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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第70話


「準決勝 楓の戦い」  バタバタと、嵐のように木乃香は走り去ってしまった。
 そもそも直前まで何が起こっていて、そこに居たのが誰で、つまり赤い顔して木乃香が走り去った理由というのは。
 何やら雰囲気が怪しくて話しかけられなかった二人組には、容易に察する事のできるものだった。

「士郎兄ちゃん……」
「ぶっ、小太郎!?」

 白けた目だった。呆れているというか、怒っているというか。
 何故そんな目を向けられているのか、瞬時に理解してしまう士郎。さっと血の気が引いた。
 その様子に、小太郎は分かり易く溜息をつく。

「なんやろなぁ、どうせなら実力であっと驚かせたかったわ」

 図らずも愛衣との約束が成ってしまった小太郎は正直凹んでいる。
 ぶっちゃけ、士郎のこんな姿は見たくなかった。尊敬している大人とか、そういう面を除外しても。
 年上の、“そういう場面”というのは居心地が悪いものだ。
 
 そんな小太郎を置いて、横に立っていた楓はずいと身を乗り出す。

「士郎殿は、このか殿と付き合っていたでござるか」
「ない。そんな事実はどこを探しても見つからないぞ。今のはちょっとした事故というか想定外の展開というか」
「士郎殿、それは酷いでござるよ。それではこのか殿の勇気が浮かばれない。振るなら振るでキッパリ伝えてやらねば」
「何気に酷い事を言うな、君は……」

 実際のところ、振るの振らないのという話にはならないだろう。
 告白したわけでもなく、告白されたわけでもなく。
 ある意味ではそれ以上の暴露をしていた気がしなくもないが。
 
 士郎と木乃香の関係はあくまで協力者としてのそれであり、理由さえなくなればすぐに解消される類のもの。
 と、士郎が考えている内はそういう関係になるわけもない。

「で、何の用だ?」
「見舞いでござるよ。士郎殿が救護ベッドに横たわっているというだけで、拙者にとっては一大事でござる」

 隣にいる小太郎も、まぁなぁと頷く。
 小太郎にとっても楓にとってもそうなのだが、あまり士郎に対して傷ついているというイメージがないのだ。
 実際は、衛宮士郎の戦い方など骨を切らせて魂を断つようなものだが、実戦ではなく練習、鍛錬であるのなら。
 基本的に防御ではなく回避で対抗する士郎に、攻撃が当たっているという事態が珍しい。
 しかもそれが寝込む程のものとなると、ショックを受けるぐらいのレベルだ。
 相手は自分たちとそうレベルが変わらない刹那だと言う事もあるし。

「それで、怪我はどうなん? 寝てるって事はそうとう酷いんやろ?」
「いや、怪我そのものは大した事はなかったし、それも木乃香に治してもらった。ただ、エヴァンジェリンと戦った時の疲労がな」
「疲労?」

 二人のイメージでは、士郎はやはり疲れ知らずである。
 実際のところ、化物のような体力があるのも事実ではあるが、実際の所はやせ我慢だ。
 気や魔力による身体強化は便利過ぎて、効率が段違いであるため士郎の魔術では追いつけない。
 その辺り、余裕っぽさを演出しているだけで、実際は必死だったりもする。
 勿論、実際の戦闘になればまた話は違うが。

「数十回は殺されたからな。幻痛が……まぁ、しばらく寝ていれば回復する」
「そ、そうなんか。まぁ、あの吸血鬼おっかないもんなぁ」

 つい昨日、別荘で修行中に感じた恐怖を思い出す小太郎。
 アレが正真正銘の本気で殺しにかかってきたら、確かに士郎でも……と思わなくはない。
 それでも士郎が勝つだろうとは思うし、事実勝利を掴んでいるのだが。

「それと、拙者も一つ聞きたい事があるでござる。拙者の次の対戦者……クウネルとかいう御仁の事でござるよ」
「ふむ。何が聞きたい?」
「士郎殿は知り合いなのでござるよな?」
「そうだな。知り合い、盟友、協力者、天敵。なんでもいいが、確かに奴に関してはそれなりに知っている」

