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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第63話


「一回戦(7) 最強VS不敗」  明日菜の試合を観て落ち着いたネギは、皆と合流していた。

「二人とも素晴らしい試合でした。特に明日菜さんはいつの間にあんなに強くなったんですか?」
「うーん、ついさっき、かな……? 何か思い出したって感じ。多分あの人のおかげ何だろうけど」
「あの人?」
「うん――……」

 と、アルビレオについて答えようとした明日菜の腕を、古菲がちょんちょんと引っ張った。

「何よ、くーちゃん」
「ちょっと明日菜、こっちに来るアル」
「わ、わ、引っ張らないでってば」

 疑問符を浮かべているネギを置き去りに、他のメンバーには聞こえない程度に距離を取ってからようやく古菲は明日菜の手を離す。

「もうっ、どうしたのよくーちゃん」
「クウネルとか言う人の事アル」

 古菲が言うには。
 クウネル・サンダースを名乗るローブの男は、エヴァンジェリン曰くかつての赤き翼、サウザンドマスターの盟友であり、本名をアルビレオ・イマというらしい。
 でも今はクウネルと呼ばれる事に固執している……というのはどうでもいいか。
 ともあれ、その本人が、ナギの情報が欲しければひとまずネギに自分の事は伝えるな、と命令してきた事。
 本人はお願いという単語を使っていたが、内容は半ば脅迫だ。
 エヴァンジェリンにさえ効力を発揮する言葉なら、古菲たちに逆らう事ができるはずもない。

 尤も、この件に関しては唯々諾々と従うしかないのも事実だった。
 今現在、ネギの父親探しに協力すると誓った面々は、しかし何の情報も得られてはいない。
 そこに突然現れた大きな情報源だ。機嫌を損ねるわけにもいかないし、騙されるのを覚悟で虎穴に飛び込む必要もある。

「衛宮先生も何か関係あるっぽかったからネ。楓も信用してもいいだろうって言ってたアルヨ」
「うーん、まぁ士郎さんなら悪くはしないと思うけど」

 明日菜も色々と聞きたい事があったが、このまま姿を消されて逃げられるのも確かに困る。
 確実な情報を得る為にしばらく待つのも一つの方策だ。
 ネギには悪いが、無駄に期待させるよりは突然びっくりさせた方がまだ救いがある。

「でもさ、本当に士郎さんとその……クウネルって人、協力関係にあるわけ?
 関係あるって言っても色々あると思うけど」
「うーん、エヴァにゃん含めて三人で険悪な雰囲気だったアルヨ」
「ダメじゃん」
「デモ、知り合い言うのは本当みたいアル。何だか難しい話してたアルヨ」
「まぁ、信じるしかないわよね。もしもの時は士郎さんも協力してくれるでしょ」

 明日菜は、割合士郎の事を信頼していた。
 修学旅行での手助けもさる事ながら、バイトでも助けて貰っているという自覚があるからだ。
 士郎一人でも回る店で、わざわざ短時間かつ高時給のバイトなんて雇う必要はない。
 それでもわざわざ明日菜を雇ってくれているのは、事情を知っているが故の温情だと理解していた。
 ネギや他の皆と違って、士郎と接する機会が多いというのが最大の理由ではあったのだが。

「あのー、何の話ですかー?」
「ん、別に何でもないよ。それよりネギ、アンタ大丈夫なの?」
「何がですか?」
「何って……私の試合中にも、魔力供給してたでしょ。魔力切れで倒れてたんじゃなかったわけ?」
「単純な魔力の欠乏なら休めばすぐ回復するんです。まぁ、全快に程遠いのは事実ですけど」
「もう……無理するんじゃないわよ」

 その気遣いが、ネギにはありがたくもあり鬱陶しくもあった。
 嬉しいとは思っていたし、ネギ自身放っておいて欲しいという感情の芽生えを理解していたわけでもないが、それでも。
 確かにネギは、この優しさに辛さを感じていた。

「でも、この試合は士郎さんを応援するしかないわね」
「え? 僕はマスターを応援しますよ?」
「だってアンタ、この試合でエヴァちゃんが負けてくれれば同じ一回戦敗退じゃない。ならデートの約束もご破算でしょ」
「…………うう、それでも僕はマスターを……いやでも……」

