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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第67話


「二回戦(2)運命決定証文:白紙」  小太郎とアルビレオの試合が始まる前、というよりは、エヴァンジェリンが眠ってしまった直後。
 刹那と高音の二人は、密談を交わしていた。
 お互いに先の戦いに対して思うところがあり、それは例えネギや明日菜であっても秘密にすべき事柄だと判断したのだ。

「それで、聞きたい事とは何ですか?」

 高音が刹那に問う。そもそもこの会話を望んだのは刹那だった。
 高音には刹那にはない知識があったし、何より最近士郎と疎遠だった刹那と違って一緒に修行を続けている。
 訊ける事、口に出せる事は限られていても、聞きたい事は山ほどあるのだ。

「士郎さんが使った剣……エクスカリバーについてです」

 高音は黙って先を促す。

「その剣を使っていたという伝説上の人物は……女性ではありませんか?」
「は?」

 何を言っているのか、と高音はぽかんと口を開けてしまった。
 王、と。そう呼ばれるからには、男性優位の時代を考えれば当然男だと思うのが自然である。
 女なら女で、女王と史実には残るはずだ。

「アーサー王が女性だったなんて、そんな歴史的考察は聞いた事もありませんね。
 大体、女性が王になれるはずもないでしょう」
「それは、そうかもしれませんが……」

 だが、刹那には理由があった。勘ではあるのだが、それは殆ど確信に近い。
 かつて、最初に士郎と稽古した時の事。
 士郎が、刹那に“似ている”と言った剣の師匠。
 セイバー。或いはアルトリア。彼の店の名前にもなっている人。
 そして、歴史上最強の女剣士であり……ポピュラーな名前も持っている。

 それらの符丁が刹那の中で結びついていた。
 ポピュラーな名前とは即ち伝説に名が残っているという事で。
 歴史上、なんて言い方をするのだからそれなりに大きく名が残っているべきでもある。

 だが、刹那の確信を支えていたのはそんな断片的であれ論理に基するものではなかった。
 あの時。あの黄金の剣を振り下ろす時の、士郎の表情が。
 その“師匠”の事を語っていた時と同じ、この上なく誇らしげな顔だったから。
 だから、すとんと刹那は理解したのだ。

 ああ、きっとあの剣の持ち主が――――士郎さんの恋人だったのだろう、と。

「セイバー、アルトリア、ですか……」

 刹那はその考えを、高音にぶちまけた。
 恋人云々というのは流石に隠しておいたが。

「確かに、アーサー王伝説の元になった可能性のある人物として、アルトリウスというローマの将軍が候補とされています。
 そして、アルトリウスの女性名はアルトリアではありますが……」
「が、何ですか?」
「アルトリウスとは熊男という意味なのです。つまり、アルトリアは熊女」
「そ、それは……」

 なんとも、悲しい事実である。
 という事は、喫茶「アルトリア」は響きこそ綺麗だが、意訳すると喫茶「熊女」になってしまうのか。
 それは何とも嫌な話だと刹那は顔を顰めた。

「しかし、無視できない符丁ですね。もしも本当に、彼がアヴァロンの出身だったのならば……」

 衛宮士郎というイレギュラーが持つ価値は、計り知れないものとなる。
 否、麻帆良に限らず魔法界にとって決して手放せない人材という事になるだろう。
 異界との交流は時に莫大な富を生む。故に、権力もまた士郎に擦り寄ってくる結果となるだろう。

 或いは、伝説のアーサー王の使者として祭り上げられるか。
 かつて復活すると予言されているアーサー王なのだ。それが使者による間接的なものであったとしても……歴史が動く。
 それが公にされる事はなくとも、否、ないからこそ。
 場合によっては、事は麻帆良だけでなくより大きな世界を巻き込んで大きくなっていくだろう。

 そして衛宮士郎という人間の性質を考えるのであれば、そんな秘密は当然隠す。
 それは高音の理解している範囲という但し書きは付いてしまうが、結果は変わらない。
 単純に能力を見せたくないというある種当然の理由であれ、世界への影響を考えた他人本位の考えであれ、やっている事は変わらないのだ。
 尤も、その推測が正しいというわけでもないのだが。

