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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第62話


「一回戦(6) 意思と感覚」
 泣き疲れた、という程に泣いたわけではなかったけれど。
 少しだけ赤く腫れた目を戻すのに、ネギは手間取っていた。
 タカミチとネギの試合によってボロボロになった舞台の修繕が、30分という短時間で行われた事は予想外。
 もうすぐ試合開始というアナウンスを聞いて急いで身支度、というか泣きっ面を誤魔化して、魔法も使いつつ何とか悟られない程度に回復すると、矢のように会場へと飛び出した。

 しかし、時既に遅し、というか。
 人人人。埋め尽くさんばかりの人だった。今更選手席には戻れそうにない。
 戻れるとしても、今のネギはあの人ごみをかき分けて行く気分にはなれなかった。

 ふと、視線が上へと向かう。
 一人になるには絶好かもしれないスポット。
 上というのは、得てして人の注意が向かないものだ。
 明日菜たちの試合は多少遠目になってしまうけれど仕方ない。
 立ち直ったという自覚があっても、まだ一人でいたいのも事実だったから。

「頑張って下さい、明日菜さん」

 ぽつり、と。
 ネギは、明日菜だけを言葉に成した。





◇ ◆ ◇ ◆






 アルビレオが提示した賭けの内容は、あくまでエヴァンジェリンを親とするもの。
 エヴァンジェリンは士郎との賭けとは別に、アルビレオともまた賭けをする事になった。

 明日菜が勝てば、エヴァンジェリンは次の士郎戦において防御性もへったくれもないコスプレで参戦する事になる。
 ついでに、同じく明日菜に賭けている士郎は超の計画においてエヴァンジェリンの助力を得る事ができる。

 だが、だ。……正直に士郎の内心を述べるなら、勘弁して欲しいというところだった。
 何が悲しくてそんなコスプレの相手をしなければならないのか。
 先程までシリアスな話をしていたからこそ、この転落具合に泣きたくなる。
 賭けの対象として、あくまで予想として士郎は明日菜に賭けたものの、心情的にはそんな事情もあって完全に刹那を応援していた。

「……貴様ら、いつから結託していた?」
「さて、結託などした覚えはないが」
「そうですねぇ。結託というよりは同盟、同盟というよりは天敵と言ったところでしょうか」

 士郎とアルビレオ、二人がほぼ同時に答える。
 アルビレオが面白そうに笑みを見せ、士郎は渋面だ。

「成程。噛みあっていないようでバランスはいいな」

 二人の関係を即座に見抜いたエヴァンジェリンは、だからこそ頭を抱える。
 どうにも自分がどれだけ分の悪い賭けをしたのか自覚したらしい。

 問題は、だ。
 士郎がアルビレオの出現の後、おそらく意見を変えた事だ。
 エヴァンジェリンは元から刹那に賭けるつもりだったし、あらゆる手管話術を用いて明日菜は士郎に押し付ける気でいた。
 が、その労を要せずアルビレオが明日菜に賭けると宣言したと同時、士郎は明日菜に賭けた。
 尤もこれはエヴァンジェリンの主観であり、士郎が本当に刹那に賭けるつもりだったのか、本当の所はわからない。
 けれど彼女の勘が囁いているのだ。危険だと。

 そもそも士郎とアルビレオの二人が知り合いであるという時点でエヴァンジェリンにとっては多大なるピンチである。
 宿敵と天敵が手を組みました、てなものだ。
 安穏としていられるわけがない。

「で、アル。明日菜に何をした?」

 詰問と言っていいレベルの強い問いに、エヴァンジェリンは口を噤んだ。
 二人の反応を見ていた方が情報を得る事ができると判断したからである。
 尤も、この三人から三歩距離をおいて観察している小太郎たちは単純に迫力に飲まれているのかもしれないが。

「何、と言われましても」
「答えないのは構わないがな。タカミチと相談したのか?」
「いいえ。ですが、彼の結論とも変わらないのでは?」
「だとしても、こんな乱暴な方法があるか」
「遅かれ早かれ、ですよ。それに、事を起こすのなら常に見守っていられる状況がベストです。
 これは貴方が提案したはずですが」
「……チッ」

