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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第66話


「二回戦(1) 疑心暗鬼」  刀子はまほら武道会の会場へ潜入する事に成功していた。
 チケットを持たない者を通さないスナイパーは、現在シャークティが足止めしている。
 いや、ある意味ではシャークティが足止めされているのだが。

 一足先に潜入したハズの美空とココネの姿は見えなかった。早速任務を果たしに行ったか、噂通りサボっているのか。
 サボっているのだとしたら注意したいところではあったけれど、彼女らを探している暇もない。
 刀子は即士郎を探し始めた。

 だが、不幸な事に舞台の修理作業で試合が中断されている為、どこに行っても人が多かった。
 試合さえ始まってしまえば士郎とて観戦に来るのだろうし、発見も容易になるはずなのだが。
 かと言って試合が始まるまでただ待つというのは真面目な彼女には許せなかった。
 まぁ、既に士郎は刀子を補足していて、逃げられているだけという可能性はある。
 だとするのなら、少なくとも士郎が何かを企んでいるという線は濃厚になってしまうのだが。

「はぁ。あまり信じたくはありませんけど」

 刀子は衛宮士郎の件において中立だし、もしも士郎が敵対したのならば容赦などしない。
 でも、敵対して欲しくはないと思っていた。
 結局、あの大してお客も入っていない喫茶店で、つまらない愚痴を聞いてもらうのが好きだったのだ、刀子は。
 同僚というわけでもなく、初めから男とは見ていなくて、しかも関係者ではあるのだ。
 愚痴るのには最適だった。

 だから逆に、士郎の方はあまり刀子の来店を歓迎していなかった。
 愚痴るのに他に客が居ると面倒な事になりかねない。なので、大体彼女が来るとしたら閉店後だ。
 しかも愚痴が重なってくると酒まで要求し出す。一度も出した事はなかったが。

「…………こんな所で、何をしているんですか?」

 ようやく、刀子は士郎を見つけた。かろうじて舞台が見える程度の位置ではあるが、屋根の上の死角だ。
 マトモな神経ならばそんなところには登るまい。
 まぁ、魔法使いは飛べてしまうからか、割と高い所が好きな者は多いが。

「休んでいる。今は指先一つ動かす気が起きなくてね」
「そうですか。今なら貴方に勝てますか?」
「勝てるだろうさ。君でなくても、刹那だろうがどこぞの見習い魔法使いだろうが、今の私では勝てる気がしない」

 それはまあ、事実ではあるのだろう。
 士郎の体は弛緩しきっていて、何らかの薬でも使われたのではないかとさえ思える程だ。
 それがもし、刀子を信頼しての態度であるのなら、彼女は素直に嬉しいと思う。
 それを利用する自分に、心苦しいものも感じてしまうのだが。

「何故そんな事に」
「さぁ……伝説に挑んだツケ、という奴かな」
「エヴァンジェリンですか」
「ああ。本気の彼女というのは何とも凄まじかったよ。最強の魔法使いというのも頷ける」

 士郎が言う伝説とは、エヴァンジェリンの事ではなくエクスカリバーの事ではあるが、しかし同じ事ではある。
 かの聖剣でなければ、打倒し得なかっただろう強敵。
 確かに他の宝具、例えばハルペーなどを使えばもっと楽に倒せたであろう事も事実ではあろう。
 まぁ、ハルペーを投影したところで当てられたのか、という問題はある。
 けれど、そんな問題とは別に、士郎はエヴァンジェリンをエクスカリバーを使うに足る相手だと認めていたのだ。

「封印はあったハズですが」
「何だ、見ていなかったのか。途中までは現実で戦っていたのだがね、まんまとしてやられたよ。
 幻想空間に捕らえられた。そして、封印は幻想空間まで届かない。後は分かるだろう?」

 分かる、というか戦慄する。
 本当に、本気で、エヴァンジェリンは衛宮士郎を亡き者にしようと思っていた。
 つまりは、そういう事だ。今の彼女が、士郎に勝ち得る唯一の方法。それを行使してきたのだと。

 ただ……今の士郎の表情を見ていると、互いに憎しみのようなものがあったとは思えなかった。
 とても落ち着いた表情をしていて、水のような気配がある。
 戦った事、少なくともその結果には満足しているような。そんな気配。

