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一次・二次創作を扱っています。現在ネギま!×Fate「夢破れし英雄」連載中。

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夢破れし英雄  第52話


「まだ変わりない日常」  それなりに危ない橋も渡った。
 そんな聞きたくもない報告を楽しそうにしてくれたのは、一応は士郎の依頼主である超だった。


「マァ、魔法世界から取り寄せるのに、原価の3倍はかかったヨ」
「ここは、感謝の意を述べるべきかな?」

 正当な依頼の報酬とは言え、まだ果たしていない依頼の報酬にここまで手間をかけてもらうのは、士郎としても申し訳ない気持ちはあった。
 別に急ぐものでもないから、とは言っていたものの、話が決まってからおよそ三週間弱。
 おそらくはそれでも最速だったのだろう。
 魔法世界との取引は数あるゲートポートを利用する以上、密輸入になってしまう。
 メガロメセンブリアは基本的に魔法世界からの物資流出を認めていないから、武器でも何でもない金属を持ってくるのも一苦労だ。

 本来は一苦労どころではなく、不可能という事にもなっているのだが、やはりどんな綺麗事を並べる組織にも闇はある。
 そういった専門家は確かに存在し、士郎もこの半年でルートを幾つか取得するに至った。

 だが、ある程度その辺りの事情を知っているからこそ、超がわずか三週間足らずで目的の物を取得した事には驚きを隠せない。
 蛇の道は蛇。それはどの世界でも一つの事実であり、染まらなければ近寄れない世界というのは存在する。

 故に、超は既に引き返せない地点まで踏み込んでいるという事だ。
 流された結果たどりついたのではなく、明確な意思でその場に踏みとどまっている。
 誰に何を言われようとも、決してブレる事のできない芯を持っているのだ。

「礼を言われる筋合いはナイヨ。その分きちんと働いてもらうからネ」

 にしし、と笑いながら超は念を押すように指を立てた。

「報酬に見合う働きができるかは分からないが、最善は尽くすさ」

 仮にそれが麻帆良に敵対する行為でも、誰かを傷つけない限りは目を瞑ろう。
 そんな事を考えるぐらいだ。
 士郎は欲に踊らされるような浅い人間ではないが、それでもこれだけ上質なモノが手には入れば気が高ぶるというもの。
 実際に打つのはまだ準備が必要だったが、もう完成形は見えている。
 成功するかは分からないが、士郎の脳裏には確かに一振りの刀が存在した。

 尤も。それが即、超の隠された計画への賛同に繋がるとは限らない。
 確かに士郎は浮かれていたし、それを超に察知される程に顔が崩れていた。
 多少の事なら目を瞑ろうとも考えた。
 だが、衛宮士郎の生き方を捩じ曲げるには、こんなものでは到底足りない。
 物品で事足りるのなら、今まで数多の女性がこの男について頭を悩ます事もなかっただろう。

 士郎と超は、似ていたからこそ互いが同類だと気づく事ができなかった。
 その可能性を初めから除外してしまっている。
 それは、超が考える最悪よりも、さらに未知数な結果を生み出す事になりかねないからだ。
 ただ、それが最高の結果になる事だけはない。少なくとも超にとっては。
 どうしようもなく、どちらも歪で壊れてしまっている者同士。
 全く同じベクトルを向いていない限り、反発してしまうのは自明の理というものだ。

 或いは。衛宮士郎が、まだ愚直に全てを救おうと、その理想に挑んでいたのなら。
 超が敵対したとしても、彼女を救おうとその身を懸けたのだろう。
 しかし、今更そんな結末はあり得ない。
 残っている可能性は、どちらかの決定的な敗北。それしかないのだから。

「ああそれと。浮かれるのは全く構わないけどネ。明日の事は忘れないで欲しいヨ」

 明日は五月も交えて合同開店の屋台についての会議をする事になっていた。
 学園祭までは日があるが、超包子の規模を考えればこの時期でもあまり余裕はない。
 今まで伸び伸びになっていたのは小太郎関係で士郎も忙しかったからだ。
 だが、その小太郎も今は転校の手続きの為一旦京都へ戻っている。
 すぐに帰ってくるとは言え、超とのこうした密談には好都合だったと言えよう。