 本気でイラついているのか、士郎の舌打ちも強い。
 それでもアルビレオは飄々としている。
 どうやらこの件に関してはアルビレオに分があるらしかった。

「神楽坂明日菜、か。どうやら本当にただの女子中学生ではないようだな」
「そもそも貴女が知らなかったという事の方が驚きでしたけれど。余程巡りあわせが悪かったのでしょうか」
「15年前から麻帆良に居るなら不思議でもあるまい。それに、どうせ彼女は彼にしか興味がなかったのだろう?」

 ニヤニヤと、皮肉げというよりは嫌らしい笑みを見せる士郎に、すかさずアルビレオが同調する。

「確かに、歳の割に一途ですからねぇ」
「き、貴様らぁぁあ!」

 アルビレオに跳びかかってガクンガクンと首を揺らすエヴァンジェリンに、一歩引いて逃げた士郎が優しげな視線を向ける。

 と、こんな馬鹿な遣り取りをしながらも、三人ともが誤魔化せていない事を自覚していた。
 神楽坂明日菜の特別性。
 その生まれ、半生、環境の。
 
 士郎とアルビレオの二人が示したのは、有耶無耶にしようとする事で話すつもりはないという意思表示。
 エヴァンジェリンはそれに答えただけだ。
 いつか話せ、と。

 おそらくはその場の誰であっても、当人たち以外には通じない意思疎通。
 或いは本人さえ理解していないかもしれない所作だが、三人ともが似た様なレベルで理解していた。
 通じているとは思っていないが、相手の胸の内は見透かしている。
 似た者同士というより、同じ土俵に立っている、同位の人間。

 その関係をアルビレオは楽しみ、エヴァンジェリンが怒り、士郎が顔を顰める。
 似ていると言えば、士郎とエヴァンジェリンは似ているのかもしれなかった。

「ホラ、試合が始まりますよ」

 賭けの行方は果たして。
 選手席一同の視線は、舞台上の二人に集まった。




◇ ◆ ◇ ◆






 明日菜としては。
 刹那から伝えられたタカミチの言葉で舞い上がる――という、余裕もなかった。
 ネギが心配だったから。
 それは、こうして試合が始まろうとしている今になっても姿を見せないからに他ならない。

 しかも、何やら怪しげな人物から訳の分からない事を言われている。
 守りたいもの。それは明確で、ぐるぐると回る呪文のような言葉が更なる混乱を呼ぶ。
 ぐちゃぐちゃで、現実が遠く、だからこそ白い。
 混乱しているからこそ、明日菜の感覚は研ぎ澄まされていく。
 考えれば飽和してしまいそうな事は、全部切り捨てて。
 今は、ただ目の前の事だけを考える。

 それに対して、刹那は舞い上がっていた。
 いや、意気込んでいた。
 勝利への意欲があり、目の前よりもこの次へと意識が向いている。
 この試合を士郎が見ているのも知っている。
 修学旅行の記憶がない士郎の目には、刹那の姿は成長して見えるのか。
 そういった類の緊張が、いい塩梅でブレンドされていた。
 戦闘のテンションとしては申し分ない。けれど、万全かつ最上だとは言えない、中途半端な状態だった。

「それでは第七試合、ファイトッ!」

 故に。その初手は。
 決定的に、明日菜の優勢となる。

「なっ」
「え?」

 驚きは刹那から、疑問は明日菜から。
 戸惑いは両者ともに在る。
 圧倒的な身体能力。速く重いその斬撃を、刹那はいなすのが精一杯だった。
 それも意識しての事ではない。身体に染み付いた防衛本能から、咄嗟に動いたに過ぎない。
 だから、驚く。今の一撃を防げた自分と、繰り出せた自分に。

 明日菜は理性的な判断からその威力、繰り出せた自分自身に驚き、何故という疑問を抱かずにはいられなかった。
 どうしてこんな力が使えるのか、ではなく。
 “何故忘れてしまっていたのか”、と。

