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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第54話


「歩み寄って反転落」



 ある日のアルトリアの店内にて。
 珍しく、少しばかり怒っているタカミチがいた。

「僕はちゃんと伝えたハズなんだけどね」
「ああ、ちゃんと覚えているとも。その上で行かなかっただけだ」
「何故だい? 君が預かっている小太郎くんもちゃんと来ていたよ」

 タカミチが怒っているのは士郎が無断で集会をサボった事だ。
 今まで士郎はこういった類の呼び出しに応じなかった事はない。
 それは士郎の立場を守る上で必要な手続きである事を理解していたからだ。
 だからこそタカミチもこうして怒っている。
 士郎が今麻帆良を追放などされてしまったら、彼の固有技法が完成しないという理由もあるだろう。
 しかし、一友人として、タカミチは士郎を心配していた。

「現在の状況で不特定多数と顔を会わせるのは失策だと思っただけだ。
 ガンドルフィーニや明石、シャークティも来ていたんだろう?
 そこに小太郎と一緒に顔を出してみろ、あからさま過ぎるだろう」
「要らぬ心配だと思うけどね」

 タカミチが言う事は尤も。けれど士郎が言うように、火種に成り得るイベントである事も確かだった。
 士郎はガンドルフィーニやシャークティなどの、非友好派とは久しく顔を会わせていない。
 それが双方の精神衛生上良いという判断だったし、それは結果的にも正しい選択だっただろう。
 だがだからこそ、些細な事が火種に成り得る土壌が出きている。
 臭いものに蓋をしただけでは、根本的な解決には至らないのだ。
 士郎は時間が必要だと判断していた。
 或いは解決出来なかったとしても麻帆良を出れば問題はないと考えていたが……。

「どうせ俺の能力は告白の阻止なんて仕事には不向きだ。
 行ったところで断っていたのなら、無駄な時間を使う事もないだろう?」

 タカミチは沈黙する。
 それは、別に士郎の言に納得したからではない。むしろその逆だった。

 士郎の能力ならば、告白の阻止ぐらい、手段さえ選ばなければ簡単である。
 殺傷能力なし、せいぜい打撲程度の威力に抑える事で多少射程が縮んだとしても、士郎の弓の射程は生半可な魔法より遥かに広い。
 気絶させるなり気をそらすなり、いくらでもやりようはあるはずだ。
 それに気づかない士郎ではない。という事は、こんなあからさまなやり方でも煙に巻く必要が在ると言うこと。
 タカミチにも隠しておかなければならない事情がある。
 或いは。タカミチでさえも欺くつもりの画策があるのか、だ。

「まぁ、今更仕方ないしね。一応学園長の所には顔を出してくれよ?」
「分かっているさ。それに、目についた範囲でなら告白阻止の方もやっておこう」

 どうやら、もはや隠すつもりもないらしい。
 だからといってタカミチにそのことを指摘する事はなかった。
 見てみぬ振りをする危険性を重々承知していて、尚。
 それが例え自分と敵対するような事であったとしても、目指す先は同じであると信じていたから。
 衛宮士郎の過去を知っているタカミチは、知っているが故に全幅の信頼と尊敬を寄せている。
 だから、教えてもらえなくても怖くはない。
 
 まぁ、それに。
 こうして暗に示唆してくれているのも、おそらくはタカミチだけなのだろうから。
 それだけで、タカミチは十分嬉しかったのだ。

「ああそれと。最近エヴァの別荘に入り浸っているみたいだけど」
「……まあな」
「どうせなら僕も呼んでくれよ。何をしているのか知らないけど、ついでに修行が出来ないって程でもないんだろ?」
「うーん……まぁ、出来なくはないが。あまりお前にも知られたくなかったしな」
「今言っちゃってるけどいいのかい?」
「サプライズだからな。桜咲にさえバレなければいいんだ。あ、そうだ。桜咲の誕生日っていつか分かるか?」
「名簿を見れば分かるけど……刹那君にプレゼント?」
「似たようなものだ。ほら、桜咲が今使っている夕凪が俺の投影したフェイクだという事は知っているだろ?」

