Twitter

FC2カウンター

カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

カテゴリ

最新記事

最新コメント

リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:


検索フォーム

アクセスランキング
[ジャンルランキング]
小説・文学
388位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
二次小説
191位
アクセスランキングを見る>>

屈折領域・裏鏡


一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

TOP > スポンサー広告 > 夢破れし英雄  第57話TOP > 夢破れし英雄 > 夢破れし英雄  第57話

スポンサーサイト


上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

夢破れし英雄  第57話


「一回戦(1) 愛衣VS小太郎」  まもなく一回戦が始まるという段になって、士郎は愛衣にアドバイスをしていた。
 ルール説明の時に士郎が話しかけていた相手は愛衣であり、その時も試合について話していたのだ。

「魔法バレについて気にする必要はないぞ。責任は私が持つ。
 とにかく決定打を貰わない事だ。“手加減”している小太郎では、君の防御は貫けない」
「ハイ」

 ちなみに今、高音はこの場にいない。
 ネギたちと一緒に試合を観るべく話しかけるタイミングを探っているという、傍から見れば何とも間抜けな状況にあった。

「あの、一ついいですか?」
「ん?」
「何で、私にばかりこんなアドバイスをしてくれるんですか? 小太郎さんも同じように修行しているのに」
「同じように、というわけではないさ。むしろ普段は小太郎を優先しているからな」
「それでも、理由にはならないと思います」

 士郎さんは、私たちの事を弟子とは認めていないんでしょう、と。
 愛衣は核心を突く。

 高音は稽古を付けてもらうというか、一緒に修行している現状から弟子入りを果たした気分でいるようだが、愛衣は士郎が一度も自分たちの事を弟子のように扱った事がない事を認識していた。
 それは、きっと愛衣が一歩離れたところで見ていたからだろう。
 物理的な意味ではなく、精神的な意味でだ。

 愛衣は確かに強くなりたいと願っていたし、士郎に師事したいとも考えていた。
 けれどそれは高音に引き摺られるような形であった事は疑いようがなく、一人だったならそれほどアクティブに動かなかっただろう。

 それは、熱意の差、とも言える。
 別に愛衣がやる気がないわけではない。むしろ勤勉である方だろう。
 しかし、高音は違う。彼女は度が過ぎていた。
 何かを勘違いしてしまったかのように士郎に師事し、その全てを吸収しようと躍起になっている。

 それが悪い事だとは、愛衣は思っていなかった。
 楽しみ、そして満たされているのなら問題はないだろうと。
 やはり、一歩離れた所で見守っていたのだ。

 だからこそ分かる。
 士郎がするのは修行の相手と、あくまで指摘・助言という程度なのだ。
 決して、何をしろ、何をするべきだと押し付ける事はしない。ただ協力しているというスタンスを守っている。

 それが何を意味しているのか、愛衣は考えないようにしていた。
 高音が悲しむ姿を見たくはなかったし、そうして時間を割いて貰っているだけでも十分に士郎に迷惑をかけている自覚があったからだ。

 だが、小太郎は違う。
 彼は士郎と共に生活する、言わば家族のようなものだ。
 一緒に修行する時に垣間見る態度からも、それは感じ取る事ができた。
 ただの同居人というには親しくて、家族というには絶対的に遠い、そんな関係を。

 だからこその愛衣の指摘となる。
 自分たちよりも、貴方にとっては小太郎の方が優先順位が高いだろう? と。

「別に、区別して考えるつもりはないが……確かに今私がした助言は、将来的には小太郎の為だ。
 勿論、君にとっても有益なものだとは思うがね」
「つまり、私を使って小太郎さんの修行をしよう、と」
「直接的な表現を使えば、そういう事になるな」

 悪びれもせずに士郎は認めた。あまりに気負いがないから、愛衣としても困ってしまうぐらいだ。

「小太郎の弱点は、今のうちに矯正しておかねば命に関わる。
 あの子自身がそういう生き方を望んでいる以上、私にできる事は支援だけだからな」
「まぁ、私は別にいいんですけどね。小太郎さんや、お姉さま程強い気持ちは持っていませんから」
「そう自分を卑下する事はないぞ。むしろ私は、佐倉の在り様の方が余程真っ当だと思うからな」
「それでも。立派な魔法使いになるには、それぐらいの方がいいんだと思います」

 或いはその考えは、そうでなくてはならないという愛衣の憧れだったのかもしれない。
 遠く、届き得ないものに対する純粋な憧れ。
 その理想は、自分の力では届かないからこそ儚く尊い。
 そういった高みに、立派な魔法使いという存在を位置づけているのかと、士郎は愛衣の考え方に危機感を抱いた。

「あ、でも。これは士郎さんのワガママなんですから、ご褒美ぐらいあってもいいですよね?」
「……最近感じていた事なのだが、佐倉は意外と確りしてるな」
「意外とって何ですか」

 プンプン、という擬音が聞こえてきそうな顔で怒る愛衣に、士郎はふっと息を吐く。

「分かった分かった。何か用意しておくさ。但し、小太郎に勝てたらな?」
「それは酷くないですか?」
「酷くなどないさ。私は助言しているだけなんだからな」

 確かに、利用される側に利益があるのだから、士郎の言い分は正しいものだろう。
 むしろ、条件付きでも報酬を引き出せた辺り、愛衣の粘り勝ちとも言える。

「選手は舞台に上がって下さい」

 和美のマイクを通さないアナウンスが響く。
 そろそろ時間のようだった。

「じゃあ、行ってきます」
「ああ。一応、私は君を応援しているぞ」
「今更ですね。でも、“ご褒美”の為に頑張ってきます」

 舞台へと歩く愛衣の姿は、いつになく堂々としたものだった。






◇ ◆ ◇ ◆








 アキラは、士郎から武道会のチケットを貰っていた。
 だが、もし仮に士郎が渡さなかったとしても、アキラは自主的にこの武道会を観戦しに来ただろう。

 理由は単純で、興味があったからだ。
 士郎が関わる事を許さない、本物たちの戦いというものに。
 一体どれだけ想像を超える現象を見れるのか、それを考えるだけでも胸が踊るというものだ。

