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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第68話


「二回戦(3) 運命決定証文:サイン」




 少し、昔の話をしよう。
 まだその少女が、桜咲刹那という名前を持っていなかった頃の話だ。


 刹那が物心ついた時、彼女は烏族の里に居た。
 最初からそうだったのか、それとも生まれてから里に移されたのか、それは彼女も知らない。
 その頃の事は、既にほとんど忘れて、思い出したいとも思っていなかったから真実は闇の中だった。

「またあの忌子か……」

 人の言葉を解し始める程度には成長した刹那は、ようやく自分が疎まれているのだと言う事に気付き始めていた。
 他の子供には、皆名前があった。
 けれど自分にはないという事に、ようやく気づいたのだ。

 彼女は専ら「忌子」やら「禁忌」、或いは「雑種」などと呼ばれていた。
 当時はその言葉の意味も分からないまま、ただ自分が他とは違うという事だけしか分かっていなかったのだ。
 そんな中で、どうして刹那は生き長らえていたのか。
 それは、刹那自身もよく分からない。

 後から振り返ってみれば……何かしら、両親の働きかけか何かあったのかもしれないと思う。
 いや、そうであって欲しいと思っていたのかもしれない。
 刹那は両親の事など覚えていなかったし、母親が人間か烏族か、父親はどうだったのか、それさえも知らなかった。

 ただ、一度だけ近くに居た大人に聞いてみた事がある。
 何故自分には、名前がないのかと。

「それは、お前の翼が白いからだ」

 その返答が、刹那の脳裏に刻まれた。或いは、その人が父親だったのかもしれない。
 白いのがいけないんだと、自分の背中を見て理解してしまった。
 だってその背中にある翼は、皆とあまりにも違っていたから。
 ああ、違うのがいけないんだと。そう、直感的に理解する。

 だからそれ以降の刹那は、とにかく誰かと同じであろうとしていた。
 子供が大人を真似るように、近くに居る誰かを真似ていった。
 しかしその行動もまた、大人たちの反感を買う事になる。

「あの人間混じりが……」
「やはり最初に殺しておいた方が……」
「力が強すぎるぞ。やはり白い翼は……」

 聞こえてきた声に、これでもダメなのだと理解して、やがて刹那は何もしなくなる。
 何をしても怒られて、何もしなければ無視された。
 でも、無視されている方がいくらかマシだった。
 だって、少なくとも痛くはない。痛いのは嫌だったから、刹那は呆っと一日を過ごしていく。

 でも、やがてはそれさえ疎まれるようになった。
 誰が生かしてやっていると思っているんだ。食べた分は働けと。
 烏族は子供である期間が短いから、まだ一人だけ身体が小さかった刹那も特別扱いなどされなかった。
 いや、逆の意味では特別扱いされていたのかもしれない。
 普通の子供よりも苦しいという意味では。

 そして、決定的な日がやってくる。
 本当に馬鹿らしいとさえ思うのだが、多分その時が初めてだったのだ。
 少なくとも、彼女がその言葉の意味を理解できるようになってからは、初めてだった。

「お前なんていなければいいのに」

 そう言われる事が。
 何をするなと。何をしろと。忌子だ禁忌だ雑種だと、難しい言葉で様々な罵詈雑言があった中で。
 そんな、感情から出た言葉は初めてだった。
 誰も彼も刹那には関わらないようにしていたから。

 そして刹那は、ああ、居なくなって欲しいのかと。
 そんな簡単な事だったのかと頷いて。
 人知れず里から姿を消した。

 そうすればもう怒られなくて、もう叩かれなくて、もう泣かなくていいんだって。
 無感動に、一人で生きていく事の意味など知らず、逃げ出した。
 ただ、その結果は幸運だったとしか言い様がない。
 飛び疲れて歩き疲れて、何も食べていない事に気づいて動けなくなって。
 蹲った彼女を見つけたのは、近衛詠春だったのだから。

 それからの変化は劇的だった。
 まず名前が与えられた。桜咲刹那。意味など分からなかったが、これで自分も皆と一緒なのだと、刹那は純粋に喜んだ記憶がある。
 そして、里に居た頃とは比べものにならないぐらい美味しいご飯を食べる事が出来た。
 それだけで、刹那には十分だった。