 タカミチも刹那も、始めて士郎が麻帆良で戦った相手の一人だ。
 同じ戦いを共有したから、タカミチも何があったかは知っている。
 とは言え、士郎に愛刀を折られても刹那は竹刀袋を離さなかったから、代刀でも用意したのだろうと気に留めていなかった。
 しかし、考えてみれば士郎の能力はこの場合に非常に便利なものである。
 投影により刀を用意するのは至極自然な流れと言えるだろう。
 タカミチは刹那に投影品を渡した事は聞いていなかったが、予想できる事ではあったので追求しなかった。

「でも、それなら元の持ち主に贈った方がいいんじゃないか?」

 タカミチが言っている元の持ち主とは、刹那に夕凪を託した詠春の事である。

「俺もそれは最初に考えたんだが、本人に断られてな。
 アレは既に桜咲のものだから、対価を渡すのならば桜咲に渡してくれと頼まれた」
「詠春さんが言いそうな事だけど……で、サプライズというわけかい?」
「ああ。実物を作成しようとすると纏まった時間が必要だからな。別荘を借りているんだ」

 まぁ、そういう事ならタカミチも強くは言えない。
 別に悪い事をやっているというわけでもないのだ。
 それに、そんな理由の隠し事ならばタカミチの不安も払拭される。

「そう言えばタカミチ。超が主催する格闘大会を知っているか?」
「ん? いや。超君が?」
「ああ。数ある格闘大会をM&Aして一つに纏めるらしいんだが、それにネギとエヴァンジェリンが出場すると言っていたぞ」
「へぇ。ネギ君はともかく、エヴァもか。何か面白い趣向でもあるのかい?」
「いいや。ただ単純に、弟子の成長具合を実戦で確かめるらしい。
 ネギが負けたら罰則として最終日にデートだとか」
「何と言うか、エヴァらしいね」

 苦笑するタカミチだが、士郎としては笑えない。
 その格闘大会には士郎も参加する。そういう契約になっている。
 故に、最初はエヴァンジェリンが出場すると聞いた時はかなり焦った。
 今更どうしようもないのだが、ネギはともかくエヴァンジェリンと戦うのは避けたい士郎だ。
 あまり負ける気もしないのだが、勝ちすぎるのも良くない。
 しかし依頼は派手に戦って欲しいという事なので、手を抜くわけにもいかないだろう。
 第一、手を抜いて負けようものなら烈火の如く怒りだしそうでもある。

「それで、だな。俺も出てみようかと思ってるんだ」
「え? 士郎が?」
「そんなに驚く程の事か?」

 士郎はそういうものの、実際は驚く程の事だ。
 今まで士郎は自分の能力、力の情報を積極的に隠蔽する事でこの麻帆良における安全と立場を確立してきたのである。
 だと言うのに、そんな公の場で力を振るうというのは今までの方針とは真逆の行為。

 ならば、そこには思惑があるはずだ。
 せっかく士郎の悪だくみは杞憂だと安堵していたのに、タカミチは再び疑心に苛まれる事になる。

「……珍しいね。君がそんなお祭り騒ぎに参加するなんてさ」
「別に騒ぐのが嫌いってわけじゃないしな。エヴァンジェリンじゃないが、ネギの成長も気になる」

 それが建前である事ぐらい、タカミチにも分かる。
 士郎とネカネが既知であり、彼女からネギをよろしくと頼まれている事も知っていたが、それでも今回士郎が動く程の事ではない。
 少なくとも、衛宮士郎という男に対する理解はこの世界で誰よりもあるのだ。
 嘘ではないのだろうが、真意は別の所にある。
 それぐらいは見抜けてしまう。

