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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第61話


「一回戦(5) エヴァンジェリンとの賭け」

「手酷くやられたな」
「うん……正直、ここまでだとは思っていなかった」

 折れた腕をぷらぷらと振るタカミチに士郎が苦笑する。
 おそらく痛みを遮断しているのだろう。そして、遮断する必要がある程度にはダメージも大きいという事だ。

「腕だけか?」

 士郎の問いは簡潔過ぎて要領を得ないが、それでもタカミチは理解したのだろう。
 一度自分の身体に目を向けてから答える。

「内臓も少し……でも、支障ないレベルだよ。腕さえ治せば戦闘も可能だろうね」
「あの衝撃を受けてそれだけとは、尋常ならざるタフネスだな。感服するよ」
「士郎に言われたくはないね。身体を割かれそうになってるのに起き上がるなんて、僕には無理だよ」
「懐かしい話だ」

 士郎の苦笑の色が濃くなった。
 まぁ、あまり思い出したい思い出でもないだろう。

 と、苦笑している士郎の裏で、複雑そうな表情のアルビレオが顔を見せた。

「タカミチ君……約束を覚えていますか?」
「あ」

 いや、タカミチとて忘れていたわけではないのだ。少なくとも最初は。
 強いて言えばネギが予想以上の力で向かってきた事が理由だろう。
 演技をする余裕なんてなかったし、何よりそんなものが必要ないと思えてしまった。

「全く、おかげで私の壮大な計画がご破算です」
「諦めろ、アル。また壮大な計画とやらを練り直せばよかろう」
「確かに、麻帆良武道会決勝という舞台は多分に運の要素を含んでいましたからね……。
 諦めて次の作戦を考えるとしますか」

 割と本気で残念そうなアルビレオに、タカミチも罪悪感を覚えるらしくとても申し訳なさそうだ。
 だが士郎にとってはどうでも良い事である。
 それに、ネギに全く勝機がなかったわけでもない。

「最後の攻防。もしもネギが放出点ではなく収束点を攻撃してきたら、勝敗は逆だっただろうしな」
「? どういう事です?」
「僕の極而法は、一見放出点が弱点のように見えますが、実際は収束点こそ弱点なんです」

 極而法において、防御力とは循環魔力の密度と速さに比例する。
 つまりは、流れがある部位ほど防御に秀でているわけだ。
 逆に、その収束点、或いは放出点は攻撃に特化している部分とも言えた。
 だから、確かに放出点も極而法の弱点と言える。
 だが、収束点にはそれ以上の弱点があるのだ。

「左手、左方に収束する魔力は常に渦を巻き、円を維持する事で増幅していく。
 だが、それだけの規模で渦巻く魔力だ。竜巻と同じように空白が出来るのも致し方ない」

 本来魔力とは貯蔵できないものだ。
 普通の魔法使いが行う魔力供給が、垂れ流しに等しいのもそこに理由がある。
 ならば、収束させて威力を増すにはどうしたらいいか。
 魔力に狙い通りの軌道をとらせる事が可能ならば、常に回り続ける無限機関を部分的に作ればいい。
 魔力が流れ込む円環。それを具体的にイメージできる部位は、タカミチにとって腕、拳に他ならなかった。
 尤も、拳そのものに魔力を収束しないのは魔力圧に耐え切れず自分で身体を壊してしまうからでもある。
 弱点が弱点としてあるのは、確かな理由が存在するのだ。

「しかし、拳大の限定的な空白では意味がないのではありませんか?」
「そうでもありませんよ。ほとんど防御力ゼロですからね。魔法の矢だけで十分ダメージを受けてしまうんです」
「それは……欠陥として大きすぎるのでは?」
「確かにそうだ。その対策として生まれたのが歪曲瞬動なのだがな」
「常に瞬動術を用いて撹乱する……それで尚隙をつけるような相手には、そもそも勝てないという事ですか」
「そこまで達観はしてませんけどね」

 実際、その隙をついてくる士郎がいるために、タカミチも苦笑するしかない。
 常々その対策をと考えているのだが、何をやってもすぐに対応してくる為成果が出ている気がしないのだ。
 左右反転は、少なくともネギには効果があったようだが。