 生活していく中で、刹那は色んな事を覚えていく。読み書きや一般常識、礼儀作法。
 その教え方は厳しいもので、普通ならそれだけでも十分トラウマになりかねないものだったが、刹那は幸せだった。

 ただ、知る事で刹那は幸せを自覚するようになった。
 今が幸せで、前いた所は地獄だったのだと。地獄に生まれた刹那は地獄しか知らなかった。
 そして今知ってしまった幸福の味は喩えようもなく甘くて、とても手放せるものではない。
 だから当時の刹那は、とにかく怒られないように、もう見捨てられないようにビクビクとしていた。

 やがて、刹那は詠春の娘、木乃香と引き合わされる。
 初めての、自分と同じぐらいの大きさの“子供”だった。
 その頃にはもう、刹那も普通の子供と同じぐらいに学習も進んでいて、木乃香とも普通に遊ぶ事が出来た。
 或いは、文字通りの箱入り娘だった木乃香だからこそ、なのかもしれないが。

 ともあれ。二人が友達になるのに、然程の時間は必要なかった。
 このちゃん、せっちゃんと呼び合う二人は微笑ましいもので、詠春も何ら心配などしていなかったのだ。

 そして、転機が訪れる。
 木乃香が川に流されて、刹那は助ける事ができなかった。
 力があるはずなのに。これでは、白い翼の意味がないではないか、と。

 この頃にはもう、刹那は自分の翼の意味を正確に理解していた。
 白き翼は災厄の種として忌み嫌われている事。
 それが、過去実際にあった災厄に基づいた事実である事などをだ。

 実際、白い翼に限らず、烏族の中で黒以外の翼を持つ者は総じて力が強いとされている。
 特に赤い翼は神格性を有し、一族を束ねる者とされる程に色濃い英雄譚が残っているらしい。
 たまたま、白い翼に残っていた伝承は災厄を示すものだった。
 それだけで、それが全てだった。

 白い翼を持って生まれてしまった事は、もうどうしようもない。
 その代わりに力があるのなら、それでいいかとも思えるようになっていた。
 その時までは。木乃香を助けられなかった刹那は、力さえ無い事に愕然とし、力を求めるようになる。

 幸いにも、刹那を育ててくれていたのは近衛家で、神鳴流だ。
 入門は容易く、末席でこそあるものの厳しさの中にも思いやりがあり、力を得る環境としては申し分なかった。
 刹那は剣の稽古に明け暮れた。
 力さえあれば、木乃香を守れる。あんな悔しい思いをしなくてもいい。

 それに何より。この白い翼にも、意味を見いだせる。
 辛く苦しい幼少期の代わりに力があるのなら。その力で、木乃香を守れるのなら。
 この生まれも悪くはないと。刹那はそう思うようになっていた。

 修行して、修行して、数年の月日が過ぎ、肉体的にも成長してきた頃。
 既に木乃香は麻帆良に引越しており、寂しい思いもしていたが、それも木乃香の為と思えば苦にはならなかった。
 いつか近衛家に仕えて、木乃香を守れるように。
 恩を返せる日まで。その時までの我慢だと、自分に言い聞かせて頑張っていた。

 なのに。

「それは、どういう事ですか師範代!」
「……神鳴流は魔を討つ剣や。やのに、半魔が宮仕えなんて許されん……ちゅうのが、まぁ上の考えってことや」
「そんな……」
「それに、神鳴流の慣習としても血が濃すぎる者はあくまで外様。役に付けるのは忌諱する傾向にあるさかいな……」

 刹那の生まれが、またその夢を阻害した。
 刹那は確かに神鳴流の弟子たちの中でも末席で、数年の修行の後もその事実は変わらなかった。
 それは刹那が未熟だからだと思っていたが、違ったのだ。
 刹那は半人だから。半妖だから。
 烏族の混じりもので、化物だから。化物を退治する神鳴流にあって、上位に位置する事は出来ない。

 或いは師範代、師範クラスの実力を持てば、そのような差別さえ跳ね除ける事ができるかもしれない。
 それでもダメなら歴代最強だ。とにかく力さえあるならば、実力主義である神鳴流において、生まれや血の差など些細なモノになるだろう。
 だが、宗家にしか伝わらぬ秘伝がある以上、それも難しい。
 最低限、教わらずに秘伝を体得する必要がある。それぐらいの明確な力がなければ特別な便宜など有り得ないだろう。