 心情と打算に揺れるネギにくすりと笑いながら、明日菜は舞台を見やる。

「でも、どっちを応援しようか迷う試合ではあるわよね。士郎さんにもエヴァちゃんにも恩はあるし」
「アスナ、衛宮先生は強いアルか?」
「強いわよー。まぁ、私も士郎さんが本気で戦ってるところは見たことないんだけどね」

 明日菜の脳裏には修学旅行での記憶が蘇っていた。
 考えても見れば、修学旅行中よく一緒に行動していたというわけではない。
 むしろ別行動が多く、見守ってくれているらしいが姿は見えないという状況が多かった。

「むむ、楓とならどっちが強いアルか?」
「士郎殿でござるよ」

 気配を消して、後ろからぬっと現れた楓に古が驚く。

「楓より……真名より強いアルか?」
「拙者と真名のどちらが強いかは置いておいて……冬頃挑戦してみたが、軽くあしらわれてしまったでござる。
 あれから拙者もそれなりに成長したとは思うが、まだ勝てそうにはないでござるな」
「それじゃあ相当強いって事アルか」
「まぁ、士郎殿については刹那の方が詳しいでござるよ」

 話を振られた刹那は、少しだけ困惑気味に答えた。

「士郎さんは学園最強と言われている。勝てるとしたら学園長先生だけだろうな」
「学園長先生は強いアルか?」
「というより、まだ戦った事がないから分からない、というだけだ。
 士郎さんが麻帆良に現れた時、私や高畑先生を含めた魔法先生の過半数と戦い、勝った。
 その時私も夕凪を折られて……今使っているのは士郎さんが用意した複製だ」

 そんな話を聞くと次元が違うように感じるが、実際その戦いを目にしてもそこまでの脅威だとは思えないだろう。
 魔法先生たちが警戒するのもその実績ありきだ。
 唯一、同じく魔術の徒となったタカミチのみがその脅威を本質的に理解している。

「そんな伝説的な人には見えないアルけどなー」
「まぁ、アレは実際戦ってみないと分からないかもしれないでござるなぁ」
「そんなもんなの?」
「そうですね。士郎さんは、気や魔力、それらを扱う術が長けているわけではありませんから。
 あの人はただ純粋に、戦うのが上手いんですよ」

 そう締める刹那に、古菲も興味を惹かれたのだろう。
 黙って試合開始の合図を待つ。
 そろそろ始まってもいい頃合だった。

 そして、ネギもようやくどちらを応援するのか決めたのか顔を上げる。

「マスター! 頑張ってくださーいっ!」
「まぁ、アンタはそういうヤツよね」

 明日菜が苦笑する頃、終に和美が試合開始を告げた。





◇ ◆ ◇ ◆






「可愛い応援じゃないか。愛されているな」
「フン、嫉妬か?」

 試合開始と同時、睨み合い間合いを図る両者の戦いは、舌戦から始まった。

「はて、嫉妬せねばならぬ程弟子には困っていないな。尤もアイツは弟子とはまた違うか」
「やれやれ、素直じゃないヤツだ」

 互いに無手。武器はない。
 二人は自然に、散歩でもしているかのような気軽さで、舞台上に円を描く。
 ゆっくりと歩を進めると、少しずつ円も狭まった。

 後は、タイミング。
 どちらが先にしかけるか。
 士郎は元より受けに回るタイプであったし、エヴァンジェリンも封印され力が落ちてからは力押しに頼らなくなった。
 故に、先に動いた方が圧倒的に不利である。
 これは、どちらが先に痺れを切らすかの勝負だ。

「どうした、来ないのか?」
「何、君の準備を待ってやっているだけさ」
「チッ」

 舌打ちが合図となった。
 動いたのは士郎。
 瞬動術ではない、ただ速く動いただけだと言うのに、それまでの緩急から消えたようにも感じるスピードでエヴァンジェリンに迫る。