 ただ問題は、それが士郎の思惑に沿ったものかもしれない、という事だ。
 隠している、というのは事実だろう。
 しかし、タカミチが何かが隠されている事に気づく事が前提で情報が与えられているとしたら。
 見当違いの方向に思考は飛躍するかもしれないし、幾つもの真実の中に混ぜられたたった一つの虚実はどうしようもなく全体を撹乱させてしまう。
 士郎は普段から嘘をつくような人間ではないが、隠さなくてもいいような事も隠すような秘密主義ではある。
 故に、タカミチには士郎の真意が読めない。
 腹の探り合いでは、まだまだ勝ち目がないのだ。経験が、足りない。

「なら、僕も出てみようかな。その格闘大会」

 だからそれは苦肉の策だ。
 確かにネギの成長も気になるし、エヴァンジェリンに超、更に士郎まで集まる場ならば監視も必要だろう。
 その為には、タカミチ自身も参加するのが手っ取り早い。
 それに、この提案には士郎の反応を伺う意図もあった。
 もしもタカミチの参加に士郎が反対するのならば……。

「いいんじゃないか。もし当たったらお手柔らかに頼むぞ」
「それは僕の台詞だよ」

 反対は、しなかった。
 ならば少なくとも、タカミチがいても問題はないのだろう。
 或いは、タカミチ程度なら問題ではないと高を括っているのか。

 しかしその可能性は低い。
 士郎はタカミチを評価していたし、タカミチは士郎と同じ魔術使いである為に麻帆良で最も士郎に対抗し得る戦力である。
 耐性という意味でも、経験という意味でも。
 そしてその事をタカミチ自身もよく理解していた。だからこそ、彼は士郎の友人としてあり続けているのだ。

 それに、全てはタカミチの杞憂かもしれない。
 いや、そうである可能性の方が高いのだ。
 二人の間にある友情は、世間一般における友情とはかけ離れた異質なものだし、利用し利用される関係でもある。
 けれど。だからこそ、お互いに友としての気遣いは忘れていない。
 少なくとも、タカミチもそれだけは信じられる。

「しかし、となると豪華なメンバーになるな。学園長を除けば、麻帆良一を決めるのと同じだろう」
「そうだね。まぁ、派手な魔法を使うわけにもいかないから、限定的なものにはなるだろうけど」
「それでも一つの催しとしては十分だな。中々人も集まるんじゃないか?」
「うーん……格闘大会と言えば秋の体育祭だからね。
 そちらと同規模なら、会場を探すのが大変なぐらい人が集まると思うよ」
「それは、あんまり嬉しい情報じゃないな……」

 と、士郎は軽く苦笑い。
 まぁ、会場の問題なんて超が動いている以上はあってないようなものだ。

 士郎にとっても。タカミチにとっても。ネギにとっても。エヴァンジェリンにとっても。
 そして、明日菜と刹那にとっても。
 それぞれの意味で、重要な転機となるまほら武道会は、あと数日に迫っていた。









◇ ◆ ◇ ◆









 蛇足のようだが、刹那の誕生日は1月17日である。
 タカミチからメールを貰って、士郎は少なからず落胆した。
 まぁ、贈る理由は償いであり、誕生日とか理由をつける必要もないのだが。

 ともあれ、件の刀はほぼ完成していた。残すは仕上げと魔術処理のみとなっている。
 思えばここ数週間の士郎は、この作業にかかりきりだった。
 使える時間は全て別荘で過ごしていた為、時間の感覚も狂い、徹夜も続いていた。
 それでも疲れを同居人である小太郎にさえ悟らせず通常通り店を開いていたのは驚嘆に値するだろう。

 あまりにその活動が精力的だったから、エヴァンジェリンも別荘の使用について細かい事は言わなくなったぐらいだ。
 彼女もまた、完成した刀を早く見たかっただけなのかもしれないが。

「で、今日は何時間ぐらい使うつもりだ?」
「そうだな。今日はそれ程長くはならないはずだ。
 後は出来る限り磨きを細かくして、マジックアイテムとしての機能を加えるだけだからな」
「何だ。なら、これで長かった作業も終わりか?」
「一応はな。納得できなければ仕上げを続けるかもしれないが」

