか。
 自分もそうなりたいと目指すのではなく、その成果を奪ってしまいたいと思った。思ってしまった。

 だからこそ高音はそれを目標に設定したのだ。
 それを乗り越えなければ、成長できなければ、今まで高音が築いてきた高音自身が崩壊する。
 この、黒いもやもやとした感情を、高音は持て余していた。
 だから、それを昇華する為の方法として勝利を望んだ。
 同じだけのモノを得られたのなら、この感覚も晴れてくれると信じて。





◇ ◆ ◇ ◆






 向かい合い、試合開始の合図を待つ段階になっても、高音の焦りは消えていなかった。
 緊張に身体を固くするというのも、久しく忘れていた感覚だ。特に、自分よりも小さい相手には、初めてかもしれない。
 対する刹那は自然体であり、かつ臨戦態勢としては申し分ない気の巡り。
 次の瞬間にはすぐ後ろに現れるのではないか、なんて錯覚さえ覚えてしまう。

 と、そこまで考えて、その錯覚が対士郎のシミュレートと寸分違わぬ事に気がついた。
 そう。元々、刹那が負けて、士郎が勝ち抜いていたのなら、高音は士郎と戦っていたはずだ。
 ルールのある試合という条件であっても、いつもの手加減のある鍛錬ではなく、相手を倒す為の戦いを。

 それに較べれば、刹那の何と容易い相手か。
 試合において、刹那が士郎に勝利したという事実を以てしても、高音の中では未だ遥かに士郎の方が強い。
 そして実際強いだろう。
 もしもこの大会のルールで戦えば、高音にとって士郎の方が御しやすい相手だったとしても。
 特性がそうであったとしても、精神的には。比較以前の問題だ。

 だからと言って完全に吹っ切れるものではない。
 相手が自分よりも年下である事が更に高音を追い詰める。
 負けるという、その具体的なイメージが怖い。
 高音が何よりも恐れているのは結果だ。過程でどんなに無様でも、勝てればいい。そう思う。
 それは、士郎に師事したからこその心境の変化かもしれない。
 かつての高音なら、この状況でもきっと完璧さを求めただろう。

 いや。或いは、そんな過程の事など思慮にも入れず、何も考えずに挑み、玉砕していたかもしれない。
 それを思えば、高音も確かに成長している。
 恐れは強さだ。怖いと思うから対策を打つ。対抗手段を考える。
 考える事もなくただ怯えるだけならば害悪だが、考えて考えて何かを望み、行動できるなら勇気だろう。

 だから、結果に怯え、焦り続けたままでもいい。
 それで身体まで固くなるような鍛え方はしていなかった。
 適度というには過ぎた緊張だろうが、それもまた成長には必要な事。
 次のステージに上がるには。高音もまた、殻を破らなければならない。

「さぁお待たせしました、まほら武道会決勝戦! 
 相次ぐ棄権により試合数は減ってしまいましたが、その分密度の高い試合をお約束しましょう!
 麻帆良最強は果たして、高音・D・グッドマンか! 桜咲刹那か!
 いざ――――試合、開始っ」

 スッと。高音の予想とは裏腹に、刹那は高音の直前へと移動してきていた。瞬動でも何でもなく、摺足で。
 一刀一足の間合い。隙なく高音のあらゆる行動に対応する為の距離であり、構えだ。
 それは、実戦的な剣というよりはスポーツとしての剣道に近い。

 だが、その刹那の選択は間違いではないだろう。
 刹那は、高音の事を何も知らない。
 その戦闘スタイル、戦闘理論、試合運びから、そもそもの魔力量に至るまで。
 何一つとして、戦闘において重要な情報を持っていなかった。
 故に、汎用性重視だ。
 いかなる行動に対しても応じる事が出来るとまでは言わないが、何をされても驚かないように。

 斬れば分かると刹那は言ったが、それは全くの逆だ。
 斬らねば分からない、というのが真実。表層的な人格に意味などなく、信じ込めば逆に危うい。
 しかしそれは、刹那の対人戦闘の経験不足を如実に現していた。

