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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第58話


「一回戦(2) 混戦」

 愛衣への見舞いを済ませた士郎を、アルが待ち受けていた。
 ローブで顔が見えないというのに、ニヤニヤと笑っているのが分かるから不思議だ。

「なかなか面白い子ですね。蒐集甲斐がありそうだ」
「やはり、君の趣味は好きになれないな」
「ふふっ、素直な事です。まぁ、蒐集はともかくとしても、あの子に興味を抱いたのは事実ですよ」
「佐倉だけか?」
「小太郎くんは、この街で貴方と生活を共にするようになった時点で目を付けています」

 薄ら寒い話だ。当人たちにはいい迷惑だろう。
 そしてそれは、士郎にしても変わらない。
 自分の目的と、そのために何をしたのかを考えて、軽い自己嫌悪に陥る。

「それより次は君の試合だったはずだが?」
「もう終わりました」
「早いな……当然ではあるが」

 実力を隠したとしても、一瞬で決められるだけの差があったことだろう。

「しかし、この学園には面白い子がたくさん居て飽きません。
 今試合中の長瀬楓、彼女も貴方の関係者でしたか?」
「関係者と言うほどではないな。多少親交があるのは認めるが」

 士郎と楓の関係は、何とハッキリ答える事のできる類のものではない。
 一番近いのは修行仲間と言ったところか。
 尤も、楓の方は士郎が思っている以上に執着があったのだが。

「それより、釘をさしておくが、本人の同意なしの蒐集行為は許さんぞ」
「貴方の許可を貰う必要が?」
「君が言ったはずだがな。私の関係者だと」
「ふむ。例えば、大河内アキラさん、などの事ですかね?」

 探るような目。
 士郎は驚愕を隠すので精一杯だった。

「君の興味を引くような人材ではないと思うがね」
「関係者である事は認めるのですね」
「隠す事ではないからな。私をマークしている魔法先生ならば誰でも知っている話だ」

 事実、アキラに対する魔法バレに関しては裏で士郎自身が動いた事もあり、割と有名な話ではある。
 調べようと思わずとも耳にする程度には。

 だが、問題は。
 このアルビレオ・イマが目を付けたという事である。
 彼が興味を持つような人間というのは、優れた、或いは異質な才能を持つ者か、その歩んできた人生が想像を逸脱している者だ。
 そしてそのどちらにも、アキラは含まれない。
 少なくともアキラの今までの人生は平凡なものだ。士郎との出会いで変わったスタンスだけでは理由に乏しい。

 だから、士郎がアルの思惑を勘ぐるのも仕方の無い事だった。
 士郎自身でさえ答えの出ないアキラの挙動。
 それが、何か異質な才能の片鱗なのではないか、と。
 そしてその才能にアルが感づいているとしたら。

 危険だ。
 士郎は本質的なところでアルを信用していない。
 彼が立派な魔法使いで、世界を救った英雄である事を理解しながら、いや理解しているからこそ。
 アキラの才能が有用で、その為に大きな成果が得られるのなら、彼女の犠牲を厭わず使うのではないかと。
 おそらく自分でもそういった決断を下すだろうという自己分析は棚に上げる。
 アルならば、特に理由もなしに面白そうだからとこの世界に彼女を引き込みかねないのも事実だからだ。
 
「君には恫喝も懇願も意味はないのだろうが、それでも念は押しておくぞ。
 もしもアキラを巻き込もうとするのなら――私は、ネギに手を出す事にする」
「目には目を、ね。彼女には貴方をそこまで動かす何かがあるという事ですか」
「ああ。普通の人間が、普通に笑って生きてくれるのなら。無価値こそが何物にも代え難いものになる」

 そう言って試合の観戦に向かう士郎をアルは見送る。と同時に、危ういものを感じていた。
 別に、彼は実際にアキラに興味があったわけではなく、適当にカマかけしただけに過ぎない。
 そしてその返答に、士郎の過去を知っているアルは納得すると同時、呪縛は未だ解けていない事を再認したのだった。




