Twitter

FC2カウンター

カレンダー
08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

カテゴリ

最新記事

最新コメント

リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:


検索フォーム

アクセスランキング
[ジャンルランキング]
小説・文学
351位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
二次小説
180位
アクセスランキングを見る>>

屈折領域・裏鏡


一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

TOP > スポンサー広告 > 夢破れし英雄  第69話TOP > 夢破れし英雄 > 夢破れし英雄  第69話

スポンサーサイト


上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

夢破れし英雄  第69話


「幕間二 木乃香の願い」  試合が終われば、当然選手は退場する。
 そして退場していく仕草を見る限り、どちらかと言えば士郎が勝者に見えた。
 刹那には明らかに疲労の色が現れているのに対し、士郎は常と変わらない安定感で歩き去ったからだ。
 早くもなく遅くもなく、刹那に合わせているような歩調でゆっくりと。

 やがて観客の目が届かないところまで歩いてくると、そこには木乃香が待っていた。
 そこから少し離れて、刀子も士郎を厳しい目付きで観察している。

「二人とも、お疲れさんやな。カッコよかったえ」
「あ、ありがとうございますお嬢様」

 照れる刹那の横を、簡単に感謝の言葉を述べながら士郎は通りすぎる。
 つい先程まで、あんなに感情を、理念を、選択をぶつけ合ったはずなのに、そんな素振りさえ見えない程に無感動な行動だった。
 思わず、刹那は自分が何かしてしまったかと不安に駆られる。

「大丈夫」
「え?」
「ちょっと士郎さんも疲れとるみたいやし。ウチ、治して来るな」

 たたっと、笑みを見せて、「せっちゃんも休んどくんよー」と叫びながら木乃香は士郎を追いかけた。
 刹那に背を向け駆けていく。
 その顔には、もう先程のような笑みは浮かんでいなかった。
 真剣な。或いは、覚悟と決意を秘めているかのような瞳で。木乃香は、カードを握りながら進んでいった。





◇ ◆ ◇ ◆






「…………」
「ちょ、ちょっとっ」

 力が抜けて倒れそうになった士郎を、刀子が抱きとめた。
 まるで恋人同士のように観えるかもしれないが、実態は看護師と要看護者のそれである。
 弛緩した人間の身体というのは、鉛のように重い。
 身体強化が可能で、それなりに身長がある刀子だから地面に倒れ伏す前に抱きとめる事ができたというだけ。
 木乃香や刹那ではこうはいかなかっただろう。

「貴方、実はロリコンだったりしますか?」
「は?」

 そんな密着状態で最初に発せられた言葉が、士郎には上手く理解できない。
 ゆっくりと士郎を地面に下ろしながら刀子は続ける。

「だってつい先程、刹那にプロポーズしていたではありませんか」
「いやいやいやいや。そんなわけないだろう」

 とてつもなく白けている、呆れを通り越して怒りさえ浮かんでいるような表情に士郎も慌てて訂正を促す。
 士郎はロリコンではない、断じて。
 ただちょっとシスコンなだけであって、姉なのに見た目妹なんていう外見が悪かっただけなのだ。
 それにセイバーと結ばれたのだってあの頃の年齢を考えれば十分セーフだし。
 まぁ、セイバーの実年齢を考えると逆の意味でアウトになりかねないのだが。

「あれー? 違ったん?」
「こ、木乃香?」
「ウチはてっきり、士郎さんが覚悟固めたんやとばかり思っとったけどなー」

 ニコニコと笑っているように見えて、その雰囲気は確実に怒っている木乃香だった。
 何に怒っているのかは、イマイチ判然としないが。
 もしも刹那関連だったら色々困った事になってしまいそうでもある。
 何せ父親は詠春だし、それ以上に祖父があの妖怪だし。

「手、見せて」
「………………」

 どうやら刹那に対してやり過ぎたとか、そういう要件ではないことに安堵する士郎だったが、しかし木乃香の慧眼には驚いていた。
 今、士郎の手は人に見せられる状況ではない。
 未だ聖骸布を手袋のように使って素肌を晒していないので刀子でさえ気付かなかったが、重度の火傷……骨までは届いていなくても、表面上は炭化している。
 詠春と戦った時も士郎は似たような状況に陥っていた。あの時よりは遥かに軽度ではあるが。

 しかし、魔力を遮断する聖骸布によって覆われている以上、士郎の怪我を察知するのは難しい。
 治癒魔法の使い手だから傷には敏感……なんてのは理由にならないのだ。
 あるとすれば肉の焦げた匂いや士郎の態度ぐらいだろうが、結局それらは纏めて勘だろう。

