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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第65話


「幕間一 葛藤に平手打ち」  世界樹近くのオープンカフェ。
 そこに、主要な魔法先生たちが集っていた。

「うわー、タカミチさん本気出ちゃってますよ」
「いやいやコレは男として仕方ないよ。ネギ君がここまで強いとはなー」
「教授、ふざけないで下さい。集まった理由は他にあるはずです」

 のんびりと話す明石に刀子が釘を刺す。
 集まった理由。
 そう、この集いは単なる情報交換の為の会合ではなく、緊急対策会議という名の招集だった。

「でもね。実際の所、学園長が否定的なんだろう?」
「だからと言って、事態は静観できるものでもないでしょう」

 ゆったりと刀子に返答する明石に噛み付いたのはガンドルフィーニ。
 元々、この会合も彼が提案し幾人かが同意した事により成立している。
 ちなみに、明石も一応はこの会合の必要性を感じ、同意した人間の一人ではあった。

「衛宮士郎と超鈴音が手を組んだ可能性、か……」
「そもそも、彼がこのような表舞台に立ち、その技能を披露するという時点で不自然です。
 今まであれほどひた隠しにしてきたと言うのに」
「まぁ、確かにね」

 士郎は、その隠し方が巧妙だった。
 彼の意図しない偶発的要素を利用したり、意識の裏をかいてくる。
 しかもそれでいて使うべきタイミングではその技能を使用しているのだ。
 出し惜しみしているわけではなく、異常なまでに自身の技能を見せる事に慎重な男。
 それは、数週間前にこの場の誰もが目を通した、衛宮士郎の調査レポートにも記載されている。

「切り札を隠すのはある意味当然の事では? 各々、知られていない技の一つや二つはあるでしょう」
「視覚的な映像への対策まで講じているのだよ? 異常と言う他ない。その隠蔽技術が既に、ね」
「実際、僕たちが知り得ている彼の技能も基本的には憶測で成り立っていて、不明瞭な部分は大きいですよね」

 瀬流彦の指摘に一同が唸る。
 衛宮士郎に関しては、どんな切り札が隠されていても驚かない。それが共通認識だった。

「取り敢えず、問題は何故彼が武道会に参加したのか、だろう」
「やはり、超鈴音と繋がっているというのが濃厚なのでは?」
「その判断を下すには情報が足りないね。タカミチ君の報告を待つか……こちらからの偵察も増やそう」
「エヴァンジェリンとの関係性が理由になった可能性は? 彼女との関係が悪化したのでは」
「その可能性は捨てきれないね。
 ルールでもなければエヴァンジェリンの不利は否めないし……示し合わせて、という可能性はある」
「もしそうだとしたら、何故彼がわざわざそんな申し出を受け入れるのか、だな」
「それは不思議ではないでしょう? 正々堂々、尋常の勝負というヤツですよ」
「しかし、“あの”衛宮士郎だからねぇ」

 弐集院の呟きに、数人が苦笑する。
 喫茶店を開くに至った経緯と、その経過をほとんどの人間が聞き及んでいるせいで、この反応も自然なものだった。
 とは言え、それとは別に、士郎のイメージによるものも大きいだろう。

 士郎の行動は、戦った痕跡が時折発見されてる程度で、基本的に他の魔法先生たちにその行動を察知されない。
 察知されないよう動き、後からタカミチが処理をしていたり、或いは学園長にのみ話を通している。
 故に芽生える不信感だ。
 上には話が通っていても、自分たち末端には何も無い。
 機密レベルが高いとか、知る必要がない問題だとか、それ以前に信用の問題だ。
 とてもではないが、同じ組織に属しているようには感じられない。

 事実、士郎は関東魔法協会に所属しているのかと問われると、否だ。
 客分、とでも言えばいいのだろうか。
 扱いで言えば龍宮などと同じくフリーで仕事だけを受ける立場にある。

 が、士郎はそのような扱いを受けるには些かイレギュラー過ぎた。
 加えて、その強さ、不明瞭さも目立つ。
 やっている事は派手なのに、気付けば事は済んでいるのだ。
 しかも、その結果に対して過程はとにかく不明瞭。
 どうやって、というその方法は掴めないまま。

 これでは如何に正しいことをしていても、疑心暗鬼になっても仕方がない。
 彼ら魔法先生には、この麻帆良の地を管理・保護しているという自負があるのだ。
 その管理など意に介さず好き勝手に行動されて、気分がいいはずもない。

「まぁ、彼の思惑を予想しても始まらないんじゃないかな。それより対策の内容を考えよう」
「しかし、最低限超鈴音との繋がりは確かめる必要があるでしょう。思惑も分かるに越した事はない」
「憶測だけなら害にしかならないよ。彼ならその予想を逆手に取って、こちらをハメるぐらいの事はやるだろうしね。
 それに何より、まだ彼が僕らと敵対すると決まったわけじゃない」

 そうは言うものの、明石だって士郎の事を信じてはいなかった。
 かつて、最初の会った時の事。
 明石は士郎に対して、目的を問うた。
 その返答は何とも不明瞭で、誤魔化したと取られても不思議ではないもの。
 だから信じていないというわけではない。
 いや、少なくとも士郎がこの学園そのものに害する意思がないという点だけは、己の感性を信じている。

 ただ、その意思の向かう先、目的が辿る道が、必ずしも一致はしないだろうという事。
 積極的に、この学園に住まう者たちに迷惑をかけたりはしないだろう。
 むしろこの街を守ろうとさえするはずだ。その点に関して、明石はほぼ絶対の信頼を置いている。
 だが、仮に士郎の目的が魔法先生たちと大まかに同じものだったとしても、同じ方法を採るとは限らない。
 この街に損害を与えない範囲で、何かしら、彼の目的大義と合致するものを超鈴音が提供できれば。
 簡単に士郎は寝返るだろう。