◇ ◆ ◇ ◆






「酷いでござるな。拙者の試合は見ていなかったでござるか?」
「……そんなに責めなくてもいいだろう。長瀬の勝利を確信していただけだ」
「ものは言いようでござるな。それでも自分を優先して欲しいのが女心というものでござる」

 おいおい、と士郎はツッコミを入れたかったが、それがやぶ蛇になる事もまた理解していた。
 こういう話題に士郎は滅法弱い。というより、いかに幼くとも女は女という事だ。
 楓はその辺り、高音たちとは違って何が士郎に有効なのか理解している。
 尤も、楓としてはそこまでする必要性があるわけではない。
 ただ単純に、そうした方が面白いから、という理由だった。
 士郎の中に男を感じる事があったとしても、そういう意味で親密になろうとは思っていなかったのだ。

「……それで、長瀬はこの試合をどう見る?」
「普通に考えれば、真名の勝ちでござろうな」

 龍宮真名対古菲。
 一般の観客からしてみれば、古菲の試合という事で注目されるのだろう。
 しかし、当人でさえ感じているようにその実力差は大きい。
 古菲は確かに一般人としての枠組みの中では最強クラスだが、文字通り真名とは次元が違う。

 例えばネギは古菲の弟子ではあるが、魔法を用いた戦闘でなら既に古菲よりも強いだろう。
 単純に身体能力と格闘技術だけで戦うのならばまだまだネギで敵う相手でないのは確か。
 しかし戦いとは複雑な要素が絡みあって勝敗が決するものだ。
 故に、古菲は武道四天王の中で最弱となる。
 刹那も、真名も、楓も、三人ともが既に裏の世界に関わっているからだ。

 楓に関して言えば、裏は裏と言っても魔法ではないのでグレーゾーンではあるが。
 そういう意味では、長瀬楓の特異な戦闘能力は魔法という特殊技能に裏打ちされたものではないという事。
 それは正しく異質な存在だと言える。ある意味において、異邦人である士郎と似通っているのだ。
 尤も、それは古菲にしても同じこと。
 魔法も知らずあのレベルに達することができるというのは、士郎をして驚嘆せざるを得ない。
 しかもそれが中学生というのだから、この世の不条理を嘆いてもいいぐらいだ。

 士郎も鍛錬の極みに人間を超越した肉体を得ているが、それとて魔術との関わりがあったからこそ可能だったもの。
 事実、マトモに魔術を扱えなかった戦争前では一般人としては強い、という程度しかなかったのだから。

 だから士郎としては、何となく古菲を応援していた。
 別に関わりがあったわけではないが、その努力に敬意を払っていたのかもしれない。

「では、普通でなかったら?」
「真名の勝ちでござろうな」

 故にこその実力である。尋常の、正面からの試合だからこそまだ一分の勝率が残っているという程度。
 いかなる状況であっても発揮できなければ、それは実力とは言わない。
 古菲がどんな策を用いたとしても、十分に対応できるだけのスキルと経験を真名は持っていた。
 それには士郎も同意するところだし、古菲の事は知らないなりに予想はついた。

 だが、だからこそ、なのか。
 ふと思いついた事を、士郎は特に考える事もなく口に出した。

「賭けをしないか?」
「この試合の勝敗を、でござるか?」
「勿論。私は古菲に賭ける」
「……何か根拠があるでござるな?」
「あるにはあるが、秘密だな」

 ちなみに、士郎の根拠など殆ど勘と言って差し支えない程度のものだ。
 正確には、真名と古菲の試合内容から考えたわけではない。
 問題は、超の立場であればどちらの勝利を望むのかという事だ。

