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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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大河内アキラ人気投票優勝記念SS


初めて前書きを書きますが、これは書かねばなりません。
これは擬似アキラメイン√イベントの切り貼りです。
故にIFではありますが、途中までは本編でも実在した番外編的扱いとなります。
ところどころ、後の本編におけるネタバレ的な要素を含みます。
以上に納得出来る人に捧げる、大河内アキラ人気投票優勝記念SSですので、覚悟完了した人から続きをどうぞ。




「ペンダントに絡まる鎖は」




 大河内アキラは衛宮士郎に多大なる恩がある。
 と、彼女は勝手に信じ込んでいたのだが、実際の所はその認識は間違いだ。
 そもそも士郎の不手際がなければアキラは魔法を知る事なく平穏に過ごしていただろうから。
 事件に巻き込まれ、士郎により救われていたとしても、知らなければその事実さえも忘れる事が出来る。
 知っているからこそ巻き込まれたのかもしれないし、士郎の助力も間接的なものだ。
 敵を打ち倒し、物語のように助けたわけではない。
 例えそう見えていたとしても、それは副次的なものであり、士郎はアキラを助ける為だけに動いたわけではないのだから。

 ただ、それでも彼女からして見れば恩人だった。
 そして恩人である以上に、気になる人でもあったのだ。

 まぁそれも仕方のない事かもしれない。
 魔法。物語の中にしかないような、非日常。
 それを知り、そして巻き込まれ、その中でも強い人の庇護下にあり。
 期待しない方が可笑しいだろう。思春期の頃、誰だって一度ぐらいは異世界を夢に見る。
 理性では危ない事だと分かっていても、否危ないと分かっているからこそ惹かれてしまうもの。

 その世界への窓口は、アキラにとって士郎以外にない。
 よって、何かと理由を付けて接点を持とうというのは、自然な流れなのである。





◇ ◆ ◇ ◆







「働いてくれるのは構わないが、それならちゃんと給料を受け取ってくれ」
「でも、それじゃあ恩返しの意味がないですよ」
「大体そんな大した事はしていないぞ、私は」
「コレ、高かったんじゃないんですか?」

 アキラは首に掛かっているネックレスを服の中から引き上げる。

「いや、自作だからな。制作費などあってないようなものだ」

 実際ゼロである。投影とは何とも便利な魔術だ。尤も、士郎に限った話ではあるが。
 この程度なら魔力も使うという程でもないし。

「え? マジックアイテムじゃないんですか?」
「マジックアイテムと言うと違う気もするが、正真正銘護符だよ。本当に効力のあるお守りみたいなものだ。
 確かに、そういう物品の流通もあるにはあるがな。
 私は本来、そういった品を作る側の人間でね。京都……木乃香の実家に卸した事もある」

 士郎だって、素材を仕入れる事はある。
 タカミチの手袋を作成した時などは色々と骨を折った。
 勿論士郎にだって作れない、苦手なモノは多々ある。
 魔術により作成される品々よりも、魔法による道具の方が遥かに利便性は高い。
 少なくとも、リスクという意味では規格外だ。魔術とは、常に対価を要求するものなのだから。

 が、少なくともアキラが身につけている護符、護石に関して言えば、対価を払っているのは士郎だ。
 最初に籠めた魔力が、という意味ではあるが。
 故に、魔力が消えればただのアクセサリーになる。それでも売り出せばそこらの露天よりはマシな値段が付くだろう。

 ただ、アキラにとっては手作りであるという事が何より重要だった。
 手作りという事はつまり、世界で一つしかないという事。
 そして士郎が他の誰かにも同じものを送っていない限り、コレはアキラだけの特別になる。
 けれど、その嬉しいという感情を知られるのも恥ずかしいものだ。
 隠そうとするのも当然であり、その結果話を進めるのは妥当な手段だった。

「あの、興味本位なんですけど、そういうのって幾らぐらいするんですか?」
「そういうの、というのはその護符か?」
「ええ」
「……私は無名だしな。そう大した額はつかないし、そもそも試作品だ。商品でない以上、値はつかないさ」