 詰まるところ、自信がないという事。
 相手の行動に対して応ずる、受身の姿勢を最初に取らねばならない程に。
 熟練者ならば、初見の相手であろうとも闘いながら計る事が出来るだろう。
 否、斬れば分かると理解しているのなら、斬りかかればいいのだ。
 その上での相手の対応から、相手の情報を読み取っていけばいいのだから。

 待ちも攻めも、この場合は何ら変わらない。
 幾ら刹那の戦い、スタイルを見られているとは言え、初手から即時対応で挽回不可能な程のカウンターが可能なのならば、そもそも勝負にならないのだから。
 ならば、一歩踏み込み、積極的な攻勢に出る事が、この場合の最上手。

 そう、高音が刹那の行動を分析してからの行動は早かった。
 即座に後方へ飛び距離を取る。そして距離を取りながら術を用意した。
 だが逆に、高音のその行動は刹那を攻勢に回らせる。
 高音の考察通り、刹那は様子見の状態にあった。
 そして様子見が有効なのは、あくまで相手も様子見レベルの攻撃をしてくる場合のみである。

 戦闘スタイルを決定づける、基本となる攻撃を見る事。それは重要だ。
 そこから応用形を想像する事もできるし、それを知っているのと知らないのでは大きな差がある。
 だがしかし、距離をとって準備が必要な程の、大きな攻撃をしようというのなら話は別だ。
 それで決まってしまう可能性もあるし、少なくともその準備段階では大凡無防備。
 仮に攻性防御の備えがあったとしても、それを無視して余りある成果を得られる。

 故に、刹那がその“大技”の阻止に動くのは当然だった。
 そして当然であるが故に、そこまで考えて高音が動いているかと言えば……そうでもない。
 そこまでは思考が及んでいなかった。
 焦りが原因なのではなく、単純に慣れ、性能の問題だ。
 まだ高音はそこまで至っていない。
 その思考速度、思考範囲、情報分析、それによる戦術の構築。
 それらに関して言えば、愛衣の方が現時点で優れているくらいだ。高音が脅威を感じ、負けたと思うくらいに。

 ただそれは向き不向きの問題でもある。
 士郎が色々と世話を焼きつつ、多少は愛衣に肩入れしているのは、ある程度性質が似ているからという面もあるのだ。
 高音は士郎を目指すべきではなく、あくまで高音らしく成長するしかない。
 勿論、思考による戦術の構築は必須技能となるだろうが、それにしても。

「黒衣の夜想曲!」

 高音自身が気づいているかはともかくとして、彼女の特筆すべき才能は、その術式速度である。
 無詠唱というよりは事前契約。遅延魔法でもなく、予め取り決められた限定的な魔法行使ではあるが、しかしその速さは異常と言っていい。
 そもそもが操影術というものが、“そういうもの”であるというのも事実ではあるが、使い魔という比較的複雑な形に造形して尚この速さというのは、異例と言っていい。

 通常、後衛としての魔法使いが負う様々な弱点を、高音はほとんど気にせず戦う事が出来る。
 その分遠距離技能においては愛衣以下ではあるのだが、近中距離においてその特質は類稀なる性能だろう。
 神鳴流の剣士が、剣を振るうとの同じような速度で。同じような気軽さで。
 それだけの魔法行使が出来るというのは。大きな才能の発露なのだから。

「くっ、これは……」

 刹那は一歩踏みとどまり、逆に距離を取った。
 本来、神鳴流とは魔を討つ為の剣である。
 故に、使い魔という形式であるにせよ、こういった巨大な相手との戦いには慣れていた。
 特化していると言ってもいい。
 だから、本当ならば、高音のこの大技はむしろ逆効果になっても不思議ではなかった。
 が。

 影の触手が伸びる。
 それは槍であり盾だ。
 虚数、影というこの世非ざる魔としての特性は、単純かつ純粋な物理攻撃を受け付けない。
 次元が違う。
 自分の影を踏みつけようと斬りつけようと、影が不変であるのと同じように、影に対する物理攻撃は通用しない。