 いや、寝返るという表現は相応しくない。
 今まで、衛宮士郎が魔法協会の味方であったことなど、一瞬たりともないのだから。

 彼が味方をしていたのはあくまで組織に関わる個人であり、組織そのものではない。
 だが、そんな事は本来ならば不可能なはずだった。
 個人一人で対する事が出来る程、組織というモノは甘くない。
 武力でも、情報力でも、ちっぽけな個人とは比較にならないのだ。

 なのに、衛宮士郎はたった一人で組織と同格。
 麻帆良、いや関東魔法協会という大きな組織を相手に、今まで譲歩を引き出してきた。
 只の個人が。組織力も資金力もない、最初は何のコネもなかった、郊外に喫茶店を構える一人の人間が。
 一つの組織を相手に、単身動き、勝利を収めているのだ。

 尤も。厳密に言えば、士郎とて組織と同格とは言えない。
 決して上回る事はできないし、あくまで同格になれるのは限定的な条件がある時のみだ。
 しかし士郎は、必要な時は必ず譲歩を引き出してきた。
 それは彼の行動が、個人であるが故に組織である魔法先生たちの常に一歩先を行っていた事が理由だろう。
 しかしそれでも乱発できるわけがなく、だからこそ使いどころを間違えればあっという間に士郎の立場は崩れてしまうのだ。

 けれど士郎は間違えなかった。
 むしろ、その場では悪手だと思えた選択でも、後々に振り返れば有効な選択だったのだと気づいてしまうような。
 尤も、その大半は運であり、その結果が必ずしも実力に繋がるわけではない。
 しかしながら、それが衛宮士郎の実力であると魔法先生たちが錯覚する程に、士郎の戦略は機能している。

「しかし、憶測に怯えて努力を放棄するわけにはいかない。それでも我々は、彼の思惑を探るべきでしょう」

 ガンドルフィーニだ。
 確かに、それも一理ある。が、彼の意見には確信があるようだった。
 衛宮士郎が麻帆良の敵に回る、という事への。

 勿論、彼の確信に証拠はない。あるのならば、すぐに開示して対策を立てているはずだ。
 ガンドルフィーニの確信は今までの確執に関係したものではあるのだろう。
 しかし、だからと言って彼は私情を挟むような男ではない。
 確かに衛宮士郎が麻帆良の敵に回るのは潜在的な脅威だ。神経質な対策も必要といえる。

 だから、明石もガンドルフィーニも、どちらも間違いではない。
 それらは一つの意見であり、この場はその意見を擦り合わせる場なのだから。

「優先順位は明確にすべきだよ。彼の思惑がどうであれ、我々がまず最初に決めなければならないのは彼が敵に回った時の対処であるはずだ」
「優先順位というのなら、思惑を知らずして決定した対処が上手く機能するでしょうか?
 逆に彼に付け入る隙を与えかねませんよ。それを指摘していたのは教授のはずですが?」

 火花散る、という程激しくはないが、二人の衝突は珍しいものだった。
 しかしこのまま意見を衝突させているだけでは話が進まない。
 元よりこの集まりも学園長の許可を貰っているわけではなし、言うなればストライキにも近い。
 学園長にバレないためにも、本来の業務を疎かにしないためにも、あまり時間は残されていなかった。

「取り敢えず。現状、確固たる方針を打ち出すには情報不足のようですね。ならば、この場は解散としませんか?」
「まだもう少し、時間があると思うが……」
「しかし、お二方とも意見は平行線でしょう。多数決を取るにせよ、長引くのが目に見えています。
 ならば偵察の帰りを待っても良いのでは? どうせ、割ける人員はそう多くないのですし」

 シスター・シャークティの意見も尤も。
 取り敢えずは告白阻止という目的がある。士郎の事は、危険要素でしかなく確定情報ではない。
 タカミチの報告もまだなのだから、現状は保留……というのが正しい選択だろう。

 明石とガンドルフィーニがそれで内心納得するかはともかくとして、立場上ここは両者引き下がるしかない。
 となれば、残る議題は誰を偵察として増援に向かわせるか、だが。

「提案ですけど、衛宮さんと超鈴音、双方に別々の偵察を出しませんか?」

 瀬流彦が提案するのは珍しい事だった。
 彼は新米でこそないものの、まだ若く実績もない故に魔法先生としては発言力が小さい。
 だからと言うわけではないが、このような場で瀬流彦は流れに身を任すのが常だった。
 その彼が、発言した理由。

 瀬流彦は、厳密に言えば衛宮士郎支持派だ。
 特に修学旅行以後その動きが顕著になったのだが、今まであまり目立っていない。
 基本中立的な立場を取る者が多い中、明確に支持派に回る人間は少なかった。
 その発言力はともかくとして、支持する人間がいるという事は意味がある。

 だがそれでもこの状況において、瀬流彦も一方的に士郎を擁護する事はできない。
 瀬流彦自身、本当に麻帆良の敵に回った可能性はあると思っていたし……何より、支持した所で意味はないのだ。
 既に士郎が疑われている現状で擁護したところで、瀬流彦の立場が悪くなるだけ。
 ならば、士郎が潔白であることを信じ、確認をハッキリさせた方がいい。

「あまり親交がない人間が彼に近づくと、問答無用で警戒されます。
 少しでも仲がいい人間が張り付いている方が、監視としても機能するのではないでしょうか」

 士郎の用心深さを皆知っていた為、その提案はあっさりと受け入れられた。
 ただし、流石に提案した瀬流彦をその任に当てる事はない。
 士郎に対して友好的である人間だとしても、麻帆良を裏切るような真似はしないと誰しも思っているが……要らぬ疑惑を植えつけても仕方がない。

「では、誰か自薦他薦はあるかな?」

 明石の問いに、答えられる者はいなかった。
 ここで自分が行くと言う事は、ある意味で自分が生贄になることを許容するようなものである。
 士郎が本気で魔法先生たちの排除に動き、そして一対一で遭遇してしまったら。
 この場にいる誰もが、逃げることさえ出来ない事を理解している。
 運が良ければ逃げる事ぐらいは可能かもしれないが、そこまで。
 だからこそ、逆に他薦するのも後々小さくない摩擦を生む可能性があった。