 その間に、アキラは値段に関しては理解した。
 おそらくは、中学生のお小遣いぐらいじゃどうにもならないような値段なのだろう、と。
 事実、工房エミヤを利用した一部の客たちはそれなりの金額を支払っている。
 ガンドルフィーニや、刀子辺りには特に容赦なく。
 刹那には学割ではないものの、その辺り格安というか普通の刀程度の額で売っているが。

 関西呪術協会の大幅な戦力強化により、刀匠・衛宮の作成した品は高騰している。
 値が付けられないぐらいに、だ。
 一応注文もあるにはある、のだが。
 士郎自身が断る場合もあり、そもそも士郎本人に辿り着けず学園長辺りに阻止されたりと色々だ。

 しかしそれも当然な話ではある。
 神鳴流のような剣士でなくとも、多少体術に自信がある魔法使いが持つだけでも絶大な効力を発揮するのだ。
 上位の武器ならば結界破壊用としての機能も期待できる。
 しかも気や魔力で強化せずとも素で強い――――それはつまり、強化すればもっと強くなるという事でもある。

 だが、だからこそその扱いには士郎本人も注意していた。
 士郎を危険視する協会の一派は当然にしても、士郎を擁護する側の学園長でさえ敏感になる程に。
 だから今、士郎作の装備品を持っているのは希少と言える。
 士郎と個人的な交友、コネがなければ無理なのだ。
 残る可能性としては、月詠のように関西から盗むか。
 実際のところ、関西も一枚岩ではない。現在そうして士郎の刀が裏市場に流通しているのはそういう理由でもある。

 まぁ、ともあれ。
 士郎と明確なコネがあり、士郎が保護すべき対象として見定めているのなら、そんなことは気にする必要など勿論ない。
 大体において、士郎の目的は金稼ぎではないのだし。
 ……遠い平行世界の師匠が聞いたら怒りそうな話ではあるが。

「とにかく! 働いてくれると言うのなら喜んで協力してもらうが、給料の話は別だ。
 頼むから私を、子供をタダ働きさせる極悪人にさせないでくれ」
「そういう言い方はズルイ、ですよ」

 そこまで言われたら仕方ないと思えてしまう。
 アキラの目的は士郎を困らせる事ではなく、その負担を少しでも軽減する事なのだから。

「ゴメン士郎さんっ、遅れた!」

 本職、というか正式に採用されているバイトの明日菜が裏口から駆けこんできた。

「あれ? 大河内さん?」
「ああ明日菜、今日はアキラもバイトに入ってくれる事になったから、よろしく頼む」
「うん了解。……金欠?」

 最後は声を潜めてアキラに尋ねる明日菜。
 だがまぁ、明日菜はそれ程アキラの事情に精通しているわけでもない。
 魔法を知っている、ある意味では明日菜と同じ関係者であるということさえ。

「うん、そんなトコ」

 逆にアキラは、明日菜が魔法に深く関わっている事を知っている。
 一応は明日菜も、あの襲撃の夜に士郎について去っていったアキラの姿を見ていたはずなのだが。
 その辺り、あまり想像力を働かせてはいないようだった。

「あ、でもこのメイド服、今一着しかないのよね?」
「メイド服言うな。まぁ確かに明日菜用の制服は、予備をクリーニングに出していたな」
「うん。大河内さんはどうしようか?」

 アルトリアにおいて厨房の仕事は全て士郎が担当し、明日菜がバイトに入っている場合は接客が明日菜の仕事となる。
 昼間はランチタイムではあるが、この店は立地が悪すぎる為平日のお客は少ないから士郎一人でも回せるのだが。
 逆に土日は多いのだ、客が。あくまで平日と比較しての事ではあるが。

 ただ、忙しくても厨房は一人で回る。だから出来ればアキラにも接客をして貰いたいところではあった。
 しかし制服は一人分しかない。

「よし、アキラには厨房を手伝ってもらおう。普通のエプロンなら予備があるしな」

 士郎用ではなく、女物のエプロンが、何故か。
 その事に疑問を抱かなかったのが、思えばアキラの最大の失敗だったのだが。

「よし、今日も一日頑張るわよっ」

 元気のいい明日菜の声で、その日の仕事は始まったのだった。



◇ ◆ ◇ ◆






 仕事終わりの帰り道。明日菜とアキラは二人一緒に寮へと歩いていた。
 程良い疲労感に、持たされた一日分の給料。
 学園祭などで売り子をする事があっても、実際に稼いだお金というのはアキラにとって初めてのモノだった。
 要らないとは言っていても、いざ貰ってみると嬉しいものである。特に使い道がある、というわけでもないのだが。