「勝ったんですか?」
「一応は、な。彼女が本気だったのかどうかは知らないが」

 しかし、しかしだ。だとすればどれ程の脅威だろう。
 封印されていない、完全開放状態のエヴァンジェリンは正真正銘化物だ。
 士郎が組織に匹敵し、危険視されているのとはレベルが違う。
 彼女は本当に一協会を単身潰せる程の力を持っているし、過去似たような事件もあった。
 サウザンドマスターが封印するまで、その名に関わる事を一切禁止される程に。

 伝説、なのだ。英雄ではなく、魔法界の歴史に名を残す。
 これから歴史が伝えられる限り、魔法使いにとってエヴァンジェリンの名が過去のものになろうとも、忘れられる事はない。
 
 そんな相手に勝利する、という事が。どれだけ規格外なのかと言う事ぐらい、刀子にだって分かる。
 その報告がどれ程の価値を持ち、そして士郎の立場をどのように変えてしまうのかも。

「いいのですか。私に、そんな事を教えてしまっても」
「別に、勝敗など時がくれば知れる事だろう。私たちは舞台の上で戦っていたのだからな」
「それでも、幻想空間の中で何があったかまでは分からない。搦め手を使うのと正面から打ち破るのは重みが違うでしょう」

 何故私が心配しているのだろう、と刀子は思った。
 のほほんとしている士郎が信じられない。今まであれ程までに隠し通してきたというのに。
 何故今になって、そんな。自分の立場を守る事を放棄してしまっているのか。

「別に、正面から打ち破ったなんて言ってないがね。まぁ、どうやってという所までは流石に喋れないが」

 確かにどちらにも取れる、が……その士郎の疲弊が、どうにも気に掛かっていた。
 刀子は士郎にとって敵だとは認識されていないのかもしれないが、それでも。
 誰であっても弱みを見せるような人間ではないのだ、衛宮士郎という男は。

 それでも今、現にこうして弱った姿を見せている。
 それは、つまり余裕がないという事だ。己が弱っているという事を、隠す余力さえ残っていない。
 そしてそんな状態になっているのに、搦め手で勝利したなどと言う話は信じられないのだ。
 衛宮士郎が搦め手を用いてエヴァンジェリンをハメたのなら、もっと簡単に決着がついているはずだから。

 伝説たるエヴァンジェリンならば、或いは策を弄する士郎を炙り出し決定的なダメージを与えつつ、負けてしまうという可能性もあるのかもしれない。
 或いは士郎が見栄を張っているだけで、幻想空間での勝敗は逆であり、けれど現実世界では勝利したというだけの話かもしれない。

 だが、もしも事実だったのなら。

「貴方は、もしや麻帆良を去るつもりなのですか?」

 単刀直入。それ以外に方法が思い浮かばなかった。
 もしも本当に、士郎が麻帆良を去るというのなら、刀子は引き止めるのだろうか。
 それさえ曖昧ではあるけれど、確認せずにはいられない。

「ああ、そうだ」
「…………っ!」

 あまりにあっさりと士郎が答えるものだから、どうにも刀子は反応に困った。
 本当なら、反応に困るのは士郎であるはずなのに。

 もう士郎は、この街に思い残す事はないのだろうか。
 恩を返す為に……というのは刀子も明石から聞いた事がある。
 刀子自身も、それとなく聞いてみた事があった。
 義理を果たす、と。確か、そう答えていたはずだ。
 ならばもう義理は果たし終わったのだろうか。

 だが、刀子はそれ以上尋ねる事は出来ない。
 怖いのかもしれなかった。もう義理は果たし終わった、もう麻帆良に留まる必要もなくなった。
 そう答えられるのが。怖いのかもしれない。

 だってそうだろう。もしもそうなら、今まで士郎は無理をしていた事になる。
 早く麻帆良なんて出て行きたかったのに、義理があるから恩があるから、無理して留まっていたという事になる。
 それは悲しい。それが有り得ない事ではなくて、むしろその可能性が高いのだと理解できるからこそ。

 今まで育んできた友誼は、確かに立場やしがらみに囚われるものだったかもしれないけれど。
 確かにそこには信頼と情があったはずなのに。

「まぁ、それも次の試合次第……だな」
「試合、ですか?」
「ああ。次は桜咲と試合でね。その結果次第、というところだ」

 結果次第という単語に刀子は疑問を覚えた。

「刹那が、何か?」
「説明し難いのだが……彼女の覚悟次第では、まだ私は麻帆良に残るべきかもしれないと考えているだけだよ」
「それは、刹那が一人前になるまで見守る……というようなニュアンスですか?」
「いや、そういうわけでもないが。ともあれ、試合もそう遠くない。私が去るのか不安なら、試合が終わった後にでも報告するさ」
「別に、そういうわけでは」
「そうかね。君が言うのならそうなのだろうな」