「桜咲刹那さん」
「は、ハイッ」

 一応は年上な高音に、刹那は背筋を伸ばす。

「貴方は、士郎さんの事をどう思っているのですか?」
「え、と。その……」

 赤くなる刹那だが、しかし高音は真面目だった。
 別に、恋愛感情がどうとか、仮契約の詳細だとか、そんな事を知りたいわけではない。一応。

 高音にとって重要なのは、桜咲刹那が信用できるか否か、である。
 高音自身の推測が正しいにせよ間違っているにせよ、この情報は間違いなく重大な価値を持つ。
 これだけで、使いようによっては容易く士郎を追い込める程の。

 故に。刹那が士郎にとっての味方なのかどうか。
 士郎の為に麻帆良から疑われる可能性を理解していても、秘密を持ち続ける覚悟があるのか。
 それを確認しなければならない。
 或いはそれは。高音が、自分自身に問いかけているのかもしれなかったが。

「私は、彼の事を尊敬しています。返し切れない恩もある。助けになれるならばどんな事でもするつもりです」

 僅かな逡巡を示した後、刹那は強く答える。
 堂々と、決意と覚悟を固めて。
 その宣誓がどんな意味を持つのか、その果てまでは思考が及んでいなくても、それは刹那にとって純粋な本音だった。

 ならば十分。その目と声と、そして気迫を見て。
 高音も自分なりに判断した。
 仲間足りえる。少なくとも、協力者には成りえる相手だと。

 と、高音は一人で納得していたが、しかし刹那はそうもいかない。
 相手が信用出来るのか否か、それは刹那にとっても必要な判断だった。
 共に士郎の立場を尊重し、役に立とうとするが故に、信ずる相手は慎重に判断しなくてはならない。

「ならば逆に聞きます。貴女こそ、士郎さんの事を……」
「越えるべき目標です」

 予め答えを用意していたかのように、高音は鋭く答える。
 むしろ、ここで刹那が同じ問いを返さないのならば、その程度だと認識していたかもしれない。
 私の方が理解している。私の方が願っている、と。

「彼は己の利益に従って動く事はありません。その精神はとても高潔ですが、その行動までは全肯定できるものではない。
 だからいつか私が彼よりも強くなって、彼が切り捨ててしまったモノを救って、見返してやるのです。
 それまでは、あの人にはずっと……」

 最後だけは、言葉にならずに虚空に溶ける。
 見返したいというのは、認められたいという事だ。
 認められたいという思いの源泉は憧れであり、その感覚は刹那にも共感できる部分だ。

 理想だの、正義だの。そんな難しい理念において、刹那は士郎に意見する気はなかった。
 その点は高音とは違う部分だろう。
 二人は似通っているわけではなく、ただ今現在において、同じ方向を見ているというだけに過ぎない。

 だが、だからこそお互いに信用できる。自分が信じている限りにおいて、相手もまた裏切らないであろうと。
 目に見えて状況が変わらない限り、お互いはお互いの信頼を信用できる。

「今、魔法先生たちは士郎さんに対して友好的ではありません。私が調べた限りにおいては、その原因は士郎さんにあります」
「士郎さんに?」
「そうです。貴女もご存知の事だとは思いますが、士郎さんの立場は絶妙なバランスで成り立っています。
 それは士郎さんの努力の賜物であり、維持するためには継続的な行動が必要でした。
 しかし、最近の士郎さんは自分の行動が起こす不協和音に対してフォローを行っていません。
 今までは色々と策を巡らす事で大事に発展しないように注意していた士郎さんが、です」
「もしかして……本当に、士郎さんが超鈴音と手を組んだ?」

 超についての情報は知らない高音が首を傾げる。

「超鈴音? この大会のスポンサーですか?」
「ええ、そうです。高畑先生がこの大会に参加したのも、超鈴音への偵察と、士郎さんの監視が目的だと言っていました」
「学園で最も士郎さんに近い位置にいる高畑先生がですか? 俄には信じられませんが……
 だとすれば、事態は私が考えている以上に進んでいるのかも」