「神楽坂さんは……」
「明日菜でいいわよ。今まではあんまり話す機会もなかったけど、もう一緒に働いた仲間なんだし」
「うん、じゃあ私もアキラでいいよ、アスナ」
「よし。で、なに? アキラ」

 アキラは少しだけ詰まった後話し出す。

「うん、アスナはいつもこんなに貰ってるの?」

 給料のことだ。
 その給料は、アキラが想像していたよりもずっと多かった。
 もしかしたら士郎が色を付けた、特別扱いをしたのではないかと勘繰ったわけである。
 ペンダントのような特別扱いなら嬉しいけれど、給料で特別扱いされても嬉しくはない。

「んー……そうだね。私は月一で貰ってるから、時給で計算すると……うん、こんなものかな」
「これくらいが相場なの?」
「ううん、かなり高め。士郎さんは副業で儲けてるからいいんだーとか言ってたけど」

 正直有り難いんだ、と笑っている明日菜を見ているとアキラも何も言えない。
 明日菜の苦学生っぷりは色々と有名だったし、士郎の副業というのも朝に説明されたばかりだからだ。

「アスナは、士郎さんの副業って知ってるの?」
「ううん。別に興味ないしね。士郎さんならおかしな事で手に入れたお金じゃないだろうし」

 その程度の信頼はある。というか、京都での事もある以上、ネギと同じく魔法関係の何かだろう……という程度には頭を働かせていた。
 木乃香の時のように、護衛とか。或いは警備や魔物討伐とか、そういう戦う類の仕事だと。
 で、あるならば尚更明日菜に興味はなくなる。
 士郎の強さならば心配はいらない……というよりも、年上かつかなり強い人間に対して、女子中学生が心配してもな、という感覚だ。

「じゃあアスナは……士郎さんが戦うトコ、見たことある?」
「へ?」
「だから、魔法。ほら、私も悪魔……デーモン? が襲ってきた時居たじゃないか」
「あ、ああ! じゃあアキラも魔法知ってるのね!?」

 今気づいた、と言わんばかりの反応だった。事実なのだが。
 へーと、納得しているのか未だ混乱しているのか分からないテンションで明日菜が頷く。

「じゃあさ、バレたのって士郎さん?」
「うん、そうだけど」
「記憶消されそうにならなかった?」
「なったよ。止めて貰ったけど」

 実際のところは、消されそうにはなっていない。ただ、魔法に深く関わるのならば、或いは望むのならば。
 記憶を消して、何も知らずに平穏な日常に戻れると、選択肢を提示されただけだ。
 その結果、怖い目にも会ったが……記憶に関しては、これで良かったとアキラは思っている。
 記憶があろうがなかろうが、エヴァンジェリンに襲われていたのは変わらないだろうし。
 現に、魔法なんて全く知らない友達も同じように襲われているのだから。

「そっか。やっぱ士郎さんも……は? その辺キビシイんだ」
「でも、何だか私の事で士郎さん、色々面倒な事になったみたいだ」

 魔法がバレたらオコジョになる――――とは言え。
 そもそも衛宮士郎というのが協会員ではないのだから困り者だ。
 士郎は関東魔法協会に属しているわけでもなく、本国直属となっているわけでもない。
 完全なフリー。そんな人間に対して、魔法世界流の処罰を適用できるか。

 微妙な問題だった。大体にして、そんな事になったら士郎は麻帆良を脱出するだろう。
 一人で一協会を打倒しかねない実力を持つ人間が野放しになる。
 それは脅威であるし、ひいては関東魔法協会の責任問題になりかねない。
 故に、そんな事はなかった、という事にされる。
 その程度の融通はきくし、現場の判断というのがまかり通る世界でもある。
 バレた相手は魔法を口外しない、関わらないと約束しているのなら殊更問題を大きくする理由もない。
 ただ、その辺りの隠蔽工作が、若干名の魔法先生の心証を損ねるというだけで。