 しかしながら、この影はそういう属性を獲得しているというだけで、突き詰めれば魔力で構成された代物だ。
 故に同じ魔的な要素、魔力にせよ気にせよ、そういったモノには少なからず干渉を受ける。
 吹き飛ばされる事も、砕かれる事もあり得るのだ。
 だが、問題は吹き飛ばすのに必要な総量だ。
 効率の問題もある。物理攻撃と魔力攻撃、その割合が大きく魔力に傾いている方が、当然干渉力は大きい。
 しかし神鳴流は、一部の技を除き物理的な要素に大きく比重を置いていた。
 少なくとも、刹那の扱える技、知っている技においてはそうだ。

 高音は刹那の剣が、退魔の剣であるから脅威だ、と考えていたが、見習い剣士の実力など知れている。
 というよりも、剣技としての力と、退魔の剣としての力というものは全く別のものだ。
 士郎と斬り合える実力と才能が、必ずしも現時点において、退魔に通じるかと言えば微妙なところがある。
 やってやれない事はなし、そういった仕事を受けてきた刹那ではあるが、しかしながら影というのは初めてだった。
 退魔と言いつつ、今まで刹那は基本的に力押しで解決していたから、その辺りの経験値は低い。
 斬魔剣の一押しだ。一点突破、それしか知らないと言った体である。

「斬魔剣!」

 霧消する事はなかったが、魔を斬る剣は確かに影をも斬り裂いた。
 が、問題はその数である。触手の一本や二本斬ったところで大した影響はない。
 むしろ、振り切る動作が致命的な隙になった。

「ぐっ」
「まだまだっ」

 影の触手が一本、腹にヒットしたのを好機と見て高音は追撃をかける。
 だが、高音の影、触手一本程度では攻撃力が足りない。
 剣さえ掻い潜り胴体に入れたものの、気による防御は突き破れていないのだ。
 それに気付かなかったのは、やはり焦りであり、このまま勝てるかもしれないという期待のせいだ。
 戦う事、対処そのもの以外に思考が及んでしまった事。それが、戦場においては致命のミスとなる。
 これが試合で、命の危険のないルールある戦いであったとしても。致命的であるのに代わりはないのだ。

「百烈、」

 それは本当に一瞬の隙で、しかし刹那にはそれで十分だった。
 刹那が押されていた理由は数であり、それ以外にない。
 で、あるならば、対多数用の技を使う余裕さえあれば良かったのだ。

「桜華斬!」

 影槍の一本一本を、打ち消す事が出来ないなりに全て止め、その上で本体へと攻撃する。
 高音の影は自動防御とは言え、それはあくまで本人の能動的意識に左右されないというだけで、高音が処理しきれない速さ、数には対応できない。
 そして、高音は魔力と意識のリソースのほぼ全てを影の制御に費やしており、高音本人の肉体は並の魔法使いとさして変わらない程度の強度しかない。

「ぐっ」

 そして、そこで体勢を立て直せないのは高音の経験値不足故だ。
 士郎との鍛錬ならば、一度倒れれば追撃などない。というより、一撃が急所に入るせいで大体意識が飛ぶ。
 だから、高音は中途半端なダメージに対する対処が下手だ。覚えていない、というのが適切かもしれないが。

 ともあれ。これで、攻守は完全にひっくり返る。

「ハッ、ヤァッ」

 斬り上げ、なぎ払う。
 神鳴流の技は多少なりとは硬直時間があるし、何より刹那は士郎戦でかなり疲労をためていた。
 通常攻撃で押していきたいのが実情で、これで終わりに出来るという確証がなければ大量の気を使う奥義は使えなかった。
 このまま攻撃していてもジリ貧だと言う事は理解していても。
 高音の影を使った防御性能が、正に鉄壁という程に高かったが故に、刹那も勘違いしていたのだ。
 そう易々とは倒せない、と。或いは、この状況で残った気を使い切るつもりで攻撃していれば、この時点で決着はついていただろう。

 そうならなかったのは、高音にとっては幸運だった。
 しかし、だからと言って劣勢だと言う事実が変わるわけではない。
 今や完全に攻守が逆転してしまっている。
 斬魔、退魔、対魔の技を使われない限り、高音の影壁が鉄壁であるのに変わりはない。
 そろそろ目も刹那の速さに慣れてきて、場当たり的な対応も可能になってくる。