 天性、なのだろうなと。半ば諦めるように士郎は思う。
 才能であり、運命であり、責務なのだろうと。

「ほら、早う」

 木乃香はアーティファクトを喚び出して士郎を急かす。
 三分間の間に負った傷ならば完全に治癒するアーティファクト、「東風ノ檜扇」と「南風ノ末廣」。
 この傷を士郎が受けてからどの程度時間が経過しているか。そろそろ微妙な頃合いではある。

 しかし、アーティファクトとは便利な道具だ。特にリスクもないのだし、簡単に傷が癒せるなら利用しない手はない。
 その惨状を木乃香に見せるのは少し躊躇いがあったが、これから彼女が治癒術師として成長していこうというのなら、この程度の傷は幾度も目にする事になるだろう。
 その練習と思えば、納得できなくもない。士郎は手早く聖骸布を剥ぎ取った。

「……ほな、いくな」

 露になった傷を見て、木乃香は一瞬怯む。
 しかしすぐに気をとりなおして集中した。祝詞を歌いあげるように朗読していく。

 だが、詠唱が終わっても士郎の傷は残った。
 否、炭化した掌は殆ど治癒されたが、細かな打撲などが治癒されない。
 刹那とはそれなりに長く戦っていた。序盤についた傷なのだろうが、思ったよりも多い。
 やはり、成長はしていたのだろう。心技体、心は揃わずとも技術は向上していたようだ。

「ありがとう、助かった」
「どういたしまして。ウチも、士郎さんには世話になっとるからなー」

 朗らかで他意のない笑顔を向ける木乃香に士郎は安心する。どうやら、刹那への仕打ちを怒っているわけではないようだ。
 じろじろと。そんな二人を見詰める不躾な視線は、蚊帳の外に置かれた刀子だった。

「どうかしたかね?」
「いえ。いえいえ、いつの間に取り入ったのかなと」
「人聞きの悪い表現を使わないでくれないか。木乃香はうちの従業員の親友で、常連だというだけだ」
「それで、共犯やもんな?」
「木乃香……」

 頭が痛い、とばかりに士郎はこめかみを解きほぐす。

 実際、士郎と木乃香の関係は客観的に見てただの常連ではないだろう。
 共犯というよりは一方的な協力者。
 ただ、その行動方針は、西から見れば確かに共犯と言われても仕方のないものかもしれない。
 将来の長、少なくともその伴侶になるであろう少女に要らぬ入れ知恵をするというのは。

「お嬢様。この男の意味を、本当に理解していますか?」
「それは、士郎さんと魔法協会の確執? それとも京都との関係?」

 そういう単語がスラスラ出てくるという時点で、それなりに理解しているのだと言う事は知れる。
 刀子が籠めた意味はそれだけではなかったが、それでも。
 大筋、問題とされる事は分かっているのだろう。
 そして、分かっていながら、という事は。

 簡単に考えれば、思春期特有の恋慕から勘違いしていまったという事。
 救われた恩義でも、甘言に惑わされたでも何でもいいが、それなら矯正可能な範囲内だ。
 親、祖父、親類を裏切るような思想でも、肝心要の士郎さえどうにか出来れば話は終わる。
 けれどそれが、全く別の理由が発端となったものなら。
 その為に士郎との関係を必要としているのなら、問題は遥かに規模が大きくなる。

 麻帆良一の、そしておそらく日本一の、或いは世界一のトラブルメーカーである所の衛宮士郎の思想と、力が必要だと言うのなら。
 それがどんなに正しい事でも、きっと協会は受け入れられないだろう。
 正しければそれでいい程組織は単純なものではなく。
 そして、その事を理解していなければ、そもそも士郎などには頼らないだろうから。

「学園長が嘆きますね」
「ええんよ、いつも遊んどるんやから」

 敢えて朗らかに、木乃香は軽口で返す。けれどどこか態度が固い。
 それが演技、作った態度だと言う事ぐらい見抜けない刀子ではなかったが、この場で口にしない分別ぐらいはある。
 後で報告する事が増えた。その程度だ。

「それより士郎さん、まだキツイんとちゃう? エヴァちゃんと一緒に寝とった方がええんやない?」
「エヴァンジェリンの隣のベッドなど、ぞっとしないな……」

 寝首をかかれそうだ。
 そしてそれ以上に、目の前の木乃香が怖い士郎である。

 しかしながら、休んだ方がいいというのも事実だ。
 身体を動かさずじっとしているだけでも随分違うだろう。

「ほら、あんまり文句言わんと」

 引きずるように木乃香が士郎の腕を取り、仕方なく士郎も気力を費やし立ち上がる。
 正直に言えば、このままこの場で蹲っていてもベッドの上とそう変わらない効果は得られるだろう。
 けれど士郎も木乃香に話す事があったし、盗聴対策は室内の方が楽だ。
 と、いう理由から、士郎は大人しく木乃香に従っていたわけなのだが。