「へぇ。じゃあ、ネギの奴もヤバいのかな。私以外にも結構バレてるけど」
「さぁ、それは分からないけど。士郎さんはネギくんが“特別”だって言ってたような」

 衛宮士郎では心証を損なうような事実でも、英雄の息子である所のネギならば仕方ないで済ませられる。
 何とも不条理な話ではあるが、そんなものはどこだって同じ。
 かくも人の心は複雑怪奇、である。

「ふーん。で、えーと……士郎さんが戦うところ、だっけ」
「うん」
「見たことは……あれ? あんまりないかも。一緒に戦ってたはずなんだけど」
「一緒に!?」

 それは、アキラにとっては驚天動地の事実だった。
 明日菜が攫われて、ネギが助けに来ていたあの夜。
 それは、アキラと士郎のような関係だと思っていた。
 ただ知っているだけの一般人と、力ある魔法使い。

 修学旅行の時だって、明日菜は巻き込まれているだけなんだって。
 一緒に戦うなんて、そんな事が可能だと言う事。
 それが何より驚きだったし……そんな事が許されて、自分は関わる事さえ許されていない現状が。
 ただただ、アキラにとってショックだった。

「あ、うん。私はネギのパートナーだから」

 パートナー、という単語は初めて聞いたが、意味は推察できた。
 どちらにせよ、アキラにとっては変わらない。

 明日菜には出来て、アキラには出来ない。
 ネギはそれを許して、士郎はそれを許してくれない。
 或いは、伝えることさえしなかった。
 その差。
 アキラが明日菜に感じていた一方的な連帯感は、脆くも崩れ去る。

 アキラは羨ましかった。いや、羨ましいと思ってしまった。
 その事実を聞いて、ショックを受けて。ショックを受けた、その理由。
 
 友達の為に、友達が危険に進みそうになったら止める。
 その判断の為に必要な知識。存在を知っているというだけで、回避する事は容易になる。
 それが、アキラが魔法の記憶を消されたくないと思った理由。
 そして士郎が認めた理由だ。

 世界において隠されているモノ。非日常への扉。
 その存在を認識しているという優越感。
 そんな感覚に浸っていなかったと言ったら嘘になるだろう。
 けれど、アキラが自覚したのはこの時が初めてだった。
 初めて。明日菜を羨ましいと思い……“魔法に関わりたい”と。そう、願ってしまった。

 それは契約違反。士郎が敵に回りかねない重大な裏切りだ。
 けれど、思うだけなら罪はない。行動に移さない限り、その思いは無害だ。
 胸に秘めて、今までと変わらない日常を歩き続ける限り、士郎は気づく事さえないだろう。

 アキラ自身、自分に戦う力があるなんて思っていない。
 魔法を覚えたとしても、士郎と一緒に戦うなんて事は出来ないだろう。
 なら、結局は変わらない。迷ったところで、逡巡したところで結末が変わらないのなら意味はない。
 けれど。簡単に諦められるなら。きっとアキラは、あの時記憶を消してもらっていただろう。

「どうしたの?」
「あ、ううん。何でもない。それより明日菜は明日も来るの?」
「明日は用事があって出れないんだよね。士郎さんには伝えてあるけど」

 強張った表情を必死に崩して、アキラは会話を続けた。
 途中、一度だけアキラは振り返る。
 後ろ髪を引かれるように、アルトリアを、まだ士郎が居るであろう場所を。
 混乱と逡巡を抱えたままで。



◇ ◆ ◇ ◆





「おはようございます」
「……今日も来たのか。いや、有り難いが。今日は明日菜も休みだし」

 アキラを気遣ったのか、士郎は途中からフォローするような事を言う。
 微妙にアキラのテンションが低いのに気づいたのかもしれない。

「一応聞いておくが、今日もバイト希望かね?」
「はい。お手伝いさせて下さい」
「分かった。制服もクリーニングが終わっているから、そっちを着てくれ」

 指示通り、控え室でいつぞや寮まで着て帰ったメイド服、じゃなくてウェイトレスの制服に袖を通す。
 相変わらずいい趣味してるなーとアキラは思う。
 正直似合っていない、とアキラは自分で思っていた。アキラは女子にしては背が高いし、可愛い系というよりキレイ系だ。
 だから、お嬢様っぽくスカートの端を持ってお辞儀とか、スカートふわりと一回転、など似合わ、な……