「勿論だ。あちらの仕事も、私にとっては楽しみな事なのでね」
「ホウ。そんなに目を引くような仕事を依頼した覚えはないヨ?」
「なに、同好の士と一緒に働くのはどんな事でも楽しいものさ。この店も道楽でやっているようなものだからな」

 超は少しだけ考える素振りを見せた。本当に何かを思案していたのかは疑問だが。

「そう言ってくれるのは私としても嬉しいし、五月も喜ぶネ」

 結局、何かを言いたげな表情のまま、超は当たり障りの無い言葉を選ぶ。
 そしてそのまま帰路につく為士郎に背を向けた。
 まだ秘密なのか、という問いは士郎の口から漏れる事はない。
 超が言うには、士郎は超の敵になるかもしれないらしい。もしくは、最大の守護者になると。
 できれば後者であればいいと士郎は思う。
 どうせなら誰かの味方でありたいというのは、既に諦めている士郎でも望むものだ。
 必要なら敵対するし、徹底的に叩き潰しもする。けれど、その結果を望んだ事は一度もない。
 その手段に諦めてしまっていても、その結果を嘆かない事はないのだから。

「超」
「ン?」

 振り返った超の体に、緊張が見て取れた。何を言われるのか。いや、何を問われるのか。
 期待と不安、あるいは策謀の思慮。巡り巡る感情は、複雑過ぎて一見しては察せない。
 しかし、超が今質問を望んでいない事を見て取った士郎はそのまま送り出した。

「いや。気をつけて帰るんだな。もう遅い」
「フフ、今日は送ってくれないのカ?」
「なんだ、送っても良かったのか?」

 一呼吸、意表を付かれたのか超の反応が遅れる。

「イヤ、遠慮しておくヨ。武道四天王ほどではないが、私も腕に覚えがあるからネ」

 今はまだ、話さない。話せない。暗に超はそう言っていた。

「そうか。では、また明日」
「アア、また明日」

 ニコリと笑みを見せて、今度こそ超はアルトリアのドアから出て行った。







◇ ◆ ◇ ◆









「エヴァンジェリン。今から15時間程別荘を使ってもいいかね?」
「ダメだ」

 即答だった。言葉尻に噛み付きそうな勢いである。

「……理由を聞こうか」
「そっちこそ何だ、いきなり押しかけて。私と貴様はそんな親しい間柄ではないと思うがな」
「夜に訪れるのはいつもの事だろう……迷惑をかけてしまったのなら謝るが」

 そういう問題でもない、とそっぽを向くエヴァンジェリンはどうにも冷たい。
 が、士郎には特にそんな態度を取られる覚えがなかった。

「茶々丸?」

 そっぽを向いているエヴァンジェリンを指差しつつ、控えている茶々丸に視線を向けてみる。
 もはや士郎にも、エヴァンジェリンに対して礼儀がどうのという感覚は抜け落ちているようだ。

「どうも前回の件が尾を引いているようです」
「前回?」

 ここ最近、士郎とエヴァンジェリンが顔を合わせる事は無かった。
 元々用事がなければ接点はあれど接触はない間柄である。
 互いが互いを無視して、都合の良いときだけ利用するような関係だ。
 だから、士郎は前回と言われてすぐに思い出す事ができなかった。
 まぁ、実際それなりに時間は経過している。
 別荘は使っていても茶々丸に挨拶する程度で、エヴァンジェリン本人と遭うのは本当に久しぶりだったのだ。
 今日のように出くわすのは珍しいし、むしろエヴァンジェリンの方が顔を見せる必要などないから勝手に使え、というスタンスだった。
 結局、たっぷり10秒ほど考えて、