 尤も、そこに士郎が参加するというファクターが加味していないとは言えない。
 チケットは士郎から貰ったものだから、イコール見に来てもいいという意味でもある。
 だから、普段は冷静沈着、落ち着きのある存在としての地位を確固たるものにしているアキラでさえも、そわそわと期待を隠せない。

 まぁ、明日予定されているデート……もとい、学祭巡りが楽しみだというのもあるが。

「でも、誰もいないな……。何人かこの時間休み取ってる人たちがいるはずだけど」

 勿論、仕事がないからと言って必ずしもこちらを見に来るとは限らないが、ネギも出ている事だし誰か知り合いがいる可能性は高いと踏んでいた。
 自分の親しい友達がほとんど仕事の方に残っている為、アキラは多少心細さを感じていた。

「あ、あれは……」

 と、そんな時視線の先に見つけたのはノートパソコン持参の長谷川千雨。
 このテの催しがあまり好きそうに見えないだけに、アキラは思わず話しかけた。

「珍しいね」
「うわっ」

 驚くのはある意味仕方ないのかもしれないが、こんなにリアクションが大きいと少し悲しい。

「大河内も来てたのか」
「うん。チケットもあったし、上手く時間も空けられたし」

 学祭のスケジュール調整には、結構苦労したアキラだ。思わずしみじみと語ってしまう。

「でも、長谷川がこういうイベントに来てるのって珍しいよね」
「別に、来たくて来たわけじゃない」
「じゃあ、何で?」

 そこでうっと詰まる千雨。
 しかし、聞くだけ聞いてみたものの、アキラは大体の予想はついていた。
 まず、既にプラチナチケットと化しているこの入場チケットを手に入れるにはそれなりの労力がいる。
 千雨が隠れ格闘ファンでも無い限り、知り合いの選手から貰ったのだろう。
 そして千雨の知り合いの選手なんてネギしかいない。
 正確には千雨も士郎の事は知っているだろうし、クラスメイトの刹那や明日菜もいるが、千雨が彼らからチケットを受け取る状況というのが想像できなかった。
 その点、ネギならばいつものお節介でチケットを渡している笑顔がありありと想像できてしまう。

「まぁ、暇だったからな。チケットなら売ってもよかったんだが、折角だし――って、何だその分かってるって顔」
「別にそんな顔してないよ?」

 とは言いつつも、内心はそんな顔をしているんだろうな、とアキラは思った。
 だって、千雨が「折角だし」なんて理由でこんな所に来るはずがない。
 例え本人が意識していなかったとしても、それ以外に何か理由があるはずだった。

 少なくとも、アキラはそう感じている。
 だからこそ、うっかり表情に出してしまったというものだが。

「じゃあ、お前はどうなんだよ大河内。そのチケット、買ったのか?」

 まあ大河内が格闘技好きでも不思議じゃないが、と千雨。
 そんな風に思われていたのかと少しばかりショックを受けつつ、アキラはさてどうしたものかと悩んだ。

 別に、士郎から貰ったという事を話すのに問題はない。
 士郎がこの大会に出場しているのはすぐに分かる事だし、これは学園祭のイベントで、裏に関わるものでもないのだから隠す必要もなかった。
 けれど、けれどだ。
 一応士郎も数カ月前までは教師だったわけで、その辺り退任はさらっと流されてしまった感はあるけれど、アキラは生徒なわけで、あまり親しすぎるのも要らぬ誤解を与えるんじゃないかとか。

 アキラの脳内でごちゃごちゃと作戦会議が開かれる。
 と、一つ妙案を思いついた。

「長谷川が誰から貰ったのか、教えてくれたら私も教えるよ」
「うぐっ」

 こう言えば、その辺り意固地な千雨はこれ以上追求することはできない。

「それより、そろそろ試合始まるよ」
「はてさて、どんなイカサマ合戦になることやら」
「あれ? 何か知ってるの?」

 イカサマ、という言葉が出てくる辺り、信じてはいないのだろうが。

「あのガキが予選突破してるんだ。イカサマ以外ありえないだろ」
「そうでもないと思うけどな。多分ネギ君、最近強くなったよ」

 実際の所、どうなのかは分からない。
 けれど、分からないなりに感じる事もあった。

 何となく、第六感とか気配を読むとか、そんな次元の話でしかないが、アキラはネギの成長を感じ取っていた。
 それは歩き方から消えた無駄であったり、身に帯びる魔力だったりしたのだろうが、何が違うと断言できる程彼女には知識も経験もなかった。
 比較対象があればまた違ったのかもしれないが、確証はないなりに予想はしていたのだ。

 それに、あの夜の悪魔。
 アレを倒せるのだから、ネギもまたかなり強いのだろう。
 倒した決定的瞬間を見ていたわけではないけれど、弱いという事はないはずだ、と。
 そんな事をアキラは考察していた。

「最近?」
「うん。修学旅行から帰ってきてからかな。その辺、多分神楽坂さんたちも絡んでるんだろうけど」
「何だ、お前何か知って――」

 と、千雨がやけに訳知り顔なアキラを問い詰めようとした時、初戦を飾る選手が入場した。






◇ ◆ ◇ ◆






 愛衣と小太郎が、舞台の中央に歩み出る。
 お互いに見知った相手だから、余計な気負いもなくある意味で適度にリラックスしていた。
 少なくとも小太郎は。

 相手が女である、というだけで小太郎は苦手意識を持ってしまう。
 殴りづらいのだ、単純に。
 別に、女は殴るなと教育されてきたわけではないのだが、つい気を使ってしまう。

 それが優しさではない事を小太郎もいい加減理解してきていたが、貫き通せばそれもまた一つの美学であるのだとも悟っていた。
 女は殴らない。でも勝つ。
 それが覚悟であり決意。それが相手に侮辱と取られようが、恨まれようが、変えるつもりのないポリシーだった。

「小太郎さん。今日の私は、いつもより少しだけ厄介ですから。気をつけて下さいね」
「あん?」

 愛衣と小太郎は、一対一での対戦経験はない。
 強いて言えば、街中での乱戦ぐらいか。
 いつもの修行では、全員で協力して士郎に挑むか、ペアを組んで戦うぐらいだった。
 愛衣は、どちらかと言えば小太郎と組んで戦う方が多かったくらいだ。