 ここで士郎が不利と知りつつ動いたのには理由がある。
 それはこの試合とは直接関係のない、エヴァンジェリンが知ったら怒るような理由だ。
 士郎は超からの依頼として、この試合、大会を盛り上げなければならない。
 勝ち負けはともかくとして、出来うる限り派手に。
 となれば、いつまでも睨み合いなどしていられない……という理由からの突撃だ。

 突進の後、至って平凡な掌底。崩拳というには型が崩れすぎているが、効果は十分。
 しかし、その攻撃は型こそ平凡であれど、速さは十二分だった。
 その一瞬、ほんの瞬きの間に勝負が決してもおかしくはない速攻。
 エヴァンジェリンの身体能力では決して敵わないであろうそれは、

「甘いな」
「なっ」

 いとも容易く受け流された。
 
 だが、それだけで隙を晒す士郎ではない。
 エヴァンジェリンの身長に合わせるように身を沈めると、彼女でなければ足払いになりそうな蹴りを放つ。

 一閃。
 が、それもエヴァンジェリンの持つ鉄扇が器用に受け流す。

「鉄扇かっ!」
「いかにも。そら回れ」

 受け流されるよりも更に速く。
 フェイントを交えつつの攻撃は、面白いようにその技の贄となった。

「くっ」

 尤も、いくら投げ飛ばされようと、その程度ではダメージなどない。
 受身は取れるし、その間追撃を受けないよう、最後の瞬間には考えながら飛ばされている。

「おおっとぉ、これは意外! お人形のようなマクダウェル選手に大男の衛宮選手がポンポン投げられているー!」

 和美の実況が会場の湧き具合を示していた。
 確かに見た目子供なエヴァンジェリンが、巨躯とも言える士郎を投げ飛ばす様はいかにも不自然で、超の意向に適うものだろう。
 その意味では、士郎はこうしてこのまま負けてしまってもいい。

「おい貴様。よもや手を抜いているのではあるまいな」

 しかし、エヴァンジェリンがそんな終わりは許せない。
 この戦いは彼女の鬱憤晴らしという名目がある。
 その真意がどこにあるかはともかくとして、本気の戦いを望んでいるのは確かなのだ。

「契約を違えるな。私を殺すつもりでかかって来い」
「やれやれ。正面からの戦いは苦手なのだがね――」

 言葉尻に噛み付くように、士郎はまたも跳んだ。
 しかしそれはエヴァンジェリンに投げられたわけではない。
 速く、速く、尚速く。
 エヴァンジェリンが反撃に移る余裕など欠片も許さぬ連打。

「く、ぅぅ」
「どうしたっ、君の技量はこの程度か!」
「舐めるな!」

 連打に次ぐ連打を、けれどエヴァンジェリンは受け流していく。
 身体能力は人並みであるはずなのに、常人としての力でその怒涛の攻撃を受けきった。
 それは正しく脅威だろう。そしてある意味で、可能性でもある。
 人の身であれど、極めれば至れる境地があるということ。
 それが百年という研鑽の末に得られたものであったとしても。
 人間を越えずとも越境の人外と対する事は可能なのだと、封印された彼女は示していた。

 士郎の連打連撃とて、そう長い間続けられるものではない。
 疲れを知らないような身体ではあるが、それでも限界というものはあるのだ。
 疲れという意味でなら、このまま耐久戦を挑めば確実に士郎が勝利していただろう。
 けれど、両者共にそんな決着は望んでいなかった。
 士郎が一旦距離を取る。

「流石、と言っておこうか」
「フン。中々のものだろう?」
「ああ、正直驚いているよ。どれほどの研鑽の果てに得られる技術か、まだまだ私には想像できない領域だ」
「百年程前にチンチクリンのおっさんに習った体術だ。封印されてからは存外役に立っている」
「成程、一世紀か。四分の一では届くはずもない、かな」

 寿命のない者特有の気の長さで研鑽していったのだろう。
 しかしながら、彼女にこの体術を伝えた者は人間だったのであろうから、その者は人の寿命で極めたという事だ。

「しかし貴様、それで全力、それで本気か? 気や魔力による直接攻撃が使えないにしても、やりようはあるだろう」
「どうかな。“刃のついた武器の使用禁止”なぞ、私を封じる為のルールにしか思えないぐらいだからな」
「貴様の強さの源泉はその武装にある。に、してもこれでは拍子抜けだな。
 よもや封印状態でも戦う事ができるとは。これでは賭けなど必要なかったか?」