 尤も、刹那は知らない事だが、それは矛盾した論理でもあった。
 神鳴流の宗家にも僅かではあるが魔の血が入っている。
 魔を以て魔を討つ。それは禁忌だ。同族殺しとも言える。
 だからこそその事実はタブーとされ、刹那のような半人は冷遇されるようになったのだ。

 そして行き過ぎた実力主義もその結果だ。
 魔を用いない力が重要視された時代があり、それが今でも根づいている。
 今では魔に関する事は慣習でしかなく、力で覆せるモノになっている事は刹那の唯一の希望ではあった。
 だが。それでも、スタートラインはあまりに違う。
 努力したところで結果に結びつくとは限らない。
 才能があったとしても、開花するとは限らない。
 ましてや宗家の秘伝が習わずに、己で編み出すように使えたならば、それは創始と同格という事になる奇跡だ。
 有り得ないと断じられても仕方がない。

「またっ、またこの白がっ!」

 刹那は誰にも見つからないような森の奥で、自分の羽根を毟っていた。
 怨敵を前にしたような形相で、涙を流しながら。
 痛みを忘れて、力の限り“白”を消そうとする。
 やがて白い羽根は自分の血に染まり、僅かに赤くなっていった。
 
「ウチの羽根が……せめて赤やったら良かったのに」

 それなら、もうちょっとマシだったかもしれない。
 赤い翼は神の使いであり、英雄の証。詠春も参加していた、紅き翼の由来にもなっている。
 それなら烏族の里から逃げ出す事もなかっただろう。
 その時は木乃香とも出会えなかったわけだが、それでも願わずにはいられなかった。

 この翼が。白くなければ良かったのに。
 自分が、化物ではなく人間だったら良かったのに。


 そして数カ月後、詠春に頼み込んだ刹那は麻帆良へ転入する事になる。
 木乃香の護衛という大任をもぎ取り、申し訳なさそうな詠春を背に。
 代わりに、刹那は居場所を失った。
 家族のように育ててくれた神鳴流から裏切り者と蔑まれる道を。それしかもう、彼女の夢を叶える方法はなかったから。
 また刹那は失って、唯一残った絆だけを頼りに、麻帆良で生きる。
 もう二度と大切なモノを、この白い翼のせいで失いたくないと願いながら。





◇ ◆ ◇ ◆









「私、私は――――それでも。剣を選びます」

 剣か、幸福か。
 剣を捨て幸福を求めるというのなら、刹那と刹那の守りたいもの全て守るという申し出に対して、刹那はそう答えた。

 これは、ある意味で木乃香か士郎かという二択でもある。
 少なくとも刹那はそうだと思った。
 ここで剣を捨てると選択すれば、きっと士郎はずっと一緒に居てくれるのだろう。
 麻帆良から去ることもなく。ずっと守ってくれるのだ。

 それは刹那にとって耐え難い誘惑だった。どうしようもない程に、かつて願う事さえ苦しかった程の幸福だ。
 そしてそれが目の前にある。幸せが、手を伸ばして差し伸べられている。
 その状況に言葉は詰まり、自分なんかが本当にその手を取ってもいいのか、そんな悩みさえ抱いてしまう程だ。

 だが、その幸福の代わりに木乃香との関係は変わるだろう。
 友達としての関係は続くかもしれない。望めば、主従の関係も続くだろう。
 しかしそれが、今まで通りのものであるかどうか。その確信が、刹那には抱けなかった。

 大丈夫だと思う。理性では、木乃香を信用しているのだ。
 混血の、化物の自分を知っても拒否しなかった木乃香なのだから、今更剣を捨てたぐらいで友情が消える事はないと思う。
 だが、それでも一抹の不安は残っていた。それはどうしようもない心情だ。
 詠春に拾われるまでの刹那の生活を考えれば、そして麻帆良に来る事になった経緯を考えれば、それは仕方ない。
 癒せるのは時間しかないだろう。
 でも、信じている。不安が残っていても、信じてはいるのだ。