「…………あ、いや。ノックはしたんだがな」
「いえ、その…………忘れて下さい」

 見られてた。穴があったら入りたいとはこの事なのだと、実感したくはなかった諺の意味を噛み締めながら姿勢を正す。
 相変わらず顔は赤いままだったが、取り敢えず表情は元通り。

「えっと、こっちの制服って事は今日は接客ですよね」
「ああ。まぁ、ウチの客は別にウェイトレス目当てというわけではないから、そう肩肘張る事もない。
 大体普段は私が接客も兼ねているからな。注文を聞いて、メモって私に伝える事。後は配膳だな」

 それ自体は社交性さえあれば何となくで出来る内容だ。
 マニュアルなどがあるわけでもなく、あるとすればそれは士郎と明日菜の脳内に、である。
 接客に関しては特に、明日菜がルールのようなものだった。
 注文の略し方やら隠語まで、基本的には全て明日菜の感性で決定されている。
 
「それと、極力笑顔を意識すること。まぁ、極力でいい」
「あ、はい」

 極力を強調しているところに、アキラは納得した。
 だって士郎も笑顔で接客しているところなんて見たことないし、想像も出来ないからだ。
 実際のところは、かなりマジな執事風の接客が可能なのだが。執事喫茶に一躍転身できるぐらいのスキルはあるのだが。
 まぁ、蛇足ではあるのだろう。美味しいお茶と美味しい料理があるのなら、十分喫茶店としてやっていける。特にこの街では。

 と、そんな簡単な指導の最中に、彼女は飄々と現れた。

「士郎さん、アスナの代役で来たえ~」

 木乃香だった。
 何となく……そう、何となくアキラは機嫌が悪くなる。
 いや、別に特別な理由はない。ただ、今日は明日菜が来ないという事でバイトは自分だけだと思い込んでいた。
 明日菜の代役なんて抜け道は考慮に入れていなかったのだ。
 ただでさえ昨日受けたショックをまだ整理しきれていなかったから、他者の介入は出来れば遠慮して欲しい……という、それだけの理由だ。

 そして、明日菜と同じく裏口から入ってきた木乃香も、アキラの存在には目を丸くしていた。
 色々出し抜いて折角二人きりのシチュエーションを構築したのに、そこに予想外の異物確認! というような顔は決してしていなかったのだが、何故かアキラにはそんな心情が伝わってきた気がした。
 気のせいではあるが。断じて、絶対に気のせいに決まっているが、何となく。

「ああ木乃香。今日はアキラも手伝ってくれる事になってる。よろしく頼むぞ」

 その言い方に、アキラは木乃香がこうして手伝う事が初めてではない事を推察する。
 もしかしたら電話か何かで事前に伝えられていたのかもしれないが、アキラは勘で断定した。
 これは、初めてじゃあ、ない。

「うん。よろしゅう、アキラさん」

 ニコニコ笑顔。何だか黒い……気もしたが、気のせいという事にしてアキラも笑顔を返す。

「うん、よろしく。色々教えてね」

 控え室はクーラーが効いてるわけでもないのに、何故だか涼しく感じた。





◇ ◆ ◇ ◆







 アキラが接客担当で、木乃香が昨日アキラがしていたように、厨房で士郎の手伝いをしていた。
 それはそれで若干思うところはあるのだが、問題は二人の親密度。
 というか、阿吽の呼吸だった。
 何かもう熟練夫婦のように流れ作業が成立している。

 時々会話もあるにはあるのだが、仕事中とは思えないくらい空気が柔らかい。
 アキラには、どうにも士郎が木乃香に対してダダ甘なような気がしてならなかった。
 明日菜以上に、特別扱いされているような。そんな感じがひしひしと。

「ケーキセットとブレンドお願いします」

 アキラの注文伝達に、士郎は機敏に頷いて料理に勤しんでいる。
 その横で木乃香がケーキセットのケーキを既に切り分け皿に移し変えており、士郎はブレンドを淹れ始めている。
 
 …………単に木乃香が気が利くだけなのかもしれないが、それでも手慣れすぎているような。
 まるで開店当初からずっと二人でやってきました、というような空気感。
 お役立ち度では圧倒的な敗着が未来永劫確定しているっぽい。
 というか、これではアキラがいない方が効率的に動くのではないかとさえ思えてくる。