 沈黙。過る風が心地良かった。
 険悪ではない空気が今ここにある事が、刀子には不思議でならない。

「ところで。私が麻帆良を去るとなると、喜ぶ人間の方が多いのだろうな」
「それはどうだか。組織としてはともかく、個人的には親交がある人が多いでしょう?」
「そうだがね。なら、君はどうなんだ?」
「個人的には、嬉しくない展開ですね」

 しかしながら、組織としても望ましくない展開ではあるのだろうと刀子は思う。
 衛宮士郎はイレギュラーであり、今まで少なからず魔法先生たちとも確執はあった。
 けれどこの麻帆良のトップ、学園長は士郎の残留を願っているのだ。

 学園長は情に厚い人間ではあるけれど、しかし情だけで動く程安い男でもない。
 だから、理由があるのだ。衛宮士郎をこの麻帆良に留めようする理由が。
 そんな事は魔法先生であるなら誰でも分かっており、士郎を最も警戒しているガンドルフィーニでさえ同意見だろう。
 つまり、士郎が麻帆良を去るというのなら、関東魔法協会の総意として残留を促す。

 それは何故か。
 士郎に対して好意的な人間からは、特に理由を挙げる必要はないだろう。
 敢えて言うのなら戦力の強化。衛宮士郎の力を取り込み、麻帆良の体制を磐石にしようというもの。
 では逆に、士郎に対して敵対的な者たちは何故士郎を麻帆良に留めようとするのか。
 それは、士郎を脅威だと思っているからこそだ。
 士郎が野放しで、どこで何をやっているのか分からない、という状況がたまらなく不安なだけ。
 正しくマギステル・マギとして。
 その脅威、不穏分子を他所に押し付ける事も出来ず、積極的に監視・管理する事で平和を保とうとしているだけなのだ。

 故に、刀子がこの情報を持ち帰れば魔法先生たちはまた別の対策に追われてしまうだろう。
 超の事も確かに重要で、こうして監視役が派遣される程度には士郎との関係性も危惧されている。
 だが、それらの顕在化していない問題よりも、ほぼ確実に差し迫った問題があるのなら、当然労力は目に見える問題へと注力される。

 そこまで思考して、刀子はハッと気づいた。
 この、麻帆良を去るという宣言さえもブラフであったのなら?
 超と組んでいるにせよ、この学祭期間中に何かしら事を起こそうと士郎が計画していたとして。
 当然、魔法先生たちの勢力には邪魔されたくないだろう。
 であれば、武力で黙らせるか策を弄するか。
 
 今までの士郎の行動を振り返れば、何かしら策を用いてくる可能性は高い。
 その時いかに、邪魔な魔法先生たちの戦力を分散させ、士郎以外の問題に振り分けるか。
 その観点で士郎が策を練り、士郎が既に動いているとしたら。
 一度疑い出せばキリがない。それが、今まで士郎が麻帆良で培ってきた衛宮士郎像なのだから。

「貴方は……」

 刀子は、そこから先を尋ねる事は出来なかった。
 今までの少ない問答でさえコレだ。
 確信に迫らぬ会話でさえ、否だからこそ余分な情報を与えられ思考を誘導されている可能性もある。

 選択肢が増える程に魔法先生たちの意見も増えていき、結果的に組織としての動きは鈍くなるのだ。
 先程の会議を思い出せばその予想はあまりにも容易い。結局妥協案を持ち出すしかなかったのだから。
 これ以上、確定ではない情報を与えられて選択肢を増やしてはならない。

 増える情報はどうせ、そのどれもが無視できない脅威として映るだろう。
 刀子の目にさえ、防がねばならない事態であると認識されたように。

 或いは、士郎を支持する人間、支持しない人間と分かれるのではなく、全肯定か全否定、そのどちらに偏っていれば良かった。
 そうであれば意思決定に時間は掛からず、速やかに処理される事だろう。
 しかし現実には中立の人間が多いとは言え、支持派と反対派はほぼ同数。