 高音は超の危険性こそ知らないが、学園長を除けば学園最強であるタカミチが動いているという点から問題の規模は推察できる。
 つまり。この問題は、最早高音が少しくらい動いた所でどうしようもない領域まで加速しているという事だ。

「桜咲刹那さん。同盟を組みましょう」
「同盟、ですか?」
「ええ。現状私たちの目的は同じはずです。士郎さんが、麻帆良を去らないようにする事。
 しかしこの問題はおそらく麻帆良全てを巻き込む事態にまで発展するでしょう。
 となれば、私たちに出来る事などないに等しい」
「だから、一人よりは二人、ですか」

 高音は力強く頷く。

「ええ。正確には愛衣も入れて三人ですけれど。場合によっては魔法先生たちの裏をかかねばならないかもしれない。
 そうなった場合、私たちが何かを成すには少しでも情報と力が必要です」
「確かにそうですね。分かりました。有事の際にはお呼び下さい。出来る限り協力しましょう」

 魔法使いとしてはどうかと言ったところだが、二人は携帯のアドレスを交換し合う。
 念話では盗聴の心配もしなくてはならないからだ。

「では、私も次は試合ですので」
「ああ、士郎さんとでしたね」
「ええ」

 何となく二人は押し黙る。
 二人にとって、刹那と士郎の試合、勝負の結果など眼に見えていた。
 実際には純粋な剣技で争った場合分は刹那にあったし、これが試合だと言うのなら十分に勝ち目はあっただろう。

 しかし、二人はその可能性について考えもしなかった。
 戦う刹那でさえ、最初からそんな可能性については考慮に入れなかったぐらいだ。
 だから、当然のようにこんな提案が飛び出る事になる。

「次の試合が終われば、私の方はフリーになります。貴女と士郎さんが戦っている間に、私は地下に潜り超さんの偵察に行く事にしますよ」
「しかし、一人で大丈夫なのですか?」
「はい。高畑先生が先行していますから、合流するだけですし」

 刹那も士郎との試合はかつての鍛錬を思い出して少し期待もあったのだが、こんな事情が出てくるとそうも言ってられない。
 小さな事に拘って大事を逸しては意味がないのだから。

「では、結果は後で」
「分かりました。幸運を祈っています」

 その幸運は、果たして偵察の事なのか試合の事なのか。
 刹那は苦笑しながら高音と別れた。






◇ ◆ ◇ ◆






 歓声が大きい。先程の試合で、観客たちもテンションが上がっているのだろう。
 どの顔にも、次の戦いへの期待感が見て取れた。だからこそやり難いと刹那は感じてしまう。

 今まで士郎と鍛錬する時は、決まって二人きりの状況だった。
 時折タカミチが傍らで眺めている事もあったが、それだけ。
 どこか、士郎だけに集中できない感覚が刹那には不快だった。

「こうして剣を交えるのは、随分と久しぶり……という気がします」
「そうか。そうかも知れないな」

 いや、士郎が記憶を失っているとは言え、それは一週間程度のものだ。
 だから、実際には士郎と刹那の時間間隔に然程の差異はない。
 けれど、あの修学旅行はどうにも密度が高すぎた。
 あの経験から、刹那は成長できたという実感があったし、その成長を士郎に見せたいとも思う。

 そして、こうして向きあって、意外と冷静な自分に刹那は気づいた。
 この一月半。躊躇を重ね、その度に足が重くなっていた事など何とも馬鹿らしいと思う程に。
 それは先程、士郎とエヴァンジェリンの戦い、その終幕を目にしたせいかもしれないし、或いは高音との会話が原因かもしれない。
 ともあれ、今の刹那は自然体だった。こんな時は、自分の実力が発揮できるものだ。
 懸案事項もある。この試合の後に予定もあり、出来るだけ体力も残しておきたい。

 でも。それでも、この戦いは刹那にとって長い間待ち望んでいたものだった。
 少しくらい、楽しんでもいいだろう。
 全力を出しても、本気で戦っても、どうせ次の予定は偵察であり戦闘ではないのだから、別に構うまい。
 高音は文句を言うかもしれないが、しかしもしも本当に士郎が麻帆良を去るなんて事態になってしまったら、これが最後の機会となる可能性もある。
 悔いだけは、残したくなかった。