 それ程にその感覚は明日菜にとって当然のもので、その一瞬で既に忘れていた状態、使えなかった状態を思い出す事ができなくなっていた。
 本能的な部分で、既に明日菜はこの力、咸卦法を受け入れている。
 アルビレオの後押しなどもう必要ないし、聞こえない。
 何故こんなに速く動けるのかなど、最早どうでもいい。
 今は、師匠である刹那にこの力を見せたいだけだ。
 そしてネギに、パートナーとして相応しいのだと、見せつけたいだけ。

 対する刹那も、その意思の炎を見て取り気持ちを切り替える。
 最早刹那は、挑戦者を一蹴するチャンピオンの位置にはいない。
 相手は対等であり、どこまでも手強い強敵であると。
 そう意識し、ギアを一段上げていく。

「行くよ、師匠!」
「ハイ、負けません!」

 そして、舞うような激突が再開される。




◇ ◆ ◇ ◆





「咸卦法だと……!」
「これは……」
「…………」

 明日菜の動きに驚いたのはエヴァンジェリン。
 かつてのタカミチよりも流麗な咸卦法に驚いたのが士郎。
 そして、あまりに完成されてしまっている精神状態に驚くのがアルビレオだ。

 三者三様、だがその驚きの質は全く別物。
 エヴァンジェリンは単純に賭けがピンチなので焦っているだけだが、アルビレオは違う。
 本気でこの事態にどう収拾を付けるべきか悩んでいたのだ。
 計算違い、という一言で片付けるべきではないのだが、事実そうなのだから仕方ない。

 アルビレオにとって誤算だったのは、きっと幾つもの要素だ。
 明日菜自身の精神的な成長だとか。
 もう何も失いたくないという感情の表層化であるとか。
 或いは、修学旅行で既にその封印が解けかけていた事だとか。

 知っていればこんな方法は取らなかった、というのは言い訳に過ぎない。
 これで何かしらの問題が起これば、タカミチの十年近くに渡る努力が無になるのだから。
 故に、彼はその全身全霊を持って明日菜の状態を解決しなければならないのだが。

 どうしようもない、というのが結論だった。
 既に今の明日菜はアルビレオの干渉を完全にシャットダウンしている。
 そういった方向性にマジックキャンセルを用いるのはかつて姫御子であった頃においても無理だったのだから、今の状態は無意識の発露という事。
 それは、マズイ。
 結果的に最終的に、どういう方向性に落ち着くのか、着地点はどうなるか。
 その予測がつかないからだ。

 だが、だからと言って今アルビレオに出来る事はない。
 正確に言えば、この試合に乱入して一旦状況をリセットする事は可能だったが、そこから事態が好転するとは限らず、むしろ中途半端な状態は後々最悪の事態を引き起こしかねない。
 故に、アルビレオは静観する事にした。
 万が一の場合に、即割って入る準備だけは整えて。

「ところでエヴァンジェリン」
「あ?」

 アルビレオは唐突に呼びかける。
 が、エヴァンジェリンは振り返りもせず胡乱気な声をあげるだけだ。
 舞台の上では、霞んで見える程のスピードで二人の攻防が続いていた。
 その攻防に目を奪われたという程でもないのだろうが、少なくともアルビレオの相手よりは彼女にとって価値があるのだろう。

「掛金を上乗せしてもよろしいでしょうか?」
「なに?」

 二人の戦いは完全な互角。
 パワーで攻める明日菜と、スキルでいなす刹那だ。
 事情を知っていれば納得だが、知らないエヴァンジェリンは予想外の展開に焦るばかりだ。
 だからこそ、或いはもうアルビレオ自身に打つ手がないからなのか。
 エヴァンジェリンにとっても、アルビレオにとっても予想外の展開に、彼は彼なりの誠意を見せるつもりでその提案を切り出す。