「それより、まずはその腕を治しましょう。試合を続けるにしても、棄権するにしても。
 色々と忙しいのではありませんか?」
「そうですね。まぁ、骨折を治して次の試合に出るわけにもいきませんから、試合は棄権する事にします」

 明らかに折れた腕が数十分で治る事など有り得ない。
 そんな疑惑を抱かせてしまうくらいなら、試合を棄権した方がよほどマシだった。
 そもそもネギとの試合と、超・士郎の監視の為に参加したタカミチなのだから、後はのんびり観戦でもしていればいい。

 アルビレオが手をかざし、治癒の魔法をかける。
 即座に骨折が治るようなレベルではないが、アルビレオの治癒魔法でも表面上は治癒する事ができた。

「骨折そのものが治っているわけではありませんから、後々本職にお願いして下さい」
「ええ。ありがとうございます」

 タカミチは軽く腕を動かす。どの程度痛みがあるか、動作確認をしているのだろう。
 やがて、タカミチはもごもごと何事かを呟くと、目を瞑って集中する。
 魔術回路を起動させて内界の状態を確認しているのだ。

「それよりアル、お前はどうするんだ?」
「試合の事ですか?」
「そうだ。ネギと戦うのが目的だったというのなら、棄権してもよかろう」

 士郎の目は、魔力を温存しなくてもいいのか、と問うている。

「そうですね……確かにそれも一つの選択ではありますが、折角ですので最後まで参加する事にします。
 賞金も魅力的ですしね」

 とは言うものの、賞金なんぞに興味がない事ぐらい士郎も分かっている。
 愛衣はもう負けているから関係ないが、次に当たる小太郎にも興味があるという事だろう。
 或いは、士郎との戦いを望んでいるのかもしれない。

「……意外ですか?」
「そうだな。目的が果たせないならば棄権すると思っていた」
「まぁ、新しく目的も出来ましたから。それに、棄権者ばかりでは大会も盛り上がらないでしょう」

 確かに、大会の盛り上がりは士郎も多少気にかけているところではある。
 結局の所、士郎は派手な技を持たない。
 持っていても、使えない。大会の意義、目的は理解しているが、それでも使うわけにはいかないのだ。
 威力が高すぎるし、この程度の理由で見せるにはリスクが高すぎる。
 依頼された以上の事にまで注力する必要はないだろう。
 それ以外に手段がないのならば別の話だが、まだまだ他にも適任はいる。

 そういう意味では、確かにアルビレオが棄権しないというのは士郎にとって――超の陣営としては都合が良かった。
 けれど、小太郎や高音、楓などの事を考えると、アルビレオ・イマという人間と関わりを持って欲しくないとは思っている。
 二律背反。けれど、そんな事を考えるのも烏滸がましい事だろう。
 何せ、士郎はその守りたいと思う人々さえも、超との計画の為に利用しようとしているのだから。


「あの、今よろしいですか?」

 と、そんな裏ばかり混じった雑談をしていた士郎たちに、涼やかな声がかけられた。







◇ ◆ ◇ ◆








 担架で運ばれて行くネギを、明日菜は思わずといった感じで追っていった。
 女子たちが明日菜に追従してネギを追いかける中、小太郎とエヴァンジェリンだけがその場に留まっている。

「貴様は行かんのか?」
「行けるわけないやろ……どんな顔して会えばいいんや」
「ま、確かにな」

 負けて欲しくはなかった。自分以外の相手に、という想いもある。
 けれど、仕方ないとも思っていた。
 小太郎だって、あのタカミチを相手に勝利が拾えたとは思えない。
 まだネギには不可能な方法を小太郎ならば試す事は出来たが、ネギの最後の一撃に耐える相手ではどうしようもない。

 ただそれも、小太郎にとっては先程の愛衣との試合が尾を引いているのかもしれなかった。
 勝った気がしない。格下であるはずの相手に思わぬ苦戦。
 それに較べてネギはどうだ。圧倒的な格上を、結果的には敗れたとは言え追い詰めている。
 勝敗はともかく、試合内容で言えば雲泥の差だ。
 少なくとも、小太郎はそう感じている。