 挑発。彼女の本意が真に士郎への復讐、ないし清算なのならば、それは必須と言えよう。
 彼女の体術は、確かに士郎と戦う事は出来る。
 けれど、決して勝つ事はできないのだ。
 体力筋力の問題から、彼女では攻撃力が足りない。
 幾ら相手の力を利用する合気術であったとしても、投げ痛打の通常攻撃がほとんど効かない相手にはどうしようもない。
 出来るのは戦い続ける事だけだ。

 故に、エヴァンジェリンが勝利する為には投げや掌底でもダメージを与えられるようにする必要がある。
 厳密に言えば、回復した魔力の全てを振り絞り、一度だけ魔法の矢に準ずる攻撃は可能だった。
 しかし今の状況でそれを使ったところで、矢張り決着は付かないだろう。

 ならば。士郎の最大攻撃、魔力も意識も注ぎ込んだ全身全霊の一撃の隙を突けばいい。
 それが不可能に近い程に難しい事は、エヴァンジェリンだからこそ重々承知している。
 だが、それ以外に可能性はない。どんなにゼロに近くとも、ゼロではないのはこの手だけ。

 この逆境、スリルを、エヴァンジェリンは楽しんでいる。
 試合が始まる前に巡らせた知謀、試合後も含めて打った手段の数々。
 逆境、どうしようもないピンチを、エヴァンジェリンは己が手持ちの手段を使って解決する。
 それは、久しく感じていなかった感覚だ。
 永き時を生きてきたエヴァンジェリンにとっての、最大の娯楽。

「全く、いい顔で笑うものだ」

 ならば、士郎も応えないわけにはいかない。
 試合前の約束も、賭けの結果としてある契約も。
 そんな些末は捨ておくとしても、だ。

 士郎の視線が一瞬逸れる。その先に在るのは選手席。厳密に言うのなら刹那の姿。
 理由がないわけではない。勝ち上がる必要は、ある。
 その意が、奇しくもエヴァンジェリンの望みと合致するというのなら……士郎もまた、一つの区切りを付ける覚悟を持たねばならないだろう。


 ――――I am the bone of my sword――――

 身体は剣で出来ている。
 その呪文を、多大な隙を晒しながらも己に埋没させていく。
 声には出さない。それはただ、己の中に。

 映し出すのはかの大英雄。
 かつて戦い、そして彼女と共に打ち破った狂戦士。
 その斧剣、その腕力、その覇気を。

 今この身に投影する。
 刃を削げば完全からは程遠い。
 そもそも、今の士郎に彼の技を完璧に再現する事など出来はしない。
 実物が目の前に在るワケでもないのに、そんな御業は不可能だろう。

 けれど、それでも。
 あの戦いは、士郎の記憶に、身体に焼き付いている。
 初めての投影。ただ必死だったあの瞬間の事は、彼女の温もりも、目の前の脅威も、余す所なく覚えている。
 ならば出来るはずだ。
 真に迫るものでもなく、ニセモノとしてさえ不出来だったとしても。

「――是、大英雄を我が腕に降ろす」

 その幻想は結ばれた。
 巨大な斧剣。かつてアインツベルンが彼を召喚する際、触媒にしたという神殿の礎。
 それはただの石器である。
 巨大で、鈍重な、ただの石。
 けれど、ただそれだけでエヴァンジェリンには十分だった。
 ソレは十分過ぎる程に……彼女を殺すに足るものだったから。