 士郎も凝り性だから、最後の仕上げには時間をかけてしまう。
 更に魔術処理は経験憑依を駆使して低ランクでも宝具クラスの力を与える為に苦心しなければならない。
 尤も、新品である以上は蓄積年数など欠片もないのだから、どれ程高いレベルで作成できたとしてもそれは宝具には成り得ない。
 概念武装としての側面は持っていても、それだけだ。

 衛宮士郎は剣製の魔術使いである。
 そして、こと剣に関してはその製作技術は人類の歴史が生み出した全てとも言える。
 最上最高の知識。
 だがしかし、それだけでは伝説の剣には至らない。
 材料に設備の問題だけじゃない。それらがなし得るのは人間という括りにおける最高である。
 真に伝説を作る剣というのは、基本的に星や神など高位の存在が作ったものだ。

 人間が作れるものには限界がある。
 干将・莫耶はとある刀匠が正しく命をかけて鍛えたものだが、それでさえ宝具としての格は低いのだ。
 尤も、そうした伝説級の武具など作れてしまってはいけない。
 それらの製作工程、その全てを理解できていたとしても。
 それは分を越える行為だ。代償なしに得る事はできない。

 だが、逆を言えば。
 代償さえ用意すれば、衛宮士郎は伝説を創り出せるという事。

「しかし、それで私の分は終わるのか?」
「その予定だがね。君用の影打……というか、もう一本も同時に作業していたからな」

 真っ赤な嘘である。
 そもそも超から得たミスリルは全て使いきってしまった。
 本当の意味での失敗作ならあるにはあるのだが、流石にそれを渡すぐらいなら完成品の投影を渡した方が実用に耐えるだろう。

 それに、エヴァンジェリンには製作工程を企業秘密の一点張りで完全に見せていないから、実際の所も分かるまい。
 目を全て潰し、結界も張って作業していたのだから、今のエヴァンジェリンでは覗き見も困難だったはずだ。
 仮に見られていたのなら、士郎はそれを察知できる。
 エヴァンジェリンは進行状況は確認するものの、その製作工程には興味がないのか、士郎が別荘を使っている時別荘に居る事さえ稀だった。
 逆にチャチャゼロは興味があるのか、根掘り葉掘りその性能を質問していたが。

「ケケケ。試シ斬リハオレニサセロヨナ」
「ふむ。試し斬りの相手ならば構わんが」
「ケチナ奴ダ」

 などと言いつつも、チャチャゼロは振り回せればそれでいいらしい。
 最終的には士郎の言い分に了承していた。

「そう言えば、貴様も武道会に参加するのだったか」
「はて。私は君にそんな事を教えた記憶はないが」

 言外に誰からの情報か、士郎は尋ねる。
 エヴァンジェリンにとっても隠し立てする事でもなかったのか、あっさりと口を開いた。

「超だよ。学園祭では茶々丸を貸し出す事になっているから、その関係でな」

 確かに今日士郎がエヴァンジェリンを訪れてから茶々丸の姿は見ていなかった。
 何かしら、今も準備に追われているのかもしれない。
 だが、そんな事よりも重要なのはエヴァンジェリンの言葉に隠された意図だ。
 超が学園祭で何かを企んでいる、という事は互いに承知の事実として会話が成されている。

 問題は、超の企み、その存在を士郎が知っている――その事実を、エヴァンジェリンが知っているという事だ。
 或いはカマかけなのかもしれないが。
 後者である場合は、士郎も下手を打てない。
 仮に士郎が超と敵対する場合、エヴァンジェリンまで出てくると厄介な事になる。
 本人も世界樹による魔力充溢に呼応して多少は動けるようになるだろうし、茶々丸の各種兵装の中には士郎に対して効果的なものもある。