 だから尚更どんな顔をして会えばいいのか分からない。
 慰めるなんてのは論外だ。そんな資格はなく、むしろ慰められてもおかしくないぐらい。
 かと言って、何もしないのは不義理のように感じられた。
 しかし、顔を会わせればつい要らぬ事を口走ってしまいそうで。
 結局、解決を時間に委ねる事になる。

「そういうアンタはどーなんや。弟子が心配やないんか?」
「フン。そんな柔な鍛え方はしてないし、タカミチだって考えて攻撃していた。
 見た目は酷いかもしれんが、きちんと休息を取ればすぐに回復する」
「そうなんか? つーか……」

 あの戦いの中で、尚そんな手加減をしていたのかと小太郎は唸る。

「それより貴様、衛宮士郎と同居しているんだったな」
「まぁ、そうやけど」
「最近奴に変わった行動はなかったか?」

 その質問の意図を探る前に、小太郎は気圧された。
 今エヴァンジェリンが纏っている空気は、明らかに機嫌が悪いと分かるもの。
 ネギが負けた事が原因なのかもしれないが、それでは質問の意味が分からない。

「同居しとるゆーても、間借りみたいなもんやしな。
 割とお互い自由に過ごしとるから……変わった事しとるかどうか、正直分からへんで」
「使えぬ犬め。……いや、それだけ奴が周到だと言う事か」

 意味が分からないなりに、小太郎は危険なものを感じた。
 己が身に振りかかる災厄ではなく、隣人に振りかかる人災を。
 今、エヴァンジェリンは何らかの策を練っていて……その対象は士郎だ。
 少なくとも、今この場にいる小太郎の事など全く考慮に入れていない事は、肌で感じられた。

「しかし、奴も場当たり的な対処をしていた場合が問題だな。こちらも運に頼る必要があるか」

 思考がダダ漏れなのは、余程集中しているのか、それとも。
 “敢えて”聞かせているのか。

「犬、今衛宮士郎がどこに居るか分かるか?」
「あっちの方で観戦しとるの見かけたけど……ネギの方にはいかんでええんか?」
「構わん。どうせまだ起きないだろう」

 すたすたと歩いていくエヴァンジェリンの後ろ姿に、小太郎は一人呟く。

「ネギもよーあんなおっかない奴の弟子になろう思たもんやな」

 その言には、自分の目標が士郎で良かった、という想いも含まれていたのかもしれない。






◇ ◆ ◇ ◆






 エヴァンジェリンにまだ目覚めないと言われていたネギだったが、あっさりと意識を取り戻していた。
 元々肉体的ダメージではなく魔力切れで気絶しただけなのだから、おかしい事ではない。
 しかし、その回復力は大容量の魔力を持つが故のものではある。
 エヴァンジェリンが気づかないのは不自然な事ではあるが、或いは彼女の言は口実でしかなかったのかもしれない。

「ネギっ」
「ネギ先生っ」

 明日菜と、他仲間内が救護室のベッドを取り囲んでいた。
 だから、ネギも直前までの記憶と照らし合わせて……その結果が予想できてしまう。

「僕は……負けたんですね」

 悲しんでいるわけでもなく、苦しんでいるわけでもなく、ただ自然体でネギは呟いた。
 その目は、どこか燃え尽きたようなように静かだ。
 放心している……それが適切な表現かもしれない。

「ネギ……」
「あ、僕は大丈夫ですよ。気絶していたのは魔力が切れただけですから。少し休めば回復します」

 心配そうに覗き込む明日菜に、ネギは努めて笑顔を見せる。
 けれどもそれはどこか無気力で、明日菜の心配を拭えるものではなかった。

「でもアンタ、あんなに殴られてたのに」
「急所は外れてましたから……きっと、タカミチも手加減してくれていたんだと思います」

 確かに、ネギに目立った外傷はない。
 タカミチが見るからに骨折しているのとは違って、擦り傷などは多かったが大事になりそうなものはなかった。
 残す問題は内臓の損傷だが、意識が戻るのも早かった上に普通に起き上がれるなら大丈夫だろう。

「本当に、大丈夫なのね?」
「ハイ。皆さんも心配おかけしてスミマセンでした」

 ぺこりと頭を下げるネギに、皆安堵の表情を浮かべる。
 身体のダメージもさることながら、負けた事に落ち込んでいるのではと思っていたのだ。
 少なくとも、すぐに取り繕えるならそこまで深刻ではない。
 皆はそう判断したが、明日菜だけは依然心配そうだった。