 当然、刀子もついて行こうとした。
 現在の彼女の任務は士郎の監視であり、その為には片時も目を離したくない。
 士郎と刹那の試合中に一度簡単に報告は済ませてあり、士郎の監視も少なくとも今日一日は継続される事に決まっている。
 しかしその行動は、思わぬ所からノーが出た。

「あのぉ、葛葉先生? 救護室までついて来るん?」

 遠慮して欲しい、と顔に書いてある。
 まぁ、士郎としても遠慮して欲しいのは事実だ。監視されているという事が分かっているのに気分がいいはずもない。
 とりあえず現状監視で留めておくのが方針である事は超経由で確認していたが、いつ判断が変わるかなど分からないのだから。
 休んでいる間に、即確保に動く可能性もある。
 だが、士郎自身がついて来るなと言うのも困りものだ。疑ってくださいとお願いするような行為になる。
 その点、木乃香が言い出す分には、疑惑は確証に至らない。

「衛宮士郎の監視が私の任務ですから」

 そこで、刀子は強硬手段に出た。もう士郎に目的は知られているも同然なのだから、ここで隠す意味もない。
 加えて、木乃香の発言がどんな意図を含むものであれ、士郎の立場を理解した上での麻帆良に対する消極的な敵対でないのなら説得の余地があるという考えもあった。

「ちょっと目を離すとか、駄目なんですか?」
「お嬢様の頼みと言えど。それなりに一大事なのです。せめて理由は言って頂かないと」
「……うーん、理由なぁ」

 理由、理由と口ごもりながら木乃香が唸る。
 その様を見て、士郎は何とも言えない嫌な予感がした。勘というより警報に近い。
 慌ただしい、バタバタとした日常を送っていた頃の、懐かしささえ感じるような。
 とは言え、そんなもん嬉しくも何ともないのだが。

「恥ずかしい、から?」

 可愛らしく、照れたように。少し頬を染めながら。
 こう、逢引現場をクラスメイトに見られた中学生みたいな反応で、木乃香は答えた。

 じとーっと。刀子の呆れたような目が、士郎に向けられる。
 軽蔑成分99%である。

「お嬢様の前でこんな事を言うのも何ですが……」

 更に悪い予感が募る士郎は、一応! 念のため! 木乃香の耳を塞いだ。

「ロリコンですね」
「違う」

 言っても納得はされないだろうな、と理解していながらも言わずにはいられなかった。
 大体が事実無根なのである。キッパリ、木乃香との間に何かがあったわけではない。
 木乃香のいつものからかい……というよりは、そうやって遊んでいるだけの行動なのだ。
 或いは、彼女なりに刀子に聞かれたくない話をする為に知恵を絞ったか。
 というか、そうだと信じたい士郎である。

「しかしまぁ、馬に蹴られて死にたくもありません。事が済んだら呼んで下さい」
「ちょ、待て!」

 木乃香の耳を塞いでいた手を離し、必死に呼び止めようとするも、刀子はすたすたと歩き去る。
 若干怒っているように見えるのは……気のせいだと思いたいところではあるが。
 しかし、これで更に魔法先生たちに時間を与える事になる。
 額面通り刀子が監視を止めるとも思えなかったが、それでもだ。

 そちらの方は元々予定に入れていた事でもあり、最悪の展開からはかけ離れた現状を維持している。
 超の計画にとって、士郎の行動、存在だけでも大きな意味を持つようになっているだろう。
 差し迫って問題があるわけでもなし、士郎としては監視を続けて貰った方が有意義なのだ。
 現在、衛宮士郎は動けそうもない、という情報の一点において。
 どちらかと言えば、これから直面するであろう木乃香の尋問の方が厄介に思える。

「士郎さん、諦めも肝心やよ」
「……元凶に言われると腹が立つものだな」

 言いつつ、別に怒っているわけではないのだが。
 多少は牽制しておかなければ、木乃香が調子に乗る可能性がある。
 怒っているというポーズも必要だ。今後、同じ手段を多用されては本当に困る事になりかねない。