「また、大人気ないモノを持ち出して来たな」

 和美が突然の大奇術に声を震わせている中、エヴァンジェリンは笑みさえ浮かべてその威容を見る。

「技量差を覆す最適は力だ。受け流す事も避ける事もできない力の前には、全ては無意味」

 全く以てその通り。
 極みとも思える技量であっても、無限ではない。
 技術は、対応できる力の上限を上げるだけだ。
 力そのものが上がるわけではない。

 ならば、対応できない程の力を。
 純然たるパワー、技も意思も心も身体も置き去りにして、無慈悲に下す裁定のような一撃を。

「えー、協議の結果あの武器の使用を認められました。刃が落としてあるならハンマーと変わりないという判断です!」

 大会側も、許可を下した。
 観客としては、これはもう弱い者いじめにしか見えない為、ブーイングに近い怒号が飛び交う。

 だが肝心のエヴァンジェリンは、笑みさえ浮かべてソレと対しているのだ。
 いつしか観客の騒音など消えていった。
 一撃でつくだろう決着を。その瞬間を決して見逃さないように、誰もが集中していく。

「さて、準備は整ったか?」

 エヴァンジェリンのスキルの一つ、糸による物体操作。
 舞台上に張り巡らされた結界のようなソレは、物体解析が可能な士郎の目からは逃れられなかったようだ。
 舌打ちし、忌々しげな声で、けれどどこか嬉しそうに……エヴァンジェリンは言う。

「その余裕、後悔しなければいいがな?」
「何、これでも足りないくらいだよ。今の君では、掠っただけで死ぬやもしれん。
 殺す覚悟はともかく、殺したくはないのでね」

 涼やかに士郎は告げる。
 淡々と、感情を見せず、巨躯にも見合わぬ斧剣を担いだままで。

 対するエヴァンジェリンは、声を荒らげたりはしなかった。
 その斧剣から感じる威圧感が、その質量から考えられる威力が、士郎の言う通りになるだろう事を理解していたからだ。

 ただ、一つ疑問はあった。
 エヴァンジェリンは、士郎が魔法使いと同じ方法での魔力強化を扱えない事を知っていた。
 何らかの方法で身体能力の底上げをしていて、それに魔力を用いているのだろう事は推測していても、その方法論まで理解しているわけでもない。
 一つだけ確かなのは、その方法は魔法使い一般が行う身体強化の術と比べて、とても効率が悪いという事。
 タカミチが同じ術を練習している光景から察するに、容易く岩をも砕けるレベルにまで達する事は出来ない。

 ならば、だ。
 士郎がその術を極め、あれだけの身体能力を実現しているとしても――あの巨重を振り回す事ができるのか?
 否、と答える事は、エヴァンジェリンには出来なかった。
 その確信がない状態で、あやふやな推論に頼れば士郎の言う通りに死ぬ。
 あれが虚仮威し、畏怖したエヴァンジェリンがギブアップするのを待っている、なんて可能性に縋るのはいかにも浅慮。

 いや、何より。自分を追い詰めた男が、その程度であるハズがない。
 そう、エヴァンジェリンは信じていた。
 別荘で観察したぐらいでその全容が知れるなら、恥じるべきはその程度に負けた自分自身であると。

 故に、エヴァンジェリンは士郎の言を素直に受け止める。
 本当に命を懸けた戦いであると肌で感じ、笑みさえ浮かんだ。

「いくぞ……」

 その笑みを準備完了と取ったか、士郎がゆらりと動く。
 担いだ斧剣を、構えへと移した。

 そして。

「っ!」

 エヴァンジェリンの動きは早く、そして速かった。
 傍から見れば間抜けにさえ見える程に、回避のタイミングは早かったのだ。
 通常、それでは避けた先に追撃を受ける。
 だがあれ程の巨重だ、一度狙いを定め動き出した軌道を変える事などできない。
 借り物の力ならば尚更に。

 業、と。エヴァンジェリンが居た場所に、石塊が振り下ろされる。
 エヴァンジェリンでさえ完全に見切る事はできない速度だ。
 半ば呆れて賞賛の言葉を考えていたエヴァンジェリンだったが、そんな余裕は後からやって来た衝撃が尽く吹き飛ばす。

「なッ」

 衝撃波。或いは剣気、魔力弾などと説明があればどれほど救われた事か。
 たが、紛う事なくそれは、確かに衝撃波。
 そもそも振り下ろした一撃が、エヴァンジェリンの糸の結界を半ば突き破って成されたものだったというのに、追撃たる衝撃は根こそぎ糸を吹き飛ばす。