「次は明日菜さんと刹那さんの試合ですよね。僕はもう少しここで休んでいますけど、試合は見に行くので頑張って下さい」

 しかし、そうまで言われたら切り上げなければならない。
 試合に出るつもりなら、確かにそろそろ準備……は別にどうだっていいのだが。
 明日菜は暗に出て行けと言われた気がした。
 勿論ネギに他意はないだろう。明日菜がそう感じたというだけの話だ。

「明日菜ー、そろそろ準備してよ。ネギ君だって少しは一人になりたいだろうしさ」

 和美に呼びかけは無遠慮なものではあったが、明日菜も従わない理由はない。
 今ネギは一人でいるべきなのか、それとも誰かの支えが必要なのか。
 心配しているというだけでは判断は付かず、ならば誰かの意思の通り動く方が楽だ。

「それじゃ、明日菜さん。頑張ってきて下さいね」

 先程よりは少しマシな笑顔を見せるネギに、明日菜は後ろ髪を引かれるような思いで退室した。
 付いて来ていた木乃香たちも同様に救護室を後にし、ネギ一人が残される。

「……はぁ」

 ため息。それも、ネギにしてはあまりに重苦しく本人でさえ制御出来ていない感情の一端だった。
 別に、明日菜に言った事は嘘じゃない身体は大丈夫だったし、愛想笑いだって浮かべられる。
 ただ、わけもなく気分が晴れないだけ。
 いや、理由は――。

 その時、ぽたりとシーツに滴が落ちた。
 本当に、ネギはその滴を見て初めて気づく。

「ああ、僕――泣いてるんだ」

 その事に気づいてようやく、ネギは自分の中に渦巻く感情の名前を知った。

 悔しい。
 悔しい。
 悔しい、のだと。

 断じて後悔ではない。晴れ晴れとした心持ちも確かにあり、迷っているわけでもなかった。
 ただ、どれだけ力を尽くしても、知恵を絞っても敵わなかったという事実に泣いている。
 あの時ああしていれば良かったとか、もっと修行していれば良かったとか、そんな気持ちはなかった。
 修行で手を抜いた事などないし、試合でも自分の全力以上を発揮できたという自信がある。
 だから、ただ、勝負に負けた事が悔しい。
 そこにどれだけの実力差があったとしても、納得は別の問題だ。

 負けた事が悔しくて、勝てなかった事が悔しい。
 明日菜の、エヴァの、古菲の、楓の、木乃香の、刹那の、まき絵の、色んな人の期待に答えられなかった事。
 そして、この結果が当然のものとして受け止められている事に。

 悔しくて泣く、なんて事はネギにとって初めての経験だった。
 悲しくて泣いた事はある。苦しくて泣いた事もある。恐ろしくて泣いた事もある。
 けれど、悔しくて泣いたのはこれが初めて。
 出来なかった事はあるし、悔やんだ事など数え切れない。

 けれど今までのネギは、どこかそれを当然のものとしてきたのかもしれない。
 実力差、経験差、自分が子供であるという甘え。
 タカミチが、ネギを一人前と扱ったからこそ……その期待に応えられなかった事が、こんなにも悔しい。

「うっ、くぅっ……」

 誰にも聞かれる事のない嗚咽は、数分間続いた。






◇ ◆ ◇ ◆







 士郎たちに声をかけたのは刹那だった。
 何故か、と言うのもおかしいが、その傍らには彼女の簡易式神「ちびせつな」が浮かんでいる。

「高畑先生、超さんの動向なのですが」

 言いながら、ちらりと士郎を流し見る刹那。
 けれど、特に士郎が反応を返す事はなかった。
 いや、ぷかぷか浮いているちびせつなに興味を見せている程度か。

「何か分かったのかい?」
「ええ。式神に裏を探らせていたのですが、先程気になるものを」
「試合も終わったし、僕はそっちに手をつけるか」

 うんと頷き、タカミチが刹那に更なる情報を求める。

「しかし、いいのですか? 先生の腕は……」

 表面上は確かに治癒しているように見えるが、刹那の目にも完治していない事は察せられた。
 この場に余程高位な治癒術師か木乃香のアーティファクトでも用いれば可能ではあるが、この場にそんな便利なものはない。