 だからこそ、小太郎の戦い方は知っていた。
 戦いにおける思考、癖、最終的な判断。
 そんな、戦いにおける重要な情報を、ほとんど愛衣は一方的に持っていた。

 組んで戦う場合、小太郎が前衛で愛衣が後衛になる。となると、自然愛衣が小太郎に合わせる形になるのだ。
 合わせる事ができるというのは、逆に言えば隙を突く事もできるという事。
 少しだけリズムを崩してやるだけで、簡単に足元を掬える。

 とは言え、それも実力があっての話。
 あまりにも実力に差があり過ぎれば、それも難しい話になる。
 そして、その実力差、スペックの差を、愛衣は正しく理解していた。

 戦闘経験における差。
 身体能力における差。
 戦闘技術における差。
 応用戦闘における差。

 何においても、戦いにおいて愛衣は己が小太郎に勝る部分を見いだせなかった。
 故に、勝てないのは分かりきっていた。
 倒す事は不可能だと。

 だが、それでも勝利したい。
 高音との約束もある。
 士郎の助言も活かしたい。
 いや、もっと正確に言うのなら――あの二人に認めて欲しい。褒めて欲しい。

 だから、決意はあった。
 最後まで頑張り通すという、何とも健全な意気込みが。
 そしてそれが表れたのが、今の前口上である。
 その目に強い意思を読み取った小太郎が、確かに厄介な事になるかもしれないと予感した。

「なら、俺も宣言しとくで。あんたには触れずに勝つ!」

 ビシッと指を差し宣言する小太郎に、これ幸いと和美が盛り上げる。

「おおっと、早くも小太郎選手が勝利宣言! これで負けると二重の意味で恥ずかしいが、さてどうなるか!
 さあ、それでは始めましょう! 第一試合、FIGHT!」

 開始の合図と同時に、愛衣はアーティファクトを召喚した。
 使える武器は全て使う。
 アーティファクトは最も便利な道具だ。使わない手はない。

「そんなモン!」

 使わせなければ意味はない。策があったとしてもその程度なのだろう、小太郎は瞬動で突っ込んだ。
 ただ、それは正解だった。
 小太郎はスペックで愛衣を上回る。
 故に、小手先に頼らず力押しで事足りるのだ。

 そして宣言通り、小太郎は愛衣には触れずに倒そうとした。
 つまり、風圧である。拳圧という程に密度は高くない。だが、だからこそ吹き飛ばすには有効だった。

 そして愛衣はそれに抗う術もなく――。

「残念」

 とは、行かなかった。
 愛衣が士郎が与えられた助言は三つ。
 その内一つが、視認できる際の防御である。

 小太郎が視認できる状況、つまり目で追えている内は正面に対する風盾による防御。
 小太郎が視認できなくなった時点で全天防御に切り替える。

 本来ならば常に全天防御しておくのがベストなのだが、愛衣の出力では小太郎の攻撃を防ぎきれないのと魔力の消費量の関係で採用されなかった。
 だから、愛衣は試合開始直後に無詠唱にて正面防御を展開した。
 瞬動により見失った瞬間に全天防御に切り替えようとしたのだが、間に合わなかったのが逆に幸いしたのだ。

 風盾は、基本的に対物理衝撃の障壁である。故に、発動さえしていれば風圧を受け流す事ぐらいは簡単だ。
 自分の一撃を読まれていた事に驚いた小太郎は、一瞬だけ硬直する。
 そしてその隙に、愛衣は瞬動で距離を取った。
 まあ、瞬動と言っても着地はてんでなっていないただの高速移動だったが、距離を取るという目的を一時的に達成するには十分だ。

 だが、それを追わない小太郎ではない。
 逃げるという事は、連続して攻撃されたくないという事であり、前からでダメなら掻き回して攻撃するだけである。
 瞬動の技術の差の分だけで、愛衣は簡単に追いつかれた。
 しかも、着地で失敗している為体勢も崩れている。
 この状況ならば障壁ごと吹き飛ばす事も、或いは可能だったかもしれない。
 だが。

 愛衣は自分の身体を死角にして隠しながら、箒を振りかぶった。
 愛衣が瞬動を失敗したのはこれに集中を割いてしまったからで、或いはそういった隙も思惑の内だったのかもしれない。

 愛衣の箒、アーティファクトの能力は、広範囲の風系武装解除の即時発動である。
 発動条件は、振る事。広範囲で使用する場合には箒らしく掃く必要があったが、相手が一人かつ近距離ならばその必要もなかった。

 小太郎の繰り出す風圧と、愛衣が発動した武装解除が衝突する。
 結果、力任せの風圧よりも、術として完成していた武装解除が勝ったようだ。
 しかし打ち合いは至近距離で行われた。小太郎は踏ん張ったが、愛衣は耐え切れずに吹き飛ばされる。

 が、リングアウト寸前で愛衣は風を操り踏みとどまった。
 その間小太郎の追撃があれば、この時点で決着がついていただろう。
 しかし小太郎も武装解除を受けていたせいで、即座に追撃をかける事はできなかった。
 上着とポケットに入っていた数枚の護符は吹き飛ばされ、完全に武器は己の拳のみとなる。

「やるやないか」
「一応、修行してきましたからね」

 とは言うものの、愛衣も内心上手くいったのが信じられなかった。
 特に箒での迎撃は士郎からの助言には含まれていない。
 最初の内、慣れるまでは防御に徹しろと言われていたのだ。
 距離を取ってしまったのだって咄嗟に逃げただけだし、瞬動の着地を失敗してしまったのは素だった。
 咄嗟の反応というより、こうすれば! という閃き。
 一瞬の攻防ではあったが、何かを掴めた。
 それは錯覚なのかもしれないが、確かに愛衣は充実感を感じていた。

「まだまだ行くで!」
「望むところです!」

 そうして、第二ラウンドが始まる。






◇ ◆ ◇ ◆







「うそ……」
「これほどとはな」

 高音は、純粋に驚いていた。
 今までずっと一緒に修行してきたし、愛衣の実力は良い意味で十分に知っている自信があった。

 しかし、今目の前で繰り広げられている戦いは、その想像を軽く吹き飛ばすものだった。
 一瞬の攻防。いつもならばパニクってその間にやられてしまいそうな複雑なものだ。
 それを、およそ最善のカタチで愛衣は切り抜けて行く。