 盟友とか言う割りには天敵なんてのも混じっていて、とてもではないが友好的な感じではない。
 というか、むしろ出来れば話題にしたくないというオーラが凄く伝わってきた。

「あの御仁、士郎殿とどちらが強いでござるか?」
「奴だ」
「なっ」

 驚きは小太郎。確かに戦って、強いとは思った。
 実際、小太郎が京都で士郎に負けた時も似たような感覚を味わっている。
 どちらが強いかなんていうのが、理解できるレベルでもなかった。
 特に士郎の強さは、何と言うか小太郎の感覚としても変動が激しい。
 初対面で感じた異様なまでの差は、普通に鍛錬している時は感じないのだ。

 それを、小太郎は手加減なのだと解釈していて、そういう面があるのも本当だ。
 けれど決定的に違うものもある。
 勝負の結末は、どちらに転ぶか分からないものであるかもしれないが、実力のみに限った話で言えば明らかなもの。
 ある意味、衛宮士郎の強さのトリックとも言うべき手法に、小太郎はともかく楓は気づいていた。

「ではもう一つ。あの男に勝つ事が出来れば……少なくとも、士郎殿に勝つ可能性はある、という事でいいのでござるな?」
「ああ、そうだな」

 にやり。我が意を得たり、士郎と楓が人の悪そうな笑みを浮かべた。楓の細目が開いている。
 クウネルに、アルビレオ・イマ、英雄と称される男に、例え遊びであっても勝つ事が出来るのなら。
 そのスペックは、衛宮士郎を打倒するのに足る。
 それが証明できれば。少なくとも、自信に繋がる。
 
「しかし、時間はいいのか? てっきり次の試合はもう始まっていると思っていたが」
「……また拙者の試合は見るつもりがなかったのでござるな」
「いや、そういうわけではないんだが。巡りあわせが悪くてな」

 本当、運命的なまでの都合の悪さで楓の試合の前に厄介ごとが起こっていた。
 別に士郎が楓の試合を見逃そうと思っているわけではないのだが。

「試合時間やけど、何や土台の補修が間に合わんでこのままやと底が抜けるんやって。やから時間がかかっとるらしいで」
「そうか。観客には悪いが、幸いだったかな」

 士郎はベッドから抜け出して伸びをする。関節が異様なまでにポキポキといい音が鳴った。

「寝てなくても大丈夫なんか?」
「寝ていた方が楽なのは事実だが、回復は時間経過だからな。寝ていようが戦闘していようが変わらない」

 割と非常識な事をさらりという士郎。
 まぁ、精神体のダメージに関しては特別な道具か術を持っている者でなければ経験する事さえ出来ないものではあるから仕方がないのだが。

「全く、貴方という人は痩せ我慢が趣味のような男ですね。尊敬しますよ」
「ッ!」

 ばっと驚いて身構えるのは楓と小太郎だ。
 突然の声、アルビレオは丁度二人の間に姿を表していた。
 ちなみに、わざわざ士郎の後ろに出現しないのは、もう士郎はこの程度では驚いてくれないからである。

「アル、あまり驚かせるな」
「微塵も驚いてない癖に文句を言わないで下さい。まぁ、確かに彼らには刺激が強すぎましたかね?」

 臨戦態勢を取っている小太郎と楓に、アルビレオは意味ありげな笑みを見せる。

「おやおや、あれだけボロボロだったのにもう元気ですねぇ。そのタフさは流石士郎に見込まれているだけはある」
「……士郎兄ちゃんに、見込まれてる?」

 きょとんとした顔で小太郎は聞き返す。

「ええもう。この前私の所に訪れた時も士郎は君の話ばかり……」
「アル!」
「やれやれ。照れ屋が怒ってしまいまし、たぶっ」

 恐らく現れた時と同じ唐突さで消えようとしたのだろうが、いつの間にか士郎が持っていた槍で殴られてキャンセルされた。
 小太郎としては、あんなに死力を振り絞っても意識的に拳を届かせる事が出来なかったというのに、士郎があっさりそれを成してしまった事にただ驚く。
 だがよく考えてみれば、この二人は旧知の仲であるらしいのだから、その対処法ぐらい知っていてもおかしくはないのだ。
 まぁこの場合、これは士郎自身の力というより武器の性能なのだが。