「桜咲。私も、お前の成長には興味がある。全力、本気で来い。
 私もこの大会のルールでは出来る事も少ないが……実戦だと思って戦おう」
「…………! ハイッ」

 驚きと嬉しさで、刹那の返事は裏返っていた。
 恥ずかしいと思うのも一瞬、刹那は気を引き締めて試合開始の合図を待つ。

 士郎は無手だ。おそらくは、試合開始と同時に“取り出す”のだろう。
 そして刹那は明日菜との試合と同じくデッキブラシ。
 相手の得物が分からない、というのは中々に不安になる。
 剣士にとって間合いは命だ。己の剣が届く範囲、相手の攻撃が届く範囲。
 それを見極める事が戦闘の第一歩となる。
 だからこそ、士郎のようにギリギリまで自分の武器を見せない相手はやり難い。

「二回戦最終試合、FIGHT!」

 試合開始の合図が出されても、両者に動きはなかった。
 士郎は相変わらず無手のままだったし、刹那は警戒して距離を一定に保っている。
 少しずつ士郎が距離を詰めるものの、その分だけ刹那が退いていく。

 だが、そのまま後退したところですぐに端へと追いやられてしまうだけだった。
 円周を沿うように動けばそんな事もないが、士郎の方が追い詰めるように動いている。
 明らかに刹那からの攻撃を待っていた。
 このまま距離を詰め、端へと追い詰められるならそれでよし。
 突っ込んでくるのならそれこそ意のままといった体だ。

 つまり、刹那は選択しなければならない。
 このまま追いつめられて、背水の陣へと臨むか。
 乾坤一擲、特攻をかけるか。

 結果、刹那が選んだのは特攻だった。
 ギリギリまで引き伸ばしたところでどんな得物と対するのか分からず、選択肢は狭まるだけだ。
 ならばせめて、少しでも選択肢が多い内に挑む。
 それは当然の選択で、間違ってもいなかったが、しかし士郎には通じない。

 刹那の一刀を無手のまま皮一枚で避け、振り切った隙だらけの刹那に大きく蹴りを入れる。
 当然、刹那の小柄な身体は吹っ飛び、池まで転がった。
 だが、大したダメージはない。すぐさま水の上に立ち、士郎の動向を見守る。

 見れば、士郎は既に得物を取り出していた。
 消極的な刹那に業を煮やしていたのかもしれない。
 得物は士郎が多用している中華風の双剣。つまりは干将・莫耶……を模した木刀である。
 刹那のデッキブラシに材質だけでも合わせたのかもしれない。

「ハッ」

 水上から瞬動術で接近し、刹那は再び士郎との斬り合いに臨む。
 それに対し、士郎は逃げるでもなく正面から迎え撃った。
 刹那の攻撃を完全に読み切っているように、双剣で弾き、逸らし、或いは双剣さえ用いずに避けて、逆に的確に刹那の隙をついてくる。

 やはり強い。刹那は体勢を立て直すべく一旦距離を取り士郎の強さを実感した。
 自分の実力をちっとも出せないような感覚。
 かつて鍛錬に付き合ってくれていた時は、このような戦い方は見せてくれなかった為、自分で体験するのは初めての事だった。

 楽しい、と思う。
 そうして、士郎が本気で相手をしてくれているのが分かるから。
 それだけで、刹那は認められたような気分になっていた。
 そして、もっと認めてもらう為にはどうすればいいのかと、躍起になって考える。
 士郎の目に宿る、冷たい光に気づかないまま。

「……弱くなったな、桜咲」
「え?」

 急転直下。僅かに舞い上がっていた気持ちが、一気にどん底まで落とされる。
 一瞬で青ざめた刹那に構わず士郎は続けた。

「弱くなったと言ったんだ。前のお前は抜き身の刀のように鋭く、無謀の中にも活路を見出そうとする冷静さがあった。
 だが今の攻撃は何だ? フェイントも何もない単調な攻撃。しかも神鳴流の技さえ使わない。
 私は、本気で来いと言ったのだぞ?」