「……私が行きましょう」
「刀子さん、いいのかい?」

 刀子は常の無表情とは違い、複雑そうな色を見せながら答える。

「ええ。おそらく私が一番適任です」

 刀子は……ある意味、士郎を擁護する立場にいてもおかしくないぐらいには、士郎と親交が深い。
 けれど彼女は絶対的に中立だ。
 それは、他所者である神鳴流の刀子がこの麻帆良で円滑に仕事をしていくための処世術でもある。
 加えて仕事にシビアだと言う事も皆知っている為、士郎に情けをかけて……なんて事がない事も理解されていた。

 後は、もしも士郎に襲われたとしても逃げ延びてくる可能性が高い、というのもある。
 刀子は一度士郎と打ち合っているし、その時の敗戦から対士郎のシミュレートは幾度となく行っている。
 それだけでどうにかなる程甘くはない事は何より刀子自身が知っていたが、ないよりはマシだろう。

 故に、適任は葛葉刀子。
 まぁ、単純に役職的にも動ける人間が少なかった、というのもある。
 明石やガンドルフィーニは持ち場を動けなかったし、刀子は告白阻止という任務には相性が悪い。
 どうせなら、もっと役に立てる任務の方がと思うのも当然の事だった。

「では、残るは超鈴音への偵察だが」
「それは私が行きましょう。丁度生徒二人が使えなかったので」

 酷い言い草ではあるが、美空の事は割合有名な為先生たちもシャークティに同情的な視線を向けた。
 美空はともかく、ココネはいいとばっちりである。

「それでは、次もすぐに集まってもらう事になるかもしれないけど、よろしく頼むよ」

 明石の締めで、その場は解散。
 刀子は即座に会場に向かい、シャークティは美空とココネを呼び寄せるべく念話を行使した。





◇ ◆ ◇ ◆






 救護室。先程までネギが使っていたベッドに、今はエヴァンジェリンが横たわっている。
 意識はあった。が、体はちっとも動かない。
 幻想空間の中での事だとは言え、肉体のほとんどが一瞬で蒸発してしまった為、精神と肉体が上手く結合していないのだ。
 しばらく……一週間も経てば元のように動かせるだろうが、今日一日は腕一本動かすのも辛いだろう。

 そんなエヴァンジェリンを見舞っているのは、ネギに明日菜、刹那、高音である。
 要するに、あの戦いの結末を見届けた者たちだ。
 ちなみに愛衣は士郎のところに行っている事を、高音は知らない。

「エヴァンジェリンさん。話せますか」
「ああ……まぁ、それぐらいはな。少々辛いが、質問には答えなければならないだろう」

 少々どころではなく本当は指一本動かしたくはなかったのだが、自分の撒いた種だ。
 戦闘中はテンションが上がり過ぎて適当に扱ってしまったが、幻想空間に侵入されたのはエヴァンジェリンの落ち度とも言える。
 そもそも士郎を無理やり引きずり込むのが綱渡りだった為、侵入者対策のプロテクトを構築する余裕がなかったのも事実ではあるのだが。

「マスター……あの死体は、一体?」

 死体、というよりは腕や足の事を言っているのだろう。
 頭部だけはなかっただろうが、バラバラ殺人で換算すると何人分になるのか考えたくもない数が散乱していたはずである。

「そうだな……ぼうや、お前はアレが何だと思っているんだ?」
「………………」

 分かっては、いたのだ。ネギにも、あの場の状況が何を示しているかという事ぐらい。
 それでも聞かずにはいられなかった。
 信じたくはなかったから。でも、同時に納得もしていた。

 ネギが、士郎に感じていたもの。そして、エヴァンジェリンに感じていたもの。
 近いからこそ認めたくない、暗く昏い殺し合いの世界。

「エヴァンジェリンさん。貴女は、士郎さんを殺すつもりだったのですか?」

 刹那のそれは、静かな問いだった。そして、誤魔化しを許さない声。
 同時に、高音も敵意の眼差しをエヴァンジェリンに向けている。

 それも当然ではあるだろう。明日菜でさえも、この件について擁護するつもりはなさそうだ。
 それだけショッキングな光景だった。
 感覚が麻痺してしまう程の光景というものを、明日菜は初めて理解したのだから。

「結果的に死ぬ事はあっただろうな。私も、衛宮士郎も、お互い殺すつもりで戦った。
 己の意識が死を認めない限り死なない空間ではあるが、だからこそ諦めれば死ぬ。
 本当ならばそんな制限などなく殺し合いがしたかったのだがな。
 生憎、封印された私が奴と戦おうと思ったら、この程度の小細工は必須だった」
「そんな勝手な……っ」
「合意の上だ。関係のない人間がガタガタ抜かすな」

 刹那も高音も、エヴァンジェリンの威圧感に一瞬気圧される。
 エヴァンジェリンのした事を許せないという気持ちはあるのだが、如何せんこの件において関係がないというのは事実だった。
 同じ手が士郎に通じるはずもないし、これ以上心配したところで事態は何も変わらない。
 士郎が負けているのならばともかく――最終的には、圧倒的な勝利だったのだ。
 むしろ、これ以上のお節介は士郎が望まないだろう。

 それが分かったから、二人は押し黙るしかない。
 エヴァンジェリンを認める事はできないが、しかし彼女が言うように、これはエヴァンジェリンと士郎の問題なのだ。

「マスター、一つ質問があります」
「なんだ、ぼうや」
「士郎さんが最後に使った剣、あれは……」

 エクスカリバー。その名は、ネギにも聞こえてきていた。
 士郎自身がそう名乗り、使った。
 それは伝説を模した想像の産物などではなく……正真正銘、あれこそが本物であると誇れるような輝きだったのだ。
 見ているだけで、何も考えられなくなるような神格。
 黄金に染められていく世界を見て、何の疑いもなくかのアーサー王を幻視できるような。