「ふぅむ……やはり、そう簡単に真名が負けてやるとも思えない。拙者は真名に賭けるとするでござる」
「まぁ、それが妥当だろうな」

 士郎自身、あまり勝ち目はないなと思っている。

「それで、ご褒美はどうなるのでござろうな?」
「ご褒美?」
「佐倉殿にはあったのでござろう? ご褒美」
「……盗み聞きは良くないぞ」

 もしも先程の士郎と佐倉のやり取りを楓が覗き見していたのなら、士郎は楓の評価を大幅に上方修正しなければならない。
 何故なら、あの一連の会話の間、士郎は“目”など感じていないからだ。
 機械的な盗聴盗撮に楓が通じているわけがないし、いくら楓が忍者の末裔で、その技術を継承していたとしても、アサシンクラスの隠行技術など持っていたらたまらない。
 正直な話、真面目な戦闘でも士郎では敵わなくなる可能性もある。

「盗み聞きも何も、堂々と話していたでござらんか」

 そう言われて、士郎は自分が勘違いしていた事に気づく。
 聞かれていたのは救護室での会話ではなく、試合前に外で話していた助言なのだろう。

「それで、賭けの内容でござるが。負けた方は勝った方の言う事を何でも一つ聞く、というのはどうでござろうか?」
「度が過ぎていなければ構わないがな」
「では、そういう事で」

 二人の視線が試合に集中する。既に戦況は古菲の劣勢。
 ここまではよく戦えていると賞賛されるものではあるが、実力差を覆す予感を得られるような戦い方ではなかった。
 よく言えば堅実。しかしそれでは勝てない。
 勝つためには、突拍子もない意識外からの奇襲が必要だ。
 機転か、或いは先程の愛衣が示したようなレベルの成長が。

 ただ、あの真名の超人的な速射だ。避け続けているだけでも実力としては十分。
 しかも拳が届くところまで間合いを詰める事に成功したのだから、古菲の戦い方も堅実なりの効果を発揮した。
 問題は。真名に、苦手な距離などなかった事だ。

「ああっ、近づいてもダメかっ!」

 観客の声は、そのまま古菲の内心も表していたのだろう。
 立て直す隙を与えない真名の連続攻撃に、最早ここまでかと思われた。
 或いは、実際戦っている本人もここまでだと思っていたのかもしれない。
 その顔には明らかな諦めが浮かんでいたし、ダメージも大きい。
 追撃を受ければ立ち上がれなくなるのは仕方がないと思われた。
 だが。

「くーふぇさん、しっかりー!」

 その声援は他の観客の歓声に紛れて聞こえないはずだった。
 士郎にしても楓にしても、距離があったのにその声を認識できたのは傍観者であり、声の主を知っていたからに他ならない。
 そして知人という意味でなら、声の主……ネギは古菲にとって特別な相手だったのだろう。
 試合の中の緊張感、ある意味極限状態の集中にあって、それでも尚その声が届いたのなら。

 変化は劇的だった。
 力なく伏していた身体に力が漲り、最後の一手に手をかける。
 ソレは、止めを刺さんとした真名の弾の悉くを打ち払った。

「……布槍術か」

 布槍術。
 珍しいというレベルではなく、絶滅危惧種に分類されかねない技だ。
 士郎の記憶では水で濡らした布、或いは凍らせた布などを用いる技だったはずだが、その必要もない程に古菲の技量が高いという事なのだろう。

 ただし、布というものは攻撃力など期待できるものではない。
 布の槍という名前の割に、その刺突攻撃に大した脅威はないのだ。
 問題はその刺突攻撃にせよ、一度受けてしまえばその変幻自在の型に絡め取られてしまうということ。
 剣や槍と違って、布は柔らかい。
 故にその打撃は表面に対しての威力しか持たないし、濡らしたり凍らせたりといった方法を用いずに使うのであれば尚更に威力などないに等しい。
 だが逆に、直線の攻撃だけでなく曲線の攻撃も可能だと言う点がある。
 まるで蛇のように、相手を絡めとる。それは三節棍などの考え方に近いものもあるが、布槍術の布はもっと現実的だ。
 その目的は封じ込める事であり、上位の相手に対する程にその役割は大きくなる。