 愕然と、した。
 確かに言われてみれば、刹那には特攻以外にも取り得る選択肢はあったのだ。
 いや、特攻を選択するにしても馬鹿正直に突っ込む必要などない。
 神鳴流の飛び道具……気による範囲攻撃など、牽制に使える技などいくらでもある。
 本当に全力を出し切るというのなら、それらを使って攻撃を組み立てるべきだった。

 そもそも神鳴流の技を使わないという事が、士郎を、この試合を舐めていたと言わざるを得ない。
 このような公の場では使えない。そんな理由は、明日菜との試合で既に意味を持たなくなっている。
 予め全力で来るように言われてこれだ。刹那が甘かった。それだけであり、そしてそれが大問題だった。

「そ、それ、はっ」
「幸せに漬かり過ぎたな。そんな様で木乃香を守ろうというのか?」

 瞬間、刹那の意識がクリアになる。
 例え相手が士郎と言えども、木乃香の件に関して妥協するわけにはいかない。

「行きますっ!」
「いい気迫ではある、が」

 瞬動術で接敵しようとした刹那に対して、その軌道を完全に読みきって、士郎はその背後を取るように瞬動を行った。
 当然刹那の太刀は空を斬り、士郎から手痛い一撃をもらうことになる。

「ぐっ」
「感情が剣に出ているぞ。そんな太刀筋では何も斬れまい」

 この現状において、刹那は反論する術を持たなかった。
 もう、刹那には試合開始前にあった浮ついた気分など欠片も残っていない。
 感情は乱れに乱れて、とてもではないが冷静な思考など保てなかった。

 士郎に認められる、どころか。
 今の自分を、修学旅行を経て強くなったと思っていた、強くなれたと思っていた現状を否定されて。
 悲しいとか悔しいとか、そんな感情に昇華されるまでもなく、ただ苦しかった。

「まだまだ、これからですっ」

 負け惜しみのような攻撃。
 冷静になれていない状態で、いかなる技を繰りだそうとも士郎には届かない。
 気による強化は刹那の方が圧倒的に上であるはずなのに、士郎の使っている双剣はただの木であるはずなのに。
 武器破壊も通じず、攻撃全てが誘導されているような感覚に刹那は途方も無い差を感じてしまう。

「何故弱くなったのか。お前は分かっているのか?」

 斬撃の最中、士郎にはそんな事を問う余裕がある。
 それが悔しいし、何よりその問いに答えを返せない事が悔しかった。

「木乃香と和解し、明日菜と友達になり、ネギとも親しくなり。
 お前を取り巻く環境は一気に拡大し、関係性も深まった。それが原因だ」
「それが……それがっ、悪い事だと言うのですかっ!」

 気合の入った一閃も、士郎はひらりとかわして会話を続ける。

「いいや。むしろ個人的には好ましい事だと思っている。だが、お前が弱くなった原因は間違いなくその幸せだ」
「幸せ……」

 今、自分は幸せなのか。幸せだったのか。
 初めて刹那は、現状を認識する。今までの人生で一番居心地がいい、決して失いたくない現在を。

「幸せを失いたくないと思う心は普通、更なる力へと作用する。だがお前はその心のあり様に慣れていない。
 今までお前は孤独だった。たった一人を守れればいいと考え、その考えに基づき強くなった。
 だが今のお前は違うだろう? 明日菜もネギも、クラスメイトも、皆守りたいと願うだろう。
 剣の鍛錬の時間はかつてよりも減り、代わりに友達と遊ぶようになった。
 それで、どうして強くなれるのだ?」

 ああ。確かにそうだ、と刹那は思った。
 人は、自分を取り巻く環境を、一人で全て守ることなど出来ない。
 だから今まで刹那はそれらの関係を捨てていたのだ。
 肝心の、木乃香との友情さえ捨てて。木乃香を守れればそれでいいと。