 エクスカリバー、ひいてはアーサー王は日本でもメジャーではあるが、現地であるイギリスではその格が違う。 
 文字通り、知らない者はいない。そんなレベルの存在だ。
 実際に、キングアーサーが存在していたのかどうか、それは定かではないとされている。
 けれど、アーサーの物語を知らない者はいない。

 だからこそ、ネギには信じられないのだ。
 常識的に考えればあれは偽物。単なるイミテーションか、或いはリスペクトの産物か。
 そんなところだと考える。
 けれど、理性ではなく本能が、あれを認めていた。
 そんなわけがないと思いつつ、どうしようもなく本物であると。

「エクスカリバー。奴はそう言っていたな」
「エクスカリバー、ですか?」

 刹那が分からない、という顔をする。ネギにとってはそれが不思議でならないのだが、明日菜も似たような顔をしていたから、文化の違いだと理解する事ができた。

「エクスカリバーというのは、アーサー王伝説に登場する聖剣です。
 日本ではあまり有名ではないのかもしれませんが、僕の国だとメジャーな英雄譚なんですよ」
「じゃあ、士郎さんが最後に使った剣が、その剣だって事?」
「それは定かではない、が……アレが偽物だとするのなら、その方が脅威だな」

 偽物であるということは、それを制作する手段があるという事だ。
 あんなモノを量産されたら、世界のパワーバランスさえ崩しかねない。

「けれど、本物だなんて信じられません。一体どこで手に入れたのか……」
「あの場は幻想空間だからな。存在していて当然だと認識できたなら、己が持たないモノでも再現できる」
「ではマスターは、少なくとも士郎さんが本物を見たことがある、と言うんですか?」
「幻想空間の特質を利用したのかどうかは別として、その可能性は高いだろう。
 まぁ、かの剣は湖の貴婦人に返還されたというからな。妖精郷に辿り着ければ見る機会もあるだろうさ」
「そんな! それが事実だとしたら歴史的大事件ですよ!」

 ネギの驚愕についていけない刹那と明日菜だったが、魔法世界出身とは言え高音は話を理解できていた。
 尤も、この世界で暮らしているのならばある程度は常識のようなものだ。
 特に魔法生徒にとっては、だが。

「伝説上の武器は担い手を選ぶと聞きます。もしも権限移譲されているのなら、士郎さんを狙う者は後を絶たないでしょうね」
「だろうな。案外、奴が異常なまでに自分の能力を秘するのはその辺りに理由があるのかもしれん」
「士郎さんが妖精郷の出身である可能性はないでしょうか。
 元よりこの世界、旧世界、新世界、魔界のいずれとも違う世界の出身だったのなら」
「秘された異界というのなら、様々な神話や伝説に名前があるからな。突飛な説ではあるが」

 エヴァンジェリンは、士郎が麻帆良に現れた時の事を思い出していた。
 エヴァンジェリン自身はその時の事をリアルタイムで知っているわけではないが、後に茶々丸が情報収集した結果によれば、その可能性も信憑性が跳ね上がる。
 魔法世界とのゲートかつ聖地である世界樹の麓に、血塗れで倒れていたというのなら。
 衛宮士郎は、異界からの逃亡犯なのかもしれない、という憶測はとても自然な発想のように思えたのだ。

 現に、あの本物としか言いようがないエクスカリバーの件もある。
 それが妖精郷とは限らないが、士郎がどこかの異界に長い間いた可能性は高いとエヴァンジェリンは睨んだ。
 何故なら、茶々丸をもってしても衛宮士郎の実在を証明できなかったからだ。
 過去数十年に渡って存在した痕跡が見当たらない人間。
 それが異界からの来訪者であるとすれば、あの異質な能力といい納得できる事は多い。

「貴様は衛宮士郎の弟子なのだろう。何か聞いていないのか?」
「いいえ。もし仮に知っていたとしても、貴女に教える事はないでしょう」
「ほう? 義理堅い事だな」
「弟子であるのならば当然では? そうでしょう、ネギ先生」
「はい。もうマスターが悪い事はしないと信じてますけど」

 言って、ネギはエヴァンジェリンの反応を上目遣いで確認する。
 怒られると思ったのだろう。
 実際、エヴァンジェリンの表情は怒りと呆れと……一割ぐらいの照れで構成されていた。

「馬鹿な事を言うな。私は悪い魔法使いだよ。正義の味方である奴とは正反対さ」

 エヴァンジェリンはいつかタカミチが言っていた事を思い出す。
 やってきた事は、エヴァンジェリンよりも余程非道い。けれど、彼は正義だったのだと。
 過去がない奴がやってきた事。
 その内容が、エヴァンジェリンよりも非道いというのなら――成程、異界であれば有り得ない話ではない。

 世界には常識がある。血と殺戮が当たり前の世界もあるだろう。
 一昔前は、この世界も似たようなものだった。世界中で血が流れぬ日がない事こそが普通だった。
 ただ、それさえ生温い世界だったのならば。平和なんて概念さえないような世界なら。
 そしてその中で正義であるのなら、確かにエヴァンジェリンよりも士郎は非道いだろう。
 エヴァンジェリンには士郎がどの程度の時間を生きてきたのか、それは分からない。
 けれど、築きあげてきた屍は、或いは士郎の方が多いのかもしれない。
 漠然と、そう思った。

「まぁ、私と衛宮士郎のような戦いは、ぼうやにはまだ早い」

 ナギと同じ道を歩むなら、いずれは経験する事になるだろう。
 この世界も一時の平和を保っているが、それも平和を維持しようと影で支えている者たちが居るからこそだ。
 ネギもまたナギと同じように、そんな影の中でも最も昏い闇を歩むなら、いつかは。

 けれど、まだ早い。ナギでさえ、その闇に挑んだのは大戦の終盤からだ。
 年齢だけが全てを決するわけではないが、その精神性においても、ネギではまだまだ傷つき倒れるだけ。
 傷つき倒れても、また立ち上がる事が出来れば大きな成長を遂げる事ができる。
 エヴァンジェリンの役目は、そうして立ち上がる事が出来るように鍛えてやる事だ。
 決して傷つき倒れないようにする事ではない。だからこそ、“まだ早い”のだ。あらゆる意味で。