 一振りで家一軒破壊しかねない、オリジナルであるバーサーカーの一撃には遥かに劣る。
 今の士郎の攻撃は、辛うじて繰り出す事ができたという、その斧剣を使った上での最低値。
 なのにその威力は、かつてタカミチが咸卦法を使えた頃の居合い拳より何倍も性質が悪い。

 タカミチは拳圧で攻撃していたが、士郎のコレはあくまで衝撃波。
 指向性もなく、振り下ろした先で爆発させたような、そんな攻撃だ。
 全方向に逃げようとする力は、あらゆる破壊を成していく。

 結果的に、この士郎の一撃で、舞台は三分の一程根元から崩れた。
 木っ端、水煙の様がまさしく爆発が起こったと思わされる。

「完全に避けて、これとはな……」

 まるで崖の淵に居るような士郎に対して、エヴァンジェリンは賞賛とも怨嗟とも取れない言葉を吐いた。
 その彼女の姿はボロボロだ。
 衝撃波、風圧、暴風。呼び名は何でも構わないが、その破壊力は中位呪文クラスというシロモノ。
 そんなモノを掠れば、脆弱な人間の身体がこうなるのは仕方ない。
 それだけで済んだのが僥倖、幸運に類するのだという事は、士郎の後ろにうっすらと見えてきた破壊の爪痕を見れば十分に理解できる。

「ギリシャが誇る大英雄、ヘラクレスの一撃を模した攻撃だ。如何かね?」

 斧剣を担ぎ直し、土台が崩れ不安定な淵から移動しつつ、士郎は軽口を叩くように問うた。
 ……つまり、まだ戦う気はあるのかと。そう、問うている。

「いや、これは手放しに賞賛せねばなるまいな。ヘラクレスとは些か大言だが、この身体への敗北を認めるには十分な一撃だった」
「む。確かに彼の名を冠するには不足だったか。まぁ、君がギブアップするならば構うまい」
「そうだな……」

 とことこと、無防備な隙を晒してエヴァンジェリンが士郎に近づく。
 俯き、足を引き摺るその様は正しく敗者のそれだ。

 だからと、それを油断の理由にする事は、士郎の未熟を曝け出す事に他ならない。
 実際、理由を上げれば幾つかの要素はあるが、結局のところ運の要素も強かった。

 聖骸布の外套を外されていた事も。
 直前の、ギブアップを認めるような会話も。
 殺すつもりで放ち、けれど殺したくはないという矛盾が生み出した意図的な隙も。
 エヴァンジェリンに、いやこの世界に、その技能があると確認しなかった士郎の落ち度も。

 どれも、言い訳でしかない。

「この身体での敗北は認める、だが――」

 “この身体”での敗北。
 つまり、この身体以外に肉体があれば。或いは――――。

「精神の方は、どうかな?」

 エヴァンジェリンの目が輝いたのも、その危険性に士郎が気づき、目を逸らそうとしたのも一瞬。
 その一瞬で、全てが決してしまった。
 士郎のせめてもの抵抗は間に合わなかったのか、それとも相手を見るだけで条件が揃う魔法だったのか。
 今の、封印状態のエヴァンジェリンにそこまで強力な魔法が扱えるとは思えないから前者なのだろう。


 どんな言い訳をしたところで結果は変わらない。
 つい先程まで龍宮神社の、麻帆良武道会会場にてエヴァンジェリンと戦っていたと認識していた衛宮士郎は……南海の孤島に聳え立つ塔の中央に立っていた。
 ハーフアーマーに聖骸布、各種護符も揃った完全装備で、だ。

「さぁどうだ? 貴様の為に用意したステージだ。ここならば私の呪いも及ばず、人目もない。
 大会のルールもなく、貴様の武装も、私の呪文も十全に使えるぞ」
「……成程。心象風景というわけか」

 士郎はこの現象を、精神のみに特化した固有結界のようなものだと推測した。
 魂までは引きずり込まれていない。
 幻想で編んだ世界に、二人の精神がアクセスしている状態なのだと。