 小太郎の攻めはどんどん苛烈になっていくが、愛衣の適応力の方がわずかに高い。
 基本防戦一方なのは事実だったが、僅かなチャンスは確りと攻撃していた。
 目が馴れてきたところもあるのだろう。防御だけではなく回避も行うようになっている。

 目が慣れたという意味でなら、観客にも同じ事が言えた。
 試合が始まる前こそ野次もあったのだが、今は呼吸さえ忘れて試合に見入っている。
 それだけ、この試合のレベルが高いという事だ。

「士郎さん。愛衣に何をしたのですか?」
「私は特に目立った事は言っていない。確かに助言はしたが、それをこなすのも実力だぞ」
「ええ、そうですね……」

 それを理解しているからこそ、高音には焦りが生まれる。
 心の何処かで、愛衣を格下だと見ていたのかもしれない。
 お姉さま、と頼られる事で、自分が上だと認識していたのかもしれない。

 実際、今はまだこの動きを見ても勝てる自信はある。
 だが、この成長ペースのまま、愛衣が強くなっていったとしたら?
 その時、果たして自分は愛衣に追いつけるのか。共に歩んでいけるのか。

 それが怖くて、焦る。
 それは自然な感覚だろう。
 妹分の成長を喜びつつも、取り残されてしまいそうな焦燥感。
 自然な感覚ではあったろうが、高音にとっては不純なものであると受け入れられるものではなかった。
 故に、その感情はプレッシャーに変わる。
 愛衣に越されないように。自分は常に、更に先へ行かねばならないのだと。



 驚愕の色が濃い高音に対して、士郎は然程驚いていなかった。
 この状況を予測していたからだ。
 正確には、今のように戦いが長引くか最初の一撃での決着、どちらかしかないと考えていた。

 そして更にその二択であるのなら、前者の確率が高いと予想……いや、期待してもいた。
 士郎にとって、愛衣は教えていて楽しい相手だったからかもしれない。
 タカミチは別格としても、愛衣の素質は自分に近いものがあると考えていたからだ。

 悪く言えば器用貧乏なオールラウンダー。
 高音や小太郎のように突出したもののない、ただ使えるというだけの生徒。
 確かに愛衣は秀才で、練習すれば大抵の事はそつなくこなした。

 だがそれだけ。
 今までの愛衣は、会得した技術を効率的に使用する術がなかった。
 その点が、高音たちとの最大の違い。
 戦闘に向いている人間というのは、自分の長短を理解し、己の武器の使い方を知っている。
 だから士郎は、愛衣にある武器の使い方を自分で見いだせるように、切っ掛けを与えてやったのだ。
 愛衣には小太郎のためだなどと言ってはいたが、この戦いが士郎の期待通りに進んだのならば愛衣の方が得るものは大きいだろう。

 衛宮士郎という人間は、聖杯戦争という極限の戦いの中で、その才能を開花させた。
 少なくとも、その後の成長の切っ掛けにはなっただろう。
 だが、愛衣にそんな実戦を経験させるわけにはいかない。
 けれど、愛衣のように“戦いに向かない”人間が戦おうと思うのならば、気づかなければならない。
 自分自身で、自分の在り方というものを。己は何ができるのかと言う事を。
 こうであれと望まれたモノではなく、こうでありたい、己こそは■なのだという確固たる意思でもって。

 中学生である愛衣に、それ程の覚悟は望めないだろう。
 また、到達してはいけない領域であるとも士郎は考えていた。
 だからこそ、この武道会は、ルールのある試合は丁度いい。
 この試合で何かを掴める程度には、士郎との修行は役立っていたのだから。



「佐倉さん、こんなに凄かったんですね……」

 ネギや明日菜の感想も、ある意味では自然なものだった。
 二人の印象では、愛衣は悪く言えばパッとしない人物なのだ。
 超を巡った街中での乱戦でも、昨日の暴走ネギとの戦いでも、一方的にやられるだけだったのだから仕方ないが。

 しかし、今の戦いぶりはそんな印象を塗り替えるに足るものだ。
 特に二人は小太郎の強さを修学旅行で体感している分だけ、相対的に愛衣の強さをイメージしてしまう。
 だから気づかない。
 愛衣の実力は、実は大した事がないという事を。
 互角以上に戦っているように見えるのは、小太郎が直接殴らないという事に拘っているせいだ。
 その上で、愛衣の戦術が実を結んでいるだけだった。






「なんだ、コレ……」

 千雨は半ば呆然していた。
 目の前で繰り広げられている戦い。あくまで試合の、ルールに沿ったものであるのは分かっている。
 けれどそれは、一般人である千雨にも分かる程の気迫に満ちていた。

 瞬間移動のように、凄いという形容さえ不適格なスピードで飛び回る両者。
 とてもではないが人間に可能な動きだとは思えなかった。
 ではどんなトリックがあるのか?
 一見して、トリックなどあるようには見えない。
 超が主催しているのだから、見て分かるようなチャチなものではないと思っていたが……それにしてもこれは予想外だった。

 対してアキラは冷静だ。
 アキラは、封印の束縛から逃れた状態のエヴァンジェリンを直視した事がある。
 それと比べれば、この程度の凄さなんて、と思ってしまうのだ。

 ただ、それでも憧れのような感情がないわけではなかった。
 自分と同い年ぐらいの少女が、あんな力を持っている。
 生まれが違えば、或いは今からでもあの程度の力があれば……あの人について行っても、自分の身くらい守れるのではないか、と。
 それを彼が許さない事は分かっていたし、自分にそんな能力がない事も諦めていたけれど。
 それとは別に、強さとは違う、単純な凄さに憧れるところはある。
 一応アキラも運動部。もっと速く、もっと強く、という感情はあるのだから。
 その運動能力には憧れるし、努力で得られるものならばやってみたいというのは自然な考えだろう。

(士郎さんにバレないようになら……いや、無理かな)