「サウザンドマスターの情報……それが、私のベットです。どうです? 乗りますか?」
「う、ぬぐぐぅ……乗るに決まっているだろうが!」

 まぁ、その提案はエヴァンジェリンに対する一つの切り札だ。
 これを断れるはずがない。

「では貴女が負けた場合、そうですね……」

 ネコミミスク水セーラー、勿論スカートはナシ。
 エヴァンジェリンの肩が、面白いくらいにビクンと震えた。
 傍から見ている士郎としても憐れとしか言い様がない。
 
「……というのは流石に可哀想なので。そうですね、次の私のプロジェクトに協力して貰いましょう」
「プロジェクトだと?」
「ええ。ナギにも関連している事ですからね。賭けなどなくとも貴女は協力してくれるかもしれませんが」

 とか言いつつ、実際はナギ本人と関わりがあるわけではない。
 いや、あると言えばあるのだが、それが現在のナギに関わってくるものではない以上、少なくともエヴァンジェリンの期待は裏切る事になる。
 どこまでも迷惑な男、アルビレオ・イマだ。

「しかし、明日菜の戦い方が“上手い”な。何をした?」
「残念ながら、私は何もしていませんよ。私は咸卦法の後押しをしただけ……あの状態は貴方こそご存知だったはずなのですがね」

 修学旅行の記憶が完全に士郎にあったなら、或いはアルビレオの言に思い当たったかもしれない。
 だが士郎はその詳細など知らないし、明日菜の暴走も事実として知っているだけ。
 現状の、冷静に制御下におかれているように見える状態から推察する事は難しい。

 そして、明日菜の状態を最も強く覚えているだろうネギは、単純に凄いとしか感じていなかった。
 あの時のような、恐ろしい殺気があるわけでもないのだから仕方ない。
 その感覚は当然のものであり、ある意味でアルビレオの焦燥も無為にしてしまうものだ。

 結局。扱う本人を信用しているか否か、だった。
 過去を知る分アルビレオが危惧するのも当然であり、その判断も正しいものではあるが。
 同時に、ネギの理由のない安心もまた現状を正確に把握していた。

「頑張って下さい、明日菜さん」

 少しだけ。既に今日、限界まで魔力を放出したネギが、回復した分だけ魔力を送る。
 ある意味アンフェアかもしれないけれど、それでもネギは明確に明日菜を応援していた。
 挑戦者として、挑む戦いに臨んでいる明日菜を自分と重ねているのか。
 或いは別の理由なのか……それは本人でさえも、きっと分かっていなかった。

 だが、だからこそ静かに、ネギは超然とした精神で以って明日菜に力を貸す。
 この時この瞬間、目の前に映る光景において。
 明日菜は、確かにネギにとっての特別だったから。





◇ ◆ ◇ ◆






 一閃、というにはあまりに大振りな一撃。
 まるでバットで素振りでもしているかのような粗雑な攻撃ではあったが、しかしだからこそ刹那は苦戦していた。
 その戦い方は、独自色が強すぎる。
 流派のような、或いは一人の武人が当然のように辿り着く効率性。
 強く在るための必須条件、思考経路。

 それが、明日菜にはない。
 ある意味で野生の動き。表面上は人間の理と利で支配された動きのようなのに、中途半端な粗雑が目立つ。
 しかしながら、だと言うのに刹那が苦戦するのには勿論理由がある。
 明日菜の動きに効率はないが、最適ではあったのだ。

 明日菜が本来持つスペック。
 超人じみた反応速度、五感、咸卦法で底上げされた運動能力。
 それらを、長時間戦い続ける為ではなく、その一瞬に最大の出力を発揮すべく使っている。
 効率など度外視したその場限りの全力全開。その連続。
 勿論隙も大きくなる。しかしその隙もまた、無理やりに力技で誤魔化しているのだ。
 故に、明日菜はいずれ動けなくなる程の疲労を覚えるだろう。
 だがそれがいつになるのか、刹那には分からなかった。
 15分という試合の時間制限がなければ、明日菜のスタミナ切れまでいなす事はできる。
 明日菜自身が自分の限界を感じていないような表情に、刹那はその選択肢を諦めた。

 刹那には理由がある。
 勝利への欲求という点では、二人に大差はなかったかもしれないが、次の試合に対する気持ちには差があった。
 士郎と戦いたい。或いは、自分の力を認めて欲しい。
 今現在明日菜が刹那との戦いを望み、そして全力を出しているように、刹那は士郎への挑戦を望んでいた。
 その為の必須条件が明日菜の打倒ならば、刹那に躊躇はない。