 救護室に入ると、エヴァンジェリンの姿はなかった。
 休むと言いつつ、きっと士郎と刹那の試合は見ていたのだろう。
 その上でこの大会に興味を失って、本格的に療養する為に自宅に戻ったのかもしれない。

 士郎は遮音結界を用意してベッドに潜り込む。
 その傍らに椅子を持ってきた後、木乃香は結界の具合を確かめていた。

「音を全部通さないってわけやないんやね」
「人語だけを通さないようになっている。ちなみに、テレビの音声は通るぞ」

 魔術はその辺り曖昧というか、いい加減に出来ている。
 魔法にはない曖昧さだ。魔法は万能であり強力だが、故に完璧過ぎる。
 監視の耳を誤魔化すのなら無音ではなく雑音混じりの方がいい。

「それで木乃香。本題は?」
「うん、まぁ色々あるんやけどな」

 照れたように頬をさすりながら、木乃香の視線がふらふらと揺れる。
 視点が定まらないのは迷っているからか。相当に切り出し難い話題なのか。
 
「えーと。今から士郎さんとパクティオーします!」

 ……まぁ、問題発言はこれが初めてではなかったから、士郎はそこまで衝撃を受ける事はない。
 と、思っていたのが甘かった。
 遮音結界だけでなく、認識阻害も張っておくんだったとつくづく後悔するも、後の祭りである。




◇ ◆ ◇ ◆






 事の始まりは木乃香の愚痴だった。
 修学旅行の件について刹那の分も礼を言いに来た木乃香がそのまま居座り、修学旅行中の出来事について出来うる限り補完していく過程の事。
 修学旅行以前から刹那との関係について相談を受けていた士郎は、現在仲直りしている現状に自分が絡んでいる事に疑問は覚えなかった。
 当然のように、当然の行動を成しただけ。特に感慨もなく、ただ京都で目覚めた時の顛末を理解するだけだったのだが。
 刹那の生まれについて話が及んでから、話がおかしくなっていった。

「でな、せっちゃんは半人とかゆーて差別されてきたらしいんよ」
「そうだろうな。よくぞあれだけ真っ直ぐに成長できたものだと感心するよ」

 その、士郎としては何気ない感想に、木乃香は噛み付いた。

「なんやの、ソレ」
「ん?」
「士郎さん、せっちゃんの事知っとったん?」
「ある程度はな。詠春からも力になってくれと頼まれている。君も含めてな」
「それは、修学旅行の前から? ううん、記憶がないんやったら絶対そうや」

 木乃香の断定は正しい。
 しかし、士郎にはそれを責められる理由が分からなかった。

「それやのに……士郎さんは、何もせえへんかったん?」
「そうだが?」
「そうだがって……」

 呆れるというよりは、白けたような表情を見せる。
 それは、木乃香の表情としては士郎が初めて見るものだ。
 そしてきっとそれは良くない兆候だと士郎は判断した。

「近衛、君は何か勘違いしているようだが、桜咲の問題は桜咲自身が乗り越えなければならないものだ。
 私の助力によって得た成果は、私の喪失によって失われる可能性があるのだから」
「でも、ウチに教えてくれても良かったと違うん?」
「仮に桜咲の秘密を私が教えたとして、それを隠し通せたかね?」

 士郎は無理だと決め付ける。
 何故なら、そこで隠し通せるような人間は、この状況で怒るなんて事がないからだ。

「隠す必要なんかないやん。ウチがちゃんとせっちゃんと話しあえば……」
「大体、その時の君は魔法も何も知らなかったのだ。それで上手くいくとも思えないがね」

 実際、木乃香が魔法の存在を、刹那の秘密を知ったのは同時であり、その時点で木乃香は刹那を受け入れている。
 だが、受け入れているという事実を、刹那が素直に受け止められるかと言えば分からない。
 あの極限状況の中だからこそ、明日菜という第三者が居てくれたからこそ。
 問題は木乃香ではなく刹那にある。
 そして士郎も刹那にわざわざお前の秘密を知っている、などと言い出すのもおかしな話だ。

 結局、もっと早く知っていれば、なんていうのは結果が出た後の妄想に過ぎない。
 どんな仮定も過ぎ去ってしまった時間の前には無意味だ。
 少し冷静になったのだろう、木乃香も浮き上がった腰を再び椅子に戻した。

「まぁ、過去よりも未来に目を向けてみたらどうかね」
「未来?」
「そうだ。別に、桜咲の問題は全て解決したわけではないのだからな」

 確かに、刹那にとって最大の問題、解決したかった事柄は木乃香との関係だろう。
 刹那自身が表面上望んでいたのかはともかくとして、すくなくとも現状を見れば簡単に窺い知れる。
 けれど、それで問題が解決したと見るのは早計だ。
 半人の、これまで刹那が受けてきた仕打ちが全て解消されたわけではないのだから。