 そして思惑通り、古菲の布槍は真名の片手を封じ込めた。
 とはいえ古菲のダメージも大きかったのだろう。即座に追撃とはいかなかった。
 そしてそんな隙を見逃す真名ではない。羅漢銭による重複攻撃で布を打ち抜く。

 だが、その片手が自由になるには刹那の時間が必要だった。
 そしてその刹那は、古菲が動き出す為に必要な時間でもある。
 足は動かず、自分から突撃するには頼りない。
 故に、古菲は即座に布槍術を繰り返した。しかし布槍術は予備動作の大きい技である。
 その分隙も大きく、変幻自在ではあるが真名にとってその隙は回避に十分過ぎる余裕を与えた。
 そしてその余裕は、そのまま攻撃にも繋がる。

「くぅっ」

 羅漢銭が、間を縫うようにして古菲の腕を打ち抜く。
 だが古菲はその痛みに耐えた。いや、最早痛みを感じてもいない。
 意識にあるのは、真名の攻撃動作による隙、突き伸ばした腕。
 頭で考えるよりも先に身体は動いた。
 絡めとった腕から、力任せに真名の身体を引き寄せたのだ。

 真名はそこで、流れに身を任せる。
 やろうと思えばそのまま踏ん張り、或いは足を怪我している古菲を逆に引き寄せる事もできただろう。
 それを成さなかった理由は、本人しか分からない。
 理由のない気分の問題で正面からの打ち合いを望んだのかもしれない。

 だが結果的に、古菲が勝利するにはその気まぐれにかけるしかなかった。
 真名は羅漢銭の弾を手に収まるだけ充填する。
 対する古菲は、硬気功で肉体を強化した。

 最終的に、決着は一瞬だった。
 その一瞬に何があったのか、何が起こったのか正確に“見えた”ものはそう多くないだろう。
 ただ、それを理解できそうな人間は皆選手席側に陣取っていた。
 勿論士郎と楓も然り。

「……まさか真名が負けるとは思っていなかったでござるよ」
「手加減はしていたようだからな」

 それでも、士郎とて本当のところは負けるとは考えていなかった。
 確かに古菲の勝ちに賭けたし、最終的に真名が負ける可能性もあるとは思っていたが、ここまで自然に勝敗が付くとは思っていなかった。
 勿論、手加減はしていただろう。そもそも羅漢銭などというのはその場凌ぎの邪道であり、彼女の技術を十全に発揮できるものではない。
 今大会の試合のルールは、士郎と同じく真名には大きな制限を課すものだ。
 尤も、その制限の中でさえ二人の間には大きな実力差があり、だからこそ楓も真名に賭けたわけだが。

「こうなる事が分かっていたでござるか?」
「接近戦のスペシャリストならば、銃のない龍宮を相手にする事は可能だ。
 尤も、彼女が本気で勝ちにくるつもりだったのなら、素手でも古菲を圧倒してみせただろうがな」
「やる気の問題という事でござるか?」
「それは本人しか分からないだろうし、その答えに意味などあるまい」

 真名はそのような言い訳をすることなどないし、そもそも言い訳にもならない。
 結果が全てだ。
 例え真名が超からの指示でこの戦いを演出していたのだとしても、そんな事はハッキリさせない方がいい。
 誰にとっても幸せな事ではないのだから、気付かなかった事にするのが一番なのだ。

「では、拙者は古のところに行くが……士郎殿は?」
「私は大して古菲と仲が良いわけでもないからな。次は高音の試合だし、遠慮しておく」

 瞬動を使ってもいないのに、楓はその場から姿を消す。その事に驚くでもなく士郎の視線は前を向いたままだ。
 士郎がこの場に残ったのは次が高音の試合であり、流石に見ないわけにもいかないだろうという事情に加えて、もう一つ確認したい事があったのだ。
 士郎は、確かにこの武道会で派手に戦って欲しいと依頼されている。
 ならば同様に、真名にも同じような依頼があって然るべきだ。
 実際会場は大いに盛り上がっている。これが超の思惑通りならば真名が勝つよりも効果的だと認めざるをえないだろう。