「はて。何かしてしまったかな?」

 いや、思い出しはしたのだ。前回エヴァンジェリンと会ったのがいつなのか。
 思い出しはしたものの、やっぱり思い当たる節はなかっただけだ。
 前回とはネギと小太郎が上位悪魔と戦った時の事であり、そして同時に士郎に対しても襲撃があった夜の事である。
 正直その後のアキラとの会話の方が印象に残っているせいで、エヴァンジェリンとした約束の事など忘れかけていた。

「士郎さんの刀の件かと」
「そう言えば、そんな話もあったな」

 茶々丸の指摘に士郎にも繋がりが見えてくる。
 思い出してみれば、士郎にもエヴァンジェリンが不機嫌な理由が分かった。
 まだ交換条件を破棄してしまった事を引きずっているのだろう。
 不死の吸血鬼なだけあって怒りの気も長いものだ、などと士郎は思ったが、笑い話で済ませるにはいささか都合が悪かった。

 できれば、一刻も早く制作に入りたい。
 士郎には珍しい自身の欲に基づいた行動だ。
 早く自分の思い描く剣を作ってみたい。
 それは確実に彼が投影する数多の剣に劣るものだろうが、それでも。
 実用性など必要なかった。どちらかと言うと儀式的な意味合いが強い。

 一番重要なのは、衛宮士郎が桜咲刹那に贈る刀であると言うこと。
 士郎としては別に詠春でも良かったのだが、使われないよりは使われる方が刀も喜ぶだろう。
 まだ生まれてもいない刀の事を想うのも馬鹿らしい話かもしれないが。

「貴様ら、聞こえているぞ」

 怒気をはらんだエヴァンジェリンの声が響く。
 茶々丸はそれを受けてすっと後ろに姿を消した。残されたのは士郎だけである。

「当然だ。聞こえるように話しているのだからな」
「意地が悪いヤツだ」

 本気で嫌そうな顔をするエヴァンジェリンに、士郎は内心焦る。
 とりあえず第一目的は、超との約束の時間まで別荘を使って制作する事。これは絶対だ。

 だが、エヴァンジェリンに媚を売るつもりもない。目的よりも重要な前提だ。
 どちらが上、どちらが下と、一度でも決定付けてしまったらバランスが崩れる。
 士郎とエヴァンジェリンは互いに対等であり、反目し合う存在であること。
 互いに借りがあるという状況が必要不可欠だった。
 そうでなければ、またこの二人は殺し合いを始めかねない。
 タカミチがこの二人を語るなら、何とも素直じゃない似た者同士だと言うだろう。
 そして、何とも面倒な関係だとも。

 形式が、契約が必要なのだ。暗黙の、予定調和的な。
 だから、士郎がエヴァンジェリンの機嫌を取ろうとするのなら、同時に士郎自身に利が必要だ。
 差し出す条件に見合った利を得て、しかしエヴァンジェリンが満足できるようなものを提供しなければならない。
 何とも難しく、やはり面倒な話だった。タカミチがため息をつくのも頷ける。

「ところでエヴァンジェリン。影打というのを知っているか?」
「出来損ないの刀の事だろう」

 当然だ、と言わんばかりに見下した態度でエヴァンジェリンはふんぞり返る。

「大雑把過ぎるな。正確には真打に選ばれなかった刀であるだけだ」

 かつて刀匠が刀を作るとき、同じものを何本か打つのが常だった。
 その中でも最上のものを真打と定め、依頼主に渡す。
 しかしその影で、選ばれなかった失敗作は影打として刀匠の手元に残される。
 だが、ほとんどの影打は『真打に及ばなかっただけ』だ。
 そもそも完全に失敗しているのなら、影打としてさえ残さない。
 つまり、士郎が何を言いたいのかと言うと。

「影打を買うつもりはあるか?」
「なに?」

 一瞬、エヴァンジェリンの顔が驚きに染まる。
 それも当然だろう。エヴァンジェリンは士郎が彼女に刀を……力を与えたくないのだと考えていた。
 いや、実際そうなのだろうし、いつか敵対し衝突するだろう相手にわざわざ力を与えるなんて愚かすぎる。