 だが、対応が可能になり多少余裕が出てきた事で、逆に高音は焦り始めた。
 隙がないのだ。防御し続ける事は出来る。
 だが、攻撃しようとした時反撃を受けずに、或いは反撃を受け流せるように攻撃する手段が見当たらない。思いつかない。
 どうする、という思考だけが空回りして、像を結べない。

「遅い」
「しまっ」

 た、と。そこまで言い切る間もなく、今度こそ斬魔剣の直撃を受ける。
 腹部への鈍痛が、高音の思考を奪った。どうすれば、どうしたらと考える余裕などなく、本能的に刹那から距離を取る。
 それを、刹那も黙って見逃した。
 いや、見逃したというよりは追えなかったというのが正しい。疲れから、技後硬直も長くなっていた。

 残心。油断なく振り返る刹那に、その余裕に、高音は歯噛みした。
 勝てないと諦めてしまいそうになる事が悔しい。
 そして何より、自分の力を十全に発揮できているとは思えないのが、もっと悔しい。

 自分は、果たしてこれ程プレッシャーに弱い人間だっただろうか?
 そんな問いが高音の胸に渦巻く。
 今日、この大会の短い間で、何度か劣等感と向き合ってきた。
 だからこそ、失敗するのが怖いし、成果に憧れる。
 不純な動機で戦っているからかもしれない。成長する事、それが目的ではなく手段でしかないから。

 チラリと探せば、今度はすぐ見つかる長身の彼。
 見ていてくれると分かるから、逆に身体は硬くなる。
 今までとは違う。己を誇り、それだけを頼りに前を向いていた、何も考えていなかった高音では、もうないのだ。
 上手くできた時、どうだと振り返る後ろがある。
 褒めて欲しいなんて言葉には出来ずとも、期待する背中がある。

「ズルイですね、貴女は」
「………………」

 刹那は黙する。先を促している風でもあったが、油断はない。

「貴女は不幸だったから彼に注目されている。私よりも強く、才能があるから注目されている。
 ……それが。堪らなく悔しい」
「高音さん……」

 不幸であれば――。その先は、考えてはいけない事。
 それを、間接的にせよ羨むというのは間違った願いだ。
 幸せでも、人の痛みは分かる。辛いと思う事だって幾らでもある。
 不幸な生まれ、境遇、それだけが全てを決定するわけではない。

 だが、事実不幸だった刹那は士郎の“特別”になっている。少なくとも高音よりは。
 才能も、高音よりも上かもしれない。
 或いはその努力も、高音より上だったのかもしれない。
 そんな比較が出来る程、二人はお互いを知っているわけでもなく……これから先も、知る事はないだろう。

 ただ、思う事はある。
 不幸でなければ、強くなってはいけないのかと。幸せな人間が、不幸を糧に強くなった人間に憧れてはいけないのかと。
 士郎は、高音にも愛衣にも、勿論楓にも小太郎にも……自分のようにはなるな、と言う。
 口を酸っぱくして。何度も何度でも、思い出したように呟く。
 それを聞く度に高音は思うのだ。
 どんなに望んでも、きっと自分は士郎と同じにはなれないだろう、と。

 愛衣が感覚的に理解して、だからこそ踏み込んでいない一線を、けれど高音は理性的に理解していた。
 理解していて、無視している。そんな事は知らない、関係ないと。
 だから、高音は士郎に憧れてはいたけれど、彼の言う通り同じになろうとは思っていなかった。
 だって、それでは全てを助ける事は出来ない。
 士郎と同じ道ではなく、士郎が選べなかった道を選んでこそ価値があるのだと。
 
 だが、刹那と士郎の戦いを見ていて気づいてしまった。
 例え高音がどんなに望んで、努力したとしても、やはり士郎と同じにはなれないのだと。
 スタートラインが違う。いや、それどころかコースも距離も何もかも、違い過ぎるのだ。
 近づこうと思ったところで、両者には決定的な溝がある。同じコースにたどり着く事は出来ず、道が交わる事もない。
 そしてそれをどこかで分かっていたから、高音は初めから諦めていた。
 同じでは意味がないとか、価値がないとか、納得出来そうな色々な理由をつけて……諦めた。