 こちらも全力を出さないのは失礼だとか。
 本気を出さなければ勝てそうにないとか。
 この試合が、思いのほか楽しかったとか。

 そんな理由は、結局表面上のもので。
 刹那は、刹那自身の欲求から奥義に手をかけた。

「神鳴流、奥義」

 明日菜がビクンと反応する。
 その単語は聞こえていただろうが、明日菜が反応したのはむしろ刹那の気質だろう。
 殺気ではないものの、今まで向けられた事のない敵意。
 今ここで、この技で、確実に絶対に倒すというその意気込み。覚悟。
 その思いの丈に明日菜は反応し、そして迎え撃つまでの僅かな間に身体は強張る。

 魔法完全無効化能力は、気に対しても有効だ。
 モップを盾のように構え、刹那の気弾から目を背けずに対する。

「斬空掌・散!」

 気弾による範囲攻撃が明日菜に襲いかかる。
 が、それによるダメージは皆無だ。
 明日菜がそれを敵として、己に害するものとして認識した以上、その全ては無効化される。

 と、いうのは、確かに絶対的なルールだ。
 但し、そのルールには勿論条件がある。
 マジックキャンセルで無効化できるのは、あくまで明日菜に対する魔力のみ。
 明日菜自身は無事であったとしても、その周囲までが無事だとは限らない。
 或いは、その範囲を意識的に広げる事は可能だったのかもしれないが、なまじ防御の姿勢を取った為にその意識は自分自身にのみ向けられている。

 故に。刹那の狙い通り、明日菜は気弾による煙幕で視界を遮られる事になる。

「神鳴流、奥義……」

 冥き底から聞こえてくるかのような現実味のない声に、ピクンと明日菜が振り返るその瞬間に。
 明日菜が振り返るのを待っていたかのようなタイミングで、刹那が剣を振り下ろす。

「斬岩剣!」

 咄嗟に防御が取れたのは明日菜の反射神経の賜物だろう。
 それだけで十分に脅威に値するが、しかし刹那の方が一枚上手だった。
 剣とは言うもののそれはただのモップであるはずなのに、明日菜の獲物がスッパリと両断される。
 それは叩き折られたのではなく、確かに斬撃によるもの。
 例え明日菜がスペックで上回ったとしても、決して刹那に勝てない一つの要素。
 剣というモノ、斬るという技術において、二人には天地の差があった。

 しかし、今の明日菜はそれだけでは終わらない。
 刹那の攻撃を、己の獲物と対価に防ぎきった事を瞬時に理解し、剣の間合いから一歩踏み込み拳の間合いに入ろうとする。
 当然刹那も応戦した。その為に、比較的技後硬直の短い基本性の技を用いたのだ。

「甘い」

 その無謀なまでの行動を一言で切り捨て、刹那は斬撃を飛ばす。
 剣を持った神鳴流に、無手の素人が敵うはずもない。
 そも間合いに入る事さえ不可能。
 神速故の神鳴流。神鳴るが如き、つまり雷鳴を模しているのは伊達ではない。

「ああああああぁぁうっ!」

 絶叫。或いは咆哮か。
 気合いと共に、そしてダメージを受ける事を覚悟して、明日菜は刹那の獲物を掴んだ。
 その斬撃を、避けるのはなくあえて受ける事で。
 正しく肉を切らせて骨を断つ戦法だ。

 その戦法を考えつくという時点で、明日菜には戦闘者としての心構えがあるという事。
 そもそも自分の武器を失った時点で後ろに下がるのではなく前で踏み出せるというだけで、素人などとは最早言えない程に強い。
 単純な実力ではなく、戦いに赴く心構えが、戦うという事への覚悟、気迫が。
 それは驚異的な事であり、かつての感覚を取り戻す前の明日菜では出来ない事だったろう。