 真逆。まさか、とは思うが。
 もしもその比率さえ、士郎の思惑の内だったのだとしたら。
 この危うい綱渡り、薄氷の上に在る立場が、完全に意図されてのものだったのならば。

 敵わない。そう、刀子は思う。
 何をしてもどうにもならない。そう、諦めてしまいたくなるぐらいに。
 刀子は剣士だ。剣を振る事しか能がない。
 戦術戦略、魔法先生として考える事も多々あれど、けれど突き詰めれば剣を振る事だけが専門なのだから。

 こうして監視していても、果たして自分にどれだけ真実が読み取れるのか。
 それさえ不安になりながらも、彼女は任務を全うした。
 何も逃さぬよう、熱を籠めた視線で。
 酷く力を抜いて油断しているように見える士郎を、この場で捕縛する誘惑に駆られながらも。




◇ ◆ ◇ ◆





 エヴァンジェリンが疲労から眠ってしまい、救護室から追い出された明日菜たちは、お互いに話があるという刹那と高音を残してぶらぶらとしていた。
 次の試合まではまだ時間があるし、何より明日菜もネギももう試合は残っていない。
 後は観戦するだけなので、どうしてもだらけてしまう。

「ねぇ。士郎さん凄かったわね」
「そう……ですね。でも」

 凄いという言葉だけでは言い表せない、とネギは思う。
 今まで漠然と感じてきた士郎への言い知れない感覚の答えを、今回貰ったような気分だった。

 今まで、ネギは士郎の事をそこまで超絶的に、エヴァンジェリンと同等クラスで強いとは思っていなかった。
 確かに、現時点のネギよりは強いのだろうけれど、それでも。
 “あそこまでデタラメな存在”だとは思っていなかったのだ。
 想像できるはずもない。郊外で喫茶店を経営している、魔法使いでもないただの関係者が。
 いや、従者なんだろうなとか、その程度の想像は働かせていた。
 けれどネギには、魔法使いの従者が伝説の魔法使いに勝つなんていう状況をイメージ出来ていなかったのだ。

 どこまで行っても、魔法使いがメインで従者はあくまでサポートである。
 助け、支える者。だから、士郎に対してもそういう見方をしていたのかもしれない。
 無意識に、従者に対して大した事はないなんて感想を抱いていたのかもしれない。
 士郎もまた、小太郎と同じように単独で戦う者である事は知っていたハズなのに。

 今までネギは、士郎の精神性、その覚悟にしか着目してこなかった。
 悪魔に襲撃された夜。あの時問われた覚悟に、自分はどう答えるべきなのか。
 そればかり、頭を渦巻いていたのだ。

 だから今回、その頂上かつ超常の戦いを見て、ネギは圧倒されていた。
 問われた覚悟に対する反発心が、粉々に粉砕されてしまうくらいに。
 あれ程に強い人が言うのなら、確かに誰かを、敵を悪を殺す覚悟もまた、時には必要なものなんじゃないかって。
 そう、思ってしまうくらいに。

 悪魔の死体が折り重なる光景と、人肉が散乱する光景がフラッシュバックする。
 その死体が、異形ではなく人のカタチをしているだけで、何故こんなにもおぞましいのか。
 そして、そんなおぞましさを簡単に成せてしまう事が、頂点の強さというものなのか、と。
 そんな間違った観念は、無意識に沈殿する。
 
「でも?」
「……いえ、何でもないです」

 そんな混沌とした悩みに、明日菜は気づけなかった。
 仕方のない事ではあるだろう。むしろ気づく方がどうかしている。
 つい先程、ネギだって試合で負けたばかりなのだ。
 思い悩むとしたら、そちらであるはずだった。現に明日菜も、ネギが暗い原因をそちらであると睨み、だからこそ何も言わない。

 言える事はなくて、言っても逆効果にしかならないと決めつけて。

 明日菜の脳裏には、もう殺し合いの凄惨な光景は印象が薄くなっていた。
 エクスカリバー。知らぬとは言え、否知らぬからこそその神々しさに圧倒されていた。
 『以前どこかで見たような気がする』。そんな、不確かな感覚だけが渦を巻き、言葉にならない懊悩を抱えていたのだ。