 自分が本当に望んでいるモノが何なのか、それを理解した上で、そこに到達するには資格がないのだと分かってしまった。
 そして、その事に気づいた原因が、高音にはない資格を持っている相手が、目の前にいたら。
 嫉妬を向けてしまうのは、人間として当たり前で、仕方のないことだろう。

 同じスタートラインに至る為には、不幸でなければならない。そう、高音は考えた。
 だがそれを望み、成り代わりたいと願う事は間違いだ。
 冒涜と言ってもいい。勝手に不幸だと決めつける事も間違いならば、その不幸に憧れるのも。

 不幸に量などなく、質もない。ただ形が違うだけだ。
 だから、例え高音がどんなに士郎と同じ境地まで行き着きたくとも、同じにはなれないのだ。
 同じところに至って、その上で違う選択をしたい、だなんて。
 そんな事を願っても、高音は高音にしかなれない。
 同様に、高音よりも遥かに歪な不幸を背負っているであろう刹那も、士郎にはなれない。

 そんな事も、高音は分かっていない。
 不幸であればいい、そんな考えが間違いである事は気づいていても。隣の芝は青く見える。
 士郎の今の性格からでは、むしろかつての士郎に近いのは高音だなんて事は想像の埒外で。
 結局空回りしている。複雑に考え過ぎている。何が悪いのかなんて分かるわけもなく、思考の底なし沼に嵌ってしまった。

 抜け出るには、助力が必要だった。少なくとも、高音自身では、その感情には逆らえないだろう。
 それが無意識から生まれたものだから。どんなに自己分析を重ねても、目を逸らしてしまう。
 それは、本来なら士郎が担当すべき事ではあったのだろう。
 それがベストで、彼にその意思がなくとも、きっと結果的に高音は前に進む事が出来た。

 しかしながら、士郎と高音の試合は組まれなかった。そして高音は知らないが、このままならば士郎は麻帆良を去る。
 なまじ覚悟が出来ているから、諦めるという選択肢もない。
 焦って、焦って、どれだけ努力を重ねても至れない遠すぎる目標に歯噛みして。
 いずれは壊れるだろう。諦める事ができなければ、それは必然だ。

 士郎が逃げても、高音自身が探しに行く事はあるかもしれないが……それで見つかるとも限らない。
 どちらにせよ。運命は、高音を選ばなかった。
 それは事実で、だからこそ高音はその事実に理由を求める。
 境遇か、才能か、努力か、強さか。何であれ、納得など出来ないというのに、それでも。

「貴女に勝てれば、何か変われる気がする。だから……」

 魔力を、溜める。思考を一本化する。
 迷い、グチャグチャになった思考はオーバーフローして、逆に目の前の事しか考えられなくなった。
 夜想曲の主体たる人形を消して、右手に一本だけ影を纏った。

 槍。超高密度に圧縮された影そのもの。矢を束ねれば槍となる。そんな、簡易で単純な、一つになったというだけのもの。
 一なる槍<ウナ・スピーニス>と名付けられたそれは、刹那の斬魔剣では斬る事が出来ないだろう。
 魔、霊的なモノを斬る事に特化しているというだけでは、大密度に対抗する事は出来ない。
 そして、雷光剣など大規模破壊を可能とする技を使える程に、刹那の体力は残っていなかった。
 故に、斬り落とす前に、槍は刹那の身体を貫くだろう。全身全霊の魔力が篭った代物だ。そう容易くはない。
 疲労が溜まっている刹那と、受けたダメージはともかく、魔力的には十全な高音。
 技量はともかくとして、現在の容量で言うのなら、確実に高音が上回っている。

 影の性質も、一なる槍の腕と一体化したその長さも、剣で対抗するには不利が過ぎる。
 剣で槍と対するには三倍の技量が必要だと言うが……確かにその通り。
 身体能力、技量を併せて考えれば、これで互角。

 これは最後の打ち合いとなるだろう。
 高音は全ての魔力を槍に注いでいるし、その槍が届けば刹那の負け。
 刹那には槍と正面から打ちあう術はなく、一瞬の交錯は回避に全力を傾ける事になる。