「すいません、こっち注文いいですか?」
「あ、ハイ、少々お待ちください」

 これでいいのか疑問に思いながらも、アキラは接客に勤しむ。
 とりあえず働く為に来ているのだから、働かなければ意味が無い。
 極力無心で仕事をするアキラにとって、休憩時間までの時間は昨日よりも遥かに長く感じた。





◇ ◆ ◇ ◆







「ほら、今日の分の給料だ」

 アキラが渡されたのは昨日よりも少しだけ多い給料袋。
 確かに昨日よりは一時間程長く働いていた。それだけ客の入りが良かったという事なのだが。

「あの、近衛さんのはないんですか?」

 てっきり木乃香もアキラと同じように日雇い……というか、押しかけのお手伝いさんなのかと思っていた。
 けれど待てども木乃香用には給料袋が用意されない。

「ああいや……木乃香は特別仕様というか。現物支給……でな?」

 何故疑問形なのか。いや、それよりも。
 特別。殊更、今のアキラにとってその言葉は重かった。
 昨日明日菜との差を感じたばかりだ。それを、こんな日常に近い一コマでさえ感じてしまうと。

 確かに木乃香は名家のお嬢様で、アキラは何ら特別ではない一般家庭の出身だ。
 木乃香には関東最高の魔力があって、アキラにはそんな才能など片鱗も見えてこない。

 けれど。否、だからこそ。
 そんな事実があるからこそ、アキラは納得できない。
 その“差”が、どうにも煩わしい。
 そして、ネギだけでなく士郎さえもそんな差を押し付けるのかと、アキラは落ち込んでしまう。

「今日は少し遅いな。寮まで送っていこうか?」

 どうしようか、アキラが迷っている間に木乃香が答える。

「ううん、ええよ。二人で帰れる。でも、何かあったら助けてな」

 ぷらぷらと携帯を取り出し木乃香はアピールする。ワンコールでもあれば、という事だろう。
 今どこにいるのかなんて事は、鷹の目を持つ士郎ならば、運が悪くない限り見つける事ができるだろうし。

「ほな、行こか」

 そう、アキラに対して意味深にウインクする木乃香に対して、頷く事しかできなかった。




◇ ◆ Flag Original or IF ◇ ◆







「近衛さんは……」
「聞きたい事は分かってるつもり。士郎さんとの事……やろ?」

 図星だった。まぁ、分り易くはある……んだろうか。
 ただ、確かに知りたかった。何故木乃香が特別なのか。
 それを知らなければ、また今夜も悶々と過ごすハメになる。

「別に、士郎さんとは何もあらへん……と言っても信じてくれへんよね」
「まあ、ね」
「簡単に言うたら共犯者、かなぁ。裏社会? とかそういうの。色々教わっとるんよ」

 明日菜とは違い、木乃香は魔法に関して知っていると、その前提で話していた。
 それはもしかしたら予め士郎から聞いていたのかもしれないし、或いは木乃香の洞察力が高いだけかもしれない。
 それを、アキラも自然に受け止める。
 その方がやり易い。そんな風にも感じた。

「理由を訊いてもいい?」
「ええよ。とゆーても、全部話すと長くなるから……」

 と、木乃香は大まかに事情を説明する。
 このままだと、将来木乃香は関西呪術協会の長となる人物と結婚する事。

「まぁ、別にそれはええんやけど」
「そうなの?」
「うん……一応、どうしても好きになれんやったら断るかも知れへんけど」

 そこは我慢できる、多分好きになれる。そう、木乃香は言う。
 だが問題はそこにはなかった。
 問題は、木乃香の親友。桜咲刹那。

「せっちゃんの問題は、ちょっと他人には話せへん。でも、その問題は士郎さんでも解決できへん問題で……。
 多分、ウチが長になる以外、本当にせっちゃんの願いを叶える事にはならへんと思う」

 だから、木乃香自身が長になる。
 その為には、お飾りではなく、実力がなければならない。
 けれど、魔法とは違い練習すればいいものでもないのだ。
 組織の運営、それは士郎にも門外漢だったが……その崩し方ならば、得手ではある。
 刹那の問題解決の為には、長になった上で壊さなければならない仕組みがある。
 だから、士郎に先生役を頼んだのだ、と。そういう説明だった。