 ただ、明日菜は明日菜で考える事はあった。
 それはネギの事でもエクスカリバーの事でもなくて、士郎とエヴァンジェリン二人の事だ。
 エヴァンジェリンの話を総括する限り……エヴァンジェリンは、戦闘の結果士郎が死んでも構わない、という気持ちで戦っていた。
 それが、明日菜には許せない。何か違う、と思ったのだ。
 確かにエヴァンジェリンにはそういった側面もあるのかもしれない。
 女子供には手を出さないと公言しているという事はつまり、大人で男ならば例外であるという事だ。
 
 だが士郎はどうなのか。明日菜の知る士郎は、そんな相手には拳骨を一発落として説教を始める。
 イメージとのギャップがあった。そんな殺し合いに付き合う人ではない、という信頼がある。
 けれど現実として、士郎はエヴァンジェリンとの戦いで殺し合いをしている。
 あの光景を見て、諦めなければ死なないなんていう言葉がどれ程の意味を持つのか。
 それは付き合わされただけの、受身としての殺し合い、正当防衛だったのかもしれない。

 でも。最終的に、圧倒的な攻撃で勝利したのは士郎なのだ。
 明日菜はその強さに疑問を抱く事はなかったが、それでも士郎がその力を振るった事には疑問を感じている。
 綺麗事では済まない世界というものの、その実態を。
 今は何一つ覚えていない明日菜だから。その疑問、疑心も当然のものではあった。

 だが同時に、そんな士郎の行動に納得している自分がいるのに明日菜は気づいていない。
 明日菜なら、本当に納得できない事があれば直接殴りこみに行くぐらいの事はする。
 この場合は直接士郎に問い詰めに行っていただろう。
 暗い顔をしたネギが心配だった、というのもあるかもしれない。
 しかし最大の理由は……理性で考える以上に、無意識が納得していた。それだけだった。

 だから直接問い質す事もなく、何故を重ねる事になる。
 しかしそれはそれで、ネギのように暗い感情を想起するものではなかった。
 嫌だとは思っていたし、許せないという義憤もあったけれど、かと言ってそれを止めさせようとも思っていなかったからだ。
 ただ、どうして、と思う。どうしてソコまで行きついてしまったのか。
 明日菜自身、自分が疑問を感じているという事さえ意識しないまま。

 二人は歩いている。それぞれの悩み、それぞれの思考を整理する為の行動だったのかもしれない。
 特に会話もなく、ぶらぶらと散歩していても、もう二人の間の空気が悪くなったりはしない。
 本当に、家族のようなものになっているのだろう。二人が意識しているかは別として。

 と、まぁ考え事などしながら歩いていたからか、二人はどんどん人気のない方へと進んでいった。
 特に意識しての事ではなく、ある意味この時に限って言えば正解ではあったのだが。

 しゅたっと。降ってきたのだ。修道服のシスターが仮契約カード片手に。
 misoraと書かれたカードを持って。

「……美空ちゃん?」
「え゛?」
「美空ちゃんでしょアンタっ! 何やってんのよこんな所で、それにそのカード何っ?」
「いえいえ私は美空ちゃんなどという美少女ではありませんよ。見ての通り通りすがりのシスターでして」

 明日菜が、うわーという顔をした。
 美少女て。自分で言っちゃったよ、という顔をした。

「……何ですか、その顔」
「べっつにー。それより美空ちゃん、マジで何者よ。シスターって魔法使いなの?」
「いやいやだから私は美空じゃないって」
「魔法と宗教は切っても切り離せない関係にありますよ、明日菜さん。今はどこの魔法協会にも教会がありますし」

 ネギの補足説明に、美空がうがーっとアグレッシブに頭を抱え込んだ。

「それで、美空ちゃん。アンタが魔法関係者だって事は分かったけど、何しにこんなトコに来たのよ?」
「いやいやいやいやだからぁ。私は美空なんていう人は知らないし私は美空じゃないんだってば」

 喧々諤々、美空ちゃん、違う、美空ちゃん、違うの無限ループである。
 一分待っても全然話が進まなかった為、ネギが助け舟を出す事にした。

「それで、通りすがりのシスターさん。何か任務ですか?」
「あ、どうせなら謎のシスターって呼んで」
「……謎のシスターさん。任務内容を教えて下さい」

 流石のネギも呆れ気味だったが、一応は生徒だ。根気よく質問を繰り返す。

「あ、いや別に任務とかじゃなくってね、後学の為に試合観戦でもしようかな~って」
「本当ですか?」
「任務ダ。超鈴音に気づかれないよう会場地下に潜入、高畑先生と連絡を取り可能なら救出するコト」
「え? えぇぇぇぇっ!?」