「その問題って何なん?」
「君がついさっき言っていた事だよ。差別は中々消えない。
 君も、君の周りの友人も理解はあるようだが、万人が同じであるとは思わない事だ」

 人種による差別は根深い。
 それが半人……そもそも半分は人間ではないというのは、魔法文化に慣れた者であっても受け入れ難いものだ。
 魔法世界の方では珍しくもないが、彼らは“こちら”に来れない。
 故に本国出身でもなければ、魔法使いであろうとも差別されてしまうのが現状だ。
 どちらかと言えば、簡単に受け入れる木乃香たちの方が異端であり、異常でもあるのだから。

「差別かぁ……差別はなぁ」

 木乃香が唸るのも仕方のない事だろう。
 この問題に明確な解決策があるのなら、これまでの人類の歴史はもっと平和だったはずだ。

「しかし近衛、この問題に関しては、君の行動によっては幾らか緩和する事が出来るだろうな」
「え? ホンマなん?!」
「ああ。尤も、私はそれを教えるつもりはないがね」

 それもまた、当人たちが何とかしなければならない問題だ。
 士郎がここで解答を与えるのは簡単だが、それでは成長しない。
 いつまでも士郎が面倒を見ていられるかも分からないのだし、刹那を取り巻く環境も変わる。
 臨機応変に、状況に応じて適切な答えを探していかなければならないのだから。
 考える事を止めた者に成長はない。

 木乃香がただ守られるだけではなく、刹那を支えていきたいと願うなら。
 木乃香には知らねばならない事が沢山あるのだから。

「いけずやなぁ、士郎さん」
「宿題だ。次に来るまでに考えてくるといい。君が諦めない限り、私も相談ぐらいは乗ってやるさ」
 
 と。当然のように、或いは“衛宮士郎”らしくいつもの安請け合いをして。
 翌日、盛大に後悔するのだった。





◇ ◆ ◇ ◆





 勿論、木乃香が士郎と仮契約しようというのは理由がある。
 理由があるだけに士郎としては困ってしまうのだが。

「何度も言うが、私は応じる気はないぞ」
「どうしても駄目なん?」
「どうしても、だ。大体護衛なら刹那がいるだろう」

 あれから。宿題に対し木乃香なりの答えを出し、更に刹那に纏わる問題を詠春から聞き出した木乃香の行動は凄まじかった。
 基本的に秘密裏に動いているようだが、巻き込まれる士郎はたまったものではない。

 結局、刹那への差別をなくす為の手段として木乃香が選んだのは権力を得る事だった。
 人の上に立つという事。関西呪術協会を正式に継承し、長として君臨する。
 その上で、刹那と一緒にいられる環境を木乃香自ら作っていく。
 半人に対する差別を無くすなんてのは無理だと諦めて、少なくとも刹那だけは救われるように。

 なんともまあ壮大な計画だ。
 少なくとも、詠春や近右衛門は木乃香にそんな役割は求めていない。
 近衛家の血筋さえ残してくれればいい……つまり、長となるべき人物の伴侶である事。
 それだけが周囲から望まれた役割だ。
 尤も、それを嫌って詠春は木乃香を麻帆良へ移したわけだが。

 しかしながら、権力にせよ人望にせよ、欲しいと思って得られるものではない。
 木乃香は確かに家柄的にも立場的にも有利ではあるが、それだけだ。
 体良く使われるだけの結果に終わるかもしれないし、詠春や近右衛門からは妨害を受ける可能性すらある。
 士郎自身、そんな選択が必ずしも幸せに至るわけではないと考えている事もあり、協力も消極的だ。

 が、何気に木乃香は押しが強い。
 詠春や近右衛門に対する切り札として、単なる戦力増強、刹那の負担軽減など。
 なまじ士郎が様々な方面で力になるせいで、木乃香は理由など幾らでも付ける事が出来た。

 実際、いつの間にか“本当の理由”よりも現実的なメリットの方が目に付くようになっていた。
 護衛として、肉弾戦の実力は言うに及ばず、武力を用いない戦いにも精通している。
 確かに衛宮士郎という人物は問題も多く火種に成り得る人材だが、その分だけ能力も高く信頼できる。
 少なくとも、今現在において士郎が利益など考えずに協力してくれているのを木乃香は感じていた。