 とは言え、それにしたって士郎と決裂してまで欲しい力ではなかった。
 ならば、大人しく憧れているしかないのだろう。
 アキラは傍観者であり関係者でもある。
 その境界線上で、己の意思によらず傍観者以上になってしまいそうな人間を引き上げるのが役目。
 今は、それだけでいい。

 明日菜たちが魔法に関わっているのも感づいていたし、クラスの中に人間離れした実力者が何人もいるのだって知っている。
 でも、今はこれでいい。
 彼女たちよりは、ずっと士郎から離れているけれど。
 アキラにとっては、士郎と同じく日常の友達も大切だったのだから。






◇ ◆ ◇ ◆







 試合開始から10分が経過しようとしていた。
 相変わらず、愛衣は守り小太郎が攻める。
 そして小太郎の攻め手が引いたほんの一瞬だけ、愛衣も攻撃を繰り出すようになっていた。

 最初の攻撃こそ、窮地を脱するための苦し紛れの一撃だったが、今は安定してきている。
 小太郎の攻撃してくるタイミング、テンポ、リズムが体に染み込んでいく。
 呼吸を合わせる、というのが感覚的に近いだろうか。
 最初は出来なかった、正面防御と全天防御の切り替えもスムーズに行えるようになっていた。

「チィっ」

 タンタタタンッ。舌打ちする小太郎は、八艘飛びのように瞬動を繰り返す。
 瞬動を繰り返されると、愛衣は小太郎の姿を追えなくなる。
 即座に切り替えた防御に、小太郎の攻撃が引っかかった。
 全天防御では小太郎の攻撃を完全に相殺する事はできない。
 小太郎が直接触れないという自分勝手なルールを守っていても、だ。
 開始直後よりも拳圧の威力は上がっていたし、何より愛衣の防御が発動するギリギリで攻撃をしてくるから守りきれているのが奇跡のようなものだ。

 綱渡りの攻防。
 それはお互いが認識している事だ。
 だからこそ、小太郎は苛立つ。倒せそうで倒せない現状が許せない。
 
 やり方次第で、愛衣は簡単に倒せるはずだった。
 別に直接殴らずとも、今の戦い方、拳圧で吹き飛ばすという基本を変える必要はない。
 ……ないはずなのに、何故か愛衣はしぶとく守る。

 いろいろな手段を試してみた。
 連続瞬動による撹乱。
 気弾による撹乱。
 上下左右からのコンビネーション。
 拳圧を弾に見立てて放つ、居合い拳のような真似もやった。

 だがどれも、愛衣は守りきったのだ。どれも危うい、綱渡りの防衛だった。
 だが、一回目よりも二回目が、二回目よりも三回目と、どんどん安定して防御するようになり、やがては小太郎の隙をついて魔法の矢を撃ってくるまでになった。

 この試合で成長しているのだと、小太郎が認めるまでに時間はかからない。
 だが、成長している事に対してどんな対抗策が打てるだろうか?
 どの攻撃も、必殺と考え繰り出したものばかりである。
 多少の運は絡んでいたのだろうが、それを愛衣は守ってきた。
 その上で成長していく相手に、小太郎は有効な対策を思いつかなかった。
 唯一有効打があるとすれば、小太郎自身も成長して迎え撃つしか手はないだろう。

 そして小太郎自身、確かに成長していた。
 居合い拳モドキにしてもそうだし、この戦いの中で多少出力も向上している。
 だが、それ以上に愛衣の成長は著しかったというだけの話。
 単純なスペック、出力としての問題ではない。
 その使い方が、だ。今までの戦闘経験が、この瞬間にようやく形になっているような。
 そんな印象を受ける程に。

 小太郎は再度背後からの奇襲をかける。
 愛衣はその攻撃に反応する事はできないが、素早く防御の切り替えだけは完了したようだ。
 小太郎の一撃に対して持ちこたえる。
 だが小太郎も一撃では終わらない。
 一回でダメなら二回、それでもダメなら通じるまで続けるだけだ。
 引けば、時間を与えた分だけ愛衣は成長する。そんな強迫観念があったのかもしれない。

 だが、二撃目には愛衣も小太郎の攻撃を正面から受ける事ができる。
 正面からの攻撃ならば、風盾で防ぎきれた。
 そして、五回、六回と続いていく攻撃に耐えながらも呼吸を合わせる。

「七回まで!」
「くっ」

 愛衣の宣言通り、小太郎の攻撃は七回で止まった。
 技後硬直。休みなしで続けた攻撃だからこそ、肉体的に打てなくなった瞬間の隙は大きいものになる。

「これならっ」

 その隙に愛衣が放つのは魔法の矢。
 ただし、愛衣は一発ずつしか無詠唱での魔法の矢を放てない。
 少なくとも小太郎との戦いにおいて、それ以上は致命の隙になることを理解していた。

 だが、一発ずつではあったが、その攻撃は才能があるとしか言えないだろう。
 光の矢を一発ずつ、計五本というなら驚く程ではない。
 だが、光、水、火、雷、風と五種を一発ずつというのは真似しようと思って真似できるものではなかった。
 しかもタイムラグが殆どない。術を完成させるスピードが、愛衣はズバ抜けているのだ。
 その分威力は大した事がないのだが、小太郎にとってはその点が最も厄介な才能でもある。

 受けれない事はないが、近すぎる。
 そう判断した小太郎はひとまず距離を取った。
 そして距離さえ取れば、一発ずつ来る矢は種類が違えど大した脅威ではない。
 拳ひとつで弾き返すことができる。
 だが、追ってくる誘導性能にも小太郎は舌を巻いた。
 矢は、五本全てが別々の軌道を描いているのだ。

 光は直進で最速を。
 水は蛇行して不意を突く。
 火は螺旋を描いてタイミングをずらし。
 雷は再び直進して攻撃の要となり。
 風は一歩遅れて捕縛せんと襲いかかる。

 効率的だ、と唸らざるをえない。
 小太郎自身、魔法の矢はシンプルながら戦術の幅は広いと思っていたが、ここまで有効利用するにはそれに見合うだけの器用さが必要なのだと理解する。