「はて。繋がりが見えてこないのだが?」
「迂遠な会話をするつもりはない。……まぁ、そうだな。作業が終わったら会いに来るがいい。貴様にヒントをやろう」

 それはおそらく、茶々丸が帰ってきたら、という事なのだろう。
 手を振り背を向けるエヴァンジェリンに、士郎は疑惑の視線を向けることしかできなかった。








 ◇ ◆ ◇ ◆ 










 そうして、学園祭を前にしてほぼその刀は完成した。
 残すは銘を入れる事。名前をつける事のみだ。
 名は体を表すというように、名前を付けるというのは重要な意味を持つ。
 この刀は真名開放できるような宝具ではないが、名があるのとないのでは存在規模、概念要素においてまさしく桁が変わる程の差が出てしまう。

 だが、それは刹那に渡す直前に行う事に決めていた。
 もしも仮に、エヴァンジェリンが士郎の結界を破り二本とも奪ったとしても、決定的な力を与えない為。
 そして、影打を影打として認識させる為に、敢えて不完全な状態で投影する為でもある。
 機能は同じだが、一目見て格が違うと分かるように。

「さて、エヴァンジェリンに呼ばれていたか……」

 まだ時間はある。
 別荘の中でなら対策を考えていてもお釣りが来るだろう。
 そう、問題は。
 超鈴音とエヴァンジェリン。そのどちらが現状脅威足り得るか、である。

 この二人がある程度の協力関係にあるのは、茶々丸という存在を見ても明らかだ。
 それがどの程度の繋がりなのかは分からないが……確かにエヴァンジェリンならば、超の目的を知っていてもおかしくはない。
 少なくとも、あの口ぶりならばこれから何をしようとしているのかぐらいは知っているだろう。

 知りたいというより、知っておくべきだと士郎は判断する。
 現状において、封印されているエヴァンジェリンは大して怖くない。
 何よりネギという弟子を取ってしまっている以上、大事を起こすメリットなど彼女にはないのだ。
 故に、今優先すべき対処は超に関するもの。
 協力するにしても、敵対するにしても、準備期間は長ければ長い程いい。
 もう間がない学園祭だ。どんな事前情報でもないよりはあった方がマシである。

「お迎えに上がりました」
「……見ていたのか?」

 炉の一角を離れ、居住スペースまで歩いてくると、茶々丸に出迎えられた。
 あまりのタイミングの良さに、既に結界が意味を成していないのではないのかと訝しむ。

「イエ、ずっとお待ちしていただけです」

 真実の処は分からないものの、これ以上士郎に打てる手もなかった。
 大人しく信じてついていく。
 まぁ、最近の茶々丸は随分と思考が読みやすくなっているから、士郎も心配はしていないのだが。

 やがて、やけに豪華なディナーの席に案内される。
 既にエヴァは席で待っていて、その姿はもう懐かしささえ感じるあの夜の吸血鬼。
 おそらくは幻術なのだろうが、士郎にとっては何とも不吉な姿だ。

「どうした。ぼけっとしてないで早く座れ。随分待たされたからな、今の私は気が短い」
「折角落ち着きある大人の姿なのだから、もう少し淑女としての慎みを持ってもらいたいものだ」

 思った事を割とそのまま口に出しながら、士郎は用意された椅子に座る。

「ふむ。乾杯するとなれば、何が妥当だと思う?」
「我々の間にこうしてグラスを突き合わせる機会が訪れただけでも、十分に奇跡だと思うがね」
「ならばそれで行こう。この珍妙な機会に乾杯だ」

 あまりに普段のエヴァンジェリンと態度が違う。
 毒でも入っているのではないかと邪推してしまうが、エヴァンジェリンに限ってそういった方法は使わないだろう。
 以前の騙し討ちでさえ相当に奇異な事だったはずなのだから。

「私も忙しい。出来れば早く本題に入ってもらいたいのだがな」
「そう急かすな。折角人が雰囲気に酔っているというのに」

 確かにシチュエーションとしては高級ホテルでのデートといった感じではある。士郎はそんなもの体験した事はないが。
 しかし、間違っても士郎相手に雰囲気に酔うような安い女でもあるまい。
 まぁ、完全に士郎を相手として見ていないのかもしれないが。