 信頼は重要だ。
 信じるということは背負う事。信じた末に生じる結果の全てを。
 そして信じてもらうのは大変で、本来長い時間を必要とするものだ。
 まぁ、木乃香は短い付き合いの士郎を信じているのだから、時間は関係ないのかもしれないが。

 ともあれ。
 仮契約をしよう、というのはつまりヘッドハンティングであり、部下になって下さいという事だ。
 姫と騎士、パートナーという本来あるべきカタチで。
 刹那が役者不足というわけではなく、刹那ともまた別に木乃香は仮契約を結ぶつもりでいた。

 元々の予定としては、こんなに急に迫るつもりではなかったのだが、状況は変わっている。
 つまり。士郎が、もうすぐ麻帆良を去ってしまうということ。
 そして刹那もまた、士郎を必要としない、と。その選択を下してしまった事。

「それでも。ウチには……ううん、ウチらには士郎さんが必要や」
「刹那は剣を選んだ。私の守りは必要ないさ。君も刹那が守るだろう。
 それに、君の従者になってしまったら、約束が違う。中途半端では成るものも成らない」

 その困難な道のりを選んだのは刹那であり、刹那の意思を尊重したのは木乃香だ。
 そもそも刹那と士郎の試合における士郎の行動は、木乃香との共謀だ。
 まぁ、方針として刹那に木乃香の護衛以外の道もあるのだと示唆する、というだけの話だったのだが。
 木乃香としては、士郎のアレンジが気に食わない。
 話の規模が大きくなり、もう引き返せないところまで行きついてしまったからだ。

 木乃香はいい。元より、ここ一ヶ月程士郎の元で色々と学び、覚悟は出来ている。
 けれどそれを、刹那にまで押し付けるなんて……というのが気に入らない。
 自分はいいけど刹那は駄目だと。まぁ、情に厚いという事なのだろうが。

「もうっ。何が不満なん?」
「何もかもだ。大体、そんな風に軽々しく結ぶものではないぞ」
「でも、ウチは士郎さんとならキスしてもえーよ?」
「ぶっ」

 心臓に悪い。士郎は心底そう思った。
 
 まぁ、士郎としてもメリットがないわけではない。
 守る、助けるというのは、仮契約などしなくとも手が届く限りにおいて変わらない。
 その対価として得る魔力は最高だ。
 関東、いやおそらく極東一の魔力。固有結界の維持も可能になるだろう。
 十分に旨みはあるし、相手が女子中学生でなければ素直に頷いていたかもしれない。

 が、しかし木乃香は最近大人びてきていたとしても女子中学生である。
 どんなに覚悟があろうとも子供である事に変わりはない。
 それは、単に子供とキスなんて出来ないという話ではなく。
 子供とは、そのような対価などなしに守るべき存在だからだ。
 覚悟があろうと、戦う力があろうと、例え士郎より強かったとしても。
 それを違えてしまっては、衛宮士郎でさえなくなってしまう。

 夢破れて、中途半端に燻り続けて、それでも残っている僅かなモノ。
 それは誇りでも何でもなく生き方だ。今更、それ以外を選ぶ事なんて出来ない。
 何より、もうその選び方さえ忘れてしまった。

「むー、頑固やなぁ。寝込みを襲うのは……やっぱりアカンと思うし」
「おいおい」

 やりかねないと思えてしまうのが怖かった。
 お嬢様というよりお姫様なのだから、もう少し慎みを持ってもらいたい。

「大体、何故突然そんな話になったんだ。君の奇抜な発想には慣れてきたつもりだったが、今回は極めつけだぞ」
「だって……」

 しゅんと俯く姿は、確かに可愛らしいものではあるのだが。
 士郎はまた爆弾発言が投下される予感に身構える。

「士郎さん、麻帆良を出て行くんよね」

 何故、それを。
 そんな言葉さえ出てこない、それは核心だった。

 少しばかり浮ついていた心が急速に冷え固まっていく。
 戦いの最中のように、空気が重くなった。
 しかし木乃香は意に介さず続ける。

「あー、勘やから気にせんでもええよ。別に誰かに漏れとるとか、そんな事はないと思う。
 せっちゃんも全然気づいてへんみたいやし」

 状況証拠からの推察だ。半ば以上勘のようなものだったが、木乃香は確信を抱いている。
 木乃香の魔法資質を考えれば、勘というのもあながち馬鹿にはできない。
 無意識に占いでもしたのか……いや、そもそも木乃香は占い研究会の部長だ。
 元々、そういう資質もあったのかもしれない。