 だが、それだけ。
 どれだけ頭を使っても、愛衣の現状の出力では小太郎を打倒し得ない。
 なぜなら、小太郎はこういった手合いと戦うのが初めてではないからだ。

 守りの上手さを基板として、敵を翻弄しつつ隙をつく戦い方。
 まさしく衛宮士郎の戦い方だ。
 その士郎とは何度も修行という名目で戦っているのだから、その対策が確立できていないとしても、実力差の分だけ負けはない。
 それに、守りが上手い奴も、戦術に長けた奴も、小太郎はこれまでの人生で打ち破ってきた。
 その場で戦い方を編み出しながら、だ。そうしなければ生きてこれなかったのだから当然だろう。
 そして今も戦いの主導権を握っているのは小太郎だった。
 愛衣は確かに上手く戦っているが、戦いをコントロールするまでには至っていない。
 だからこそ、このまま愛衣の戦い方が上手くなっていったとしても、スペックの差がある分だけ小太郎は有利なハズだった。
 最終的にはスタミナの差が、結果を左右する事になる。
 だが。

「さぁ、試合も大詰め! 残り時間も五分となりました。
 制限時間になりますとメール投票での決着となります。果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか!」

「なっ」

 制限時間。メール投票による決着。
 小太郎はその結末を完全に失念していた。
 そう、守り一辺倒の愛衣の狙いは負けない事ではない。
 制限時間まで戦い抜き、メール投票に結果を委ねる事だ。

 二人の戦いを観客はどう判断するか。
 実際戦っている二人、後は極少数の実力者は二人の戦いの本質を見極める事もできるだろう。
 しかし戦いを知らない一般人の投票では、半ば人気投票のようになってしまう。
 まだ幼い少年と、可愛らしい少女。
 どうも互角に戦っているらしいと感じた一般人は、果たしてどちらに票を入れるか。
 その結果として、勝てると愛衣が思っているわけではない。
 ただ、小太郎を物理的手段で打ちのめすよりは遥かに確率が高いと踏んだだけだ。

「ようやく気づきましたか?」
「……なかなか策士やな、あんた。なんや士郎兄ちゃんみたいや」
「それは、凄い褒め言葉ですね」

 だが、問題はある。
 これは士郎が与えた最後の策であったが、愛衣の体力が持つ事を前提としていたのだ。
 既に10分ちょっと、極限状態で戦い続けた愛衣は肉体も精神も疲弊しきっている。
 必死に笑顔を浮かべて、声を震わせないようにしていたが……果たして、騙しきれているか。
 だがそれでもこの策が一番現実的な策だと判断したのだ。
 勝つために。
 いや、士郎が望む展開には。

 そして、対する小太郎は愛衣の疲労に気づいてはいなかった。
 そんな余裕がなかったからだ。
 勝ちたい、という想いで言うのなら、愛衣よりも小太郎の方が余程大きい。
 ネギと、士郎とこの舞台で戦いたいという想いは……戦わねばならないという強迫観念にまでなっていた。
 ネギに負けたくない。
 絶対に。ネギと戦って負けるなら兎も角、戦う事もできないなんていう結末は、決して認められるものではない。

 だが、いくら強く願っても、強い想いがあったとしても、現実とは時に非情だ。
 愛衣と小太郎の戦いは、一向に進展を遂げる事はない。
 愛衣は守り、小太郎は攻める。
 小太郎の焦りは積み重なるだけで、逆に余裕は時間と共に削れて行く。

 精神的には、完全に立場が逆転してしまっていた。
 余裕のなくなった精神では、愛衣の疲労にも気づかない。
 いつの間にか、愛衣が戦いをコントロールし始めた事にも気づかない。
 そして、気づかないまま無情なアナウンスが流れる。

「さぁ、制限時間まであと一分です!」

 そこで、とうとう小太郎の余裕は尽きた。
 スイッチが切り替わる。相手の姿など見えていない。
 生き残るための、勝つためだけの頭が動き出す。

 その時愛衣は、今まで同じように全天防御に切り替えたのだ。
 そろそろ魔力も底を尽きそうだったが、残り一分ならば何とかなると安心した矢先である。
 この攻撃を防いだ後、魔力をスタミナを少しでも節約する為に、何ができるかに思考をシフトしつつ、対応に回ろうとしたその瞬間だ。

 愛衣の防御は、背後からの攻撃に呆気無く貫かれた。
 ストン、と。いっそ小気味いいくらいに鮮やかに首筋に手刀が振り下ろされる。
 的確に意識を落とす一撃。
 愛衣は頭では理解していたが、それに対応する事はできなかった。

 でも、十分頑張ったし、いいかな。

 そんな感想を抱きながら、愛衣の意識はブラックアウトする。

「……おおっと、最後は見えない程の早業で小太郎選手が勝利!」

 そして我に返った小太郎は激しい後悔に苛まれる。
 勝利のアナウンスが、むしろ煩わしかった。
 全然勝てた気がしない。敗北感しかない勝利だった。

 それはポリシーを曲げたという事だけではない。
 実際に女を傷つけたという事実が、小太郎にショックを与えたのだ。
 しかも、それが理性によって下された決断ではなく、本能的な、ほとんど無意識での行動だったのだ。
 ならば、これから先も自分は、追い詰められれば簡単に女に手を上げる程度の男に成り下がってしまうのではないのか――?
 それが、小太郎の抱く恐怖だった。

 だが、いつまでも悔しがっていても仕方がない。
 取り敢えず、やってしまった事実は変わらないのだ。
 ならばせめて、今できる事を。

「それじゃ担架を……」
「ええわ。俺が運ぶ」

 軽く愛衣を抱き上げた小太郎は(それは完全なるお姫様抱っこだった)、あっという間に舞台から姿を消した。
 それがあまりに突然だったので、和美としてもなんと言って囃し立てたものか一瞬悩む。
 だが、小太郎の声の真剣さに、見世物にするのも悪いかと感じた和美は、次の試合を盛り上げる方に注力したのだった。