 故に、そこには何らかの打算があるはずだった。
 と、エヴァンジェリンは考える。そうであるはずだ、というよりも、そうでなければならない。
 そうであって欲しいという感覚なのかもしれなかった。
 だが幾ら考えた所でその思惑を察する事は出来ない。

「何が条件だ」

 本当はその目的を問いたかったエヴァンジェリンだったが、それでは素直に負けを認めてしまうようで癪だ。
 少しだけ言葉を変えて、目的を探るべく商談へと移る。

「それは勿論、悪用しない事が条件だ」

 エヴァンジェリンと士郎の視線が交差する。
 火花散る、という表現がとても似合うほどに、その視線は剣呑だ。

 余裕があるのは士郎だった。
 こういう取り引きは条件を出す側が有利に決まっている。
 精神的余裕で言えば、士郎には皮肉気な笑みを見せることができるくらいに差があった。

「それだけか?」
「そうだな。もしも君が私の刀を悪用するようならば、必ず破壊される。それだけ知っておいてくれればいい」

 胡散臭い。疑うなという方が無理な話だった。
 だが幾ら疑ったとしても情報が足りない。
 しかしエヴァンジェリンにとって、ウマイ話ではあるのだ。できれば素直に首を縦に振りたい。

 だが、タダほど怖いものはないとも言う。
 彼女の600年近い人生においてそれは教訓として身にしみていた。
 なのに。

「良し、お前の刀を買い受ける。幾らだ?」

 受けたのは気まぐれ、ではない。
 単純に、そこにどんな罠が張ってあったとしても問題ないと判断したからだ。
 疑い最善を選択する事は重要だが、恐れすぎるのもまたいけない。
 何より、こんな簡単な交渉において、エヴァンジェリンが士郎を恐れているなどと。
 そんな事は、決して認められないのだから。

「そうだな。君の別荘にある倉庫……君のコレクションの一つと交換なんてどうだ?」
「…………モノによるな」

 それだけの価値がある、という事はエヴァンジェリン本人も認めていた。
 個人的感情から譲るわけにはいかないものや、貴重過ぎて影打とは較べられない逸品も多々ある。

「それは後々決めるとしよう。とにかく今は別荘を使わせて欲しいのだが?」
「……朝までだぞ」

 商談成立、これ以上語る事はないと言わんばかりにエヴァンジェリンは士郎に背を向けた。
 だから、彼女は気付かなかった。
 士郎が、勝った! とばかりに笑みを浮かべている事に。








◇ ◆ ◇ ◆











 夜、アルトリアも既に閉店しており、士郎は夕食を用意していた。
 今日は小太郎もいるから二人分……いや、正確には四人分ぐらいか。小太郎は成長期という言葉では許容できないほど良く食べる。
 悪い事ではないし、どっかの虎とか思い出して和むのでそれは別に構わなかった。
 ただ、最近小太郎は千鶴に夕飯をご馳走してもらう事が多かったから、こうして二人で夕食を共にするのは久しぶりだったりする。

「はぁー、うまかったわ。ごちそさん」
「お粗末さま。小太郎、皿洗いは頼んだぞ」

 へーいという返事と共に、小太郎は店のキッチンに食器を持っていく。
 特に士郎から頼んだわけではないのだが、皿洗いは小太郎の仕事だった。
 千鶴の家でご馳走になる時も、小太郎は皿洗いを手伝う。
 だからというわけではないが、皿洗いを手伝うのは自然な流れだった。
 今では皿洗い以外でも、暇な時に店も手伝っている。接客はちょっとフランク過ぎるのだが、可愛いと評判だった。
 これで犬耳さえちゃんと隠して店に出てくれれば文句はない、と士郎は思っている。

「お疲れ。麦茶でも飲むか?」
「サンキュ」
 
 士郎がグラスに冷えた麦茶を注ぎ、小太郎に手渡す。ごくごくと、とても美味しそうに喉が鳴った。

「あー。仕事が終わると暇やなぁ」

 小太郎は無趣味というか、修行が趣味のようなところがあるので食事後の時間の使い方なんて知らない。
 修行に行こうとすれば士郎に実力で止められてしまうのは経験済みだった。
 だから暇を持て余す。いつもなら今日は何があったとか、何気ない雑談を交わすのだが、この日は珍しいものが小太郎の目に留まった。