「確かにここならば君の望む戦いが出来るだろうな。まぁ、これも一興か」
「くくく、ではそろそろ始めようか、衛宮士郎。
 私たちの因縁に決着を付けるべく、あの春の夜の第二ラウンドをな!」


 これから起こるのは戦闘ではない。
 決戦であり決闘であり戦争だ。
 一方はドールマスター。数多の人形を統べる王。
 一方は剣製。数多の剣をその身に宿す一群の主。

 最強と不敗が、今衝突する。







刹那「あれ? 今士郎さんがこっち観てませんでした? ねぇ明日菜さん、ねえ」
明日菜「(ウザ……)」

(拍手)
 




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後書き

結局分割でスミマセン。取り敢えず嘘予告の辺りまで。
次回分の、どこまではっちゃけるかがまだ未定。
どこまで見せていいものか……これが最後と思えば……しかし士郎なら……うーん。
ともあれ、次で長かった一回戦が終了。
そろそろ駆け足で二回戦のメインイベントまで進めたいところです。

嘘予告の時に色々ツッコミが入った部分は私なりに改良しているつもりですが、まぁ質問とかツッコミとかあったら遠慮無く。
もしかしたら書き直す可能性もあります。
ではまた来週、更新できたらいいね。最近研究室が忙しい……。

2010.07.10 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

みなぎった

これで今週も頑張れる

2010.07.10 | URL | ironfireroll #- [ 編集 ]

実に良い。燃える

2010.07.10 | URL | k #F4mscU5. [ 編集 ]

Re:

・ironfirerollさん
そう言って貰えると毎週更新の励みになります。
・kさん
次回ももっと燃える展開にしたいです。

2010.07.11 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

刹那……
しかし幻想空間に入ってしまった以上「派手な戦闘」はできませんね
全力で戦うのか、手札を隠しつつ、次の試合でまた派手にやるのか……
先が読めん

2010.07.11 | URL | ぺこぽん #- [ 編集 ]

Re: ぺこぽんさん

もう十分派手だろ、と超でも考えていると思いますが……まぁ、幻想空間で戦うのなら幾ら手札を切っても知られるのはエヴァンジェリンだけだから。
それに、今回の幻想空間が原作で刹那に使ったモノと同じだなんて誰も言ってませんよ?
そもそも次の試合に進めるかが……コレで士郎勝たなかったら刹那が憐れでなりませんけどね。

2010.07.11 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

くっ、なんて上手い引き方。
先が気になり過ぎてやばいです。

バーサーカーを士郎が真似るっていうのは良くある展開ですが、燃えますよね。

次回更新を楽しみに待ってます。

2010.07.11 | URL | えいじ【偽】 #- [ 編集 ]

Re: えいじ【偽】さん

まあ、分割は本意ではなく、丁度この倍ぐらいの分量で計算していたのですが。
時間的にも量的にもリミットでした。
どうせ切るならここ以外にはないですしね。
しかし、上手いところで切っても一週間もすりゃ忘れちまうもんなので、出来る限り一度に出してしまいたいのが本音。
毎週更新するようになってアクセス数は増えたけど、別にアクセス数求めてるわけでもないですし。
勿論読者数は増えて欲しいと思ってますけどね。あ、同じ事か。

あとちなみに、HFルートが私の一番好きなルートなので、これからもあのルートのオマージュはちょこちょこ出てくるんじゃないかと。
特にイリヤ関連で、ね。

2010.07.11 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

精神世界なら魔力消費を考えなくてもOK?
だとしたらそろそろ士郎の固有結界の詠唱が聞きたいなぁ。
どっちのバージョンなのか、はたまたオリジナルか、気になります。

2010.07.13 | URL | m.k #e3uZP7sc [ 編集 ]

Re: m.kさん

ううむ……これネタバレしちゃうとアレかもしれないけど、感覚的にはネギが闇の魔法を習得した巻物の中が近いですね。
だから魔力だけでなく……と。
まぁ固有結界は作品中一度だけ、と決めているのでまだ早い。
いや、ある意味では遅いんだけど。
ともあれ、次の決着は幻想空間でなければできない、士郎にとって固有結界並に特別なモノでつける予定です。
というか、UBWなんて使ったら勝っ(ry

2010.07.13 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


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