 それに対して士郎は。
 化物であるという事は知っているかもしれない。白い翼の意味も、調べればすぐに分かるだろう。
 けれど、その“姿”を見たわけじゃない。見られたわけではないのだ。
 意味を知って口だけで約束をすることは簡単だ。士郎なら、行動も伴なう事は信じられる。
 でも。刹那の本当を、化物の翼を見た時に、果たしてその考えは、感覚は変わらないだろうか。

 表面上何でもない風を装って、けれどその実嫌悪感を抱かれていたら。
 刹那は耐えられない。士郎がどんなに上手く隠しても、きっと刹那は見ぬいてしまう。
 それは心の問題で、意思だけではどうにもならない事だ。
 どんなにいい人であっても、その事実をどう感じるのか……それだけは、無条件に信じられるものではなかった。

「そうか」
 
 士郎も刹那の選択を尊重する。
 刹那の判断の基準が何であれ、その選択の理由がどんなものだったとしても。
 その苦しさを理解した上で尚選べるのならば本物だろう。

 刹那だって揺れていた。
 誰も守ってくれなかった中で、初めて守ると言ってくれた相手だ。
 それも、刹那よりずっと強くて、実際に刹那のために命をかけて木乃香救出に協力してくれた事実もある。
 
 もっと打算的な事を言えば、そう言ってくれるだけで十分だと言う理由もあった。
 守ると言ってくれるなら、例え刹那が剣を選んだとしても、嫌われる事はないだろうと。
 そこにある思いは信じられるし、神鳴流のように自分を見捨てる事はないだろうという、打算だ。
 刹那が何か、決定的に間違えてしまわない限りは。その翼を見られない限り。
 この人なら大丈夫だと、刹那は信じていた。それこそ、木乃香と同じくらいには。

 ただ、それでも剣を選んだ理由は、やはりどうしても剣は自分にとって全てだと言う感覚が拭えなかったからだろう。
 守られるのは心地がいいだろうし、木乃香のように、お姫様のように扱われるのは恥ずかしいが、嫌ではない。

 でも、剣は。力は、白い翼の存在意義だった。
 力を失ってしまったら、その力に意味がなくなるのなら、白い翼は刹那にとって負の存在でしかなくなる。
 こんなモノなければ良かったと、こんなモノがあるぐらいなら――。
 自分が生まれてきた事さえ否定してしまいかねない。

 だから、捨てられない。そう簡単には、その喪失なんて認められない。
 木乃香を守りたいという以上に、力を、白い翼の意味を失ってしまう事に耐えられなかった。
 ただ木乃香の安全を優先させたいというのなら、いっそ士郎に任せてしまった方がいいのかもしれないとさえ思う。
 少なくとも現時点において、士郎の方がずっと強く、場慣れもしている。
 未熟な見習い剣士である刹那とは雲泥の差であると言えよう。

 今更、士郎に自分の居場所が取られてしまうかもしれないなんて見当違いな恐怖は抱いていない。
 士郎が刹那をも守るというのなら、そこには木乃香と一緒に守られるという居場所が存在するからだ。
 例え木乃香に嫌われてしまったとしても、士郎が肯定してくれるのならば耐えられるかもしれない。
 だが、それでは依存の対象が変わるだけ。士郎を失えば零に戻ってしまう、対症療法に過ぎない。

「守ると言ってくれた事は嬉しいです。でも、守られた結果に、もしも貴方の犠牲があったなら……私はきっと、自分を許せない」

 目を伏せて、刹那はその理由を語る。
 当然といえば当然だ。そもそも、修学旅行において士郎は記憶を失っている。
 或いは、敵の思惑によっては士郎の命はその時失われていたかもしれない。
 それだけの窮地に追い込まれ、そしてそれは木乃香の、刹那のためなのだ。
 刹那が木乃香を守って欲しいと依頼して、だから彼は動いた。
 報酬など意味がなく、特に彼には理由なんてなかったのに。それでも命をかけていた。
 これから先、木乃香を護衛していく上でどのような危機があるかは分からないが、また似たような事が起こる可能性はある。