 だが士郎の表情は晴れやかとは言い難かった。
 別に、士郎は所謂「やらせ」行為に対して憤慨しているわけではない。
 この会場の盛り上がりを見れば、多少の舞台裏で行われている駆け引きなど些細な事のようにも思えるからだ。
 だから、士郎が心配しているのはそんな事じゃない。

 ただ、それを行っている者の心を考えていた。
 やらせというのは、それが演技である以上騙しである。
 そしてその舞台が華々しい程に、観客や対戦相手を騙すというのは心苦しいものだ。
 加えて、その依頼に対して報酬を受け取るというのは、あまり褒められた行為ではないだろう。

 真名が、お金のためならかなりの行動を許容する類の人間だと分かっているからこそ、士郎は心配になる。
 とても中学生には見えないが、彼女は一応中等部の所属なのだ。
 本当に14、ないし15歳なのかという点では常々疑問を持っていたが、彼女に割と子供っぽい部分がある事も知っている。
 そんな真名が、自分をすり減らしてまでお金を稼ぐ理由。
 その行動が、思考が。危ういと感じてしまう。
 彼女が強ければ強い程に、どうしようもなく士郎は悲しくなるのだ。

 勿論、真名からしてみれば余計なお世話、迷惑な心配だろう。
 彼女は己の意思で決断を下し、割り切って行動している。
 それを行うだけの余裕があるし、子供っぽい部分があるとしても大人と言って差し支えないだけの精神も持ち合わせている。
 士郎の心配は侮辱と取られても仕方がない。
 だからこそ、士郎もそれを口に出そうとは思わなかった。
 ただ見守り、もしも助力が必要だと判断したら影で動くだけである。

 尤も、士郎が心配しているのは真名だけでなく、同様の意味で超にも当てはまるものだった。
 むしろ、超の方が遥かに危ういと考えている。
 だからと言って、真名に対するのと同じく士郎にできる事など何もない。
 彼女に信念があると分かるからこそ、その意思は尊重しなければならない。
 戦って欲しくないだとか、そんなのはただの押し付けでしかないのだから。
 或いは、押し付けてでも守りたい程に相手の事を知っていたら、士郎もどうするかは分からないが。

「さて、次は高音だな……」

 士郎は愛衣を呼びに救護室へ向かった。






◇ ◆ ◇ ◆







 試合を前にして、高音は緊張していた。
 普段ならば緊張など欠片も感じなかっただろう。持ち前の自信で、むしろ戦意は高揚していたに違いない。

 ならば何故、今彼女が緊張しているのか。
 それは愛衣の試合に依るところが大きかった。
 愛衣が見せたハッキリとした成長に、大きなプレッシャーを感じているのだ。

 まあ、いくら愛衣が成長したと言っても、現状高音は愛衣に負ける事はないだろう。
 術の特性という面でもそうだし、実力的にもまだ差がある。
 しかし高音が重視しているのはそこではなかった。
 士郎との修行で、愛衣の方が成果を出している、という一点である。

 今まで、というよりも愛衣と小太郎の試合を見るまで、高音は愛衣があれほどに成長していると感じていなかった。
 むしろ、愛衣の成長のなさを心配していたぐらいである。
 その土台骨がいきなり崩されてしまったものだから、姉貴分としてのプライドが危うくなっているのだ。

 そこに、士郎に対する負い目のようなものもあったかもしれない。
 高音の意識では、士郎の貴重な時間を割いてもらって修行を共にしているという感覚である。
 そして、それだけ時間を割いて貰っているのに、大した成果も出せていないのでは申し訳ない。
 そんな感情も、確かにあった。