「うん、まぁ無理はできないけど……偵察ぐらいなら大丈夫さ。
 それより次は君たちの試合だろう? 式神は大丈夫なのかな?」
「ええ。今回のちびせつなは半自律型なので」

 だからと言って全く影響がないわけではないのだろうが、実際の程は刹那にしか分からない。
 彼女が問題ないというのならタカミチにも否はなかった。

「それじゃあ僕は行ってくるとするよ」
「……済まないな、手伝ってやれなくて」
「いや、君を棄権なんてさせたらエヴァが何て言うか分からないからね。仕方ないさ」

 至って自然にタカミチは答えていたが、内心士郎に対しての疑惑が確信に変わりつつあった。

 タカミチは、士郎に超の件について具体的な事を教えていない。
 というより、超の名前さえ出していなかった。
 だからこそ、ここで士郎が超が画策している事、タカミチが動く程の事があると知っているのはおかしい。
 まぁ、他の魔法先生など、情報経路は色々あるだろうから確実とは言えない。
 今のタカミチと刹那の会話から、推測だけで発言している可能性もある。
 タカミチもその可能性を信じたいところではあった。

 取り敢えず士郎についての思考は振り切り、タカミチは刹那に向き直った。

「刹那君、明日菜君に伝えておいてくれないかな。試合を見れなくてすまないと。
 後、明日の学祭巡りを楽しみにしているって」
「あ、ハイ。分かりました」

 タカミチは早速ちびせつなの案内に従い歩き出す。
 取り残された形の士郎と刹那は一瞬気まずい空気が流れる。
 アルビレオは、刹那の話を聞くでもなくいつの間にか消えていた。

「桜咲」
「は、ハイっ?」
「最近お前に避けられているような気がするのだが……私が何かしたか?」
「いえ、そんな事は……その、私の、問題なんです」
「そうか。手伝える事があったら遠慮なく言ってくれ」

 言ってしまおうか、と刹那は悩む。
 パクティオーカードの事。仮契約の事。有耶無耶になっていた修学旅行の件に対する感謝。 
 言わなければならない事は多かったし、伝えたい事も多い。
 これはチャンスだ。それが分かっていても、あと一歩が踏み出せない。

「次は桜咲の試合だな」
「ええ、そうですね……」

 落胆か、刹那は伏し目がちに答える。
 修学旅行の、あの夜。
 明日菜たちに禁忌を告げるより遥かに容易いはずなのに、その勇気が湧いてこない自分が不甲斐ない。
 そんな風に、刹那は落ち込む。
 
「お互い勝ち上がれば私たちの試合だ。出来る事なら、また桜咲と剣を合わせたいものだな」

 そんな、独り言のような言葉を残して士郎は去っていく。
 刹那はその背にかける言葉を持たなかったが、もう先程のように落ち込んではいなかった。

 かつて、士郎と手合わせしていた頃は、刹那から望み頼んでいたものだ。
 それが士郎から望まれるのなら――嬉しいという感情を抑える事ができない。
 頑張ろうと、あまりやる気もなかった試合へと、刹那は奮起していった。






◇ ◆ ◇ ◆







 一方、本体の浮かれ具合など影響のないちびせつなは、呑気とも言える明るさでタカミチを案内していた。

「いや、驚いたよ。地下にこんな下水路があるなんて」
「そうですねー。まさか超さんたちの部屋からこんな通路が伸びているなんて思いませんでした」

 朗らかに笑顔を見せるちびせつなにつられるようにタカミチも笑みを見せる。

「この奥にある広い部屋に機械が一杯あったんです」
「何かの研究施設かな?」
「おそらくは。ただ私、機械苦手なので……」

 えへへ、と笑うちびせつなは愛らしい。
 薄暗く、匂いこそ強く感じるわけではないものの、汚れている下水道には似つかわしくないだろう。
 けれど、その和気藹々とした空気も長続きはしなかった。

「やれやれ。こんな所まで来てしまたカ」

 その声は、内容とは裏腹に嬉しそうですらあった。
 超鈴音。何かを画策しているのであれば彼女であり、すなわち主犯首謀者である人物。
 そんな人間が、堂々とタカミチの前に姿を現した。