「…………ソレがありましたね。不覚です」

 本気で不覚だと思っていそうな苦味たっぷりでアルビレオは起き上がった。
 その一部始終を、淡々と、冷静に、沈黙を保ち、薄く目を開きつつ……楓は観察していた。
 目の前の男を倒す為に必要な工程が、今の瞬間に成されたはずだから。

 じっと見て、考える。
 考えて、考えて……結局分からなかった。
 否、分からないという事が分かった、と言うべきか。

 理解したのは、少なくとも今の楓に対抗手段はないということ。
 物理的な現象では意味がなく、だからと言って魔法であればいいのかと言われれば否としか答えられない。
 そういう種別の、畏怖さえ感じる“魔”。未だ見ぬ力でなければ対抗出来ず、故に楓の取り得る策は決定した。

「ふぅむ。まぁ、サービスはここまで、そろそろ試合開始の時刻のようです。私は一足先に行っていますよ」

 今度こそ本当に、アルビレオは消えた。
 言葉通り、会場に向かったのだろう。

「長瀬。私が出来る応援はここまでだ。私も先に観客席に向かうとする」

 あえて宣言してから行動する士郎。
 ああ、まったく優しいものだと。そんな感想を抱いて、楓は気合を入れる。

 相変わらず何の事だか良く分かっていない小太郎は、士郎と楓を交互に見やった末に、激励残して士郎を追った。
 一人残された楓も、急がなければならないのだが。

「この感覚は……何でござろうな」

 全く、人を馬鹿にするにも程がある。
 あれだけ明らかに魅せつけておいて、分からないとでも思っているのか。バカレンジャーではあるが、そんなものは関係ない。
 反面、嬉しいというか、一種の連帯感を受けて、嬉しいと思う感情もある。
 己の感情さえままならず、それで試合に勝てる道理もなかろうが。

「ふふ……」

 期待に応えたい。それさえ明確なら、迷うことも惑う事もない。
 試合会場へと向かう一歩は、羽根のように軽かった。
 
 




◇ ◆ ◇ ◆







 しかしながら、試合の内容そのものは、特筆する事もない。
 否、盛り上がりという意味でならこれ以上ない盛り上がりだった。

 楓は開始直後から派手な技を使いまくり、むしろ非効率な程に攻め立てた。
 多数分身を使っての波状攻撃。高密度四体分身による包囲攻撃。
 気の消費は激しいが、見るからに派手になるように彼女は戦った。

「その戦い方でここまで涼しい顔をしているというのは、評価に値しますよ。長瀬楓さん」

 そう。楓はあくまで余裕を保っていた。少なくとも見かけ上、何が何だか分からない程のハイレベルな戦闘は行わなかった。
 そして逆にアルビレオ、いやクウネルはそれを緩やかに弾き、守り、時折カウンターを狙う程度。
 試合で見せれる程度の力ならば、楓の戦い方を引き立てるくらいの役にしか立たない。

「面の皮が厚いという意味でなら、乙女に言う台詞ではござらんよ」
「いえ失礼。勿論そういう意味ではありませんとも。中々の役者だとは思いますけれどね。それもまた戦闘においては一つの力です」

 そう、これはある種結果の決まりきった八百長試合のようなものだ。
 クウネルには既に、絶対に勝たねばならない理由はない。
 賞金が欲しいわけでもないし、最早試合に参加することそのものが目的になっている。

 対する楓も、絶対に、どんな手を使ってでも勝ちたいと思っているわけではない。
 ただ、クウネルの、士郎の期待は、“絶対に勝つ手段がない相手に対する方法”だった。
 戦闘とは、常に勝つ事だけが目的ではない。
 何らかの望むモノがあり、それを叶える為の手段として暴力を選択した時発生するのが戦闘だ。
 故に、必ずしも勝つ必要はない。ただ、目標を達成できればそれでいいのだ。