 明日菜の絶叫が、辺りに響いた。






「よし。私たちで助けに行こう!」

 話を聞いた明日菜は即決した。
 超の思惑がどうであれ、恋する相手がピンチだと言うのなら他に理由などいらないのかもしれない。

「えーでもさ、高畑先生が捕まっちゃうわけだよ? 私たちでどうにかなるわけないじゃん」
「それはそうかもしれないけど、じっとしていられるわけないじゃない!」
「そりゃあ明日菜はオジコンだから――」
「ア・ン・タ・はっ! 元担任が心配じゃないの?」

 うがーっと怒る明日菜に対して尚も抵抗続ける美空(謎のシスター)であったが、それをネギが遮る。
 この状況に至って、ネギも静観などしていられない。
 美空に対して、甘えた事を言っていられる状況でもないのだ。

「僕も付いて行きます。僕と明日菜さんのコンビなら、タカミチには及ばなくても戦力としては十分です」
「でもさあ……」
「謎のシスターさん。来たくないのなら残っていても構いませんよ?」
「う……」

 来ないでいいよ、と言われると美空も困ってしまう。
 ネギと明日菜はそれでも地下に潜るわけだし、それで独りのほほんと試合観戦に興じれるわけもない。

「あーハイハイ、分かったよ! 私も付いて行くってば。ココネもそれでいい?」
「元々その予定」

 諦めた美空に対し、よしと頷き明日菜は先生する。

「高畑先生救出チーム、行くわよ!」





◇ ◆ ◇ ◆






「長らくお待たせ致しました! まほら武道会二回戦第一試合を開始します!」

 舞台上にはアルビレオ……クウネルと小太郎が対面している。
 アルビレオの表情はローブに隠されて見えないが、小太郎の表情は澄み切っていた。

「フフ、いい顔をしていますね。士郎に喝でも入れられましたか」
「何や、士郎兄ちゃんを知っとるんか」
「ええ、勿論。我々は盟友ですからね」

 棒立ちのアルビレオに対して、小太郎が間合いを図る。
 この距離ならば、瞬動術で背後を取れた。
 だが、小太郎はそうしない。向かい合っているだけで相手の隙のなさが分かるからだ。

 冷静に観察してこそ分かるような、静かな威圧感。
 棒立ちに見えたとしても、そこから魔法による迎撃を意識している。
 体術を使わない、魔法に対して絶対的自信のある“魔法使い”らしい、それは構えだった。

「詳しくは、そうですね。私を倒せたら教えてあげましょう。衛宮士郎の、この世で二人しか知らぬ秘密をね」
「上等ッ!」

 すぅっと息を吸い込んだ。そして、裂帛の気合で一気に吐き出す。
 タカミチの魔力放出並の出力だ。単純な身体強化としては、遥かにネギを超える。
 だが、そんなものが長く持つわけもない。
 完全に限界となる出力なんて、持つのは一瞬だけだ。

 だが。その一瞬さえあれば良かった。

「我流ッ、狼牙双掌打!」

 狗神を数体牽制に使いながらも特攻。おそらくは、今の小太郎に出来る最大攻撃。
 これでダメージがないのであれば……。

「ふむ。いい攻めです。気力が充実している。流石は士郎の弟子ですね」
「ぐあっ」

 にこやかで、のんびりとした口調とは裏腹に、小太郎の意識を刈らんばかりの手刀。
 小太郎には、予備動作しか認識する事は出来ず、ただ鋭すぎる痛みで攻撃された事を理解するだけだ。

 強い。上り詰めた魔法使いとは、技術はともかく肉弾戦も一流となる。
 それを体現するかのような一撃だった。小太郎が最大出力を少しでも緩めていたら、そのまま意識を失っていただろう。

 吹き飛ばされた先で、ふっと小太郎が出力を通常戦闘時に戻す。
 それだけで、がくんと力が抜ける感覚がした。
 全力放出の代償だ。魔術回路を使用した魔力行使であれば、代償さえ払えば限界を超えられる。
 しかし、この世界の魔法体系ではそう容易く限界など超えられないのだ。
 どんなに精神力が強くても。超える前に本能が意識をシャットダウンさせてしまう。