「超君……に、龍宮君もか」

 超と挟み撃ちになるように、真名もまた姿を現す。
 二人は明らかな武装状態だ。
 見た目はグローブにギターケースという軽装……いや、それは一見して武装とは断定しずらいものだ。
 だがそれでも明らかに武装だとタカミチが判断するのは、二人の気配が理由だ。

 戦意に溢れ、この場で戦う事を楽しみにしているかのような。
 けれど、タカミチには戦えない理由がある。
 生徒に手を上げるわけにはいかない……という尤もらしいものではない。
 単純に、ネギ戦のダメージが残っている身体では勝率が低いというだけの話だ。
 超だけならばともかくも、曲者揃いの3-Aの中でも最強クラスの真名までいては苦しい。
 これが最後と言うのならタカミチも戦うだろうが、ここで無理をして大事な時に動けないのでは話にならない。

「元担任に対し申し訳ないとは思ウ。しかし私にはもう時間がないのでネ」
「僕を捕縛しておく、ということかな?」
「察しが良くて助かるヨ。麻帆良における第三位。貴方の動きを封じれば、勝ったも同然だからネ」
「そう簡単に行くかな? 士郎だって居るんだよ?」

 その問いかけは、超の反応を探るものだった。
 この反応次第で、超と士郎が手を組んでいるのか、タカミチは最終判断を下すつもりだ。

「フフ、貴方がそれを言うのカ? 散々疑っていたように見えたけどネ」

 バレている。だが、よくよく考えてみればタカミチの問いに意味などなかった。
 超は、どんな答えを返しても不利にはならないからだ。
 唯一、積極的な肯定のみは余計な手間を与えてしまうだろうが、真実士郎が超に協力しているのであれば些細な事。
 超の立場にしてみれば、士郎の存在は切り札であるはずだ――というのが、タカミチの勘違いだった。

 超は、士郎の存在を便利に使うつもりがあってもそれを最後の切り札にしようとは思っていない。
 それを許すには士郎の思想、能力は不明瞭に過ぎた。
 理解できないものを切り札とするのは余程の大物かただの馬鹿だ。

 故に、超にとっては士郎が超についていると宣伝されるのは何ら不利にならない。
 むしろ、魔法先生たちの意識が士郎に向かい、士郎への対策に注力されるならば都合が良かった。
 その分超は自由に動けるようになるからだ。
 例えそれが不確定な情報であろうとも、士郎が麻帆良で築いた伝説が魔法先生たちの目を曇らせる。

「マァ、大人しくついてきてくれるのならその辺りの事情も説明するヨ」
「……分かった。どうせ今の僕じゃ龍宮君に歯が立たないだろうからね。大人しく捕まるよ」

 実際は戦いようぐらいはあっただろうし、逃亡戦なら十分に勝ち目があっただろう。
 しかし、タカミチは偵察という主目的の為、敢えて捕縛される道を選んだのだった。






◇ ◆ ◇ ◆






 会場内で士郎を探し回っていたエヴァンジェリンだが、結局士郎の姿を捕まえたのは明日菜と刹那の試合が始まる直前だった。

「それで、このような人気のない場所で何用かな?」
「用という程の事ではないのだがな。貴様、麻帆良を出る準備は終わっているのか?」

 単刀直入、一切の躊躇いなくエヴァンジェリンは核心を突いた。
 士郎が超に協力している事を、ほぼ確信として掴んでいるエヴァンジェリンだからできた当然の推測。
 エヴァンジェリンは超の計画、やろうとしている事を知っているわけではない。
 知っているのは精精、士郎と同程度の事だろう。その推測も含めて、だが。

 ただ、アレ程の天才が何年もの準備の果てに実行に移す計画だ。
 今までのやり方から考えて、この地の魔法関係者に真っ向から刃向かうような方法を取るであろう超の側に立つのなら、必然士郎が麻帆良に留まる事はできない。
 葉加瀬や龍宮といった生徒とは事情が違う。
 大人として、行動には責任があるのだ。
 士郎が戦闘に関与したならばその事実を隠し通す事も、誤魔化す事もできないだろう。
 それだけ士郎は有名になっていたし、今回の件は不安要素の顕在化としか取られない。
 本国送りの上一生幽閉か、或いはいいように使われる駒と成り果て戻ってくるか。