「貴様ら、衛宮士郎の事を思うのなら今回見たモノは他言するな。見たという事実も隠せ。
 漏れれば奴は麻帆良から姿を消すぞ」
「何故です?」
「それはお前たちの方がよく分かってるんじゃないのか? 刹那はともかく、魔法生徒として麻帆良に在籍しているのならな」

 高音は顔を歪めた。
 エヴァンジェリンが言っている事は、よく分かっている。
 麻帆良、関東魔法協会という組織と衛宮士郎という個人の亀裂は、最近特に大きなものとなった。
 一介の魔法生徒でしかない高音の耳にすら届く程に、だ。

 逆に刹那は、最近魔法関連の事象からは距離を取っていたからその辺りの事情は知らない。
 修学旅行前の時点における士郎の立場ならば多少分かっているから、あれから状況に変化があった事は推察できるが。

 ただ、どちらにしても認識が甘いのは事実だった。
 衛宮士郎の立場が、どれだけ薄氷の上に成り立っているのかを理解していない。
 そして、それでも士郎が麻帆良にいる理由。
 様々な面倒事を背負い込んで、その度に立場が悪くなっているというのに、逃げ出さない理由を。

「そもそも奴にとっては麻帆良など恩があるだけで居心地がいい場所ではないからな。
 最近は西との関わりや独断行動のせいで魔法先生共とは関係が悪化するばかりだ。
 爺も逃げられないようにあの犬を付けたりと忙しいだろうが。
 衛宮士郎の麻帆良に対する貢献など微々たるものだが、そもそも奴が恩を感じているのは一部の個人だけだからな。
 爺にせよタカミチにせよ、ある程度の義理は果たしている。そろそろ潮時だと考えていてもおかしくないぞ?」

 あくまで予想だという口調だが、エヴァンジェリンは士郎本人に確認している。
 麻帆良を去る覚悟をもって、士郎は超に協力しているのだ。
 逃したくないのであれば……士郎に麻帆良にいて欲しいと思うならば。
 そう願う者が、その努力をしなければならない。今まで士郎が全て請け負ってきた分だけ、だ。

 エヴァンジェリンの行動も、ある意味では同じ事。
 去って欲しくない、ではなく去る前に決着をつけたい、ではあったが。
 刺激という意味では、決して彼女は認めないだろうけれど――エヴァンジェリンも、衛宮士郎にいて欲しいとは思っている。

 だから発破をかけた。危機意識を持たせた。
 取り分け、士郎と縁が深いのは弟子だと自称する彼女らなのだろうから。

「さて、もういいだろう。私も些か疲れた。そろそろ眠らせてもらうぞ」

 そうして、返答を待つ事なくエヴァンジェリンは眠りについた。





◇ ◆ ◇ ◆








 倒れたエヴァンジェリンが救護室に運び込まれ、ネギたちが見舞いというより質問をしている頃。
 勝者であり、実際には傷ひとつないはずの士郎は屋根の上で蹲っていた。

「あの、大丈夫ですか? 何なら救護室で休んだ方が……」
「大丈夫だ。少し疲れただけだからな、すぐに回復する」

 屋根の上という死角にわざわざ逃げ込んだというのに、愛衣は箒であっさりついてきていた。
 いくら人目がないからと言って、堂々と箒で飛ぶのはどうなんだと思わずにはいられない士郎である。

「ハァ。やはり、流石は真祖の吸血鬼と言うべきだったな。桁違いだ」
「でも、士郎さんは勝ったじゃないですか」
「そんなものは彼女が封印されていたからに過ぎんよ。
 もしも封印がなかったら、かなり特殊な条件が揃った上で十回に一回勝てるかどうか、というところだろう」

 封印がなかったら、なんて前提で考えるならばそれでも十分凄かった。
 大体にして何百年も前から魔法界ではナマハゲと同類扱いされてきたような正真の化物である。
 条件さえ揃えてしまえば勝てる可能性がある、と断言できてしまう方が愛衣のような凡人からしてみると異常に見えた。

「それより佐倉、一つ頼まれてくれないか?」
「何でしょう?」
「小太郎を呼んできてくれないか。試合の前に、伝えておきたい事があると」

 正直、一回戦の試合内容について小太郎が悩んでいる事を知っている士郎としては、愛衣をメッセンジャーに使いたくないところはあったのだが。
 適任というか、この場にいるのが愛衣だけな以上、愛衣に頼む以外に手段がない。
 自分で探しにいければそれが一番いいのだが。
 生憎と、今の士郎はエヴァンジェリンと同じで指一本動かしたくない状況にあった。

 その士郎の状態を知ってか知らずか、単純に師匠の頼まれごとをこなす弟子としての従順さなのか、返事一つで愛衣はすぐに飛び立った。
 相変わらず箒で。まぁ麻帆良で、しかも学園祭ならばいくらでも誤魔化せそうな気はするが。

「ふぅ……」

 思わずついてしまった溜息に、士郎は苦笑する。
 疲弊というよりはダメージが蓄積しているような状態だった。
 精神体とは言え、ほぼ完全なエクスカリバーの投影と真名開放などそのまま死んでもおかしくない負荷だ。
 肉体には何のダメージもないから、まだマシと言えるかもしれないが。

 それでも、軽い幻痛はあった。
 酷く気怠い脱力感に、切り裂かれるような幻痛。熱に魘されているような感覚だった。
 いくら軽いと言っても、何十回と殺された痛みのフィードバックだ。
 逆に肉体との非整合性が、士郎の精神をかき乱していく。これでは鞘による回復も効くがどうか分からない。
 精神の解体清掃でも施せば、ある程度は回復するだろうが。