 いや、もう少し具体的に述べるのならば。
 自分よりも、愛衣の方が士郎との修行によって成長している。
 その事実が、許せなかったのかもしれない。

「私には助言はなし、ですか……」

 愛衣にはあったのに。高音は一人呟く。
 しかし、士郎からしてみれば無茶を言うなというものだろう。
 相手の田中の事など士郎は知らないし、そもそも高音の戦い方、戦闘スタイルでは下手に助言を与えて考えさせるよりはセンスを活かして感覚的にこなした方がいいという事もある。
 尤も、それがどんなに正論だったとしても、高音の感情的な部分まで納得させる事はできないのだが。

 ついでに、もうすぐ試合が始まるというのに先程まで試合を観戦していたはずの士郎の姿が見えない事も、高音をささくれ立たせる。

「ダメですね、こんな弱気は。全ては結果で示せばいいのです」

 そう高音は自分を鼓舞したが、やはりどこか張りがない。
 しかし時間は進んで行く。
 士郎が姿を見せないままに、選手入場のアナウンスが流れた。






◇ ◆ ◇ ◆







「皆様お待たせ致しました! 板の張替えが終了致しましたので第五試合に移らせて頂きます」

 レベルが高いどころじゃない。
 千雨はそう呟く。

 今までの試合は異常という他なかった。
 愛衣と小太郎の超人的な動き。
 遠当てとか言う原理の分からない技。
 何故か予兆なしに発生する突風。
 そして先程の真名と古の戦い。
 全てが規格外であり、超人的だった。

 イカサマだとすれば如何なる方法なのか。
 そもそもイカサマなのか。
 気だとか魔法だとか、そんな不可思議なものを信じてしまいそうなくらいに、目の前の光景は超然としている。

「おい大河内。お前、何か知ってるのか?」
「何かって……何を?」

 飄々と返すアキラに、表立って千雨は苛立って見せた。

「今ネット上でこの武道会の、トリック派と魔法派で論争が起きてる。お前はどっちだと思う?」
「珍しいな。長谷川が私に意見を求めるなんて」
「はぐらかすな。何か知ってるんだろ?」

 一瞬、アキラは考える。
 友達……といってもあまり親しいわけではなかったが、それでもあの世界に深入りして幸せになれるとは思えなかった。
 単なる知的好奇心なら知らない方がいい。普通に生活しているだけでは想像もできないような闇は存在する。

 とは言え。
 割と勘を信じ込んでしまえるアキラと違って、千雨は理論的に考えるタイプだ。
 だからこそ、今こうしてアキラを詰問しているのは何らかの根拠があるのだろうし、放っておけば勝手に調べようとするのだろう。
 ならば、先手を打つ必要があった。

「ねぇ、この世にはさ、知らない方がいい事ってあるよね?」
「それが、何だよ」
「一度関わってしまったら戻ってくるのは難しい。それでも関わる事で幸せになる人は居るんだと思うよ。
 でも、それがリスクを伴なうなら、今ある平穏を無理に壊す必要なんてない……そう思わない?」
「まぁ、そういう見方もあるだろうけどよ」
「中途半端に知って、関わる事を許されないのって、辛いよ。
 多分、今長谷川はかなり大きな分岐点の上にいる。関わったら死ぬかもしれない、そんな世界への」
「大河内は……」

 知っているのか、と。そんな、分かりきった事を千雨は問うた。

「知っているだけってのも、結構辛いものだよ。
 さっきの試合の、龍宮さんたちみたいに強かったり……せめて、神楽坂さんぐらいに才能があれば良かったのかもしれないけどね」

 有無を言わさぬ力があれば。こんな、中途半端な立ち位置に居ることもなかったろう。
 記憶消去を拒んだあの日の決断に後悔しているわけじゃない。
 どちらを選んだところで、辛さは存在した。
 ただ、消してしまえばそれを感じる事もなかったというだけ。
 そしてそんな事は、大河内アキラという人格が許せなかったのだから。