 その時。刹那も木乃香も守られて、でもその為に士郎が犠牲になってしまったら。
 絶対に、刹那は後悔するだろう。
 あの時剣を求めていれば。自分という力が、白い翼があれば、或いは士郎も死ななくて済んだかもしれない。
 そんな可能性に、きっと縋りつく。

 与えられるモノは、与えてくれる人の喪失と共に失われてしまうのだ。
 だから、自分で勝ち取らなくちゃいけない。
 幸福は、与えられるものではなく自分の努力で勝ちとるものだと思うから。

 だから、刹那は剣を執る。
 木乃香を守るために。誰かを守るために。そして、自分を取り巻く世界、今ここにある微かな幸せを守るために。
 そして。自分を守ってくれるかもしれない、彼を守るために。

 神鳴流は魔を討つ剣だ。
 ならば刹那は、幸せを守れる剣になろうと思う。
 誰よりも強くなって。何もかもを守れる剣になろうと。
 そんな、いつか士郎が夢見た正義の味方を。今ここで、刹那は志した。

「ならば刹那、私がお前たちを守るよりも、お前が自分たちを守る方が遥かに安全だと示して見せろ。
 犠牲が許せないのなら強くなれ。お前の翼は、きっとその高みまで届くものだろう」
「……そうでしょうか」

 自信はない。けれど、選択に後悔はなかった。
 でも、もう少し自信を持ってもいいのかもしれない。桜咲刹那は、衛宮士郎よりも強くなれると。
 だって、士郎は刹那に選択の余地を残している。
 刹那では無理だと、見込みなどないと考えたのなら、きっと士郎は問答無用で剣を取り上げただろう。
 木乃香の護衛という役から外すのは詠春の力添えがあれば可能だし、麻帆良での立場にしたって、士郎が積極的に骨を折れば不可能な話ではないはずだ。

 それでも、選択の余地を残してくれていたのは。
 この試合で、士郎に勝てるようならば、可能性があるということなのだろう。
 だから刹那は、もし負けたのなら大人しく剣を捨てる覚悟を決める。士郎が守ってくれないとしても、だ。
 そして勝てたのならば、その高みまで登って行く覚悟を決めた。

「ああそうだ。だから、己の意思は剣で語れ。その選択で、道を切り開いて見せろ」
「……ハイッ!」

 二人は構え合う。
 ここに至って、士郎も隙を出して誘いこむような戦い方は選択しなかった。
 隙などない。どこに打ち込んでも、刹那では致命打を与えられないだろう。

 ならば。隙が出るまで打ち込むだけである。

「極大、」
「投影開始」

 刹那のデッキブラシから紫電が迸る。
 その技の予兆を見て取った士郎は、かつて詠春の技を防いだ時のように聖骸布を投影した。
 アイアスでは斬撃に対して向かないし、必要以上に魔力を消費してしまうからだ。

「雷鳴剣!」

 雷が舞台を焼いた。貫いた、という表現が正しいかもしれない。
 それそのものの威力もさることながら、爆風と粉塵、閃光が観客たちを襲った。
 そして当然、その渦中にある二人も。

「まだまだ!」

 連撃。一刀として迷いなく、極力絶え間ない攻撃が続くよう、刹那は神鳴流の技を選択する。
 だがそれらを、士郎は尽く防いでいく。
 逸らし、避けて、或いは技後硬直の一瞬の隙を見ぬいて連携を止める。

 だがそれでも刹那の連撃は続いた。
 攻撃は最大の防御である、という以上に。
 今は、この想いを剣で語りたかった。
 自分が剣を選んだ意味と。この翼の意味を知りながら、尚こうして真摯に向き合ってくれる事への感謝。
 それは士郎に伝わっているのか分からない、一方的なものではあったけれど。
 それでも刹那には、それしか方法がなかったのだ。

「斬岩剣!」

 スパッと、士郎の双剣を一薙ぎで両断する。
 その切断面を見れば、表面上は木材であるのに中に鉄心が入っている。
 それを刹那は士郎らしいと思いながら、足を止めずに突撃した。

「真――雷光剣!」

 大きな光球が士郎を飲み込み、観客の目を焼いた。

 それを、確かに士郎は白刃取りで止めていた。聖骸布がなければ炭化してしまったであろう攻撃だ。
 けれど止めたのは事実。止めた時点で聖骸布が消滅してしまっていても、その攻撃でのダメージは致命的ではない。
 けれど。