「? なんやコレ」
「ああ、それはイギリスからの手紙だよ」

 海外からの手紙というものを見たことがなかったのだろう、小太郎は珍しそうに手にとり、表と裏を交互に確認する。
 英語に馴染みがないせいか、何が書いてあるかまでは分からない。

「何て書いてあるん?」
「宛先と差出人。ちなみにネギの姉からだ」
「へぇ。あいつ、姉ちゃんなんていたんやな」
「いておかしいという事もないだろう。……まぁ、実姉ではないらしいが」

 少しだけ寂しげに、士郎は呟いた。
 士郎の脳裏に浮かんだのは、果たしてどちらの姉だったのか。

「というか、ネギの姉ちゃんと知り合いなんか」
「ああ。知り合いというよりはもう少し親しいがな。月に一度の間隔で手紙のやり取りをしている」
「……もしかして、しろにいの恋人か?」

 ぶっと士郎はお茶を吹いた。
 別に、ネカネと恋仲扱いされた事に驚いたわけではない。その前の単語が問題だった。

「待て。“しろにい”というのは何だ?」

 不思議そうな顔をして小太郎が答える。

「士郎兄ちゃんって長いやん。略した方が言いやすいやろ」
「いやいや、言いやすくもないし色々と間違っている。言い辛いなら呼び捨てで構わないぞ」

 流石に『しろにい』は恥ずかしいのか、士郎の目もマジだ。
 若干気圧されながら小太郎は頷いた。

「お、おう。じゃあ、士郎……兄ちゃん」
「おい」
「うーん、なんや呼び捨てはしっくりこん。普通に兄ちゃんでええやろ?」
「ああ。小太郎がそれでいいなら構わないさ。で、何の話だったか」

「あー……そうそう、ネギの姉ちゃんが兄ちゃんの恋人やないんか?」
「そもそもどうして私に恋人がいるという発想に至ったのかが気になるな」
「千鶴姉ちゃんがな。兄ちゃんには付き合うてる女がいそうだとか言ってたんや」

 あの年代の少女たちの話題について、士郎は想像することしかできない。
 が、一般的な知識を元に判断するのなら、色恋の話が一番盛り上がるのだろう。
 そして彼女らが通うのは共学ではなく女子校だった。
 身近な異性として、士郎が話題に出るのも不思議ではない。

「なら訂正しておいてくれ。付き合っている相手もいなければ、そのつもりもないとな」

 ネカネ本人が聞いたらマズイような宣言だったが、士郎に他意はない。
 それは彼がこの世界において異邦人であるという事もあるし……何より、今更女性を愛する自分というのを士郎が想像できなかったからでもある。
 先の事なんて分からないけれど、おそらく士郎がこの先伴侶を求める事はないだろう。
 士郎自身の為に。そして、何より相手の為にも。

「なんや、やっぱり女なんていないんやな」
「その断定も中々失礼だぞ。私はいいが、他の人には言わないように」

 士郎が軽く注意するが、その声が聞こえているのかいないのか、小太郎は上機嫌だ。
 その理由は、ちょっとややこしい。
 まず小太郎は士郎の事を強さの面で尊敬しており、そして小太郎は強さに異性など不要、むしろ邪魔なものだとさえ考えていた。
 故に、自分よりも強い士郎に恋仲の異性がいないのであれば、それは自論が正しいという事になる。
 と、まぁ子供の考えではあるのだが、士郎にそんな思考が読めるはずもない。
 自然、勘違いはそのまま継続されてしまう。
 