 しかし、当然の事ではあるけれど。
 その感覚が蘇ったところで、ブランクがある事実は変わらない。
 安穏と生きた学園生活が、鍛錬ばかりに費やした日々と釣り合うわけもない。
 明日菜は確かに、その精神面においても、肉体面においても刹那に追いつく程になっている。

 だが。
 最後の最後、どこまでも拮抗した伯仲の刹那において。
 勝利の女神が微笑むのは、より多く剣を振るっていた者だ。

「神鳴流・奥義」

 その時明日菜には、刹那の動きがゆっくりと見えた。
 自分の身体も、痛みが原因なのか動かず、その緩慢とした時間の中で、明日菜は自然にその攻撃を受け入れた。

 ああ、やっぱり刹那さんは強いな。

 ネギがタカミチに感じたような、悔しさと誇らしさが混ざり合った感情の中で。
 明日菜はそんな事を思って、少しだけ、笑った。

「雷鳴剣!」

 明日菜に獲物を掴まれたまま、雷鳴を纏った剣を振り切る。
 獲物がモップとは言え、手加減なしの攻撃だ。
 明日菜は青空を仰ぐように倒れ、ピクリとも動かない。
 和美がカウントを開始する声と同時、観客から盛大な歓声が上がった。

「朝倉、カウントはいいよ。ギブアップする」

 それだけの攻撃を受けていながら、明日菜の意識はハッキリしていた。
 身体が痛むのか、起き上がる気配こそないものの、どこかスッキリとした顔で青空を眺めている。

「強くなりましたね、明日菜さん」
「どう、なんだろうね。やっぱり刹那さんには勝てなかったし」
「当然です。私はこれまでずっと剣を振り続けてきたのですから」
「そっかぁ……なら、私もずっと頑張らないとね」
「ネギ先生のために、ですか?」

 刹那の手で明日菜が起き上がる。和美の勝者を告げる声も、今の二人にはどこか遠かった。

「うん、まぁ。結局私がこの世界に関わる理由って、それしかないから」
「きっと、その想いはネギ先生に伝わっていますよ」
「そうかな。でも、伝わらないならそれでもいいよ。私は私が助けたいからアイツを助けるだけで……心配なだけだもの」

 その気持ちは、きっと恋愛感情じゃない。
 明日菜もネギも、傍で見ている刹那だって、その感情にどんな名前が似合うのか、まだ分からないけれど。
 きっと、その気持ちは尊いもので、これからの二人には必要なものだ。

「あーあ、何かネギの気持ちがちょっと分かるな」
「と、言うと?」
「負けた悔しさとさ。全力を出せた喜びっていうか……スッキリした気分がね」

 あの時ネギは泣いていたのかもしれない、と明日菜は思っている。
 だから、理解したとは言わない。ちょっと分かっただけ、なのだ。

 きっとネギと明日菜では悔しさの割合が違った。
 涙を流す程に、明日菜にとってこの勝負は、“強さ”というのは絶対的なものじゃない。
 明日菜は強さに憧れない。
 明日菜は純粋に、その気持ちこそ尊さを見出す。
 それは、小難しい話じゃなくて、男と女の違いでもあった。

「これからもよろしくね、師匠っ」
「ええ。こちらこそ」

 明日菜は快活な、刹那は柔和な笑みを見せる。
 そこには確かに暖かな友情が流れていて、肩を貸し借りる二人は一枚の絵として美しかった。



 だが。そんな美しい光景を暗黒色に染め上げる雰囲気が、舞台を一瞬で染め上げた。

「よくやってくれた、刹那。礼を言おう」

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。最強の吸血鬼。悪の大魔法使い。
 その名に恥じぬ迫力であり、覇気であった。
 刹那も明日菜も、思わず震えが走る。