 勿論、それだけが理由ではなく、単に刹那が臆病だったのも理由の一つではあるだろう。
 しかし刹那は強かった。関係性を排した環境において、唯一人を守るための強さを、既に獲得しつつあったのだ。
 そんな状況から、今更増えた友達を、関係性を、今までと同じ方法で守れるわけもない。

 適応していないのだ。現在の状況に、幸せに。
 幸せ慣れしていないから、舞い上がって、その幸せを感受するだけだった。
 現状を維持しよう、守ろうという意識さえない。
 全ての問題は解決したつもりで、つまり甘えていたのだ。
 今は誰もが甘やかしてくれていたから。居心地のいい仲間たちの中で、ぬるま湯に浸っていられるのだから。

 しかし、それが悪い事かと言われればそうとも言えない。
 桜咲刹那という個人は確かに幸せであり、木乃香の護衛であっても義務ではないのだ。
 お互いに助けあうという関係でもいいはずで、そして木乃香もそれを望んでいた。
 いつかその幸せを脅かす事件があったとしても、仲間たちと協力すればいい。
 
 幸せ慣れしていないのが原因なのだから、慣れればいい。
 慣れた上で、新しい刹那の強さを求めればいい。
 戦いの中だとしても、そこに刹那なりの幸せはあるだろう。
 それが理想で、それが求める姿なのだと言う事は、刹那が気づいていなくても士郎は予想していた。

 木乃香の願いを聞くに付け、刹那にも成長が必要だと。
 自分の現状を認識し、戦うのは木乃香だけではいけない。
 例え今まで守られてきたという借りがあったとしても、それは刹那の願いではないからだ。
 対等だと言うのなら。尚更、二人で共に歩む必要があった。

 だが、それがベストだという解を持っていても、士郎は士郎で願う事はある。
 女の子が戦いの中で幸せを得るなんて可哀想だと言う、傲慢な考え方。
 刹那が剣を捨て、普通の友達として木乃香と共に歩むという道はないのか。
 刹那には刹那の戦いがあり、木乃香には木乃香の努力がある、そんな険しい道の先にある幸せではなく。
 もっと簡単で、リスクのない、普通の幸せを求めてもいいのではないか、と。

 刹那はもう十分戦っただろうと。その苦しい生い立ちを乗り越えて、やっと掴んだ幸せなのだ。
 最上の幸せではなかったとしても、少し妥協した所には安全で確実な幸せがあるのだ。
 今のように、薄氷の上に成り立つものではなく。
 そして、これからも薄氷の上を歩いていくものでもなく。
 拘りを捨てれば、すぐそこに幸せがあるではないか、と。

「それは……それはっ」
「桜咲。この試合で負けたら、お前は剣を捨てろ。木乃香の護衛も、もういい」

 それは押し付けだ。そんな事は、士郎だって承知している。
 だが、押し付けられた答えを選択するのは刹那だ。

 愕然とした表情を浮かべる刹那が、それでも剣に、自分の手で木乃香を守る事に固執するのか否か。
 それを選ぶのは、刹那自身でなくてはならない。
 誰かに強制されるのではなく、そうせざるを得ない環境から外れて。
 守るなと言われて、それでも守れるのか。
 もしも刹那が剣を選ぶのなら、それぐらいの気概は必要だろうと。

 それは、とても不器用な押し付けだ。とても褒められたものではない。
 或いはトラウマを残すだけの、逆効果にしかならない可能性だって十分ある。
 刹那を信用していた、などと都合のいい言葉は言い訳にしかならない。

「そんなっ。剣は、お嬢様は私の全てです! 捨てるなんて、出来ない」
「全てなどと言うものはな、桜咲。失ってから初めて気づくものだよ。言葉で語れる内は、欠片でしかない」

 士郎は、重い息を吐く。
 それで刹那はその言葉が経験談なのだと気がついた。
 
 全てを失ってしまった者が。守るべき者を守れなかった者が。
 その道の険しさを、苦しさを説いている。

 幸せを感じる事ができるなら、幸せになればいいのだ。
 誰からも疎まれる生まれで、地獄のような幼少期を送って尚、幸せを噛み締められるなら。
 笑う事もできなくなった男が、まだ笑える少女に警告している。