「だからかな。何となく、焦ってもうたんよ」

 このままでは、士郎は去っていく。
 いて欲しいという感情ではなく、木乃香にとって士郎の能力は必要不可欠だった。
 木乃香の思い描く未来には、士郎がいなくては辿り着けない。
 少なくとも、今の木乃香に力はなく、使える力は自分と刹那のみ。
 そしてその力は、どちらも権力闘争にせよ何にせよ、木乃香の願いを叶えるには不向きな力だった。

 勿論、協力を頼めば明日菜やネギも力を貸してくれるだろう。
 けれど彼らには彼らの人生があり、目的がある。
 いつまでも頼り切るわけにはいかない。
 士郎ならばいいというわけではないのだろうが、その辺りは木乃香の考えから抜け落ちていた。
 無条件に信頼し、裏切りさえ許容する信用があるのなら、それもまた許されるのかもしれないが。
 
 明確な繋がりが必要だと思っての行動だ。
 喫茶店のマスターとその常連客ではなく、先生と生徒でもなく。
 師匠や弟子と言い合える関係でもないから。
 単なる協力者であり共犯という関係から進んで、もっと解り易い名前のついた関係が。

 或いは、士郎が刹那に押し付けた選択が、あんなにハッキリとしたものでなければ良かったのかもしれない。
 零か一かという選択ではなく、もっと曖昧なものだったのなら。
 刹那が、剣を選ばず幸せを望んでくれたのなら。
 こんなに急ぐ必要なんて無かった。

 去ったのなら追いかければいいだけで、今生の別れになるはずもない。
 何か理由があるのなら、その理由を解消すればいいだけの事。
 全く、本末転倒ではあるけれど、もう木乃香は士郎なしで上手くいくヴィジョンが浮かばないのだから仕方ない。

「確かに私はこれから麻帆良を去る事になるだろう。指名手配もされる事になる。犯罪者だ。
 君への協力も、難しくなるだろうな」
「黙って行くつもりやったん?」
「ああ」

 嘘をついてくれた方が嬉しい事もあるのだと、木乃香は学びたくもない事を学ぶ。
 まぁ、そういう人であるというのは……最近になって分かってきたところではあった。

「士郎さん、協力してくれるって約束してくれた」
「出来うる限り、な」
「じゃあ、せっちゃんが剣やなくて、幸せを選んどったら……それでも、士郎さんは黙って行ったん!?」
「いいや。その時は、私の目的を捨てていただけだ。そもそも麻帆良を出て行く事もないだろう」

 渇いたような、呆れたような笑みを木乃香は見せた。仏頂面の士郎の代わりに。
 怖い。そう思う。

 士郎の目的は犯罪者になってでも成し遂げたいもので。
 けれど、知り合ってそう時間が経ったわけでもない、面倒な事情を抱えているだけの二人の為に、全てを捨てるという。
 無私というより、滅私だ。

 そんな人間が守ると言ってくれるのは、嬉しいというよりきっと怖い。
 刹那がどう感じていても、それは木乃香には共感できない部分だ。
 自分、自分たちの為に捨てさせた願いの重さに、果たして耐えられるのか。
 それが、怖い。
 単に、人の命を背負うのとは違う。その時付き纏うのは、責任ではなく枷だ。
 士郎本人は何も気にしていないから、その分気にするのは木乃香たちで。

 理性では、それでも士郎には麻帆良に残ってもらいたいと思っている。
 けれど感覚が、感情が、第六感が、閃きが。
 まだ早いと告げていた。

 別に、命の危険があるわけじゃない。
 問題が現実味を帯びて表面化するのは、きっと木乃香たちが学校を卒業してからだろう。
 その頃から動き出しても遅いのは事実で、士郎の助力が必要なのも確かだけど。

 でも、それは我儘だ。
 自分たち以上に辛くて、苦しくて、どうにもならない人の為に、士郎が動くなら。
 それを止める権利なんてないし、止めていいとも思わない。
 そして、滅私の極地であるところの士郎が、もしも自分の願いの為に行動するのなら、それこそ喜ばなければならない。

 だから、いつかきっと帰ってきてくれると信じて。
 どうしても必要になったら、こちらから探しに行くぐらいのつもりで。
 笑って、密かに見送ろうと、木乃香は決心した。

「ほなら……仕方ない、かな」

 しかし、士郎の方はそんな心の動きなど分からない。
 怒られるのなら分かるが、そこで諦められるというのは。
 実際は、諦めたというよりは、受け入れたという方が正しい。
 士郎に理解できないというのは変わりはないけれど。