「さて、貴様が所望する本題だが。察しの通り超鈴音の計画について、だ」
「それだ。何故君がそんな事を私に話す?」
「それは当然、私に利があるからだ。労せず貴様が麻帆良から排斥されるのなら、私にとってはこの上ない利だからな」
「……詳しく聞こう」

 エヴァンジェリンはゆらゆらと揺らしていたグラスの中身を含み、嚥下する。
 その様にどうにも色気があって、士郎は困惑する他ない。
 普段のお子様姿に慣れていなければ、むしろこちらの方がしっくり来るのだろうか。

「簡潔に簡単に奴の計画を述べるのなら、『魔法の開示』というヤツだ」
「魔法の開示?」
「そう。今まで数百年間秘されてきた魔導の存在。それを全世界に強制認識させる」
「具体的にはどんな方法を使う気だ?」

 全世界規模の儀式魔法など個人で扱えるものではない。
 天体クラスの地脈を利用しなければならないはずだった。

「この星に存在する12箇所の聖地に、月を利用して構成する最大規模の術式だ。おそらくはキーとして世界樹を用いて、初動魔力を得る算段だろうな」
「それ程の大規模な魔術行使ならば、当然準備も膨大なものになる。気の長い計画だな」
「必要ならばやる。そういう意味では、貴様と似ているのかもしれん」
「超が麻帆良学園に来たのも、それが目的というわけか」
「だろうな。ご苦労な事だ」

 くつくつと笑うエヴァンジェリンは、成程吸血鬼らしい。
 あまりにも不吉だから、飲んでいるワインが実は血なのではないかと思えてしまう。

「さて。それで? 貴様は超に協力するのか否か」

 楽しそうにエヴァンジェリンが問いかける。
 士郎が超に味方すれば、麻帆良の勢力はほぼ敵ではない。
 厄介だと思われていたエヴァンジェリンが敵に回らないとしたら、残る問題は学園長とタカミチぐらいなものだ。
 そしてそのどちらにも、士郎は負けない自信がある。
 少なくとも、何でもありの局地戦であるのなら、超遠距離にして不可避の攻撃手段を持つ士郎の意味は大きい。

 だが、逆に士郎が敵に回ったとしたらどうなるか。
 答えは、それ程変わらない。
 確かに士郎の能力は破格だが、それはあくまで攻めている時だけだ。
 士郎がどれだけ強くても、単独戦力である以上は守れる量には限りがある。
 超遠距離の狙撃にしても、攻撃でならば使えるかもしれないが陣地防衛には向かない。
 数という暴力で囲んでしまえば、いかに士郎と言えども縫い止められる可能性はある。
 
 まぁ、そんな結果論など今考えるべき事ではない。
 必要なのは、選択の意味。

「超についた場合。どうなると君は予想している?」
「一々説明しなければ分からんか?」
「生憎と、世界情勢には詳しくない」

 半年前ならいざ知らず、現時点においては真っ赤な嘘である。

「――まぁ、混乱は避けられないだろうな。少なからず人も死ぬだろう。超次第ではあるが」
「最悪の場合は戦争、か?」
「そこまでは至らないだろうな。魔法は確かに強力だが、旧世界においては数と金がモノを言う。超ならば解決できる問題だ」

 高すぎる理想は地に堕ちるものだが。
 と、エヴァンジェリンは不吉な笑みで付け加える。

「……それで、君は傍観するわけか」
「今の私に何かできると思うのか?」
「失礼。しかし、君が本気になればこの封印も何とかしてしまうだろうさ」
「そうだな。貴様さえいなければ、だが」
「その通り。確かに私が麻帆良に居る限りにおいて、私は君の敵対存在としてあり続けるだろう」