 だからこそ、限界ギリギリの行使もまた、精神力を大きくすり減らす事になるのだ。
 限界を超えるところまでいかなくても、近づくだけで十分負荷は大きい。
 そしてそれを支えるのは、体力重視の気と言えど意思、精神力となる。
 咸卦法のように安定した状態で合成されているわけではないから、気や魔力による単体の限界行使とは暴れ馬に無理やり乗り込むようなものだ。
 効率的ではないし、無茶をして自爆という結果に終わるのが常。

 だが。瞬間的な限界行使を意識的に行えるのなら、それらの問題は解決する。狙った方向に自爆するようなものだ。
 勿論普通の身体強化と比べて遥かに燃費が悪いが、しかし効果はある。
 例えば殴る瞬間。パンチの軌道が決まり切った状態で、加速のみを目的として限界まで出力を上げればいい。

 そんな行為に制御性などない。大雑把に狙いを付けて大砲を撃つようなものだ。
 肉体への負荷も問題だ。まともな師ならば、少なくとも小太郎のように体が出来ていない者には禁止するだろう。
 だから、この試合だけ。もしもの時、しばらく戦えなくなってもいいという覚悟の元で。

「確かにナァ。アンタは強い。士郎兄ちゃんの言うとおりや。俺じゃあ勝てん。でもな……」

 ちらり、と。視線の先には、士郎の姿がある。そして、愛衣の姿も、また。
 見られているのだ。いや、見守られている。

 これから小太郎が見せる戦いは、きっと無様なものだろう。
 足掻いて、足掻いて、泥に塗れるだけの無意味な戦い。
 決して勝てないと理解した上で、恥を上塗るだけの、それだけの行為だ。

 でも、それでいい。
 だって、小太郎には理由がある。ここで止めるわけにはいかない。
 動けなくなるまで。全力で、全開で、もうこれ以上は何も出来ないと笑って倒れるまで。

 格好悪い姿は、もう仕方ないにしても。
 これ以上、愛衣に励まされるような事だけは、絶対に――――。

「勝手に決めたんや! カッコわりぃのはこれで終いやってな!」

 言い終わるや否やの瞬動。それにあっさり対応される事は織り込み済みで、ダメージは覚悟してしがみつく。

「腕一本――!」
「おや」

 事ここに至ってもアルビレオはのほほんと、しかし確実に面白そうな笑みを見せながら対応する。
 腕を折ろうとした小太郎が力を篭める直前、実体化を解除し、まるで転移したかのように移動した。

「まだまだぁっ」

 攻撃して、反撃を食らう。
 手を変え品を変え、小太郎の攻撃手段、レパートリーの全てを費やして。
 その全てはアルビレオには届かず、小太郎にはダメージが蓄積していくだけだ。

 一方的な試合展開。小太郎の顔は腫れ上がり、もはや弱い者いじめにしか見えなかった。
 けれど、アルビレオは笑っている。
 その小さな意地を好ましく思っているからだ。
 傍目から見るとサドにしか見えないかもしれないが、対戦相手の小太郎には分かっている。
 分かってしまうからこそ、尚更力の差を感じてしまって小太郎は悔しさを覚えた。

 だが、諦めることだけはしない。ヤケになって特攻などしない。
 傍目には我武者羅に攻撃しているだけに見えるだろう。けれど、どんなに顔が膨れ上がっても小太郎は冷静だった。
 今の自分に出来る事。後何発攻撃出来そうか。どんな攻撃ならあの男の意表を突けるか。
 考えて、考えて、けれど次第にそんな事を考えている余裕も失っていく。
 痛みよりも疲労が大きい。全力行使、限界スレスレの強化は肉体的にも精神的にも疲労を蓄積させる。
 特に小太郎はその全力行使を小刻みに使っていたから、尚更疲労は大きい。
 長距離をずっと走り続けるよりもインターバルを挟んだ方が苦しいのと同じだ。

 やがて。
 会場内の声援は、小太郎一色に染まっていた。
 もうその声さえ小太郎には届いていない。そんな余分を聞き取る事になんて意識を使っている余裕などないのだ。
 無音の中で、小太郎は走る。
 それはとても心地が良かった。

 世界の中には自分と相手。まるで会話でもしているかのように拳を応酬させる。
 それが全てで、果てなどないように思えて。
 もう疲れも、何故戦っているのかも忘れてしまっていた。
 ただ、この楽しい世界を、一秒でも長く続けていたかったのだ。