 その辺り、士郎は遠まわしに小太郎に言ったつもりだったのだが、全然伝わっていなかった。
 元々小太郎は目的が戦闘そのものである辺りにも問題はあったのだろうが。
 絶対に勝てない。それでも勝ちたいと思うのなら。
 目標を妥協しなければならない。勝てないのだから、当然の話だ。
 ならば、妥協した先、ギリギリ到達できる目標をどうするか。
 そこを、小太郎は間違えた。愛衣の叱責のせいでもあるが、一矢報いればそれでいいと考えてしまったのだ。
 それは負け犬の根性だ。勝てないと言われて反発したいのなら、勝てばいい。
 この試合はルールのない、目的のための戦いではないのだから。
 倒さなくても、試合に勝つ方法はある。

 制限時間、15分。
 その間を戦い抜き、あくまで己の方が強いと観客に示す事が出来ていれば、試合に勝つことは出来たのだ。
 愛衣は言われずとも、一矢報いる方法としてそれを狙っていた。
 だが小太郎がそれを選択するには、余計なプライドが大きすぎたというところだ。

 なら、楓が選択するのは。
 士郎の真意を見抜いた上で、力試しを全うし、かつ試合に勝つためには。

「全力ではあるもの、非効率な戦いだと認識した上で判定を下しましょう。
 貴女の攻撃は士郎を砕くに足る。未だ貴女が士郎に勝てないのは、まだ彼の演技に騙されているからですよ」
「演技、でござるか」
「勿論、鍛錬の、尋常の勝負に限った話ですよ。貴女程度では、目的を持って動く士郎には敵わない。
 彼が本当に手段を選ばなくなったとしたら、私でも生き残れるか分かりません。
 世界最強の男でさえも、相討ちに持ち込めるだけの特異性を彼は保有しています。
 それは彼自身をも蝕むものであり、故に滅多な事では使用しない。
 別に手加減しているわけでもありませんから、その点は安心していいですよ」

 べらべらと解説するクウネルだが、それも全て楓の派手な攻撃を凌ぎつつの会話だ。
 踊っているように噛み合った攻防の最中、声が聞こえる間隙を狙って会話している。
 お互い読唇術ぐらいは心得ているから、別に声に出す必要もなかったのだが。

「さて、試合時間も残すところあと1分! このまま決着がつかない場合はメール投票による決戦となります」

 そのアナウンスを区切りとして、二人共空中での攻防に区切りを付け舞台に降り立つ。

「さて、この続きは後ほど私が主催するお茶会でするとしましょう」
「了解したでござるよ。けれど今は」

 最後の打ち合いに、意識を集中させる。
 確かに、楓の試合運びは士郎のヒントに沿うもので、決選投票の結果勝利を得るだろう。
 だが。それで腹の虫が治まるか、と言えば。

「試しもせずには終われない。忍びとしては失格でござるが……いざ!」

 分身はその数三十二。
 舞台を埋め尽くさんとばかりに増殖した楓たちは、クウネルを足止めするだけの攻撃力もない。
 それでは何の意味もない、が。
 それだけではないという事ぐらい、これまで戦ったクウネルにも良く分かっている。

 何かしらの策があり、ただ勝つだけでなく倒すために全力を傾けるのだと。
 ならば、クウネルに出来る事は、何も考えず立ち向かうだけだ。
 何をしてくるのか、何を見せてくれるのか。
 ウキウキしながら、攻撃を待つ。

「ハァッ!」

 気合いの入った一声を合図に、半分以上の分身がまるでドームのようにクウネルを包囲する。
 それだけならば脅威ではない。簡単に単純に、一発の範囲攻撃、重力魔法でそれら全てを叩き落とそうとした。
 いや、実際それは成功し、分身は舞台に叩きつけられようとしていたのだが。
 にやりと。数多の楓たちが、同時に笑った。