 それは既定事項であり、平和の為に必要な条件なのだ。
 この二人に関して、慣れ合いは危険しか生み出さないのだから。

「つまり。貴様が超に加担すれば、その成否がどうあれ麻帆良に留まる事はできなくなる。となればどうだ、私の天下だろう?」

 それがエヴァンジェリンがこんな情報を士郎に伝える利。益である。
 厄介な衛宮士郎の排斥をいとも容易く、しかも自発的に促す事ができるのなら、これほど楽な事はない。

「タカミチはいるぞ?」
「フン。貴様と違ってタカミチはまだまだ甘い。幾らでも出し抜ける」
「どうかな。このまま成長すれば、私などより余程厄介な相手になる事だけは確かだが」

 その修業風景を見ているだけでは分からない事がある。
 タカミチは、少なくとも衛宮士郎の理解者ではあるのだ。
 反英雄という存在と、その生き方を知って尚、前に進める男である。
 少なくとも、エヴァンジェリンの知っているタカミチとは精神力にも差があろう。

「それで、結局どうするのだ、貴様は。超と共に世界を支配してみるか?」
「そうだな。それも良かろう」

 士郎が目指した正義の味方とは、一体なんだったのか。
 ソレが決して手に入らないものであると、幻想であるからこそ尊いものであると理解した今でも諦めきれない理想。
 人を殺す事でしか、人を守れなかった。
 人を裏切る事でしか、信頼に応えられなかった。
 自分が傷つくことでしか、人を救えなかった。

 そんな、理想と現実の狭間で誰よりも苦しんできた士郎だからこそ。
 超の計画は、その目的は。とても甘美なものに見えてしまう。

 魔法があるからと言って救えるとは限らない。
 けれど、秘匿を考えずに魔術を行使できたなら、救えた命が幾つあっただろうか。
 少なくとも、士郎の敵はずっと減っていた。■■■も死なずに済んだだろう。
 封印指定のような、邪魔でしかない戒めに追い回される必要もなかったのだ。

 魔法を、手段の一つとして扱えたなら。
 そんな事は、士郎のいた世界では有り得ない。
 魔術とは秘匿されているからこそ真価を発揮するものだからだ。

 しかし、この世界は違う。魔法世界という在り方を考えれば一目瞭然だ。
 この世界の魔法は一たる神秘ではない。技術であり、大量生産により薄まるようなモノではないのだ。
 ならば、何故秘匿する必要がある?
 混乱を招く。確かにそれは事実だろう。
 エヴァンジェリンが言うように、どんなに上手くやったところで何かしらの争いは起きる。
 魔法を持つ者と持たざる者、今まで秘されてきた両者の軋轢が深まるだけの結果に終わるのかもしれない。

 ――――だが。
 その幻想に挑戦する事の、何が間違っているというのか。

 それは理想でさえあるだろう。魔法と科学が手を取り合い、世界の幸福の為に進めるのなら。
 そんな、誰もが皆の為に生きられる世界があるのなら。

 それこそ、衛宮士郎が見つけられず、諦めた理想郷足り得るのではないのか。

 そう、士郎が断る理由などない。
 世界がそれ程単純でない事など百も承知。けれど、この計画には可能性がある。
 どんなに小さな可能性でもゼロでないのなら、この心眼が手繰り寄せよう。
 いつかの誓いを果たす為に。
 思えば、士郎はその為に強くなったのだから。

「何だ、もう帰るのか?」
「これ以上話す事はあるまい。君の分の影打はもう出来ている。
 もしも私が姿を消したなら、結界はタカミチに解いてもらってくれ」

 席を立ち、去りゆく士郎にエヴァンジェリンは声をかける。
 そこに不吉な影はない。ただ、見透かすような賢者の瞳があるだけだ。

「いつか貴様は言ったな。私が誇りを失い、魔に堕ちるのであれば。貴様は私の敵になるのだと」
「…………」
「私は元より魔に堕ちている。誇りがあり、美学はあれど、それは魔としてのものだ。
 “英雄”である貴様とは正反対の価値観だろう。故に、私たちは決して相いれぬ。
 敵対する事こそが常道であり正道なのだ。そこに偽りなどありはしない。
 だが、超の側は闇の淵。善悪の境なく、ただ沈みゆく泥船だ。
 ならば、我々の役割はどうなるのだろうな?
 いつか再び見えた時。その時も、貴様は私の敵なのか」

 英雄が闇に落ち、魔物が光に生きるなら。
 お互いは敵のまま、殺し合う運命にあるのだろう。
 ならば。片方だけが歩み寄った場合、その関係はどうなるのだろう?