 しかし。

「これ以上は危険です。貴方の年齢で無茶を重ねれば後遺症も……」
「そんなん、決めるんはお前やない。限界は、俺が決める!」

 実際、限界ではあったのだろう。
 小太郎に最初の勢いはない。速さも強さも重さも何もかも。
 アルビレオと戦い続けるには不足過ぎる。

 けれど、小太郎は戦い続けるのが心地良かったのだ。
 最早アルビレオは笑っていない。笑っているには、小太郎の状態が異常過ぎた。
 ある意味で、衛宮士郎の弟子である、というのが納得できる程に。
 この年齢でこれ程まで、と将来に期待してしまうからこそ。その身を削るような戦い方が不安になる。

 その気になれば、アルビレオは一瞬で小太郎の意識の糸を切れるだろう。
 それにさえ気づかず、小太郎は戦い続ける。動けなくなるまで。それが、最初に決めていた事だから。

 だが、それはアルビレオが言うように危険だった。
 気は体力、魔力は精神力と言われる。
 精神力で扱う魔力ならば、気絶という解り易い形で意識はシャットダウンされ、肉体も停止する。
 だが、体力を根幹とする気はどうだろう。
 肉体の悲鳴を聞かず、限界ギリギリの戦いを強いるのは強い意思、精神だ。
 体が休みたがっているのに、頭がそれを受け入れない。
 勿論、本当に限界を迎えればどんなに意思が強くとも身体は指一本動かない。
 最悪でも死ぬ事はないだろう。けれど小太郎はまだ幼い。
 身体が出来上がっていない状態で、そんな無理を重ねればどうなるか。
 その最悪は……。

「いいえ、ドクターストップです。貴方はここでお休みなさい」

 重力魔法。それは、小太郎に何も認識させないまま、身体を地面に縫い付ける。
 無理を重ねて動いていた身体だ。一旦停止してしまうと、起き上がるのには動き続ける以上の力が要る。
 朧気な意識の中で、小太郎は遂に観念した。

 ここが限度。ここが限界。
 もう、身体は動かない。動かなくなるまで、頑張れた。
 それで愛衣が言うとおり、負けても前を向いていられるか、それは次に目覚めた時に分かるだろう。
 もう寝よう。薄れていく意識の中で、小太郎はそう思った。
 思って、本当に薄れて途切れてしまうその直前。

「頑張れー!」

 簡単な、今会場の誰もが口にしている応援の言葉。
 その声が、何故か小太郎の耳に届いた。今までアルビレオ以外は何も見えていなかったのに。
 不思議だ、と小太郎が感じている間に、身体は動いていた。
 もう動く力なんて残っていないのに、気も底をついて強化も使えないのに。

 こつん、と。
 今まで、一発足りとも当たらなかった小太郎の拳は。
 吸い寄せられるように、アルビレオの腹に突き刺さった。

「は、は……一発……やっと、当て」

 そこで、本当に力尽きる。小太郎の身体は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。

 一発。一発だ。
 貫き通した意地という一本の槍は、確かにアルビレオに届いていた。
 だから、悔いなどない。悔しがる必要なんて全くない。
 少年は、世界最強クラスの魔法使いに一撃入れた。

「認めましょう。貴方も、いずれ私のお茶会にご招待します」

 それは、アルビレオの珍しい感心した笑みと、気絶した小太郎の安らかな表情が証明していたのだ。









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夏美「最後の応援、アレ私のだよね? 愛の力だよね?」
士郎「いや、案外私の声援が届いたのかもしれん。師弟愛だな」
愛衣「いやいやいやいや。士郎さんはないでしょ。ないですよ。ここはヒロイン枠推奨です」

(拍手)
 
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あとがき

約束通り、一周年という事で更新です。本当なら二話一挙更新したかったんですけど、間に合いませんでした。

さて、本編の内容です。
これで小太郎も一皮剥けて次への成長へ歩き出します。パートナーが彼女ってのは大半の予想通り。最後の声援もね。
士郎は相変わらず加速度的に状況が悪くなってますが、これは仕方ない。予定調和では終わらないし。

では次回予告。
一際士郎との関わりが深い刹那は葛藤を抱えながら舞台に上がり、士郎の提案に揺れ動く。
彼女が選ぶのは剣か友か、それとも恋か。
次回、夢破れし英雄 第67話「二回戦(2)運命決定証文:白紙(仮)」。お楽しみに。

2010.09.08 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


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