「私の勝ちです」

 粉塵が晴れた後、現れたのは膝をつく士郎とその首に気で形成した刃を添える刹那の姿だった。

 刹那は、白刃取りされたと認識した瞬間、それを当然の事だとして即座に得物を手放した。
 硬直状態を避け、瞬動で裏に回ったのである。
 そして当然のように首を狙ったが、その前に士郎が膝をついた。
 負けを認めたのか、或いは既に限界だったのか。
 己の使える技、その全てを出し切っていた刹那もまた限界であったから、膝をつきそうなのはお互い様ではあったのだけれど。

 しかし、事実は事実。
 刹那よりも先に、士郎が諦めた。
 その願いを認めて。これなら守れると誇って。その力を許した。
 この試合は、それだけの事で、それが全てだったのだ。

「ああ……そして、私の敗北だな」














 刹那にはその時士郎がどんな表情をしていたのか、最後まで知る事はなかった。
 ただ木乃香だけが、その時の表情をずっと覚えている。
 誰にも話す事はなかったけれど。ずっとずっと、忘れる事はなかった。

 その、幸せそうな、もう安心だとそのまま逝ってしまいそうな表情を。
 怖いと、そう思ってしまった事。
 それを、彼女は死ぬまで忘れなかった。

(拍手)
 
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後書き

剣と幸福、そのどちらも諦めないという第三の選択肢は、結局選択することを放棄したとしか思えないのです。
どちらも選ぶ、という選択の末、どちらも等分に選び続ける事はできない。臨機応変というのは便利な言葉で、必ずその瞬間に傾きはある。
剣か幸福か。バランスを常に一定に保つなんて不可能だし、それでは意味が無い。
結局迷ってしまうのですから。今はどちらに力を注ぐべきか、中途半端な選択は容易く流される。
その結果が魔法世界での迷いだと思っています。
原作でエヴァに見せた決意は本物だったのかもしれませんが、しかしそれがたった数カ月で色褪せるモノなら意味が無い。

その辺り、私が私なりに考えた結果が今回のお話、刹那の重要イベントです。
これにて刹那の運命は決定されました。選んだ先に何があろうとも、それは自身の選択の結果。
それがどんなに認められなくても、受け止めなければ先には進めない。
本当に両方諦めないというのは、走馬灯の中で結果を確認するものだと思うので。

2010.09.25 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

木乃香だけが見たシロウの表情。
木乃香もこれから、シロウ関係でキーキャラになっていくのかな?
そして、刹那はシロウに成長した自分を見せることができてよかったです。
それにしても優勝するのは誰になるのか全く予想できないw
ここまで試合内容が変化してるとクウネルが順当に優勝ってことはないでしょうし、いったいどうなる事やら、楽しみです。

2010.09.25 | URL | dai #AGIZr..w [ 編集 ]

Re: daiさん

刹那が士郎に関わるキーキャラクターになる以上、木乃香は刹那に関わるわけで、間接的には士郎とも関わらざるを得ないんですが……実際にどういう関わりがあるかは次回。本当は今回出すつもりだったけどさ。
しかし、士郎はエヴァに言わせれば何で動けるのか分からない状態だったりしますからねー。体感的には成長したと感じても、実際の力量は……まぁ、吹っ切れたのは事実だし、これから進んでいくのも事実なのですが。
それと、優勝者は……実はプロットの変更と共に変わってきてるんだよね。
一応決めてあるけど、やっぱりこっちの展開の方が美味しいなぁと思ったら躊躇なく変えるよ、私。
ここに至り、この大会の優勝者が誰かっていうのはそんなに重要な事じゃないからね。

2010.09.25 | URL | 夢前 黒人 #- [ 編集 ]

今回刹那は士郎が自分の翼について知ってることに驚いていますが、第43話のネギとアスナに己の翼について告白するシーンに士郎も居て既に諭されていたと思うのですが…

2010.09.27 | URL | 円球 #FKquZHUc [ 編集 ]

Re: タイトルなし

あ、やべ。今から修正します。

2010.09.27 | URL | 夢前 黒人 #- [ 編集 ]


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