「爆符結界、結!」

 多重分身による、自爆。
 爆発で結界を成す程に隙間なく、八の分身を使った計四回の範囲波状攻撃。

 クウネルが物理的なダメージを無効化している種が、分身による特異性であるのなら。
 その分身を、維持できない空間を用意すればいい。
 ある程度以上の攻撃において、クウネルが一瞬だけ“消えて”いるのは確認している。
 その消えた直後、更に個体を維持できない程の攻撃を空間的に与え続ければ。
 分身を維持する為の、本体との繋がりを断ち切れるのではないか。

 それは同じく分身という技術に精通する者として、確信はあった。
 ただ問題があるとしたら、繋がりを断ち切る為に要する時間。
 この波状攻撃で足りるか否か。その結果は。

「爆炎で何も見えないが、ここでターイムアップ! 果たして勝利の女神はどちらに微笑んだのかっ」

 和美の実況にも熱が入っていた。
 正直に言えば、また舞台が壊れたのかよ勘弁してくれっ、というのが心情ではあったが、半分以上諦めがついている。
 というか、今まで知り合いが出ている試合はほぼ舞台が壊れていた。どうしようもない。

「ここで勝負がつかなかった場合、メール投票による決戦となりますが……おおっ、煙が晴れていくぞ」

 そして、煙が晴れた先には……ボロボロの楓だけが残されていた。
 クウネルの姿はない。あの爆発を思えば、跡形もなく砕け散ってしまったとさえ思える。

「えーと、これは……」

 和美が主催者である超を仰ぎ見る。
 もしかして殺してしまったのでは、と思ったのだ。
 そしてもしもそんな事になっていたら、試合の勝敗どころではなく大会そのものが中止になってしまう。

「主催者として宣言するヨ。この試合、長瀬選手の勝ちネ! 
 クウネル選手は場外に吹き飛び、こちらで保護している。皆心配する事はないヨ!」

 真っ赤な嘘ではあるが、まぁ問題あるまい。
 実際爆砕していたとしても分身体であるのだし、ただ消えるだけだ。

「ふふ、一矢報いた……で、ござる、よ」

 気の抜けた楓は、そのまま倒れ青空を見上げる。
 僅かに浮かぶ雲が、何故だかとても美しく見えた。





◇ ◆ ◇ ◆






 楓は担架で運ばれ、次の決勝戦を棄権する旨が会場に伝えられた。
 大きな怪我こそないものの、疲労も激しかったためである。
 
「やれない事もないでござるがな。このような状態で勝負とは礼を欠くというものでござろう」

 との事。
 まぁ、これは試合であり無理をする価値を見いだせないのならば自重するのが得策だ。
 一矢報いて満足したのなら、それでいいのだろう。

「で、良かったのか。あの程度ではその術は破れなかっただろう?」
「捨て身の攻撃でしたしね。主催者側の対応が冷静過ぎて面白くありませんでしたが、まぁ満足していますよ」
「そうか」

 クウネルことアルビレオは、士郎のすぐ隣に転移……というより、姿を現していた。
 勝ちを譲った、これ以上続ける事に意義を見いだせなかった。心中を探る事は出来ないが、そんな所だろう。
 その辺り、楓も理解しているから棄権したのかもしれない。
 
「それより、少々気になる噂を耳にしたのですが。貴方が麻帆良を去る、と」
「そのつもりだが、どうかしたかね?」
「いえいえ。まぁ、出て行く分には構わないですがね。連絡はどうなさるおつもりです?」
「まだ未定、だが……最悪潜り込むさ。図書館島は警備も薄いしな」
「むぅ。寂しくなりますね……」
「私は清々するがな」
「ふふ、手厳しい」

 たったそれだけで、別れは成る。
 永別するわけでもないし、何よりこの二人を繋いでいるのは友情ではなく利害関係だ。
 依頼さえこなせば、アルビレオも文句はあれど納得するし、無理強いはしない。

「色々と心配事はあるが……一応、信用する事にする。逃げ出す私が言えた事でもないしな」
「分かっているじゃないですか。本気で私を止めたいのなら、図書館島に潜伏してでも留まる事ですよ」
「チッ、まったく性根が悪い男だ」
「ええ、その通り。こんな性格になって長いですしね。エヴァンジェリンと同じく、今更変われません」