 尤も、それでも体を動かす事ができないわけではない。
 エヴァンジェリンと違って、最後はほぼ完全な肉体を保持したまま帰還できたのが良かった。
 そうでなければ次の試合は棄権するハメになっていただろう。
 それどころか、そのまま死んでいたかもしれない。

「話って何や、士郎兄ちゃん」

 気がつくと、小太郎が屋根の上に一足跳びで着地していた。後からふわふわと愛衣も姿を見せる。
 士郎は二人の気配にほとんど気付かなかった事に自分の現状を再認識し、冷や汗をかいた。

「ああ、次の試合の事だ」
「何や、助言でもくれるんか?」

 助言というよりは、おそらく宣告になるだろう。
 犬上小太郎では、どうやってもアルビレオ・イマには勝てない。
 純然たる実力差、比べる事さえ理不尽な差だ。加えて、その術法の反則さもある。
 実力差は仕方ないとしても、その術については助言を与えてもいいだろうと士郎は思っていた。

「そうだ。彼の使う術が少々反則なのでな。公平を期する為に教えておきたかった」
「反則?」

 士郎はアルビレオの使う術について説明した。
 試合に出ているアルビレオは分身体で、攻撃してもダメージを与えられない事。
 本体はおそらく麻帆良の地下、4km程の場所にあるだろう事。
 そしてその正体は、紅き翼の一員、世界最強クラスの魔法使いである事。

「つまり、何や。兄ちゃんは、俺が勝てへんゆーとるんか」
「そうだな。お前は勝てないだろう。将来の事は分からないが、少なくとも現時点ではな」

 小太郎は震えた。怒りと、落胆と、劣等感が混ざり合い感情を制御できない。

 やる前から決め付けるな、と吠えたかった。
 やってみなければ分からない、と叫びたかった。
 絶対に勝って見せると、誓いたかった。

 けれど、勝てないと、そう宣告したのが士郎だったから。
 一度どうやっても勝てないと心を折られて、まざまざと見せつけられた力の差。
 そして、おそらくは次の対戦相手もその領域にいる者だ。

 越えたいと思うし、超えてやるという意気込みも小太郎にはある。
 けれど、格下である愛衣とも互角の試合をしていたのだ。
 そんな体たらくで、何故世界最強だと謳われる者たちに挑戦することができようか。

「いけずやなぁ、兄ちゃんは。そんなん言われて、どないしろっつーんや」

 自信が、ない。努力しても努力しても、少しも差を縮められた気がしない。
 自分は本当に成長しているのか。前へ進めているのか。
 士郎の元で鍛えるという選択肢は、果たして正解だったのか。

「小太郎」
「何も言わんといてや。まぁ、やるだけやって来る」

 ひょい、と。身のこなしは軽く、けれど心は重く、小太郎は士郎の前から姿を消す。
 士郎も追う事はできたが……そうしてもいいのか分からなかった。

 士郎の予測としては、小太郎が激昂してやる気を出してくれるものと思っていたのだ。
 勝敗を勝手に決め付けるな、何と言われようとも俺は勝つ。
 そう、言ってくれるものだと思っていた。

 予想が外れてしまえば、士郎にできる事はない。戦いならばともかく、人の心、感情は。
 特に、士郎の苦手分野なのだから。

「士郎さん。私、ちょっと見てきます」
「だが……」
「私は私なりに、あの子に言いたい事があるんです。上手くいくかは分かりませんけど……多分、士郎さんよりは上手く出来ますよ」

 愛衣は、士郎の不器用さに苦笑しながら、今度は箒を使わず屋根から飛び降りた。
 人の確認は勿論だが、魔法でも使っているのかスカートが些かも揺れる事なく、その所作だけで言えば上品でさえある。

「知らぬ内に子供は成長する、か……」

 心配ではあったものの、取り敢えず士郎は愛衣に任せてみる事にした。
 愛衣は子供ではあるが、確かに成長している。その様が見て取れるように、早回しに成長している。
 そんな時ほど躓きやすいものではあるが……燻っている小太郎となら、案外いい化学反応を起こすかもしれない。

 愛衣よりも小太郎が大事であるとか、そういうわけではないけれど。

「これも青春……なのか?」

 あんまりにもあんまりだった自分の青春時代を少しだけ思い出して、士郎はまだ幼い二人にエールを送った。





◇ ◆ ◇ ◆





「小太郎さん」
「……何や」

 地面を見詰める背中に、愛衣が呼びかける。
 呼びかける声も、返す声も、重い。雨でも降ってきそうな程に、どんよりと暗かった。

「こんな所に居てもいいのですか? 次は試合でしょう」
「まだ時間はあるやろ。あんだけ壊されとったんやから」

 士郎とエヴァンジェリンの戦い、その前哨戦において。
 士郎の一撃は舞台の三分の一程吹き飛ばしていたし、タカミチと違い土台を崩してしまったから修理には時間がかかっていた。
 観客もしばし休憩、と飲み物などを買いに出ている者も多く、これ幸いと和美が売り込んでいる。

 そして、そんな声はこの場に遠い。
 勝った方と負けた方。勝者が暗く、敗者が気にしていないというのは、何ともおかしな話だった。

「悔しいんですか?」
「あ?」
「絶対に勝つと言えない事が。他の誰でもない、士郎さんに負けると言われた事が」

 小太郎は押し黙る。拳は小刻みに震えていた。その反応で、愛衣は図星なのだと理解する。
 多分、今小太郎が抱いている劣等感は、愛衣が高音に出会ってから向き合って来たものだから。

「貴方も、士郎さんを尊敬しているんですね」
「ちゃうわ。コレは、尊敬なんかやない。兄ちゃんは確かにいい奴やけど……いつか越えなならん壁なんやから」
「尊敬してしまえば楽なのに。憧れているって、素直に自分が下だって認めてしまえば、楽になれますよ」
「認めとるわ! そんなん、とっくに認めとる! 衛宮士郎は俺より強い。これで十分やろ!」