「うし。そろそろええやろ。稽古頼むわ」
「やれやれ。向上心があるのは良いことだけどな」

 かつての自分を見ているようで、恥ずかしさを感じる士郎だった。










◇ ◆ ◇ ◆









 超包子。
 学園祭の準備期間中に早朝からの屋台が名物になったのは、実は最近の事だ。
 明日菜たちからすれば朝から屋台で食事、といった真似ができるようになった中学入学時点で既に名物として認知されつつあったから、あまりそういう認識はなかったのだが。
 けれど、その点を考慮しないとしても、超包子の成長は異常だと言う他ないだろう。
 最も異常な点は、急激な成長を遂げたというデータが確かにあるというのに、その事を不思議に思う者が誰一人としていないという事だ。

 これは魔法的な話ではない。
 単純に、超鈴音という少女の経営手腕ならば可能だと思われているという事。
 異常と言えば、そういった才能が在って当然だと認識される麻帆良という地の特性だろう。

「……ねぇ。もしかして私も来なきゃいけなかったりする?」
「いいや。君のバイトは休日だけという約束だろう。君が働きたいというのなら超に掛け合うが」

 明日菜の、聞いてないとでも言いたそうな不満顔に士郎は答えた。
 超包子の屋台である。そこで、例年は存在しなかった男の従業員が腕を振るっていたのだ。
 そして看板には、超包子の横に小さく『withアルトリア』の文字。
 一応アルトリアのアルバイトである所の明日菜が働いていてもおかしくない場所だ。

「やめとくわ。超包子はアルトリアより忙しそうだし」
「悪かったな。で、注文は?」

 と、士郎は明日菜の後ろに控えている木乃香と刹那にも視線を向けた。
 ちなみにネギは、士郎と同じように超包子で働いていた小太郎と話し込んでいる。

「“さっちゃん”の、オススメでいいわ」
「まったくもって失礼だな、君は」
「別に深い意味はないよ。士郎さんの料理は賄いでいつも食べてるし、今日は超包子に食べに来たわけだし」

 確かに、明日菜の言うことにも一理ある。
 が、そこはオブラートに包むのが思いやりというものだろう。
 別段士郎も腹を立てているわけではないのだが、一応注意ぐらいはしておいた方が彼女の為なのかと悩んでしまう。

「士郎サン。お喋りしてないで働いてネ」
「む。すまない」

 ぴくん、と。
 後ろからかけられた声に反応したのは、士郎でもなく明日菜でもなく、何故か刹那だった。
 案外士郎に話しかけようとしていたのかもしれない。

「コラ犬坊主、いつまでもネギ坊主と喋ってないで働くネ」
「犬はやめろって言うとるやろ!」

 超はそのまま小太郎にも注意していた。
 確かに犬坊主というのは可哀想だが、犬耳を隠し忘れている小太郎にも問題があるだろう。
 学祭の準備期間だからか、その耳に違和感はないのだが。
 まぁ、違和感があったとしてもあんなに堂々とされると突っ込んでいいのか悩みたくもなる。

「さて。明日菜に一矢報いるとするかな」

 注文は五月のオススメというだけであって、作るのも五月にとは指定されていない。
 別に士郎が作っても違反ではないだろう。
 士郎は五月と二言三言会話を交わしてオススメの内容を確認すると、いつも以上に気合を入れて調理にかかった。








◇ ◆ ◇ ◆


 








 喫茶アルトリアには、座ってはいけない指定席が存在する。
 店主は、例えどんなに店が混んで行列が出来ていようとも、その席だけは客に使わせない。
 だからいつしか、その席は幽霊の指定席なのだ、という噂がたった。

 ……というのは、割と最近士郎が朝倉に聞かされた話なのだが。
 その指定席の主である幽霊・相坂さよは、興奮気味に捲くし立てていた。

「やっと私にも友達ができたんです! 私、もう本当に嬉しくて」
「それは良かったじゃないか。私も、今まで散々君の愚痴を聞いていた甲斐があったというものだよ」
「あうぅ。本当にありがとうございます……っ」

 さよがアルトリアに訪れたのは、まだ士郎が副担任として働いていた頃の事だ。
 正確には訪れたというより、ストーカーのごとく勝手について来ただけであるが。
 さよが見えたのは士郎だけだったから、それからと言うものさよはアルトリアに入り浸っていた。