 言いたい事を言って、今度こそアルは消えた。
 あの言い草では、本当にナニカしでかしそうで怖い。
 けれど士郎も、それを理由に麻帆良に留まる程馬鹿ではない。
 何かしら企んだとしても、彼には収拾をつけるだけの能力はあるのだから。

「はぁ、本当に清々する、な」

 溜息をついて、士郎は遠くを眺める。
 いずれ去るこの麻帆良を、目に焼き付けるように。






◇ ◆ ◇ ◆







 楓とクウネルが激闘を続け、盛り上がる会場の影で対面する二人の姿があった。
 木乃香と刀子である。

「つまり……彼は既に逃亡ルートを含め、準備を終えていると」
「うん、そんな事をゆーとったけど。本当かどうかは、ちょっと分からへんなぁ」

 情報交換、である。
 木乃香が売り出しているのは、士郎の情報だ。
 今後の士郎の予定として、指名手配されるような行動がある、と。
 そのリークだ。

「ふふ、疑っとるんですか? 葛葉先生」
「……お嬢様を疑いたくはありませんが。しかし、先程の態度を考えれば当然なのではありませんか?」

 つまり、魔法先生たちを罠にハメるために敢えて情報を流しているのだと。
 中で何を話していたのか、わざわざ隠蔽工作を行っている以上、疑うなという方が難しい。
 木乃香にその意がなかったとしても、士郎が木乃香を使っている可能性は大いにあり得る。

「でも、こんな嘘ついても仕方あらへんと違います?」
「それは、そうですが……」

 確かに衛宮士郎が暴れる、そして暴れた後の逃走路まで確保されているというのは最悪の情報だ。
 魔法先生たちは戦力を集中させてこれを阻止しようとするだろう。
 一見してこの情報を木乃香がリークする価値はない。
 だが、その戦力集中を利用して何かしでかそうというのなら話は別だ。
 尤も、そうであったとしても、士郎へのあの態度が本気の気持ちならば、惚れた男を囮に使うなんて事は信じられなかったが。

「葛葉先生。ウチは、士郎さんの事好きです。でもだからこそ、犯罪の末にいなくなるなんて嫌や」

 ぎりっと、唇を噛む。
 その態度に、ああ、成程と。刀子は得心してしまった。

 先程から木乃香の意外な一面ばかりを見せられて混乱していたが、考えてみればそちらの方がずっと受け入れやすい。
 共犯などと言うから一緒に犯罪者となるイメージばかりが先行していたが、確かに学校を辞めてまで付いて行くというのは重すぎる。
 それが普通で、それが当たり前。
 今の木乃香には、確かに底知れないモノを感じていた刀子であったが、簡単な理解を選んだ。
 それは、誰にも非難できる事ではないのだろうが……迂闊、ではあったのだろう。

「それで、代わりに教えて欲しい事があるんですけど」
「教えて欲しい事、ですか?」
「そう。これから起こる事件の首謀者、誰が士郎さんを誑かしたのか……を、な?」

 ニッコリと。不気味な程のその喜色に、刀子は身震いする。
 僅か十五、刀子の半分強しか生きていない小娘が。
 自分よりも、“女”の顔をしていると、刀子は恐怖した。














楓「ふむふむ。士郎殿が少女嗜好(ロリコン)なら拙者にもチャンスが!」
小太郎「いやいやいや。楓ねーちゃんはナイや」
楓「む?」
小太郎「ろ……と思たけど、そんな事あらへんで。うん。まだ若い若い」

(拍手)
 
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後書き

また木乃香が全てを持っていっちまった……という第70話。ようやくまほら武道会編も終わりが見えてきました。
当初の予定から倍以上膨れ上がってしまっている(修学旅行編より長いという体たらく)けど、まぁいいよね!
このペースなら春頃……あと10話ちょいで学園祭編も終わりそうだし、お楽しみに!

2010.10.24 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


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