 全てなど求めるな。たった一つ捨てれば、他の幸せは手に入るのだから。
 過去も、誇りも、決意も、覚悟も、いつかの誓いも。
 幸せを犠牲にしてまで求めるものなのか、と。そう、問うている。

「それでも……私は、この生き方しか知らないっ」

 刹那の目には涙さえ浮かんでいた。
 振るう剣は、段々と鋭くなっている。

 或いはかつてのように。しかし、何かが決定的に違って。
 それは技のキレでも、心の強さでもない。
 複雑に渦巻く感情が一本化されていき、剣に重みが宿っていく。

 迷って迷って、答えなど出ない。そして刹那に選択肢など、初めから一つしかないのだ。
 それしか知らないのだから。とうに覚悟は決まっているし、それ以外を選ぶつもりもない。
 だが、それでも迷っているのは。どうしたらいいのか分からないのは。
 その強制が、他ならぬ衛宮士郎から発せられたものだから。

 いつかの恐怖を思い出している。
 士郎に、木乃香を取られてしまうのではないかと。
 士郎さえいれば木乃香は守られて、刹那の唯一つの価値さえ消えてしまうのではないかと。
 振り切ったはずの恐怖が、また刹那を苛んでいた。

 もう一つある可能性に、刹那は気付けない。
 普通の友達として傍らに在る可能性。
 それだけで、既に刹那は木乃香にとってかけがえの無い存在であるという事に、刹那は気付けない。

 己の不要さを、かつて痛い程に噛み締めた刹那だから。
 不要と断じられ、忌み嫌われ、誰からも疎ましく思われた刹那だから。
 必要とされている現実が、信じられない。
 目に見える価値、力がなければ、受け入れる事もできなかった。

 それは、確かに刹那の中では全てなのだろう。
 実際には剣を、戦う力を失ったところで木乃香の態度が変わるわけではないとしても。
 喪失の恐怖は刹那に根づいていた。
 剣だけが刹那の唯一などではないと、幾ら説き伏せようとしても効果は期待できないだろう。
 それが、例え木乃香の言葉であったとしても。木乃香の言葉であるからこそ。
 捨てられたくないから。もう二度と、失いたくないから。

「なら、私が与えよう。生き方など一つではない。お前はまだ、取り戻せる。お前が剣を捨てるのなら――」

 刹那の斬撃が止んだ。士郎の手も止まり、視線だけが刹那を射抜いている。
 真摯で、真剣で。
 こんな状況で、今はもう尊敬も忘れ去り敵であるとさえ思えていた相手なのに、刹那は胸が高鳴った。

 その声は小さく、きっと刹那にしか聞こえなかっただろう。
 けれど、言葉はとても重くて。聞き逃す事は出来ないという予感だけを、刹那は強く感じていた。

「“刹那”は、私が守ろう。木乃香も、お前が守りたいと願うもの全て。お前の代わりに、私が守ってやる」

 プロポーズみたいだと。場違いにも、刹那はそんな感想を抱いた。

 刹那と。もう懐かしささえ感じる呼び捨ても。
 守れという肯定でなく、守るという否定も。
 
 どちらも泣きたくなるぐらい嬉しかった。
 それは刹那の意思の否定ではあったけれど、無条件で全てを許容してくれる契約。
 剣が、刹那の取り柄の何もかもがなくなっても、それは変わらない。
 決して見捨てず、決して裏切らず、決して倒れない。

「だから、剣を捨てろ。人並みの幸せを求めてみろ。今なら、お前ならまだ、それが叶う」

 刹那が要らないと、そう答えるその日まで続くであろう、重すぎる契約。
 けれど、それはきっと刹那がずっと欲しがっていたものだ。
 甘えられる相手。守ってくれる相手。好きになれる相手。好きになってくれる相手。

 木乃香との関係も確かに近いが、どこまでも上下関係は存在する。
 生まれの違い。立場の違い。地位の違い。
 親友であろうとも、その違いは確かに存在し、最後のところでは対等ではない。