 それでは、エヴァンジェリンにとって意味はない。
 彼女は決して士郎に対して好意的なわけでもなく、むしろ嫌悪さえ抱いているが。
 しかし、守りたい信条はあるのだ。

「……元々、有事の際にはいつでも出れるようにはしてある。しかし、君が心配するような事かね?」
「私が心配しているのは貴様ではない」
「では誰を?」
「誰というわけではない。私は貴様に借りがある」

 はて、とエヴァンジェリンの言う借りを士郎は思い返してみる。
 が、二人は敵対しつつ協力し、互いが互いを監視しているような不思議な関係だ。
 持ちつ持たれつ、行動には全てお互いにのみ適用される条件があったはず。
 今更士郎に思い当たりなどあるわけもなかった。

「停電の夜、貴様に邪魔された挙句、傷を“奪われた”。忘れたとは言わせんぞ」

 ああ、と士郎は合点する。そう言えば、この件は借りだと言っていたような気もした。

「しかし、敵対行為で帳消し。これで構うまい? 不満があるとしても、別荘の件でこちらの方こそ借りがある」
「戯け。施しには施しで、屈辱には屈辱で返してこそ悪の道だ」
「成程。要は、私を打ちのめす前に消えてくれるな、と。そういうわけか」
「クク、察しが良すぎるのも困りものだな」

 エヴァンジェリンは、いかにも悪という笑みを見せた。
 凄み、愉悦、誇り。三流にはない、信念として悪を持つ者の笑みだ。

「それで? 次の試合で決着を付けよう、そういう趣旨かね?」
「ルールのある試合というのが不満ではあるがな。
 貴様があと数日しか麻帆良に留まらぬというのなら仕方ない」

 少しだけ、士郎は思案した。
 どうせ試合は行われ、超からの指示もあり戦わないという選択肢はない。
 士郎自身にエヴァンジェリンに対する拘りなどないが、ここで無下にした所でメリットなどないだろう。
 預けている“刀”の事もあるし、要らぬ不興を買う必要もない。

「よかろう。君を殺すつもりで戦う。それでいいのか?」
「ああ、そうだ。それでこそ意味がある。分かっているじゃないか」

 本当は、そんなバトルマニアのような心境など全く分かっていなかったが、士郎は曖昧に頷いた。

「本当に殺してしまっては大会に支障が出る。上手く避けるんだな」
「フン、この大会のルールでは貴様とて十全な実力を発揮できまい。
 ……しかし、確かにこの戦い、私に勝ち目がないな」

 世界樹の影響にて多少は魔力が回復してきているとは言え、それでも並の魔法使いよりは弱い。
 魔力量だけが勝敗を決するわけではないが、士郎と戦うに当たっては致命的だ。
 エヴァンジェリンは封印で、士郎は試合のルールで。
 それぞれ攻撃力は封じられているが、しかし防御力においては差がある。
 士郎は数々の装備で身を固めているのに対し、エヴァンジェリンは碌に魔力強化も出来ない素の肉体。
 これでは差があり過ぎる。
 エヴァンジェリンは一撃当たれば命の危険があるというのに、士郎は百発当たっても大したダメージにはならないだろう。

「君は、勝ち目がない戦いをするタイプには思えないがね」
「そういう気分になる時もある。が……勝率を上げれるのなら上げるべきだな」

 そして、エヴァンジェリンは再び眩い悪の笑顔を見せた。
 まるで、最初からこれが狙いであったと言わんばかりに。
 士郎に対する貸し借りの話は確かに根幹に根ざす問題なのだろうが、そんなものは胸に秘めていればいいのだ。
 こうしてわざわざ直接会話する理由、それは。

「賭けをしよう、衛宮士郎」
「賭けだと?」
「そう。ベットは貴様の防御力。私が勝てば、貴様はあらゆる防御系の装備を使わない」
「それで、君の掛金は?」
「そうだな……貴様が協力している超の計画。それに私も協力してやろう。
 あくまで麻帆良の中でしか動けないがな。別荘から数多の武器を持ち出せば、それなりに使えるだろう」