 誰も気づいていなかったが、さよは基本的にアルトリアから登下校していたのだ。
 地縛霊が登校するというのもおかしな話であるが、彼女としては至って普通な事らしい。
 ちなみに、士郎が不在の時や寝入ってしまった時は、それまでと同じようにコンビニや学校で時間を潰していた。
 で、だ。

「でも、私も友達ができましたから、あまりここにも来なくなると思うんです」

 さて、何と答えるべきか。士郎は大いに悩む。
 正直に心情を吐露するのなら、何ともありがたい事だ、といったところだろう。
 煩わしいとまではいかないが、店が忙しい時などは邪魔な存在である事は確か。
 境遇が境遇だから強くは言えないし同情もしていたが、新しく友達ができたなんて嬉しい理由でアルトリアを離れるのならば大歓迎である。

 ただ、一抹の寂しさはある、かもしれない。
 彼女は、店の背景みたいに溶け込んで、一応は霊視ができる士郎でも時々どこにいるのか分からなくなるくらいに自然だったのだから。

「おめでとう、かな。今度私にもその友達を紹介してくれ」
「はいっ」

 満面の笑顔で答えるさよを見ながらふと気づく。
 考えてもみれば、さよの友達は3-Aの生徒である可能性が高い。
 あのクラスには特殊すぎる才能が固まっているから、霊視ぐらいできる奴はいるだろう。
 というか、エヴァンジェリンは確実にさよが見えていたようだし。
 士郎としては、エヴァンジェリンがさよの話し相手になってくれるとは思えなかったので黙っていたのだが。
 
「おーっす、士郎さん。繁盛してるかい?」
「朝倉。繁盛も何も、まだ準備中だ。札が見えなかったのか?」

 実際にはもういつもの開店時間を迎えていたのだが、さよとの会話を優先させていたので開店はしていない。
 外の様子を伺いつつ、客らしき人影が見えたらすぐに動けるようにはしていたが。

「あ、朝倉さん。どうしてここに?」
「あー、そのね……」

 和美は士郎の視線を気にしながら、さよの隣に腰を下ろす。
 幽霊がどうの、というのを知人には知られたくないのかもしれない。

「士郎さん! 早速紹介しますね。私の友達の朝倉さんです!」
「ああ、知っているとも。私だって少しだけだが、君らの担当だったからな」

 さよがはしゃいで和美の後ろに回り込み、抱きつくようにアピールした。

「え、なに? 士郎さんってばさよちゃん見えるの?」
「朝倉こそ、霊視の才能があるとは意外だった」

 実際は、和美に霊視の才能があったわけではない。
 どちらかと言えば、今まで隠密性に長けていたさよが、無意識の内に和美に知ってもらいたいと願った結果だ。

 今までのさよは友達が欲しいと願いつつも、その願いを諦めていた。
 どうせ気づいて貰えない。気づいて貰えたとしても、どうせ友達になんてなれない。
 幽霊になった瞬間に、さよは生者らしい行いに諦めていたのだ。
 
 しかし彼女が友達を欲していたのも事実。
 和美とネギが行ったのは、その諦めを取り除いてやっただけに過ぎない。
 故に、さよは信頼できる相手の前以外では未だ幽霊としてさえ規格外の隠密性を誇るし、逆に友達の前では普通の幽霊よりも見え易い状況にある。

 だが、彼女について特筆すべきは、その便利な隠密性などでは断じてない。
 さよは、50年の永きに渡り、その諦観を怨念に変化させなかった。
 元来幽霊とは変化しないものであり、死した瞬間に固定されるものだ。
 しかしさよ程にはっきりとした自意識を持っていれば意識の変革もありうる。

 それは、幽霊に成仏の可能性が残されている事からも明らかだ。
 時間が過ぎて、或いは別の外的要因によって、その恨み辛み、現世に留まる理由を排除された者は成仏する。
 それは変化だ。不変のはずの幽霊に訪れる意識の改革。
 それがあり得るからこそ、逆に恨みが大きくなる事もまた然り。