 だから、本当は。
 同じように疎まれて、けれども自分を肯定し、守ってくれるような人が。
 ずっと、欲しかった。
 ずっと、ずっと、ずっとずっとずっと。
 同じように恵まれない相手を、探していた。対等で、傷を舐めあえるような関係を。

 木乃香は確かに大切で、命にかえても守りたい友達だったけれど。
 同じように刹那もまた、守ってくれる人を欲していた。
 渇望していたのだ。ただ、それを言えなかっただけ。言ってしまったら全てが崩れる。
 そう、信じ込んでいただけなのだ。

「私、私は――――」

 だから答えは決まっている。
 本当に欲しかったものは、もうずっと前に決まっていたのだから。

















高音「ちょっ、いきなり裏切りですか桜咲刹那っ」
刹那「別に恋愛同盟を結んだつもりはありません」

(拍手)
 
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後書き

遅れに遅れてすみません、けど何とか連休中には更新できました67話。
刹那回です。そして、かなり没を出してます。
この続きも既にある程度は書けていて、この程度の分量なら分割する必要もなかったんだけど。
一旦ここで区切りたいという欲求に勝てなかったのでこんな感じに。
だから今回は短めです。最近の二割減。
まぁ、この話から一応人気投票の結果補正が入ってるんですが、微妙に名前が入った木乃香ぐらいですかね。
基本予定通りに進んでますが、次回はまた刀子さんの出番があるかも。
余裕があったらアキラもね。

では、次回予告。
士郎に選択を迫られた刹那の返答は、果たして。
次回、夢破れし英雄第68話「運命決定証文:サイン」
お楽しみに。

2010.09.20 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

脱字です。

例え士郎言えども、
が が抜けています。
幸せなればいいのだ。
に が抜けています。
ツイッターのリンクと拍手がつながってません。

2010.09.20 | URL | 檻 #- [ 編集 ]

Re: 脱字です。

うわ、マジすいません。急いでたからかミスが酷いな……修正しておきました。

2010.09.20 | URL | 夢前 黒人 #- [ 編集 ]

本編すごくシリアスで、刹那…(涙)な感じになっていたのに、最後の拍手にクスッとさせられてしまった。
シリアス返せw
しかしまあ、ある意味刹那が本当に言って欲しかった、そしていて欲しかった存在そのものなんでしょうね、このシロウ。
話の展開上イエスとは答えないんでしょうが、イエスと刹那が答えてしまっても誰も彼女を責められませんね…
次回どういった展開になるのか楽しみです。

あとプロット見ました、いろいろ楽しみなイベントがあるみたいで、今からワクワクしております。

2010.09.21 | URL | dai #AGIZr..w [ 編集 ]

Re: daiさん

いや何かもうあのままシリアス続けると刹那が可哀想で。後は思いついちゃった自分の頭が憎いね。
それと、別にどちらを選んでも話続けられますよ、私。
魔法世界編も学園祭編もかなりの修正を強いられますが。
というか、最初は現在考えているプロットとは逆の選択肢を選ぶ事になっていたんですよ。
それやっちゃうとアキラはいいんだけど高音と愛衣がねー。あと刀子さんとかどうしようもなかった。
だから劇的なドラマは魔法世界編まで時間をおいて、学園祭編はちょっとセーブしようかなって。

ちなみに、既に68話は半分以上出来てて、そろそろ刹那戦も終わりになる辺りまでは書いてます。
ただ、序盤というか導入の部分はネギまの空気完全破壊でかなり酷いかも。
Fateで言う桜√の暗さっていうか……まぁ、多分今週土曜辺りに更新するのでお楽しみに。

2010.09.21 | URL | 夢前 黒人 #- [ 編集 ]

アーサー王

アーサー王女性説はイギリスでは普通にありますよ。
本まで出ています。

2010.10.04 | URL | k.k. #z0XMkfn2 [ 編集 ]

Re: アーサー王

女系相続がどうの、とかいう説ですか。確かにイギリスとか行ったことないしその辺りは不勉強なのですが。
高音も本国、魔法世界出身ですから。ある程度日本人的常識からの台詞とお考え下さい。

2010.10.04 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


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