 身を切るような叫びだった。
 子供のような癇癪とも言える。それは、プライドというよりはそうであらねばならないという思い込みだ。
 男らしく、だとか。強さを求めるのは、きっと性格的なものだけではないのだろう。
 その生い立ちに差す影が、愛衣にはどうにも無視する事ができない。

「いいえ、ダメです。貴方は口でそう言っているだけ。本当は悔しくて悔しくて堪らないんでしょう?
 負けた相手に教えを乞うのも、私なんかと互角だったのも。
 格上だろうと格下だろうと、絶対に負けたくないんでしょう?」

 その、通りだった。格上でも、負けたくない。負けたくないから努力して、何が何でも勝つと意気込んで、それでも負けてしまったら思い切り悔しがる。
 それが、ルーチンワークだった。そうやって小太郎は強くなってきた。
 負けた事に理由は付けない。ただ、自分が弱かっただけ、もっと強くなれば負けないのだと。

「だったら何や! 当たり前やろ、負けたら悔しい。悔しくない奴はどっかおかしいんや」
「私もそう思います。だから言ってるんですよ、憧れを認めてしまえって。
 憧れは、凄いなぁって、私もこうなりたいって思う事です。別に、ずっと負けてるわけじゃない。
 こうなりたいって思って、追いつけたのなら、次は追い越せばいいじゃないですか。
 今の負けを認めても、精一杯力を出し切れば、悔しいけど前を向いていられる。そうでしょう?」

 それは、愛衣が小太郎と戦って得た感覚だ。
 力を出し切って、出来る事、思いつく限りの事をやりきって、それでも届かなかったら。
 やっぱり悔しいけれど、満足感もあるんだって。前を向いて、また目標を追い続ける事ができるから。

 それを、愛衣は教えてあげたかった。
 先輩風を吹かせるわけではないけれど、少しだけ士郎の元で勉強していた人間として。
 その密度は比べ物にならないのかもしれないけれど、小太郎よりは少しだけ長く生きている人間として。

「そんなんは女の論理や。男は、何が何でも負けたらアカンのや!」
「だからって逃げるんですか!? 負けるのが嫌だって戦いから逃げる事の、どこが男らしいって言うんです!」

 愛衣の語気も、怒りからか勢いを増していた。
 男だとか、女だとか。そういう区別が我慢ならなかったのだ。

「俺は逃げとるんやない!」
「同じ事! 負けるのが怖いって怖気付いてる! 今の貴方になら私だって勝てる!」
「なんやとぉ!」

 売り言葉に買い言葉。
 先に動いたのは愛衣だった。電光石火の一撃、というよりは、直情直線の平手打ち。
 それはむしろ、試合の時の攻撃よりも速いくらいだったけれど、小太郎はあっさり止める。
 そしてそのままの勢いで、愛衣を壁に押し付けた。右手を取り、左肩を抑えつけた状態では抵抗など出来ない。
 愛衣は足技が得意ではなかったし、この密着した体勢で放てる攻撃など高が知れている。

「うっ」
「あ……すまん」

 開放された愛衣は、しかし小太郎を鋭く睨んだままだ。
 女は殴らない、というポリシーを破った直後にこれだ。しかも、感情的になって手を出したのと変わらない。
 小太郎が自己嫌悪に押し潰されるのも自然な事だった。そこに、愛衣は更に容赦なく責め立てる。

「ほら……貴方の方が強いじゃないですか。私よりずっと小さいのに、私よりずっと強い。
 何でそれだけじゃ満足できないの? 貴方は十分先に進んでて、才能がある。
 今は、ネギ先生より強いでしょう?」

 同年代の、ネギよりは。少なくとも現時点において、小太郎の方が強い。
 ならそれで十分ではないかと。年上の、遥か先を歩いている人たちに、いつか追いつけるよう頑張れば。
 いつか、きっと届くのだから。その才能があるのなら。

 その才能がない、愛衣と違って。

「私は……何でも出来ました。実技も座学も、オールAです。でも、一位にはなれなかった。
 万年二位の佐倉愛衣。全部二位だから総合ではトップだったけれど、それだけ。
 最初は二位でも皆褒めてくれた。でも、それが普通になったら一位を取れって言われるんです。
 だから私は頑張った。また褒められたくて、褒められる為だけに頑張った。
 でも……どれだけ勉強しても、練習しても、私は一位になれなかった。何をやっても二位のままだった。
 それが悔しくて、段々皆もそれを当たり前だと思うようになって……私は頑張るのを止めました。
 頑張るのが苦しくなったから。成果が出ない事に虚しくなったから。
 でも、お姉さまのおかげでまた頑張れるようになった。そして士郎さんが私の活路を教えてくれた。
 だから前に進める。もう迷わなくて済む。また頑張れる」

 迷っている。いや、苦しんでいるだけなのだろう。
 小太郎だって、やるべき事は分かっている。先人に少しでも追いつきたいのなら、努力を続ける他ないのだと。
 そしてその努力を続ける事を苦痛だと感じた事もなかった。

 ただ、受け入れられないだけだ。自分が弱いという事が、現時点では負けてしまうという事が。
 負けるのは悔しい。だから勝つ。
 それだけのシンプルな論理で、小太郎は負けた時の事なんて考えたくなかった。

 けれど、士郎は言った。負ける、と。戦う前から、その結果を予言した。
 小太郎自身がどんなにそれを気にしないようにしても、その予言は呪いのようにこべりつく。
 小太郎がただ一人、尊敬している男だから。その言葉が、重い。

 それは士郎の責任ではなかったけれど、小太郎を想うのなら言葉を選ぶべきだった。
 愛衣は、きっとその感覚を、感情を分かってはいたのだろう。
 小太郎を追いかけて、最初は優しく教えてあげるつもりだったのだ。

 でも、愛衣だって子供だ。この大会で、小太郎との一戦で、そもそも士郎との修行において。
 著しい成長を見せていたとしても、その心が強くなっていたとしても、方法論まで理解しているわけじゃない。
 何となく分かる心情に対して、どんな言葉をかけてやるのが適切かなんて、普通の女子中学生では分からない。
 愛衣は普通ではなかったかもしれないが、それは魔法という要素に限る話で、その他の部分は普通の女の子だ。