 さよは元々恨みなどなかった。何故ここにいるのかも分かっていない地縛霊だ。
 諦めながらも棄てきれなかった。
 願うだけ苦しくなる重みを、さよは決して棄てなかったのだ。
 それが、異形であり偉業だった。
 幽霊として、最も特筆すべき精神の在り方。それは、あのエヴァンジェリンにさえ出来なかった事なのだから。

「へぇ。じゃあ、私が今までここに来てた時にも会ってたりしたのかな?」
「はい。私、このお店の常連さんは全員覚えてますから」

 一通りの説明が終わり、朝倉は渋面をつくった。
 今まで朝倉が使っていたのは、基本的に座らずの席の隣だ。
 つまり今まで朝倉は知らずにさよの隣に座っていた事になる。
 クラスの席順でも隣同士なのだから、奇妙な縁を感じずにはいられない。

「でも士郎さんも人が悪いね。教えてくれてもいいのにさ」
「見えているなら自分で気づくし、見えていないものを無理に知る必要などない。それに、どうせ信じなかっただろう?」
「まぁ、そうかもね」

 魔法の事を知ってから、という条件ならば或いはすんなり信じる事もできたのかもしれないが。
 どちらにせよ、存在を否定されるというのは苦しい事だ。
 信じてもらえないかもしれないのに、口に出すなんて事はできない。
 それを聞いて、さよがどれだけ傷つくのか、想像できてしまうだけに。

「では朝倉。ウチの座敷童子を宜しく頼むぞ」
「はは、了解」
「もうっ。私、座敷童子じゃないですよー」

 勿論、和美も士郎も、そんな事は分かっていたけれど。
 その温和な笑顔ならば、見ているだけで幸せになりそうだと、そう納得したのだった。









・幕間

ネギ「でも何かヘンな感じだよ。小太郎くんがウェイターなんて」
コタ「これでも朝だけやのうて、夕方とかも手伝うとるんやで?」
ネギ「士郎さんのお店だよね。なら何で超包子で?」
コタ「さあ。いつもは早起きして士郎兄ちゃんに稽古つけてもろとるんやけど、しばらくこっちを手伝うから無理や言われて、暇やったからついて来ただけやしなー。詳しい事は知らん」
ネギ「ふーん。それよりさ、ずっと聞きたい事があったんだけど」
コタ「なんや?」
ネギ「犬耳、隠さなくていいの?」
コタ「あ」


(拍手)
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後書き

大変長らくお待たせしました。
本当は刹那の出番までは書くつもりだったのですが、時間的な問題とある程度の量を確保できたので断念しました。
刹那に関してはもっと確り書くので楽しみに。
今話は拍手お礼レベルの短編詰め合わせって気分です。
本来なくてもいいような話ばかりで、正直省いてさっさと先に進めたかったのですが、描写しておかないと忘れられそうな所もあったので頑張りました。
次回からは話が動くと思われます。

・追記
AGTさん。一応画面左にあるメールフォームにメールアドレスも記載してコメントしていただければ個別対応ができますので、次回からはそちらをご利用下さい。

2010.02.01 | URL | 夢前黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2010.02.01 | | # [ 編集 ]

Re: シグさん

まぁ、話が動くと言っても刹那とかアキラとか明日菜とか、人間関係において、ですがね。
お楽しみに、と言いたい所ではあるけれど、果てさていつになる事やら。
気長にお待ちください。

2010.02.01 | URL | 夢前黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]

続きまだかなー

2010.02.05 | URL | NoName #- [ 編集 ]

Re: タイトルなし

うーん、11日に試験が終わるからそれまでは無理っぽい。
それに、話が動いていく関係上、色々煮詰めないとイケない部分もあるんで。
何とか2月中には更新するつもりだけど、本当に無理っぽかったら内定取るまで更新停止宣言します。

2010.02.06 | URL | 夢前黒人 #qiIB0A1Q [ 編集 ]


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