「でも、それで何で共犯なの?」
「ウチにこーゆー事教えるんは、きっとお父様もお祖父ちゃんもいい顔せーへんやろし……
 場合によっては、ウチも協会を敵に回すかも知れへんから、かな」

 それは、問題発言だろう。そんな事に士郎を巻き込んでいる、というのは。
 アキラにとっては許せないし、止めるべきだと思う。
 けれど、木乃香は本気で刹那の事を何とかしたいと思って、その結果士郎は助けになっているのだろう。

 吸血鬼事件の結末。その事件の時、ヒーローのように助けに来てくれた士郎のように。
 あの時のように、困っている人間を放っておけなくて、自分の立場を気に留めず身を削っているのなら。
 それは、アキラに口を出せる話じゃない。そんな権利は、助けられた人間として、アキラは持っていない。

「でもそれじゃ、釣り合ってないよ」
「うん、そうやね。だから少しでも恩を返したい……そう思うんは、悪いことなんかな?」

 その言い方はズルイ。アキラもまた、同じように恩を返したいと思っているからだ。
 確かに程度は違う。
 アキラを助けるのは、士郎にとって義務のようなものらしい。
 魔法に関わる者として、或いは魔法バレの責任者として。

 そんなちっぽけな理由に対して。木乃香は、数百人、数千人を巻き込んだ陰謀を起こそうとしている。
 自分の願いの為に。親友の為に。
 それがいいことなのか悪い事なのか、アキラには判断出来ない。
 ただ羨ましいとは思う。そこまで想って、想われる友情を。

 そしてその友情を士郎が手助けしていて、その対価として趣味で経営している店を手伝ってもらう。
 押し付けのような善意で、自己満足でしかないものかもしれないけれど。
 その点において、アキラと木乃香は共通している。
 受けた恩のレベルも違えば、その重みも、理解も遠く差があるかもしれない。

 ただ、アキラはある意味、納得してしまった。
 背負っているモノが違う。覚悟が違う。
 その差が、今立っている場所の差なのだと。
 明日菜にはネギに対して、その覚悟があるのか。
 それは分からなかったけれど、少なくともアキラと木乃香の差は。

 アキラの想いも、決して遊びじゃない。
 緩い気持ちなんかじゃないし、士郎を支えたいという気持ちも本物だ。
 けれどそれは、安全圏で形成された想いでしかない。
 自分は主役にならない位置から、安直に守って貰えるという立場での支えだ。
 そんなものに……どれぐらいの価値があるのだろう。

 雛鳥のように与えてもらうだけの立場で。
 それを、バイトを手伝うという名目で恩を返そうとして、でもそれさえ拒否されて。
 まだアキラは、恩を返す事ができるスタートラインにさえ立っていない。
 アキラの、“自分が出来る恩返し”の中に、士郎にとって役に立つものなどないのだ。

「でも、確かに“今は未だ”釣り合いなんて取れてへんよ。だから、これから。
 ウチが立派な魔法使いになれた時に。これから成長して、いつか士郎さんの助けになれるくらいになって。
 いつか、きっと……」

 いつか、きっと。
 なれるだろうか? アキラの立場で。アキラの甘えで。このまま続けていった先に、そんなものはあるのか。
 踏み越えなければ、手に入らないものではないのか。
 それで、例え士郎を敵に回しても……それは、願いではないのか。
 その行為は、今までアキラがずっと忌諱してきたもの。他人に迷惑をかける行為。
 でも、今だけではなく先を見て。将来、いつかその分も取り返して、恩も借りも返せるように。

「ごめん、木乃香。私ちょっと急用を思い出した」

 すると、木乃香は少しだけ驚いたような顔をして。

「――うん、分かった。頑張ってな」

 そう、応援してくれた。










 走っている間は身体が軽かった。いつもよりもずっと速く走れた。
 まるで泳いでいる時のように、穏やかな無敵感がアキラに充満している。

「士郎さんっ」
「ん? アキラ?」
「私に魔法を教えてください!」
「駄目だ」

 脊髄反射的な返答だった。にべもない。
 しかし、覚悟を決めたアキラはこのくらいではへこたれなかった。

「じゃあ、魔法はいいです。代わりに、魔法の知識だけを教えて下さい」
「……どういう意味だ?」
「私自身が魔法を使うんじゃなくて、私はあくまで知っているだけ。
 それでも知識を極めれば、あらゆる危険を回避できると思います」