 それからは、千雨も隣のアキラに何かを問いかけるような真似はしなかった。
 興味は未だある。知りたいという欲求はあるし、今のアキラの返答で魔法、或いはそれに類するモノの存在を確信している。
 だが、それだけだ。
 今の彼女に、これ以上を求める理由はない。危険だと言うのなら尚更だ。
 何も知らず、何も関わっていないのだから。今は、まだ。





◇ ◆ ◇ ◆






 高音は士郎がいないと嘆いていたが、実際はちゃんと見ていた。愛衣と一緒ではあったが。

「お姉さま……勝てるでしょうか?」
「高音ならば並の相手は降すだろうが、どうかな。相手次第だろう」
「そんなの誰だって分かります。もっとこう、士郎さんでなければできない専門的な解説とかないんですか?」
「佐倉が私に何を求めているのか知らないが、初見の相手にどうしろと言うのだ」
「魔力量とか、雰囲気とか。達人は達人を知る、みたいな」
「面と向い合っていれば、まだ感じ取るものもあるかもしれないがな」
「で、結局のところ勝てますよね?」
「ようやく分かった。私は勝つと言えばいいわけだな?」
「ええそうです」

 随分自分勝手な言ではあるが、愛衣は愛衣なりに高音を心配しているのだろう。
 或いは、自分が安心したいだけかもしれない。
 士郎が勝つと言えば、その通りになるような気がするから。
 高音の悩み、プレッシャーなど全く知らない愛衣は割と脳天気に応援していた。

「まあ、油断しなければ負ける事は…………ん?」
「どうかしましたか?」
「いや、もしや……」

 ふと、高音の対戦相手である田中の挙動に不自然なものを感じた士郎は解析の魔術を行使する。
 そして案の定、というべきか。田中の正体を理解する。

「アレは、人間ではないようだな」
「え? どういう意味ですか?」
「佐倉は茶々丸を知っていたかね? エヴァンジェリンの従者なのだが」
「いえ」
「ふむ……一言で説明すると、アレはロボットだ」

 普段茶々丸を見ている士郎は驚きが少ないようだが、愛衣はそうもいかない。
 麻帆大工学部って凄いんだなーと感心するよりも先に、まず考えたのは。

「そ、それってお姉さまマズイんじゃ……」
「冷静に対処すれば大丈夫だろう。ロボットだと気づく前に一撃ノックアウトでもしない限りは」

 そんな事言われると余計に不安になるというものだ。
 見れば、高音は緊張しているのか俯き気味だった。常として胸を張る彼女としては珍しい。
 愛衣は自分なりに声を張り上げて高音に注意を促そうとするが、元々愛衣の声はあまり大きくない。
 肺活量が人並み以上であるのは確実なのだが、照れもあったのかその声が高音に届く事はなかった。

 そして、和美が声を張り上げ試合開始を告げる。





◇ ◆ ◇ ◆






 試合が始まる頃、高音の頭にネギに反省を促す事などすっかり消え去っていた。
 どのように勝つか、ただそれだけが頭を巡る。
 本末転倒ではあるが、高音にとって愛衣に負けないというのが至上命題となりつつあった。

 その為に何が必要か。
 むしろ愛衣における小太郎のように、相手が格上であればやりやすかった。
 勝利がそのまま評価に繋がり、成長という結果となるからだ。
 しかし、聞いたこともない相手ではそれも難しいだろうと高音は判断する。

 ならば。優勝を狙えば良い。
 それが叶わぬとしても、二回戦の相手は魔法界に名を轟かすタカミチ・T・高畑。
 仮にネギが上がってきたとしても、タカミチに勝利する程の力があるのなら相手にとって不足はない。