◇ ◆ ◇ ◆






 ネギたちは勝った小太郎を追って救護室へ向かっていた。
 それは当然勝者である小太郎を誉め讃えるためだったが、救護室の扉を守るように立っていた士郎に阻まれる。

「今はそっとしておいてやれ」
「士郎さん……」

 ネギと明日菜はともかく、刹那はタカミチとの会話が尾を引いているのか表情が固い。

「何故ですか? 小太郎くん折角勝てたのに……」
「勝てたとしても、思うところはあったのだろうさ。小太郎は常々女には手を出さない主義だと公言していたからな」

 それは、ネギには理解しにくい感覚だったのか……納得はしていないようだった。
 しかし、ネギはあまり士郎が好きではない。
 というよりも、苦手だった。進んで話したいと思う相手ではなかったし、小太郎と話すのはいつでもできる。
 のんびりしていると楓の試合も始まってしまうだろうし、他の試合を見たいというのも正直なところだった。

「分かりました。小太郎くんにも早く戻って来るように言っておいて下さい」
「ああ」

 そうして去っていく三人の後ろ姿を確認した後、士郎は救護室を覗きみてため息をつく。

「これは、少々上手く行き過ぎだな」

 救護室の中から、士郎のところまでどんよりとした空気が流れてきそうだった。
 目を覚ました愛衣のフォロー次第では……嫌な覚悟だけ決めて、士郎は傍観する事にした。










 小太郎だって、気付けの術ぐらいは使える。
 だから、ベッドに寝かされた愛衣が特に問題なしと診断されてベッドに寝かされてから、意識が回復するのにそれ程時間はかからなかった。
 それに、打撃が綺麗に決まっていたので残るような傷跡もないだろう。
 数日は痣があるかもしれないが、それだけだ。

 だが、それが免罪符になるとは思っていない。
 小太郎は、その痣さえ許してはいけないのだと考えていた。
 これが実戦ならば、或いは小太郎も納得し易かったかもしれない。
 命のやり取りで、相手にもその覚悟があるのだと分かっているのなら。
 けれどこれは試合で、スポーツの延長線上にあるものでしかない。
 別に今後に関わるような怪我を負わせたわけではないのだから気にする必要はないのだが、小太郎はその可能性さえ許せなかったのだ。

「あれ……私」
「気づいたんか」

 声をかける小太郎の顔をじっと三秒程眺めていた愛衣は、やがてふっと息を吐く。

「どうやら、私の勝ちだったみたいですね」
「は?」
「だってそうでしょう? 小太郎さんは、自分のポリシーを曲げたんですから」

 試合の上では確かに小太郎の勝利だ。
 だが、今小太郎は敗北感を感じている。つまりは、そういう事だった。

「私は今回士郎さんに色々助言を貰ってました。この話はしましたっけ?」
「いや……」
「まぁ、防御方法とか、戦いにおける考え方とか。
 普段の修行では一度も言ってくれないような事、いきなり教えてくれたんですよ。不自然ですよね」

 小太郎は聞く大勢に入る。何を言うべきか、定まらなかったからだ。
 それに、淡々と語る愛衣も質問を受け付けないような空気があった。

「士郎さんは、小太郎さんを鍛える為だと言ってました。私を使って、気づかせたい事があるのだと」
「俺に?」
「そうです。愛されてますね」

 どうだろうか。小太郎は疑問に思う。
 ある程度の親愛はあるだろう。生活を共にしているのだから、嫌いな奴では耐えられまい。
 だが、愛なんてこそばゆい言葉で繋がるような関係でないのは確かだ。
 同情か、ただの気まぐれか。
 その方が、余程しっくりくる。

「でもですね。いざこうして試合を終えてみると……まぁ、私のためでもあったのかなって」
「そうやな。あんたは試合中、どんどん動きが良くなっとった。
 兄ちゃんの助言があったつーても、それはあんたの力やと思う」
「そう言って貰えると嬉しいですが。どちらにせよ、私にはあの人の考えている事はイマイチ理解できません」

 それはそうだと小太郎は思う。
 所詮この関係はハリボテのようなもので、土台からして不安定なのだ。
 仮に明日から士郎は敵になると言われても、すんなりと受け入れられそうな。
 でも。

「でもあいつは……士郎兄ちゃんは、良かれと思ってやっとる。それだけは確かや」
「そうですね。私も同意見です。だからこそチグハグなんですけど」

 愛衣は苦笑する。親愛と、未知に対する不安、その入り乱れた表情で。

「話が逸れてしまいました。
 今回の結果ですけど、多分士郎さんの思惑通り……或いは期待通りだと思うんです。
 でもそれって、何だか悔しくないですか?」
「どういう意味や?」
「私が成長できた……のかどうかは、イマイチ実感湧かないですけど。
 士郎さんの予測が私と小太郎さんの成長だったとして。その予測の範疇にあるだけじゃ負けたみたいじゃないですか」

 士郎さんに。愛衣は付け加える。
 そこに勝ち負けの概念を持ち込む事に意味などない。
 そんな事は愛衣にもわかっていたが、これは小太郎をその気にさせる為に選んだ言葉だ。
 そして案の定、小太郎は乗って来る。

「士郎兄ちゃんが思いつかないような事をやらかそうっつーわけやな?」
「そうです」
「でも、何か策があるんか?」
「いいえ。というか、私の分はもう終わってます」
「へ?」

 試合前に約束したご褒美。
 勝てれば一番良かったのだが、小太郎に手を出させただけでも及第点だろう。
 愛衣だって、モノが欲しかったわけじゃない。
 ただ、よくやったとか、凄かったとか。そんな、簡単な言葉をかけてもらえれば十分なのだから。

「とにかくっ! 小太郎さんも何か考えて下さいよ。
 士郎さんの意表をつくような、小さな反撃を。負けちゃった私はのんびり観戦してますから」

 ひらひらと手を振って、愛衣は話は終わりと小太郎の退室を促した。
 そして促されるままに、小太郎は救護室を後にする。
 そもそも何をしに来たのか、それさえ忘れたまま。

 一人残された愛衣はふうっと息を吐いた。

「あー、疲れたなー……でも」

 例えば、士郎の小太郎に対する狙いが、女性に対する過剰な手加減の克服にあるとして。
 そして実際、愛衣を直接殴った小太郎、という現実がある中で、「何も変わらない」としたら。
 それは、少なくとも士郎の望んだ展開ではないはずだった。
 だから。