 応ずる必要はない。だが、士郎にとってはそれなりに魅力的な提案だった。
 超の勢力は明らかに人手不足だ。
 戦力においては十全なものがあるとしても、人手ばかりはどうしようもない。
 最後に行われる強制魔法認識魔法。その儀式において、実戦担当ではないにしても人手は欲しいところだ。
 対して、今のエヴァンジェリンの力ならば素の肉体で攻撃を受けても大事にはならない。
 試合に負ける事があったとしても、別荘を使えば十分に明日までに回復する事は可能だろう。
 それに、元々魔法先生たちからは疎まれているエヴァンジェリンだ。裏切る危険性も少ない。

「いいだろう。その賭けに乗ろう」
「よし、そうだな……これから始まる刹那と神楽坂明日菜の試合。その勝敗を賭けようか」
「分かった。私は……」

 そして、士郎が賭ける相手を告げようとした時、二人しかいなかったはずの会場裏にアルビレオが姿を現した。

「その賭け、私も乗らせてもらいますよ」
「なっ、貴様っ! 何故ここに!?」

 その声、気配にエヴァンジェリンが純粋な驚きの声を上げる中、アルビレオはエヴァンジェリンを無視する形で士郎だけに視線を合わせながら宣言する。

「明日菜さんの勝利に、ね」















ちびせつな「マスコット化は失敗しましたが、囚われのヒロインなら!」

(拍手)
 




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あとがき

一週間休んだ癖にいつもと変わらぬ分量、しかも予定してた刹那VS明日菜さえ始まってないという体たらくで御免なさい。
風邪とか色々あったけど、やっぱりちょっとスランプっぽいのかも。
必要のないシーンまでだらだら書いているような気もするけど、原作でもこの辺りから描写が濃くなってるし……。
ま、ともあれ次週は明日菜と刹那の試合が終わり、本命の士郎とエヴァの試合が始まっている……といいな。
本当はそこまで書いてから更新するつもりだったのですが、長くなりすぎるのと二周続けて休むのは流石に嫌だったのでここで区切ります。
このままだと学園祭編であと20話程使いそうですが、気長にお付き合い下さい。
待て次週!

2010.06.19 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

更新お疲れさまです。

エヴァの賭けは少年漫画だったら絶対エヴァが勝つパターンですが、果して結果はいかに?
ぶっちゃけた話、観客からブーイングが起こるようなフルボッコも見てみたい。

2010.06.19 | URL | m.k #OTJYnKmE [ 編集 ]

Re: m.kさん

賭けの結果は勿論来週に。まぁ嘘予告知ってる人は賭けの結果もある程度予想はつくでしょうけど。
フルボッコにしてもブーイング程度ならまだマシだよね、とか言ってみる。
***になったら観客真っ青だろうなぁ。

2010.06.19 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

最新話読ませて頂きました
最後の刹那の不遇振りに泣いたw

2010.06.20 | URL | ぺこぽん #- [ 編集 ]

Re:ぺこぽんさん

まぁアレだ。刹那は美味しいキャラだよね。

2010.06.20 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

どちらが勝つか判らんが、刹那に勝ってもらいたい

2010.06.20 | URL | NoName #LkZag.iM [ 編集 ]

Re:

刹那に優しくない事で定評のある私ですからねぇ……
明日菜が勝ち上がったら勝ち上がったで二回戦は面白い事になりそうですが。果てさて。
余裕があれば拍手でIF書くのもいいかもしれませんね。

2010.06.20 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

正直この二人なら戦いがどうなっても不思議ではないのが怖いところ
賭けの結果でエヴァはフルボッコされても…というかフルボッコしないと文句言いそうだし……

まあ愉快型魔術礼装(でいいんでしたっけ?)があれば封印エヴァでも魔力無限のフルパワーですが…

2010.06.22 | URL | アストレア #wa5wuvhY [ 編集 ]

Re: アストレアさん

ハハハ、まぁタカミチ戦での前科がありますからなぁ。
明日菜の初期覚醒も早かったし。

エヴァに関しちゃそれでもやりようはありますけどね。勝つ事はできないでしょうが。戦いになら。
アレがあれば確かに割と楽に士郎にも対抗できるだろうけど、仮にあってもあんな格好で出てくるぐらいなら棄権するだろうしなぁ。

2010.06.22 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


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