 だから。結局、誰も上手くなかった。下手も下手、目を覆いたくなるぐらいにド下手だ。
 ただ、それでも前には進めるだろう。不器用で、とても上手とは言えない方法でも、確かに伝わるものはある。
 少なくとも、愛衣が本気で小太郎の事を心配しているんだって。それぐらいは、小太郎にも伝わっているのだから。

「アンタ、泣いとるんか……?」
「ち、ちがっ」

 滲んでいて、光っていた。溢れる程ではないけれど、確かにその目は潤んでいた。
 指摘されてごしごしと目を擦るのでは、泣いていたと認めているようなものではあるが。

 女の涙には弱い。それも、小太郎にとっては一つの事実ではあるけれど。
 そこまで心配してくれたのか、という後悔と。
 何故そこまで心配してくれるのか、という疑問と。

「なぁ……何でや?」
「何でって、何がですか?」

 感じた疑問を、小太郎はそのまま口に出した。もう、愛衣の目は潤んでいない。

「別に、俺とアンタはそこまで仲いいわけでもあらへん。なのに、何で俺を追っかけて来たんや?」
「さあ?」
「さあ、て」
「私もよく分かりません。何となく、ですよ。私なりに理由はあるんですけど、それを上手く言葉にする事はできません。
 ただ、考えての行動ではありませんでした。何となく放っておけないなって。そう、思っただけです」

 そして、それは理由に足るのだと。
 そう言われてしまったら、納得できなかったとしてもこれ以上追求はできない。
 でもまあ、小太郎は小太郎なりに納得はしていた。

 多分、それは小太郎が士郎に一番強くあって欲しいと願うような感情。
 自分に勝ったのだから、というよりは、自分よりも強いのだから。

 自分よりも強く、才能がある者が、尻込みしているのが見ていられなかったのだろう。
 自分よりも強いと認めて、まぁこの子になら負けても仕方ないかな、と納得したのに。
 その相手が、どうしようもなく格好悪かったら……納得した自分まで虚しくなってしまう。
 だから喝を入れに来た。きっと、多分、それだけの事。

「まあええ。あんま考えるんも馬鹿らしゅうなってきたわ」

 自分が負かした相手に、しかも女の子に。
 こうして喝を入れられて、気合いが入らない奴なんてのは男じゃない。
 勝ち負けはともかくとして――――とにかく、立てなくなるまで力を振り絞ろうと、小太郎は思った。

「ちょっと! どこに行くんですか?」
「そろそろ試合……にはまだ早いかもしれんけど、試合前に精神統一ぐらいしててもええやろ」
「やる気、出たんですね」
「まぁ、一応な。これ以上アンタと話とっても、恥ずいだけやし」
「ちょ、恥ずいって何ですか、恥ずいって」
「そのまんまの意味や!」

 タッっと駆け出し、小太郎は逃げるように走りだす。
 その背にまだ文句を言い続けている愛衣は気づかない。

「あんがとな」

 そう、小太郎が小さく零していた事を。そしてその目は前を見て、薄く笑っていた事を。











夏美「……ハッ」
千鶴「どうしたの? 夏美ちゃん」
夏美「いや、何か凄く出遅れちゃったような……戦う前から負けちゃったような……」

愛衣「あ、そういえば男の子にタメ口使ったの初めてだ……」
(拍手)
 




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あとがき

何とか間に合いました間に合わせました65話。
またも長くなって二分割ですがご容赦を。イベント少し増やしますんで。

ところで、愛衣が暴走しまくってオリ設定を押せ押せで展開しつつキャラ崩壊を起こしていますが。
これは果たして受け入れられるのか不安になりますね。
ウチでは何故か愛衣の人気が高いですけど、果たしてこんなのは望まれてるのかなぁ。
まぁ、コレで行くんですが。私の中の愛衣はこんな感じなので。

では、次回予告。
小太郎を追った愛衣を送り出した士郎の元に現れる影。
水面下で進行する超の陰謀と、その戦いに足を踏み込む者たち。
そしてあまりやる気のないアルと気合充分な小太郎の試合の行方は?
次回もお楽しみに!

2010.08.31 | URL | 夢前 黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

更新乙です。
エヴァンジェリンが完全な状態なら士郎の勝率は1割ですか。
玉葱の落とし穴であぶあぶ言ってた姿からは想像も出来ない……これがギャグ補正?

青すぎる青春をしている二人はお互いを意識し始めるのにまだまだ時間がかかるようですが、戦闘ではすぐにでも良いコンビになりそうですね。
接近戦命の小太郎にはオールマイティな後衛ってすごくありがたいでしょうし。

2010.08.31 | URL | m.k #e3uZP7sc [ 編集 ]

Re: m.kさん

ですね。まぁ、エヴァンジェリンがどの程度本気で殺しにかかってくるかにもよりますけど。
ちなみに士郎がエヴァンジェリンが死なないようにとか甘い事考えて手加減した場合確実に負けます。つーか死にます。二人の戦いはそういうもので、だからこそエヴァンジェリンも幻想空間で戦ったわけですが。

愛衣とコタロは、書いてて私も発狂しそうだったんですけど。
これも魔法世界編への伏線です。この二人が組まないと○ルートにならないんだよね。
まぁ、多分一年後ぐらいになりますけどお楽しみに。

2010.08.31 | URL | 夢前 黒人 #- [ 編集 ]

誤字訂正
シュミレート→シミュレート

内容も面白いし、文も読みやすく楽しみにしています。
頑張ってください。

2010.09.02 | URL | NoName #- [ 編集 ]

Re: タイトルなし

ご指摘感謝です。修正しました。
文は読み易い……ですかね? まぁ難しくはないと思いますけどあんまり読み易く出来ていないような気もしますが。
ともあれ、今後とも精進して頑張っていきます。

2010.09.02 | URL | 夢前 黒人 #- [ 編集 ]


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