 だから。一回戦など、早々に終わらせる必要があった。

「それでは第五試合、FIGHT!」

 開始の合図と共に高音は跳んだ。
 未完成な瞬動。愛衣よりはいくらかマシというレベルでしかないものではあったが、それで十分。

 纏っているのは影。
 右手だけではあるが、それで十分だった。
 影、虚数は現実世界の実数に対して物理的な優位性を誇る。
 故に、魔力を障壁に使用する必要はない。
 
 全ての魔力を力任せに身体強化に割り当てた一撃は、田中が高音の速度を認識できていなかった事も相まって直撃した。
 田中の巨体、重量であっても吹き飛ばす事などわけもない。
 そして吹き飛ばし、場外の池に落としさえすればあの重量だ。
 浮き上がる事はないし、復帰するとしたのなら舞台の内壁をよじ登るしかなかった。

 勿論、田中には耐水性能がついているから濡れただけでゲームオーバーとはならない。
 しかし水中戦闘が考慮されていないのも事実。
 場外のカウント10秒で戻ってくるには、その動きは鈍重に過ぎた。

「――10っ! 一瞬一撃で決着がつく事になりました第五試合、高音選手の勝利ー!」

 至って自然に高音は勝利を受け入れる。こんな所で躓くわけにはいかない。
 完璧にスマートに。一回戦は、高音にとって正しく通過点でしかなかったという事だ。

 未だ士郎と愛衣の姿を見つけていない高音は、少しだけ寂しそうに舞台上を辞した。









高音「脱ぎません。脱ぎませんよっ」
和美「ええー」
士郎「うむ、なかなか……」
高音「ッ!?」
士郎「いやっ、試合の事だぞ! 試合の!」
(拍手)
 




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あとがき

まぁ、特に書くような事もないんですが。
最近は書きたいシーンのほとんどを書き起こしているせいか、やたら長くなって困ります。
本当なら58話でネギVSタカミチの導入ぐらいまでは書くつもりだったのですが。
というか、武道会編があと何話かかるやら……。
早いとこ拍手の嘘予告ぐらいまでは書いてしまいたいですね。
では、来週の今頃には次を更新できるよう頑張ります。

2010.05.22 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

大河内がすごい境地に達してしまっている気がする…
高音には頑張ってほしいところです。
(私は愛衣派ですがね)

というわけで『第6●話‐爆誕!カレイドキティ』の妄想でもしてようと思います
―――――ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ………

2010.05.23 | URL | アストレア #wa5wuvhY [ 編集 ]

Re: アストレアさん

アキラは常に事件に巻き込まれて考えている暇もないというわけでもなく、忘れてしまえる程に遠のいてもいないのでこんな状態ですね。
ここまで来るともうちょっとやそっとじゃ考えなんて変わりません。
願望と現実を分けて考えている辺り、大人っぽくし過ぎたかとは思っていますが……。

高音にしろ愛衣にしろ、頑張っているところをもう少し本編で出せればいいのですが。
カレイドキティは拍手にいいネタかもしれんね。

2010.05.23 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

愛衣が物凄くたくましくなってますね
原作では誰にでもビクビクしてるようなイメージだったのに
士郎に「お姉様が勝つって言えやコラ」的なことを言うまでになるとは
それと脱げ女こと高音圧勝か、二つ名返上のチャンス?

2010.05.24 | URL | ぺこぽん #- [ 編集 ]

高音は初戦で田中さんを倒したけど……次は地下で田中さんsとエンカウント……うっかりしなければ脱げ女の称号は返上できるかな?

2010.05.24 | URL | 虎 #GMs.CvUw [ 編集 ]

Re:ぺこぽんさん・虎さん

・ぺこぽんさん
まぁ、士郎とは割と付き合いも長くなりつつあるし、愛衣はあんまり士郎に感謝とかしてないんであーゆー対応というか。
内心ビクビクしてはいるんでしょうけど、凄いものは凄いものだと割り切っているせいで酷く現実的になっているかもしれません。
自分を卑下する癖は治ってませんしね。その辺過程ももう少し書ければ良かったのですが。

・虎さん
まぁ、うっかりしなければ、ね。むしろ最大の敵はネギorタカミチだよなぁ。

2010.05.24 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


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