「英雄とは、必要な時に必要なモノを殺す存在だ。表でも裏でも、その役割は変わらない。
 故に、私の答えも変わらんよ。
 元より、この身はとうに君より血塗れているのだから」

 そう捨ておいて、今度こそ士郎は去っていく。
 振り返る事はない。エヴァンジェリンも、もうその背を視界に入れる事さえない。

 果たしてこの夜、歩み寄ったのはどちらだったのか。
 エヴァンジェリンは、先程まで甘かったワインの渋みに顔を顰めた。









◇ ◆ ◇ ◆

























 これで、全ては計画通り。
 エヴァンジェリンは衛宮士郎に計画を示唆し、超はこうしてその反応を茶々丸を通じて観察できる。
 最後のエヴァンジェリンの問いかけは理解できないものの、その程度なら誤差の範囲だ。

 衛宮士郎が超鈴音の陣営に加わり、これでようやく彼女はスタートラインに立つ事になる。
 彼女が求める未来、その土台を作り出すチャンスを得たのだ。
 後は上手くやるだけ。計画に変更はない。

 モニターにはスケジュールが映し出されていた。
 タイムマシンを使う関係上、一見ではその内容を把握する事は難しいだろう。
 だが一つだけ解せない点があった。
 超鈴音程の天才が、決して犯すはずのない間違い。

 そう、そのスケジュールの日付は。
 1982年6月22日。
 21年前の、大戦期が映し出されていた。








エヴァ「消えるとなれば惜しくなるのだからな……何ともままならないものだ」

(拍手)
 




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あとがき

本当はアキラの番外編を更新する予定でしたが、予想に反して本編の方が先に書き上がったので更新です。
ようやく次から学園祭が始まります。長かった……。
一応コレで今月は2話更新できたので良しとしますか。
54話は二日間で書いたものですが。今ちょっと調子いいので書き溜めたいところ。
ではまた次回。

2010.02.28 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2010.02.28 | | # [ 編集 ]

エヴァと士朗の対談がかっこいいです
白天も完成間近で非常に興奮しております
……刹那が英雄になったら士朗はなんて言うんでしょうね

2010.02.28 | URL | ぺこぽん #- [ 編集 ]

Re: タイトルなし

まぁ、予定では白天が真の完成を見せるのはまだまだ先なんですけど。
刹那が英雄かあ……少なくとも英霊になる事はないですが、英雄と呼ばれる事はあるかもです。
ネギと一緒に。

2010.02.28 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

理想を追う者として、超に協力することを選びますか。
時間跳躍弾を矢にカスタマイズしたら、学園側は相当苦戦することになりそうですね。
ネギと直接対決することは有るのかな・・・ヘルマン襲撃の時からうやむやになっている、信念のぶつけ合いが見たいです。

格闘大会の組み合わせも楽しみにしています。誰とあたっても面白そうですね。

2010.03.01 | URL | m.k #e3uZP7sc [ 編集 ]

Re: タイトルなし

さて、どうでしょう?
信念のぶつけ合いという意味でなら、本当の直接対決は魔法世界編になると思いますが……。
じっくり種を仕込んでいけたらと考えてます。

2010.03.02 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

嘘予告シリーズが読みたいです

途中から読み始めたので前の嘘予告がわかりません。
投稿してもらってもいいですか……?

2010.03.02 | URL | ぺこぽん #- [ 編集 ]

Re: 嘘予告シリーズが読みたいです

ぐ、引越しついでに黒歴史を闇に葬れるかと思ってたのに……。
まぁご希望なら公開しましょう。ただ、黒歴史だってのは覚悟して下さいねー。

2010.03.02 | URL | 夢前 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


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