「よし!」

 木乃香は気合いを入れて立ち上がる。
 そして何故か、杖を取り出した。

「おい……」

 杖。魔法使いにとっては銃みたいなものだ。武器であり命綱であり身体の一部みたいなものである。
 そんなものを取り出して、一体何をしようと言うのか。
 治療ならもう済んでいる。まさか、面倒になって実力行使、というわけでもないだろうが。

 大体幾ら弱っているとは言え、魔法初心者の木乃香の攻撃なんて大した事はない。
 対魔力でどうとでもなる。聖骸布がなくてもだ。

「プラクテ・ビギ・ナル……」

 木乃香が唱えだしたのは眠りの魔法だ。
 それ程強いものではなく、一般人に使っても一時間程度しか眠らせる事は出来ないだろう。
 一応、士郎は魔術回路を起動させておく。

「あれ? 失敗?」
「来ると分かってる魔法を防げないはずがないだろう」

 それに、初心者であるし。魔力に任せて出力だけ上げる、という荒業も使えない。
 治癒魔法はどちらかと言えば繊細な魔力のコントロールが必要な分野なので、力任せは木乃香の得意とするところではないのだ。

「うーん、ほな仕方ないなぁ」

 木乃香はピシッと背筋を伸ばすと、表情を引き締めて士郎を覗き込む。
 何故士郎を眠らせようとしたのかは分からないが、木乃香の表情はただただ真剣だった。
 自然、士郎も身構えた。

「士郎さん。今までありがとうございました。京都での事、相談に乗ってくれた事、一生忘れません」
「…………いや、こちらこそ最後まで付き合えなくて済まなかった」

 それは、別れの言葉だ。いや、ケジメかもしれない。
 これから先、一人で戦っていくという。その、再確認。
 そして。

「でも、さよならは言わへんよ。麻帆良には帰って来てくれへんかもしれんけど……また、ウチらを助けに来てくれるて信じとるから」

 言って、深々と頭を下げた。
 それは約束ではなく信頼だった。
 士郎はいつか絶対帰ってくる。見捨てないし裏切らない、もしもそうなった時は……木乃香たちに非があるのだと。
 そんな、聖人のような人なのだと、信頼している。

 そんな信頼に、士郎もどう返していいか分からない。
 可能な限り、助力を与えたいとは思う。しかし思うだけでは意味が無い。
 士郎の助力が害にしかならない状況も考えられる。無責任な事は、言えなかった。

 押し黙る士郎に、木乃香は頭を下げた動作を延長させる感覚で覆いかぶさった。
 電光石火、と言えたかもしれない。
 虚をついたとは言え、殺気がなかったとは言え、油断していたとは言え。
 その唇は、事実触れていたのだから。

「えへへ。次は、せっちゃんとしてあげてな」

 それでも、彼女にしては珍しく頬を染めて視線を逸らしながら。

「次会えるんを楽しみにしとるよ」

 それだけ言って、木乃香は一目散に逃げ出した。
 









高音「ズルイですよ! 何ですかこの愛人ポジは! 理解があり過ぎます!」
木乃香「えー? 素直は美徳なんやって。この本に書いてあるえ」
高音「桜咲刹那、貴方も何か言ったらどうなんです! 貴方の主でしょう」
刹那「え? 棚から牡丹餅?」
高音「喧嘩売ってやがりますかこの二人はぁ!」

刀子「……このロリコン」
士郎「違う、違うんだ。信じてくれ」(拍手)
 
関連記事

後書き

木乃香のターンです。正直納得は出来てないけど、今はこれ以上は無理っぽい。
ところで木乃香がもう完全にヒロインに見えるかもしれませんが、立ち位置的には高音に対する愛衣と同じようなものです。
また来年辺り人気投票をやったとして、その順位次第では分かりませんが。

この話は、本来没になる……というよりは、後々回想で使おうと思っていたシーンでした。
もっと簡潔に、事実だけを述べるみたいな感じで。
だから、人気投票がなかったらお蔵入りになってましたね。
木乃香は他にも3つぐらい番外編の書きかけがありますが、それも拍手か何かで公開したいものです。
昨夜さんたち木乃香に投票してくれた人たちの為にも。
まぁ、トップのSSが先になりますが。

2010.10.03 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

この話の木乃香は大人の女のようにエライ打算的ですな。

2010.12.19 | URL | neeo #qE.xeqmQ [ 編集 ]

Re: nanoさん

もう少ししたら子供っぽい部分も出てくるかも。
無理に取り繕った強さなんていつかはメッキが剥がれるものですから。

2010.12.20 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


管理者にだけ表示を許可する
« | ホーム |  »
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。