 高音の槍が届くか。
 刹那が躱すか。
 それだけの、シンプルな勝負。

「高音さん。何となく、貴女の気持ちは分かる気がします。だからこそ、私も全力で応えましょう」

 それは、勝者の余裕に近いのかもしれない。
 この試合ではなく、運命に対する。チャンスを与えられた者の、余裕。
 分かるものか。理解されてたまるか。感情が揺らぎ、影も波打った。
 その余裕に嫉妬していた。しかしもしも、刹那が態と負けるような事があれば、高音はきっと一生許さない。

 だから結局、それしかなかった。
 感情に決着を。それがいかなるものであったとしても、気を失う程に力を振り絞れば、気休めにはなるだろう。
 勝っても負けても、お互いに残るものなど何も無いし、何が変わるというわけでもない。
 高音が勝ったとしても、刹那のような成長があるわけでもなく、士郎に認められるわけでもない。

 それでも。試しもせずに諦めるなど、出来るはずもない。
 高音・D・グッドマンは、諦められない人間だから。そうして、今まで生きてきた。
 諦める事なく、努力し続けて、結果様々なものを手に入れた。
 だから、これは初めての経験になるだろう。諦める為に力を振るうというのは。
 諦める努力なんて、二度と経験したくはないけれど。それも全て、この決着がついてから。

「――いざ」

 ふっと息を吸った。二人の緊張感が、張り詰めた空気が観客にまで伝搬する。
 ごくりと喉を鳴らしたのは誰だったのか。限界まで張り詰めた糸は、それを合図に切り落ちた。

 動いたのは刹那。躱す側であるハズなのに、彼女は弾丸のように飛び出した。
 武器さえ邪魔とばかりに放り捨てている。
 それを迎撃する形で、高音の槍が伸びた。
 そう、伸びる、だ。高音は一歩も動くことなく、棒立ちのまま。
 その高密度の影を爆発させるように、槍を伸ばした。

 それは一なる槍と言いながら、拡散性を持っていた。
 爆発は多方向に伸びる。そして、その一つ一つが必殺に成り得るだけの威力を持っていた。
 斬魔剣で斬る事も出来ず、否そもそも突っ込んでいった刹那に、正面からそれを破る手段はない。

「やあああああああああああっ」

 弾丸のように飛び出した刹那は、その勢いを保ちつつ、槍を受け流そうとした。
 否、それは自分から車に撥ねられようとするのに等しい。
 自分から突っ込んでいったエネルギーで前進し、気を放ってクッション代わりにする。

 結果、何とか刹那は吹き飛ばされる方向を、上方に修正する事が出来た。
 そのまま影槍を足場に跳躍する。
 そして、間合いに入った。既に高音には影の貯蔵はない。
 一なる槍に使えるだけの、高密度の影を再生成する余力はないし、時間もなかった。
 ギリギリできるとすれば、その左手に影を纏う程度。

「まだっ」

 倒れこむように、高音も拳を振り絞る。
 対する刹那の技は、桜楼月華。
 相手の技を受けながら攻撃を与える技。

 その一瞬の交錯は、クロスカウンターとなった。
 高音の最後の足掻きは確かに刹那に届いている。
 刹那の技も、十全に効果を発揮していた。

 故に結果は、前述の通りだ。
 槍が届けば高音の勝ち。槍を躱せば刹那の勝ち。
 拳の間合いに入った時点で、勝敗は決していた。

「は、はは……全く、憎らしい」
「ええ。これからも私は……貴女にそう思って貰えるように、努力します」

 それが得た者の義務だ。選ぶ機会を与えられたものの、責務。
 自分が勝ち取ったもの、自分が選んだ道が、或いは誰かの願いを塗りつぶす事になるのだと。
 それを理解してしまったから。それは仕方なくて、そして、刹那にとって当然の事だった。

「優勝、おめでとう」

 何故か、最後に刹那を褒め讃えて、高音は力を抜いて刹那に寄りかかる。一瞬意識が途切れたのだろう。
 刹那はその身体を抱きとめた。自分よりも大きくて、年上で、重い。
 大きいのだから当然なのかもしれなかった。
 確かに、この試合で刹那は勝利を収めたけれど。その感情のエネルギーには、正直なところ、勝てる気がしなかった。