 それは、ある種衛宮士郎の戦い方にも似ている。
 知っている事、感じ取る事、己が情報として取り扱う事ができるモノ全てを、或いはそれ以上の限界を超えて武器にする。
 ただ、士郎のそれは、守り、回避し、攻撃し、倒し、殺すためのもの。
 それを、ただ守り、回避する為だけに用いるのならば。
 もしかしたら、魔法の力を持たない一般人であったとしても、“力”になれるかもしれない。

 その魔法の原理、構成、効果、特性、弱点。
 ただ知っている。それだけの事を、力にする。

 大河内アキラという人間は、魔法という存在を知っているだけの人間だ。
 勿論魔法を使えるわけがないし、自信を持って誇れるのは水泳くらい。
 魔法の世界において、アキラは知っているだけ。なら、その“知っている”を磨くしかない。
 知って、理解して、扱うのではなく、徹底的に逃げまわる。
 それが、一般人・大河内アキラにできる努力の仕方。
 力を、特殊性を得る方法。アキラの“特別”だ。
 
「そんなものに価値はない。扱う事の出来ない知識なぞ害悪にしかならん。
 アキラ、君がどんなに魔法の知識を得たとしても、その対抗手段がなければ意味が無いんだ」
「私自身に対抗手段がなかったとしても、士郎さんには、ネギくんには、アスナには木乃香には、刹那さんやこの学園に居る魔法先生たちには。
 手段があります。同じ力が。なら、私がその力を使えなくても……使える人を、使えばいいでしょう?」

 それは、ある種悪魔の考え方だ。
 他人を自分の力として使う。そこにお互いの信頼、協力関係があるならいい。
 けれど、相手を支配して使用する、という考え方は吸血鬼のそれに等しい。

 だがしかし、それはアキラにとって唯一の解決策でもある。
 木乃香たちとは立場が違う。生まれも、環境も、何もかも。
 だから、アキラは、主役にならないまま影から干渉する。
 ひっそりと暗い、スポットライトの当たらない闇の中でも、出来る事はあるはずだ。
 黒子としての役割を、全うしてやる。

 与えられて、守られるだけの立場なら。
 与えられたモノを武器にして、守ってくれる力を盾にしよう。
 アキラにとって、魔法と関わる接点が士郎しかないのなら。
 士郎を教本にして、士郎を槍に戦おう。

「それが、私の覚悟です。私は一般人として、グレーゾーンのまま、この立場で足掻き続けます」
「突然、どうして……そこまで?」
「どうしてって、そんなの決まってるじゃないですか」

 そう、決まっている。
 順番は逆で、全く本末転倒な物語のオチ。
 けれど解り易い、あまりにも簡単で納得できてしまう理由。

「恋する女の子は最強って事ですよ!」


 こうして、後に魔法界の歴史に偉大なる名を残す一般人・大河内アキラは、最大の敵に宣戦布告した。










木乃香「なんやえらい出し抜かれた気が……」
アキラ「だってコレ、私の記念SSだもん」

刹那「2位の私は出番皆無なんですけど……これフラグですよね! きっとそうですよね!」
(拍手)
 
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後書き

やっちまったぁ感満載の優勝記念SSです。
私が元々アキラメインにするなら、と考えていた話での設定というか思考結論を使っています。
という事は逆説的に、この答えに行きついていればアキラはまだまだ逆転可能であり、刹那もうかうかしてられないわけですが。
はてさて、本編ではどうなることやら。
ただ、前書きでも注意したように、これは途中まで本編でもあったイベントの一つです。没ではないけど書かずに放置してた明日菜とアキラの番外編を掘り起こしました。木乃香は伏線要因として起用。
最近の本編の進行度が丁度いいところまで進んだからようやく書けるようになった話でもありますが。
ともあれ、お楽しみ頂けたら幸いですが……アキラに投票してくれた方々、こんなもんでいいんですかね? やっぱ木乃香出番ありすぎ?

2010.10.17 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


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