「これで、完全勝利……かな?」

 ご褒美は無理だったけれど、士郎の思惑を超える事はできただろう。
 それで褒められるとは思っていないが、少なくとも自己満足にはなる。

 疲れ果てた体に、十分過ぎるほどの満足感。
 丁度良くベッドに寝かされているわけだし、このまま休んでいても罰は当たらないだろうな、と睡魔に積極的に負けようとしていた時。

「ほら佐倉。約束の“ご褒美”だ」
「うわわっ」

 むき出しの刀身が、声と共に降ってきた。
 とは言え角度的に刺さったりはしないだろう。愛衣が慌てるまでもなく、その短剣は柔らかくベッドに着地した。

「し、士郎さん!?」
「ああそうだ。イマイチ理解されない衛宮士郎さ」
「うっ……もしかして、さっきの会話、聞いてたりします?」
「ああ。なかなか興味深い内容だったな」

 げっという声を隠せただけ、愛衣は自分を褒めてやりたい気分になっていた。
 恥ずかしくて気まずくて、つい先程あんなに小太郎に大言壮語吐いていたクセに、いざ本人を前にして借りてきた猫のように丸くなる。

「あのー……怒ってます?」
「いいや? 何を怒る事があるというのだ? 良かったら教えてくれないか、佐倉」

 滅茶苦茶怒ってるー!?
 愛衣は内心で叫びつつ、小さな反撃には小さな攻撃を返して欲しいものだと切に思った。
 まぁ、士郎からしてみれば、御巫山戯でしかないのだろうが。

「まぁ、ともあれ、だ。約束の品だぞ」
「でも、私敗けましたよ」
「勝ち負けの問題じゃないさ。少なくとも、小太郎は君に手を出した。
 そして、その後小太郎を言い含めて完全勝利……なのだろう?」

 全部バレていた。
 やはり、自分程度じゃこの人を慌てさせる事なんてできないのか。
 分不相応な事はやるものじゃないなと反省していると、士郎はわしわしと乱暴に愛衣の頭を撫でる。

「私からの助言や思惑とは関係なく、一緒に修行した仲間として鼻が高かったぞ、佐倉。
 楽しい試合だったからな。もう思惑も何もない。素直にプレゼントだと思って受け取ってくれ」

 それは、アゾット剣と呼ばれるものだった。
 魔術師が、最初に師匠から譲り受ける、儀礼用の短剣。
 それそのものに戦闘力などなく、そこらのナイフより多少切れ味が良く丈夫である程度。
 ただし、内包されている魔力はケタ違いだ。
 その魔力だけでも、十分に価値がある程に。

 こんなに良いものを貰ってもいいのか、と聞こうとした愛衣だったが、いつの間にか士郎の手は頭から離れ、退室しようと障子に触れているところだった。

「あのっ……!」
「しばらく休んでいるといい。高音の試合が始まる頃には呼びに来てやろう」

 パタンと閉まる音に、愛衣はそれ以上何も言う事はできなかった。
 完全にやり込められてしまったような気はするけど、不満などあるはずがない。
 ホメられて、ご褒美まで貰って、この後のんびり休んでいられる。
 願ったり叶ったりというものだ。

 でも。

「やっぱり……完全敗北、かな」

 頭を抱え込んで、愛衣は赤くなった顔を隠すのだった。












高音「メイ……メイは裏切りませんよね? ねぇ?」
愛衣「勿論です! ヒロイン化なんてしないと固く誓います、マム!」
高音「なら、いいんですよ。愛衣は犬上くんでも相手にしていればいいんです」
愛衣「(でも、お姉さまもヒロインってわけじゃないと思うんだけどなー)」
高音「何か言った?」
愛衣「ノー、マム!」

(拍手)
 




<前へ>

<次へ>

関連記事

あとがき

えらく長くなってしまった愛衣VS小太郎戦です。
きっちり56話の二倍の文量があります。
書きたかった事が全て書けたわけではありませんが、これにて魔法世界編のための佐倉愛衣というキャラクターに対する肉付けはほとんど終了。
こっから先彼女が活躍できるとしたら魔法世界編なので、ウチの読者には割と多い彼女のファンはしばらくお待ちください。
あ、次は内定取れてからになりそうです。

2010.05.03 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

私は愛衣がヒロインでも全然構いません

2010.05.03 | URL | アストレア #wa5wuvhY [ 編集 ]

Re: アストレアさん

私も別に構わんのですが、愛衣シナリオなんて用意してないという罠。
というか、やるにしても高音シナリオのサブルートみたいな立ち位置だろうなー。

2010.05.03 | URL | 夢前 #- [ 編集 ]

前に士郎は「愛衣と呼ばせてくれ」的なことを言ってたような……
それはともかく、こんなに早く更新されるとは思いませんでした
士郎vsエヴァが早く見たいぜ

2010.05.03 | URL | ぺこぽん #- [ 編集 ]

Re: ペコぽんさん

愛衣と呼ぶ云々は拍手の導入文……じゃありませんでしたっけ?
うわ、自分で書いた癖に忘れてる。呼応設定を更新してなかっただけなのか……。
今PCのマザボ吹っ飛んで涙目なので過去のデータを参照するのがキビシイです。
ミスだった場合、PCの復活と同時に修正します。
こっちのXPは壊滅的に遅いからなー……

2010.05.04 | URL | 夢前黒人 #- [ 編集 ]

俺もあった気がしたから探してみたら、
愛衣優勝SS(09.09 Wed 09:51) に書いてあったわ。
その直後に書かれた45話(09.09 Wed 12:52)では『佐倉』だった。

いまから活躍する魔法世界編がたのしみすぎる。

2010.05.05 | URL | 白りん #4Z7zXAeo [ 編集 ]

Re: 白りんさん

うわ、ありがとうございます!
一応愛衣優勝SSはIFってことになってますからね。
ちなみに、確かにFC2に引っ越してからの投稿順では愛衣のアレは後ろの方になっているのですが、実際に書いた時期は修学旅行編前か途中ぐらいだったと思います。
去年の最初に結果出した人気投票を基に、かなり長い間放置しつつ書いたので。

活躍はずいぶん先になりそうですから気長にお待ちを。

2010.05.05 | URL | 夢前黒人 #- [ 編集 ]


管理者にだけ表示を許可する
« | ホーム |  »
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。