 高音が思う通り、何の特別もなく何のきっかけもなく憧れたなら、それは刹那よりも純粋で確かな想いなのだから。
 勝てるわけがない。けれど、負けるわけにもいかない。
 何を目指せばいいのかも、どうすれば勝ちどうすれば負けるのかも分からない。それは二人とも同じだ。

 ただ。お互いに、考えるのは同じ事。
 これから己が歩む道程を。相手の重さを噛み締めながら、思うのだった。













木乃香「↓解せぬ」(拍手)
 













・十秒後
 ところで、高音の黒衣の夜想曲は、肉体との接着率……高音に限って言えば、融合率親和性がその性能に大きく作用する。
 故に、最大のポテンシャルを引き出そうとするのなら、それはつまり裸の上に影を“着こむ”事になり、そして今回も彼女は当然のようにそうしていた。
 散々っぱら士郎に改善せよ、と言われてはいたのだが。それが一番強い事には変わりない。

 そして、だ。
 例えば意識を失うなど、意識的制御が困難な状態になれば、黒衣は消滅する。
 それは性質上仕方のない事で、そのリスクも当然理解してはいたのだが、いざそうなってみると覚悟が足りないというか羞恥心が全てを上回った。

「ぁ、あ、っっっっっっっっっっ!」

 既に高音には再び黒衣を纏う魔力がないどころか、正直自分の足で立つのも辛い程に魔力が欠乏しているわけで。
 当然、その裸体が衆目に……。

「た、高音さんっ」

 と、そこで刹那が高音に抱きついた。今までの支えるという形ではなく、恋人に抱きついているかの如く、がっしりみっちりの接着度。
 おそらくは自分の身体で少しでも高音の裸を隠そうとしたのだろうが。それはそれで、大変怪しい構図になっていた。
 そもそもが刹那だって、それなりにメイド服が破れていて危ういし。
 会場の盛り上がりはある意味最高潮。女性陣ドン引き。

 それを見かねたのか、いやいや恐らくはその結末を予測なんてしたくなかったのに予測出来てしまったのだろう男から、救いの手が差し伸べられた。
 どこからともなく伸びた赤い布が、二人にぐるぐると巻きついた後、そのまま釣り上げるように回収する。

「フィッシュ……などと言うと、怒られるかな、これは」

 簀巻きにされて目を回している二人を見下ろして、士郎は項垂れて呟いた。
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後書き

別に、オマケを書きたかったから高音が負けたわけじゃないんだからね!
……実は、プロット上はこの試合、高音が勝つ予定だったんですよねー。それが書いてる途中でこんな感じに。
まぁそれとは別に、今回は難産でした。一週間で書き上げる事ができなかったのはプライベートの忙しさからではありましたが、高音の思惑を整理するのに時間がかかった。
いや、まだ整理しきれていない部分も多々あって、後々あっさりひっくり返しそうではあるのですが。
何のかんの言って、結局刹那回だしね、コレ。最近高音は完全にヒロイン枠から脱落してるから、少しは華を持たせてあげたかったんだけど。うーむ。
ともあれこれで武道会編は終了。次からは学園祭動乱編です。お楽しみに。

2010.11.06 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

高音……イイ女じゃないか。
しかし感動したまま終わらせてくれないのが夢前 黒人クオリティー(笑)
次回からはまた新しいステージのようで、続きを楽しみにさせていただきます。

2010.11.07 | URL | 夜の荒鷲 #U6M1AWu2 [ 編集 ]

Re: タイトルなし

ははは。いやぁ、別にシリアスバージョンのオマケもなくはなかったんだけど、アレ書いちゃうと刹那か高音のどちらかがヤンデレシフト起こす上に重くなり過ぎちまうから……。
今回は(も?)お茶を濁しました。それにまぁ、多少はこういう要素入れとかないとネギまの二次創作っぽくならないんだよね。
ただ、それもこれで終わり。動乱編はそれなりにシリアスに進行していくと思います。原作もシリアスな部分だしね。
これまで以上に「語られない部分」が増えて、ショートカットするかもしれませんが。
ともあれ。しばしのお待ちを。何とか春までに動乱編も終わらせたいしね。

2010.11.08 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


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