「それでは続きまして第八試合、喫茶『アルトリア』のマスター、衛宮士郎選手対……」

 和美のアナウンスに遅れて、外套を外した士郎が姿を現す。

「二人とも、いい試合だったな」
「あ、ありがとうございます。それより、何かあったのですか? 先程までは雰囲気が……」

 勿論エヴァンジェリンの、である。
 あの気迫に物怖じしない士郎にある意味納得しつつ、刹那は訊いた。

「うむ、まぁ何と言うか……彼女の人生の一大事というか、な。詳しくはアル……クウネルを探し出して聞いてくれ」

 そのアルビレオ、いやクウネルは、既に姿を消していた。
 色々と意味深な事を囁かれていた明日菜としては業腹である。

「あの、士郎さんも試合、頑張って下さい」
「ああ。二回戦で待っている」

 明日菜にしても刹那にしても、その物言いにはハッキリと尊敬を覚えた。
 あんなに恐ろしい迫力を前にして、勝利を約束するなど並の神経ではない。
 実際に勝機はあるのだろうが、それにしても、だ。

 そんな二人を置いて、士郎も舞台に上がる。
 外套で隠されていた筋肉が、異様な程に目立っていた。
 ちなみにハーフアーマーも外しているから、士郎はタンクトップ一枚である。
 それでも、いつものエプロン姿からしてみれば、些かかけ離れたイメージには違いない。

 賭けの結果として、今この状態がある。
 士郎の防御力は半減どころではなかったが、それでも士郎優位なのは変わらない。
 士郎が把握しているエヴァンジェリンの能力では、夜でもない以上士郎に対する決定打はないのだ。
 魔具で底上げしていると言っても、士郎とて対魔力ぐらいはある。
 今エヴァンジェリンが使える程度の魔法なら、魔法使いがするようにレジストする事が出来るのだ。

 聖骸布は絶対性を約束するが、それを使わないとしても一矢報いる可能性が出来たというだけ。
 士郎の勝利は約束されているようなものだ。
 これは自信過剰というわけではなく、誰の目にも明らかな分析の結果。

「さて、始めるか衛宮士郎。積年の恨みを晴らすため、な」

 それでもエヴァンジェリンは不敵に笑う。
 それでこその悪の華。
 その意思潰えては己の命にも意味がない、とでも言うように。

「積年という程に我々の関係は長くない……が、全力を持って相手しよう」
 
 睨み合う両者、その迫力に和美が若干気圧されながらも、試合開始を宣言する。

「それでは第八試合、ファイト!」

 最凶で最悪の、紛う事なき真剣勝負が、今始まる。










刹那「これで士郎さんが負けたらどうしましょう……」

(拍手)
 




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お待たせしました

待たせまくってすみません。何とか次こそ決戦です。
一気に書き切るか分割するかはまだ分かりませんが、調子よく書き終われば日曜の更新もありえる……かもしれません。

内容については、もうそのまま省略してもいいかなんて思ったりもしたけれど、やはり書く事にしました。
現在の明日菜の、原作との違い。
士郎が自分の意思とは無関係に与えた影響が、巡り巡ってどうなっているのか、その一つの指標として。
後は、刹那のフラグというか思(ry

ま、次もできるだけ速く書きますのでお待ち下さい。

2010.07.03 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

夢前オリジナル・・・?

アルはエヴァのことは「キティ」と呼ぶんじゃないんですか?
詳しく原作知ってるわけではないので絶対にそうとはいえませんが

2010.07.03 | URL | ぺこぽん #- [ 編集 ]

Re: 夢前オリジナル・・・?

キティと呼ぶのはあくまでふざけている時というかシリアスじゃない時だと考えてます。
原作でも我が旧き友エヴァンジェリンよ、とか言ってるシーンもあったと思うので。
だから、アルがキティと呼んでいる時はどんなにシリアスパートに見えても本人は真剣ではありません。

2010.07.03 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

>ネコミミスク水セーラー

裏切ったな作者!!
ネコミミスク水セーラー着た幼女を私がどれほど期待したと思っているのですか!?
あの一瞬の想いは間違ってなかったはずだ……

2010.07.06 | URL | アストレア #wa5wuvhY [ 編集 ]

Re: タイトルなし

ハッハッハ。そんな事したらとてもじゃないけどシリアス書けないじゃーないか。
きっとカレイドキティと同じく四月の馬鹿な日に遥か彼方へ消え去ったのさ。
だから来年私が覚えててそんなモンを書く暇があったら戻ってくるかもねぇ。

2010.07.06 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


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